【ちいかわSS】なんかちいさくてかわいい黒いやつ【オリ主注意】

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:05:02

    ある朝、ちいかわの住むむちゃうまハウス群の一角でその子はご飯と自家製ごましょうが入りおかか、油揚げと長芋のお味噌汁を食していた。みんなと同じように小さいが全体的に黒い体色と、パグさんのような耳が特徴である。

     その子は今日も頑張って働こうと、愛用の剣を手に労働のヨロイさんの元へ出かけて行った。
    「あ‼︎」
     思わず声が出た。嬉しいことに、そこには討伐ランク一位のラッコさんが来ていたのだ。
     実はその子は前々から、ラッコさんにひそかに憧れていた。自分の武器に剣を選んだのもそのためだ。
    「ふふッ……」
     さすがに話しかける勇気はないが、労働しに来ていた他の子たちといっしょに遠巻きに見つめる。朝からいいことがあって、とても嬉しい。
    「ア!」
    「あッ‼︎ おはようございます!」
    「‼︎?」
    「おはよう……いい朝だなッ」
     あの子たちはもしかして……とその子は見つめた。最近、ラッコさんが弟子を取ったらしいと噂になっていた。でもまさか、こんな身近にいたとは思わなかった。あの全身が白い子はご近所さんで、特に交流があるわけではないが朝の呼び込み君体操で見かけたりはする。
    「夜勤かッ」
    「『採取』だったんですけどッ、なんか急に討伐対象が来てッ……。でもッ結構もらえました! 報酬!」
    「そうか……大変だったな」
    「イイイヤッッッッハアアアアー!」
     そういえば、この前友達といっしょにおっきい討伐に成功したらしいと話に聞いた。あの額に青い模様がある子と、奇声をあげている子がそうだろう。
    「また……特訓でなッ」
    「はい!」
    そう言ってよにんは別れていった。

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:06:10

    つまんね

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:06:31

    「ふう……」
     その子はその日の討伐に成功し、家に帰って一息ついていた。思い出すのは今日討伐した虫のことではなく、朝に見たラッコさんとさんにんのことだ。別に弟子をとったからって何も悪いことはないし、自分に文句を言う権利もない。でもラッコさんを独り占めされたみたいで、なんだか悲しかった。
     あのさんにんはもうおっきい討伐にも成功しているのに、自分はまだ虫で精一杯だ。こんなに差があるんだから仕方がないけど、でも何となく寂しくなってしまう。
     頼めば入れてくれるかもしれないが、その子はかなりの引っ込み思案で、討伐もいつもソロだった。
     でも頑張って強くなれば、いつか覚えてもらえて弟子にもなれるかもしれない。
    「ヨシ……!」
     その子は家の中で一人、もっと仕事を増やしてみようと決意した。

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:07:02

    「ウ ウ・ワ・ワ ウワ」
     森の中で最近好きな歌を口ずさみながら、その子は家路についていた。今日は討伐も成功した上に、巨・シュークリームまで見つけたのだ。それもバニラビーンズ入りだった。
    「タークタークチャアオ〜……」
     ふと目をやったその子は、あッと思った。あのさんにんだ。討伐帰りらしくみんな討伐棒を持っており、ハチワレは白いマントに身を包んでいた。その子はなんとなく、木の影に隠れた。
    「フゥン……」
    「そうそう! ほんとにすごかったんだ! 行ってみようよ!」
    「ウン!」
     なにやら会話をした後に、三人は行ってしまった。すごかったとは、何がすごいんだろう。……もしかしたら、ラッコさんの戦いぶりかもしれない。それで見学に行こうと誘っていたとか。
    「……」
     ちょっと確認してみるだけ。そう思って、その子はさんにんの後をつけてみることにした。

  • 5二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:07:34

    「ワア……!」
    「ネッ、すごいでしょッ!」
    「プルルルルルルッ」
     木々の間を抜けてついていった先にはラッコさんの影も形もなく、代わりに一面の求肥畑が広がっていた。
    「もにもにもに」
    「ちょっとお米の味して……おいしー」
    「ウラ」
     さんにんは求肥に夢中で、その子には全く気がついていなかった。
    「はあ……」
     その子はこっそりため息をついた。別にラッコさんがいるとは限らなかったけど。もしかしたら、特訓の方法とか見られるかもと思ったのに。……自分は朝市とかネットの時間も減らしてこんなに頑張ってるのに、まだまだ全然だ。なのにあの子たちは……。遊んでても強くなれるのとなれないのって、どう違うんだろう。いや自分だってシュークリーム食べたけど。
     ……まあいいや。今日のところはとりあえず、求肥を少し取ってから帰ろう。
     そう思って一歩踏み出したのだが、背後から伸びてきた手がその子の肩に乗せられた。
    「ねッ! いいね、それ!」 

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:15:14

    「キャアアアアアアッッ」
     耳をつんざく悲鳴に、さんにんは振り返った。
    「ハア?」
    「えッえッ、なんだろ」
    「……アッ‼︎」
     ちいかわたちの五倍くらい大きい、灰色の生き物が知らない子を頭上に掲げて立ち去ろうとしていた。カメレオンのようなコアラのようななんとも珍妙な姿で、腕が四本生えていた。
    「わアーッ!」
    「大変!」
    「フゥン」
     さんにんはそれぞれ討伐棒を手に追いかけたがその生き物は足が速く、どんどん離されていく。謎の生き物はさんにんを嘲笑うかのように、歌いながら駆けていった。
    「竹炭キャラメルブラックココア♪ 酢昆布焼き海苔黒ごまアイス♪」
    「速いッ……!」
    「黒豆マフィンになまこにひじき♪ 食ーべよ食べよと囁きながら♪」
    (HARUNOOGAWA)
    「酢昆布……黒豆……もしかして……好きってコト⁉︎ 黒いの!」
    「ウラッ」
     ウサギはなんかそこらへんにあった石を生き物に投げつけた。
    「痛ッ」
     石は後頭部の白いところに命中して、生き物は立ち止まった。頭を押さえて痛がってはいたが、黒い子のことは離さなかった。そして振り返ると、すっと石を拾った。
    「おお〜ッ⁉︎?? 黒いッ。いいねッ!」
    「好きなのッ⁉︎ 黒いの!」
    「ウン。なりたいの」
     ふと、さんにんをじっと見つめてきた。
    「いいねッそれッ。目‼︎」
    「目⁉︎⁉︎」
     そう言うと急に、ちいかわの首元を掴んで地面に押しつけた。
    「ヤダーーーッッ」

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:16:12

    「わあーーーッッ」
     ウサギは討伐棒で生き物を突っつき、ハチワレは慌ててちいかわの目を塞いだ。
    「うわッ」
     生き物は何故か手を離した。
    「エ……? もしかして……駄目ってコト⁉︎ 白いの!」
     それを聞いたちいかわはなるべく薄目にした。
    「それなら……エイッッ‼︎」
     ハチワレはちいかわと協力して、広げたマントを持って生き物に迫っていった。
    「わあッ」
     生き物は咄嗟に、足でちいかわたちを振り払った。
    「きゃあッ」
     ハチワレはかすっただけだったが、ちいかわはマントを持ったまま上空へ跳ね飛ばされた。
    「わあーーーッ」
    「ウワアーーーンッ」
     思わず、ちいかわは目をつむった。しかし軽くぽよんとした物に当たり、慌てて掴まった。
    「アレ……?」
     それは生き物の頭付近を飛行していた、空飛ぶマンボウだった。
    「『ラッキーマンボウ』だ……! よかった……!」

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:17:26

    しかし黒い子は依然として捕まったままだ。
    「ハアッ」
     ウサギは思いっきり、討伐棒を投擲した。
    「ぎゃッッ」
     討伐棒は見事黒い子を持つ腕に当たって爆発し、生き物は思わず手を離した。それはよかったものの、黒い子は空中へ投げ出されてしまった。
    「ウウッ……」
     かろうじて、ちいかわが咄嗟に差し出したマントの端を掴んでいた。
    「ウンショ……」
     ちいかわはどうにか、黒い子をマンボウに引っ張り上げた。
    「ウッ、ウウ……」
     黒い子は涙ながらにお礼を言った。ちいかわはニコッと、小さくかわいく微笑んでみせた。
     しかしまだ戦いは終わっていない。
    「うぅ〜〜ッおいでよッこっちにッ」
     生き物はマンボウ組に気を取られ、ハチワレとウサギから目を離したようだった。
     地上組はアイコンタクトを取り、駆け出した。
    「なんとかなれーーーッッ‼︎」
    「ウラッ‼︎」
     ハチワレは生き物の右脚をツンッ!とし、ウサギはドロップキックを浴びせた。
    「いたッいたた」
     生き物は思わず、片膝をついた。
    「やめてよッッ」
     しかし生き物は手を伸ばし、ウサギとハチワレを捕まえた。
    「ゲッ」
    「ヤッハ」
     そしてぎゅッと握りしめた。
    「窒息しちゃう〜ッ」

  • 9二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:18:52

    「うわーんッ‼︎」
     ちいかわは助けないと! と思ったが、降りる方法が無いし、討伐棒も無い。飛ばされた時、落としてしまったのだ。どうしよう、どうしようとオロオロした。
    「アッ……‼︎」
     体勢を低くした生き物の後頭部を見て、ちいかわは先程のウサギの攻撃を思い出した。あの白い部分に当たった時が、一番痛がっていた。あそこが弱点なのではないか?
    「ウ……!」
     ちいかわは黒い子にそれを伝えた。あれを倒すには、あそこに飛び降りるしかないと。
    「フ!」
     それを聞いて、黒い子はすらりと腰に下げていた剣を抜いた。ふたりは柄に手をかけ、頷きあった。
    「ウン……‼︎」
     マントで体を結び付けると四本の手で剣を握りしめ、マンボウの背を蹴った。
    「ヤーーーーッッ‼︎‼︎」
    「ウワーーーッッ‼︎‼︎」
     強烈な風圧の中、生き物がゆっくりと見上げようとしているのが見えた。間に合うか⁉︎

     サクッ

    「あッ……」
     二人の全体重と落下の衝撃を乗せた剣が、白いところに突き立てられた。
    「ッギャアアアアアアッッッ‼︎‼︎」
     断末魔とともに、生き物はその場に崩れ落ちた。

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:19:42

    「うッうう……」
    「ハア?」
     ハチワレとウサギは土埃の中、ゆっくりと立ち上がった。うっすらとちいかわたちの姿が見える。
    「だ、大丈夫ッ⁉︎」
     ふたりは生き物の頭の方に駆けつけた。
    「……フ!」
    「わッわあッよかった! うん……そっか……降りられたんだ! 『柄』、しっかり握ってたから!」
    「ヤハ」 
     ハチワレはひとしきり喜ぶと、黒い子に顔を向けた。
    「大丈夫だった? 大変だったネ」
    「ウン……」
     頷いたその子だったが、急に涙が溢れてきた。
    「ワ……アア……」
    「泣いちゃった!」
     落ち着いたら、恐怖が蘇ってきたのだった。それに、自分は何もできなかった…。こんなに迷惑かけて、情けない……。
    「ウウ〜……ウッ……」
     ちいかわは遠慮がちに、ある物を見せた。
    「……あッ! 求肥! とっといたの⁉︎ ねッ、食べよッ! これ!」
    「……ウン……」
    そうやって、よにんは少しもみくちゃになった求肥を食べたのだった。

  • 11二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 12:22:31

    「あッ! おーい! こっちだよ!」
     ハチワレは広場でいつものふたりとラッコさんといっしょにいたが、黒い子を見かけて声をかけた。
    「いっしょにやったんです! おっきい討伐!」
    「ほう……」
    その子は息を切らせて、持っていた箱を差し出した。
    「えッお礼……? シュヴァ……シュヴェ……シュヴァルツヴェルダーキルシュトルテ⁉︎ 作ったんだ⁉︎ えッえッもらっていいの⁉︎」
    その子はこくこくと頷いて、紙皿となんか木のフォークも渡した。
    「ワ……!」
    「ありがとオ‼︎」
    「プリャ」
    ケーキを食べ始めたさんにんを見てから、黒い子は勇気を出して、おずおずとケーキをラッコさんにも勧めた。
    「いいのか……?」
    ケーキを受け取ったラッコさんは大きく頬張ると、パッと横を向いた。
    「……?」
    もしかしてダマになってたりしたのかな、と少し不安になったが、ラッコさんはキリッとした笑顔を向けてくれた。
    「うまかったッ! 感謝する! ……またなッ」
     その子は感動に打ち震えて、立ち去っていく後ろ姿を見送った。
     終

  • 12二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 18:36:11

    ちいかわの機転の利きがちゃんと描写されてて俺にヨシ
    乙です 黒い子ちゃんの落書きを置いていきます

  • 13二次元好きの匿名さん23/04/05(水) 22:36:16

    シュヴァルツヴェルダーキルシュトルテが言えたハチワレえらい

  • 14二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 09:30:38

    黒くなりたいのに灰色…その怪異はすでに黒いちいかわ族食べたことあるって…コト⁉︎

  • 15二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 14:00:27

    >>12

    黒い子ちゃんかわいい!!

  • 16二次元好きの匿名さん23/04/06(木) 21:24:07

    甘味を堪能している顔を見せないようにするラッコ先生の愛くるしさよ

  • 17二次元好きの匿名さん23/04/07(金) 05:59:14

    良質なちいかわSS

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています