ここだけダンジョンがある世界の掲示板 イベントスレ第139-2層

  • 1『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 08:58:09

    このスレは「ここだけダンジョンがある世界の掲示板」の番外編みたいなものです


    異世界に召喚された至宝詩編と同じく召喚された勇者達を中心にしたSSスレになる予定です


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    ここだけダンジョンがある世界の掲示板 イベントスレ第139層|あにまん掲示板このスレは「ここだけダンジョンがある世界の掲示板」の番外編みたいなものです異世界に召喚された至宝詩編と同じく召喚された勇者達を中心にしたSSスレになる予定ですbbs.animanch.com
  • 2『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 09:00:13

    ・勇者一覧
    《塩漬け》…エルフ族勇者
    《絶壁》…ドワーフ族勇者
    《熱剣士》…大国勇者
    《掃除屋》…妖精族勇者
    《仁聖》…教国勇者
    《率団》…小人族勇者
    《守銭奴》…商国勇者
    《鉄壁》…獣人族勇者
    《影》…ドヴェルグ族勇者
    《イエスノー》…王国勇者
    《ブロック》…嶺国勇者
    《神速》…天使族勇者
    《無垢糸》…蟲人族勇者
    《聖剣》…ダークエルフ族勇者
    《多妻》…悪魔族勇者
    《先生》…多種魔族連合勇者
    《交渉人》…帝国勇者
    《学徒》…都市国家郡勇者
    《無尽機》…機械族勇者
    《嵐災》…ハーピィ族勇者
    《流星》…巨人族勇者
    《英雄登竜門》…公国勇者
    《蛮勇》…寒村勇者

    (以下、至宝詩編未確認)
    《未確認》…共和国勇者

  • 3『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 09:00:27

    【勇者の配置】
    ・独立軍指揮系統
    総大将兼第一軍指揮官《仁聖》
    副大将兼本陣作戦指揮官《英雄登竜門》
    参謀長《交渉人》

    ・独立軍前線
    第一軍(只人兵)
    《仁聖》…指揮官
    《鉄壁》…副官
    《蛮勇》…副官
    第二軍(亜人兵+元義勇軍)
    《塩漬け狩り》…指揮官
    《無垢糸》…副官
    《嵐災》…副官
    第三軍(魔族、天使族)
    《多妻》…指揮官
    《学徒》…副官
    《無尽機》…副官
    ・本陣
    《英雄登竜門》…作戦指揮官
    《交渉人》…参謀長
    《絶壁》…本陣防衛軍指揮官
    《流星》…本陣防衛軍副官
    《率団》…情報管理
    《掃除屋》…偵察担当
    《先生》…医療管理
    《ブロック》…兵站管理、工兵管理
    ・魔王討伐部隊(死亡中)
    《熱剣士》《守銭奴》《影》《イエスノー》《神速》《聖剣》

  • 4『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 09:03:27

    【以前の状況】
    異世界の神に召喚された。
    外界神の侵攻に対し、その尖兵である魔物の親玉『魔王』の討伐を依頼される。
    魔王を倒せば尖兵は全て消え、その隙に強力な結界を張れるらしい。
    その場で帰還の確約を貰い、各地に振り分けられた。
    まだ余裕のある段階で呼び出されていて、各国が政治的な活動に集中し始めている問題が発生している。
    勇者は至宝詩編を除いて約20人はいるらしい。そのうち一人が逃げて、一人が死亡したと見られる。巨人の国が半壊した。
    至宝詩編が動いて、主だった国と勇者が集合し、紆余曲折あったが方針を一致させた。
    魔王は反撃以外に目立った動きをしていない。
    リーダーを《仁聖》に据え、副リーダーに《交渉人》と《熱剣士》がついた。
    掃除屋と《ブロック》が巨人族の復興に向かい、掃除屋はそのまま偵察任務。《ブロック》は復興と同時に要塞化を進める。
    現在、おとなしい魔王とその軍勢に対し『削り』をいれるか思案中。
    削り作業を行い、軍編成と勇者の配置が完了し、戦争間近

  • 5『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 09:05:05

    【第一作戦後の状況】
    首脳陣からの召集命令が来た
    英雄登竜門が《交渉人》を連れて乗り込んで3日間舌戦を繰り広げた
    結果、連合軍は勇者を中心に据え独立軍に変わる
    規模は2/3にになったが、政治的な煩わしさは減少した
    魔王は派手な動きは見せず陣地に引きこもり、さらにバリアを張って立て籠っている

  • 6『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 09:22:27

    【現在の状況】
    ・第二作戦の作戦会議を開く
    ・ 各軍の特性
    第一軍→汎用性と連携力
    第二軍→特化型
    第三軍→個々の質が高い

    作戦内容
    第一段階、秘策にて魔王のバリアを破る

    第二段階、一旦様子見(しかし対応は決めておく)
    敵の遠距離攻撃→《絶壁》担当
    敵が雪崩込んで来た→《流星》担当
    空飛ぶ敵→《嵐災》と《無尽機》担当
    敵が動かなかった場合→《掃除屋》が偵察
    魔王が直接殴り込んできた→《英雄登竜門》担当
    その場合の全体指揮→《交渉人》担当
    魔王討伐部隊が敵に操られている→《仁聖》《鉄壁》《蛮勇》【登竜門の軍勢】担当
    その場合の第一軍指揮→現地人指揮官

    第三段階、臨機応変

    ・《無尽機》は喋れる
    ・《英雄登竜門》の演説により兵の士気が高まった

  • 7『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 09:54:22

    第二作戦【開始】
    《学徒side》

    【それに気づいたのは数日前、まだ《英雄登竜門》が首脳陣相手に弁舌合戦を繰り広げていた時だった。しかも気づいたのは僕ではなく《塩漬け狩り》さんだった】
    【これからを不安に思いつつ、いつも通り〈想弾〉の訓練していた】
    【周りにいたのは《塩漬け狩り》さん、《絶壁》さん、《鉄壁》さん、《ブロック》さんだった】
    【いつも通り、皆さんに指導してもらっていたのだけど……】

    「なぁ、少しいいか?」

    【と、そう切り出したのが《塩漬け狩り》さんだった】

  • 8『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 09:55:03

    「え……と、どうかしました?」
    「いや、ちょっと気になる事が合ってな。《鉄壁》と絶壁、ちょっと組んで的になってくんねぇか?」
    「ふははっ! 構わんぞ!」
    「おっとー? 私と《鉄壁》さんですかー。それは、少し固すぎないですかねー?」
    「いいからやれよ。《ブロック》は俺と《学徒》の近くに来てくれ」
    「お、なんか楽しそうなこと始めるみたいだね♪」

    【何故かあれよあれよという間に話が進み、《鉄壁》が前に立ち《絶壁》さんがそれをサポートするという最硬の形が出来上がっていた】

    「あの、何するんですか?」
    「いいから、あの二人を狙ってみろ」

    【そう言われ、渋々二人に指を伸ばし、弾丸を形成する】

    (あの二人の防壁なんて……僕の弾は弾かれるに決まってるのに)

    【と思っていると、肩に《塩漬け狩り》さんの手が置かれた】

    「え? ……えっ!」

    【最初は肩に手を置かれた事に対する戸惑い、その後は僕の形成した弾丸が、まるで砲弾の様に巨大化していた事に対する驚きだった】
    【驚きのあまり、その暴発させてしまう】
    【砲弾はすごい勢いで飛んでいき】

    「お、おおおっ!」
    「これは、なかなかですねー」

    【最硬コンビの防壁に衝突した。二人を驚きのリアクションをさせる程の威力が出ていた事に、僕はあんぐりと口を開けてしまった】

  • 9『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 09:59:26

    「えあ、……え、これ、は?」
    「こいつぁ思った通り、いやそれ以上だったな──《学徒》、お前の〈想弾〉は他人の想いも乗せられるんだよ」
    (……つまり、僕のチートに《塩漬け狩り》さんの力が加わった……?)

    【どうにか理解すると《塩漬け狩り》さんは続ける】

    「前々から思ってたんだがよ。
    女神が直々に寄越した変異固有スキルにしてはショボい……てな。
    確かに一人で使っても万能の能力なんだろうが、世界を救える程の力じゃねぇと思ってた……んで、頭ん中はこね繰り回して考えた結果がこれだ」

    【僕に取ってはチートでもこの人はそう思ってなかったんだと地味に傷つきつつ、僕は自分の両手を見下ろす】

    「チートじゃん、これ……」

    【思わず呟いていた】
    【そんな僕をよそに】

    「おお、すごいすごい! で、これからどうするの?」
    「もちろん、検証だよ。とりあえず《ブロック》はもう片方の肩に手を置いてくれ。《鉄壁》! 絶壁! もうちょい付き合ってくれ」

  • 10『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 10:16:11

    (そうして僕は今、ここにいる……)

    【演説を終えたばかりの城壁の上、僕は両手を組んで前に突き出す】

    「お願いします」

    【僕が言うと、誰かが僕の肩に手を置いた。そしてもう片方の手で、誰かの手を握っているのだろう】
    【検証の結果、僕の〈想弾〉は間接的にでも僕に触れていれば大丈夫らしい事がわかった】
    【故に、多くの人の想いが籠められる度に、僕の弾丸は強くなる】

    (そしてここには万を超える、『魔王』を倒すと心に決めた人達が集まっている……!)
    「〈想弾〉っ!」

    【能力を発動すれば、既に僕の体を優に超える砲弾が生み出されていた】
    【しかもそれは、まだ大きく、強くなる】
    【たくさんの想いが僕の体を通して弾に籠められていくのがわかる】

    (だから、どんな壁だって絶対に貫ける……!)

    【どれほどそうしていたのかわからないが、《英雄登竜門》さんが言った】

    「頃合いよ! 決戦の火蓋は派手でなきゃね!」
    「はいっ!」

    【僕は応えて、力を解き放った】

    【それは大地を砕く隕石の如く──
    あるいはダムを決壊させる小さな穴の如く──
    はたまた星の誕生の如く──
    魔王の障壁に当たり──大きく──燦然と輝き──粉々に打ち砕いた】

  • 11『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 22:24:45

    第二作戦【開始】3分
    《???side》

    【障壁が砕け散った瞬間、ナニかが溢れだした】
    【それは敵兵。以前は白と黒のモザイクであったが、今は全て灰色に染まっていた】
    【それらは一斉に要塞目掛けて駆け出すも──放物線を描いて飛んできた星々によって阻まれた】

    「俺っちの出番っスね!」

    【《流星》の放つ〈流星群〉が地に落ちる度に爆散し、敵を吹き飛ばして足止めする】

    「絶壁、念のため障壁展開!」
    「はいはいー」

    【《英雄登竜門》の号令を受けて《絶壁》の障壁が展開され、《英雄登竜門》がさらに続ける】

    「全軍に通達! 10分後に各門に集結! こっちの合図と共に開門! 指定の位置に軍を展開しなさい!」

    【その指示は《率団》の鱗を通じて全指揮官に通達されていく】

    「ほら、あんた達もとっとと持ち場につきなさい」

    【シッシッとまるで追い払う様に、前線軍のメンバーを促す。《塩漬け狩り》などは露骨に嫌な顔をしたが、それでも素直にしたがった】

    「《流星》、敵の手応えはどうだ?」
    「色が変わってるだけあってちょっと手強くなってるっス」
    「掃除屋はもう出ていいわ。様子を探ってきなさい」
    「わかりました」

    【《交渉人》の言葉に《流星》は若干冷や汗を滴しながら答え、それと同時に《英雄登竜門》は《掃除屋》に偵察を命じる】

  • 12『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 22:25:03

    【ハーピィに変身した《掃除屋》が飛び立つと、城壁には《絶壁》《流星》《ブロック》が残り、他の本陣の面々は以前作戦会議に使用したテラスに移動した】

    「最初はまずまずと言った所か?」
    「そうね。敵の変化は想像の範囲ないだし。《率団》、状況に変化はないかしら?」
    「ああ、奴らは《流星》殿の爆撃に阻まれてほとんど前進していない」
    「──順調なのはいいですが、少し怖いですね」

    【《交渉人》《英雄登竜門》《率団》《先生》の順で流れる様に会話しつつ、一行は戦場を一望できるテラスに到着した】

    (さて、僕は前線の方を手伝ってきますか)

    【到着したのを見届けた僕は誰にも気づかれることなく、足早にその場を後にした】

    (またお茶とお菓子用意したけど、喜んでくれるかな?)

  • 13『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/11(火) 22:25:23

    ※今日はここまで

  • 14二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 06:33:24

    保守

  • 15『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/14(金) 21:11:01

    第二作戦【開始】9分
    《掃除屋side》

    (熱剣士さん……!)

    【敵の攻撃を避ける為、まずは空高く飛び上がった私の頭の中はそれでいっぱいだった】
    【早く地上を見たいという気持ちを抑え、高く高く飛ぶ】
    【そうして雲の下まで到達した私は眼下を見下ろした】

    「これ、は……──っ────」

    【その光景は私を戦慄させるには十分だった】
    【そして、それを伝えようと《率団》さんの鱗に意識を向けた瞬間、私の胸は光に貫かれ、声を出す間もなく堕ちていった】

  • 16『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/15(土) 04:38:06

    第二作戦【開始】12分
    《塩漬け狩りside》

    (な、に……?)

    【《流星》の爆撃支援の下、進軍を始めた俺の足は止まった】

    「おっと、ボスどうしたんすか?」

    【連合軍からの付き合いである傭兵の言葉に反応する間すら惜しみ、懐の鱗に意識を向ける】

    「こちら塩漬け狩りだ! 掃除屋が落とされた! 至急、《嵐災》を救援に向かわせる! 許可をくれ!」
    【比喩ではなく「四方紙片」を通して伝わってきたことだ】
    【その言葉に周りがざわめく。近くを緩く飛んでいた《嵐災》も同様だ。彼女はすぐに動こうとしたが、それを手で制す】
    【指揮系統上、俺の副官とは言え勝手に持ち場から離す訳にも行かない】
    【懐の鱗から英雄登竜門の声が聞こえてきた】

    『こちら本陣よ。絶壁からも同じ報告が上がっているわ……マジなのね。すぐに救援に向かってもらうわ。ただし《嵐災》ではなく、《無尽機》にね』

    【無尽機を? という疑問を抱く間もなく、ずっと動かなかった鉄の塊が動き始める】
    【おもむろに羽を広げたかと思えば以前にも見せた、切り離された子機が四方八方に飛んでいく】

    (前よりも数が多いな。隠していた、捜索用だから使わなかった……いや、自己進化とかそういった機能か)

  • 17『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/15(土) 04:38:20

    【作戦直前に《無尽機》が喋ったという情報から、そう当たりをつける】

    『全軍に通達。これより、《無尽機》も爆撃に参加するわ。展開を急いでちょうだい』

    【と、全軍に向けて英雄登竜門が言葉を発した】
    【表向きに《無尽機》を動かす理由付けか、掃除屋がいなくなった事をあえて告げず、同様を広げない為に】

    (流石に心得てやがるな……)

    【大声で怒鳴ってしまった自分の行動を省みて反省する】

    「俺も、まだまだ青いな……。聞いた通りだ! 展開を急いぞ!」

    【周りを見てそう言う。特に《嵐災》には、大丈夫だという意思を込めて】

    (掃除屋には魔剣使いのぬいぐるみもあるし、あいつはいろいろと対策装備も用意してるはずだ。魔王の攻撃でない限りはきっと、大丈夫だ)

    【自分に言い聞かせ、俺は先を急いだ】

  • 18『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/16(日) 20:52:46

    第二作戦【開始】46分
    《流星side》

    【〈流星群〉を放ち続けて既に四十分超え、三つの軍が展開を終えるまで俺っちはずっと爆撃を続けていた】
    【星が空を走り、落ちる度に灰色の軍勢が吹き飛ばされていく。圧倒的な面制圧だが、恐れを抱かぬ敵は止まる事がない上に、数が減った様子はない】
    【《無尽機》ってデカブツから出たちっちゃいのも空から攻撃して多少圧力は減っているにも関わらずだ】

    「全く嫌になるっスね! てか、これ俺が一番ヘイト稼いでないっスか? もし、前みたいにカウンターの性質だったら俺っち真っ先に狙われるんスよねっ?」

    【普通、体力も魔力もそこまで持つ訳がない。それでも維持し続けられたのは】

    「ですねー。でも、敵が本陣に一直線になってくれるならやり易いですよー」
    【回復─体力─発動】
    【回復─魔力─発動】
    【回復─精神─発動】
    【支援─魔法速度─発動】
    【支援─魔法威力─発動】

    【冗談のような口調で鬼のような事を言う《絶壁》の姐さんのお陰だった】

    「そりゃ、そうッスけどね? まだ展開終わらないんッスか!?」
    「絶壁ちゃんが速度アップとか行軍補助の魔法かけてたし、そろそろ終わりそうな感じだよ?」

    【俺っちの疑問に答えたのは、何故か城壁に座り込んで双眼鏡を覗いている《ブロック》の姐さんだ。どこか楽しそうに足をブラブラさせている】

    「確かに、そろそろ登竜門さんからお達しがありそうですねー」
    「あー、かもね」

    【女性二人と組めたのは嬉しいが】

  • 19『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/16(日) 20:53:35

    「手持ちぶたさなら、せめて汗くらい拭って欲しいんスけど!? 俺っち今、両手使えないスからっ!?」
    「私は要塞の防壁と軍の補助魔法の維持に、あなたの回復支援までやってますがー?」
    「私だって戦場の動向をつぶさに見極めてるんだよ? 何か見かけたら報告しなきゃだし♪」
    「そりゃ、そうでしょうけど!?」

    【戦いの最中に冷静さを失わないのは大切だが、この二人はちょっと緩すぎはしないだろうかと思う】

    (《絶壁》の姐さんなんてほんの三十分前まで取り乱してたんスけどねぇ……)

    【いつの間にか、いつも通りに振る舞っている】

    (これもまた、強さって奴ッスかね?)

    【などと考えていた時だ。懐の鱗から《英雄登竜門》の姐さんの声が響いた】

    『本陣より、通達! 軍の展開が終わったわ! 3分後に派手にぶちかましなさいっ!』

    【その声に、後一息! と通常の〈流星群〉を撃ちながら、派手な一発への力を貯めていく。そして】

    《今よ!》

    【その号令を合図に両の手を更に光輝かせる】

  • 20『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/16(日) 20:53:55

    「派手に行くッスよ! 〈水瓶流星群〉!!」

    【巨大な二つの光球となったソレが空高く撃ち上がった。鋭い放物線を描いたそれは頂点までたどり着くと、水瓶をひっくり返したかの様に、流星が地面に向けて注がれた】
    【まるで瀑布の様に落ちる流星達は空を輝きで覆いながら、絨毯爆撃を行った】

    「おー! 綺麗だね! まるで花火だっ!」

    【なんて呑気な声が聞こえたが、俺っちはもう限界だった。技の発動を見届けてその場で崩れ落ちる様に横になる】

    「……あー、しばらく動けねぇッス……動きたくねぇッス……」
    「はい、ゆっくり休んでくださいよー」

    【労る様に優しいその声に促されて、俺っちは目を閉じた】

  • 21『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/16(日) 20:54:38

    ※今日はここまで

  • 22二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 16:28:08

    保守

  • 23『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/19(水) 20:47:46

    第二作戦【開始】56分
    《交渉人side》

    【《流星》の絨毯爆撃の最中、私の隣で《英雄登竜門》が指示を飛ばす】

    「本陣より、第一軍は爆撃が終わり次第突撃、第二軍はその10分後に突撃、第三軍はまたその10分後に突撃。細かい判断は現場に任せるわ」

    【出陣の少し前、彼女は軍の配置を少し変えた。当初の予定では第一軍を中央に、右に第二軍を、左に第三軍を配置していた】
    【しかし第一軍と第三軍の位置を入れ替え、第三軍が中央になるように配置されていた。そして、突撃のタイミングをずらした事を考えれば】

    「まずは守勢に強い第一軍を突撃させて様子見、その後突破力のある第二軍で相手の対応を見極める。そして第三軍はいわば第一作戦の中軍の役割、という訳か?」

    【何故だか用意されていたお茶を飲みながら《英雄登竜門》は答える】

    「まっ、そんな感じね。掃除屋の観測がない今はそうするしかないしね。第三軍は最悪バラして、左右の軍と統合できるしね」
    「しかしそれでは、無用の混乱が起こらんか?」
    「個で強い奴らは下手に枠にハメると録なことにならないのよ? 不用意な突出さえなければ、臨機応変に立ち回せればいいのよ」

    【《率団》の疑問に即答した彼女は、側に立つ従者にお茶のお代わりを身振りで指示する。その目は真っ直ぐに戦場のみを見ていた】

  • 24『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/19(水) 20:48:04

    「──『高度の連携と柔軟性を維持しつつ臨機応変に』というのは悪手と聞きましたが?」

    【ポツリと《先生》がこぼせば】

    「それは全部一緒くたにするのがいけない、という話よ。『高度の連携』をする組と『高度の柔軟性』をする組と『臨機応変に』をする組に分けてれば問題ないわ」

    【つまり左右の一軍と二軍が高度な連携を、三軍に臨機応変さを、そして本陣が柔軟性を持っていればいいという事だ】

    「《先生》、あまりにも無茶なら俺が止める。そして《率団》、こちらには君の鱗がある。伝令が要らず、通信機器の混線を心配する必要がないのだから、混乱は最小限で済むはずだ」

    【物言いが果断過ぎるため、二人にはそう付け加えておいた】

    (まったく、俺は《英雄登竜門》のお付きじゃないんだがな……)

    【ふと従者の女性と目が合い、彼女は申し訳なさそうに目礼をしてくれ、俺はそれに片手を軽く上げて返す】

    (別に、損な役回りなのは今の始まったことじゃないしな)

    【元の世界での役割を考えれば、まだまだどうという事はない。それに俺自信は最悪前線に出る事も覚悟はできている】

    「できれば、使いたい物ではないがな」

    【ポツリと誰にも聞こえない様に、俺は呟いた】

  • 25二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 22:23:30

    ※忘れてた今日はここまで

  • 26二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 22:49:26

    保守

  • 27『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/23(日) 20:02:41

    第二作戦【開始】1時間1分
    《仁聖side》

    【突撃命令が下った第一軍は進軍を開始した。《流星》の絨毯爆撃によって開いた空間を早足で向かう】
    【突撃、と言っても軍の連携が最優先のため無闇に走ったりはしない】
    【爆撃の土煙が晴れれば、既にこちらに押し寄せる軍勢の姿があった。それを】

    「魔術師隊、掃射! 並びに騎獣隊、三日月の陣にて突撃!」

    【私の号令の下、複数の魔術師隊から戦術級の合同魔法が放たれ、出鼻を挫くと軍の左右に二隊ずつ置かれた騎獣隊を走らせる】
    【三日月の陣は、敵の前線を弧を描きながら削るのを左右交互に行う戦法だ】

    「ヌオオオォォオオ、オォオオッ!」

    【最後の攻撃を行う部隊の殿に付いた《蛮勇》が雄叫びを上げながら、騎獣並みに抑えた速度で走り抜けた後は】

    「防御こそォ、至高ォオッ!」

    【《鉄壁》を筆頭とする歩兵部隊が詰めており、魔術師隊と騎獣隊が殺し切れなかった残党を排除しつつ、その場に楔を打って敵を釘付けにし、歩兵部隊の後ろに配置された弓兵隊がそれを援護する】
    【これが第一軍の基本戦術だ。数分後には再び魔術師隊の攻撃が始まる】

  • 28『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/23(日) 20:02:58

    (今の所の順調か……)

    【弓兵隊についていた私は、戦場を俯瞰しながらそう思った】

    (前の戦いと違う所は、敵の反攻を気にせず前に出ても構わない所だが)

    【白と黒に分かれていた敵が、灰色一色になっていた理由は今の所わからない】
    【未知は怖いが、未知にかまけてばかりもいられない】
    【目標は二つ、討伐隊の救助並びに魔王討伐】

    「しかし、取り決めとは言え……敵に動きがあるまで動けないというのはもどかしいものだ」

    【これはあまり『勇者』らしくないな、と独り言を溢す最中、魔術師隊の魔法が放たれた】

  • 29『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/23(日) 23:08:05

    第二作戦【開始】1時間19分
    《嵐災side》

    【私は飛行型の敵が現れるまで動くな、と言われたので第二軍の上を滞空しながら戦場を見渡していた】
    【個人的には《掃除屋》の捜索をしたいが、《無尽機》の手数を見ればそうも言ってられないのはわかっていた】

    「もう、第一軍を、追い抜いたか」

    【数分前に10分遅れで突撃したにも関わらず、既に第一軍を追い抜いていた】

    「前線のドワーフと巨人が張り切りすぎだな。まぁ、登竜門の演説のせいだが」

    【声がするので下を見ると《塩漬け狩り》がいた。彼の周囲にはガラの悪そうな人間達が集まっている】

    「ボス、俺らの出番はまだですかね?」

    【そんな中の一人が聞く】

    「安心しろ。そのうち嫌ってほど戦う事になるからよ……後、ボスはやめろ」

    【そうやって宥め透かしながら、彼は懐に手をやると】

    「こちら《塩漬け狩り》。エルフ隊、少しペースを落とせ矢が尽きちまうぞ。それと、左側に矢が集中し過ぎてる、気を付けろ。
    巨人隊、ドワーフ隊は前線を交代しろ。進みが遅くなってるぞ! こんな所で息切れすんじゃねぇ!
    人馬族隊、ドワーフ隊と巨人隊の前線が交代する時間が欲しい。ひとっ走りして、助けてやってくれ。ただし、止まるなよ。そしてすぐ戻れ。
    妖精族隊、四班ほど前線に向かわせて、交代した連中の疲れを取ってやってくれ。前に出すぎるじゃないぞ。
    小人族隊、通りすぎた場所から矢を回収してくれ。《無垢糸》と蟲人族隊はその護衛に回れ。
    魔族隊、そろそろデカめの魔術を相手に放り込んでくれ。
    鳥人隊は周囲を警戒。何か見つけたらすぐ報告頼む。
    全体に通達。そろそろ、第三軍が突撃してくるはずだ。そうすりゃ、圧力が減る。一気に進むぞ!」

  • 30『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/23(日) 23:08:26

    【《率団》の鱗から各隊に指示を飛ばしていく。私に指揮の事はよくわからないが、恐らく適切なんだろうと思う】

    (しかし、少し焦っている、そんな風に見えるな)

    【少し考えて、それもやむを得ないだろうという考えに息つく】

    (同胞二人が、どうなっているか、わからないからな)

    【《熱剣士》という男は前の戦いで死を固定された状態と聞いているし、それ以降どうなっているか不明だ。そして、偵察に出た《掃除屋》もまた敵に打ち落とされて行方不明になっている】

    (本当は、すぐにでも、探しに行きたいのだろう。あるいは、自らの手で、敵を討ちたい、と思っているかも、しれない)

    【元の世界で同胞を全て失った私には、よくわかる】
    【そう思っていた時、後方で爆発音がしてそちらを見ると】

    「第三軍、合流してきたか」

    【攻撃は揃っていないが、それでも十分な火力の攻撃が敵を蹴散らしている】
    【これで全軍が戦闘に突入した】

  • 31『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/23(日) 23:08:48

    ※今日はここまで

  • 32二次元好きの匿名さん23/04/26(水) 00:45:54

    保守

  • 33『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/27(木) 18:36:02

    第二作戦【開始】1時間33分
    《掃除屋side》

    「ここ、は……」

    【目を覚ました時、私は一人で見知らぬ森に倒れていた。上半身を起こすと、体に痛みが走る】
    【胸の辺りを見れば、そこだけくり貫かれた様に防具が壊れていた】

    (そうだ……私、撃ち抜かれて……落とされたんだ)

    【軽く自分の体を調べて、装備も同時に調べる。すると】

    「鱗と四方紙片が……」

    【懐に入れていた《率団》の鱗と四方紙片が跡形もなく破壊されていた】

    「これじゃ、誰にも連絡できない……早く伝えないと、いけないのに」

    【体を這いずり、近くの幹に体を預けてどうにか座り込む。どうにも体の動きが鈍い。掃除屋はマジックバックから複数のポーションを取り出して飲み始めた】

    (たぶん身代わりアイテムのお陰で命は助かっただろうけど、これだったら自動蘇生アイテムが発動してくれた方が良かったかも……蘇生だったら、すぐ動けたのに)

    【あらゆる事態を想定して、身代わりアイテム等を重ねて持っていた事が災いした】

    (失敗した。でも、次に活かせる……だって生きてるんだから)

    【飲み終えたポーションをしまい。軽い動きで立ち上がって体を動かす、立ちくらみや目まい、体の鈍さはない。もちろん痛みもなくなっている】

    「よし」

  • 34『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/27(木) 18:36:17

    【と、一言。その後、掃除屋はクレセントの力で装備を瞬時に変え、『六枚羽』に変身して空に飛び上がった】

    「遠い……」

    【戦場の土煙が上がっていたが、それは肉眼で微かに見て取れる程度だった。ハーピー状態から高所から落ちて来たので、だいぶ風に流されたらしい】
    【しかし『六枚羽』の掃除屋に取っては楽に移動できる距離だ】

    (まずは本陣に戻って報告、そして代わりの鱗を貰わないと……!)

    【音を置き去りにして彼女は飛んだ】
    【その途中、空飛ぶ小型の機械を発見。それは掃除屋を追いかけて来たが、彼女は一切無視して要塞へ急ぐ】
    【10秒と経たない内に要塞の姿が鮮明になる。城壁にいた先生が真っ先に気付いて手を振ってくれた】
    【それに軽く振り返しつつ、英雄登竜門達がいるテラスに到着する】

    「遅かったじゃない」

    【真っ先に英雄登竜門がそう言った】

    「すみません、落とされました! それより報告が──」

    【と言いかけた時、掃除屋は土の原始精霊からの警告を受け取った】

    「──警戒! 下から来ます! 数、多数!」

    【報告を中断して、告げると同時だった。要塞周りの地面が大きく沈下した。幸い、要塞は空中に固定されているのか、その場に留まって落ちる事はなかったが地面から大量敵が沸いて来た】
    【さらに風の原始精霊からの警告。敵陣から大量の飛行型が飛び立ったのだ】

    「絶壁! 全体防壁展開! 今すぐ! 本陣防衛軍は迎撃開始! 《ブロック》は《流星》叩き起こしなさい!
    《無尽機》、掃除屋の捜索を終了よ! 《嵐災》と一緒に、飛行型の相手をなさい!
    第三軍! 半分を飛行型の迎撃に向かわせなさい! 《無尽機》と《嵐災》の攻撃に巻き込まれんじゃないわよ!」

  • 35『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/27(木) 18:36:38

    【英雄登竜門の指示が次々と出され、既に要塞は先生の防壁に包まれて敵の侵攻を阻んでいた】
    【さらに、要塞の防衛設備の大砲が火を吹き、空に流星が走る】

    「全く、嫌なタイミングで仕掛けて来たわね……《率団》、鱗を一枚剥いで掃除屋に渡しなさいな」
    「お、おう」

    【《率団》は急激な状況変化に面食らっていたらしいが英雄登竜門の言葉で我に返り、すぐに一枚剥いで掃除屋に渡した】

    「ありがとうございます」
    「──体に異状はありませんか?」
    「それで、何か言いかけていたが、君は何を見たのかね?」

    【《先生》の言葉に黙って頷き、《交渉人》の言葉に促され、掃除屋は言った】

    「─────」

    【掃除屋の言葉に、その場が凍りついた】

  • 36『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/27(木) 23:45:56

    ※今日はここまで……もっと書く気だったけど、外界神ががが

  • 37『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/30(日) 22:32:56

    第二作戦【開始】1時間37分
    《ブロックside》

    「《掃除屋》ちゃんが無事でよかったね!」

    【なんて言った瞬間、要塞の地面が抜けて敵が溢れだした。即座に《絶壁》が防壁で要塞全体を大きく覆い、彼女は《英雄登竜門》の指示通り《流星》を叩き起こした後、その場を後にした】
    【城壁から身を乗り出して飛び降り、要塞底部にてブロックを出して着地。空間に固定されたブロックは動く事はない】

    「あーもう! やっぱり、取りつかれちゃってるじゃないっ!」

    【如何に早く防壁を張っても、所詮は後手。既に底部に敵が十数匹取りついていた】
    【しかも、そこから上に行くでもなく、要塞の底に穴を開けようとしている】

    「私のかわいい要塞ちゃんになんて事すんのよ!」

    【手製のボウガンを二丁取り出して数匹撃ち抜くと、こちらに気づいた敵が皆飛びかかって来た】

    「そりゃ!」

    【更に数匹をボウガンで撃ち落として、敵が迫った瞬間に大ブロックを置く】
    【敵は見事にブロックに衝突。彼女は武器を斧に持ち変えて、目の前のブロックに飛び乗ると敵に向かって斧を振り下ろす】
    【生き残った数匹がこっちに来たところで更に大ブロックを追加、更にそのブロックを飛び越えて、背後に回って足場用の小ブロックを作ると、手早く敵を閉じ込める様に大ブロックを置く】

    「ほいっと」

    【そして最後の大ブロックを置く前に爆弾を放り込む。数秒後、大ブロックを巻き込んで爆弾が炸裂。敵は木っ端微塵になった】

    「さて、と! あちゃー、そこそこやられてるなぁ」

    【敵を排除して、上を見上げると要塞底部が短い期間ながらもかなり傷ついていた】

  • 38『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/30(日) 22:33:19

    「基礎のブロックはコスト安めにしちゃったからね……まっ、作り直せばいっか!」

    【彼女はすぐに作業の足場用の木箱を置いてして、要塞底部を全てツルハシで破壊。回収しつつ、上等な材質のブロックに変更して修復する】

    「これでよし! ……うわぁキッモ!」

    【そこで彼女は初めてまともに下を見る。絶壁の防壁に阻まれた敵がうじゃうじゃいた】

    「うーん、これは上だけに迎撃頼むのは酷かなぁ……本来、私のセンスには合わないんだけど」

    【そう言って彼女は、作り直したばかりの要塞底部に自動装填発射機能付きのバリスタや大砲、連弩などを次々に配置していく】

    (自動装填発射はコストがかかるから本来したくないんだけど!)
    「後、外観が悪い!」

    【断言してから、木箱を置きつつ城壁に帰ってきた後、装置を起動する】

    「これで少しは楽になるっしょ!」

    【と城壁から周りを見渡すと、要塞内の弓兵魔法兵砲兵が必死に迎撃をしているところであった】
    【飛び降りた所とは別の場所らしく、遠くに《流星》の光が見える】

    「んー……それじゃ私は、要塞内を駆け回るとしますか♪」

    【自分で何をすべきか判断し、自分で設置した設備を使う兵士に一声かけつつ、設備の補修と弾薬を置いて行くことにした】

    「みんな頑張ってこー!」

    【慌ただしさを増す戦場で、場違いな明るい声が響き始めた】
    【しかし、それは兵士達に一瞬安らぎと高揚を与えてもいるのであった】

  • 39『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/04/30(日) 22:33:37

    ※今日はここまで

  • 40『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/02(火) 23:27:12

    第二作戦【開始】1時間42分
    《多妻side》

    「本陣は持ちこたえられそうだね」

    【第三軍に《学徒》や8人の妻と共に配置された彼は、敵の大群に群がられている要塞を見ていた】
    【現在でも救援要請もなく、また続々と敵が吹き飛んでいるのを見てホッと胸を撫で下ろす】
    【しかし、それとは別の所で焦りも感じていた】

    (このまま、持つのか……?)

    【上空は《無尽機》《嵐災》と第三軍の半数が空中戦を展開しており、ひとまず優勢ではある。しかし、既に二時間近くが経過しても、敵の数が一向に減る気配がない】
    【三つの軍は着実に前に進んでいるにも関わらず、だ】

    (このままでは……魔王の元にたどり着く前に、僕達の力が尽きてしまうんじゃないか?)

    【練った魔力で強化した魔法を放ち、そう考えていた】
    【そんな僕の気配を察してか、魔術師の妻が扇で口許を隠しつつ寄ってきた】

  • 41『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/02(火) 23:27:27

    「不安な気持ちはわかるわ。それでも今は表に出すべきではないわね……あなたが揺らげば、ワタクシ達も揺らいでしまうのよ?」
    「ああ、わかっているさ……心配かけてすまないね」
    「心配する位なんでもないわよ。ワタクシとてあなたの妻の端くれなのですからね」

    【相変わらず素直じゃないな、と扇で隠した表情を手に取る様にわかりつつ思う】

    (でも、言う通りだね)

    【勇者という肩書き、そして勇者達中心で結成されたこの独立軍の中で、うじうじ悩んでは軍全体に影響を及ぼす】
    【第三軍の最前線を見れば、天使族悪魔族と共に猫獣人の妻がスピードを生かして双剣で敵を切り裂き、ダンピールの妻が斧で両断し、魔族の妻が殴り砕き、《学徒》君が異能でそれをサポートしていた】

    (まだ若い《学徒》君には負けてられないし、背中を預けてくれる妻達に不甲斐ない姿は見せられないな)
    「こちら《多妻》です! 五分後に大きいのを放ちます! その間に皆さんは一息いれてください! まだまだ先は長いですから!」

    【大声を張り上げ、僕は再び体の中で魔力を循環させ練り上げていった】

  • 42『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/02(火) 23:27:47

    ※今日はここまで

  • 43二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 22:43:51

    保守

  • 44二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 14:50:28

    保守
    落ち3回目は洒落にならない

  • 45『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 15:59:52

    第二作戦【開始】1時間48分
    《交渉人side》

    【三つの軍が前線を押し上げ、要塞にまとまりつく敵を順調に排除できている中で、本陣たるテラスでは議論が白熱していた】
    【それは約10分前にもたらされた掃除屋からの情報からだった】

    『敵本陣と思わしき城の存在を確認しました……それと、その前の広場に人がたくさんいました』
    『……その様子だと、それは敵の兵士って訳じゃなさそうね』
    『格好から見てこの世界の住民の方々だと、思います。数は遠目から見ても1000人以上は……』
    『そんな、一体いつ! どこから!』

    【突如発覚した大勢の人質の存在に《率団》が叫び、それに対し《英雄登竜門》が吐き捨てる】

    『どこからって決まってるじゃない? 当然下からよ。障壁で引き込もってる振りして、チマチマ地下掘り進んで誘拐してたんでしょうよ。たっく、こすいわね』
    『──その人々の健康状態はわりましたか?』
    『えと、そこまでは……』

    【《先生》の問いに《掃除屋》は申し訳なさそうに答えた】
    【表情一つ変えることなく《先生》は頷くと、《英雄登竜門》の方に向き直った】

    『──私は全てを前線に伝え、救出を優先すべきだと思います』
    『俺は反対だ。前線に混乱を生むことになる。今、軍が順調に進めているのは一つの物事に集中している為だ。余計な情報を広めるべきではない』
    『《交渉人》殿! それはあんまりではないかっ!?』
    『私としては地下から敵が来ることを各国に警告すべきだと思います。こう言ってはなんですけど、連合軍から独立軍になったことで戦力が分散したのが不幸中の幸いだったと思いますし』
    『──それを今、私たちが考えることでしょうか? 私たちは私たちの目の前の問題を解決すべきかと』

    【と、このような問答を今に至るまでずっと続けてきた訳だが、ここでずっと黙っていた《英雄登竜門》が動き出した】

    「決めたわ」

  • 46『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 16:02:37

    【その一言にテラスにいた全員が黙り込んだ。少しして俺が聞く】

    「一体、何を決めたんだ?」
    「色々とよ。《率団》、全軍に人質の報告を出しなさい。掃除屋はすぐに大国に飛んで警告を出してきなさい。呼び止められても有無を言わさず帰ってくること──そして、私が出るわ」

    【そう言い終えた瞬間、《掃除屋》は弾かれた様に防壁をすり抜け、敵を吹き飛ばして飛んでいった。《率団》もすぐに報告を出し、《掃除屋》が吹き飛ばした敵の隙間から、前線がどよめくのがわかった。同時にその進みが遅くなる】

    「だから、言っただろう!」

    【思わず英雄登竜門に振り向いて怒鳴りつけると、彼女はいつの間にか白銀に輝く鎧を身に付けていた】

    「全体の指揮は《交渉人》、あんたに任せるわ。……そろそろ隠し球を出し時よ?」

    【意味深で不敵な笑みを浮かべた《英雄登竜門》は、そのまま前線へと跳んで行った】

    「……」

    【残された《先生》、《率団》は気まずそうな視線でこちらを見ている。その視線を無視して、俺は大きくため息を吐いた】

    (どこまで知ってるかは知らないが、やってやろうじゃないか……)

    【そう思い、要塞に向き直る】

    〈やぁ、要塞殿──交渉といこうか?〉

    【突然の俺の奇行に二人は目をしばたたかせる。しかし、俺は構いもせず要塞に話しかけていた】

    〈君は歯がゆいと思ったことはないか? この場に動けず、戦い参加できない事を〉

    【要塞がぶるり、と震えた気がした】

  • 47『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 16:12:05

    〈もちろん、君がこの場に固定され浮かんでいるからこそ俺達は落下することなく、生きていられる。
    だがな? もし君が動けるのなら俺達も、前線の者も、この世界の者がどれだけ救われるのかを考えてみて欲しいのだよ〉

    【要塞が微かに揺れ始める】

    〈もしも、君が動けたのならより高い戦力を相手にぶつける事ができる。
    前線に負傷者が出てもすぐに君の中に収容し、適切な治療を受けさせる事も可能だ。
    それに、先程の人質の話は聞いていただろう? 君が動ければ、その可愛そうな人々を君の中に避難させる事ができるのだよ。
    それは、とても素敵なことだと思わないか?
    もしそれができるのなら、とても誇らしいと思わないか?〉

    【揺れが大きくなる】

    〈そう思うのなら、なぜ動こうとしない!
    できないと思っているのか? それは違う!
    君にならできる筈だ!
    やって見せろ! 君の力ならその程度、どうとでもなるさ!〉

    【俺が言い切ると同時に一枚の岩が浮き上がった。俺はそれに手を置き、念じる】

    「お、おぉ?」
    「──これは」

    【《率団》と《先生》が同時に驚きの声を上げた。それはそうだろう、無理もない】
    【要塞がゆっくりと、しかし滑らかに動きだしたのだから】
    【と、その時《ブロック》が駆け込んできた】

    「なに!? なになになに!! えぇ! なにこれ! 一体何がどうなってるのっ!?」

    【ひどく混乱しているが、作った当人だ。この要塞がこんな風に飛ばない事など一番よく分かっているのだ】

  • 48『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 16:12:23

    【それに対し、俺は岩板から手を離さず答えた】

    「悪いな《ブロック》、この要塞を少々『説得』させてもらった」

    【これが俺、《交渉人》が交渉人に足るスキルだ。交渉しようもない物と交渉し、交渉内容に則って成果を得る】
    【内容によっては解呪、封印、改編と何でもござれだが、それ故に滅多に使うわけいかないスキルなのだ】

    (さて、前線はどうなった?)

    【交渉に集中させていた意識を、前線に向ければ──そこには想像を絶する光景が存在していた】

  • 49『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 16:13:23

    ※一旦休憩。


    >>44

    ※ありがとうございます!

  • 50『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 19:53:11

    第二作戦【開始】1時間52分
    《鉄壁side》

    【目の前を《蛮勇》殿が駆け抜けたのを機に前に出る】
    【まだ息のある敵を踏み潰し、敵が突っ込んでくるよりは速く、強く両腕のタワーシールドを突き出し、目の前の敵をブッ飛ばす】

    「ふはははは! 防御こそぉ、至高ぉおおおっ!」

    【灰色の人とも獣ともつかない、またはどちらでもある造形の敵は以前よりも強い】

    「だが、我らはさらに強い! 恐れるに値しないっ!」

    【その場に踏み留まり、敵突撃を受け止め、押し返す。そして一切引かない、引く筈がない】
    【この背には共に戦う戦友達の、我らを信じてくれた勇士達の、その家族の、子供の、恋人の、友の命が乗っている】
    【ならば、退く訳がない。何故ならば】

    「我は《鉄壁》なりぃ!」

    【そうやって弓兵の援護を受けつつ魔法隊の合同魔法を待っている時であった】

    『こちら《率団》! 《掃除屋》殿が敵陣中央に城らしき物を確認した!』

    (城っ! 魔王め、この期に及んで奥に引っ込むつもり──)

    『さらに、その周囲にこちらの人間らしき姿を確認した。その数、ざっと千! 地中を掘り進み、誘拐したと思われる!』

    (──はぁあ!?)

    【驚き、思考が一瞬止まる。それは周囲の他の者も同じようで、一気に足並みが揃わなくなった】

  • 51『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 19:53:40

    (人質? 人質だと! そんな卑怯な真似を! 我らの足を止める算段か……!)

    【思考の乱れは統率の乱れ、このまま混乱と迷いが広がれば、この最前線は崩れかねない】

    「皆、気を引きし、……っ!」

    【そして、気を引き締めようとしたその瞬間であった】
    【背後から白銀の光が我らを追い越し、敵の真っ只中に突撃し──光の奔流が迸る】
    【その中心にいるのは白銀の鎧を纏い、白と緑で彩られた美しい剣を握る赤髪の美女、《英雄登竜門》殿であった】
    【なにをどうやったのかは分からないが、彼女は周囲一帯のみならず全軍が相対していた敵をも一掃していた】

    「魔王は、やってはいけない事をしたわ」

    【静寂に包まれた戦場で、彼女のとても通る声だけが響く。多くの者がその声をハッキリと認識できた筈だ】
    【威風堂々たる佇まいで、美しい鎧と剣を装備した《英雄登竜門》殿は、まるで戦女神のようであった】

    「奴は城と壁を築いて立て籠り、正面に相対した私達を無視して、無辜の民を拐ったわ」

    【その声は落ち着きの中に怒りがあったが刹那、それは嘲りに変わる】

    「底が知れたわね、魔王! あんたは逃げた! 私達から逃げた! 目の前の敵から目を背け、保身に走った! なんて情けないのかしら……! それでも私達、勇者の仲間を屠った存在なのかしらね!」

    【大声で笑い、堂々と魔王を叱責する姿に頼もしさを感じる】

    「みんな聞きなさいっ! 魔王は私達を恐れているわ! 人質なんて用意するのが、何よりの証拠よ! それに、私達がその程度で崩れると嘗めてかかっているわね!」

    (む……!)

    【その発言は不味いと直感した。それではまるで捕らわれた人々の事などどうでも言い様に取られてしまう】
    【現に全軍から少なからず怒気が漏れている】

  • 52『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 19:54:35

    【しかし、彼女はそれに恐れず続けた】

    「だから、捕らわれの民は全員をきっちり救い切って、とっとと魔王を叩き潰すわよ……!」

    【一瞬で怒気が霧散する】

    「独立軍副大将兼本部作戦指揮官たる、この《英雄登竜門》が全軍に通達──とくと駆けなさい! 魔王が人質に手を出すよりも速く! この戦場を駆け抜け、民を救うのよっ!」

    【その後、沸き上がったのは熱狂であった】

    「ははは、まったく……彼女には敵わないね」
    「アア」

    【いつの間にか《仁聖》と《蛮勇》の二人が両隣に立っていた。《仁聖》殿が若干悔しそうに然れど楽しそうに笑い、《蛮勇》殿は感嘆とした息を漏らした】
    【そして、すぐに我等は駆け出していた】
    【後ろから戦友達がついてくるのが分かる】
    【遠くから我等に迫る敵を退ける様に流星が次々と落ちてきた】
    【さらに傷が癒え、疲れが吹き飛び、形容しがたい程に力が満ち溢れていく】

    (《流星》殿に《絶壁》殿か……! 恩に来ますぞっ!)

  • 53『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 19:54:57

    【変化は、それだけではなかった】

    〈壁門──顕現──〉

    【敵陣全部を囲うように、決して逃がさぬ様に隙間なく巨大な門が現れ】

    〈英雄招聘門──開門──〉

    【その門が全て開かれた。中から出てきたのは、数えきれぬ程の夥しい量の武具と防具。それらは半透明の実体を形成し、敵に躍りかかっている】
    【さらに全身甲冑の大軍団まで出てきた】

    「凄すぎて言葉がでないな、なぁ《鉄壁》殿!」
    「まったく持って仰る通りだ、《仁聖》殿……!」
    「シカシ、心ガ踊ルヨウダ!」

    【我等三名は無限に湧き出る力そのままに、迫る敵を次々と屠り散らして突き進む】
    【目指すは魔王城──!】

  • 54『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/07(日) 19:55:30

    ※今日はここまで

  • 55『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/10(水) 04:21:14

    第二作戦【開始】2時間
    《塩漬け狩りside》

    (あのやろう……! 結局、力押しじゃねぇか!)

    【英雄登竜門の登場、演説、本気の解放からの《流星》の援護爆撃と絶壁の盛り盛りの回復とバフ──それによって軍は半ば崩壊していた】
    【熱狂が渦巻き、兵士たちは我先にと戦場を駆け出している】
    【俺はそれらに追走しながら、懐の鱗を意識した】

    「塩漬け狩りだ! テンションに任せて暴走しすぎんなよ! 同士討ちは絶対に避けろっ!!」
    「イエス、ボス!」
    「だからボスって言うんじゃねぇ!」

    【全軍に対し言ったのだが、近くにいた傭兵集団から返答されて思わず怒鳴り返した】
    【次に四方紙片を意識して、絶壁に話しかける】

    (絶壁、行軍補助もかけたのか? やってないなら今すぐ頼む! 勢いに任せて転んだら、あっという間に将棋倒しになっちまうぞ!)
    (ちゃんとかけましたー。抜かりはありませんよー?)

    【と、いつも通りの口調で帰ってくる。しかし同時に、四方紙片から感じる絶壁の位置が近いように感じて後ろを振り向けば】

    「なんじゃ、ありゃあ……!」

    【要塞が空を飛び、こっちに近づいていた。その後方には英雄登竜門の門が出現しており、地面に開いた大穴に向かって雪崩れ込んでいた】

    (おい絶壁、そっちはどうなってんだ!)
    (こちらですかー? 《率団》さんが秘術を発動しましたねー。それとこちらにいた航空騎獣隊が今まさに飛び立つ所ですよー)

    【絶壁の言う通り、要塞からワイバーン、グリフォン、ペガサスに乗った兵士達が飛び立った所だった】

  • 56『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/10(水) 04:21:58

    (いや、なんで要塞が飛んでんだよ!)
    (あー、それですかー。私もよくわからないんですけど《交渉人》さんの奥の手っぽいですねー)

    【それを聞いて、ようやく納得がいった。】

    (そういや、掃除屋はどうした?)
    (掃除屋ちゃんなら無事ですよー。今は警告の為に一時的に『大国』へ向かいましたー。六枚羽で向かったので、それほど時間はかからないと思いますよー)
    (……なるほどな、よくわかった。所でお前は大丈夫か? だいぶ大掛かりに魔術使ってるみたいだが?)
    (ふふふー、私は絶賛ポーション滴るいい女になってますよー)

    【その一言だけでどういう状態なのか手に取るようにわかった】

    (あんまよ、無理すんなよ?)

    【一言、釘を刺して俺は正面に向き直る】
    【やはり質の高い戦力が大幅に増えたお陰で、今まで以上に進むことができている】
    【無限に湧いて出てるとすら思えた敵も、四方八方から攻め立てられ、心なしか混乱している様に見えた】
    【いつの間にか中型と大型の敵も現れていたが、輝く様な剣技に──命を乗せた一撃に──限界まで練り上げた魔法に──想いを乗せた銃弾に──嵐の如き暴風に──大質量の体当たりに──鋭くて柔らかく硬い糸に──なす術もなく倒されていた】

    (あいつら、いつの間にか最前線まで上がってやがった!)
    「ボス! このままじゃボス、目立ってないっすよ!」

    【傭兵連中にまで囃し立てられ、俺は半ばやけくそになり】

    「ああ、くっそ! もう、勢いで行っちまうしかねぇか!」

    【自身にさらに強化魔法をかけ、最前線まで駆け上がる】

    「邪魔だ! どきやがれ!」

  • 57『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/10(水) 04:35:29

    【目の前の敵をハンマーで叩き潰し、下から湧く様に現れた大型の敵を】

    「〈大魔砲連弾〉!」

    【即座に巨大砲弾で蜂の巣にして吹き飛ばし、続いて現れた中型の敵もメイスで横殴りにぶっ飛ばす】

    「敵は恐らく混乱してやがる! 反撃の手なんざ出させるな! とにかく前へ進め! 自分が殺し切れなくても、後ろの仲間に任せて進め! このまま押し切るぞ!」

    【メイスを振り上げて周囲を鼓舞しつつ、俺は片腕が切り飛ばされたのに少しの間に気づけなかった】

    「っ! てめぇは──」

    【いつの間にか、灰色一色に染まった剣士が俺の前に立っていた】

    「──熱剣士!」

  • 58『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/10(水) 04:36:06

    ※今夜かけたら書きます

  • 59二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 21:35:44

    保守

  • 60『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/13(土) 03:38:40

    第二作戦【開始】2時間7分
    《塩漬け狩りside》

    【斬られたと気づいた瞬間には止血魔法を行使、熱剣士の二撃目を片手で持ったメイスで受け流し、弾き飛ばし、前蹴りを入れて押し退ける】

    「いや、熱剣士じゃねぇな……」
    (こいつが本物なら、俺は既に殺されている。剣筋はそのままだが速度、威力、キレが足りねぇ。初撃を食らったのは油断していた俺が悪い)

    【瞬時に判断、反省し、切り替える。メイスを捨て、偽熱剣士を押し退けた隙に切り飛ばされた片腕を拾う。それを患部に押し当て、回復魔法を使う】
    【そして、別のメイスを一つ取り出しつつ、繋げた部分が繋がっているか確認】

    (よし)

    【その間に偽熱剣士は再び襲いかかってきた。それに対応しつつ、俺は考える】

    (こいつは恐らく熱剣士のコピー。っつーことは、他の討伐軍もそうなってるって事か……! というか、どっから湧いて来やがった!)

    【繋がったばかりの腕で短槍を取り出し、偽物を貫き、その頭をメイスで粉々にする】

    「ボス!」

    【傭兵達の慌てた声が聞こえるが、それは一旦無視しつつ辺りを見回し、思考を続行する】

    (地面から湧いて出た? いや違う、そこまで分かりやすい変化なら気づく。なら、どっから? ……っ!)

    【少し前にハンマーで叩き潰した敵が──いない】
    【それに気づいた時、軍の中から悲鳴が飛び交った。振り返れば灰色一色の熱剣士が、《守銭奴》が、《影》が、《イエスノー》が、《聖剣》を持った《神速》が、軍の中に突如出現していた】

    (倒した敵がまるごと変わってやがる!)

  • 61『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/13(土) 03:39:30

    【しかし、軍を助ける事はできなかった。この瞬間には、既に偽の《守銭奴》に襲われていたからだ】
    【そして、鱗を通じて多くの情報が整理されぬまま届けられ、錯綜する】

    「糞がっ! お前ら陣形を組め! 円陣だっ!」

    【近くの傭兵達に声をかける。しかし、返事は来ない】
    【彼らは皆、ズルりと両断されていた──熱剣士の偽物によって】
    【ドワーフの老兵が偽《神速》になす統べなく首を落とされた】
    【巨人の青年が偽《影》に風穴を開けられていた】
    【魔族の少年が魔法を封印され混乱している間に偽《守銭奴》に喉を貫かれていた】
    【逃げ惑う妖精達が偽《イエスノー》に焼き払われていた】
    【エルフの女性の放った矢が、焦りから味方を打ち抜いていた。そして、その女性もまた別の《熱剣士》に縦に真っ二つにされた】
    【空では、飛ぶ偽物達に蹂躙されている天使と悪魔がいた】
    【要塞の、絶壁の防壁が破られ、中に乗り込まれて行くのが見えた】



    【地獄絵図が生まれ、確実に広がって行く】



    「クソがぁあああっ!」

    【できる限り、迅速に、確実に偽物達を屠っていく。しかし、間に合わない。間に合う筈がない】
    【偽物達は軍の中にいるだけではない。今まで倒してきた敵から生まれ、軍を追撃してくる。そして、これから迫る敵もまた偽物に変わっていた】
    【乱戦、混乱、同士撃ち、追撃、挟撃。既に軍の規律はなく崩壊し、皆自分の命を守る事しか考えられなくなっている】

    【敗北の気配が濃密に押し寄せていた】

  • 62『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/13(土) 13:17:23

    ※忘れてた。今夜また書けると思います。

  • 63『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 04:08:20

    第二作戦【開始】2時間8分
    《仁聖side》

    【ほぼ同時期、第一軍もまた内部に現れた討伐隊の偽物によって瓦解していた】

    (なにを楽しい気分になっていた……!)

    【少し前の自分を殴り倒したい気持ちを押し殺し、突如現れた偽物を切り捨てる】
    【輝ける鎧を身に纏い、輝ける剣を振るい続けても、誰も見ていない】
    【誰の身も救えていない。心さえ救えていない】
    【皆自分を守るのに集中している。が、とても守りきれる状態ではない】

    「この野郎! 偽物のくせによぉ!」

    【誰かが、そう叫びながら死んだ。その言葉が胸に突き刺さる】

  • 64『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 04:08:54

    (私は、一体なんだ……)

    【これでは『勇者』としての役目を果たせない】

    (私は……所詮、こいつらと同じ偽物か)

    【特定の誰かの役目をトレースする存在】

    (いや、今はその偽物以下か……)

    【《英雄登竜門》という存在を知った。威風堂々と我が道を往き、人を惹き付ける存在を】
    【戦いに赴く者を鼓舞し、自ら戦いに身を投じ、人々の希望となる】
    【それは皆から私に与えられた役目であった】

    (敵とは言え、ちゃんと討伐隊の面々を演じられているこの偽物の方が……よっぽど本物だ。それに引き換え私は……!)

    【敵を切り続けながら、思考がハマってはいけない方向に流れていくのが分かる】
    【しかし、それを止められる者はこの場にはいない】

  • 65『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 04:30:49

    第二作戦【開始】2時間9分
    《学徒side》

    「うわあああっ!」

    【人がすぐ側で次々と殺されていく】
    【僕はもうぐちゃぐちゃの偽物によって向かって何度も《想弾》を叩き込んでいた】

    「よくも、よくもぉ!」

    【その《神速》の偽物の近くに、猫獣人の女性の亡骸が転がっていた。《多妻》さんの奥さんの一人だ】
    【突然現れた偽物から、僕を庇い殺されてしまった】

    「《学徒》くん! 戦いに集中して!」

    【その僕の肩をダンピールの奥さんが掴み、自分の方へ引き寄せる。そして、今まで僕の体があった場所を火球が通りすがりた】

    「っ!」

    【僕は反射的に火球が飛んできた方へ指を向け、《イエスノー》さんの偽物を殺意全開で蜂の巣にした】

  • 66『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 04:31:15

    「そう、それでいいの」

    【優しい言葉をかけられ、僕は憤る】

    「いい訳ないでしょう! だって、あの人は僕を庇ってこんな……! 僕は《多妻》さんに、なんて言えば!」
    「……あの娘はこうなる事も覚悟の上でわこの戦いに参戦したわ。あの人もそう……だから今は取り乱さないで、戦いに集中して、でないと他の誰かが死んでいくのよ?」

    【迫る《守銭奴》さんの偽物を戦斧で叩き切りながら彼女がそう言った】

    (これが、戦い……これが、戦場)

    【泣く暇すらなく、悲しみに嘆く隙すらない】

    「っ、わかりました!」
    「いい子ね……ひとまず、下がって旦那様達と合流しましょう」

    【彼女は優しく微笑み、僕達は近くの偽物を掃討しながら前線から下がっていった】
    【その場には、血まみれの女性の遺体のみが残された】

  • 67『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 04:56:36

    第二作戦【開始】2時間10分
    《無垢糸side》

    【足が一本叩き折られ、バランスを崩して倒れる。しかし鋼糸によって、通りすぎた偽《影》もその鎧ごとその体がバラバラになっていた】

    「《無垢糸》ちゃん!」

    【一緒に行動していた蟲人族が駆け寄ってきて、自分の前を守る様に円陣を組む】

    「みんな、さがって! あぶない!」

    【自己修復機能を働かせながら、叫ぶと蟲人族は皆笑っていた】

    「俺たちが他と比べてまだマシなのは《無垢糸》ちゃんのおかげだからな! 動けるまではキッチリ守られてな!」

    【確かに、第二軍の中で蟲人族を中心とするグループのみが連携を維持していた】
    【理由は四つ。一つは、《無垢糸》が「嫌な感じがする」と倒した敵を全て細かく解体していたから偽物の数が少なかったこと。敵兵が討伐隊の偽物に変わるには一定のサイズがいることがわかった】
    【一つは、《無垢糸》の力が乱戦に強く広範囲の敵を多数相手取るのに向いていたから】
    【一つは、蟲人族の種族特性が丈夫な体と複眼による高い動体視力を持っていたから】
    【一つは、蟲人族は皆《無垢糸》の質の高い武器を優先的に配備されていたことだ】
    【以上の四点から、彼らの被害は軽微であった】

    「でも!」
    「いいからジッとしててくれ!」

    【軽微と言っても被害がまったくない訳ではない。《無垢糸》を宥める人物の外側では、彼女を守る為に既に何にも殺されていた】
    【それでも他よりはずっとマシであったのだ】

  • 68『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 05:08:05

    ※一端休憩

  • 69二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 09:32:36

    第二作戦【開始】2時間11分
    《絶壁side》

    【絶壁達は苦境に立たされていた】

    (魔術が使えないと、私はほんとダメですねー)

    【防壁を割られ、討伐隊の偽物に乗り込まれた要塞は阿鼻叫喚であった】
    【なぜなら、要塞にいるのはほぼ要塞設備を使う砲兵や弓兵がほとんどで歩兵は守備隊が数隊ある程度だったからだ】

    「はい、そこ!」

    【そんな中、絶壁は魔剣使い印のポーションを投げながら応戦している。《守銭奴》の偽物によって魔術を封じられたからだ】
    【経験則から攻撃を避け、爆破ポーションを投げ撃破する】

    「絶壁ちゃーん! よかった、無事だったんだ!」
    「えぇ、なんとかー」

    【と走り寄って来たのは《ブロック》だったその後ろには兵士の生き残りもいる】

    「防壁が消えっぱなしだから心配したよー」
    「そちらもご無事でー」

  • 70二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 09:33:16

    【と言った瞬間、麻痺ポーションを真後ろに投げると偽《熱剣士》とぶつかり、それは動けなくなる】

    「誰か止めお願いしますねー」

    【近くの兵士に一声かけると、絶壁は《ブロック》に向き直った】

    「本陣はどうでしたかー?」
    「防壁が破られたと同時に、三人とも奥に引っ込ませたから平気! ただ、通信が混乱してるから《率団》くんが応戦してるかも!」
    「なら、急ぎましょー。本陣の機能が回復しないと、まとまる物もまとまりませんしねー」

    【そうして絶壁と《ブロック》の一行は、《率団》と《交渉人》の下へ急ぐのだった】
    【一方、反対側では……】

  • 71二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 09:33:46

    ※出掛けるので続きは午後に

  • 72『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 18:09:06

    第二作戦【開始】2時間12分
    《流星side》

    「まだ生きてる奴は俺っちの近くに寄れぇえええ!」

    【両手が輝き、光の玉を四方八方へ飛ばして滞空させる】

    「〈衛星〉!」

    【滞空する星々は敵が近づくと自動的に射出され、貫通する】
    【声を聞き付けたのか、ふらふらになりながら兵士が数名近寄って来たのが見えた】

    「無事だったか? 他に生きてる奴は?」
    「いえ、恐らく我々だけ……でしょう」
    「は、い……」
    「そうか、とりあえず無事でよかった! 俺っちの側にいれば安全だ! 少し休んでな!」
    「あの、これから、どうなさるので……」

    【そう聞かれて、背後に振り返る。そこには〈衛星〉に囲まれた負傷者が何人もいた】
    【衛生兵達の治療は続けられているが、今すぐに動き出す訳にも行かない】

    「悪いが、しばらくは待機するっきゃねーな」

    【その光景を見て、兵士達も理解できたのか、とぼとぼと歩き始めた】

    (衛星をもっと足しとかねーとな……)
    「〈衛星・星図結界〉」

    【再び、両手が輝いて光玉を飛ばしていると】

  • 73『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 18:10:15

    「──そんな事もできるのですね」

    【近くから声が聞こえた。驚いてそちらを見れば、黒に近い藍色の髪をした白衣の人物《先生》がこちらに走って来ている所だった】

    「せ《先生》!? 無事でよかったッスけど、本陣にいたんじゃ?」
    「──私は医師です。患者を置いて奥に引きこもっているわけには行きません」

    【通りすぎるなり、そう言って患者に向かって行った】

    「はは、すげーや……──っ!」

    【思わず肩の力が抜け、笑った時だった。自分の中で、何かが引っ込む様な、閉じられた様な、そういう感覚に教われた】
    【同時にあれだけ配置した〈衛星〉が全て消えた】

    「んな……!」

    【驚いていると正面から《守銭奴》の偽物が現れた。迎撃しようと力を込めるも、輝きが生まれない】

    (封じられた!?)

    【槍を両手に突っ込んでくる偽物に、死を覚悟した瞬間だった】
    【赤い風が吹き抜け、《守銭奴》の偽物を切り捨てていた】

    「《守銭奴》様の偽物にはお気をつけください。油断していると、力を封じられます。特に魔術師を優先的に狙って来ますのでご注意を」

    【それは赤い服を背の高い女性、《英雄登竜門》の従者であった】

    「た、助かったッス……あっ!」

    【しかし、その従者は次の瞬間には《神速》の偽物に首を落とされていた】

  • 74『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 18:10:50

    「ご心配なく、これでもゾンビなので」

    【飛ばされた首だけが実直に言い、体は偽物を追いすがって仕留めていた。その後、体は引き返し首を取って元の位置に戻す】

    「《神速》様の偽物は挙動が不安定かつ一瞬の素早さは随一なのが厄介ですね。とんでもないでふ」
    「あんたも十分、とんでもないッスよ……」

    【そう二人で話していると、《先生》が近づいてくる】

    「──治療は完了しました。すぐに移動しましょう。次の患者が待っています」

    【手首から血を流しながらそう言い、すぐに走り出してしまったのですぐについていく】
    【その背後を復活した兵士達が追い始め、慌ててついていく】

    (ほんととんでもない人ら、ばっかっすね……!)

  • 75『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 18:34:59

    第二作戦【開始】2時間13分
    《率団side》

    【要塞の奥、細い通路の奥に陣取り敵を迎え撃つ】

    「この程度で我に叶うと思うな!」

    【狭い通路を利用し、過不足なく槍の一撃で偽物共を貫いていく】
    【言葉では威勢のいい言葉が出るが、鱗の隙間からは脂汗が流れていた】

    (ぬぅう! うまく鱗のコントロールが利かんっ! 透り抜けの秘術も止められしまったようだ!)

    【情報が錯綜し、うまくまとめられない。これでは現場に無用の混乱をもたらす】

    (だが、槍を振るう手を止めぬわけには行かぬ!)

    【《率団》の背後の部屋には《交渉人》がおり、また要塞と何か交渉している最中だ】

    (我は頼まれたのだ! 死んでもここは通さん!)

    【また敵が現れた。今度は《イエスノー》殿だ。すぐさま駆け出し、何もさせずに槍で仕留める】

    「範囲魔法攻撃を撃ってくる《イエスノー》殿と封印を使う《守銭奴》殿はすぐに倒さねばならぬからな」

    【と、その時であった。声が要塞内に響く】

    『こちら《交渉人》だ。要塞内の全容を把握し、要塞内外に声を届けられる様になった。これからは私の指示の下、動いて貰いたい』
    (成功したようだな《交渉人》殿!)

  • 76『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 18:35:42

    【そこへ援軍がやってきた】

    「あぁ! 《交渉人》ったらまた私の要塞ちゃんを改造したー!」
    「なるほどー。これで、要塞内は何とかなりそうですねー……後は封印が早く解けてくれればいいですがー」

    【《ブロック》殿と《絶壁》殿だ。その背後には多くの兵を引き連れている】

    「ふぅ、我も鱗の制御に集中しなくてはな……」

    【地上に比べて、要塞内の事態が終息に向かっているのにはいくつか理由がある】
    【内部に敵の死体がなかった事、地上と比較して狭い範囲に強者が揃っていた事、敵が地上戦力を優先し追加の戦力が投入されなかった事などだ】
    【そして、それは空にも同じ事を言うことができる】

  • 77『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 19:24:31

    第二作戦【開始】2時間14分
    《無尽機side》

    『決定。全兵装を解放します』

    【状況を把握し、内部にあるマザードローンを全て戦闘装備に換装して解き放つ】

    『並びにリジェクターフィールドを展開、突貫します』

    【嘴を中心にエネルギーが放出され、それは体を守る力場と同時に敵を倒す槍と化す。翼のロケットブーストを噴射し、敵の大群目掛けて突撃】
    【何もさせずに蹴散らしていくと同時に、マザードローンから放たれたフェザードローンが以前よりも出力を高めたレーザーを放ち、偽物達を焼き貫いていく】

    『解析。優先対象をコピー《イエスノー》に選定。次点優先対象をコピー《守銭奴》に選定──殲滅を開始します』

    【魔王は空にも偽物を放った。しかしそれは一部を除いて握手であった】
    【《熱剣士》《影》《神速》《聖剣》の四人の偽物は、地上ほど脅威になっていなかった。飛びながら白兵戦を行える天使族と悪魔族には確かに効いてはいたが、騎獣兵等に対して機動力不足と射程不足が顕著であったのだ】
    【故に厄介なのは遠距離攻撃を行使できる《イエスノー》と、封印術が使える《守銭奴》のみとなる】
    【現に《嵐災》は風を操る能力を封じられ、飛行には支障を来さないが戦闘に加われず、歯噛みする事になっていた】

    『地上の援護方法を検索。背後の敵を掃討を選択』

    【少し余裕が出てきた為、ドローンの一部を軍に追撃しようとする敵に向かわせる】
    【本命の地上軍に手出しは難しい。乱戦も乱戦になっており、フレンドリーファイアは不可避な状況であったからだ】
    【要塞と空は落ち着きを取り戻しつつある──しかし、地上は地獄絵図のままであった】
    【そんな中、《英雄登竜門》というと……】

  • 78『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 20:11:14

    第二作戦【開始】2時間15分
    《英雄登竜門side》

    「ハメられたわね。ムカつくわ……!」

    【英雄登竜門は軍勢の一部をも、救援には向かわせていなかった。ひたすら自らの軍勢と共に前進を続けていた】

    「人質を存在に釣られて、深く釣り出してからの、偽物の登場〈カウンター〉なんてやってくれるじゃないの!」

    【その理由は三つ。一つ目は軍に新たな戦力を投入させない為、二つ目は人質の救出を優先した為、三つ目は──】

    「待ってなさい、魔王! あんたは絶対ぶん殴るわ!」

    【──めっちゃキレてたからだ】
    【なりふり構わず、しかし軍勢と歩幅を合わせて敵を取り囲み、全力で磨り潰していく】
    【流石に勇者達の偽物とくれば、英雄登竜門のご自慢の軍勢と言えど一筋縄では行かない。敗れ、崩れ去る物もいる】
    【故に英雄登竜門は気づいた】

    「妙に、遠いわね! 城が見えて来ない! 空間を引き伸ばして距離を開けているのかしらね! まったく小手先に頼る魔王だこと!」

    【実の所、魔王城の存在を見た者は空高く飛び上がっていた掃除屋しかいない】
    【それは、魔王が《学徒》が打ち破った障壁を境に、空間を支配して空間を延長し、外側から見るよりも広大な空間を作っていたからだ】
    【誰も気づかなかったが、独立軍は既に第一作戦時の戦場ならば端から端に到達できる距離を踏破していたのだ】
    【掃除屋が魔王城の存在を確認できたのは見た角度に起因する】
    【高く飛び、あまりにも鋭い角度で見たために空間延長の影響を余り受けずに視認することができた。故に彼女は撃ち落とされたと言える】

    「つまり城と人質を見られたことは魔王に取って計算外だったって事かしら? 本来なら、長い長い戦いの末に消耗した所で人質を御披露目したかったのかしら? もしかして、偽物の登場〈カウンター〉ももっと後の予定だったのかもね……! ふっ」

    【思わずと行った調子で英雄登竜門は、鼻で笑う】

  • 79『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 20:12:52

    「バッカじゃない! こっちを嘗めすぎよ! 程度が知れるわね、魔王!」

    【届くかも知れたものではない罵倒を、それでも英雄登竜門は吐き捨てる】

    「あんたの軍勢なんざ、バフォミトラのそれと比べたら大した事ないのよ! ウスラトンカチが! それにあんた自身も、古き焔に競べたら格下も格下……! 三流? どさんぴん? いいえ!」

    【一旦、言葉を溜め】

    「あんたはそれ以下の以下! 五流でもまだ甘々! 魔王の風上に置けないどころか、風下の腐った吹き溜まりにも劣るド畜生! あんたの存在そのものが、あんたを送り出した邪神の大恥よ! あんた程度しか送れないなんて、邪神の手駒不足に同情さえしてしまうわっ!」

    【次々と繰り出される罵倒の嵐。次の刹那、英雄登竜門の顔が半分吹き飛ばされる】
    【しかし、それを受けて英雄登竜門は獰猛に笑った】

    「ほら、私の言った通りじゃない?」

    【本当に怒ったかどうかはわからない。しかし、魔王は英雄登竜門を標的に定めた】

    (さて、と……これで独立軍にはしばらく手を出さないわね。だから、あんた達はあんた達で巧く切り抜けなさいな)

    【戦いに集中する思考の片隅で、英雄登竜門はそう思った】

    (あの二人が……せめて一人でもいい感じになればいけるでしょ)

  • 80『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 20:49:13

    第二作戦【開始】2時間16分
    《蛮勇side》

    「使ワザルヲ得ナイ、カ」

    【第一軍は混乱の極致であり、軍としては既に崩壊。兵士達の命もずいぶん削られていた】
    【そんな中で、蛮勇はようやく決断できた。彼に決断を遅らせるほど、彼のこれからすることはリスクが高い】

    「ウォオオオオオオオ──ッ!」

    【突如、雄叫びを上げ彼は金の戦斧と銀の棍棒を掲げた】
    【それは英雄登竜門装備『身命を投げ出し、使命を果たさん』。それが輝く時、それは彼が武器に文字通り命捧げ──願いを叶える時である】
    【その場のその戦場の、討伐隊の偽物達の、全ての敵意が自分に向く】
    【かつての敵の大群とは、全く異なる強さを持つそれらを前に流石に彼も冷や汗をかく】
    【彼は戦神の加護により、殺すほど命を得られる。しかし、それは命の尊さを見誤っている訳ではない】
    【敵から命を貰って生き抜いて来たからこそ、誰よりも命の尊さを誰より知っている】

    (シカシ、ソレガ決断ヲ鈍ラセタ! 多クノ命ガ奪ワレテシマッタ! ダカラ、モウ迷ワン!)
    「来イ、偽物ドモ、ミナ殺ス……!」

    【蹂躙が始まった】
    【彼が殺すよりも、明らかに彼が殺される数の方が多い。幾度も幾度も殺された】
    【少しして視界いっぱいに広がる灰色の中で、視界の端で何かが──輝ける剣が、タワーシールドが、濃密な魔力の魔法も、想いが込められた弾丸も、糸で作られし武器の大群も、巨大なハンマーも、空から降る光の線も──見えた】
    【しかし、それでも敵軍を殲滅するには足らない】
    【いくら殺しても足しにならないほどの一方的な戦いの中で、ふと空に粒を見た】
    【それは少女に見えた】

  • 81『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 21:22:28

    第二作戦【開始】2時間22分
    《掃除屋side》

    (やっぱり時間を取られた……! 急がないといけないのに!)

    【六枚羽にて『大国』まで赴き、各首脳陣に敵の誘拐を伝え、敵の襲撃を警告した掃除屋が受けたのは、まずは罵倒。そして叱責。次は焦り。その次は要請。最後に泣き落としであった】
    【詳しい内容は思い出したくもない】

    (英雄登竜門さんにさんざん怒られたのに、まだあんな人がいるなんて……)

    【もちろん中には何も言わずすぐに動き出す人もいたが、それは半数にも満たない】
    【そのまた半分は慌てながら動き出し、残りにはすがり付かれた】

    (私だって、見捨てたくないから戦場から一時離れる決意をしてまで警告を進言したのに!)

    【言い様のないムカつきが胸を占めていた】
    【しかし、そんな程度の思いすぐに塗り替えられる事になる】

    (要塞が、飛んで……る? ──っ!)

    【初めはその奇妙な光景。そして直後目の当たりにしたのは、おびただしい量の死体】
    【そして灰色の敵に蹂躙される《蛮勇》と、その敵を端から狩っていく味方の姿】
    【そうしてようやく敵の姿形に目が行った】

    「ね、つ……剣、し……さん…………?」

    【呆然と、ほとんど放心状態で呟く】
    【他の討伐隊の姿を見えたが、認識できなかった。彼女の目には数多に存在する恋人の姿しか認識できなかった】
    【そして、ようやく理解した】

  • 82『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 21:23:43

    (よくも……、よくもよくもよくも! よくも──────っ!)

    【敵が、魔王が、殺した熱剣士から偽物を大量に作り出しだ事を】
    【その偽物を使って独立軍の皆を殺させた事を】
    【今も殺させ続けている事を】
    【自分の愛する人の姿形を使って、非道な行いをしたことを】

    「──────────」

    【掃除屋の中で、何か切れてはいけない物が、切れてしまった】





    【その後、10分程度の事を彼女は何も覚えていない】





    【ただ、気がついた時──周囲には灰色一色の塵の惑星〈ダストプラネット〉がいくつも浮かんでいた】
    【討伐隊の偽物は、文字通り一掃された】

  • 83『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/14(日) 21:24:10

    ※今日はここまで

  • 84二次元好きの匿名さん23/05/16(火) 22:21:54

    保守

  • 85『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/18(木) 20:38:57

    ──インターバル──
    《塩漬けside》

    【掃除屋が敵を一掃してから約30分が経過していた】
    【俺は生き残りの独立軍と共に空飛ぶ要塞に乗り込んでいる。あの後、英雄登竜門が確保した人質を収容するためだ】
    【掃除屋はざっと1000人と言っていたが、実際は倍くらいはいた。要塞が着地し、門が開くと俺は第二軍を率いて外に出る】

    「怪我人や病人が最優先だ。次に女と子供、慌てんなよ! しっかり医療班に渡せ! 比較的元気な奴らは炊き出しに誘導しろ!」

    【指示を飛ばしつつ、あの時の事を考える】
    【《蛮勇》が全ての敵のターゲットを自身に変えた時もやべぇと思ったが、掃除屋の「枷」が外れた時はもっとやべぇと思った】

    (最悪、この場の全員が巻き込まれる可能性があったからな……)

    【幸い、掃除屋は全てを「ゴミ」と認識してはいなかった。絶壁の教育の賜物であった】
    【当の本人は自分が暴走した事に気付いて、失神した。今は絶壁が側についてくれている】
    【一般兵は誰も寄り付こうとせず、勇者達もまた及び腰だったからだ】
    【独立軍に多大な被害をもたらした偽物を単独であっという間に全滅させた】
    【英雄視されてもおかしくないが、逆に圧倒的すぎて恐れを呼んでしまった】

    (《守銭奴》の偽物の封印が間に合わないほどだったからな。いや、運が良かった……)

    【《蛮勇》の加護と掃除屋の変異固有スキルが封じられていたら、今の様に悠長に人質の避難という行動は取れてなかったに違いない】
    【1時間をかけて人質達の収容した後、要塞は最寄りの巨人族の国に向かうべく地面から飛び立った】

    「仕切り直しだが、追い詰めたか」

    【城壁から魔王城の方を見て、俺は呟く】
    【長い距離を相当飛んできたので、本来なら魔王城が目視できる距離だが、見えない】
    【周囲を英雄登竜門の壁門が覆い隠している。英雄登竜門自身はその一つの上に仁王立ちし、恐らく兵隊を一掃されて丸裸にされた城を見下ろしているだろう】

  • 86『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/18(木) 20:40:46

    「人質を送り届けて、引き返して遺体収容して、また送り届けて、軍を再編成して、休息も取らせて……丸一日、下手したら二日はかかるか」

    【これからすべき事を指折りに数え、ため息を吐く】

    「あぁ、早くうちに帰りてぇな……」
    「あなた程の人物でも家が恋しいのだな」
    「ふははは! 誰だって家は恋しいものだろう!」

    【そこに話しかけて来る者がいた《仁聖》と《鉄壁》だ。共に人質収容の指揮に参加していた】
    【今、この要塞にいる勇者は俺とこの二人、そして物資を管理している《ブロック》と要塞を操作している《交渉人》と警戒の為に空を飛んでいる《嵐災》だけだ】
    【掃除屋と絶壁と英雄登竜門は先述の通り、《先生》はあの場で生き残りの治療に専念し、《率団》と《無垢糸》はその手伝い。《蛮勇》《学徒》《流星》は消耗が激しくその場に残り、《無尽機》は戦闘を終えるとまた動かなくなった。そして、《多妻》はと言えば──】

    「俺にも嫁がいるからな。どうしても思い出しちまうさ……」

    【──八人いた妻の内、猫獣人の双剣使いと魔道具師と回復術者とダンピールの戦斧使いの四人の妻を亡くしていた】
    【亡骸を前に泣き崩れる姿は見るに耐えず、目を反らすしかなかった】
    【近くにいた《学徒》の消耗も半分は精神的な物だろう】

    「彼は、再び戦えるだろうか……」
    「……どうだかな」

    【俺の言葉に《仁聖》は懸念を口にし、流石の《鉄壁》も声のトーンを落とす】
    【重い空気が流れる中、俺は《仁聖》に話しかける】

  • 87『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/18(木) 20:45:18

    「お前はどうなんだよ?」

    【《仁聖》は戦いの後、明らかに陰りが見て取れた】

    (あれで陰らねぇ人間の方が少ないが……それとは方向性が別な気がするんだよな)

    【《仁聖》は豆鉄砲を食らったような顔をして】

    「……私か?」

    【と言った。まるで今気づいたとでも言う風に、それが痛々しく見えて俺は目線の圧を強くする】
    【少しして、《仁聖》がフッと息を吐く。初めて素の顔を見た気がした】

    「正直、自信を失っているよ……総大将だのなんだのと持ち上げられているのに、私は状況を打破できなかった……」
    「それを言えば、私もそう変わらんがな!」

    【弱気な発言を掻き消す様に《鉄壁》が叫ぶ。俺もまたそれに続く】

    「俺もおんなじだよ。けどな、生き残ってやることが残ってる以上、やるしかねぇだろ……。それとも、逃げるか?」
    「…………それは、ないな」
    「だろ?」
    「ああ……」

    【少しだけ陰りが晴れた様に見えた。後は自分でなんとかするしかないだろう】

    「心配をかけて申し訳ないな、《塩漬け狩り》殿。感謝する……そして礼に値する働きをしてみせよう」
    「なに、爺のおせっかいだ。気にすんなよ」
    「ふははははっ! 我らは仲間なのだからな! 存分に助け合おうではないか!」

    【そうして、三人で少しだけ笑い合って──要塞は遺体の並ぶ戦場跡へと差し掛かった】

  • 88『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/18(木) 22:38:58

    ──インターバル──
    《絶壁side》

    (やはり……、こういうのは辛いですねー)

    【掃除屋を膝枕で寝かせ、その頭を撫でながら考える】
    【治療を終えた兵士達が、暗い顔で遺体を運び、等間隔に並べていくのを見ながら】
    【規模は異なるし、最近は滅多にみなかったが、見慣れた光景だ。見慣れた事に嫌気が差すほどに】

    (たぶん、最初の連合軍から考えると戦力は半分以下になっちゃいましたかー……)

    【頭の隅、残酷なほど冷静な部分でそう判断する】
    【戦場跡にはそこかしこに水溜まりができていた。それは血溜まりと吐瀉物──遺体の状態に耐えきれなくなった人達の物だ】

    (遺体で「パズル」なんてすれば、それはそうなりますかー。……けれど、遺体が残ってるだけマシなんですよねー)

    【遺族に届ける物があるだけ幸せなのだ、と自身の経験から知っている】

    (蘇生ポーションはありますがー、この人数を賄える訳ないですからねー)

    【なんとか規律が守られている場を「命の剪定」という地獄絵図に叩き落とす訳にはいかない】
    【その作業から目を横にずらすと、作業を行う気力すらない者達もいる】

    「僕の……僕の、せいで……」

    【勇者達の中で特に危ないのは《学徒》だ。彼は膝を抱えて、泣きながらぶつぶつと心情を垂れ流している】

    (まぁ、しょうがないですかー……)

    【聞き取れた分からの推測だが、彼は《多妻》さんの奥さんに二度救われたらしい】

  • 89『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/18(木) 22:39:49

    【最初は偽《神速》の奇襲から庇ってくれた猫獣人さん、その後混乱する自分を立ち直らせてくれたダンピールさんを乱戦の最中に、だ】
    【無理やり立ち上がらせる事も出来ない。辛い現実から必死に目を閉じて耐えているからだ。今の作業を直視してしまえば、確実に壊れてしまう】

    (経験が少ない分、……それは重く深くのし掛かりますからー……)

    【《多妻》達だが、しばらく亡骸の前で泣いていたが、今は立ち上がって作業を手伝っている】
    【何かしてないと、良くない方へ深みにハマって行くのを理解しているのだろう。痛々しいが止める事も出来ない。止めれば、心が壊れてしまう】

    「動かないからこそ心を保っていられる事もあれば、動いていないと心を保っていられない事もあるなんて……世界は残酷なものですよー、ほんとに」
    「俺ノ責任ダ。判断ガ遅レナケレバ、犠牲者ハ確実ニ少ナカッタ」

    【誰に言うでもない呟きに答えた《蛮勇》は、曇った顔で犠牲者達を見つめている】
    【それに対して、少し思考を巡らせた後に】

    「これは結果論に過ぎませんがー、もしもっと早めに使っていたとしたら、《蛮勇》さんが死んでいたかもしれませんねー。
    偽《守銭奴》さんに封印の力があったので、もし敵を引き付ける効果か加護を封じられたらー……同じ被害だったか、この子が間に合わずにもっと大きな被害だったかもしれませんよー?」

    【途中、眠る掃除屋に目を落としながら言った】
    【《蛮勇》もまた釣られる様に掃除屋の寝顔を見つめている。彼が何を考えているかはわからないので、さらに付け足す】

    「大切なのは、これからどうするかですよー。せっかく助かった命ですし、これからの命の為に使っていきましょー」
    「コレカラ、ノ……命。…………ソウカッ!!」

    【急な大声に、皆が何事かと《蛮勇》の方を向く。彼はそれを一切無視して、弾かれた様に動き出した】
    【背負った装備を二つ共抜き放って天に掲げる】

    「俺ノ命! コレカラノ命ノ為ニ使ワセテ貰ウッ!! ──『身命を投げ出し、使命を果たさん』ッ!!」

    【金の戦斧と銀の棍棒が光輝く】

  • 90『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/18(木) 22:40:22

    「コノ場ニアル、コノ戦イデ敵カラ命ヲ奪ワレタ者達ヲ全テ元ニ戻セッ! 体モ、命モダッ!」
    「な──」

    【絶句する。あの武器は願いを叶える度に命を消費する代物だったはずだ】
    【命一つでどれ程の事が出来るのかはわからないが、少なくとも万は優に超える死者の完全蘇生など、どれ程の対価が必要になるかわかったものではない】

    「待ってください……!」

    【語尾を伸ばす余裕もなく止めようとするが、既に武器の効力は発動していた】
    【二つの武器から、光が迸り遺体に注がれていく】
    【光は染み入る様に傷を修復し、あるいは肉片から再させた。さらに内側から強い光がその体を包み込んでいく】
    【《学徒》も《多妻》達も、誰も彼もが心を奪われたかの様に動きを止め、釘付けになっていた】
    【光が徐々に収まり、やがて淡く消えていく】
    【そして、その場に残された綺麗な体達は──】

    「……ん」
    「え、あれ、確か……私は?」
    「き、斬られ──あれ? 生きてる?」
    「熱っ! く……ない?」

    【──一人一人、個人差はあるものの皆が皆、動き始めていた】
    【数瞬の間が開いて、歓声が爆発した。それは背後からも聞こえた。振り向けば、空飛ぶ要塞が近くまで来ていた】
    【城壁には異変に気づいた人々が集まり、その全員が声を上げていた】
    【視線を元に戻せば《多妻》達が涙を流して喜び、抱き合っていた】
    【そこへ《学徒》が駆け寄って地面に這いつくばり、滝のような涙を流しながら、大声で謝っているのが見えた】
    【その信じがたい光景をボケッと見ていると、隣でドサッという音がする】

    「ば、《蛮勇》さん!」

  • 91『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/18(木) 22:40:53

    【我に帰って、倒れた《蛮勇》に手を伸ばした。すると、彼の手が軽く振られる】

    「心配スルナ、急激ニ命ヲ消費シタ反動ダ……。ジキニ、動ケル」
    「はぁ……よかったですよー。というか、やめてくださいよー。これで、あなたが死んだら私が唆したみたいじゃないですかー」
    「ム……ソレモ、ソウカ」
    「とにかくご無事で何よりですよー」
    「アア。シカシ、モウ殆ド命ハナイナ」
    「なら、もう無茶はこれっきりでお願いしますよー?」
    「……考エサセテ、モラウ」
    「こらー」

    【喜びが満ち溢れる中で、ペチペチとその体を叩く】
    【過程はどうあれ、雑兵は蹴散らした上に、味方に損害はなく、完全勝利となった】

    【残るは本丸、魔王城攻略のみ!】

  • 92『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/18(木) 22:41:24

    ※今日はここまで

  • 93二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 10:45:00

    ほしゅ

  • 94『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/21(日) 17:28:18

    第三作戦【魔王城攻略戦】2時間前
    《仁聖side》

    【次の日の朝、私たちは要塞の奥──《交渉人》が要塞内の施設を集約させた──通称、指令室に集まっていた。この場にいないのは、魔王城と睨み合いを続けている《英雄登竜門》殿と、外で待機している《無尽機》のみだ】

    「それじゃあ、現状の報告を頼むよ《交渉人》殿」

    【私が促すと《交渉人》は立ち上がった】

    「承知した。まず、独立軍だが半数は抜ける事になった。甦ったとは言え、心が折れた者は多い」
    「それは仕方ないことですよー」
    「強制はできませんからね……」

    【《絶壁》殿と《多妻》殿が言う、特に一度は奥方を失った《多妻》殿の言葉は重い】

    「規模はどれ程になりそうなのだ?」

    【そこへ《率団》殿が話しかけてくる】

    「連合軍時の1/3以下だな」
    「で、でも《英雄登竜門》さんの軍勢がいれば安心ッスよね」
    「あ、その事で英雄登竜門さんから伝言を預かってます」

    【予想以上の縮小っぷりに《流星》殿が慌ててそう言うが、そこで《掃除屋》殿が立ち上がって紙を一枚取り出した】

    「えと……『魔王の底が知れたわ。で、もう興味なくなった。ここで足止めだけはしてあげるから、後はそっちの好きになさい』、だそうです」
    「嘘っ! このタイミングで足抜け!?」
    「諦めろ。登竜門はそういう奴だ……」

    【《ブロック》殿がテーブルを叩いて立ち上がり、《塩漬け狩り》殿はため息を吐いた】

  • 95『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/21(日) 17:29:01

    「そういえば、ここ以外はどうなったの?」
    「確かに気になるな! それにまた人質を取られては叶わん!」

    【我感せずと質問をしたのは《無垢糸》殿だ。それに《鉄壁》殿も加わる。その質問に答える】

    「私が知る限り、この地以外で被害は出てないらしい」
    「それは良かったです……」
    「それで、これから、どうする?」

    【《学徒》殿が安堵し、《嵐災》殿が聞いてきた。《交渉人》がそれに答える】

    「無論、戦うさ。ただ、軍は一つに統一するしかないな。あまり時間をかけてもいられない」
    「──それはつまり、順当に城攻めを行うということですか?」
    「他ニ手立テハ、ナイノカ? 数ガ揃ワント、城ヲ落トスノハ厳シイ」

    【《先生》が聞き、《蛮勇》は苦言を呈する】

    「流石に俺もそれは厳しいと思っているさ。今は魔王城は静かなものだが、奥にどれだけの戦力があるかはわからないからな」
    「そこで《塩漬け狩り》殿から提案があった」

    【私が水を向けると、皆が《塩漬け狩り》殿に目線を向ける。それを受けて、彼は立ち上がった】

    「俺が提案したのは、第一作戦の焼き直しだ。つまり潜入強襲隊を作る」
    「少数を送り込むと? それは自殺行為ではないのか? それに誰がどこから?」

    【《率団》殿が矢継ぎ早に聞くと、《塩漬け狩り》殿は丁寧に答えていく】

    「前回との違いは、時間差ではなく同時に行う点だ。統一軍と同時に強襲を行う。
    メンバーは俺と掃除屋は確定で、出来れば《蛮勇》《鉄壁》《無垢糸》《先生》が欲しい。
    そして潜入方法だが、魔王が要塞を襲った時に開けた大穴から侵入する。すでに調査済みで魔王城近くまで繋がっているのは確認している」

  • 96『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/21(日) 17:30:03

    【名前を呼ばれたメンバーがピクリと反応するが、真っ先に声を上げたのは別の者だった】

    「おやおやー? 絶壁さんは除け者ですかー?」
    「お前の支援は予めかけて貰うが、お前の力は軍向きだろうが?」
    「まー仕方ないですねー」

    【慣れた様な会話に、どこかで笑いが漏れた。肯定的な雰囲気が出始めたので、その空気に乗る】

    「私はこの軍の総大将として、この提案を受け入れたいと思う。その上で各員の配置を伝える……《交渉人》殿、頼む」
    「了解した。
    まず、統一地上軍は総大将《仁聖》を筆頭に《流星》《多妻》を含めた元第一軍と第二軍。
    次に、統一空軍は《嵐災》と《無尽機》を中心とした元三軍と航空騎獣部隊。
    そして、要塞本部として俺《交渉人》を中心に《ブロック》《率団》《学徒》《絶壁》と工兵隊、砲兵隊。
    最後に、潜入強襲部隊は《塩漬け狩り》をリーダーに《掃除屋》《鉄壁》《蛮勇》《無垢糸》《先生》。
    以上だ。作戦は約二時間後に開始する」
    「それでは楽にしててくれ。それでは、ひとまず解散だ」

    【私の一言で、皆はそれぞれ割り振られた面々と相談しながら部屋を出ていった】

  • 97『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/21(日) 17:35:59

    ・統一地上軍
    《仁聖》
    《流星》
    《多妻》
    只人兵+亜人兵+元義勇軍

    ・統一空軍
    《無尽機》
    《嵐災》
    魔族+天使族+航空騎獣部隊

    ・要塞本部
    《交渉人》
    《絶壁》
    《率団》
    《学徒》
    《ブロック》
    工兵+砲兵

    ・潜入強襲部隊
    《塩漬け狩り》
    《掃除屋》
    《鉄壁》
    《蛮勇》
    《無垢糸》
    《先生》

  • 98『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/21(日) 17:36:42

    ※今日はここまで

  • 99『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/23(火) 21:35:03

    第三作戦【魔王城攻略戦】1時間50分前
    《流星side》

    【解散してすぐに《仁聖》と《多妻》の旦那と合流する】

    「今回の配置、俺っちと《学徒》の配置入れ替わってるんすけどこれってどういう意味なんすかね?」

    【頭の後ろで腕を組ながら聞く】

    「僕の予想ですが《学徒》君の弾は直線的で、《流星》さんの星は曲線だからだと思っていますが合ってますか?」
    「正解だ、《多妻》殿……。地上からの支援砲撃は曲線の方がありがたいからね。それと《学徒》殿には要塞の主砲という役割がある」
    「あー、なるほど。……いや、主砲ってどういうことッスか? 《学徒》のアレはかなりの人数と手間が必要ッスよね?」
    「恐らくですが、手間と人数は《率団》殿の鱗でどうにかするのでは?」
    「それも正解だ。冴えているな、《多妻》殿。……それにしても、てっきり君は戦いから降りると思っていたんだがな」

    (うおっ、いきなりぶっ込むっスね……)

    【と内心そう思った】

    (どうも《仁聖》さんは昨日の戦いから何か吹っ切れたような気がするんスよね~)

  • 100『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/23(火) 21:35:33

    【当の《多妻》は少し当惑していたが、やがて微笑んだ】

    「確かに昨日は情けない所を見せてしまいました……。だから妻達ともちゃんと話し合って、決めましたよ」

    【そこで一旦止めて、こちらを交互に見て】

    「ここで降りたら『何のために頑張ってきたのかわからなくなる』だから、きっちりやって『胸を張って帰ろう』……と」
    「そうか。変な事を聞いてすまないな。今日はよろしく頼む」

    【そう言って《仁聖》は手を差し出し、彼もまたその手を取った】
    【見つめ合う二人に、ポツリと言う】

    「あぁ……《多妻》の旦那は男もイケる口なんスか? 俺っちはパスで」

    【瞬間、二人から冷たい視線が刺さった】

    「じょ、冗談すよ! ささっ、他の指揮官とこ行きましょう! 軍の配置とか決める事はたくさんあるッスよ!
    茶々っとやっときましょう!」

    【と二人の肩を無理やり押し出すのだった】

    (おもいっきり外したッスねぇ……)

  • 101『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/23(火) 21:50:47

    第三作戦【魔王城攻略戦】1時間20分前
    《無尽機side》

    【本機の肩にコードネーム《嵐災》が止まるのを確認。アイセンサーを向けます】

    『質問。本気に何かようでしょうか?』
    「お前と、私は、空軍だ」
    『了解。でしょうね』
    「それで、騎獣部隊と、天使と悪魔が、配置で少し揉めている」
    『質問。困っておられますか?』
    「私は軍の事は、よくわからん……」
    『納得。同時に提案します。本機が向かいましょう』
    「いい、のか?」
    『返答。構いません。ただし報酬を要求します』
    「……なんだ?」
    『要求。この戦いの後、あなたの巣に私の子機を向かわせる事を了承してください』

    【アイセンサーが、本機の方を目を大きくして視認しているコードネーム《嵐災》を確認する】

    「つまり、……どういう事だ?」
    『噛み砕いて説明。たまに話をしに行ってもいいですか? もしくは、遊びに行ってもいいですか?』
    「……ふふ、意外だな」
    『返答。刺激のない生活は、本機の機能を劣化させますので』
    「別に、構わん。それより早く、助けてくれると助かる」
    『了承。では、参りましょう』

    【本機はセンサーの捉える目標(元本部航空騎獣隊、元第三軍)を確認して、歩を進めた】

  • 102『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/23(火) 22:32:11

    第三作戦【魔王城攻略戦】50分前
    《ブロックside》

    【知らない間に設置されていた『司令室』で、私達要塞本部組は集まっていた】
    【私は要塞を動かす石板をポチポチやりつつ】

    「新機能とかは昨日にも説明受けたし、まっOK! ただ、今度改造する時には一声かけてよね!」

    【《交渉人》に指差しして釘を差すと、彼は苦笑しながら頷いた】

    「ああ、そうさせてもらおう。ただ、相当の緊急時にはその余裕があるかはわからない事を予め言っておこう」
    「そこはもっと誠心誠意とか、そういう言葉つけるべきじゃないですかねー?」
    「確かにな! 逃げ道を決めておくのは賢いが、心証はよくないぞ《交渉人》殿!」
    「あはは……」

    【《交渉人》の言葉に《絶壁》は首を傾げ、《率団》は笑いながら指摘し、《学徒》は困った様に笑う】
    【和やかな雰囲気だ】

    「ぶう、もういいよ《交渉人》っちのハラグロなのはもうわかってるしね! で、砲兵と工兵の配置はさっき決めたからいいとして……」

    【司令室の『モニター』の一つから既に要塞を出て配置場所に移動する統一地上軍を見つめる】

    「私らはいつ頃飛び立てばいいかな?」
    「作戦開始、三十分前で頼む」

    【私が聞くと《交渉人》が即答する。彼は別のモニターで空軍が要塞内で準備しているのを見ていた】

    「今回は空軍も最初から出す。もう同じ轍は踏みたくないからな。三十分前に出て、彼らが高度を出すのを助ける」
    「確かに、その方が楽ですね」
    「と、なると残るは潜入強襲部隊だな」

  • 103『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/23(火) 22:33:14

    【《交渉人》の説明に《学徒》が納得して頷くと、《率団》が《絶壁》を見て言った】

    「大丈夫だと思いますよー。塩漬けさんは部隊指揮よりそっちのが得意ですからねー」
    「そういえば《絶壁》さん達は普段、迷宮の探索を生業にしているのでしたね」
    「ふむ。ならば、ひとまずは安心だな!」
    「ダメなら俺と《仁聖》が許さんよ」
    「でも、《絶壁》ちゃんはよかったの? 一緒に行きたかったんじゃない?」

    【和やかな会話の中で、私は聞く。潜入強襲、と言いつつその本質は魔王討伐部隊の救出が目的なのは火を見るより明らかだ】
    【仲間が心配じゃないのか? という私の心境を見透かす様に《絶壁》は答えた】

    「行きたくなかった、と言えば嘘になりますがねー。
    あの時、塩漬けさんが言った通りで私の能力は支援向きなのでそちらで精一杯頑張らせていただきますよー」

    【と、いつも何ら変わらない様子だった】

    (ちゃんと割り切れてる辺り、信頼されてるって思えていいなあ)

    【ホッとしつつそんな事を考え、私はまたいつの間に用意されていた紅茶を飲むだった】

  • 104『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/23(火) 22:35:59

    ※今日はここまで

  • 105『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/25(木) 20:56:31

    第三作戦【魔王城攻略戦】20分前
    《掃除屋side》

    【私達は既に地下の大穴から、魔王場の地下に向けて歩みを進めていた。先頭は斥候役の私。その次に《鉄壁》さんと《蛮勇》さん、二人は前衛として並んで歩いていて、私がいつでも飛び避けるスペースを確保している】
    【その後ろは回復役の《先生》さん。その後ろには遊撃役の《無垢糸》ちゃん、そして最後尾は後衛兼殿の師匠だ】
    【この隊列は大穴に潜る前に師匠が取り決めていた】
    【私は原始精霊魔法と師匠に鍛えられた斥候術で周りを感知しながら進み、ある地点で止まった】

    「この辺りで一旦、休憩しましょう」
    「まぁ、頃合いだな」

    【私の提案に師匠は頷いて、その場に腰を下ろした。私も服を平服に変えて、お茶と簡単につまめる軽食の用意をする】
    【そんな私たちを見て、他三人は少し戸惑っている様子だった】

    「え、休むの? 休んでいいの?」
    「……敵ハ近イノダロウ?」
    「ふははは、豪胆だな」
    「──手慣れていますね」

    【各々煩悩に対して私と師匠は言う】

    「ここまで来て、罠の一つもありませんでした。そして、この先も罠の気配はありません。ですが、更に先は魔王城へ肉薄する事になるので、何らかのアクションがあるかもしれません」
    「なら、ゆっくりできんのはここが最後って訳だ。上との時間も合わせねぇといけねぇからな。この辺りが妥当だろ」

    【私は人数分のコップと保温水筒を取り出し、中身を注ぐ。少し熱いくらいだったので、氷の原始精霊でちょうどいい温さにしつつ、一人一人に手渡して言った】

    「うむ、旨いな。それに体が暖まるようだ」
    「──これは、いくつかの薬草を加えたお茶ですね」
    「あ、こちらもどうぞ」

  • 106『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/25(木) 20:57:11

    【そう言って私は紙で包んだお菓子も手渡した。中身は表面をキャラメリゼで固めた、とろりとしたチョコレートソースを和えたミックスナッツだ】

    「うん、甘くて美味しいね♪」
    「カタジケナイ……」
    「あんまり食い過ぎるなよ。それの装備がある奴らは少し緩めとけよ? 回復量が段違いだからな」

    【パクパク食べてる《無垢糸》ちゃんと、豪快に噛み砕く《蛮勇》さんに、師匠が苦笑しつつ言った】

    「──あなた方は元の世界でいつもこういう事をしてるのですか?」
    「まぁな。本来はこっちが専門で、部隊指揮だの作戦提案だのは本職じゃねぇんだ」
    「なるほどなるほど。本職顔負けであったが、本領ではなかったという事か」
    「冒険者ダッタカ? 他ニモ猛者揃イナノダロウナ」
    「あ、聞きたい聞きたい」

    【《無垢糸》ちゃんにせがまれて、私達は話始める】

    「そうですね……。冒険者と一言で言っても色んな人がいますね。例えば異界の元皇女様でしたり、現魔界の公爵さんでしたり」
    「魔王の右腕だけとか、全身豆腐ボディとかな」
    「両親がリヴァイアサンとベヒモスの方もいますし、ダンジョンマスターの方も複数います。5億年生きてるイタズラが大好きですぐ死んじゃう竜とか、お茶沸かしてくれるリクガメさんとか」
    「元々占い師だったのが、無限増殖する魚とかを従えて自在に性転換できる様になった女もいるし、性転換っていや闇ギルドとか裏組織を定期的に締め上げるのが得意な奴もいるな」
    「後は見た目スライムなんですが、とても落ち着きがあって教養のある人もいますね。因みにその恋人の方は工作がとても得意で、猫がとっても好きな方です」
    「そういや敵性国家のスパイだった奴も複数いるし、両腕が独立して動いてバイトしてるのもいたな」
    「騒々しくて戦うのが大好きな神様や、お酒の大好きな鮭の神様もいますね」
    「海賊だった奴もいるし、アウトローを率いてなんやかんや救済の旅してるのもいるな」
    「毎夜自爆していくセミさんや、唐突に打ち上がる花火ロボさんでしたり、花火の様に打ち上がっては内臓をばら蒔いたお酒好きの吸血鬼さんや変態とても呼ばれるととあるダンジョンの奥深くに連行する方が……」

    【と言った所で、私は思わず来た道を見つめてしまった】

  • 107『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/25(木) 20:57:32

    「いや、流石に無理だろ?」
    「ですよね……あれ?」

    【師匠に突っ込みを入れられて、皆さんに振り向くとみんな目が点になっていた】
    【師匠は苦笑いしていたが、私は首を傾げるしかなかった】

    (何か変なこと言いましたっけ……?)

    【そうして最終決戦の前の休憩はつつがなく終わりを迎えたのだった】

  • 108『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/25(木) 20:58:03

    ※今日はここまで

  • 109『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/28(日) 13:37:22

    第三作戦【魔王城攻略戦】3分前
    《英雄登竜門side》

    【統一地上軍が整列して、私の壁門の前に陣取った。その背後には要塞が浮かび、周囲には空軍が待機状態でいた。それを見て私は門の上から降りる】
    【そこへ歩み寄って来たのは《仁聖》だ】

    「中は今どのような?」
    「静かなもんね、拍子抜けしちゃうわ」
    「分かりました。では、突入しますのでここを開けてくださいませんか?」
    「ええ、存分にやりなさい」

    【それだけの言葉をかわして、私は壁門の一部を解除する】
    【それを見計らったかの様に魔王城の天辺から光線が放たれた。それは一直線に《仁聖》に向かい】

    「〈輝ける盾─シールドオブライト─〉」

    【掲げられた輝く盾によって霧散した】
    【《仁聖》は何も言わず剣を掲げ、そのまま魔王場を指し示した】

    (私に続け、って辺りかしら?)

    ウオオオオオオオオオオオオッ!

    【瞬間、重なる様な雄叫びと共に全軍が突撃を開始する】

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始

  • 110『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/28(日) 21:34:58

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始1分

    【突撃を開始した統一地上軍を迎え撃ったのは、まず先ほどの光線であった】
    【先ほどよりも細かく散らされたそれが、降り注ぐ】

    「やらせませんよー」

    【要塞城壁の上で《絶壁》が軽い口調と共に魔法が行使され、巨大な防壁が光線を遮断する】

    「行きます!」

    【その隣で《学徒》が組んだ両手を突き出した。懐の鱗に意識を送り──《率団》の鱗は、軍の人数が減った事でかなりの余りが生じた。その鱗は出来る限り兵士達に配られた──多くの想いが募っていくのが分かる】
    【第二作戦ほどではないながらも、それは高い威力を予想させた】

    「俺っちもやるか!」

    【地上で《流星》が両手を広げれば、即座に光輝く】
    【そして一つの砲弾と数多の流星が、魔王城を襲う。しかし、それらは当然の如く用意されていた障壁に阻まれる】

    「流石に野ざらしの訳ないよねぇ」

    【要塞指令室で要塞を動かしながら《ブロック》が呟く】
    【と同時に魔王城から何かが飛び立った。それは、以前とはまた違う灰色の怪物達だった】
    【一見は騎士甲冑に似た姿をしているが、細身の異形は蝙蝠の様な翼を広げて飛翔する】
    【空を覆う様な勢いで広まる中、大穴が開く】

    『敵性存在を確認。対象します』

    【それは《無尽機》が敵のど真ん中を通りすぎた後だった。そこに飛び込む様に空軍は戦闘を開始した】

  • 111『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/28(日) 21:35:31

    【一方地上では、魔王城の正門が開かれていた。その向こうにいるのは、魔王討伐部隊のデッドコピー達と、空軍が相手をしているのと酷似した異形の大軍であった】

    「彼らを中に入らせてはいけません! 崩されてしまいます!」

    【そう叫んだのは《多妻》。彼は八人の妻と共に戦場を駆ける】

    「《ブロック》、要塞の武器の照準は地上に会わせろ。《流星》も同様だ。《学徒》は魔王城の障壁を破壊するのに専念だ。空軍は散り散りになるなよ。《絶壁》は光線防御を優先しつつ全体のサポートを頼む」
    「我も秘術を発動させるぞ!」

    【再び、要塞指令室では《交渉人》が各方面に指示を飛ばし、その傍らで《率団》は鱗を持つ物に透過の秘術を発動させた】
    【全面的な質と量の殴り合いが始まろうとしている地上と空──そんな中、地下はと言うと】

    「マッピング、できました」
    「よし行くぞ!」

    【ガランとした城内の地下通路で《掃除屋》の声が響き、それを受けて《塩漬け狩り》が指示を出し、皆が掃除屋に付いていく】
    【途中からタイタンとなった《掃除屋》が新たに穴を掘り、《蛮勇》が外壁を破壊した箇所に少しの間留まり、《掃除屋》が原始精霊魔法による全力探査を行っていたのが、これまでの経緯だ】

    「次、右です。その後は左端を通ってください。その後、前から敵兵が複数います」

    【魔王とて馬鹿ではなく、城の中に兵と罠を設置していた。しかし、彼女はそれを全て看破し、今も探査を続けて脳内地図を更新し続けている】
    【かつて「ダンジョンRTA」と避難された頃より更に磨きがかかった技能をフルに発揮して、一行は魔王の場所へ。最短距離で向かっていた】

  • 112『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/05/28(日) 21:36:52

    ※今日はここまで

  • 113二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 00:29:41

    お疲れ様です
    いよいよクライマックス、楽しみです

  • 114鎧装圃人◆PnfmrnG66s23/05/31(水) 08:06:58

    >>113

    ありがとうございます。

    がんばります!

  • 115『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/01(木) 21:43:38

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始4分
    《絶壁side》

    【防御─鎧─全体発動】
    【防御─霧─全体発動】
    【防御─耐物障壁─全体発動】
    【防御─耐魔障壁─全体発動】
    【防御─耐精障壁─全体発動】

    【『軍』全体に、一人一人に防壁魔法をかける。まず体全体を覆う鎧、外側に三種の障壁。そして間を埋める様に、高い衝撃吸収能力がある霧】
    【既存の防壁を維持しつつ、それらを行い。マナポーションを一本開ける】

    「ぷはー、じゃ次行きますかー」

    【回復─治癒:常時─全体発動】
    【回復─体力:常時─全体発動】
    【回復─魔力:常時─全体発動】
    【回復─精神:常時─全体発動】
    【回復─状態異常:常時─全体発動】

    【更にそこに常時回復魔法も全軍に施して、またマナポーションを一本開ける】

    「まだまだー、出し惜しみはしませんよー」

    【支援─身体強化─全体発動】
    【支援─魔力強化─全体発動】
    【支援─精神強化─全体発動】
    【支援─魔法強化─全体発動】
    【支援─高速思考─全体発動】

  • 116『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/01(木) 21:44:00

    【更に更に支援魔法も重ね掛けし、またまたマナポーションを一本開ける】

    「うぷ……一先ず、こんな所ですかねー」

    【と言いつつ、常に何かしらの魔法を行使できる状態を崩さない】

    (何があるかわかりませんからねー。戦況はー……今の所、こちらが有利ですかー)

    【空と地上の戦場を見渡せば、どちらも優勢に見えた。城から放たれる光線も今の所、悉く防ぐことが出来ている】

    (問題は城を覆う障壁ですかねー。どうにも固いようですよー)

    【近くで《学徒》が砲弾を打ち続け、地上からも《流星》の魔力弾も持続的には当たっているが、未だヒビすら入っていない】

    (塩漬けさん達は侵入できたみたいですし、地下まで張り巡らされてないのが幸いでしたねー)

    【しかし、このままでは増援を送る事もできない】

    (……それにしても、魔王さんはどこか稚拙ですねー)

    【思考をフル回転させ、城からの光線を防ぎながら頭の片隅で考える】

    (どうにも力押しの印象が強いですよー。第一作戦のカウンターに、第二作戦のカウンター……なぜ反撃しかなさらないですかねー?)

    【勇者達が集結し、軍の準備を整えるまでわざわざ待つ必要がどこにあったのか? ずっと疑問であった】
    【反撃に特化せずとも、最初から侵略を開始していれば現状ほど追い詰められる事もなかったはずだ】
    【そして追い詰められているにも関わらず、結局今も反撃に終始し、打って出るという選択肢を選んでいない】

    (確かに、ここにいる私達をどうにかすれば、後は簡単とも取れますがねー。随分と悠長ですよー……)

  • 117『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/01(木) 21:44:48

    【空と地上にいる甲冑型の敵は前の白黒よりも、灰色よりも、強くなっている印象を受ける。そして、地上にいる偽討伐隊も変わらず手強い】

    (けど、それまでですよねー。雑兵をわざわざ一段ずつ強化するのに何の意味があるのかー……あっ)

    【と、そこで気付く】

    (もしやー、向こうも経験を積んでいる途中ということですかー?)

    【経験を積み、学んで強くなる。まるで若者のように】

    (女神様は邪神と争っていますがー、世界に歪み等が出てない事を考えると、直接戦っているようでなさそうですしねー。となると、気になるのは邪神と魔王の関係性ですかねー?)

    【と思考した所で、ふと思い出す】

    (そういえば、登竜門さんは底が知れたとおっしゃってましたかー。
    どうせ、いつもの様に『人間の事は人間で解決しろー』という事かと思いましたがー……そういえば何かあったんですかねー)

    【そこで登竜門に鱗を通じて話しかけて見ることにした】

    『登竜門さーん、一つ聞いてもいいですかー?』
    『あ? 何よいきなり』
    『登竜門さんが魔王を見限った理由ってなんなのかなー、と思いましてー』
    『……戦いの最中に変な事聞くわね。まぁ、いいわ。あの魔王はね……私のやっすい挑発に乗っかって来たのよ。だから失望したの。度量とか器量ってもんが感じられなくてね。だから見限ったのよ』
    『……っ! なるほどー、良くわかりましたー』

    【そこで会話を終える】

    (なんとなく構図が見えて来た気がしますねー)

    【再び光線を防壁で防ぎながら、絶壁は指令室の三人に話しかける事にした】

  • 118『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/01(木) 22:12:41

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始18分
    《ブロックside》

    【指令室にいる私、《交渉人》、《率団》の三人は絶壁ちゃんと交信を終えて三人で顔を見合わせる】
    【最初に口火を切ったのは《率団》だ】

    「確かに、この戦いは最初から神々の代理戦争の向きが強かったが……そんな事があり得るのか?」
    「俺はむしろ符に落ちた。この敵は最初から機械的で、どこかゲーム染みていたからな」

    【《交渉人》の言葉に《率団》は首を傾げる】

    (あー、《率団》っちの故郷にゲームないのかー)

    【私はそう思いながら、思った事を言う】

    「私としてもなるほどなーって感じかな。女神様がその事言わなかったのもなんとなくわかるしさ! で、この情報って共有した方がいい?」

  • 119『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/01(木) 22:13:21

    【モニターを指差しながら言えば、二人は神妙な顔をした】

    「いや、我はやめた方がいいと思う」
    「そうだな……、変な水を差しかねん。それに確定情報でもない」
    「だよねぇ」

    【苦笑しつつ、モニターを見つめる。戦況は変わらずこちらに優勢。絶壁の手厚いサポートもあるが、それ以上にこちらの士気が高いし、三度の戦いを経た精鋭達でもある】
    【偽討伐隊は確かに脅威で手強いが、一度経験した相手であり、対策方法も考えてある】
    【未だ健在の城の障壁は、確かに厄介だが】

    「とにかく攻略だ。要塞の兵器は防空兵器を除いて、地上支援に向けよう」
    「あいあいさー」
    「魔導師部隊の半分は目標を障壁に変えるよう伝えてくれ」
    「了解した。割り振りは現場に任せていいのだな?」
    「頼む」

    【そうして、私達は動き出した。どんな事に気づいたとして、またそれが真実だったにせよ。まずは勝つ事を優先すべきだから】

    (強襲部隊は今どんな感じかなー?)

    【できれば内側から破ってほしいな、と考えながら私は石盤を操作した】

  • 120『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/01(木) 22:16:48

    ※今日はここまで

  • 121二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 15:57:18

    このレスは削除されています

  • 122『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/04(日) 22:44:24

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始25分
    《先生side》

    【強行軍は順調だ。《掃除屋》を先頭に、《鉄壁》と《蛮勇》、私、《無垢糸》、《塩漬け狩り》の順で突き進む】
    【戦闘があれば《掃除屋》が引き、真っ先に《鉄壁》が突撃し、《蛮勇》が横撃を加え、《無垢糸》が広い範囲をカバーし、《塩漬け狩り》が後衛を撃つ流れが出来ていた】
    【基本、止めを刺す事に拘らず、行動不能に留めることもある。何よりも速度が優先されている】

    「──怪我人はいませんね?」

    【走りながら聞けば、誰もが元気に返事をしてくれる】

    「──順調ですね。順調すぎるきもしますが?」
    「ふはははっ! 《掃除屋》殿の洗練された誘導の賜物でしょうな!」
    「すっごいよねー! 全部把握してるんでしょ?」

    【私が不安をそのまま口にすれば素直に褒めるのが二名、そして】

    「シカシ、本丸ヲ攻メテイルノニ抵抗ガナサスギル」
    「確かにな、そこら辺どう感じるんだ掃除屋!」

    【懸念を表明するのが二名いた】

    「敵もこちらの予測進路を予想して敵を配置しなおしていますが、その度にルートを変えたり変えなかったりしてますから」
    「え? 全部、変えちゃダメなの?」
    「配置を変えたら、ルートを必ず変えると罠に誘導されたりするので」

    【しかし、当の本人はいたって冷静なまま受け答えしている。思わず感心するが、彼女の師匠はお気に召さなかったようだ】

    「80点の回答だな」
    「──厳しいですね」

  • 123『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/04(日) 22:45:22

    「魔王はこっちが城を完全に把握してることに気づいてるぞ? もう、そろそろ……」

    【と《塩漬け狩り》が呟いた瞬間、私の目の前に突如壁が出現し──瞬時に私を追い越した《塩漬け狩り》がそれをハンマーで破壊した】

    「こうやって分断にかかってくる頃合いだ。それに、城の構造を弄ってくるかも知れねぇ」

    【再び殿に戻った彼が言うや否や《掃除屋》が叫んだ】

    「師匠! 上階の小道が減ってきました! 大きな一本道に大広間が出現! 敵がそこに集まって来てます!」
    「ほらな? お前ら、距離詰めろ! 分断は一度や二度じゃねぇぞ!」
    「大広間ノ敵ハ、殲滅カ?」
    「あえて乗ってやる必要はねぇ! 掃除屋、外は!」
    「地上10m! 罠はありません!」

    【敵の思考を見事言い当てていく《塩漬け狩り》には皆感心していたが、最後のやり取りに私は内心、首を傾げる】

    (──外? 10m? 罠?)

    【しかし、そんな私を他所に《掃除屋》はある方向をビッと指差す】
    【それを見た《塩漬け狩り》は《蛮勇》に指示を出す】

    「《蛮勇》! 掃除屋の指した方へ、真っ直ぐだ!」
    「ヌォオオオオオオオッ!」

    【指示が出ると同時に《掃除屋》は先頭を引く、と同時に飛び出した《蛮勇》が手に持った大斧と棍棒で壁を破壊し、すごい勢いで掘り進んでいく】

    「──なるほど」

    【思わず納得する。そして《蛮勇》は勢いそのままに壁を突貫し続け、とうとう外へ到達した】

  • 124『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/04(日) 22:45:47

    【壁に空いた風穴へ、六枚羽を生やした《掃除屋》が滑り込んで上へ消えた】

    「《壁面歩行》、《軽快》、《加速》! 一気に駆け上がれ!」

    【体に不思議な感覚が宿り、後ろからの指示に落ちるという不安を一切感じることなく、私達は外へ躍り出た】

    「このまま一気にいくぞ!」

    【後ろから声に押される様に、壁を駆け上がる。今までにない程に体が軽く、速い】

    (──流石は玄人ですね)

    【そんな感想を抱きながら、私達は最上階を目指して突き進む】

  • 125『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/04(日) 22:46:17

    ※今日はここまで

  • 126二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 21:43:39

    ほしゅ

  • 127『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/08(木) 19:20:21

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始32分
    《多妻side》

    【地上戦はこちらが優勢だ。細身の騎士甲冑型の敵は以前の敵より強いが、こちらも負けていない】

    「《絶壁》さんの魔法のおかげですね」

    【敵の一団に魔法を叩き込みながら呟く】
    【厄介な敵──レプリカの討伐隊──もうまく抑え込めている。絶壁の防壁、回復、支援で向こうは決定だを欠く状況になっている。例外は封印術を持つ《守銭奴》だが、それは優先的に排除している】

    「しかし意外ね……」

    【僕の隣で扇子で口元を隠した妻が言った】

    「何がだい?」
    「義勇兵よ。彼らは前回の戦いで大半が死んでいたし、今回は《塩漬け狩り》がいないのに……全員動きがいいわ」

    【前線を広く見渡せば、各国の精鋭が連携を取って攻め上がっている。が、その中で一際目立っているのは確かに義勇兵だ】

    「野郎共! 俺らを殺した奴らに目にもの見せてやれ! ボスの顔に泥を縫ったら事を忘れんな! 今度は死んでも、殺し返せ!」

    【耳をすませば、そんな声が聞こえてくる】
    【戦い方は乱雑で連携も完璧とは言い難いが、しかし意思はどこよりも統率されていた。なにより思いっきりがいい】

    「そうだね、たぶん彼らは……決死なんだ」
    「決死?」

    【後ろで回復術を使う妻が聞く】

  • 128『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/08(木) 19:20:47

    「ここで死ぬ。そう決めて、戦っているんだ」
    「ん。死兵はしぶとくて、厄介」

    【その隣で、一時回復に戻っていた猫獣人の妻が相づちを打つ】

    「なるほど……でも、真似しちゃダメですよ?」
    「そうだよ。生き残って帰ろうって決めただからさ」

    【ラミアの妻が釘を刺し、魔道具師の妻が追従し、幻術師の妻が厳しめ表情でコクコクと頷く】

    「ん。じゃ戻る。二人が待ってる」

    【それに端的に答えて、彼女は魔族とダンピールの妻がいる前線へと帰っていった】
    【その背中を見つめながら祈る】

    (無事で帰って来てくれ……)

    【僕は周りの妻達に振り返った】

    「確かに、義勇兵達のスタンスは真似しなくていい……。でも、負けてられないよ。ちゃんと働いて、胸を張って帰ろう」

    【僕の言葉に妻達は微笑み返してくれた】

  • 129『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/08(木) 21:31:28

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始32分
    《塩漬け狩りside》

    【城外に出て数分。俺達は城内で見た細身の騎士甲冑にコウモリの翼が生えた敵に襲われ続けていた】

    「ほい!」

    【が、ここで活躍したのは《無垢糸》だ。空中に大量にばら蒔いた鋼糸を操り、敵を寄せ付けない。俺が援護する必要もなく、今まさに大きな網に捕らわれた敵が落下していくのを見つつ言う】

    「掃除屋、魔王までは!」
    「残り50mです!」
    「討伐隊は!」
    「同じ場所にいます!」
    「よし。《蛮勇》!」
    「ドウシタ?」
    「壁を破壊したら頂上に向かってくれ! あの光線は外の奴らの邪魔だ!」
    「ワカッタ!」

    【鱗を通じた報告で知っていたが、あれは恐らく前の作戦で掃除屋を落としたのと同じ物だろう。今は絶壁が防いでいるが、負担は軽い方がいい】

    (できりゃあ、結界の方も破壊したかったが……そんな悠長な事してる時間はねぇな。他の奴らの頑張りに賭けるしかねぇか)

    【思考を巡らせつつ、指示を出す】

  • 130『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/08(木) 21:32:07

    「《鉄壁》! 突入と同時に魔王の正面に立てるか?」
    「ふははは! 思考の防御をお見せしよう!」
    「よし! 《無垢糸》は突入と同時に討伐隊を回収! できれば魔王の拘束もだが、最優先は討伐隊だ!」
    「はーい!」
    「《先生》はその背後で待機! 回収された討伐隊の治療を試みてくれ!」
    「──了解しました」
    「掃除屋!」
    「回避に専念して、撹乱ですね?」
    「そうだ!」

    【既に目標地点、50mなどあっという間だ】

    「ここです!」

    【掃除屋が指差す先を《蛮勇》が棍棒で破壊する】

    「スグ戻ル!」

    【そのまま頂上へ向かう彼を見送り、掃除屋が空いた穴に侵入し──】

    「……っ!」

    【──いきなり放たれた光線を回避して、中に入る】
    【その後、《鉄壁》《無垢糸》《先生》が続き、最後に俺が穴を障壁で塞ぎつつ突入する】

  • 131『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/08(木) 21:33:56

    【内部は広く円状。中央に鎮座するは真っ灰色の、巨大な影法師の様な──《魔王》】
    【ソレを中心に放射状の模様が描かれ、特に突き出た24本の線。その6本の先に、凍てついたままの討伐隊の姿があった】

    (よぉ、久しぶりだな……)

    【熱剣士の姿を目を納めると同時に、目の前の光景に困惑する】

    (で、何でこうなってんだ?)

    【《魔王》は俺に目線や意識すら向けなかった。奴はひたすらに一人の敵を──掃除屋だけを狙って指先と思われる部分から光線を放っていた】
    【既に《鉄壁》が真っ正面で対峙しているにも関わらず、だ】
    【今まさに《無垢糸》が糸で討伐隊の面々を回収したにも関わらず、だ】

    「えーと、いいんだよね?」

    【あまりの容易さに、困惑している《無垢糸》にとりあえず頷いて見せる】

    「──治療を始めます」

    【《先生》が無表情を崩さずに続けた】

    「──まるで《掃除屋》さんを恐れているようですね」

  • 132『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/08(木) 21:34:20

    【その一言にピンと来る】

    (《魔王》はダストプラネットを恐れている……!)

    【前回のカウンターを殲滅したのは掃除屋だ。しかしそれは、ブチギレしたせいだというのを《魔王》は知らない】
    【《魔王》は掃除屋がいつでもあの規模の、あの威力の変異固有スキルが発動できる、と勘違いしている】

    (なるほどな……、そんで俺らは歯牙にもかけてねぇと)

    【ふと、《鉄壁》と視線が合う。向こうも同じ事を思ったのだろう。それに俺は頷き返し、静かに対極線上に移動する】
    【そして──】

    「嘗めんのも大概にしろや!」
    「防御こそ至高ぉ!」

    【──俺達は《魔王》をぶん殴った】

  • 133二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 21:34:49

    このレスは削除されています

  • 134『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/08(木) 21:36:48

    ※今日はここまで

    (訂正
    第三作戦【魔王城攻略戦】開始32分
    《塩漬け狩りside》

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始34分
    《塩漬け狩りside》)

  • 135二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 16:01:38

    ほしゅ

  • 136『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/13(火) 03:06:47

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始34分
    《掃除屋side》

    【さけて──】

    (なんで私ばかり狙うか、)

    【さけて、よけて──】

    (わかりませんが、)

    【さけて、よけて、かわして──】

    (好都合です!)

    【《魔王》の放つ光線を回避し続けながら、掃除屋は考える。仲間達はその間にも魔王に攻撃をくわえていた】
    【塩漬けは特殊効果付きのハンマーで殴っているし、《鉄壁》はシールドチャージで突撃を続けているし、《無垢糸》は作り出した武器で多角的に攻撃しつつ糸で拘束を図っている】
    【けれど】

    (効いてない……!)

    【影法師の様な《魔王》の挙動はブレない、一貫して掃除屋を狙い続けている。光線の精度が徐々に高まっていて、いずれは捉えられる事がわかっていた】

    (熱剣士さん達は)

    【ちらりと《先生》見る。彼は六人の遺体に手を施している最中だが、見てとれる雰囲気は悪い】
    【死を固定されている彼らに対して、《先生》とは相性がよくないのかもしれない】

  • 137『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/13(火) 03:07:13

    【かと言って、他の誰ならなんとかできるかわからないが】

    (他の……?)

    【ふと、ある事を思い付く。しかし】

    「掃除屋!」
    「っ! くぅ……!」

    【塩漬けの激が飛ぶ。一瞬の思考の乱れが隙を呼び、光線によって片翼三枚が切り落とされた】
    【途端に落ちる飛行性能、彼女は死を覚悟した】

    (でも、その前に──)

    【ある場所に、火の原始精霊を飛ばす】
    【そして彼女は光線に焼き付かれた】

  • 138『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/15(木) 23:08:32

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始36分
    《???side》

    【一番最初に動いたのは誰だったのか?】
    【光線を受けて落下した《掃除屋》の治療に向かった《先生》か?】
    【それとも落下中に追撃をしようとした《魔王》の光線からタワーシールドを半壊させつつ防いだ《鉄壁》か?】
    【または《掃除屋》の事を二人に任せて口頭と十指を使い、11重詠唱を始めていた《塩漬け狩り》か?】
    【はたまた、《魔王》を拘束すべく糸を飛ばした《無垢糸》か?】


    【どれも違う】


    【一番最初に動いていたのは誰にも認識されないほどちっぽけで、誰にも気づかれず魔力を対価に願われたままにソコに入り込んだ──一つの火の原始精霊】
    【入り込んだのは熱剣士の懐。しかし、体内ではない。それ一つの存在でどうにかなるほど《魔王》の魔法は甘くない】
    【では、懐のどこに入り込んだのか?】
    【それは一つの赤き宝玉】
    【去りし日に、古き焔によって手渡され、別世界の皇女にして現人神との戦いにて試され、幾千年の時を戦い抜いて来た騎士との戦いにて結実した──その宝玉に火が入る】
    【因果をも灼き尽くす焔は、《魔王》の魔法を当然の如く灼き尽くした】

    「……〈いにしえの焔よ、灯れ〉」

    【焔を帯びた『彼』の口から詠唱が紡がれ、火は灼け移り、彼と同じ魔法を受けた者達の『死』を灼き尽くす】

  • 139『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/15(木) 23:09:18

    【立ち上がった『彼』──《熱剣士》は辺りを見渡す】
    【床に横たわった《掃除屋》、彼女に自らの手首をメスで切り裂いて血を浴びせて治療する《先生》、半壊したタワーシールドを捨て背中から新たなタワーシールドを持つ《鉄壁》、ビックリ眼でこっちを見る《無垢糸》、11重詠唱を続けながら笑う《塩漬け狩り》。そして、こちらに振り向いた《魔王》】
    【影法師の様なその姿から、口が現れた】

    [──ETERNAL]

    【声ともつかぬ音がそこから漏れる。以前にも使用した討伐部隊を全滅させた魔法】

    [──FORCE]

    【再び、それを前にしても熱剣士は冷静だった】

    [──BLI

    「させっかっ! 〈対抗呪文─カウンタースペル─〉!」

    ──!?]

    【最後の詠唱を終えようとした《魔王》の魔法は、《塩漬け狩り》の挟んだ呪文によって霧散した】
    【魔法がかき消され、止まった《魔王》を見逃す《熱剣士》ではない】
    【鞘から剣を抜く、焔を纏った剣を彼はその場で振り抜いた】

    「〈縁斬り〉」

    【焔が、熱が、世界を駆け巡る】
    【そして《魔王》はその場で糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。それと、同時に魔王城内外の全ての敵は機能を停止した】

  • 140『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/16(金) 00:14:52

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始37分

    【──全ての戦場で変化が起きる──】
    【《仁聖》の目の前で敵が文字通り崩れ落ちた】

    「何が起こったのだ……?」

    【直前に魔王城から焔が迸っていた】

    「《魔王》の魔法かと思ったが……」

    【呟く、彼の近くで空戦型の敵がぼとぼとと落ちてきた】
    【空を仰げば、続々と敵が落ちてきていた。それを《嵐災》が風で吹き飛ばしながら降りてくる】

    「大丈夫、か?」
    「ああ、他の者も恐らく《絶壁》殿の魔法で無事だろう」
    「そうか、上は困惑している者が、多い。戦いは、終わった、のか?」
    「どうだろうね。それを確認するためにも、あそこへ向かう必要がありそうだ」

    【そう言って《仁聖》は魔王城を見つめた】

  • 141『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/16(金) 00:15:29

    【一方、同じ地上部隊の《流星》と《多妻》もまた魔王城を見つめていた】

    「終わったって事でいいんスかね? なんかえらくあっさりしてるんスけど……」
    「どうでしょう? 意外とそう言う物かもしれませんが……」

    【困惑して話し合う二人の元に《無尽機》の巨体が静かに着陸した。その頭部が半分開き、《無尽機》をずっと小さくした個体が出てくる】

    『提案。確認作業を推奨します』

    【機械的に告げられ、二人は】

    「「そうなってたんですか!?」スか!?」

    【と驚いた】

  • 142『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/16(金) 00:16:41

    【そして空中要塞では、城壁の上で《学徒》が混乱していた】

    「え、一体、どういう……?」

    【ようやくヒビが入り始めた城の障壁にさらに一撃加えようとしていた所で、障壁が消え去り、敵が止まった事実を彼は素直に受け入れないでいた】
    【そこへ《絶壁》がやってくる】

    「お疲れ様ですよー」
    「え、はい……いや、なんでそんなに落ち着いてるんですか?」

    【思わず素で返事をして、いつも通りな《絶壁》に聞く。彼女は小首を傾げてにっこりと笑う】

    「恐らく熱剣士くんが復活してなんかやったんだと思いますよー。この静けさからして《魔王》も止まってるんだと思いますねー」
    「じゃ、じゃあ戦いは終わって、魔王も討伐されて、女神様の結界が張られたってことですか?」
    「そういう気配は感じないので、たぶん《魔王》自体は健在だと思いますよー? なので、乗り込んで確認しないとですねー。さ、指令室の方までいくとしましょー」

  • 143『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/16(金) 00:17:27

    【その指令室はと言えば、ある珍客の相手をしていた】

    「ほら、とっとと勇者達を回収して、魔王城に横付けしなさいな。グズグズしてないで、ちゃちゃっとね」

    【突然現れた《英雄登竜門》は、現れるなりそう捲し立てる】

    「いや、突然現れて何を言う! こちらは状況判断も、ままならぬというのに!」

    【叫んだ《率団》は現在進行形で鱗を通して雑な情報が飛び交い混乱していた。それに追従するように《ブロック》と《交渉人》が言う】

    「第一、突然戦いを降りた癖に、こっちに命令しないで欲しいだけど!」
    「戦いが終わったのなら、それを兵士に伝える必要がある。訳知り顔をしているが、実際に戦いは終わったのか?」
    「たっく、うっさいわね。《魔王》との戦いは、……まぁ終わったんじゃない? でもやることが他にあんのよ、さっさと動きなさいな」

    【《魔王》との戦いは終わったと聞き、お互いに顔を見合わせる三人】

    「ひとまず戦いが終わった触れは出して置こう」
    「そうしてくれ。但し魔王城に一定距離を置いて、待機状態を維持にするように呼び掛けてくれ」
    「とりあえず、要塞下ろすね」

    【そうして行動を始めた三人に《英雄登竜門》は満足げに頷くのであった】

  • 144『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/16(金) 00:18:29

    ※今日はここまで

  • 145 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/18(日) 17:22:59

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始51分

    【それから10分と少し、魔王城は沈黙したままであり、魔王は糸の切れた人形状態のままピクリとも動いていないが、その体には幾つもの環と鎖にて厳重に封印されていた】

    「たっく、そろそろ理由が聞きたいね? 何が、どうなってんだい? あたしらは目が覚めたと思ったらいきなりこの状態だった訳だけど?」

    【封印を施した本人である《守銭奴》は頭をガリガリかきながら言った】
    【その周囲には、同じく魔王討伐隊のメンバーが出揃っている。ちなみに《聖剣》は消音機能付き小袋に入れられている】

    「僕が魔王と邪神に繋がるパスを斬った。故に、魔王は動かなくなった。つまり、魔王は邪神とは別個の存在ではなく……文字通り、邪神自ら操る人形だったということだろう」

    【そう言った《熱剣士》は治療を終えて安静にしている《掃除屋》の側にいて、その手を握っていた】

    「あの、……なら何故倒さないんですか?」

    【挙手しながら発言したのは《学徒》。この間に横付けされた空中要塞により、この場に来た統合軍のメンバーの一人だ】

    「それについては俺が説明する。
    確かに、一気に蹴り付けて依頼完了でも、よかったんだがな……そうしたら、いきなり元の世界に帰されるかも知れねぇしよ。
    そうなったら、何がどうなったかもわかんねぇまま元の世界で過ごす事になる。そんなのは嫌じゃねぇか?」

    【潜入部隊のリーダーである《塩漬け狩り》の発言に、総大将である《仁聖》が頷く】

    「それは確かにね……じゃあ、もう倒してしまおうか? 勇者は出揃っているわけだしね」
    「まだよ」

    【それに待ったをかけたのは《英雄登竜門》】

  • 146 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/18(日) 17:23:48

    『というか、あなたは?』
    「もしや、嫌気がさして逃げだしたという勇者か(棒」
    「ああ、いたな。そういえば」
    「どうでもいいけど、止める理由を聞いていいかい?」

    【彼女の存在を知らなかった《イエスノー》、《神速》、《影》が矢継ぎ早に言い、最後に《守銭奴》が聞く】
    【対して《英雄登竜門》】

    「まぁ確かに『勇者』は揃ったけど、当事者がまだ来てないもの」

    【それを聞いて既に心当たりがある《絶壁》、《ブロック》、《交渉人》、《率団》は顔をしかめた】

    「まさか、『神』の御光臨を待つつもりですかー?」
    「え、マジで?」
    「何故、触れなくていい部分に触れたがる」
    「我らは事をなした。それでよかろうに」
    「スマナイ、何ヲ言ッテイル?」

    【《蛮勇》が首を傾げながら言った。大半が彼と同じ気持ちだろう】
    【そこで、進み出たのは──】

    「まぁまぁ、皆さん落ち着いてください。あ、お茶でもどうです? お菓子も用意してますよ?」

    【──1人の妖精(ブラウニー)であった】

  • 147二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 23:11:54

    ほしゅ

  • 148 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 19:57:47

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始55分
    《未確認side》

    【一斉に視線が集まる。中には敵意すら感じる物もあった】

    (まぁ、そーなりますよね)

    【この場面で急に出てきたら警戒されても仕方ない。勇者と名乗った所で、信じてもらえるかどうかわからない。よしんば信じてくれたとしても、今まで何をしていたと非難されるだろう】

    (でも、ここしかないですよ)

    【存在さらす場面はここしかない、そう思ったからこそ出てきたのだ】

    (最悪、殺されちゃうかな……)

    【と、思っていたが】

    「あー、あなたが24人目の勇者さんですねー」

    【胸の前で手を合わせた《絶壁》と呼ばれる細身の女性が明るい声で言った】
    【その声に一部を除いた勇者達が困惑する】

    「この者も勇者なのか?」
    「ちょっと待っておくれよ? そんな証拠がどこにあるってんだい?」
    「《絶壁》ちゃんなら当てずっぽうじゃないんだろうけどさー? 他の三人も知ってたの?」
    「詳しく聞かせて貰っても?」

    【竜人の青年《率団》と、絶世の美女《守銭奴》、軽い雰囲気の女性《ブロック》、少し背が低い魔術師《多妻》が次々と言った】
    【《絶壁》という女性は、にこやかなまま答える】

  • 149 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 19:59:40

    「まー、以前から何かいるなーという気はしてたんですよねー。《掃除屋》ちゃんからも言われてましたしー」
    『なぜ報告なされなかったので?』
    「報告は《仁聖》さん《交渉人》さん《英雄登竜門》さんにはしましたよー? 混乱を避けるという意味合いでそこで止まってたみたいですがねー?」

    【名を上げられた三人に視線が向く】

    「……そう睨まないでくれ。いるかもしれない、程度にしか聞いていなかったんだ」
    「しかし、府に落ちる部分もあった。連合軍結成、第一作戦、独立軍結成、第二作戦、統合軍編成、第三作戦……これらの事柄は全て、俺の考えているよりずっとスムーズに進んでいたからな。それに第二作戦を除けば、被害もずっと少なかった。裏で全体を強力にサポートしている存在がいてもおかしくないと考えるほどにな」
    「顔出ししてなかったのは私もおんなじだしね。そいつのポリシーにわざわざケチつけんのは野暮でしょ?」

    【三人は各々答えて、それを引き継ぐ様に《絶壁》は続ける】

    「でも24人目がいることを確信したのはこの間に来て、強襲組の皆さんと話した後ですねー」
    「えー、どういうこと?」
    「この間……?」

    【蜘蛛の様な姿をした少女《無垢糸》が首を傾げ、蘭服を着た少年《学徒》が辺りを見回す。そこで、白衣を着た人間?の《先生》が床を指差した】

    「──床に描かれている図形、その先端に当たる24本の線ですね」
    「ふはははっ! なるほどなるほど! 凍らされていた討伐隊の面々は最初、その先に立っていたな!」
    「そうだったのですね(棒」

    【《先生》の指摘に、全身鎧に盾まみれの《鉄壁》が豪快に笑い、常に表情が抜け落ちている《神速》が腕立て伏せの状態で言った】

    「……そういえば、俺達の偽物が作られていたらしいな」
    「つまり、この模様は、コピーを作り出す、その為のもの物か」

    【冷淡な青年《影》と純白のハーピィ《嵐災》が呟く】

  • 150 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 20:21:46

    「てーことは何すか? 魔王は勇者が24人いるのを事前に把握してたって事っスか?」
    『確かにそうなりますね』
    「ムムム……?」

    【お茶らけた感じの《流星》に、手に持ったスクロールから声を出す《イエスノー》。半裸の美丈夫《蛮勇》は理解が追い付いてないのか、腕を組んで唸っていた】

    『状況確認。並びに質問が二つあります。一つ、先ほど話題でた「神を待つ」とはどういう事か? そして、あなたは何故このタイミングで姿を表したのか?』

    【5mはある機械の鳥《無尽機》が前者の質問を《絶壁》達へ。後者の質問を僕へ投げ掛けた】

    「えっとー、それはですねー。戦いの最中に要塞組の皆さんや、さっき塩漬けさんと相談して出てきた結論なのですがー……」

    【言いにくそうな彼女に、歴戦の風格漂う《塩漬け狩り》が後を引き継いだ】

    「かいつまんで言えばよ、俺らは神々の賭け勝負に巻き込まれたっつー話よ」
    「えと、師匠……それはつまり女神様は急に襲われた訳ではなく……、邪神とも以前から親交があったってことですか?」

    【少し前まで寝ていた《掃除屋》が、立ち上がりながら聞いた】

    「まだ推察の粋はでねぇがな。女神は俺らを駒に、邪神は魔王を駒に遊戯をしてたってのは間違いねぇな。
    俺らの勝利条件は『魔王の討伐』だったろ?
    んで、魔王の勝利条件は『勇者全員の全滅。もしくは死体のコンプリート』ってとこか?
    賭けの対象になってんのは、やっぱ『この世界そのもの』だろうな」

  • 151 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 20:22:13

    【《塩漬け狩り》が話す度に、他の勇者の面々の感情が揺らいでいくのがわかる】

    (こっわ……)
    「魔王が侵攻に積極的ではなく、反撃に終始していたのは、出来るだけ無傷で世界を奪いたかったからか?」
    「恐らく。にしちゃあ、色々拙かったがな」

    【最後に赤い髪の剣士《熱剣士》が確認し、《塩漬け狩り》が感想を述べた後、視線がまたこちらに向く】

    「え、あ、あー……あのですね。僕が姿を現したのは、その神々が全員集まってないと出てこないんじゃ、ないかと思ったからです」

    【本当にそう思ったからだった】

  • 152二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 20:28:47

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  • 153 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 21:26:56

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始一時間
    《掃除屋side》

    (みんな怒ってますね……仕方ないですけど)

    【そう思いながら、《先生》と《鉄壁》の元に赴いて頭を下げる】

    「治療とカバー、ありがとうございました」
    「ふはははっ! 気にするな! 当然の事をしたまでだ!」
    「──元気になられて何よりです」

    【二人とも表面上、冷静だが内面では激情が渦巻いているのがわかった】
    【その時だ】
    【真っ先に反応したのは《守銭奴》さん】

    「っ! 気を付けな! 《魔王》が内側から膨らみ始めてるよ!」

    【その叫びに皆が瞬時に得物を抜く。見れば、幾重もの封印を吹き飛ばす様に魔王は膨らんでいる】
    【私もまた六枚羽に変身し、短弓を構えて矢をつがえた】
    【そして魔王が弾け飛び、そこから現れたのは──】



    「ルール違反だ! こんなの、僕は認めない! 認めないぞ!」



    【──濡烏羽色の野性的でありながら艶やかな黒髪、まるで光沢のある黒真珠の如き瞳、対照的に光さえ通り抜けそうな程に透明感のある肌、それを煌びやかな赤い服を身に纏い、散りばめられた豪奢な装飾品に負けない美しさを持った──】

  • 154 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 21:28:54

    「子、供……?」

    【──まだ10歳に満たない様に見える子供がいた】
    【一瞬、呆けた時、世界が何か優しい力に包まれたのがわかった】

    「女神様の結界が発動したようですねー。まさか自分から負けに来るとは思いもしませんでしたよー?」
    「え? それじゃあ、あの子が邪神?」

    【先生の言葉に、目を丸くする《学徒》】

    「うるさい! 第一、僕(神)の力を凌駕する力ってなんだ! チートだ、チート! 先にルールを破ったのはそっちだ!」

    【まるで、というかまんま駄々っ子の様相である。横にいた師匠がポツリと呟く】

    「絶壁が邪神はまだまだ経験の足りない子供かもしれないって聞いた時は、『アホか』と思ったんだがな」

    【しかし、当の邪神はそんな事を聞こえなかった様子で】

    「だから、こっちも遠慮しない! こうなったら実力行──」

    【熱剣士が首を切り落とし、《神速》が頭を真っ二つにする。しかし、すぐに再生する】

    「くそ! 人のはなしを」

    【振り向いた所に待っていたのは《影》の拳、さらにサンドイッチするように《蛮勇》の棍棒が振り抜かれて、頭部は叩き潰された。そして、すぐに再生する】

  • 155 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 21:29:27

    「ぶはっ! なめん」

    【と言った次の瞬間には《守銭奴》の封印と《無垢糸》の拘束と《嵐災》の嵐の檻に閉じ込められていた】

    「こんなのす」

    【《仁聖》が胴体を上下に分け、《率団》の槍が胸を穿ち、先生の防壁と《鉄壁》の盾でぺしゃんこにプレスし、さらに《ブロック》が巨大ブロックでぺしゃんこにした。すぐに再生】

    「いい加減に……!」

    【《交渉人》が懐から取り出した銃で頭を弾く、《多妻》の大魔法が炸裂し、《学徒》の〈想弾〉が風穴を開け、《無尽機》レーザーが蜂の巣にして、《流星》が爆撃する。すぐに再生】

    「ふざけ」

    【《先生》が恐らくとても苦い薬を無理やり呑ませ、師匠がハンマーでお腹をフルスイングし、《英雄登竜門》が拳骨を食らわせて、《イエスノー》が魔法剣を叩き込んだ。すぐに再生する】

    「お前ら、もう許さないぞ!」

    【私は静かに《聖剣》を抜いて、その場を離れた】

  • 156 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 21:56:46

    「いいか!僕にかかれ「エックスカーリヴァー♫」なんてな! すぐに「エックスカーリヴァー♫」やる! 神をおちょ「エックスカーリヴァー♫↓」罪は万死に「エックスカーリヴァー♫↑」罰を受けるが「エックス↑カー↓リヴァー♫↑」い! 「エックスカーリヴァー♫→」というか「エックスカ〜リヴァ〜♫(オペラ調)」んだ、こい「エ゛ッ゛ク゛ス゛カ゛ー゛リ゛ヴ゛ァ゛ー゛!!!!(デスメタ)」るせぇええっ!「エックスカーリヴァー⤴︎」お前ら! こいつを「エックス」ら「カーリ」ろ!「ヴァー⤵︎」くっそ、うぜぇ「ムッ、何者だ貴様!私の武勇伝が聴きたいか!」聞きたかない!「ヴァカめ!」はぁあ?「私の伝説は12世紀から始まったのだ!」なんだそ「朝にモーニングティーを飲み」僕のはな「昼にアアフタヌーンティーを飲み」知ら「さて、夜はどうする!」え、お酒?「ヴァカめ! 寝るのだ!」ほんとなんな「エックスカーリヴァー♪」ああ、もう「エックスカーリヴァー♫」でも、い「「エックスカーリヴァー♫(二重奏)」」え、増え「「「エックスカーリヴァー♫(三重奏)」」」なんなん「「「「エックスカーリヴァー♫(四重奏)」」」」お前、マジで「「「「「エックスカーリヴァー♫(五重奏)」」」」」んだぁぁああああ!「ヴァカめ! 人に名を訪ねる時は自分から名乗れ!」くっそ、いいか聞け! 僕の名は「エックスカーリヴァー♫」だ! って、被せん「ヴァカめ! 器のでかい私は貴様の無礼を許して先に名乗ってやったのだ!」ハァア!?「エックスカーリヴァー!(ロック)」もうやめ──……」

    【この後、《聖剣》さんの独演会は私達の攻撃を挟みつつ、四時間続きました】

  • 157 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/22(木) 21:57:37

    ※今日はここまで

  • 158〈杯の中の大海〉in50層23/06/22(木) 21:59:17

    《聖剣》さんの所で思わず笑っちゃったや

    勢いがもう凄いんよ

  • 159フロンティア30層守護者23/06/25(日) 01:21:19

    保守っぽく感想
    ダストプラネットの所でそういえば認識次第で壊れ性能だった設定を思い出しました
    やっぱり魔王的にも壊れ扱いなんですねぇ

    そしてこの量のキャラを動かすのはやっぱり凄いなあ

  • 160 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/25(日) 23:59:45

    第三作戦【魔王城攻略戦】開始二時間
    《塩漬け狩りside》

    【邪神のガキは《聖剣》と共に絶壁の防音防壁によって隔離されている】
    【この場にはテーブルが用意され、俺たちは各々の席についてお茶をしていた】
    【用意したのは《未確認》。そして俺たちの目の前では、"女神"が優雅にお茶を楽しんでいた】

    「つまり、なんだ……この一連の戦いは親子喧嘩だったってことか?」

    【女神は一通り、邪神に制裁を加えて落ち着いた俺達の前に現れた】
    【特に神々しい演出も何もなく、スッと現れた】

    『分け身の身で失礼いたしますわ。
    この度は、誠にありがとうございました。良き働きに感謝します。
    なにより、わたくしどもの事情にあなた達を巻き込んだ事を深く謝罪いたします』

    【と、すぐに俺達に頭を垂れてお礼と謝罪の言葉を述べた】
    【突然の出現に俺達も慌てたが、《未確認》が】

    「立ち話もなんですし、お茶をご用意しますね」

    【と言ったかと思ったら、すぐにテーブルと椅子、お茶にお菓子諸々が瞬時に用意されていた】
    【聞けば、この力で俺達をサポートしていたらしい。本人に曰く「国を長くよく回し、発展させるのに比べたらどってことないです!」と胸を張っていた】
    【そんなこんなで、今まで女神から事情を聞いていたわけだが、その感想が前述の俺の言葉だったりする】

    『ええ、お恥ずかしい限りですが……』

    【そう言って女神は憂いを帯びた目を伏せた】

  • 161 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 00:00:34

    【女神曰く、邪神は自らが作った息子であり、そろそろ独り立ちし新世界の創造させようとした所、邪神側が拒否した様だ】
    【女神は一時は受け入れ時を待つことにした様だが、その間に邪神は新世界創造を面倒だった為に密かに世界の乗っ取りを密かに企んでいたが、それを女神に看破された】
    【その後、争いに発展仕掛けたが、この世界に二柱しかいない神同士が争えば世界に多大な負担を与える】
    【世界を守りたい女神としても、世界を丸々手に入れたい邪神としても、それは避けたかったらしく、ルールを設けての代理戦争を行う事となった】
    【ルールは特定の駒を用意し、規定の条件をクリアする事。女神側であれば『邪神の作った魔王の討伐』、邪神側であれば『女神の指定した勇者の全滅』】
    【当初、邪神はこの世界の人間を勇者にすると思っていたらしく余裕綽々だったらしいが、女神は俺達異世界人を勇者に指定した】
    【邪神は当然抗議したが、女神は『誰を指定するかを決めるルールは存在しない』と突っぱねたそうだ】
    【そうして俺達が呼ばれ、今に至る】

    『わたくしとしては、必ず勝つべく皆様のお力をお借りしました。
    ですが、あなた方からすれば下らない喧嘩の様に映るでしょうし、この世界に来て不快な思いをした方も多いと存じ上げています。
    全ては私の甘さと不徳のせいです……改めてお詫び申しあげますわ』

    【それまで話を聞いて、俺達の中には呆れる者も怒る者もいたが、立ち上がった女神に再び深く謝罪されてしまえば抗議できる者などいなかった】

    「確かに不愉快な思いもしたけど、色々面白かったわ。それに、戦に全力を注ぐのは当然の事だもの。その点、貴女はいい選択をしたと思うわよ?」
    「頭をお上げください。我々は納得して要請を引き受け、戦場に立ったのですから……貴女様の感謝のお気持ちで十分です」

    【《英雄登竜門》と《仁聖》が代表するように言い、俺達もそれに倣い次々と女神に言葉をかけていく】

  • 162 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 00:03:50

    「まー、なんだかんだ楽しかったよ! みんなに会えたしさ!」
    「うむ! 良き仲間に出会い、良き強敵と戦い! そして、まだ自分の防御が至高でないことに気づけた! これは喜ばしい事だ!」
    「貴殿、まだ防御を固めるつもりなのか? しかし、言いたい事はよくわかる! 我もまた己の至らなさを知った! ……正直言えば少々、いやかなり暴れ足りなかったがな」
    「──貴方は軍の生命線なんですから前線に出せるわけないでしょう。私としては、これからのこの世界の医療の発展を願うばかりです。短い間ながら、仕込みはしてきましたから」
    『そんな事まで考えていたんですか……。僕はこのスクロールが手に入っただけで、この戦いに参戦できてよかったと思っています』
    「意外と物欲あんだね、あんたも。まっ、はいといいえしか言えなかったんだからしょうがないのかね。あぁ、私としてはダラダラ数百年も戦わずにスッパリ終わらせられただけで十分さ」
    「ははっ、そこまで長引いたら俺達の大半が死んでるぞ? 交渉が長引かないに事になったのは俺もよかったと思っているが」
    「不覚にも凍らされていた身としては皆よりも更に時間は短く感じたが、確かに楽しかったと言える(棒」
    「僕は、生き残れただけで……もう、それだけで……よかったです」
    「確かにね。色々ありましたが、妻達と生き残れただけで充足感があります。《蛮勇》さんには改めて感謝を」

  • 163 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 00:04:19

    「アァ、受ケ取ロウ。……俺ハ、アノ村ヲ守レタダケデヨカッタンダガ……ウム、皆ト出会エテヨカッタト思ッテイル」
    「気にするな、女神。俺は俺の戦いをしたに過ぎん」
    「ちょっとその言い方はトゲトゲしいっスよ? 俺っちは苦労も多かったし、実際疲れたっスけど楽しかったッス」
    「うん! 楽しかった! 蟲人族のみんなにも、勇者のみんなにも仲良くできたし! あ、これからよろしくお願いします!」
    「そうだな、これからも、よろしく頼む」
    『肯定。戦いを経て、多数の機能を獲得し、自己進化できました。本機は満足しています』
    「僕は皆さんとの付き合いは短かったですが、良く働いたと思うので褒めてください! 普段褒められることないんで! 気付かれないですし!」
    「悲しい事言うなって、良くやってくれたよお前は。……まっ、厄介な仕事だったがその分、いい経験させてもらった。そんでいいだろ」
    「はい。私としては不甲斐ない部分がありましたが、それを糧に邁進していきます。皆さんと出会えて、本当によかったです」
    「ですねー。楽しかったですよー。色々ありましたが、色々あった分だけ楽しかったですからー」
    「僕はまだ未熟だと知れた。未だ見ぬ強者達との出会いに感謝を……」

  • 164 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 00:04:56

    【俺達の言葉を受けて、女神は胸の前で両手を組んだ】

    『……皆々様のご恩情に感謝いたしますわ』

    【と、そこで絶壁が立ち上がった】

    「あ、ところでー。アレはどうしますかー?」

    【指差した先には、防音結界に閉じ込められた邪神と《聖剣》。いつの間にか、中で《聖剣》がぎゅうぎゅう詰めになるほど増えている】

    (地獄みてぇな状況だな……)

    【女神はそれを見て】

    『もうしばらくそのままで……、お灸を据える必要がありますからね』

    【そう言い、初めて笑った】

  • 165 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 01:51:23

    ──戦いが終わって──
    《熱剣士side》

    【あれから数日が経った】
    【四時間たっぷりと《聖剣》に付き合った邪神は、廃人の様になっていたが女神が回収した】

    (神だし大丈夫だろう)

    【それから女神は呼んでくれればすぐに帰す、と言った。そして真っ先に帰った勇者は五人だった】
    【一人は英雄登竜門】

    「やること終わったんだし、さっさと帰るわ。ほらいくわよ」
    「皆様、お元気で」

    【従者と共にさっさと帰っていった。途中、《嵐災》に声をかけていたが、なんだったのだろう。次は《未確認》】

    「では! 僕も! 帰ってやらなきゃいけない仕事が山積みなので!」

    【ハキハキした口調で、こちらに手を大きく振って帰っていった。その後に《守銭奴》と《影》と《神速》】

    「そんじゃ、時間が勿体無いしさっさと帰らせて貰うよ。もう、会うこともないだろうけど……あんたらの事は絶対忘れないよ」
    「あぁ、絶対に忘れない」
    「そして、忘れないで欲しい(棒」

  • 166 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 01:52:44

    【そうして残された僕たちは、空中要塞に乗り、待機していた兵隊と合流して帰路に着いた】
    【その途中で別れる者も三人いた。《嵐災》と《無尽機》と《蛮勇》だ】

    「私は群れに、帰る。皆、達者でな」
    『本機は本拠地に帰還します。皆様の幸運を祈っています』
    「俺ハ村二立チ寄リ、別レヲ告ゲタラ、ソノママ帰ル。皆二、戦神ノ祝福ガアランコトヲ……」

    【首脳陣が集まっている筈の大国に帰還すれば、ほとんどおらずその訳は掃除屋から聞いて、僕は呆れた】
    【そこで一夜を過ごした後、六人と別れる事になる。まずは《流星》と《学徒》と《イエスノー》】

    「たぶんこの後式典とかやるんでしょうけど、興味ないんで! 俺っちは帰らせて貰うッス! 皆さんとお元気で!」
    「僕もこれ以上こっちにいると、学業の遅れを取り返すの大変なんで……皆さんに会えてよかったです。もし僕一人だったと思ったらとてもとても……、本当に感謝してます。それじゃあ、さよならです」
    『お元気で、さようなら』

    【その後、蟲人族の族長と再会した《無垢糸》も彼らと一緒に帰る事になった】

    「しきてん? とかは、呼ばれたら行けばいいんだって! だから一緒に帰るんだ! じゃあーねー! ありがとねー!」

    【元気良く言っていたが、その目からは滝の様な涙が流れていた。そして《率団》と《鉄壁》】

    「我らはそれぞれ世話になった部族の所まで、足を運んでから帰る事にした。幸い我ら二人の領地は近いのでな。途中手合わせしながら向かうことにした。皆、息災にな!」
    「ふはははっ! 楽しい旅路になりそうだ! より至高の防御を目指す第一歩だ! 皆の頭上に星々の輝きのあらんことを!」

    【陽気な二人は手を見えなくなるまで大きく振りながら、歩いて行った】

  • 167 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 01:53:52

    【更に次の日に、《多妻》と《先生》】

    「族長の方と挨拶できたので、僕らはこれで失礼します。……妻達共々、本当にお世話になりました」
    「そうね、お世話になったわ」
    「皆さんお元気で」
    「……ん」
    「ふふ、泣きそうになってるわよ?」
    「(コクコク)」
    「意地悪言っちゃダメですよ」
    「そんじゃねー」
    「みんな、幸せつかんでね!」
    「──医療マニュアル作成、複製が完了したので私はこれで。……最後まで私を1人の『人間』として接してくれた事、感謝しますよ」

    【そして、また次の日に《ブロック》が空中要塞と共に帰ることとなった】

    「ここまで仕上げた物をこっちに置いていくなんて嫌だったし、怖いもんねぇ。いやぁ、女神様と交渉してよかったよ。
    …………あー、ほんとはさ、キャラじゃないし、明るく別れたかったんだけどさ。ちょっと無理……っぽい……うわぁあああん!」

    【彼女は絶壁に抱きついてわんわん泣いた後、顔をグズグズと崩しながら帰って行った】

  • 168 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 01:55:44

    【そして今、僕たち至宝詩編は最後の夜を迎えていた】
    【掃除屋は妖精女王と、絶壁はドワーフ族の戦士達と、塩漬けは義勇軍の面々と過ごしている】
    【そんな中、僕は《仁聖》と《交渉人》といた】

    「君らが帰れば、後は私たち二人と《聖剣》殿だな」
    「……アレは果たして帰るのだろうか?」
    「本人に聞いてみるか?」
    「いや、やめておこう……それより《熱剣士》は最後に俺達二人と過ごしてていいのか?」
    「問題ない。いや、問題はあるか。僕の部屋が大変な事になっていないとも限らない」
    「……できれば、詳しく聞きたくはないな」
    「なら、言わないでおこう。二人は、式典まではここにいるんだったな?」
    「ああ、流石に私たち二人くらいは残らないとね」
    「《聖剣》はどうするのかわからないが、《嵐災》と《無尽機》は来ないだろう。となると《無垢糸》一人に押し付けるのは……な」
    「確かに」

    【そうやってワインを酌み交わしていると、《仁聖》が不意に語り始めた】

    「今だから、そして君達だから言うが……私は今まで……、自分の思い描く『勇者』を、演じていただけだったんだ……」

    【僕は《交渉人》と顔を見合わせる】

    「勇者らしく振る舞い、勇者らしく戦い……勇者らしくあろうしていただけだったんだ……すまないね」
    「……俺はなんとなくそんな気はしていたよ。あまりにも出来すぎている、とな」
    「やはり《交渉人》には見抜かれていたね。《英雄登竜門》殿にも見抜かれていたし、もしかしたら他にいたのかもしれないね……言わなかっただけでさ」

    【それは今までの《仁聖》と違い、小さくて自信なさげな姿だった。そんな彼に僕は告げた】

  • 169 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 01:57:45

    「何を言っているかわからない」
    「え……」
    「《仁聖》、君は紛れもなく勇者だ。例え君が勇者らしい振る舞いをしていたのだとしても、君は誰もが認める『勇者』だ」
    「そうだぞ、《仁聖》……お前は勇者であろうとしたと言っていたな。ならば言ってやろう」

    【《交渉人》は少し言葉を溜めた】

    「お前は紛れもなく、そして誰よりも『勇者』であったよ」

    【その言葉に《仁聖》の目から、涙がこぼれ落ちた】

    「お前がいたお陰で、俺がどれだけ助かったと思っているか? 必要なら、具体的にどれだけ交渉が楽になったか教えやるぞ? 我が友よ」

    【最後は冗談の様に言っていたが、僕から聞いてもその言葉には真剣味があった。当然それは《仁聖》にも伝わっているだろう】
    【僕は不甲斐ない事に途中ほとんど参加していないが、この二人はその間にも絆を深めたのだろう事はわかる】

  • 170 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 02:02:41

    「君らと友と言い合える時間がなかったのが、唯一の心残りになるな」

    【僕がそう言うと二人はきょとんとして、それから笑い出した】

    「はははっ。《熱剣士》殿、君は堅物だね」
    「ああ全くだよ。友には、今からなればいいだろう?」

    【二人は面白くて仕方ないといった様にワイングラスを掲げ、それを見て僕もワイングラスを掲げる】

    「『友』と駆け抜けたこれまでに」
    「『友』と語ったこの夜に」
    「……新しい『友』のこれからに」

    【乾杯、とグラスを叩きあった】
    【その日は潰れるまで飲み明かし、朝。僕は仲間と共に、二日酔いの友人達に見送られてこの世界を去った】

  • 171 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 02:21:45

    ──エピローグ──

    【数ヶ月後、教国にて戦勝式典が行われた】
    【多くの人が見ている中、大聖堂のテラスに現れたのは三人】
    【左に見事なドレスを着飾った愛らしい少女】
    【右に黒いスーツを身に纏ったオールバックの男】
    【中央に白銀の髪を持つ、凛々しき美丈夫。その腰には煌びやかな剣が下げられていた】


    【彼は語る、戦いの事を】
    【彼は語る、仲間達の事を】
    【彼は語る、勇士達の事を】
    【彼は語る、亡くなった者達の事を】
    【彼は語る、これからの世界に希望を託す事を】
    【そして彼は語った、自らの事を】

    「……最後になるが私はこの世界に、仲間達に、勇士達に、友人達に感謝している。
    私は勇者だ。勇者、《仁聖》だ。
    そうなれた事を、そうあれた事を、そうであった事を……何よりの誇りに思っている。
    この誇りを胸に、これからを生きていく。
    ……ありがとう」


    ─END─

  • 172 『至宝詩編』@異界◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 02:26:46
  • 173〈杯の中の大海〉23/06/26(月) 07:17:14

    SSお疲れ様でしたー!!!!

    途中で強襲部隊が全滅したりコピーされて襲ってきたりしたりして絶望感が滅茶苦茶ヤバかったけれど爽やかに終わってるの最高でしたー!

    時間と労力がヤバい

  • 174『至宝詩編』◆sCf6qlU/Y623/06/26(月) 20:35:47

    感想ありがとうございます!

  • 175ごちゃ混ぜキマイラ23/06/26(月) 21:05:38

    お疲れ様でしたー!
    大変多くのキャラクターを活かしきったストーリーで面白かったです!!!!!

  • 176フロンティア30層守護者23/06/26(月) 23:19:19

    超大作お疲れ様でした!
    勇者達がいいキャラしてたなぁ

  • 177『至宝詩編』◆sCf6qlU/Y623/06/27(火) 21:41:39

    ありがとうございます!

オススメ

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