トウカイテイオーとトレーナーの話

  • 1二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:12:13

    トレーナーはボクに興味がないらしい。

    「俺は金を稼ぎにきた。お前が勝とうが負けようが知らん。いや、負けたら給料が減る。勝ったらボーナスが出る。なにがなんでも勝て」
    初めてのトレーニングの日、トレーナーにそんなことを言われた。なんでも理事長にスカウトされてきたらしい。ぼさぼさの髪、ところどころほつれてるジャージ、それと謎のクマのバッジがついたスリッパ。一応トレーナー資格は持っているらしいけど…この人大丈夫かな、それがボクの率直な感想だった。

  • 2二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:13:02

    支援

  • 3二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:14:21

    こんな感じだけど意外にも指導は丁寧だった。
    細かい癖にもよく気がつくし、理論的にメニューを組んでくれている。あとボクが知らないところで変なインスピレーションを貰ってきてボクのトレーニングに活かしてくる。なんだそれ。
    マヤノに聞いたらみんな同じような体験をしたことがあるらしい。トレーナーは変人しかいないのかもしれない。

  • 4二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:15:59

    そんなこんなでレースに出始め、少しずつ勝利数を増やしていたある日だった。
    ボクが軽く自主トレをしていると、コッソリとどこかに行くトレーナーを見かけた。何してるんだろう?どうせ下らないことしてるんだろうな、なんて思いながら後をつけると、大きな病院の前に来た。どこか悪いのかな?と、そこでトレーナーがこっちを振り返った。

  • 5二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:17:19

    「なにコソコソしてるんだよ」 あ、バレた。
    「だってトレーナーがどこかに行くのが見えたんだもん。ボクに言えないことなの?」
    「そんなんじゃねーよ」
    「じゃあ付いてってもいいよね?」
    「…うるさくすんじゃねーぞ」
    折れたトレーナーの後をついてくと、一つの病室に到着した。病室の中には、沢山のチューブに繋がれた幼い女の子が眠っていた。

  • 6二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:20:55

    「俺の妹だ」
    トレーナーは、ポツリポツリとボクに話してくれた。妹は重い病気である事。両親は既に他界しほかに頼れる親戚もいない事。治療には多額の費用がかかる事。その為に必死に働いていたところを理事長にスカウトされた事。

  • 7二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:23:48

    「だからよ、俺は金を稼がなきゃならねーんだ。あいつには俺しかいないんだから」
    そう呟いたトレーナーの顔は、なんだかとても寂しそうで、苦しそうで。だから、
    「ボクがいるよ」
    そう声に出した。
    「トレーナーにはボクがいる。妹にはボクがいる。だからレースで勝って、ボクが助けてみせる」

    あの時のトレーナー、とても驚いた顔をしてたな。それからフッと笑って、「ありがとな」ってボクの頭を撫でたんだ。
    今になって考えると、ボクがトレーナーの事を好きになったのはきっとこの日だった。

  • 8二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:28:28

    それからは、もうとにかくがんばった。とにかくいっぱい練習した。とにかくレースに出て、勝ちまくった。ボクとトレーナーは快進撃を続けていた。たまには喧嘩したり、怪我をしたりすることもあったけど。まあそんなこんなで、ボクは有馬記念に出走することになった。
    今回の有馬記念では会長が出走する。あの会長との真っ向勝負だ。絶対に負けられない。
    それともう一つ負けられない理由があった。トレーナーの妹が、つい先日意識を取り戻した。そしてこの試合を病室から見ているらしい。いいとこ見せなきゃね。
    「見ててね」
    「おう」
    会話は、これで充分だった。

  • 9二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:31:29

    ゲートが一斉に開いた。ボクは作戦通り前につく。先行をとって終盤で抜き去る、完璧な流れ。ペース配分にも気をつけながらいつでも仕掛けられる準備をしていた。レースももう終盤、これはいける!そう確信した時だった。

    ─皇帝が、すぐ後ろにいた。

    嘘…!会長はかなり後ろのバ群だったのに!レースは研究していたハズだけど、その想定を遥かに上回ってきた!もう残り400。つい会長に気を取られていると、他のウマ娘に外を防がれてしまった。マズい!このままでは…俯いて足元を見る。ごめんなさい…トレーナー。ボク、もう…「敗北」の二文字が頭をよぎる。

  • 10二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:33:47

    「まだだ!」

    …トレーナーの声が聞こえた気がした。そうだ。弱気になっちゃダメだ。まだレースは終わってないんだ。顔を上げろ、前を見ろ、悔やむのはレースの後だ。
    ボクの強みは足のしなやかさ。囲まれたからってなんだ。究極無敵のテイオーステップで強引に前に出る。残り200。完全に抜け出した、あとはもう目の前の会長を抜くだけだ。ボクは、全身全霊で大地を蹴った。
    残り150、会長を捉えた。
    残り100、会長に並んだ。
    そして残り50、会長は…依然として隣にいる。全力を出し切った。あとは根性の勝負。
    「うおおおおおーーーーーッ!」

    …最後の最後で、横に並んでいた会長の顔が少し後ろに見えた。その顔は、少し笑っているようにも見えた。
    ボクは、会長に勝ったんだ。

  • 11二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:35:47

    ウイニングライブのあと、沢山の記者に囲まれてインタビューを受けた。いつもよりカメラが多くて、一緒にインタビューされてるトレーナーがガチガチに緊張してるのがなんだかおかしかった。
    それからしばらくして、乙名史記者が質問してきた。
    「最後に、これからの目標を教えて下さい」

     トレーナーはボクに興味がないらしい。だけど、ボクはトレーナーの事が大好きだ。
    今は妹の事やこれからの事で頭がいっぱいかもしれない。だけど、いつかは。
    「ボクの目標は…いつか、大好きなあの人を振り向かせる事です!」

  • 12二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:35:56

    おわり

  • 13二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:36:46

    おつ

  • 14二次元好きの匿名さん21/08/25(水) 21:37:49

    >>13

    あざっす

    物書きって難しいですね

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています