- 1二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 00:25:29
「Fers à cheval」
「蹄鉄、だったよな」
「正解です、では次の問題……trois déesses」
「三女神、かな」
「大正解! fleurs de cerisierは?」
「えっと、桜……? レース関係なくないか?」
「ふふっ、バレちゃいましたか?」
担当ウマ娘のサクラローレルは小さく舌を出し、ウインクをする。
可愛らしい彼女の仕草に、思わず俺も破願してしまう。
今日は二人でお出かけの日。
マンハッタンカフェに教えてもらったという喫茶店。
サクラバクシンオー、サクラチヨノオーおすすめの和菓子屋。
彼女達が勧めるだけあって、どちらも絶品としか言えないお店。
ローレルも大層満足したようで、年相応の女の子の表情で、舌鼓を打っていた。
『トレーナーさん、それ一つ頂いて良いでしょうか?』
『ああ、構わないよ』
『では失礼して、うん、こっちは控えめな甘さで、コーヒーなんかにも合いそうですね、カフェちゃんにお礼代わりに買っていこうかな』
『んー、日持ちすれば良いんだけどね』
『和菓子ですもんね……あっ、じゃあトレーナーさんに先にお返しを、はいどうぞ』
『……えっ』
『あーん♪』
『いや、ローレル?』
『あーん♪』
和菓子を手に不屈の笑顔を見せつけていたのを良く覚えている。
観念して彼女の指に触れないように口にしたが、大丈夫だっただろうか。
そして店から出て、今は食後の運動がてら、散歩をしていたところである。
俺の答えに感心したようにローレルは笑顔を浮かべる - 2二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 00:27:51
「トレーナーさんも、単語は大分わかるようになってきましたね」
「君から問題出してもらってたからね、会話はさすがにまだまだだけど」
「単語がわかるようになればもう一息です、ファイトオー、ローレルオー、ですよ」
拳を握って見せるローレル。
チヨノオーの物真似、ならば両手の拳を握りそうなものだけれど、片手だけ。
その理由は単純明快で、もう片方の手が、俺の手につながっていたからだった。
和菓子屋でもそうだったが、今日は妙に距離が近い気がする。
まあ普段から割と距離が近いタイプではあるが、いつもに増して、である。
長い付き合いとはいえ、こうもアクティブに来られると、やはり困惑してしまう。
そして彼女は突然、思い出したように言葉を紡いだ。
「ところで、フランスでは、カップル文化が盛んだそうです」
「……えっ」
「こうして、いつも一緒に行動していれば、カップルだと思われちゃうかもですね?」
よく見る、悪戯っぽい笑顔。
その表情を見て、からかわれているんだと、ようやく気付いた。
やられっぱなしも何だかアレだ、ここは仕返しさせてもらうこととしよう。
「それは、困ってしまうな」
「…………えっ」
何気なく言った言葉への返答は、絶望の響きをも含んだ、一言。
慌ててローレルの方を見ると、彼女は傷ついた表情で、驚愕に目を見開いていた。
「そっ、そうですよね、トレーナーさんは大人ですから、そう見られたら困りますよね」
「えっ、いや、その」
「あはは……ごめんなさい、私、調子に乗っていたみたいです」 - 3二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 00:28:18
ローレルの震える声。
耳はペタンとへたり込み、ショックに俯いた彼女の表情は見えない。
握りしめていたはずの彼女の手はするりと抜け落ちて、歩む足も止まってしまった。
――――やらかした。
言うにしたって、もっと良い言い方があったはず。
俺は慌てて、先の言葉の言い訳を口走り始める
「違うんだ、ローレル、君が俺なんかと勘違いされたら困ってしまうと思って」
「……良いんですよ、そんな嘘をつかなくても」
「嘘じゃない、君はとっても魅力的な女の子で、一緒にいれるだけで誇らしく思うくらいだ」
「……」
「俺なんかよりも大人らしくて、それでいてたまに女の子らしい可愛さを見せてくれて」
「…………」
「爽やかな雰囲気だけどレースや目標に対しては貪欲で、決して諦めない姿勢に、俺は惹かれたんだ」
「………………ぷっ」
「だから俺が君とどう思われても困るなんて――――ローレル?」
一瞬だけ聞こえた吹きだす音、ぷるぷると震えるローレルの肩。
……やられた、そう思った。
顔を上げたローレルの表情には先ほどの重苦しさは皆無で、目尻に涙を貯めるほどの笑顔だった。
「ふふっ、あはっ、あはは……! ええ、トレーナーさんの気持ちは、良くわかりました」
「…………忘れてくれ」
「ちょっとそれは無理そうですね、むしろ、もう一度聞きたいくらい?」
「勘弁してくれ……」
「はい、勘弁してあげます。それに、カップルなんて軽い言葉で括られては私も困りますから」 - 4二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 00:28:50
――――たった一人だけの、私のパートナーですからね。
ローレルはそう言って、右手を差し出した。
彼女にはやはり勝てそうにないな、そう思いながら、俺はその手を握りしめた。
小さくて、柔らかくて、きめ細やかで、そして何よりも暖かい、彼女の手を。
そして、彼女はにっこり微笑んで、トドメをさすように言い放つのだった。
「でも、カップルと呼ばれるなら貴方が良い、そう思ってますよ?」 - 5二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 00:29:22
お わ り
ローレルええなあ…… - 6二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 01:10:53
やめろ!引きたくなるだろ!!!
- 7二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 01:15:01
実装されて一日足らずでこれかけるのすげー
- 8二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 01:15:57
なんと言ったら良いのかわからん。
ご馳走様です。 - 9二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 01:17:28
つ、つよい…
- 10123/04/11(火) 01:41:17
- 11123/04/11(火) 01:43:22
- 12二次元好きの匿名さん23/04/11(火) 04:39:12
もう2本目書いてるとは…ローレルのキャラが凄く刺さったんですね…まぁ自分もそうなので気持ちは分かりますが
中山金杯の行動とか見ると割と積極的ですよね
かと思えばバレンタインみたいに相手から来てほしいと思ったり…なんだこの娘は…最高か…?
今回のお話もよかったです - 13123/04/11(火) 07:47:03