祭りの夕日を緋纏う二人【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 03:46:48

    冬の西日が眩しく照り付ける楽屋の一室、ウイニングライブ会場に付設された12畳くらいの部屋でダイワスカーレットは踊っていた。曲を口ずさみ緩やかな動作でダンスの振り付け確認を行う彼女は、本位ではない二着用の振り付けを一つ一つ確認していたが、すぐにゆるゆると首を横に振り、部屋の隅に雑に置いてあった丸椅子へ腰を下ろした。先程の有馬記念でベストを尽くしたものの2着に敗れた悔しさ、エリザベス女王杯の後にスイープトウショウと約束した有馬記念を勝つという目標を達成できなかった申し訳なさ、そして今日の有馬記念で感じたとある違和感に対するモヤモヤなど、色々な感情が渦巻く中でライブへ感情を切り替えるのは容易なことでは無い。それでも自分が1番であるためやるべきことをしよう、と立ち上がった時、ドアをノックする音がした。「スカーレット、入ってもいい?」続けざまに声が聞こえる。聴き慣れたその声の主に「大丈夫よ」と答えると、ドアがゆっくり開いた。

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 03:48:24

    「ひょっとして邪魔しちゃったかな?」机の上に置かれたダンスの振り付けが書かれた紙を見て、遠慮がちに聞かれた。「アタシは大丈夫よ。それよりお姉ちゃんの方はどうなのよ」
    「いらない心配だったね。私は去年も同じ振り付けだったし問題ないさ。」
    「そんなこと言ってると本番で間違えて引退を失敗で終えることになるわよ?」
    「ははっ、スカーレットには適わないね。」すぐに会話が弾んだのは長年一緒に過ごしてきたからだろう。部屋に入ってきた彼女の名はダイワメジャー。ダイワスカーレットの姉であり、先程引退レースの有馬記念で3着に敗れ、妹との初対決で敗北を喫してきたところであった。
    「ところで、」少し緩んだ空気の中、メジャーが声を発する。「今日のレースはどうだった?」
    「アタシは今の全力を出し切れたわ。でもゴッホさんが最後に伸びてきた時、アタシの脚は届かなかった。スイープ先輩と有馬記念を勝つっていう約束をしたのにそれは果たせなかったし後で怒られちゃいそうね。」
    「ゴッホは凄かったね。スカーレットには見えなかっただろうけど最後のコーナーでぐんぐん加速していくときは昔見たルドルフ先輩の有馬記念を思い出したよ。中山だと一段階強さが上に感じるね。」
    「引退レースなのに随分あっさりしてるわね。もう少しなんかないの?」
    「ははっ、負けちゃったものはしょうがない。後悔はないさ。」

    「本当に?」

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 03:48:58

    その一言で急に空気が締まる。
    「本当に、後悔はない?」繰り返すように問いかける。
    「どうしてそんなことを聞くんだい?顔が怖いぞスカーレット。」
    「顔が怖いは余計よ。ってそんなことが言いたいんじゃないわ。ちょっと気になったのよ。」
    「なんだい?」
    「今日のレースで先頭に立った時、後ろに凄い気配が2つあったの。ひとつは勝ったゴッホさんので、もうひとつはお姉ちゃんのだった。だけど最後の最後でお姉ちゃんの気配が急に弱まった。」
    「やっぱり2500mは長かったからね。マイルも2500mもできるオグリ先輩は凄かったと改めて思うよ。」
    「今日のお姉ちゃんはすごく調子が良さそうだった。何度もレース前のお姉ちゃんを見てきたけど今まででいちばんキラキラしてて、私と戦うためにここまで仕上げてきてくれたのかと思うとすごく嬉しかった。ウオッカもサムソン先輩もいたけど、それでも私に追いつけるのはお姉ちゃんだけだと思った。」
    「恥ずかしいね。私と戦う為だなんて誰に聞いたのかな?ひょっとしてスイーピー辺りがうっかり喋っちゃったのかな?」
    「話を逸らさないで!!!」
    想像以上に大きな声が出てしまい、自分の声に驚いき少し申し訳なさそうな顔をする中、勢いで動いた机からはらりと落ちた紙を拾って机に乗せたメジャーが先程よりも真剣さを増した表情で口を開いた。
    「すまなかった。」

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 03:50:35

    「それって...!?」
    「まずこれだけは確かな話だがあの時確かに私の脚は限界だった。差を広げられないようにするのが精一杯で、余計なことを考えている余裕などなかった。」
    「だが、最後の最後、私は余計なことを考えてしまった。」
    「何?」
    「嬉しくなってしまったんだ。」
    「どういうこと?」
    「初めてのレースから4年で、色々なことがあった。G1を勝って、喉の手術で一から出直しになって、ようやく勝てたと思ったら負けて、勝ったら負けてを繰り返した。カメハメハ、ハーツ、ムード、ディープ。戦った相手が先に引退しても私は走ったそうスカーレットと戦いたかったからだ。」
    「そしてようやく今日戦えた。自分の前を妹が走り、横には妹のライバルがいる。その状況がとても楽しかった。そして最終直線でスカーレットの後ろまで行った時、自分がもう抜かせるだけの脚を残せてないことに気づいた。そしてその瞬間私は嬉しくなってしまった。」
    「嬉しくなった?」
    「子供の頃自分の後ろを歩いてて私を抜かそうとしていた妹が、今は自分の前を走っていて、もう自分が抜かせないほど先にいる。その事がたまらなく嬉しくなってしまった。気配が弱まったのは多分このときだと思う。」
    「つまりどういうこと?」
    「私は真剣勝負の場で自分が勝てないことに悔しさどころか嬉しさを感じていた。本当に申し訳ない。」

  • 5二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 03:51:58

    頭を下げたメジャーが顔を上げると、優しい顔のスカーレットがそこにいた。「なぁんだ。」安心したようにスカーレットが口を開く
    「てっきり手加減でもしてるのかと思っちゃったじゃないの。ただ負けて嬉しくなっちゃってただけなのね。」
    「ふふっ。もし手加減してたとしたらどうするつもりだったんだ?」
    「その時はただじゃおかなかったわ」
    「おぉ怖い怖い」
    「何よそれ」
    「ところでダンスの振り付けは大丈夫?」
    「私はダンスでも1番なのよ?大丈夫に決まってるじゃない!お姉ちゃんの方こそ余裕ぶって失敗してもフォローはしないからね!」
    「それは大変だ。ちゃんと確認しないと。」
    「せっかくだしここで一緒に練習する?ちょっと狭いけど場所はあるわよ」
    「じゃあ一緒に確認しようか。こんな機会ももうない訳だしね。」
    そして丸椅子を端の方に追いやり2人はダンス練習を始めた。心の迷いもなく練習をする2人に差し掛かる西日はいよいよ消えかかろうとしていた。

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 03:57:50

    というわけで初めて書いてみました。2007有馬記念のダイワメジャーがスカーレットがいてちょっと仕掛けづらくワンチャン2着には行けてたというコメントを読んだ時ウマ娘時空なら裏でこんなことがあったら面白そうだなーという妄想を勢いで出力してみた感じです。
    完走した感想はメジャーのエミュが非常に難しかったのと色々な面を矛盾なく合わせようとするのが大変でした。メジャーのエミュはアンカツをベースに色々混ぜてます。2007有馬記念を12回くらいは見返したのでマツリダゴッホの音が耳に残る残る...
    深夜の勢いで足りないとこがありそうなので遠慮なく感想をお願いします。

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 03:58:52

    スレ画は適当です

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/12(水) 04:30:08

    ええやん メジャーとスカーレットの関係性好きよ

    ただちっとばかし目が滑るというか、一段落の区切りが(字下げ、あるいは行空けでもいいのだけどされていないので)分かりづらくなっていて、それは改善された方が読者フレンドリーかもしれないわ

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