- 1◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:04:35
- 2◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:05:31
「ホグバック様、夜食をお持ちしました」
「フォ〜スフォスフォス!!ありがとよシンドリーちゃんッ!!今日のメニューは何かな〜♪」
「クラムチャウダーです」ベチャ
「シンドリーちゃんまた直置きかよ‼︎?もうテーブルクロスの替えが少なくってきてんだぜこっちも!!」
「皿なんてこの世から全部消え去ればいい」 - 3◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:10:52
私の名前はシンドリー
まず私は"生者"ではない。
このスリラーバークの支配者、ゲッコー・モリア様の能力で動かされている兵士ゾンビの一体。
そして私は、中に入れられている"影"の持ち主の性格故か
皿が嫌いで嫌いで仕方がない。
「まぁいいぜ!今更机を舐めるのに抵抗なんかねェさ」
目の前にいる白衣に身を包んだ男の名はドクトル・ホグバック。
私の主であり"自称"天才外科医だが、あまり興味はない。
今日もいつもの様に食事を皿に乗せずこの男の前に差し出す。
「ウメ!ウン!美味ェよシンドリーちゃん!!これでまともな状態で出して貰えりゃ満点なんだけどな!」
「…」
テーブルに伏せて食事を舐めとる男を私は見下ろす。
私たちゾンビに忠誠以外の意思は殆どない。
影を入れられた時間が長い程にそれは顕著に現れ、元の持ち主の性格や癖も鳴りを顰める。
主人の命令には絶対服従存在がゾンビなのだ。
だがこの男は私の好き勝手を矯正する事もせず、
今も犬紛いの行動を平気な顔でやってのけている。 - 4◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:12:35
日常茶飯事、もはや見慣れた光景。
ただただ、この男が何か言えば適当に返事をし
何か命令を下せば事務的にこなす。
ゾンビに反抗的な言動は必要ではない。
その筈なのだ。
私の中にふと一つの疑問が湧いてきた。
もしかすると、私のこの身体と何か関係しているのだろうか。
- 5◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:14:09
「んごぉぉ〜、シンドリーちゃん〜……」
「……」
連日ずっと没人形の改造に没頭していた疲れからか
ホグバック様は研究室の椅子で爆睡していた。
私は鼻ちょうちんを膨らませて、深い眠りに落ちている彼をそのままにし
"行動"に移った。
廊下を少し歩くと、ホグバック様の自室が見えてきた。
私は周りを見渡して監視のゾンビが居ない事を確認し、
部屋の扉をそっと開ける。
…今までこんな事は一度もした事も、しようと思った事すらないのに
不思議と身体の内側から好奇心が湧いてしょうがなかった。
「………これは」
彼の私物やら研究資料を見て、何か分かれば御の字。
そう思っていた私の予想は大きく裏切られた。 - 6◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:21:43
- 7◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:31:42
ホグバック様が収集していた幾重もの記事の切り抜きを観て
この女の素性もわかってきた。
どうやら彼女は……生前のこの肉体は舞台女優だったらしい。
貴族の生まれだった彼女は子供の頃から国中の人気者で
大人になってからもそれは変わらなかったらしい。
他者に優しく、気取らない性格。
そんな女も死んでゾンビとなればこの有様なのだから
彼女と私は別の存在だと理解させられる。
舞台公演の記事は膨大な量で、一つ一つ手に取って入念に見ていく。
記事を読み進めて十数分、遂に彼女の人生の"終わり"の部分にたどり着いた。
『ビクトリア・シンドリー、舞台から転落死』
心優しい彼女の死は何とも呆気ないものだった。
彼女は国中からその死を嘆き悲しまれながら
大規模な葬儀を終えて埋葬されたらしい。
…先程から『らしい』ばかりだが
実際問題、この身体の生前の活動記録を目にした所で
私はまるで実感が湧かないのだ。 - 8◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:34:40
私は目の前の鏡に映る自分を見た。
写真の表情を真似ようとしてみた。
首を傾げ、笑顔を作ろうとするが口元が引き攣っていてぎこちない。
口角を指で持ち上げてみたが、より不自然な表情になった。
それに、顔に付いた大きな縫い傷のせいで
写真の中の彼女とは似ても似つかない。
埋葬された彼女の墓は暴かれ、持ち去られた死体は巡り巡ってここに居る。
実行犯はホグバック様だろうか?
そもそもホグバック様は彼女の生前に本当に縁があるのだろうか?
死体弄りが趣味のあの男なら
無関係の女の骸を盗掘したという線もあり得そうだ。
「……もうちょっとだけ、調べてみよう」 - 9◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:37:49
机の引き出しの一番下の段から沢山の書類が出てきた。
彼が医者だった頃に診た、患者達のカルテが丁寧に纏められている。
そして、その奥の方から一冊の日記が見つかった。
ホグバック様の日記だ。
子供の頃から医者に憧れていた事。
ミスを犯さない様に何度もオペの練習を反復していた事。
治した患者から投げかけられる感謝の言葉が心地良かった事。
稼いだ金で診療所が大きくなった事。
診療所が大きくなると、もっと大勢の患者を診れる様になった事。
そんな内容が数十ページに渡って続く。
私は適当に流し読みしながら、目当ての内容が無いかを探す。
ようやく"生前の彼女"について書き綴られている所まできた。 - 10二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 21:39:30
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- 11◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:40:31
──今日はシンドリーちゃんに白衣のボタンを直して貰えた。
ホグバック様はビクトリア・シンドリーを患者として受け持っていたらしい。
ただのストーカーではなく、真っ当な交友関係があったのには驚いた。
次のページへ捲ると
ビクトリア・シンドリーの優しさや明るい性格について
数ページに渡って長々と書き記されている。
「……」
ペラペラと捲っていくがまだ続く。
あの男がそれだけ彼女に夢中になっていたという事だろう。
ボーンボーン
「…もうこんな時間」
壁掛け時計の鐘が大きく鳴り、私は慌てて日記を元の引き出しに仕舞って
部屋を後にした。 - 12◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 21:54:57
少し落ちます
- 13◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 22:34:38
再開します
研究室に戻ってホグバック様を叩き起こす。
「フガッ!?……おぉシンドリーちゃんか!いやァすまねェすまねェ、うっかり居眠りこいてたらしい」
「あんたはそのまま永眠していればいい」
「相変わらず辛辣な対応だぜシンドリーちゃん!?まぁそこが気に入ってるんだけどよ!!」
……本当に気に入ってるのだろうか?
いつもならこの男のツッコミなど意味すら考えず聞き流す所だが、
生前の彼女との思い出を知った今ではそれも疑わしくてしょうがない。
私は自分の棺桶の蓋を閉め、瞼を閉じながら思った。
明日また、あの日記の続きを覗いてみよう。 - 14◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 22:36:38
〜翌朝〜
「朝食を作りました」
「おおっ!今日は何だ?」
「ミネストローネです」ベチャ
「ちょ、ちょっとッ!!シンドリーちゃん!!?いい加減皿を使ってくれよ!あと頑なに汁物に拘るのもそろそろやめてくれねェかな!!」
「あんたの頭もカチ割れて脳汁が零れればいい」
いつもやり取りの後、
ホグバック様がテーブルクロスを伝って床に滴る料理を必死に舐めとり始める。
……死体に入れる前の影に"記憶消去"の契約を結べば
ゾンビの言動なんて幾らでも操れる。
『まぁそこが気に入ってるんだけどよ!!』
……なのに、生前の彼女とかけ離れた言動をとる私を咎めないこの男の考えは全くもって理解できない。
研究室でホグバック様が没人形の製作に当たってる隙に
私はまたあの部屋に忍び込んだ。 - 15◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 22:42:24
昨日の続きのページから読み始める。
──シンドリーちゃんの舞台を観に行った。ステージの上の彼女の笑顔は眩しく、とても美しかった。
ホグバック様はあれ以来、ビクトリア・シンドリーに強く惹かれたらしく
舞台公演まで観に行ったらしい。
ふと、部屋の隅に目をやると
写真の中で彼女が握っていたステッキやら帽子やらが
大切に保管されていた。
私は彼女が舞台の上で彼女が使っていた帽子とステッキを持って踊ってみる。
不思議な事に、笑顔の練習と比べて
こちらはスムーズに出来た。
まるで肉体が生前の動きに馴染んでいるかの様に。
しかし、幾ら踊ってみせた所でそれを観る観客も居ないし
仮に観て貰えたとしても、私に喜びの感情など湧かないだろう。
適当な理由をつけて研究室から離れたが
いつまでも戻らないとあの男も不審に思うかもしれない。
私は日記を戻して部屋を出た。 - 16◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 22:43:57
「昼食をお持ちしました」
「ありがとよシンドリーちゃん!!…今日は何かな何かな〜〜♪」
「ブイヤベースです」
「ブイヤベース!!今は丁度魚が食いてェ気分だったんだ!!」
馬鹿みたいにはしゃぐホグバック様。
……いつもならテーブルに直置きにしてやる。
が、
「…………どうぞ」コト - 17◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 22:46:26
「おいおい!シンドリーちゃん!?テーブルにスープが浸透して…………え?」
「早く食べないと皿をカチ割る」
「!?……わ、わかったわかった!!く、食うよ!!……い、いやァ〜スプーンをまともな使えるのなんて久しぶりだぜェ…!」
……皿を使うのは腹立たしいが
今は皿への憎悪より、彼女の様に優しくしたらこの男がどういう反応を示すのか?
それへの興味が勝った。
「な、なんだか嬉しいぜ…!シンドリーちゃんがこんな成長を見せてくれるとは感激だ…!!」
涙ぐみながら食事を頬張り、本当に嬉しそうだ。
けど、それは皿をようやく使った"私"への感情……
"ビクトリア・シンドリー"の面影を重ねている訳ではなさそうだ。 - 18◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 22:53:13
「ぐごォォォォ…ぐごォォォォ……」
またこいつは懲りずに椅子で爆睡している。
とはいえこれはチャンス。
今日はあの日記を最後まで読みきってみよう。
私は日記のページの続きを開いた。
──シンドリーちゃんには婚約者が居るらしい。
──失恋したのは心底辛いが、おれも陰から応援しよう。
「婚約者……!」
……あの男の恋は見事玉砕した。
ビクトリア・シンドリーにまさか婚約者が居たとは。
私も日記の中のホグバック様と同じく、
想定外の展開に驚きを隠せなかった。
……生前のこの肉体の生涯を見返し、それに驚いたりするのも変な話だが。
しかし、あの男は失恋に関してはきっぱり諦められている様だ。 - 19◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 22:54:58
ページを捲ると、彼女に関しての記述は少なくなり
また、患者を治す日常の喜びが書かれている。
ビクトリア・シンドリーの事も諦められた。
外科医としての仕事にも不満は無かった。
なら何故、ドクトル・ホグバックは海賊などに成り下がったのか?
私は次のページを捲る。 - 20◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 22:57:34
──シンドリーちゃんは死んでない - 21◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:01:10
「……ッ!?」
捲った途端、ページ一面にデカデカと書き殴られた文字が目に飛び込み
私は思わず日記を手落とす。
あぁ、すっかり忘れてたいた
この部屋に初めて来た時に見た筈なのに
原因などとっくに知っていた筈なのに
『ビクトリア・シンドリー、舞台から転落死』
"コレ"があったのだ。
ゾンビは忠誠以外の感情はとても希薄だ。
だが、乱雑に書かれた文字越しに伝わってくるあの男の激情に
私は怯んでしまった。 - 22◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:02:37
緊張に手が震えるも、床に落とした日記を取り上げて私は再びページを開く。
──彼女の死亡記事が新聞の一面を飾ってた。
──信じたくないが、誤報ではなく事実らしい。葬儀の日程も決まったそうだ。
──身体に力が入らない。彼女が死んだ日だろうが、いつもと変わらず患者は居るんだ。……仕事に戻ろう。
やはりというべきか
ビクトリア・シンドリーの死には彼も酷く打ちのめされていた。
ページを捲る - 23◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:04:21
──仕事がおぼつかない。かつての患者達も顔を見せて俺を慰めてくれた。
これではどちらが医者でどちらが患者か分かったものじゃない。
──どんな難病だって、どんな大怪我だって治してみせた。
──"彼等"の尊い命を救ってきたんだ。これからもそれでいいじゃないか。
文面ではそう書かれているが、
彼の筆跡は震えていて頼りなく、涙が落ちて滲んだ形跡が各所に見受けられた。
ページを捲る - 24◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:06:53
──……何でシンドリーちゃんは死ななければならなかったんだ?
──難病も、怪我も、不治の病も治してきた。
──「父を助けて」「子供を助けて」
──金さえ貰えば"こいつら"は幾らでも救えるってのに、何故シンドリーちゃんだけが死んだ!?
──今日も元患者の応援があった。煩わしい。耳障りだ。
ここで辞めるべきだ。
そう分かっていても、私は日記に魅入られていた。
ページを捲る - 25◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:08:18
──"あの場"に居合わせた関係者に聴いて回った。
彼女は即死だったらしい。
──……………だったらどうした?
──おれがあの場に居さえしたら…もしかしたら……いや必ず!
死んだ彼女の『蘇生』すら出来た筈……!!
いいや絶対に出来た…!!そうに決まってるいる!!!
私の頬をいつの間にか滝の様な汗が流れる。震えが止まらない。
いつもつまらない問答で戯けてみせていたあの男が
今に至るまでの過去を追う行為が恐ろしかった。
なのに、私の手は止まらない。
………意を決して、ページを捲った。 - 26二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:09:05
ホラーゲームだったら後ろから殴られるような場面が続く…俺は怖い
- 27◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:10:32
──今日は良い1日だった
──"ある男"と出会えた素晴らしい1日だった
──夜になったら墓所へ行こう
──彼女は戻ってくる - 28◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:13:06
- 29◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:13:43
日記はそこで終わり、そこから先は白紙だった。
心臓など動いていない筈なのに動悸が止まらず
肩で息をしながら私は気持ちを落ち着かせる。
しばらくして日記を閉じた私は、動かした物を元あった通りに戻し部屋を後にした。
研究室に戻ると、彼はまだ眠っていた。
「ホグバッ……、………ッ!」
起こそうと掛けた声が、途中で途切れる。 - 30◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:15:03
よく見ると、彼の白衣のボタンがほつれていた。
………辞めるべきだ。 - 31◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:16:34
「……ホグバック様」
「…ン?……んん!?お、おうシンドリーちゃん!?おれァまた寝てたのか!!…いや、うっかり風邪引いちまう所だったぜ!!」
風邪を引いて倒れればいい。
いつもの様に、辛辣に、そう返答するべきだ。
しかし
「ホグバック様」
好奇心に抗えなかった。 - 32◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:17:38
「白衣のボタンが取れています。縫い直しましょうか」 - 33◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:19:00
「………………………ッッッ!!!」
私の発言を聞いた途端、サングラスの向こうの彼の目が大きく見開かれた。
そして
「シ、シンドリーちゃん……ッ!?」
信じられないものを見るような
幸せそうな
何処か遠い記憶を懐かしむ様な
そんな表情がコロコロと移り変わってゆく。
だが - 34二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:20:12
しんどい…
- 35二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:22:10
スレ開いてからずっとハラハラしてる
- 36二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:24:15
デッドライジングやバイオハザードの文章読んでる気分だぜ
- 37◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:33:38
- 38◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:34:47
最後は険しい表情で止まった。
「シンドリー、おめェ……おれの部屋に入ったのか?」
「…ッ!」
言い当てられるとは思わなかった。
「そうかそうか………図星か……ッ!」
いつもの鉄面皮が崩れ、思わず左右に目線が泳いでしまった私の反応から
ホグバック様の疑念は確信に変わった。
「い、いえ……それは…!」
私は何か言い訳を思い浮かべようと - 39◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:36:57
バキッ!!
突然、視界が激しくブレて、酷い耳鳴りがした。
頬が熱い
恐る恐る、ホグバック様の方へ向き直った。
その手は力強く振り抜かれている。
「(……殴られた)」 - 40◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:38:25
ゾンビに痛みなどない。
しかし、その時の私は殴られて腫れた頬がズキリと痛む様な
ありもしない感覚に襲われた。
「……なんだその眼は…?」
頬に手を当て、フルフルと震えながら目を向ける私の姿が
再び逆鱗に触れたらしく
彼は私の髪を乱暴に掴み、顔面から床に叩きつける。
「グッ…!?」
そして、追い討ちを掛ける様に
頭部を真上から力任せに足蹴にされる。 - 41◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:39:36
「──ッ!──────ッ!!? ──ッッ!!!」
彼が何やら怒鳴っているが、床にぶつかった際の衝撃で耳鳴りが止まらず
よく聴き取れない。
「────ッッ!! ──……んなに俺を──……しておちょくるのは楽しいかッ!!?」
耳鳴りが治ってきて、彼の台詞が途切れ途切れだが聴こえてきた。
最後の台詞だけは、はっきりと聞こえた。 - 42◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:40:51
「顔しか取り柄のねェポンコツ死体のてめェが、"あの"ビクトリア・シンドリーのマネ事なんざするんじゃねェって言ってんだよッ!!!」 - 43◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:42:44
「ハァ……!ハァ……ッ!」
息を荒げて、ようやく暴行の手を止めたホグバック様。
地面にうつ伏せになっていた私は
ヨロヨロと顔を見上げる。
「…ッ!」
血まみれの傷だらけとなった私の顔を見るなり
彼は激しく狼狽えていた。
そして、未だに内で渦巻く怒りからか
髪を掻きむしりながら彼は言った。
「ハァ…!おれはもう寝る…!おめェは散らかった部屋の掃除でもしておけ…!!」
「ハァ…!ハァ…!……………それから」
「もう二度と…おれの部屋には入るんじゃねェ…‼︎」
男は力任せに扉を閉めて出ていった。 - 44◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:44:30
次の日も、いつもと変わらない屋敷での日常が始まった。
「……ホグバック様、朝食を……朝食を…作りました」
「おおそうか!今日もシンドリーちゃんの手料理が楽しみだぜ!!」
「…………スープスパゲティです」コト
「おれの大好物じゃあねェか!!嬉しいぜシンドリーちゃん!!!」 - 45◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:45:52
ザパアッ
「………ッッ!!?」
丁寧に皿に盛られた料理が、男の手ずからテーブルの上にぶち撒けられる。
「いやァ〜、みるみるスープの無くなるスパゲティの味もまた格別だな!!ウン!ウン!」
かつての様に机に這いつくばりながらペチャペチャと舌を動かす。 - 46二次元好きの匿名さん23/04/10(月) 23:47:04
やっぱパニックホラーだよこれ
- 47◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:47:39
「…………ッ!……あの…ッ!」
そんな男の奇行を咎めようとするが、
「ンンン!!?」
「……ッ!!」
伏せていた顔がこちらを向く。
その口角は異常なまでに吊り上がり、
明らかに作り笑いだという事が見てとれる。
それに、サングラスの向こう側のギョロリと見開かれる血走った眼は
全く笑っていない。 - 48◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:49:11
「………なんでもありません」
私は何も言えなくなった。
昨日は一切、何も無かった。
何も無かった事にしなくてはいけなかった。
「さぁ!今日も没人形の調整に入るとしよう!!」
「……はい」
食事を終えた彼と共に、私は研究室へと向かった。
これまでと何一つ変わらなかった。
いや、ひとつだけ変わった事があった。 - 49◆wN3D6OGRA.23/04/10(月) 23:51:45
「フォ〜スフォスフォス!!オペを始めようじゃねぇか‼︎シンドリーちゃんッ!!」
ドクトル・ホグバックが白衣を着ることは二度と無かった。
〈〈おわり〉〉 - 50二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 00:01:47
二人とも心を押し殺してしまった…
- 51二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 00:07:15
おつ
いいホラー作品だった - 52二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 00:14:27
そこに繋がるのか…!!
胸が苦しくなった、そこがいい - 53二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 06:53:53
このレスは削除されています
- 54二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 07:15:17
このレスは削除されています
- 55◆wN3D6OGRA.23/04/11(火) 07:20:06
ホグバックにとってのシンドリーちゃんは
生きてた頃のシンドリーちゃんではないってことが
一番書きたくて作りましたが
ホグバックが白衣を着なくなった過程や
無感情なシンドリーちゃんの一喜一憂する展開を継ぎ足していくうちに
後半ちょっと路線が外れた感が否めない出来になりました
駅のWi-Fiももうだめそうなので返信無理そうです - 56二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 11:00:15
スレ主が最後に書きたかったことが3回ぐらい書かれてら乙でした面白かった