- 1二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:30:18
- 2二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:32:18
このSSにおいてはポケモン使いを男とするよ。本文にも書いてあるはずだと信じる。
あと災厄ポケモン出現時の状態やら場所やらも妄想であれやこれやしてるから本編提示情報の矛盾が見つかるかも。 - 3二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:33:13
崖上から真っ白な新雪が押し出され、森にできたばかりの亀裂に転がり落ちる。季節外れの枯葉がこすれて落ちた先は、夜も赤く輝くいやに粘度のある池。
後にパルデアと名のつく大地。この地のどこかに起きた国の都の大通りは、暗い顔をした人々の顔で埋め尽くされていた。あの未曾有の脅威がまた都へ戻って来るのではないかと怖れて外を気にする民衆の多くは、既に壊れきった城の方からどこかへ向かう王国兵達を見る事はない。
王国兵達が向かうのは、王がこの災厄を収め得ると判断した人物の居場所である。災厄調査の勅命が書かれた書状を持ち、果たして王国兵がやってきたのは村ともいえぬ僻地にあるただひとつの小屋だった。すぐ側に積まれた干し草や水桶が伏せられている通り元は牛飼いの小屋である。今住み込んでいる人物が牛飼いでない事は、牛舎で目を閉じて休息している生き物が虎柄をした獅子のような容姿である事からも察せる。間違いなく目的の男が居ることを確信して王国兵は小屋へと声をかける。程なく男が出迎え、遂に王の言葉が男の手に渡った。城の倒壊翌日の夕方だった。 - 4二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:34:55
手渡された書状から目を上げ、「やってみます」と小屋の男は返答する。返答を聞く王国兵の表情は疑いが半数、安堵が半数であった。
「……勅命ゆえ受諾する事は分かっていたようなものですが……幾らポケモン使い殿とはいえ、相手は物怪。今まで未開地で宝物を探索してきた時とは違いますぞ」
「確かに秘境を旅して回るのとは違います。ですが、ポケモン達と僕が実際に見て分かる事があるかもしれない。減らせる被害もあるかもしれませんから」
男はそう答えながら、ちぢれた紙の束に再度目を落とすと2枚目、3枚目と目でなぞっていく。紙面には勅命に加えて、その怨霊の特徴が書かれていた。「火を纏い岩を溶かし泳ぐ」「頭部をかすらせた城壁が地ごと割れる」などという文言はまるで子供の考えた作り話である。文書を手渡した兵とて、自分も平時ならば酷い悪戯だと笑い飛ばす自信がある。そんなものを信じてもらうしかない状況故に、手渡した兵は男の表情に釘付けであった。兵の不安とは裏腹に、男の目線も表情も真剣そのものであった。やがて目を通し終わった男は先ほど落ちた太陽とは反対のうすら赤い空を見やった。 - 5二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:36:32
「東に向かった玉の魚を追います。文は3日後に、この子に届けさせます」
男が指笛を吹くと、たちまち鳥の姿をしたポケモンが降り立った。持ち合わせたタイプの通りに胸や翼は燃えるような朱色が目立つ。呼んだ男を見上げ、その手前にいる屈強な男の集まりを次に見やり、心得たといわんばかりに短く鳴き声を発した。
宝好きな王に命じられて未開地へと宝物探索した男が都に寄越す一報は、常にこのファイアローが持つ文からもたらされてきた。いまだ人々がポケモン含めた人ならざる生き物を敵視して暮らすこの世界において、伝書鳩と認知されているのは重要である。男に識別のダメ押しと布を大人しく巻かれているファイアローの姿を見ながら、王国兵達もこの鳥なら見紛う事はないと頷く。なお、この兵達がこれまで文に書かれた冒険談読みたさにその鳥から文を受け取る係を取り合ったのは別の話である。 - 6二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:39:48
男が軽い旅支度を終えて王国兵と共に小屋を出ると、牛舎で休んでいた橙色の獅子もといウインディがゆったりと尻尾を振りながら大人しく座って待っていた。兵の何人かは巨体が目覚めたことにたじろいだが、当の獅子は自分の主だけを見据えて既に指示待ちである。
「海辺を回って合流したい子達がいる、頼めるかな」
男にそう声をかけられるとウインディは吠えるでもなく男を乗せる体勢を取った。男は柔らかい表情でうなずくとその背にまたがり、瞬く間に王国兵達の視界から消えた。
海辺を目指した男の視界にちらついたのは、不自然に立ち枯れた木々である。足元の草もところにより元から無かったかのような消えぶりであり、すぐに書状にあった木簡の災いが近くを通ったと想起できた。近くにいるのなら姿を改めておくかと予定を変更して高台に登れば、異常に枯れ落ちた一帯とその中心でうずくまる巨大で黒黒しいものが確認できた。幸い移動速度が遅いか移動する気があまり無いように見受けられる為、男は元の予定通り轟音を立てて火を噴き出す東の大地の鎮静化を優先することにして海辺の仲間を呼び寄せに行った。 - 7二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:39:57
このレスは削除されています
- 8二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:40:37
突然の四災ssブームに喜びを禁じ得ない
- 9二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:42:09
- 10723/04/09(日) 00:44:11
返信ありがとうございます レス書いたらその真上にウインディの説明書いてあったから余計な部分だけ消して打ち直しました
- 11二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:47:01
供給が多いのはいいことです!
- 12二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:48:55
夜の早いうちに仲間達、即ち水タイプを中心としたポケモン達との合流を果たした男は、見晴らしのいい草原まで歩みを進めた後に仮眠を取った。北から放たれる無視できない音量になった噴火に睡眠を邪魔されつつも概ね疲れを取り、朝日を浴びながらみんなで軽食をとる。爆発もしなければ散乱もしない為現代のモノとは程遠いが、まごうことなきサンドイッチである。男とポケモン達は静かに喉と腹を満たしつつ、しかし視線の先にはしっかりと勾玉の災いを捉えていた。
勾玉の災いは現代パルデアでいう東3番エリアを泳ぎ回っている。本来海も川もないところに出来た幾つもの赤い池は当然水の一滴もなく、たゆたうのは本来固体の岩石である。光で出来たかのような巨魚は無造作に作った池の間を跳ね飛んでは、白熱する尾ひれを岩壁になでつけ岩を変形させて自らの舞台を作り上げている。
人間が生身で近づくのは勿論、ポケモンでも近づけるか怪しい温度感なのが見てとれる。男は合流したドータクンとペリッパーを見やりエリア上空への待機を指示し、ウインディの背にマリルリと共にまたがった。
「いくぞ…!」
ウインディが川を跳び越え灼熱地帯へ踏み入る。遊泳を楽しんでいた魚姫は、突然の観客の登場に応じサービスと言わんばかりの炎を噴き上げた。
「ミヨミヨーーッ!」 - 13二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 00:51:10
うわぁ上げ始めると一気にストックが消えますねぇこれ…字書き達の創作スピードやばすぎ!
続きはもうちょっと書けてからにします!早々に申し訳ねぇ! - 14二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 01:00:17
サンドウィッチは普通爆発しないんだわ(真顔)ハッもしやチオンジェンのお尻可愛いの人
書いていただけるだけでもありがたいのだ……無理せずご自身のペースで書いてほしいのだ…… - 15二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 01:49:06
- 16二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 08:58:37
ほしゅ
- 17二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 12:52:56
溶岩地帯となったエリアの中心。後に分かる本来のサイズの5倍以上となったイーユイめがけてウインディはマリルリごと突貫した。神速で接近されたイーユイはそのまま飛び出してきたマリルリにじゃれつかれたが、溶岩の海へと身を翻して深追いを許さない。
男は先んじて背から飛び降り、すでに戦況を見渡せる高い位置へ駆け上がっていた。一撃喰らわせたマリルリが溶岩に落ちないよう、ウインディが回収して再びイーユイを追う。男はイーユイの姿を追ってはウインディに先回りを促す。マリルリが攻勢に出るかはマリルリ自身の判断に委ねて、イーユイを翻弄し観察することに重きを置いて男は立ち回ることにした。
書状によれば近くで姿を見て「『見よ』と言い寄られた」と一時的に錯乱した者が多数出たという。事実男は、人の声が耳元から聞こえるような気持ち悪さを川向こうから視認した時点で感じていた。しかし軽食をとりながらポケモン達に声がするかと問うてみた時皆々首を傾げた為、人にそう聞こえるというだけだととりあえずは結論づけて耳鳴りじみた幻聴を極力無視する事に決めたのだった。 - 18二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 12:53:48
どの舞台に跳ねてもやって来る厄介追っかけとなったウインディにしびれを切らしたのか、イーユイは大きめの溶岩池ひとつに陣取り他のステージの維持を放棄した。足場のない池の中心を泳いでウインディを遠ざけんという魂胆を察知した男は、上空で待機していたペリッパーを応援に呼ぶ。ペリッパーの口から出された水では溶岩を足場に冷やす事こそ出来なかったが、その水や煙を鬱陶しがって池の淵に近づいたイーユイにマリルリ達が容赦なくタックルをかましていく。
男はその戦況を分析しながら、同時にイーユイ自身の挙動も見ていた。身体の形状はパルデアにも棲むケイコウオの様でもあるが見上げるほどの巨体である。このポケモンを初めて見た彼は当然そこまでを疑問視していなかったが、遊んでいたかに見えた無駄の多い衝突や回転が、戦闘になったこの期に及んで見受けられる事に違和感を覚えた。特に後ろを取られた時の振り向きの遅さは重い物でも被っているかのようにぎこちない。それ故か特に指示出ししないうちに3匹のポケモン達は、ペリッパーで視界を奪ってはウインディの足でマリルリを不意打ちさせる形に最適化されていた。 - 19二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 19:46:07
大きめの池に陣取ったはいいものの、イーユイの巨体はマリルリ達の猛攻からの回避を許していない。いよいよ煩わしさを覚えたのか、イーユイの勾玉が明滅して炎が吹き上がる。ウインディ達は後退したが執拗な炎がマリルリに螺旋を描いてまとわりついた。特性のおかげでダメージを抑えられてこそいるが、炎が這ったところは毛並みが乱れて火傷になっている。
「マリルリ、もどっておいで!」
男の声に応じてウインディがマリルリを運び戻すと、男は鞄からチーゴのみを使った即席火傷なおしを丁寧に患部に塗った。狙い撃たんとするイーユイの視界は上空からのペリッパーに奪われ、隙をついてウインディも神速で当て身していく。そうして気を引いてもらった時間で男が薬を塗り終えるや否や、マリルリは軽く飛び跳ねて戦闘続行の意を示した。
「そろそろどうだ?ドータクン!」
男は真上を向き大声で呼びかける。浮遊するドータクンの背後、空中には先程までなかった大穴が開いていた。目を光らせありったけの力でドータクンが穴の先の異界へと働きかける。
雨が降り始めた。 - 20二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 19:47:01
「マリルリ!ペリッパー!水の技を頼む!」
天候がいつにない大雨になり勢いづいた2匹が、温存していた大水をイーユイに放つ。溶岩の海を盾にイーユイは急所への直撃を免れたものの、温度の下がった溶岩の粘度は沼の泥のようになって巨体になったイーユイに掴みかかっている。
「ウインディ!上から押し込めるか?!」
言うが速いかウインディの前足が神速でイーユイの頭を殴りつける。一段と岩石の中に顔を埋めさせられたイーユイは、文字通り顔に泥を塗られたと憤慨するように勾玉を明滅させて頭を振った。
「ミ…ヨーーミーーーッ!!」
雨で徐々に周りも身体も冷やされ、追い詰められたイーユイが再度熱を発する。離れて指示していた男も慌てて岩の影へと身を伏せると、イーユイを中心とした熱波が辺りを襲った。その熱はウインディに庇われたマリルリの火傷を再度抉り、濡れた身体で上空に退避したドータクンやペリッパーの体力を大幅に奪った。ドータクンが異界の穴を維持できなくなり、雨が一気に弱まり始めた。
この隙を逃すイーユイではなかった。まとわりついた溶岩を振り払うと、尾びれを叩きつけて空へ跳躍し逃亡を図ったのだ。 - 21二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 19:48:04
取り逃がせば別の場所が火の海になる。しかしここから叩き落とすにはウインディでは高度が足りない。男の頭が解決策を弾き出すより先に、火傷したままのペリッパーが雄叫びをあげながら暴風を巻き起こした。男は無茶をするなと言いかけたものの、羽ばたき続けるペリッパーの勇姿に口をつぐんで腹を括った。そして空中のイーユイを見た瞬間、自分の目に飛び込んでくる雨粒に気づいた。
まだ雨はあがりきっていない。風に囚われるイーユイに四方から雨粒が当たっているのを見るや男は目線をマリルリに投げかけた。
マリルリは勢いよくのけぞった後、その身体のどこに仕舞われていたか定かでない大量の水を巻き上がる暴風に擊ち出した。竜巻のようにうねってイーユイを捉えた風は、みるみるうちに巨大な渦潮となってイーユイの体力と熱を巻き上げ去った。
雨があがり風がほどけた場所には濁った水たまりが出来ており、夕焼け空に反射している。その中にある一際強い反射光に歩み寄れば、おそらくかの魚の元であろう小さな勾玉が落ちていた。 - 22二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 21:34:09
妖怪退治で妖怪の正体がバレるシーンみたいでいいね
- 23二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 22:14:22
面白い 支援
- 24二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 22:21:52
個人的には、段落ごとに行をあけてもらえるともっと見やすくなるかも。
読みごたえありそうだし、じっくり読みたいな - 25二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 22:22:48
突然の四災ssブームどうした?
- 26二次元好きの匿名さん23/04/09(日) 22:37:12
アッアッ感想感謝です見に来てもらえてウレシイウレシイネ…‼︎!牛歩だけどちょっとずつ書き記すよ
思えば憧れのSS先人達はちゃんと段落空いてる‥ってなりました。次載せる時やってみます、ありがとうございます!
- 27二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 05:53:27
保守
- 28二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 08:04:08
ゆったり待つか
- 29二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 08:30:36
面白いし読み応えあるよ
頑張って - 30二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 16:04:21
決着の翌日。彼らは昨日と同じ草地に座り込んで、上下をパンで挟んだ古風なサンドイッチを皆で口にしている。心なしか先日より野菜、具体的には赤茄子や胡瓜を所望する声に応えて男は野菜を多めに挟み込んで振る舞った。
昨日の時点で草地へと引き返してから就寝したものの交代で勾玉を見張って夜を明かした為、睡眠は取ったものの朝まで誰も緊張を解けずにいた。特に勾玉に変化は見受けられず、大丈夫そうだと日が昇りきった今になって男達はリラックスした休息を取っていた。一日中死の気配漂う灼熱の荒野を動き回った彼らには、昨日まで日常のいち風景でしかなかった草原もオアシスそのものである。鼻腔をくすぐる青臭い葉の匂い、手につく湿った土の感触。ドータクンでさえ浮遊するのをやめて横向きに転がって動こうとしない。
サンドイッチを食べ終わった後も、太陽が少し西へと傾くまで瑞々しい大地を堪能する。身体が動くのを放棄しているので、男は代わりに昨日相対した勾玉の巨魚が如何なるものなのか思考を巡らし始めた。 - 31二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 16:09:53
「君達の技がここまで通るのなら、やはりこれはポケモンなのかな」
男の問いかけにポケモン達が頷きながらもしきりに勾玉を触るなどして気にかけている。分かったことといえばほんのり温かいこと、あの魚の姿に戻らないこと、男の耳にだけはまだ遠く幻聴が居座っていることだけである。
死んでしまっただろうか、という男の呟きにはポケモン達は全否定の素振りだ。ただ誰もそれ以上の事が分からない。仕方がないので手掛かりを求めて決着場所へと戻ると、男は軽くなったはずの幻聴が再び強まったことに気付いた。しかめ面のまま男は付近を歩き回ると、ピンポイントに強まる位置で足を止めた。ぱちゃん、という音につられてまだ残っていた水たまりに目線が落ちる。
「これ…なんだ…?」
男の問いかけにドータクンが目を合わせるように視界に滑り込む。目をチカチカと光らせるドータクンの意を汲んで目を閉じると、男の意志を差し置いて瞼が持ち上がる。ドータクンが男の目に見せたのは、水たまりを濁らせイーユイを膨れ上がらせた正体たる黒黒しい何かが、毒液のようにあたりに飛び散った様であった。 - 32二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 16:15:57
ドータクンがサイコパワーによる感覚共有を解除すると、男は立っていた水たまりから離れて座り込んだ。しばらく目を閉じて幻聴の収まりを待っていると、離れた所で勾玉を持って待機していたマリルリがトコトコとやってきた。マリルリに促されて勾玉を見た男は、勾玉がうっすら明滅をしている事と小さな声が勾玉からしているのを確認した。マリルリの耳の動きからするに人に特化した幻聴ではなく戦闘の時に聞いたようなポケモンとしての声が聞こえてきているようである。
「夜はこんな事なかったよな?…単に疲労回復に時間がかかったって事なのか…?」
そう呟く男に明確な否定を示したのはドータクンである。ドータクンを見やるとすぐに、あの一見汚いだけの水たまりに向かった。程なくしてドータクンと同じ視野を再度得た男の目に映ったのは、水たまりから伸びた薄黒いもやが勾玉に吸い寄せられている様子であった。同じものを見せてもらえたらしきマリルリは慌てて勾玉を持ったまま駆け出して離れる。モヤの動きはそれにより弱まりこそすれ、どんなに離れても動き自体は止まる様子がなかった。
自分の問いに対してドータクンがこれを見せるのであれば、勾玉を変貌させるのはこの黒い何かという意味だろうと男は推測する。古くから人に祈りを向けられてきたドータクンは祈りとは真逆の人の感情であると分析出来ていたが、同じ言語も感覚も持たぬ男に伝わったのは人の目に見えないよからぬものだという所までであった。 - 33二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 19:25:08
不穏な感じになってきた
- 34二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 19:41:13
ポケモンを凶暴化させるっていうとusumのウルトラホールオーラやレジェンズの時空の歪みとかかね
- 35二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 01:58:02
城が崩れ落ちた夜から四度目の日が昇る。昨日のうちに戦地だった荒野を離れて、雨風をしのげる洞窟で男達は就寝した。男は朝起きて早々に外で焚き火を起こし、文を書き始める。書き上がる頃には煙を目印に飛んできた準備万端のファイアローが隣で羽繕いをしながら、男が広げておいたきのみをおやつ代わりにつまんでいた。
男が振り返れば洞窟の入り口周辺ではまだ休息しているポケモン達の寝姿が仲良く並んでいる。しかし男はそれを見る為に振り返ったのではなくその寝姿達の真上、洞窟の天井にぶらさがる大量のカゲボウズ達に目を向けていた。カゲボウズ達の目線はもっぱらマリルリ…の手元、仄かに光るだけの勾玉に注がれている。
カゲボウズは人の妬みや恨みに引き寄せられ、それを食べて成長する。この時代でも丑三つ時にこっそり軒先にぶらさがっては、人間が起きてくる朝が来る前に街から森へと姿を消して暮らしている。ポケモン使い、というより人々から何でも屋のように思われて怪異だ呪いだなんとかしてくれと散々泣きつかれた経験のあるこの男が、カゲボウズのそうした生態を知るのもごく当然である。故に勾玉に溜まっていくあの黒い何かこそ人間の妬み恨みなのだと男は思い至った。いま連なっているカゲボウズの量からするに、かように小さな勾玉の中に詰まった妬みも濃いものなのだろう。戦った時に溜まっていた量など推して知るべしである。 - 36二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 02:03:40
男は文に報告を書き上げて持たせると、ファイアローが飛び立つのを見送る。東に出来た火の海の拡大は防いだが立ち入り非推奨。人の妬みを吸い寄せた勾玉は既にポケモンとなり、武力で鎮静化しても長い目でみれば妬みを吸い上げ再度災いとなる。大まかにはそういった旨を書き記したが、解決策をどうするかは男には提示できそうになかった。
ファイアローの羽音が消えて目を覚ましたポケモン達が、ぶら下がった珍客と目を合わせては様々なリアクションをするのが男の耳に届く。仲間達はカゲボウズ達が特に敵対していないと分かると洞窟を出て男の元へと集い出した。男の見立てでは昨日より疲れの取れた表情を皆しており、火傷も痕を残さずほぼ完治しつつある。
現状大きな怪我や病気がない事に安堵しながら、男はいつも通りサンドイッチを振る舞う。パンの間にはダメ押しにと葉が強烈に丸まったチーゴを剃って入れた為、見た目通り少々苦味の強い味であった。芳醇な小麦の香りが上下から包み込んでいなければ、今頃全員口も目も真一文字になっていた事だろう。ともあれポケモン達はこの苦みが火傷に効く事は理解しているしただのチーゴを頬張るより俄然美味しいので、口をすぼめたり目を閉じたりする事はあっても食べるのは放棄しなかった。 - 37二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 13:16:43
保守
- 38二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 17:37:25
食べ終わる頃には洞窟にのれんの如く連なっていたカゲボウズがぽつぽつと解散し始めていた。男はもしや勾玉に溜まったものをこのカゲボウズ達が食べ尽くしたのではと思ったが、勾玉から温かさと仄かな光は失われていない。そして勾玉を気にかけるマリルリが敵意なく元気に手を振りながら彼らを見送っているので、あれだけのカゲボウズ達を満足させたが勾玉自身の異常はないらしい。
都への報告はファイアローにしてもらうとして、男は先日見かけた木簡の災いを鎮めに行く準備を始める。今日のところは戦火を逃れた木立に足を運び、木簡の災いを相手取れる新たな仲間達を呼ぶことにした。なお、今いる勾玉と木簡の災いを近づけたくないという理由でウインディ以外の今の仲間達に勾玉の保護を頼むと、特にマリルリは喜んだ様子で快諾してくれた。ここを発ったら、途中で彼らには海辺に向かってもらう事となった。 - 39二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 17:38:46
夕暮れまで木立できのみを拝借した男の元に新たにやって来たのは、モルフォンとモロバレルにヤレユータンである。木簡の災いもまず間違いなくポケモンであるが、草木を枯らす能力が毒の力なのか草木を操る力なのか男は判断に迷った。悩んだ末に防御面を重視して毒に強い2匹と、男以上の頭脳の持ち主を頼った。
男が災厄の鎮め方を考えている間、新顔たちは勾玉の世話をしているポケモン達に挨拶する。時に腕を振り上げたり、嘴を鳴らして首を横に振ったりとポケモン達の表情は豊かだが男には分からない会話が続いている。そのうちドータクンとヤレユータンが話し始めると、どうやら他の仲間達には難しい話なのかうつらうつらし始めるポケモンが目立ってきた。男は慌てて手際よく軽食を作って皆に食べてもらい、寝床の支度をするのだった。 - 40二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 00:59:36
翌朝は陽の光が遠い曇り空であった。木立の大きな木を選んで眠った一行の頭上の枝にはやはり黒いてるてる坊主がぶら下がった。昨日ほど数はいなかったが満足げにこちらを見下ろしていた。
男が持ち込んだ残りの野菜類が傷みそうだったので、ウインディの火によりそれらを軽く焼いてパンの上に並べ、そっと同じ形のパンで閉じる。いつも通り現代からは考えられないサンドイッチが仕上がると、10分と経たずに皆々平らげた。
木立を出て戦地となった荒野も足早に抜ける。今日の午後から降るであろう雨に当たれば、もう少しこの地の火照りも取れるだろうかと男は痛々しい土地を見やる。岩の影に見慣れたシルエットがぶら下がって見えるので、いつかこの地に落ちたものを食べきってもらえますようにと内心祈った。
荒野を抜け切り川を渡って、現代パルデアのハッコウシティ南の浜辺へ到着した。ペリッパーとドータクン、マリルリが男の元を勾玉と共に離れる。
「どうか、よろしく頼むよ」
心配と申し訳なさから男の眉尻は下がっているが、託されたポケモン達に元気すぎるまでの声を返される。ドータクンもマリルリも元はここに棲んでいない。男から見れば無責任に都合に付き合わせているようなものである。しかし当の二匹は全く気にしていないから行ってこい、とでも言いたげに笑顔で男の背を押すのだった。 - 41二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 06:26:18
更新乙です
ポケモン達のやり取りに癒されるなぁ
しかしちょくちょく挟まるサンドイッチ描写に不意打ちを喰らいまくるな…サンドイッチだけに - 42二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 11:42:50
保守
- 43二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 22:22:39
ほ
- 44二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 02:10:27
午後になって雨が降り出したので、男とウインディ達は現代パルデアでいう南3番エリアの崖を使い雨宿りをしていた。先日見かけた災いはこのさらに南、川を渡った先のはずである。少なくとも近くにいない事だけは高い崖から確認したので、暗くなろうという今日のところはこのまま早めの休息とし、雨が上がるのを待った。結局その翌日雨が強まってしまった為、モロバレル以外は少々沈んだ気分で1日、手狭な崖下生活を余儀なくされた。
その次に昇った太陽を拝めた事に安堵しながら、男は勝負飯を支度する。モモンのペーストをたっぷり、混ぜ込まれた刻みタポルのみの甘酸っぱさがアクセントになったサンドイッチである。先んじて食べ終わった男は、辛味が出るタポルの皮をみじんにした上でスパイス代わりに食糧鞄に詰め直した。中にはまだ半分以上あるモモンペースト瓶やラムのみなどが詰まっている。
川まで歩みを進めた一行が見たのは、不穏な対岸の枯れ木である。この先に目的の相手がいると確信し、立ち入る前に念入りに封をした食糧鞄を男は土に埋める。男は毒を警戒して最低限の持ち物だけ腰元の巾着に詰めて、モロバレルを抱えてウインディの背にまたがった。乗るが速いか川を飛び越し、枯れ草の上を駆けたウインディは湿地を見下ろす位置で立ち止まる。その背から降りた男の視線の先には、湿地の真ん中には加工した材木を巻きつけたような黒い巨体。枯葉に覆われた頭部がゆっくりとこちらへ振り向く。
「カキシルス……」 - 45二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 06:06:40
ついに来たかお尻かわいいヤツ
- 46二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 15:53:30
保守
- 47二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 18:08:12
チオンジェン・・・(涙)
- 48二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 20:55:23
先手を仕掛けたのはモルフォンである。大きな目玉でエスパータイプに劣らぬ念力を撃ち出す。さらにモルフォンの動きに注意の向いたチオンジェンの後頭部へと、ヤレユータンが崖上から同クラスの念力で挟撃した。
「手応えは?」そう問う男に分かるように、ヤレユータンは大きく首を横に振る。ヤレユータンがモルフォンに声をかけると、モルフォンは短い返事をして羽音の振動による攻撃に切り替えた。攻撃自体に怯んでいた為無効化されたかまでは男に判断できなかったが、チオンジェンの容姿や付近の様子も含めて少なくとも毒の使い手でない事ははっきり認識した。
「それならこっちが効きそうだな…モロバレル、準備頼む」
ピィ、と甲高い返事をするとモロバレルはいそいそとチオンジェンの背後を取るように接近し始めた。チオンジェンはといえば本体の位置はほとんど動かず、枯葉の隙間から伸びてくる蔓を大ぶりに振り下ろして男達を狙う。四方に広く攻撃範囲を持つため狙われる限り接近が望めない。
「ウインディ、お前は真正面から派手に燃やしてくれ!」
男の声に待ってましたとウインディが躍り出る。あからさまな弱点属性の登場に、一気にチオンジェンの敵意が注がれる。ウインディの火炎を防ごうと一気に無数の蔓が壁のように伸び上がったが、勢いを殺しきれずにチオンジェンは頭部の真ん中を焼かれた。 - 49二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 22:52:34
はげちゃう
- 50二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 01:06:52
人でも見上げるチオンジェンの巨体のすぐ背後では、人を見上げるサイズであるキノコのモロバレルが湿地に仕込み続けていた。幾度も踏まれそうになりながら、自分の毒液を辺りに振り撒く。本来ポケモン同士の勝負事であれば一度かければ済む毒だが、相手は余計なもので膨れ上がった何かと化しているので寧ろ複数回浴びせよとはヤレユータンの勧めである。実際先ほどから毒液を踏んだり被ったりしているこの巨体は、時間の割に弱る素振りもない。
男も派手な攻撃をウインディに任せながらモロバレルの仕込みと効果を見ていた。男の想定以上にモロバレルが張り切って毒を撒いているが、今のところチオンジェンの動きは鈍らない。ただ時々落ち葉の山が崩れるように、巨体の裾から何かがずり落ちるのを目視した。ずり落ちたそばから消えてしまい何なのか断定できないが、男の脳裏には勾玉の戦地に散乱した妬みの水たまりがよぎった。男の耳には勾玉を預けて以降聞いていなかった、例の幻聴が鳴り始めていた為だ。 - 51二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 06:47:55
ホシュシュ
- 52二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 16:36:04
ほしゅほしゅ
男の人となりがよくてすき - 53二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 19:31:51
頭部のあちこちに火傷を作ったチオンジェンは、しかし元々俊敏さがないのか逃げるも防ぐも出来ずにいる。押し切れる、攻勢に出ているモルフォンもウインディもそう考えて大技を構える。男もまたそれで鎮め切れると思った瞬間だった。
チオンジェンの枯葉の隙間から、硬い種が大量に飛び出してきた。至近距離のモロバレルは勿論、モルフォンやヤレユータンにも種が直撃する。種は接触して1秒と待たずにポケモン達の身体に根を伸ばす、寄木の種だったのだ。
一番致命打を受けたのは突進しようと炎を纏い跳躍し始めていたウインディである。根を張られた痛みで勢いを殺された挙句にチオンジェンの蔓できつく拘束され宙吊りになってしまった。
「ウインディ!!」
最古参の相棒の危機に大きく男が動揺する。さらに厄介な事にチオンジェンは蔓を周りに振り回すのをやめて、ひたすら生命力を吸い取る草タイプ十八番の妙技に切り替えた。宿木とチオンジェンの攻撃でみるみる体力を奪われるウインディの姿に、男は平静さを欠いて駆け出した。
男の頭の中は最悪の想像で埋まっていく。男がウインディの元へ辿り着いたとて出来る事など当然ない。男の想像通りの結末に干からびた自身が添えられるだけである。それが動揺のあまり分からなかったのだから男の頭が木の幹ほどもある蔦を振り下ろされて潰れるのは当然である。
最もそれは、ここに森の賢者が居なかった場合だ。 - 54二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 19:35:33
宿木を受けながらもヤレユータンは全員を生かし立て直すことを諦めなかった。この場の敗北とは死者を出す事であって最悪勝つ必要は無い。従ってまず愚行から死ぬ確率の跳ね上がった男から助ける為に、チオンジェンの行動を自慢の術で先送りにした。直後ヤレユータンの信用通り、モルフォンの放った風の刃が蔦を真っ二つにした。すかさずヤレユータンはチオンジェンを先送りさせるのに使ったパワーを今度はモルフォンのアシストに充てる。モルフォンは補助を受けて再度すばやく風を充填し、いまだウインディを搾り取ろうとするチオンジェンの目に叩き付けた。
チオンジェンが怯み、立て続けに攻撃されていたウインディはようやく身体に熱を纏う隙を見出した。歯を食いしばり、毛の間から火を吹き出して体を縛る蔓と無数に枝分かれて体を蝕む宿木を焼き尽くす。ようやく拘束を逃れたウインディは、既に体力の半分強を持っていかれている。なんとか湿地を避けて枯れ草の上に胴体から着地し、大きく普段より劣る速度ながら蔓を振り切り崖上の草地まで後退した。
男も命の危機に直面してようやく無謀さを痛感し、モルフォンに助けられた後は狙われにくい一段崖上まで後退してからウインディの近くへ向かっていた。ウインディが自力で拘束を抜けこちら側に引き下がって座り込んだ為、男は思わずウインディに抱きつき声を荒げた。
「ごめん、僕が陽動を頼んだから、こんな…!」
なんとか最悪の状況は回避出来たがまだ冷静に程遠い男の頭に、ウインディは齧り付く。痛、という一言を漏らして男が見上げると、とっとと指示に戻らんかいと言わんばかりの叱咤の眼差しがある。 - 55二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 23:05:39
ナイス先生
- 56二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 01:03:11
自然界の闘争とは強い種族が勝つシンプルなものである。その理論なら単体の脅威として完成した災厄に勝ち目がない。故に男は常に、自然界にはない異種の組み合わせで戦局の打破を図ってきた。その男の目がただ一匹だけを見ては覆せる状況も変えられないと、相棒は男の意識を戦へと戻させた。
男は再度災いと戦闘続行中の仲間達を観察する。ここに来てようやく足元からの毒が染みてきたのか、チオンジェンの蔓がしきりに足元を弄っている。モロバレルは足が遅いのでモルフォンとヤレユータンが陽動にまわるが実質動くのはモルフォン単体である為手が不足している。とにかく、今回の相手の持久力が仲間達の攻撃性能を上回っている状況に間違いない。
ざわざわと木々の枯葉が揺れる。夕焼けを迎えて風向きが変わったのだ。そのざわめきに邪魔されて、真剣に撤退の仕方を弾き出している男は背後に猛速で忍び寄る悪魔の手に気付かなかった。
「皆、撤ーー」
撤退する、という言葉を言い終えられずに、男は頭部に強い衝撃を受けて前へとつんのめる。何が起きたかとゆっくり傾く視界を疑問に思いながら、男の顔が地面にめり込んだ。 - 57二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 12:29:26
保守
- 58二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 20:03:46
鈍い痛みを覚えた男が、土と枯れ草まみれの顔を傾ける。視界が日暮れの闇に慣れるより先に、今度は鼻っ柱に鋭い痛みを感じて男は飛び起きた。体感一瞬の気絶だったからこそ実際には致命的時間経過だったのではと男は肝を冷やしたが、空の色から本当に時間が経ってない事が分かると安堵の溜息が漏れた。
男の目の前にはそれを愉快と言わんばかりに手叩く存在がいた。顔の左右の大きな三角耳、真ん中の長い指から鮮やかな汁の滴る特徴的なシルエット。その隣には男の鼻に一撃を見舞った正体であり、その後飛び起きた反動で吹っ飛ばされた為ひっくり返った短い足の丸い生物達。タギングルとシルシュルーである。
「タギングル?!まさか木立からここまで来たのか?」
タギングルが来てくれた理由が男には分からないので驚くのは道理であるが、何故かタギングルはそれに立腹の様子で足を踏み鳴らす。タギングルの主張を聞きたいのは山々だがその向こうに見える巨影、そして仲間達をどうにかしなくてはならない男である。今戦線を維持してくれているのは間違いなくヤレユータンだ。このままではモルフォンと揃って再起不能に追い込まれ得る。タギングルと大量のシルシュルー達にたかられたまま、極力チオンジェンに見つからないようにヤレユータンの元へ向かった。 - 59二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 00:04:19
どきどき…
- 60二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 01:53:39
男の予測通り宿木でかなり体力を持ち去られているヤレユータンである。男の姿を認めると、隠れながら男の元へとやってきた。
「このまま押し切る形には持っていけそうにない。」男は顔に申し訳なさを滲ませたまま続ける。「僕の不始末まで助けてもらったし流石に…」
ヤレユータンは目線を男に齧り付く者どもに注いだ後、葉扇で男の言葉を遮った。男の背後から跳び出て喧嘩腰に話しかけてきたタギングルに、ヤレユータンは顔色を変えずに二言三言告げ、扇をタギングルに渡した。男もタギングルも動揺を隠せないが、ヤレユータンはタギングルを見やった後に男の方を向いて頷いた。扇を持ったタギングルはといえば、しばらくの静止の後男をよじ登りヤレユータンの真似事を意気揚々と開始した。
文字通り猿真似の采配でわらわらと突撃を開始したのはシルシュルー達である。何事かとモルフォンもモロバレルも目を丸くするが、一日中戦い続けた2匹も疲労が蓄積している為この光景に乗じて身を隠した。戦闘していた先達には目もくれず、シルシュルーの可愛らしい行進は枯れ葉のお山もといチオンジェンによじ登り始めた。 - 61二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 11:32:16
当然身体を登られてチオンジェンは不快感露わに蔓を伸ばし始める。内部では随分と毒が回ってしまったのと追加で種を植え付けようとした毒蛾に金縛りをかけられてしまった為、チオンジェンは満足に技を練れなくなっていた。毒に歪んだ視界では正確に相手を捉えられないので、低コストな蔓をでたらめに身体をはたきつけて邪魔者を跳ね除けようと躍起になっていた。
シルシュルー達の小ささで蔓をかわすかと思いきや結構な数の丸い影が振り落とされていく。その一方で潜り込んだシルシュルーはお気に入りの位置を見つけるとまるで所有物と言わんばかりに毒液でなにか描きつけていく。必死なチオンジェンに対して彼らはどう見ても遊んでいる。夜空である事や陣取っている山が厄の塊である事を除けばどこか長閑な野原で見るかもしれない微笑ましさすらある。
このまま見ていて良いのかも分からないままの男の目の前で、チオンジェンはだんだんカラフルな色の毒液に彩られてきた。アーティスト魂をくすぐられたと思しき采配タギングルも遂に現地へと駆け出し、子供達に届きようのない頭部めがけて器用に組み付いていった。目眩も激しくなったチオンジェンの蔓はタギングルを振り落とそうにも狙いが定まらない。 - 62二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 11:35:38
タギングルの長い指が、たっぷりの毒液をチオンジェンの顔に塗りたくる。普段使いの毒の唾液だけでは足りぬと、湿地に撒き散らされていたモロバレルの毒液も指に塗りたくって好き勝手に描きあげていく。自分の毒液が何やら前衛的すぎるアートの一端になりはじめた事に気をよくしたモロバレルが、さらなる画材を提供せんとチオンジェンの身体に毒を吹きつける。すっかり機能不全となった宿木を振り払ったモルフォンも、ラメの代わりだと言わんばかりに上から鱗粉を吹き付ける。
チオンジェンの動きが遂に止まる。疲弊か苦痛かは分からないが気持ちうなだれた頭部からは可哀想な量の毒液が流れ落ちている。男は少々哀れに思ったものの、勾玉の時のような身体の縮小或いは霧散が見受けられない事から油断はしていなかった。まだ本体であろう木簡から災いを引き剥がすに至ってない。抵抗もやめている木簡が痛ましいがもうひと押ししなくてはならない。
「タギングル、溶かして剥がしてくれるか!」
立腹していた時とは裏腹にご機嫌な返事をしたタギングルとシルシュルー達が酸性の毒を吐き出す。高い防御性能を崩す特性をもったこの毒液をあちこちに付けられたチオンジェンの巨体は、一気にズルズルと砂山のように崩れ出した。鮮やかに彩られていた枯葉や腐葉は崩れ落ちたそばから霧散していき、木簡そのものも含めて山がどんどん縮んでいく。最終的にここに巨大アートが存在した痕跡は、カラフルな湿地とその中で渋い存在感を放つ物言わぬ木簡だけになった。
男はシルシュルー達の謎の歓声に包まれながらそれを拾い上げ、ようやく終わったと星を仰いだ。 - 63二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 18:36:31
その翌日は曇天であった。太陽は雲越しながら既に真上にあるが、男達は虚ろな眼差しで褐色の大地に横たわっていた。昨日は一日中災いと戦ったのだからごく当然の光景かと思いきや、誰も彼もの目に光がない理由はそこではなかった。
太陽が真上に届かぬ時刻に遡る。疲労困憊の男達の前には、からっぽの食糧鞄がある。災いと戦う前に封をして埋めたあの鞄に他ならない。確かに奪われる可能性はあるが、余程器用でもないとこれを掘り起こして開けて食べる真似はできない。それをするメリットがここらのポケモンにはない。
木簡を手にした男達は勾玉の時の経験から、夜の間に川の方へ引き返してきたのだ。川の近くに辿り着きこそすれ気力の持たなかった一行は、近くに埋まっているはずの鞄の状態を改めずしてその場で泥のように眠ってしまったわけである。いざ明るくなった世界で目覚めてみれば、食糧鞄は丁寧に開けられて中身は空の状態で、ぽつんと主人の帰りを待っていたというわけだ。
この世に絶対はないとはいえ、疲労したここにきて食糧が尽きた事実は一行にかなりのショックを与えた。ごめんね、と虚空を見つめて連呼し続ける男の様子も哀愁が漂う。武勲の立役者であるタギングルも先日よろしくご立腹かと思いきや、随分しおらしく座り込んでいる。よく見ると年長者のヤレユータンに説教がわりに受けたたんこぶがある。気まずい様子で座り込んでいるのは、タギングルこそこの鞄を空にした張本人だからだった。 - 64二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 18:38:54
そもそもタギングルは同じ木立の仲間達が男に呼ばれたあの日、久々に見かけたこの男に挨拶代わりの悪戯を仕掛けようと付近で機をうかがっていた。結果悪戯は仕掛け損ね、自分を差し置いて呼ばれた彼らにサンドイッチが振る舞われたのを見て尚一層不満を募らせたのだ。なんとか困らせてやるまではとこっそり尾行してきてようやくそのチャンスを手にしたのが、男が埋めた食糧鞄である。先も念押しした通り掘り出して封を開けねばならぬ面倒な代物なのだが、当然タギングルの手先の前にはお茶の子さいさいである。中を空にするべく、全ての食糧を付近に潜伏していたちびっ子シルシュルー達にも配り散らした。シルシュルー軍団の臨時兄貴分となったタギングルはいよいよ男の困った顔を見てやろうとあの日戦地に現れたのだ。立腹していたのは自分だけサンドイッチにありつけなかったという抗議に他ならない。結果その抗議を聞いたヤレユータンは、より豪勢なサンドイッチを交換条件にあのアヴァンギャルドな創作活動を提案したのだった。もっともヤレユータンはタギングルを貶めたかったわけではなく、鎮めた後の労いサンドはあるとあの鞄を当てにして予測していただけである。シルシュルー達が幼少の頃から厄介な酸性毒を使える事も認知していた賢者は勝ちを確信していたのだが、まさか報酬目当てのタギングル本人が自分で報酬を潰していたとは思いもよらなかったのだった。
- 65二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 19:11:26
「……で、全部食べちゃったのか……」
なんとかヤレユータンの詳細なジェスチャーにより事の顛末を知った男は静かに俯いた。男も極力自分の都合で連れ出すポケモンは減らそうとした結果であるし、タギングルの言い分とて理解できないものでもない。ただ何にせよここにサンドイッチはない。その事実が全員の腹をかえって刺激する。これが単なる空腹なら少し遠くへきのみを探せたかもしれないが、昨日の戦闘による傷が癒えきっていない今誰も動く気力が残っていなかった。
そういう理由で男達は今尚、意味もなく雲を数えている。正午もとっくに過ぎていったのが光の位置で分かるが相変わらず誰も微動だにしない。揃って眠りに落ちるでもなく誰かがそのまま目を閉じたかと思えば隣は起きたまま動かない、そんな時間を繰り返している。そのまま空の色が変わり、星が視界に映り出す。せめてもう深く眠って体力の足しにしたいと思う一行だったが、頭の隅に居座る空腹感はなかなか深い眠りを許しはしなかった。
申し訳なさを寝言で呟きはじめた男は、夢にまでサンドイッチを見ていた。ただしそのパンはいつもの男の手つきに合わない歪んだ切り口をしているし、上に乗っかった具材達も今にも落ちそうな奇妙な乗せ方になっている。夢らしい奇抜さの象徴と言わんばかりに、上のパンを乗せた瞬間に具材諸共遥か遠くの空に放物線を描いて打ち上がる。下のパンと調味料だけになった料理を前にして、これじゃサンドイッチじゃないねごめんと言ってうな垂れる男まで含めて何もかも現実離れしている。うなされる男に気付いてひっそり様子を見ていたヤレユータンだが、あまりに酷な内容で哀れに思ったのか普段は使わない夢喰いを施すのであった。 - 66二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 19:16:27
ヤレユータンしれっと腹満たしてんじゃねえよ
- 67二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 01:08:55
男達はなんとかひと眠りを得て朝日を迎えた。今日こそ流石に食糧を探さねばと心身を奮い起こし、激減した荷物をまとめる男の耳には数人の人間の声と荷車の音。しばらくぼうっと聞き流していたがそこに聞き慣れた羽音が混じって男ははっと音の方へ振り返った。
「ご無事のようでなによりです。近くで災いを鎮められたと別部署の兵から聞きまして」
羽音の正体であるファイアローの背後から、おそらくは王国兵がこちらに向かいながら挨拶をする。推測なのはそこにいる誰もが統一された服でこそあれ鎧を着ていない為だ。王の書状を届けに来たとかそうした用事がない事は分かったが、ならば荷車など引いて彼らは何処へ行くのか。
「災厄鎮圧後の土地の調査を命じられていまして。こちらの荷車は全てその食糧ですよ。王曰く景色のいい外で食べて来い、だそうですが到底我らだけで食べきれそうもないのでご助力願えませんか」
木簡の災いはあの移動速度の為か、都の高い城壁で警戒に当たる兵からはかろうじてあの巨体が観測できる位置だったらしい。それ故に昼間の時点で男達の戦闘は認知されていたが夜警の兵が遂に鎮静化までを確認し、王の耳にも鎮静化の報告がいち早く届く事となった。王はそれを聞いて付近の調査を命じ、何かとポケモン使いを気にかけた兵を集めてファイアローと共に出かけさせた。彼らの旅路に対して食糧がやたら多いのも、王の口からは何の説明もないがそういう事である。
男達一行は、結果的にここ一週間で最も豪勢な食事を摂る事になった。ポケモン達から大歓声が沸き起こったのは言うまでもない。兵達はポケモン達とは少し離れた所で食事をとってこそいたが、男達をわざわざ訪れてくれただけはあってポケモン達の賑やかな様子に頬を緩めてくれていた。 - 68二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 01:10:44
兵達は食事や食糧以外にも都の近況や進行中の災厄対策の情報を男達にもたらした。男にはお手上げ状態であった怨念の類の対処であるが、都では思念を弾く箱を完成させる計画が始まったらしい。その手の呪術に国が詳しかったとは初耳だと男が驚きを見せると突然、ファイアローがひと鳴きの主張をした。
「実はこちらもお手上げだったところに、この鳥が古風な文を持ってきたとの話です。てっきり貴方かと私は思ったので、やはりポケモン使いとはその道に詳しいのだなと……」
それこそ初耳である。男がファイアローを見やると、ファイアローは都では出さなかったもう一つの文を男へ渡す。都で使われるよりも少々古い型の紙には、伝える事があるので鎮めた木簡を持ってきて欲しいという常人ならざる旨が書かれている。文面右下に書かれた差出人の名は、森の魔女。
「……合点が行きました、僕より詳しい人…が動いてくれていたみたいで何よりです。皆さんが土地を調べてくださる間に、宝そのものについての知恵を彼女に借りてきます」 - 69二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 07:29:07
ホシュシュ
- 70二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 16:06:00
数日前とは打って変わって、青葉の瑞々しい木々が風に揺れる。しかしあまり木々に気を取られれば点在する小さな池に足を滑らせてしまう、そんな一角に男は夕闇の中立ち入った。
男のそばにいるのはウインディとファイアローだけである。今日の朝を迎えてから、例の如くお礼のお手製おやつを持たせた毒ポケモン達とは別れを済ませていたのだ。なお朝を迎えて眠ってしまったモルフォンはヤレユータンが背負って帰った為、男が送り出した後ろ姿のひとつは老猿にファンシーな羽というなかなかにシュールなものになった。
手元に残した木簡を持って文の通り、男はすぐに森の魔女の元へ向かった。森の魔女の名だけは時々都でも聞かれるが、人の子を喰うとか顔の良い男をさらうとか根拠のない噂ばかりが飛び交っている。故に彼女が住むという南部の霧の森は、都との距離の割には人の手が入っていない。ファイアローの案内こそあれ霧の中を慎重に進んだ男達が到着に時間を要するのも無理はなかった。もっとも、時間をかけても魔女の許しなくしてはその霧は抜けられないのだが。
『ようやくか、2度目の割には遅かったの』
突如降ってきた声に男が辺りを見渡すと、くすくすと目を細める淡水色の三角帽子の女性がいつからか目の前に立っている。目の前のこの女性こそ声の主には違いないが、耳に直接置かれるような感覚がする声である。帽子の下から覗く色白の肌を、淡水から薄桃色にグラデーションがかった髪とドレスが覆い隠すミステリアスな風貌。髪とドレスはまるで一体、否よく見れば継ぎ目などなく帽子もまた身につけたものではない。
『人語を使ってでもお主をこちらから呼んだのだ、期待するとよい』
静寂が支配するこの森の女主人とは、ブリムオンであった。 - 71二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 16:08:45
『お喋りが嫌いとは言わぬが端的に要所だけ言うてやる。その厄を封じる手段は我が教えてやろう』
小さな池に映る星々に目を向けながら、ブリムオンは男にそう伝えた。
現代パルデアでもテブリムすら中々見かけられない事から察せる通り、ブリムオンまで成長し森を牛耳るこの個体は相当の手練れである。ましてや人の感情は煩いから不要なら関わりたくないとブリムオンは以前迷い込んだ男にもはっきり明言し、今まで異名以外は自身を隠し通してきた。そんな大魔女が人語の文まで出してこちらに接触を図ってきたので男は半信半疑のままここまで来たのだが、更に信じられない助力の申し出に男は目を丸くする。
『我が伝えるは人の思念を避ける術の紋様、その描き方だ。お前達人間はなにかと匣をよく作るのでな、それの蓋にでも描いておけ。材料と描く形が合っておれば良い。して、お前自身は匣を作ったりはしないようだな?やはり王とやらがするのか?』
男は軽く人の営みを説明する。王自身は物作りをせず役割は群れのリーダーに近いという事を早々に理解したブリムオンであるが、表情を見るに人間の生活様式はやはり面倒なものに映っているらしい。
『まぁこないだの助言を受け入れたようであるし、引き続き王とやらに文書で指示を出す。元はといえば旅人を名乗る変な人間に聞いた術なのだがな、お主達にとっては昔過ぎて誰も覚えておらぬとみた。材料の一部も此方でしか作れぬから後日渡してやるが、お主の口からも王に揃い次第とっとと作るよう言うておけ』
そんな無茶な、と言いかけた男であったがちらついた触手の拳にせめて言葉は飲み込んだ。 - 72二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 16:13:37
先に寝ついたウインディとファイアローを横目に、まだ男とブリムオンは語り合っている。話題は都に作らせる思念除けの匣ではなく、男の手元の木簡である。
『人間とはいつも余計なモノを持ち込む。お主の働きで妬む声、恨む声はほどけた。しかしまだ憎しみと恐怖の声が煩すぎて夜も眠れぬのだ』
木簡を見たままのブリムオンからそんな声が聞こえてくる。ブリムオンが協力的なのは端的に言えばこの睡眠妨害からのようである。彼女の声に挙げられた憎しみと恐怖というのが、残りの災い達の源と男は推測する。そこまで考えてふと結論を先延ばした疑問を男はここで口にした。
『あの…彼らは、この木簡達はこの状態が平時の姿のポケモンなのですか?』
戦った姿と今の姿、どちらがポケモンとしての姿なのか。男の予想は戦った時のあの姿こそ本来の姿だろうと考えてはいるが、この姿が弱った事による形態変化なのか別物への変化なのか結論が出なかったのだ。
『お前の予想通り、あの巨躯であった時の形が本来の姿だ。ただし…この者達自身がまだ自分を定義しておらぬから、物の形から戻らぬのだ』
しばしばポケモンには生物的な発生ならざる種族がいる。道半ばで死した同胞の魂を纏い進化した魚。捨てられた恨みで歩き回りだした人形。果てには時空の神という信仰を受け入れ現す姿を変えた巨龍達。
この木簡を含む宝達も物体であった時からの変化がポケモンとしての存在の要であるが、生まれたばかりの彼らは自身の力も経緯もまだ理解していないのだと言う。
「つまり……このポケモン達って」
『まぁそうさな。そういう点では赤子同然よ』 - 73二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 23:32:14
四災の体が崩れていく描写が素敵だ…
- 74二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 08:53:45
翌朝、男は同じ場所で目を覚ました。森の魔女からもたらされた情報を頭で整理する内に眠ってしまったようだ。柔らかい草の上であったが何故か痛みを覚えて、男はこめかみをさすった。
『む、起きたか。考え事ばかりして煩かったので寝付かせてやったぞ、感謝せよ』
痛みの正体が判明した所で、男は朝食を作りはじめる。ありがたい助力に見合うものを寄越せと隣の三角帽子が覗き込むので、元から男はそのつもりながら先日もらったばかりの食糧でお得意の料理を作り上げた。
火で軽く炙った主役のベーコンと、貴重だが日持ちのしない赤茄子やレタスの乗ったサンドイッチ。先日根こそぎ食べられた中残っていた刻みタポルの皮を隠し味に入れて、いつもより香り高いパンの味を楽しむ。
『何故同じものをわざわざ上に乗せるのか分からぬ…下のパンとやらだけではダメなのか?』
未来を先取りした発言に男は苦笑いを返す。ただし先の時代に上のパンが消失するのは物理学に翻弄された者どもの嘆きの結果である、という点はこの長きを生きた大魔女の目を持ってしても見通せなかった。
男達が旅の支度を始めると、ブリムオンは丸い紋様が焼き付けられた木の実殻の鈴を幾つか手渡してきた。都に教える思念除けの紋様であり、材料の関係上思念除けとしては格落ちだが弱めた宝であれば災厄化を遅らせられる代物だという。
『その木簡に蔓などで括っておけば充分だ。というより、これで留めているうちに全てを鎮めきれぬのなら元より滅ぶ運命よ』
ブリムオンはそう言うが内心この男の手際の良さは評価しているので滅びは回避するとの確信がある。しかし案の定男は念力など持たぬ人間の若人故に、口に出されなかった内心など知ろうはずもない。冗談を真に受け緊張している男が、弱々しく面倒な種族ながら懸命なその姿が、ついつい面白くてくすくすと魔女は笑うのだった。 - 75二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 08:55:13
森の魔女に別れの挨拶を済ませると、男達の視界は瞬く間に霧に覆われる。思わず瞑った目を再度開けると、先程まで自分達がいたはずの霧の森は背後にある。せいぜい励め、と彼女の声が聞こえた気がした。
男達のやる事は変わらない。身に余る力をまとった災厄達を鎮める為に、男は引き続きウインディと旅をする。木簡を鎮めた時の手痛い怪我が心配された彼も、霧の森での休息を得て完全回復といった様子で意欲を見せる。ファイアローはというと、森の魔女からの文を王に届ける役に抜擢(強制)されているようなので、男はせめてもの労いにと手製の団子を贈った。
厄災鎮めの3度目ももちろん頼もしいポケモン達に会いにいく所からになるが、男の予測では実質登山になりそうである。今から急いだとてかえって事故が懸念されるので、男は防寒対策と再度保存のきく食糧物色の為に都に向かった。
ウインディを外で待たせて、男は単身都に踏み入る。城の倒壊から10日程経過し、通りの風景はいつかの日常に近づいてきている。災厄を討ったという話もちらほら噂されているが、前々からそうであるようにこの男単体ではそうした英雄だと気づかれないのである。確かに民衆は直にあの災厄の巨躯を見た者が多いので、それを倒したと言われれば筋骨隆々な殿方でも想起するのかもしれない。それが実際にはザ・標準、オーソドックスな魅力と評されそうな容姿のこの優男である。財宝探索指令で王城に出向いた事はある為王国兵はこの容姿と偉業のギャップを認識しているが、街の人々にはそこまでの印象を植えつけてはいなかった。
そして男はそんな事お構いなしに目当ての品を買って満足気に都を出ていくのだった。 - 76二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 16:31:42
保守
- 77二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:28:33
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- 78二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 10:41:26
ホシュシュ
- 79二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 15:19:54
都を出てから3度目の陽が昇り、真上から地を照らす。男とウインディは現代パルデアでいう北1番エリアにようやく辿り着いた。
「なんとか無理矢理登ったね。アシストありがとうドータクン」
男の感謝に頷くこのドータクンとは、勾玉を鎮める戦いに参加した男の仲間が一匹に他ならない。
海辺で勾玉の番をしていたドータクンらの元へ男は立ち寄り、預からせていた勾玉を回収しにきた。勾玉自体は例の魔女の鈴で対策をするので一旦海辺の仲間達は各々の生息地へ解散する事となったのだが、男達の向かう先が北の山々であると知ったドータクンは生息地に帰りがてら男と共に来てくれたのであった。
『吹雪をまといて駆け回り、進んだ先の壁を真っ二つ』。初めにもたらされた情報の時点で警戒すべきものは明白な相手が今回対処する剣の災いである。男を悩ませるのは、その災いが雪山にいるという点である。いつだって自分が最も非力な身体だとは肝に銘じているつもりだが、今回こそ単身では即刻命を刈り取られてしまいそうである。
「雪崩でも起きたら一発だし、ポケモンの力だと軽い雪崩なんて割とあるし……僕いるとかえって邪魔な気がするけどそうはいかないし」
不安もあって頭で考えている事をそのまま口から垂れ流している男は突如足元からウインディに潜り込まれた。身体を浮かされ反射的に前に掴み掛かると、乗り慣れたウインディの背に収まっている。そんなにこの脚は頼りないか、そう問うような相棒の眼差しが鬣越しに投げかけられる。
「やっぱり君の脚が頼りかな、いつもありがとうな」
呼び集めるポケモンも決まったので、ウインディとドータクンが連れてきてくれるのに間に合うように男は歓迎用の軽食を作り始めるのだった。 - 80二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 15:21:24
男の元に集ったポケモン達は、朝日に向かってウォーミングアップを始めていた。特に血気盛んなルカリオとケケンカニは軽く拳を打ち合って調子を上げている。ウインディもまた一帯を軽く走り回って体を温めている。クレベースとエーフィは対照的に静かに目を閉じたままだが既に起床済みだ。
体育会系の朝練じみた光景に、男が香ばしい匂いと共に現れる。マトマのみとオッカのみの辛味がまろやかなチーズにマッチしたサンドイッチである。多少炙りすぎたかパンまで黒い焦げが僅かについているが、そのおかげか縁に垂れついたチーズが一同の食欲を刺激した。寒さを癒すパンの温かさに気を取られているので、上のパンを不服に思う者は今日の所は不在である。
男達は食べ終わると、数歩先から始まる真っ白な山肌を見上げる。遠くから見た時はその白い美しさに心が洗われる思いであったが、今この至近距離ではこちらを飲み込まんとするような威圧感に男の足がすくむ。ただ、同時に男は相棒に絶対の信頼を寄せている。男はウインディに跨り、仲間達と共に静かに白銀の世界に立ち入った。
エーフィの先導で少し登りながら山の雪の状態を見る。たしかに年中雪のちらつく山だが、新雪の量が多すぎる。おそらく災厄のもたらした雪であろうと男は推測し、可能ならそうした雪の少ない場所を探したかったが何処を歩いても柔らかい雪が混じり込んでいた。 - 81二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 15:23:16
山は静かである。
災厄と既に同じ土地に居るはずだが、男に感知できる情報は何一つない。もしかして他の場所に移ったかと思った男は、しかしまだ緊張感のある仲間達を見て認識を改める。魔女と会った森に匹敵するほど何も聞こえてこないが、確かにこの山は災厄に掌握されているのだ。
「足音とか全く分からないから本当に不意打ちされそうだ…皆、悪いけど任せるよ」
そう男は告げて黙り込む。相変わらず風は何の音も男の耳に届けてはこないし、男の目には新雪に紛れたその姿を見分ける事はできない。
ただし先に述べたように、男は異種族連携のプロとしてここに来ている。誰か1匹の感知を全員のものにする手段は考えてきた。
ルカリオの耳房がぴんと立ち、短い声で合図する。1秒経たずにエーフィがルカリオと同じ認識を全員にテレパシーで共有した。
「下からか、始めるぞ!」
山頂方面へとウインディが駆け上がる。瞬間、下方の白い雪が突如盛り上がり中から巨大な豹が空へと伸び上がった。狙い澄ましたはずが手が空を切った災厄は、今しがた取り逃した玩具を今度こそ引き裂かんと尻尾を震わせ大口を開ける。
「キル、キルッ!!」 - 82二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 19:42:46
速い。それが剣の災いに対する男の第一印象である。
これまでの災いと同じように巨躯であり、注意して見れば腕の振り下ろし方や走り方にぎこちなさも見られる。しかしそれを補って有り余る速さで駆け回っているので、正面から組み合えそうなのはルカリオだけだ。素早さでいけばエーフィも候補なのだが、エーフィには別に頼みたい事があるので最初の削りはルカリオと男の乗るウインディがメインだ。
「ルカリオ、堅実さ重視で頼む!ウインディ、僕が乗ったままになるけどいけるか!?」
男は振り落とされないようにしがみついたまま叫ぶように声をかける。ルカリオの返事が男の耳に届く。
ウインディは速度に意識が追い付いていない男を乗せたまま超速の突進を見舞った。男がいなければ神速というべき一撃であったものだが、それでもルカリオの肉弾戦に巻き込まれない程度の素早い離脱が可能である。火炎を極力使わないのは背に乗せた男の身体が焼けてしまうというのもあるが、あまり自身に注意を向けさせると木簡の災いの二の舞になろうとの判断である。
物体から感情まで視ることが出来るルカリオは、ウインディの動向を汲み取って進んで前へと突っ込んでいく。守りは捨てずに、撤退できる動きを意識しながら鋼の拳を上から叩きつけ続ける。相手が速い上に保護色の効いた戦場故命中率に難こそあるが、手数で着実にパオジアンにダメージを与えていった。 - 83二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 19:48:49
彗星の如く降り注ぐ拳を時に打ちつけられながらも、パオジアンは常に剥がされた身体を雪で補い暴れ回る。常に舞い上がった氷の礫をあちこちに飛散させ、時に風を巻き起こして男達の足を鈍らせる。
かと思えば突然新雪に潜り込んで隠れてきたり、上からゴロゴロと雪ごと転がってきたりと予想だにしない動きが織り混ざるので男達も翻弄されているのは確かだ。パオジアンの取る行動は男達を仕留める目的に違いないのだが、見た目通りというべきかいささか遊び心を含むように男の目に映った。
削っては雪で再構成されるのを繰り返しながら、男が警戒していた事態が予知された。男達の脳裏にテレパシーで届いたのは、自分達より上方の雪から飛び出したパオジアンがそのまま雪崩と同化して押し寄せる光景。パオジアンはルカリオの拳を躱して、正に今雪の下を駆け上がっている。
「一気に降りるぞ!間に合わせるんだ!」
ウインディ、エーフィ、ルカリオが一斉に山を駆け下り始める。幾許の猶予もなく上から轟音と冷風の気配が震える。男達の速度を上回る速さで雪崩が押し寄せる。勝ちを確信した雪の豹は、辺り一帯ごと押し潰そうと巨体のまま雪ごと飛び上がり、そのまま山肌へとボディプレスを決める。
「キル……」
満足げに山に腹這いになった所で呟くような勝利発言である。
しかし直後、パオジアンの身体は弓なりに空へと突き上げられた。巨体の源を雪の形で撒き散らしながら、パオジアンが不意の一撃に斜面を転がり下る。 - 84二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 19:51:40
パオジアンを転がした正体が、先程の場所から白い雪を豪快にどかして顔を出す。男の元に居なかったクレベースとケケンカニである。山登りの途中で別れ、エーフィ越しに戦況を把握していたのだ。そしてパオジアンが潰した気でいた男達もまたその場所で雪崩の傷なく健在であった。
「助かったよクレベース」
広範囲攻撃特化の守りの一手。これを雪崩の対策にと男はクレベースにあらかじめ頼んで離れた位置で待機してもらっていたのだ。パオジアンの油断を誘う手段でもあったので、パオジアン自らが巨体で突っ込んできたのは好都合でもあった。待機していたケケンカニ渾身の一撃は威力こそ抜群だが外しやすく、誘い込まねば当てられそうになかったのだ。
まんまと嵌められたパオジアンは大きく雪の身体を欠損したが、すぐさま足元の雪がそれを埋めた。地団駄のような所作の後にすぐさま男達に飛びかかってくる。巨躯が動く度に撒き散らされる尖った氷の礫が、ひとつひとつに力は無くとも数で男達の体力を奪っていく。ひたすら小石を投げられているような痛みを受けつつも風に巻かれて全方位から飛んでくる為、その対処の難しさから男達はこれを放置して戦わざるを得なかった。
男の見立てではルカリオ達の攻撃は大きくダメージを与えてはいる。ただ補填してくる雪が災いたらしめる力を削ぎ落とすのを邪魔している。おそらく本体は攻撃に特化していて防御は今までの災い達より弱いのだろうが、雪山で戦っているので無限供給の盾を持っているようなものらしい。
「ルカリオ、後で決めの一撃を任せるから一旦下がって後方からサポートしてくれ。まかせた、エーフィ、ケケンカニ!」 - 85二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 23:28:49
保持
- 86二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 01:20:43
素早いエーフィが念力でパオジアンの雪の身体を揺さぶる。拳技よりは通らないが、エーフィの素早い身のこなしにパオジアンの視線が注がれた。そのままエーフィの誘いに乗るようにパオジアンが駆け出し、2匹はまるで鬼ごっこのような構図で夕日色の雪を走り回る。
いよいよパオジアンが小さなビロードの肌を切り裂き噛みつこうとしたその瞬間をこそ、男達は狙っていた。
「交代だ!」
男の声を合図にエーフィが瞬く間にパオジアンの視界から消え、同じ場所に既に拳を振りかぶったケケンカニが突如現れた。
巨躯の攻撃は急に止まれない。
上から降ってきた腕をそのまま食らいながらも、ケケンカニの拳が開かれたパオジアンの大口にクロスカウンターを決めた。パオジアンの下顎を形成していた雪は吹き飛び、自慢の剣の牙に纏った氷が大きく削れた。
大きくのけ反るもいよいよ遊び心を無くした眼差しになったパオジアンは再度雪を纏い身体を治す。ただしそれも後方に下がって姿も見えないルカリオからの波動弾が邪魔をし、形こそ戻ったがあちこちにヒビが目立つ状態だ。ようやく体力に余裕が無くなったらしいが、男達も雲が増え出した天気と礫で常に削られ続けた体力的に時間の猶予はない。 - 87二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 01:23:43
「一気に追い込む!全力で攻めてくれルカリオ!」
残りの体力をケケンカニとルカリオで削り切る。
パオジアンは目の前へと進み出てきた2匹に即刻攻撃を開始した。無数の氷を素早く撃ち出し、吠え声と共に冷風を叩きつける。
ケケンカニは自身の全身に力を込めて防御の構えを取る。ルカリオは先程と打って変わって至近距離まで詰めての直接攻撃に転じた。守りを捨てての攻撃故にルカリオの表情にも余裕はない。
パオジアンはまずルカリオから落とそうと猛攻を仕掛ける。雪を巻き上げ、浮き上がった氷の粒全てをルカリオに向け投げつける。
ルカリオは堪らず後退するが、パオジアンは執拗に距離を詰める。
「ケケンカニ、フォロー頼むぞ!」
男の声に警戒したパオジアンであるが、既にルカリオにつられすぎていた。雪に紛れるケケンカニからの再度の待ち伏せを喰らい、パオジアンの身体が一段とヒビだらけになる。
離脱を図ったパオジアンは更に真上から頭に直撃してきた衝撃に怯む。大したダメージになるはずもない氷柱であったが、注意されなかった分時間をかけて作り上げたクレベースの一撃が決着の隙を作った。
「突撃だ!」
ケケンカニ、ルカリオ双方が傷だらけの身体で潜り込む。起死回生の一撃、二撃の挟み撃ち。ギリギリまで体力を犠牲に溜め込んだ火事場の馬鹿力である。なんとか直撃を免れようと、前から迫る2匹に対してパオジアンは後退しようとして。
「ウインディ!」
既に背後に辿り着いていた男の乗っていないウインディに、腰の上から三撃目を受けて災いの巨体が雪の中へと沈んだ。
視界を覆い尽くす雪の煙が収まると、決着の衝撃で跳ね飛んだ剣が、まるで悪あがきに狙ったかのように男の目の前へと刺さった。 - 88二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 11:32:23
保
- 89二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 16:13:40
雪山での決戦から3日後。見渡す限りの花畑と青い海が、雨上がりの太陽を受けて宝石のように瞬く。背後にそびえる雪山に似合わない暖かな海風を受けながら憩いの時間を過ごす集団の姿がある。
その中のたった一人の人間たる男であるが、賄いの一つでも普段なら作っている所を今日はすっぽりとウインディの懐に囚われている。
「流石にもう治ったと思うから……あの……」
付近のポケモン達が一斉に振り向く。男が起こそうとした体勢を、近寄ってきたルカリオが丁寧に寛ぐウインディの腹へと押し戻す。突っ込まれた男を挟み込むようにウインディが体勢を整える。ケケンカニが霜のついた前足で男の額をさすり、男の正面に少々険しい面持ちのエーフィが陣取った。
安静にしてなさい。テレパシーなどなくても分かるポケモン達の総意である。あまりにスムーズに連携されて押し戻された手際の良さに感心する男だが、同時に無言の圧により今日こそ大丈夫との反論も出来なかった。
男は風邪をこじらせた。原因はもちろん雪山での長時間戦闘である。あの日吹雪始めていた雪山を北へ駆け下り花畑へと辿り着いたまでは良かったが、労いのサンドイッチを作って食べ終えた深夜に男は高熱を出してしまった。
氷ポケモン達の看病を受けながら海辺の洞窟で雨を凌ぎ、ようやく熱が下がったのが今日の朝である。当然下がっただけで治ったとは言い切れないのでポケモン達の反応は妥当である。 - 90二次元好きの匿名さん23/04/20(木) 16:16:52
男を気遣うポケモン達の輪の中には、この花畑に棲むポケモンが混じっている。大地を裂くという最後の災いに挑む為の仲間達との合流も兼ねて男はこの地にやってきていたのだ。ご機嫌に日光浴を楽しんでいる新顔が、ドレディアとキマワリそしてフラージェスだ。
ウインディに確保されている男の代わりに、ルカリオやエーフィといった面々が既に事情を共有していた。バラけないように纏められて例の鈴をつけられている暫定ポケモン未満達を、新顔の3匹は物珍しそうに眺めている。ドレディアは木簡にお花を添えてみたり、キマワリは勾玉を太陽にかざして何か見ているようである。フラージェスもまた先日収めたばかりの剣をそっと撫でている。
赤子のようなもの、という魔女の言葉を男は思い出す。人間である自分達は災厄だ災いだと騒ぎ立てるが、ポケモン達にはまるでそうした忌避感は見られない。それがどういう違いから来るのか、男は目の前の彼らに直接聞く術を持たない。ただそれを考えようとした時に、男もまた災いを恐ろしく思う一方で、その姿を改める瞬間を楽しみにしている気持ちの存在を自身に見出したのは確かだ。
ポケモンとして成り立つ時が来たら、彼らは何を自分の核にするのだろうか。物体であろうか。纏った力であろうか。はたまた吸収してきた感情なのだろうか。……人と相容れない存在となる事もきっと、この子達の場合は寧ろ大いにあるのだろう。
「でもやっぱり、その結論まで見届けてみたいな」
男の口を出てそんな一言が漏れる。男の気持ちは鎮静化を焦っていたこの2日間よりもスッキリして軽くなったが、ポケモン達の鋭い目線に屈してその日も休息に充てたのだった。 - 91二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 00:09:59
翌日ようやく男の体調も良くなり、それまでの看病の感謝も込めて男はサンドイッチを作る。ドレディアが貰ってきてくれたビークインの蜂蜜と、シュカのみを混ぜ込んだピーナツバターのサンドである。
男が寝込んでいる間も脚力自慢なポケモンがきのみを集めてくれており、男の食糧鞄は氷ポケモンが拵えた冷蔵庫に置かれていたので幸いまだ旅が続けられる量が残った。ポケモン達の配慮に頭が上がらない男は、いつも通りながら極力増量したおやつを餞別に山の仲間達と別れた。
目指すは現代パルデアでいうオコゲ林道である。都を壊した器の災いは足が速くはないようで目撃例も多いが、真っ先に都から出ていき遠くへ行ってしまったと書状や王国兵から聞いている。
それだけでは目的地を絞りきれないかと男が思った矢先に甲高い鳴き声と共にムクホークが降り立った。魔女の使いっ走りになったファイアローの代わりに、剣の災いを鎮めた報告はムクホークに頼んでいたのだ。
普段は一方通行の報告になりがちだが、此度ムクホークが持ち帰った文には湖の北部で崖崩れが頻発しているとの情報である。城壁ごと地を割るという力の持ち主がいる可能性が高いので、偵察を兼ねて雪山側から林道へと向かった。 - 92二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 00:11:42
高所から見えてきた林道の様子は荒れていた。草が生えたまま立ち枯れていた木簡とは異なり、木がへし折れていたり真新しい土砂が芝生になだれ込んでいるといった様子だ。
巨木が多いので普段であれば上から見て何か見つけるような事は難しいが、何本か間引かれてしまっている今はその中をゆっくり進む四つ足の生物が視認できる。辺りをしきりに見回して常に警戒する姿が印象的な器の災いである。
男は土地のコンディションの悪さに少々面食らった。地割れを起こすとは聞いたがそれが何本も大地を走っている。ここで戦闘したらいよいよ大崩落でもしそうだ。
「これはこのまま戦うにはちょっと」
荒れすぎている、何とか誘導でもするべきだろうか。男がそう呟くと同時に、足元から小石が転げ落ちる。まるでその音を聞いたかのように災いがぐるりと振り返った。
「ソソゲーーーッ!」
災いの張り上げた声に呼応して、男達の足元が林道へと滑落する。男達はどうにか怪我こそ免れたが、草タイプが主軸となった今の仲間達にこの崖を再度登る手段はない。即ち逃げ場のない災厄との戦いが始まった。 - 93二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 07:01:47
危ねえ!
いや厄災だから当然か - 94二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 09:07:05
ディンルー!あっちもこっちもディンルー!
- 95二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 12:03:54
「フラージェス、ドレディア、得意の技で攻めてみてくれ」
内心焦る男であるが、今の仲間達で戦う事に決める。偵察のつもりで来たのがぶっつけ本番になってしまったので男は解決し損なった疑問をまずは解消する。
フラージェスの力とドレディアの花吹雪がディンルーを襲う。ポケモン達の意思表示通り、よく効いたのはドレディアの方だ。見た目からしてもフィジカルで地面を割るというより、元より大地の性質を持つ存在と見るのが妥当だろうか。
「ウインディ、ムクホーク。君達は一旦離脱してくれ。ムクホークは頼めるなら君の地元から連れて来て欲しいポケモンがいるんだけど」
ムクホークはひと鳴きと頷きを持って合意する。男の説明から思い当たったらしいムクホークは即座に飛び立ち、ウインディは男に渡された鈴付きの宝達を持って一旦林道から離れた。
男は2匹を祈る気持ちで見送りながら、戦場に視線を戻す。今まで見たどの災いよりも大きいので攻撃すれば当たらないという事はないのだが、硬い身体がなかなか削れてこない。ならばあの木簡に倣うのが良さそうである。
「キマワリ、ドレディア!宿木で足元から崩す!」
2匹が同時に宿木の種を飛ばす。足に潜り込んだ種は硬い土をその根で割っていく。ディンルーは怒りというよりかは狼狽したかのような様子で足をしきりに振るが種が落ちる事はない。
「このまま粘っていくしかないか…?皆、体力気をつけてくれ」 - 96二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 12:05:06
ディンルーが動く度に足元がぐらつき、何処かの地面がひび割れる。狙い澄ました一撃というより、巨体で暴れて何もかもを壊していくような乱暴さを男は感じる。短時間で更に林道は地割れだらけになり、パラパラと湖に小石が転がり落ちていた。
宿木はといえば、たしかに機能はしており時々土石の身体を弾き飛ばして生長している。しかし災いの体力は男達のものとは比べ物にならず、結果持久戦は現実的ではないと男は考えを改めた。
接近してこない為大人しく退きたいところだが、なんとか一回は怯ませなければ逃亡の隙は作れないといった距離感である。
「フラージェス、ドレディア達の一撃を強めて怯ませたい。隙ができたら大滝方面に皆で退がるぞ!」
フラージェスの周りで新芽が伸び、地割れの穴を急生長した草木の根が覆っていく。フラージェスから放たれた力はただの草木だけでなく、草ポケモンの力をも一層強める。ドレディアとキマワリもフラージェスの元に集まり、攻撃に使う尖った葉を自らに舞わせはじめたその瞬間である。
「ソゲーーー!!」
今まで一度としてこちらに来なかったディンルーが真っ直ぐ突進してきた。巨体ゆえに3歩程度で男達の目の前へと辿り着くと、大地へとその大きな頭を振り下ろした。
器の災いを中心に走る地割れが、急生長していた根にぶつかり軌道を変える。結果フラージェスの領域を囲うように走った亀裂が、その土地ごと林道の大地から切り離した。
一同の身体が宙に浮く。崩された大地が男達に先んじて真下の湖へと吸い込まれ、男達の姿も濁った水面に沈んだ。その後静かになった湖面に、浮かび上がってくるものは何ひとつなかった。 - 97二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 17:31:45
数日の土砂災害により濁った湖が夕陽を反射する。
未だ北側の崖から得体の知れぬ地鳴りが響く中、その遥か南の対岸に3匹と1人は健在であった。誰もが死を覚悟したあの状況で現れた救いの手こそ。
「シスー?」
えび寿司である。
「死すかと思ったようん…本当にありがとう2匹とも」
そしてその子分たる大鯰、ヘイラッシャが男の感謝に応じた。
湖に墜落した男達は1人残らずヘイラッシャの口にしまわれて湖の南へと運ばれたのである。男と面識のあったヘイラッシャが下手ながらに獲物を取る要領でなんとか助けようとするので、親分たるシャリタツが一肌脱いでくれたらしい。男と初めて会った時は人喰い水怪だと人々に恐れられていたヘイラッシャだが、人を口に含んだのはこれが初めてである。
助かりはしたもののずぶ濡れなので、とりあえずいろいろと干しながら男は次を考える。まずは離脱した2匹との合流だろうか。男が思い至ると同時に、ここらで聞くことのない遠吠えが聞こえてきた。男はそれを聞くや、その遠吠えを真似て返す。
「これでよし……ムクホークには…」
男は手際よく焚き火の支度をする。程なく宝達の小袋を提げたウインディが到着し何のアイコンタクトもなく火をつける。ウインディは火を確認した後、やはり心配だったのか男に擦り寄りのしかかって顔を舐めた。冷えた身体に心身暖まる仕草をされて、男の頬も安堵に緩んだ。 - 98二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 17:34:25
パチパチと燃える焚き火が煙を上げてしばらくすると、ムクホークが慎重に連れてきたポケモンを着地させた。
目を閉じたままの静かな表情でお辞儀をするのはオリーヴァだ。思わず男もお辞儀を返し、応じてくれた事への感謝を述べる。オリーヴァは頷くと、その背後から段々と近づいてきた蹄の音へと手を向けた。
現れたのはバンバドロである。男とは初めて会うのでどうやらオリーヴァが連れてきたらしい。
「君も協力してくれるのか?」男の問いかけに、ぶるんと鼻を鳴らして頷く姿が頼もしい。
フラージェスと合わせて、男のいる時代でも農地で人を助けてくれる面々である。あれだけ土地を荒れさせる災いなら、土地を知り土壌から変える彼らで戦局を変えられるだろうか。男の頭はそんな感想を思いながらふと農地という単語が引っかかった。
「災いの身体は耕せるのかな…」
何を口走ったかと男も思った。しかし自嘲する前に一応真剣に考えれば、あの身体はポケモンそのものではなくまだ土砂そのものに近い。耕せるか、と言われれば可能性はゼロではないのだ。
流石に却下、と思考しかけた男の周りでポケモン達が賑わい出す。バンバドロは軽快なステップでくるくると土地を踏みならしており、オリーヴァを始めとする草ポケモン達がそこへ種を飛ばしている。早速繁茂し出したのはフラージェスの仕業だろうか。果てにはヘイラッシャが水をやり始めた。
乗り気なポケモン達の姿に男の思考も毒される。ただし湖に落ちた時の恐怖を思い返して、撤退については三度目の正直にしなくてはと決意を改めた。 - 99二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 22:54:51
見てるよー!
- 100二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:33:20
翌日の早朝から、男達は再度林道に向かった。先行して奇襲をかけたムクホークにディンルーが注意を向けている間に、大滝側から残りの全員が林道に駆け込んだ。
相変わらず地割れだらけの土地である。フラージェスに加えてオリーヴァが一気に周りの緑地化を進める。ドレディアやキマワリは再度新たな宿木をディンルーへ植えつけた。突進や地割れに転じる隙を削る為に、ウインディやムクホークも突貫する総力戦である。
四方から様々に攻撃されるディンルーは大きく巨躯を振りかぶって暴れポケモン達を襲う。引き起こされる岩雪崩は陽動の2匹を狙っているが、神速の足と電光石火の翼は大振りな攻撃を寄せ付けない。宿木を直撃させたドレディアとキマワリも攻撃に回り、4匹がかりで器の災いの体力を削っていった。
正午近くまで粘り、攻撃に紛れて広範囲をひたすら緑化していたオリーヴァ達のおかげで景色が変わってきた。剥き出しの地肌は草に覆われ、割れていた地面からは太い木の根が何本も飛び出して絡まり合い、木の根から更に新たな若木が伸びて大地に根を突き刺している。
ディンルーはそうした根ごと踏みつけて地を揺さぶる。しかし以前フラージェスのみで展開していた範囲とは比べ物にならない広さで、既に地中には網目のように木の根が入り組んでいた。硬く太くなった根の絡みつきは地を走る割れ目を短く浅く押し留める。異常に繁茂した林道の大地に振るわれる災いの力は、攻撃を続ける仲間の支援もあって段々と落ちていった。 - 101二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:38:06
青々と芽吹いていく大地を、男は上から見ていた。
男が立っているのは林道の森を分断する形でそびえる岩山の上だ。男は悪路に強いバンバドロとこれを登って攻撃の機会を伺っていたのである。
予定通りの一撃を狙えそうなので、崖際に陣取ると空を舞うムクホークに目で合図した。ムクホークはそれを受け取ると、ディンルーの注意が他へ逸れた隙に甲高い雄叫びを響かせた。
突如湖から大きな飛沫が上がりヘイラッシャが水面を跳ねる。その飛沫さえ崖上であるポケモン達に雨のように降り注ぐが、再度現れた大きな口からこれでもかと大量の水が林道に投げ込まれてきた。
突然の即席人工雨は生長する周りの草木に勢いをもたらす。林道の大地は既に草木にとって手狭になってきていた。故に土砂が元であり湿って柔らかさの増したディンルーの足へと、押し出されるように一気に草木が這い上がった。
咆哮と共に根に囚われた足を振り解こうとするディンルーの巨躯に、上から鈍い音を立てて崖から飛び乗ってきたのは男とバンバドロである。大きな身体になったこの災いは、900kgを超えるバンバドロの着地を可能にした。バンバドロは自慢の脚力で背中の湿った硬い土を割りほぐしていき、隙間を登る若草の根の伸長を加速させた。
ディンルーの身体全体がいよいよ新緑に染め上がる。
「オリーヴァ、決めてくれ!」
オリーヴァはまるで歌でも歌うかのように柔らかく腕を広げると、仄かな輝きを帯びた波動を足元から波紋状に放った。波動は青葉を揺らして地を走り、ディンルーの巨体の隅々へと染み込んでいく。
その光が消えた瞬間に巨躯はばきっと音を立てて全身がひび割れ、入り込んだ植物を残して岩と砂がこぼれ落ちていった。
土砂が落ちきった後に男は残った草木の塊、若葉色をした巨躯の写しを登る。写しの頭部に出来上がった大きな花冠を男が覗き込むと、鈍色混じりの器が静かに花びらを受け止めていた。 - 102二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 10:21:58
保守
- 103二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 15:24:27
パルデアの大地から災いの気配が消え去って一週間が経過した。男の目の前には身の丈以上の大きさの、男の持っていた鈴と同じ模様が仄かに発光する円筒型の匣が並んでいる。
男の活躍と並行して1ヶ月近くをかけ都が仕上げた4つの思念除け匣には、既に鈴付きのままの宝が納められた。悪戯に開けようにも人の手に余る大きなこの匣は、そのまま人の寄りつかない場所で祠として安置される手筈である。
パルデアの東西南北に分かれる安置場所までこの宝達を送り届けるべく、男はそこに居た。実際に運搬を担当するのは王国兵の一団とそれに属するバンバドロだが、万一の事態の為に男が同行する形だ。
同時に土地にばら撒かれてしまった災いの源を浄化する為に、宝一つにつき12の杭をかの魔女と都は用意した。男の耳には入らぬ話であったので詳細は不明だが、匣の鍵であると同時に災いの源になった感情を吸い上げ土地を浄化する代物らしい。男に分かるのは、魔女に言われるままその杭につけられた鉄鈴ひとつひとつに匣と同じ塗料で紋を描きつけるのは大変だった、という事実だけである。
匣を納めた後に8つを周りの土地に打ち、残りの4つは万一の場合に祠に打つと魔女は伝えている。男は4つを使わずに済む事を祈りながらも、そうであるなら彼女は渡してこないだろうという予測とで複雑な気分だった。
特に異変もなく、最初の目的地に辿り着く。まだ災いの爪痕が立ち枯れの樹木という形で残るこの地こそ、木簡の安置される場所である。
王国兵達は先行した一団が崖に掘った穴へと匣を入れ込んでいく。蓋以外すっぽりと埋めた所で、兵達は男に確認を頼んだ。 - 104二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 15:31:00
男は蓋もとい扉の前に立ち、ここに来る前に受けた封印についての説明を思い返す。
匣は外部からの干渉を封じる。
人の悪しき感情をこれ以上欲さないのであれば、宝達が自ら出ようとする事はない。
ならばこうして男が目の前に立った途端に、扉がガタガタと音を立て始めたのならば。
「大人しくなるつもりはない、って意味か」
青ざめた顔で退がる兵達とは反対に、ついてきていたタギングルとモルフォンが前に出た。
祠から勝手に扉が外れて傍へと転がる。芽吹きかけていた辺りの新芽が再度枯れ落ち、その上にあの日と同じ姿の生き物が着地した。カキシルス、そう静かに声を発して男を見つめる。
「王が呼んだ名前そのままなんだけど、チオンジェンって呼ばせてもらうよ」
男は覚悟を決めたようにいつになく険しい顔で、あの日より小さいが威厳のあるチオンジェンに誠意を持って話しかける。
「僕はポケモンと人が共に暮らす未来を信じる。だから君が何もかもを滅ぼすあの災いになる事を望むのならここで何度でも戦いを挑ませてもらう。でも、もし」
男はそこまでで言葉を切ると、少し顔の緊張を緩めて続けた。
「もし、僕たちの戦い方に興味が出てくれたのなら。人と一緒に在る事を知りたいと思ってくれるなら。本当に時間は掛かるけれど君の力そのものを今より抑えてそれを可能にできる手段があるから、自分で祠に戻って欲しい」
身勝手な話ではあるだろうが、大地まるごと滅ぼすのも大概なのでおあいこだ。男はそう付け加えてタギングルを進ませる。チオンジェンはというと男の言葉を吟味しているのか目線を落としてじっとしていたが、程なくして男達の方を向いて前へ歩み出た。
「勝負だ、チオンジェン!」 - 105二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 16:03:08
男の指示を受けてタギングルがどくづきで攻める。チオンジェンは躱す事を諦め、攻撃を受けながら悪寒のする波動を辺りに放った。枯れ草はひとりでに崩れて砕け、枯れた樹木はタギングルへと倒れ込み、弾け飛んだ枝がそこから男の足を打った。
「災厄そのものも扱いこなせるのか」
打たれた足をさすりつつ、男はチオンジェンを分析する。
ポケモンの技とは自身と相性が良いからこそ覚えるものである。災いを起こす事を技として扱う様子は以前の戦いになかったので、今のチオンジェンとはより災禍に親和性のある自己を獲得しているのだと男は予想する。そこまで考えても男の心はこれが害あるポケモンであるという恐怖心より、いちポケモンの生まれへの感慨じみたものが勝っているのだが。
祠から出た時点で自明ながら、尚の事負けられないと男は奮起する。タギングルが大きく体力を削られこそすれ戦闘継続の意志を見せたので、男は大技のダストシュートを指示した。 - 106二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 16:07:24
男から見たチオンジェンの視線は初めこそ敵意に満ち満ちていた。何度戦ってでも踏み倒していくと言わんばかりの圧を感じながら実際ニ戦、三戦と男達は迎え撃つ。
タギングル達の体力も無尽蔵ではないが、戦い方を変えてみたり交代したりと男は丁寧に体力配分を気遣って勝負を続ける。目の前にいるのは災いの力こそ持つが正真正銘ポケモンであるが故に、男は徹底してポケモン勝負の枠を超えた攻撃は加えなかった。
五戦目を超えたあたりから、チオンジェンの眼差しから激しい敵意が抜け、男達を観察する眼に変わる。八戦目を終えると遂にチオンジェンは蔓を全て仕舞い込み、静かに長考し始めた。
「確かにチオンジェンは災いとして生まれたんだろうけど。災いを起こす以外やってはいけないとかではないし、僕は寧ろそれ以外が結構面白いと思う。ただ今の状態だと、そういう寄り道の幅がないんだ」
男とチオンジェンが真っ直ぐ目を合わせたまま、少しの時間が流れる。
災厄をもたらす事自体を、もうこのポケモンから切り離す事は出来ないと男は悟っている。ただ、本能的に人を呪ったり恨んだりするポケモンと何度も男は同じ食卓についた経験がある。災いとして退治討伐するという流れには、男はどうしても踏み込めなかったのだ。
遂にチオンジェンは男に背を向けてするりと祠の中に鎮座した。
男の表情は明るく、しかし少し寂しさを滲ませたものに変わったのをチオンジェンは見る。
「ありがとう。……どうか気長に待っていて。次に開く時には、その人が君にいろんな世界を見せてくれると思うから」
男はそう別れを告げて、祠の扉を丁寧に閉じた。 - 107二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 22:21:13
わかってくれたか…
- 108二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 23:15:12
閉じられた扉の中心に4本の鎖をかける。その鎖それぞれのもう一端を止めるのが、先述の4本の杭である。
土地の浄化と同じ原理で、祠の中から吸い上げる為の杭。男がチオンジェンに提案した弱体化手段の正体がこれだ。なるだけ早く要らなくなりますように、と内心叶わない祈りをしながら男は杭で鎖を留めていく。
鎖を取り付ける間も王国兵達は扉がまた開くのではと気が気でなかったが、一度として扉は音を立てなかった。
鎖を取り付け終わった後、まだ恐怖心の拭いきれていない兵達と共に男は8つの浄化杭打ちを手伝った。都の占術師も合わせて祠や杭の位置は最適化されたのだが、結果所々とんでもない位置を要求される。チオンジェンとの勝負で半日近く使っていてその日だけでは時間が足りず、男も兵も四苦八苦しながらもう1日かけて各所を回った。
今回同行している王国兵達の中には、ポケモン使いたる男と接点の少ない者も半数近くいる。必然、万一とやらが起きた事態に不満を持つ声もその中から出ていた。そうした不平不満或いはポケモンそのものに対しての暴力的な発言は口に出すべきでないと兵団の中で注意されてはいるが、男の耳には入っていた。
翌朝の移動に備えて寝静まった深夜。寝つきを少し悪く思った男は野に出ると、月の下で物思いに耽った。日中耳に挟んだような言葉を聞くのは初めてではない。かといって男の心は鉄で出来ているわけではなかった。
男以外に複数を扱うポケモン使いはいない。故に男が夢見る人とポケモンの関係、即ち現代でいうポケモントレーナーの概念を、真に理解出来る者はこの時代に誰一人としていなかった。
「それでもいい。遠い先には、必ず」
口に出して、吐きそうになった弱音を押し戻す。自分だけではない、今は祠にもその理想を果たすべき相手が出来たのだ。男は様子を見にきてくれたモルフォンと共に、改めて仮眠を取りに戻るのだった。 - 109二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 23:17:30
2日程かけて一行が次に到着したのは西の祠予定地である。道中運んでいる宝達に一切の異常は見受けられなかった。
「今度こそすんなり終わってくれ」と兵達は言うが男は「難しいです」と正直に予感を述べる。
男のこの発言通り、いざ祠の鍵たる杭を準備し始めると扉が鳴り出した。
「お待たせしますが前と同じ事をします。どうか巻き込まれない場所から離れないで」
離れた兵達が怖々見守る中、扉が開く。開いた扉に霜をつけながらキル、と一声軽やかに降り立ったパオジアンと男は静かに対面する。男はチオンジェンの時と同じ確認と提案をし、現地で合流したルカリオを前へと進ませた。
パオジアンは落ち着きのない動きで男の話を聞いていた。男がいざ話終わるや否や、チオンジェンと違い即断即決といった様子で一歩前に進み出て勝負に応じた。
試合の展開はかなり素早いものだった。
初手でパオジアンが放つ災いの技が、ルカリオの体力を大幅に奪い取る。以前よりも上がったパオジアンの素早さがルカリオの攻撃を悉く回避する為、男ははどうだんを指示してパオジアンの体力を一撃で持ち去ったのだ。
ただし、あくまでこれは一戦内のやりとりである。一の負けでは収まらぬとパオジアンは何度も何度もルカリオと打ち合い、日が暮れるまで勝負を繰り返した。
夕日が沈んだ時に決着した一戦の後、大あくびを見せたパオジアンはまるで寝床にするとでも言うように祠の中で丸くなった。
「おやすみ、パオジアン。雪崩はさすがに駄目だけど、次に会う人がもっと楽しい遊びを教えてくれると思うよ」
終盤純粋に戦いを楽しんでくれたパオジアンにそう告げて、男は祠の扉を閉じた。 - 110二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 23:31:33
残り二つとなった祠はどちらも奥地である。移動に時間と労力をかけながら3日、湖を回り込んでやってきた林道の一角に収められるのは器である。
以前の戦いでのポケモン達による一時的な生長促進を失い、森は元の秩序に沿った姿に戻りつつある。だが男の前には再度、この地を割り砕いたディンルーがいた。
「前よりずっと落ち着いて堂々とした姿なんだね、ディンルー。君も出てきたのなら僕と根比べするのかな?」
ソソゲ、の一言と重そうな頭でゆっくりと頷きを返す姿は間違いなく肯定だ。眼差しこそ敵意は薄いが、譲る気もないという真っ直ぐさを男は感じながらオリーヴァと勝負に応じた。
じしんにいわなだれと広範囲を脅かす技、そして狙って災いを呼び寄せる災厄特有の技でディンルーが攻撃する。再度森の一部の植物達が、ディンルーの周りから削り去られていく。
対して傷をつけられる度にこぼれダネが新たに芽吹き、その恩恵を受けた草技を放つオリーヴァである。エナジーボールやはなびらのまいを披露した後、以前と同じくだいちのはどうでディンルーに膝をつかせた。
その一戦だけを終えて、ディンルーは静かに再度頷き男に背を向けた。あまりにも速い決着に男は心配すら覚える。
「本当に、いいの?」
ソソゲ、との一言だけを返しディンルーは祠へと戻っていく。呆気に取られた男であるが、ディンルーの威風堂々たる姿に二言は無いようである。男は自身が取り付けた約束を改めて思い返しながら誓いを込めた言葉を伝える。
「後悔はさせない。この封印を解く日には必ず、君が認めるような人間を会いに行かせるよ」
男が扉を閉める瞬間に感じた視線はどこか厳しく、しかし優しいような気がした。 - 111二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 23:34:44
最後の祠の予定地には想定の倍ほど到着に時間がかかった。滝上の洞穴の中など、誰が予想しただろうか。
先行隊は人が乗れる足場を竹で組んでいる途中であったので、男は急遽鳥ポケモンを複数呼び寄せて祠を上まで移動させた。
当然収める為の穴も手付かず状態だ。先程応じてきてくれたムクホークやアーマーガアにより作業員自体を到着させる事は出来るがこのままでは日数がかかりそうである。
「うーん……あ、もしかしてマリルリ」
男の周りを飛び跳ねて主張していた丸いうさぎに男の目線が落ちる。
大きいポケモンや毒々しいポケモンにはまだ抵抗のある兵達も、流石にこの可愛らしい生き物には警戒心が薄れる。男に言われるまま少し離れた兵達の足元を、人懐っこくお腹をぽんぽこ叩きながら軽快にスキップしていく。すっかり観衆を釘付けにしたところで徐に岩壁へとそのまま向かう。
「よし、思いっきりばかぢから!」
可憐なうさ耳が振りかぶって壁に一撃を加える。
刹那めこっ、という鈍い音が響く。岩壁には、マリルリ自身の身体よりも大きな穴が出来上がった。
満面の笑みで跳ね回るこの小さな生き物から放たれた怪力。後ろで見ていた兵達の表情は案の定時が止まったように固まっていた。
「可愛い子なのに物凄い力ですね……」呆然としたままマリルリを目で追う一人の兵が呟く。男は優しい笑みでマリルリを撫でながら言葉を返した。
「いつも助けてもらう子なんです、面倒見も良くて。可愛くて力強いみんなのお兄さんです」 - 112二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 23:36:35
マリルリが開けた穴は深さも直径も多少足りなかったので、改めて1日かけて人の手で整えた後に匣を納めた。
四度目ともなれば扉が動き出して驚く者はほぼ居ない。場所が場所なので男は兵達に滝の下まで降りてもらう方が良いと考えていたが、結局何人かが自己責任で見届けに残っている。男の想像は及んでいなかったが、この祠行脚で考えが多少変化した兵もゼロではなかった。
「久しぶり、になるかなイーユイ。僕がこれから確認したい事、もう分かっていたり?」
ミヨヨ、と空中を泳ぎイーユイの勾玉が煌めく。小さな身体だがはっきりと今までの災厄ポケモン達と同じ雰囲気を感じられる存在である。
マリルリが男の顔を見て頷き前に出る。答えるようにイーユイも一際発する熱を強めて進み出た。
「負けないからね」
最後の勝負である。 - 113二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 23:59:49
勝負が始まった途端、イーユイは瞬間的な熱波で以って男とマリルリの体力を削いだ。
物理的には熱いのに悪寒が這い寄るこの熱波は、紛れもなく先の3体と同じ技である。自身に深く災いを結びつけた事を示すあくタイプ技。4体全てが必ず最初の一手として浴びせてきたのは、己が誕生に関わった男への義理であろうか。
マリルリにアクアテールやバブルこうせんを指示して男は力勝負を申し込む。イーユイがあくのはどう、ふんえんでそれに応じる。マリルリは相性の面でイーユイにかなり有利な筈だが、イーユイの文字通りの火力がその大きさに似合わず凄まじい。
男はマリルリを気遣いウインディに交代し、勝負を続けた。目配せだけで男の意図を読み取る辺りは流石古参の相棒である。交代した後の男の口数は減ったが勝負の展開速度が変わらないのは以心伝心の仲故であろう。
ウインディに交代して三回ほどイーユイを追い詰めた後、男はイーユイの様子を見る。イーユイは男とウインディを交互に見て、何か不思議なのか時折体を傾げて浮遊している。
「さっきから勝負以外が気になってそうだけどなんだろう…」
男がウインディと顔を見合わせると、それだと言わんばかりにイーユイが声を上げる。身体から発する熱を収めてそのままゆっくり男とウインディの元へ泳いでやってくると、両者の目を興味深そうに交互に覗き込む。
まだ呪いの宝と呼ばれた力の残るイーユイの熱い視線に男は比喩ならざる目眩を覚えた。それでも何かが気になるならと焦点も合わせられぬまま見つめ返す。
男の思考が片付くより前に、イーユイの心は決まったらしい。ひらりと優雅に向きを変えると、祠の中へと泳ぎ去った。
「……君が一番僕達の関係に興味を持ってくれたのかもね。必ず、君のありのままを見てくれる人に会わせるから待っていて」
祠の扉を閉めながら、男は災厄達の中で最も長く共にあった存在に別れを告げた。
全ての祠の扉が閉じられた。 - 114二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 10:28:43
祠の扉を閉じ、杭も全て打ち終わった日から4日後。男は未だ王城だったものでしかない場所で王に召し出されていた。
「大義であった。相応の褒美を取らすべきなのだが、不甲斐ない事にこの有様でな」
事の報告自体は王国兵が既に終えている。ただ呼びつけでもしないと男に称賛の一言もかけられないと王は知っていたので、都に一団が着くより前に召致自体はしていた。
「真偽の定かならぬ宝を探しに行かせた時もそうだが、相変わらず褒美は断る気のようだな其方。前も問うたが我の専属になる気もやはりないのか?」
「申し訳なくございますが、やはり辞退致します。僕は…出来るだけ多くの人と、ポケモン使いとして関わりたいのです。僕がしている事は、別に特別なものではないと伝えたいのです」
男は決してこうした場には慣れていなかった。選んだ言葉も最適な言葉遣いではない。ただ本心である事は男の目が物語っている。その眼差しを見た王は一言、まぁそう答えるかと呟きながら少し口角は上がっていた。
「であれば、褒美とは違う話になるが。其方、教鞭を執る気はないか?」
男の頭上に疑問符が目に見えるようである。え、という一言で固まったままの男の耳に話が続く。
「一般教養ではなく、其方お得意のポケモンについての知識だ。
兵団の中にも輓馬が何頭かいるのは知っての通りだが、こないだ新人の王国兵に世話をさせたら身体を洗う時に逃げ出されていてな。後で戻ってこそきたが、引き継いだ兵も気を損ねさせた原因を分かっておらぬというのでこのままでは事故になりかねん」
男は話を聞きながら、新人兵が何を間違えたかなんとなく察した。バンバドロの脚を綺麗にしようとしたのだろう、確かに泥ではあるしなと男は目を伏せた。
「ふむ、やはりこの話だけで対処に心当たりがあるとみた。やはり其方、まずは我が兵団の世話担当共をなんとかしてやってくれぬか」
男は今にもバンバドロの地雷を踏みそうな兵団を放っておけるわけもなく、とにかく善は急げと仮講師のような形で王の要望を呑んだ。 - 115二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 10:31:30
ただ、ここで王の要望を呑んだ事は男の今後を決定づけてしまった。
男が兵達に洗い方のみならずすっかりバンバドロの扱いを教え込んだ頃には、長期間放置されたままだったはずの城の瓦礫は消え去り庭付きの学舎が出来つつあったのである。当然、一気に推し進めた理由など王にしかない。
失脚を逃れる気はなかったのかこれまで王は居城の再建を放置していた。ただ失脚の前に招いた事態から国は守らせてもらうと、混乱に乗じた生臭い大臣らの言は無視して優先して街の再建や匣作りを推し進めてきたのである。
そして今、この国に有益極まりない事に男は城だった一角で兵達を教え始めた。男の懸命なレクチャーにより、ひっそりポケモンそのものへの興味を示した兵が現れてきている。その事を王は骨董品以外に発揮される慧眼で見通したので、これ幸いと自身の今の地位があるうちに男の確保に邁進したのであった。
城の庭園だった面影が残る学舎の庭は、件のバンバドロもくつろぎの場にしている。低木の合間から、小さな鳥ポケモンが出たり入ったりを繰り返して遊ぶ姿も見られる。そしてそれらにまるで怖気づかない人の子供も、前は入れなかった遊び場だと無邪気に駆け回っている。
「王様、ここまでは聞いていないのですが」
「其方は評判なのでな。特に子供達に」
答えになっていない。ただ男が人とポケモンの距離を縮めたいと考えた時、こうして学舎と好奇心旺盛な子供達がいるというのは好条件極まりなかった。あの祠に誓った「いつか」を見据えるなら、後進の育成は必須だ。
「ここまでは聞いていなかったのですが。ですが一番、夢に近づけそうです。願ってもない褒美です」 - 116二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 10:35:05
男はウインディと共に先達となる決心を固め、老若男女を問わず訪れた者を生涯迎え入れ続けた。男に教師の経験などありはしない。ただ何を説明するにせよ必ず実物を連れて来て、にこやかに楽しそうに接する男の姿は生徒の興味を唆るに充分であった。
無論男は危険性を隠さなかった。そうした話をすれば、庭でさえずるポケモンに向ける生徒の眼差しが不安を帯びる事も多々ある。いかに危険がある上でそれでも共に歩めると実感してもらうかは、男を悩ませ続けた。
ポケモンについて教え説く一方で、男は時に颯爽とウインディで街を出て各所の杭や祠を見回った。まだ黒さの欠片もない杭を見ては祈りと誓いを新たにしながら、祠に悪戯する者があればウインディと共に人でもポケモンでも叱咤した。
何年も経って最古の相棒に先立たれて以降も、ポケモンの足を頼りに祠を訪れる事はやめなかった。
災厄を鎮め教壇に立ち続けた男の葬儀には、ポケモンを連れて参列する人の影もあった。棺にはかの祠につけられた物と同じ鈴と、男が生涯お守りだと持ち歩いていた紅白半々の球が入れられた。見慣れぬお守りの正体を知る者は、遂に現れることがなかった。 - 117二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 11:00:58
時の移ろいが人々に杭と祠の色を忘却させる。聖なる杭と呼ばれたその杭の色は、今は名に似合わぬ黒色に染まっていた。時を経ても変わらなかったのは紋が放つ仄かな光だけとなっている。
男が鈴に紋を施した事で、杭は男以外の理解なき者の目を掻い潜った。その歳月を使って杭は静かに土地の力を清め、あまりにも大きかった祠の荒御魂を鎮めた。
しかし遂にこの日、杭は役目を終える。かの男よりも若くして杭の正面に現れた少女は、迷いなく杭を握り勢いよく抜き放ったのだ。
「これで最後!」
少女の声が弾む。抜き放った直後に祠から届いた声に、さらに少女の心が昂った。
悠久の時を暗く静かに過ごした災厄達もまた、当然この時を待っていた。男の話した約定に見合うならばそれも良い。そうでないなら地平の悉くを災禍に沈めよう、と。
少女が祠の前に立つ。災厄と呼ばれたものがある、そう知りながら彼女は扉へ手をかけた。
大きく震え開いた扉に仰天する少女。しかし直後目が合った存在に目を輝かせると、少女は意気揚々とモンスターボールを突き出した。
「初めまして!私と、勝負しよう!」
おわり - 118二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 12:35:41
おお・・・厄災たちはやっぱり一筋縄ではいかないか
お疲れ様ですたー! - 119二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 12:47:03
カキシルシタ…終わった……。
面白い捻りがあるでもなく余分も多い妄想説明文だけど、妄想を書き起こしてもいいとは何と楽しい事なのか。初心者もいいとこなのですがもっと小さく纏まるテーマでまた文字起こしにチャレンジしてみたくなりました。
最後まで読んでくれた方本当にありがとうございました! - 120二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 15:28:57
面白かったです
素晴らしい作品をありがとう - 121二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 15:31:29
完結乙
- 122二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 22:36:06
よかった…最高だった…
- 123二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 10:06:31
面白くて一気読みしてしまいました。戦闘シーンだけでなくポケモン達と男の関係性が丁寧に描写されていてとても良かったです。面白かったので是非また投稿してください。