新入生の入学式を見に行ったら妹(ウマ娘)がいた EP.3

  • 1◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 00:38:10
  • 2二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:40:01

    たておつ
    妹ちゃん、本当にそれで良いのか?

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:44:06

    立て乙、念のため10までは進めていったほうがいいかな?

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:45:08

    立て乙

    それでいいのか感はあるけど、あらゆる縁を巻き込んでいくこの感じはスポ根としてはまぎれもない主人公属性で好きよ

  • 5二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:46:22

    モチーフの方でも妹ちゃんこんな感じだからな…

  • 6◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 00:46:25

    「ふー……」
    「すぅ……すぅ……」
    「ちゃんと寝てるな」

    「……言っとくけどな」
    「俺と前担当は、ほんとにそんなんじゃないんだ。相棒……って言った方がいいのかな」
    「だから、お前が考えてるようなことにはならない」
    「そりゃ……まあ、前担当はかなり可愛いしな、元担当が言うのも気持ち悪いけど」
    「一緒にいたら楽しいだろうし、お前だって楽しいだろ」
    「俺たちにはできない料理がめっちゃうまいし、気配りもできるし」
    「……でも、それでもだよ」


    「俺は、今はお前のことだけを考えていたい」


    「他のことなんか、考えてる余裕なんかないんだよ」
    「だからお前のあれは、余計なお世話だ」

    「……くっそ、なんだこれ、めちゃくちゃ恥ずかしいな寝てるやつに向かって喋るの」
    「俺も寝よ。やること終わったし、明日からゆっくり次に向けてのこと考えていかなきゃいけないし」

    「……前担当のレースのこともあるし」

    「すぅ……すぅ……」

    「終わり。はい終わり。もう二度と口にするかこんなこと。絶対起きてたら調子乗るからなこいつ」

    「……おやすみ」

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:46:41

    たておつ
    妹ちゃん…

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:52:32

    でも寝てる相手でもこういう吐露ができるようになったあたりちょっとずつ回復してるなあと

  • 9二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:55:20

    本当妹ちゃんがにいにを救ってるわ

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 00:58:18

    にいにのために健気に動く妹ちゃんが可愛すぎる

  • 11◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 00:59:02

    ────某日、東京レース場

    「前先輩〜!!」
    「妹ちゃん! トレーナーさんも、来てくれたんですねっ」

    「元担当の晴れ舞台だからな」
    「ふふ、すごく嬉しいです。頑張りますね」
    「脚……もう平気か?」
    「もちろんですよ。じゃないと、走ったりなんてできませんから」
    「……だな」

    「え、先輩、怪我してたの?」
    「ああ……うん、ちょっとね。だからデビューが遅れちゃって」
    「なるほどっす……怪我、怖いですもんねぇ。あたしも気をつけないと」

    「席取りに行くぞ。前担当も、そろそろ戻って緊張ほぐした方がいい」
    「ぁ、はい、ごめんなさい。そうですね、そうします」
    「頑張れよ。応援してる」
    「……! ありがとうございますっ」

  • 12◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 00:59:13

    ・・・

    「おぉ〜! 座席からだとこんな感じなんだね、東京レース場って!」
    「そうか、知らなかったのか」
    「あたし、走った側なんで」
    「レース場によって座席の構えも違うしな。またG1とか、見にいけそうな重賞があったら連れて行ってやるよ」
    「え〜? あたし見るより走る方が好きなんですけど」
    「ウマ娘はみんなそう言うらしいな」
    「あたしは走るより、にぃにのそばにいる方が好きなんですけどね」
    「お前だけだよそういうこと言うの……」
    「あたちは〜、お兄ちゃんのことが〜、だ〜いすきなの〜☆」
    「きっしょ」
    「は〜? 今なんて言いました? は〜?」
    「たこ焼き食べるか?」
    「あ、食べる食べる〜」

  • 13二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 01:03:47

    言われてみれば確かに最初からそういうこと言うのは珍しいかもしれない……?

  • 14◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 01:16:00

    「ほはほふはふ」
    「どうだ?」
    「ほはひふ……んむ。値段相応」
    「……まあ、そんなもんだわな」
    「一個食べる?」
    「いらん」
    「まあまあ遠慮すんなって。あたしの奢りだぜ」
    「金出したの俺だわ」
    「じゃあ尚更食べなきゃ。にぃにのお金なんで」
    「俺が全部払ってんのに俺に当たるのは1個だけか……悲しいもんだな」
    「にぃにのものは、あたしのもの!」
    「やっぱ半分よこせ」
    「あ、ちょっ、一個だけだぞ!」
    「はふはふ……はひはふ」
    「ね、値段相応でしょ」
    「ん、ぐ……っむ。確かに」
    「まあでもこういう場所で食うと結構うまいもんだな。ビール飲みてえ」
    「ビール片手にレース観戦とか完全に休日のお父さんだよ」
    「おとん、スポーツ観戦してる時だいたいそのスタイルだもんな」
    「悲しい、悲しいよあたしゃ。大好きな兄がおとんみたいになってしまうなんて。思春期特有のおとん嫌い発症しそう」
    「おとん泣くぞ。ただでさえお前にゲロ甘なのに」
    「ちょっと我慢して甘えたら、大概のお願い聞いてくれるからちょろいっすわ」
    「なんか俺まで悲しくなってきた」
    「にぃやんのことは〜、ず〜っとず〜っとだいすきなの〜☆」
    「……」
    「えっいま舌打ちしました?」
    「した」
    「認めるのかよ!」

  • 15◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 01:20:51

    「お、ファンファーレ」
    「そろそろ出走だな」

    〈本日ここ、東京レース場で行われる大学リーグ、デビュー戦〉
    〈各出走ウマ娘の紹介からさせていただきます────〉

    「あ、前先輩だ。お〜い! 前先輩〜!」

    「ちょ、見てよにぃやん手振ってくれてるよ!」
    「はいはい」
    「振ったげなって!」
    「恥ずかしいからやだ」
    「あーもうじれってぇ!」
    「ちょ、おい」
    「おーいせんぱーい!」
    「勝手にヒトの手つかって振んなよ」
    「にぃやんのものは、あたしのもの!」
    「俺の身体まで奪わんでくれ……」

    〈各ウマ娘、ゲートに収まりました〉
    〈大学リーグ、2000m────スタートです!!〉

  • 16二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 01:22:28

    こっちもドキドキするな
    前担当ちゃん以外もトゥインクルシリーズ卒業したすげえやつら集まってそうだもんな

  • 17◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 01:42:14

    「うおっしゃー! 始まったー!」

    ゲートが開くと同時、前担当は飛び出す。先日の妹を思い出すような好スタート────そして淀みない足捌きでそのまま好位置に身を置いた。
    前担当の脚質は先行。

    この点も妹と同じで、だから俺も教えやすかったところはある。前担当が積み重ねてくれた経験のおかげだ。

    「おおっ。前先輩いい感じ〜」

    妹が感嘆の声を漏らす。
    確かにその通りで、今のところは順調だ。
    うまく進路を塞ぎ、マークしてくるウマ娘を自由にさせないよう立ち回っている。

    トゥインクルシリーズで走った3年間は、あの子の中でしっかりと根付いているみたいだ。

    「……頑張れ」

    妹にも聞こえないよう、小さく漏らす。

    ────大学リーグ。
    その名の通り、大学生のウマ娘によるレース形態で、トゥインクルシリーズを主催するURAが、全盛期を過ぎても走りたいという気持ちを持つウマ娘に、走る場を用意したいとして作られたものだ。

    全盛期を過ぎた────という言葉通り、今ここで走っているウマ娘たちは本格化が過ぎ、それでもトゥインクルシリーズで出走すると、所謂ロートルのような扱いを受ける。
    そんなウマ娘たちに与えられた場が、このリーグだ。

    確かに比べてしまうとペースも速いわけではないし、どちらかと言えばスローペース寄り。
    この中に妹を放り込めば、きっと誰よりも強いフィジカルを発揮するだろう。

    しかしこのリーグは、フィジカルだけでは勝てない。

  • 18◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 01:42:51

    身体が弱ってきたウマ娘だからこそ、走るために練られた作戦が強く光る。
    いかに自分の優位になるような走りをするか。
    いかに周りを優位にさせない走りをするか。
    いかに自分が勝つための下地をレース展開に織り込むか。

    それが試される、とても泥臭いレースだ。
    大きな花はないが、技巧で俺たちを魅了してくれる────これもウマ娘が作り上げるひとつの形。

    走るために生まれてきた彼女たちの、大きな軌跡。

    大学リーグのレースを生で見るのは初めてだ。前担当の走り方も、俺が知っていた頃より変わっているし……カメラを回しておけば良かったと少し後悔した。

    だが、それ以上に。

    「……、ぁ、あ」
    「にぃやん? ……え、泣いてる? ど、どしたん!? ちょ、なんで泣いてんの!?」
    「いや、ぃゃ……なん、でも……ないから」
    「あるでしょーよ! ど、どうしたらいいあたし!? お茶買ってくる? それともなんかこう、えと、ハグするか!?」
    「しねぇよ、アホ。大丈夫だから見とけよ」
    「で、でもさ」
    「ほら、もう第4コーナーだ」

  • 19二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 01:45:50

    第4コーナー……まさか見れるのか?

  • 20◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 02:03:15

    〈9番ものすごい勢いだ! 先頭からは3バ身!!〉
    〈さあ残り400m! 東京レース場、最後の難所へと差し掛かります!〉

    第4コーナーを超え、最終直線に入って程なくして現れる魔物。
    見るものには聳え立つ壁のようにすら感じると言われている、高低差2mの坂。

    1600mを走り抜けた先にあるこの坂は、文字通り心臓破り。200mの距離をかけて登るこの坂道では、トゥインクルシリーズを走るウマ娘たちですら容易に走破できるものじゃない。

    「っ……はぁぁああああっ!!」

    張り裂けるような声。全てのウマ娘が声を発し、おのれを奮起させ、坂道へと踏み入れていく。

    〈9番、一気に坂を駆け上がる! 2番、3番も粘る! 粘る! だが苦しそうだ!〉
    〈9番、ついに先頭のウマ娘4番と並んだ! 猛烈な追い上げを続ける9番、このまま差し切れるか!〉

    「……ゾーンって聞いたことあるか?」
    「飲み物?」
    「違う。“領域”……一握りのウマ娘のみが到達できると言われている、超集中状態。限界を超えた先にある、未知の世界」
    「……厨二か? おばちゃんいま大事なレース見てるから、後で聞いてあげるから」
    「ゾーンに入ったウマ娘は、時代を作るといわれている。ミスターシービー、マルゼンスキー、シンボリルドルフ、タマモクロス……特にこのあたりはように使いこなしていたらしい」
    「はぁ……で、それが?」
    「前担当は、それに近い芸当ができる」
    「えっ」
    「わかってる。あいつはG1には勝てていないし、最高成績でG2だ。時代を作るようなウマ娘じゃない」
    「じゃあ、なに……?」
    「かなり近いところまで潜り込めるんだ。自分の世界に」

  • 21二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 02:10:23

    本当に見れるとは!?成績を考慮するとカノープスの固有くらいのラインってところか
    アーティファクトの通りなら極めて特異なゾーンになるが果たして……

  • 22◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 02:14:31

    「前先輩は……そうなると、どうなるの?」
    「条件というか……その状態になるには、まずは一騎打ちの状態を作る必要があるらしい」
    「1vs1ってことね」
    「その状態で競り合っていると、分かるようになるんだと」
    「……分かる?」

    「相手の視界。視線。呼吸を入れるタイミング。なにを考えているか。次にどう動くか。目ではわからないものが、手に取るように分かる……らしい」

    「はぁ……やっぱ厨二か? 妄想か?」
    「前担当に言っといたろ、それ」
    「ちょ、おいやめろよ! ……ほんとなの、それ?」
    「そうみたいだ。実際に────ほら」

    〈9番抜け出した! 4番はこれ以上は無理か、競り合えないか!〉
    〈ついに9番が先頭に立った!〉

    「え……なに今の……なんかすごい気持ち悪い抜け出し方しなかった……?」
    「ああ。それが、分かったってことらしい」
    「マジか……」

    明らかに不自然な挙動でするりと4番を交わした9番────前担当は、ようやく掴んだ二分の一バ身をリードし続け、


    〈ゴォォーール!! 大学リーグデビュー戦、制したのは9番!! 2着に4番! 粘りに粘った3番と2番は写真判定となります!〉

    「はぁ、はっ……はあっ……!」

    「トレーナーさん、勝ちました! 私、勝ちましたよ……っ」

  • 23二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 02:17:01

    なるほど、異能はそう調理したか
    割と強いなこれ

  • 24◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 02:22:31

    「やったやった! 前先輩勝った! おめでと〜!」
    「っ、ぐ……ぅ……」
    「おい泣いてんのかよっ」
    「ごめ、っ……ちが、……ぐす……っ」
    「元担当がまた走って勝てて嬉しいのね、よしよし」
    「やめ、触っ……あほ……」
    「喋れてないじゃん……ったくもぉ〜」
    「……、……っ……」
    「…………次はあたしが勝って泣かせちゃうからね、お兄ちゃん」

    ・・・

    「前先輩!」
    「妹ちゃん。見てて、くれた?」
    「もっちろんですよ! かっこよかったよ〜」
    「ふふ、なんだか恥ずかしいな……って、トレーナーさんは?」
    「あー……いや、なんといいますか……」
    「もしかして帰っちゃった……?」
    「や、ちゃいます! います、座席で!」
    「ぁ……そ、そうなんだ」
    「多分、いまの顔見られたくないんだと思いますよ。死ぬほどブッサイクなんで」
    「ぶっ……え、……え?」
    「先輩が勝つとこ見たらボロ泣きしちゃって。よっぽど嬉しかったんですね! あたしもめっちゃ嬉しい!」
    「……!」
    「……え、先輩?」
    「ぅ、う……っ……うう……」
    「えっうそだろこっちもかよ」
    「と、れっ……ぅ、……うぅぅ……っ……」
    「ちょちょちょ、なんなの、なんなのも〜! あたしこんな役回りなの今日!? どういうことなの〜!」

  • 25◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 02:38:07

    「……お恥ずかしいところを、お見せしました」
    「いえいえ。くっそボロ泣きでしたけど」
    「はい……お恥ずかしい」
    「とりあえずにぃやんには黙っときますね、教えたら泣いたってこと」
    「そうしてもらえると、助かります……」
    「まあにぃやんも泣いてたし、ボロ泣き仲間ってことで!」
    「い、妹ちゃん……」
    「あ、ちなみにあたしいじれると思ったらとことんいじり倒します」
    「え、ぇえ〜?」
    「ぐっへっへ、これからは前先輩も存分に遊び倒してくれるぞよ〜」
    「あははっ、も〜」
    「っと……すみません、地下バ道まで会いにきちゃって。これからウイニングライブですよね?」
    「あ、そうだね……といっても、トゥインクルシリーズほど豪華なものじゃないよ。ローカルリーグみたいなものだし……あくまで、見にきてくれたヒトに感謝を伝えるのがメインなの」
    「なるほどっす。して、何を歌われるので?」
    「ま、まあその……ぇと、お、お楽しみに」
    「え、ずる〜い! 教えてくれないんですか〜?」
    「あとで、ね」
    「はぁ〜い」
    「……ねえ、妹ちゃん」
    「はい?」
    「私の走り……何か、参考になったかな」
    「えっと、りょーいき? ぞーん? ってやつ……?」
    「ああ……と言っても、私の“領域”は不完全なものなんだけどね」

  • 26◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 02:38:19

    「なんか、相手の考えてることとか、見てるものがわかるようになるとか……」
    「うん、そうなの。一騎打ちになった時、集中すると……手に取るように分かるの。相手のヒトの、欲しい情報が」
    「なんか頭おかしくなっちゃいそー」
    「そんなことはないよ。初めは驚いたけど……1番驚いたのは、走ってるヒトの記憶、や、経験みたいなものが流れ込んできた時だったかなぁ」
    「やっべえ……あたしの記憶も読まれちゃう〜?」
    「ふふ、一緒に走ったら、そうかもね」
    「勘弁してくださいお願いします!」
    「わ、ちょっ……ほ、本気にしないで? 私も完全に扱い切れてるとは、言い切れないから」
    「ウス! ……先輩の走り、参考にさせていただきます」
    「ふふ、はい。私なんかで良ければ」
    「と、それじゃ! ボロ泣きしてるにぃやんがそろそろボロ雑巾になっちゃうとこだと思うんで、様子見てきまーす。ライブ楽しみにしてますね〜」
    「うん、またあとでね」

  • 27◆iNxpvPUoAM23/04/13(木) 02:41:39

    本日はここまで
    ありがとうございました

  • 28二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 02:42:59

    お疲れ様でした〜
    大学リーグの設定めちゃくちゃ良かったです!

  • 29二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 02:43:46

    乙でしたー
    大学リーグの技の世界すごい好きだわ

  • 30二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 02:50:24

    おつ
    続きが楽しみで眠れないから24時間更新して♥️

  • 31二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 08:19:43

    保守

  • 32二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 10:41:26

    みゃーこ先輩好き

  • 33二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 14:26:12

    前先輩かなり強い簡易領域あるのににぃやんは曇ったのか?
    G1勝てなかったとはいえG2で勝ててるだけでも普通に上澄みな気がするんだけど

  • 34二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 14:29:17

    >>33

    現実の競馬でディープボンドを応援してる身から言わせてもらうと、G1勝ちきれないってかなり辛いぞ

    一ファンでこれだから、関係者なら尚更かと

  • 35二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 14:41:51

    >>33

    スポーツは勝負と求道の世界だからな

    こういうのは行けそうで行けない銀銅メダリストの方が普通に負けているのよりも精神削られるもんなのよ

    ネイチャがその実かなりの名バだけどその辺りの事情でネチャネチャしてるのに近い

  • 36二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 14:44:44

    >>34

    >>35

    なるほどなぁ

    勝ちきれないって確かに言われてみたらかなり辛いか

    能力の制限的にも一騎打ちで発動して、それでも勝てないってよく考えたらめちゃくちゃキツイわ

    前先輩のメンタルもボロボロだったろうな

    怪我の匂わせもあったしかなりの大怪我もしてそう

  • 37二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 15:04:43

    中距離辺りの王道路線進んでるとG1なんて魔境だよね
    G2勝てるだけの実力あったらG1勝利も現実的な距離にあっただろうし悔しさは増すよね

  • 38二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 17:20:02

    怪我と言えば大学デビューが遅れた原因だけど、
    ラストランはラストランとして走ってる感じの描写もあるんだよね
    もしかして事件は年末の中山で起きたのかと思ってしまう
    無理した顔とか気づいてやれなかったが精神的な意味と同時に爆弾を指していた可能性というか

  • 39二次元好きの匿名さん23/04/13(木) 22:19:44

    前担当ちゃん駆け引きに強い領域だから、大学リーグとは相性良さそう

  • 40二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:52:45

    前担当ちゃんの祝勝会が楽しみだ…

  • 41二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 09:12:04

    今日は更新あるかしら

  • 42◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 12:21:15

    ・・・

    「ごめんなさい、送ってもらうことになっちゃって……」
    「気にしなくていいよ。それより、そっちこそよかったのか? 大学のチームのヒトとか、トレーナーとかさ」
    「それは、大丈夫です。現地集合、現地解散がうちのチームなので」
    「ドライだな……せっかく勝ったってのに」
    「後日、お祝いしてくれるみたいです。レースの日はすぐに帰って休むように、と言われていまして」
    「なるほどな。なら早く帰らなきゃ」

    「前先輩乗せて正解だったっすね〜! 電車だったら乗り換えとかあるし、気も落ち着かないし」
    「ああ、そうだな。それに車の方が速い」
    「前先輩乗せて帰ろーって言いました、あたし!」

    「ありがとう、ごめんなさい」
    「いいんすよぅ、どうせ運転するのにぃやんなんで」
    「私も運転、できたらいいんだけど……まだ免許取れてなくって」
    「通ってるんですか?」
    「うん、そうなの。練習があるから、ゆっくりだけど」
    「じゃあ免許取れたら隣乗せてください! にぃやんは留守番ね」

    「……」

    「ち、ちゃんと乗せますから、トレーナーさんも!」
    「俺はいいよ。妹どこか連れてってやってくれた方が嬉しい。たまには1人の時間がほしい」

    「んだとぉ!? あたしが邪魔と申すか貴様!」
    「割と頻繁に思ってる」
    「ひどいっ!」

  • 43◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 12:22:57

    「ふふ〜」

    「ん?」
    「トレーナーさんと妹ちゃん、仲良くていいな〜って」

    「いや、全然そんなことないからな」
    「えっ! どこがそう見えます!?」

    「とっても仲良しですよ。一緒に暮らして、担当までしてあげて……トレーナーさんはとってもいいお兄さんだし、妹ちゃんは……トレーナーさんを笑顔にしてくれた。素敵な兄妹だと思います」

    「なんだよ〜、シスコンかよ〜」
    「……」
    「おいため息やめろ。運転しながらのため息やめろ、顔見えてないから色々な感情考えちゃうやめろ」
    「降りろお前。帰ってくんな」
    「ひどい!」

    「ふふふ、ほらまた」
    「ほんとにどこ見てんですか前先輩!? 降りろって言われましたよ、帰ってくんなって言われましたよ!」
    「でも、本気で言ってるわけじゃないのは妹ちゃんも分かっているでしょ?」
    「……それは、まあ」
    「それにトレーナーさん、ずっと妹ちゃんのことばっかり考えてると思うな」

  • 44◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 12:23:31

    「む……ほんと? にぃやん?」

    「ちょ、前担当なに言ってんの!?」
    「考えてあげていないんですか?」
    「い、いや……考えてる、ような……ないような」
    「……あなたは、担当のことを第一に、自分の生活を後回しにしてまで考えてくれる……とても優しいヒトです」
    「……、……んん」
    「でも、私たちにとってはそれが1番不安で心配なんです。ね、妹ちゃん?」

    「ぇ……べ、別にあたしはにぃやんの心配とか……」
    「してないの?」
    「……してるような、してないような……」
    「ふふ、ということなので、トレーナーさんはもっと自分のことを大切にしてくださいっ。これが現担当と元担当からお願いしておきますね」
    「まあ……しといてあげますか。感謝するんだぞ、にぃやん」

    「……善処、する」
    「はい、ぜひとも」

  • 45◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 12:36:09

    「そういや……晩飯どうする?」
    「え、食べて帰ろーよ。前先輩の祝勝会したい!」
    「そうだな、俺もそう思ってた。……けど、大学の方針は早く帰って休め、だっけ?」

    「ぁ、えと……それは、そうなんですけど。……わがまま……言っちゃっても、いいですか?」

    「ですってよ、兄上」
    「ふむ、どうしたもんだろうな」

    「ぇ……?」

    「我が家の家訓はいい子にしたら願いを聞いてやる、だ。わがままな子はちょっとな」
    「うむうむ。そのおかげで、あたしはいっつもお願い事聞いてもらい放題。おとんはあたしに激甘っすわ」
    「お前ほどわがままで狡猾な妹は知らん」
    「なんだとぅ!?」

    「ぇ……え、と……ぁ、ご、ごめんなさい、やっぱり迷惑でしたか……?」

    「でもにぃやん、兄上、お兄さま」
    「なんだ妹」
    「先輩、今日のデビュー戦で勝ちましたよ?」
    「ふむ……じゃあいい子だな」
    「すごくいい子だ」
    「いい子の願いは聞いてやらんとな」
    「そういう家訓ですからな」
    「よし、祝勝会するか!」
    「やるぞ!」

    「ゎ、わぁ……い……? で、いいの……かな?」

  • 46◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 13:08:30

    「前担当、なに食いたい? 行きたいとこ連れてく」
    「ぁ……ほ、ほんとにいいんですか……?」
    「もちろん。前担当のお祝いなんだ、これくらい当たり前だろ」
    「えへへ……なんだか、嬉しいです。トレーナーさんにお祝いしてもらえるの、ほんとに、ほんとに……久しぶりで」
    「……そうだな。また、できるなんて思ってなかったよ」
    「ふふ、もっとあなたのそばで走ることができたら……勝つことができたら、もっとお祝いしてもらえたのになぁ」
    「それ、は……でも、また出来るんだから、気にするなよ」
    「……はい、そうしておきます」

    「にぃやん」
    「ん?」
    「復縁した恋人か?」
    「は?」

    「……っ!? ……! ……!!」

    「あらやだ先輩照れてます? 照れてます?」
    「ちょ、ちょっ……い、妹ちゃん……っ!」
    「顔真っ赤! 先輩可愛い!」
    「ごめんなさい……勘弁してください……」

    「嫌がってんだろやめろアホ」
    「嫌ですいじります。最近のにぃやんは先輩絡むとなんかキモい空気出すので」
    「……」
    「はい〜、ため息ワンパターン〜。そろそろ新しい方向性の開拓してもらいたいもんですね〜」

  • 47◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 13:08:41

    「あ、近くにお寿司屋さんがあるみたい。妹ちゃん、お寿司とかどうかな?」
    「おぉ〜! いいですねいいですね、回らないやつですか?」
    「ううん、回転寿司。チェーン店の、100円のやつ」
    「……先輩、祝勝会っすよ? お祝いっすよ? なんで100円寿司なんすか……」
    「え……? でも、安いし……これでも贅沢なんだよ、私にとって」
    「いやいやいや、安いからじゃないんすよ。お祝いなんだからもっといいもの食べましょうよ、どうせなら回らないお寿司行きましょうよ、全部にぃやんが出すんで!」

    「おい」

    「でも、それなら尚更安いものがいいでしょう? 出していただくなら、尚更」
    「いいとこのお嬢様の姿か、これが……?」
    「節約に倹約、とっても大事です。贅沢は敵なのです」
    「戦時中の日本かよ……」
    「そ、そこまで極端じゃないよ、ただ、抑えられるところは抑えたほうがいいってだけで」
    「まあそれは、そうですけど……先輩、いいとこのお嬢様なのに、えらい庶民的ですね……」
    「ふふ、でも私も、これでよかったって思うよ。みんなと同じ目線で過ごせるから。だから今夜は、回転寿司がいいな」
    「なるほど、勉強になります。じゃあにぃやん、回らない寿司屋で」
    「うぃ」
    「ぇ……あ、あれっ!?」

  • 48二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 13:11:16

    やっぱり倹約家なのね

  • 49◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 14:08:19

    ・・・

    「好きなの頼んでいいぞ」
    「わ〜い! まずはマグロでしょ、サーモンでしょ、いくらでしょ〜」
    「前担当も遠慮しなくていいからな」

    「は、はい……ぇ、と……たまごで」

    「1番安いやつじゃんそれ!」
    「だっ……だって、どれも500円以上しちゃってるよ……!? 妹ちゃんのマグロなんて2貫で1000円もしてるよ!?」
    「いいんすよぅ、にぃやんのお金なんで」
    「だからこそだよっ!? さっきもそのお話したよねっ!?」
    「あ、うに頼も〜」
    「に、にせんえん……」

    「遠慮しなくていいんだぞ」
    「ぅ、うぅん……も、もう遠慮というか……」
    「月一回の贅沢だと思ってさ。俺たちがお祝いしたいんだ」
    「ぁ……は、はい……では、その………………やっぱり玉子で……」

    「令嬢の姿なのかこれが……?」

  • 50二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 14:15:05

    い、いずれにせよまずはタマゴだっていうし……(震え)

  • 51◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 14:15:16

    「それじゃあ先輩のデビュー戦勝利を祝って〜」
    『乾杯っ』

    「乾杯〜……といいつつ、みんなお茶なんですけどね」
    「酒は飲めねーからな。俺は車で、お前らはまだ未成年だ」

    「ふふ、わかってますっ。……それじゃあ、ええと、その」
    「食べようか」

    『いただきます』

    「……、ぇうま……えっ」
    「うん、めちゃくちゃうまいな」

    「……ほ、本当に食べていいのかな……こんなに高いお寿司……」
    「いいんですってば〜! じゃないとあたしが食べちゃうぞ〜?」
    「ぁ、う、うん……どうぞ?」
    「いや譲るなよっ!? 食べてくださいよ先輩」
    「は、はい……、……おいしい」

    「だって。よかったね、お兄ちゃん」
    「……ああ、そうだな」

  • 52二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 14:21:43

    見た目は9nineのみやこで性格はコレまた9nineの天かな?

  • 53二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 14:23:50

    >>52

    多分前担当ちゃんが都で妹が天かと

    (スレ画は前担当ちゃん)

  • 54◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 14:35:16

    ・・・

    「今日はご馳走様でした、トレーナーさん。また、お礼しなくちゃ……」
    「いいよ気にしなくて。この前、飯作ってもらったし」
    「それじゃあまた、ご飯作りに行きます。食べたいもの、考えておいてくださいね」
    「ああ、考えとく」

    「え〜! 泊まってけばいいのに〜!」
    「ぁ、あはは……さすがに、それは」
    「もっと夜通しお祝いしたい!」
    「でも、流石にご迷惑だし……また今度、遊びに行くからね
    「なんなら一緒にお風呂入ってお話もしたい!」
    「それは……ふふ、楽しそう。私もしたいな」
    「じゃあじゃあ────いぃってぇ!?」

    「しつこいぞお前。困らせんな」
    「ちぇ〜……」
    「それじゃあ、前担当。しばらくゆっくり休んで、また、走ってくれ。次のレースも楽しみにしてるよ」

    「はい、ありがとうございます、トレーナーさん」
    「……なんか、変な感じだ」
    「え……?」
    「いや、よく考えたら俺はもう前担当のトレーナーじゃないのに、ずっとトレーナーって呼ばせてたから」
    「ぁ……こ、これは、でも……その、私にとっては、」
    「いいよ、好きに呼んでくれて」
    「……はい、そうさせてもらいます。トレーナーさん」

  • 55◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 14:35:27

    「いいのかよ兄貴ぃ」
    「なにが」
    「名前で呼んでもらうチャンスだぞ? いいのか、いいのか?」
    「なんなのお前。前担当が絡むとめちゃくちゃめんどくさくなるなお前」
    「気振ってやってんでしょうが、わっかんないかな〜」
    「アホかお前。ほんとにアホかお前。このアホ」
    「おい、3回も言うな3回も。アホって3回も言うな」

    「……、……」
    「わあ先輩真っ赤! また真っ赤! やっぱ可愛い!」
    「ほ、ほんとに、勘弁してください……」

    「……帰るぞ。おやすみ、前担当」
    「ぁ……お、おやすみなさいトレーナーさんっ。それでは、また。今日はありがとうございました」
    「こちらこそ。また」

    「またねっ、前先輩〜」
    「またね、妹ちゃん」

  • 56二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 14:46:34

    妹ちゃん…それでええんか…?(2回目)

  • 57二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 15:00:39

    >>53

    なるほど、今から1から見てくる


    となるとそのうち春香や乃亜みたいな子が出てくるのかね

  • 58◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 15:00:39

    「はー……」
    「疲れたか?」
    「ううん、だいじょぶ。でも、やっぱりあれだね」
    「ん?」
    「ヒトが走ってるの見ると、走りたくなっちゃうね」
    「……やっぱ、ウマ娘ってそうなんだな」
    「うん、そうみたい。次こそ勝って、にぃやんを安心させてあげたいですしね」
    「別に焦ることないんだぞ。まだクラシックには間に合うんだし」
    「あたしが嫌なの。とりあえず1回勝って安心したいの」
    「なら出るか。未勝利戦」
    「……ほんと?」
    「ああ。でも日程は……そうだな、早くて三週間後。いつまでもあいつに負けたままは、悔しいしな」
    「あの子……」
    「あいつはデビュー戦の段階で規格外すぎる。たぶん、“領域”に近いものを掴んでる」
    「……ぞーん、だっけ」
    「ああ。あのあと動画を見直してて思ったんだけどな。お前と競り合った瞬間の加速は……不自然さを感じた」
    「……あのときね」
    「うん?」
    「並んだ瞬間……ううん、少し、ほんの少しだけ前に出た……んだ。腕の振りの反動で、一瞬だけだけど……そしたらね」
    「うん」
    「……急に、身体が重くなった」

  • 59◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 15:03:32

    「重く……?」
    「腕とか、脚とか……全身も、なんだけど。石になったみたいに、重くなった……ような、気がしたの」
    「……それで、置いていかれたのか」
    「かも……分かんない、まだあたしもよく分かってないし」
    「もしそれが“領域”の力だとしたらやばいな。プレッシャーか? 身体が咄嗟に硬直してしまうほどのプレッシャー……」
    「……しばらく会うことがないって、安心はしてる。あの子は三冠路線って言ってたし」
    「そうだな。お前はティアラ路線……それでいいんだよな」
    「それはそうです。あたし、王冠よりティアラの方が好きなんで。可愛いから」
    「じゃあぶつかるのは……シニア級になってからだな」
    「だね。……まだまだ1年以上はあるけど、あと1年後には、また」
    「今度は勝とう」
    「……うん、頑張る。ちゃんと鍛えてよね、お兄ちゃん」
    「任せとけ。俺が背中を押してやる」
    「ねえねえ、あたしが勝ったらさ、前先輩も喜んでくれるよね」
    「ああ、きっと喜ぶよ」
    「へへっ! よし……明日、朝からトレーニングしよ!」
    「いいのか? 明日は休みじゃなかったか」
    「休みなど関係ないのですぞ兄上。妹様は走りたいと思った時に走るのです。兄も付き合え?」
    「仕方ねーな。付き合ってやるか」
    「よっし! 2戦目だ〜!」

  • 60二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 15:16:02

    このレスは削除されています

  • 61◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 15:35:22

    三週間後、阪神レース場────

    「すー……はー……」
    「いいか、今回の未勝利戦は1800m。お前のデビュー戦よりも200m長い」
    「わかってますよ〜。それにゴール前の坂……そこまで出来るだけ温存しないと、でしょ?」
    「それにここは外回り……コースを間違えるなよ」
    「何十回も動画見させられたし、だいじょーぶ! 妹様は天才なのだ」
    「いやお前かなりアホだから心配なんだけど」
    「おいやめろ、レース直前にそういうこと言うのやめろ、普通に辛いぞ」
    「まだクラシックまで余裕はある。無理して勝つ必要はないが、勝ってこい」
    「なにそれ。矛盾してんじゃん」
    「勝つ気でやってこいってこと。俺に祝勝会させてくれよ、妹様」
    「……! よ〜し! 勝ったらご褒美もらお!」
    「おぉ、考えとけ。2割の確率で聞いてやる」
    「そこはなんでも聞けよ!」

    「ゴール前で待ってる。がんばれ」
    「……うん、頑張る! いってきます!」
    「ああ、いってらっしゃい」

  • 62二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 15:41:04

    距離かー
    ティアラ三冠なら2400、ライバルと挑むシニアを見据えるなら3200とは言わんでも2500はいけるようにならなきゃだもんな
    伸びていくのはしんどいだろうけどがんばれがんばれ

  • 63◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 15:53:54

    〈阪神レース場、未勝利戦〉
    〈1番人気はゼッケン4番。メイクデビューでは惜しくもクビ差で────〉

    妹は4枠4番。良くも悪くもない普通の位置……だろうか。
    でも、大丈夫だ。あいつなら、大丈夫。

    問題は仕掛けるタイミング。
    長い直線が続く阪神の外回り────スパートのタイミングが最重要課題になる。

    妹の走りはスピードもパワーもある。なによりも、あいつ────デビュー戦で勝てなかったあいつと一瞬でも競り合えた。

    ……いける。勝てるはずだ。

    〈さぁ各ウマ娘ゲートに収まりました。体勢完了です!〉

  • 64◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 16:09:48

    〈スタートしました!〉

    〈おっと1人出遅れたか! ほかの9人は綺麗なスタート! ゼッケン4番うちに切り込んで好位置につけました!〉

    「よし、いいぞ!」

    妹は好スタートを切り、そのまま好位置についた。デビュー戦でも出遅なく切れたし、スタートはもう完璧だな。

    「それにしても、あの出遅れは……」


    「ぁ、あ……は、は……っ……」


    すごい慌てぶりというか、なんというか。
    必死に追いかけてるが……集中を欠いたか、緊張に飲まれたか。
    妹もそうならないように気をつけなくちゃいけないな。


    〈ゆるやかに大きく外を回って、先頭は下り坂へ入っていきます。長い長い直線です!〉


    レースは澱みなく進み、妹の位置取りはそのまま、最終直線へと差し掛かっていく。

  • 65◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 16:11:39

    阪神レース場の外回りは473mもの最終直線があり、そしてゴール手前、200mの位置に存在する急勾配の坂。

    約1.8mもの高さを120mで登りきらなければならない心臓破り。

    東京レース場のそれに匹敵するレベル────だが、この坂は何度も練習した。


    トレセン学園のグラウンドは東京レース場とほぼ同じ作り。
    ゴール直前の坂も再現されていて、妹の友人たちにも手伝ってもらいながら本番想定のトレーニングを何度も繰り返した。

    先頭のウマ娘はもうジリ貧────これなら、いける!

  • 66◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 16:28:37

    「────そいつはどうだろうなぁ、お兄ちゃん」
    「……!! お前、は」
    「よぉ。また会えて嬉しいぜ。負けたショックで塞ぎ込んでんじゃねぇかって心配してたんだぜ?」
    「お前……なんで、ここに」
    「おいおい、そう警戒すんなって。喧嘩売りに来たわけじゃねぇからよ。隣、邪魔すんぜ」
    「話すことなんか、ないぞ」
    「ああ、別にオレもお喋りに来たわけじゃねぇよ。クソめんどくせぇことに、今日はチームメンバーの応援ってやつだ。オレは興味ねぇんだが……トレーナーの野郎がうるさくってよ。食うか? ガム」
    「……」
    「いらねぇの? ソーダ味。うまいぞ」
    「……いや、いい」
    「あっそ」

    「……へッ。デビューから三週間ちょっとで2戦目か。いいね、オレも明日2戦目だ。んで、3戦目も決まってる」
    「3戦目まで……?」
    「ああ。なんだよ、知りてぇのか?」
    「いや、いい。そのうちわかることだ」
    「ホープフル」
    「……G1、か……」
    「テメェらとは見てる先が違うんだよ。そっちはゆっくりのんびり走ってろよ」
    「……でも、今日妹が勝てば」
    「阪神JFに間に合うってか? クク、そりゃどうだろうな」
    「なに……?」
    「言ったろ、うちのチームメンバーの応援だって」

    「そら、始まるぞ」

  • 67二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 16:30:02

    元ネタ的にあの人だとマズイ…!

  • 68二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 16:35:07

    出遅れの子がここで終わるまいとは思ったがやはり……!?

  • 69◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 16:38:05

    〈ここでゼッケン3番の猛烈な追い上げ! まるでヒトが変わったかのような加速だ!!〉


    「不遜ですわね」


    声が、響く。
    小さくか細い、今にも消えそうな声が────


    「女王を前にして、ここで終わらせようなどと」

  • 70◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 16:50:39

    「な、んだあれ……!?
    ゼッケン3番────スタートの出遅れから、今の今まで殿にいた足蹴のウマ娘が、大地を揺るがすような脚音を轟かせ、追い上げはじめた。
    長い最終直線にスパートを掛け始めたライバルたちを、次々と追い抜き先頭へと向かって進んでいく。

    「あれがうちのメンバーさ。なんだっけな……アホなトレーナーはエンプレスだかなんだか、呼んでやがったが」
    「えん、プレス……女王?」
    「らしいぜ。ハッハッ! 見ろよ、お前の妹が抜かれちまうぜ、お兄ちゃん」
    「……!」

    少し目を離しているうちに、女王は最後尾から先頭間際へと踊り出していた。
    すでにスパートを掛けて先頭に立っていた妹との距離は、すでにおよそ1バ身も無い。

    〈4番逃げる! しかし3番の怒涛の追い上げが迫る! のこり200m、ここで先頭の2人は坂へと入ります!!〉


    「ふふふ、素晴らしい走りですわ。好スタートから好位置、まるでお手本のよう」
    「でも────それだけでは勝てない世界というものを、教えて差しあげますわ!」


    女王が囁くように、言葉を口にする。
    妹の顔は、苦しそうだ。言葉を返す余裕もない……前担当と違い、妹にはまだペース配分も不完全で、経験も浅く、未熟だ。

    それでも、勝てると思っていた。
    規格外の化物はもういないと思っていた。

    だが、甘かった。
    俺の予測も見通しも読みも甘かった。
    妹の経験の浅さを補うのが、俺の仕事であるはずなのに────

    〈ゴールイン!!〉

  • 71◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 16:56:52

    くそ、くそ、くそッ……!!
    勝てると思っていた! 負けないと、妹のポテンシャルなら絶対に勝てると思っていた!
    それでも油断していたつもりはなかった。
    出来る準備は全てやった。スタミナの底上げも、スピードの底上げも、全部全部。
    レース展開の考え方だって、全部……やった、のに。

    負け、た……のか……?
    「俺が、また……っ」



    「……あ? オイ、どういうことだそりゃあ」

    「オイ見てみろよお兄ちゃん。オイ、顔上げろってんだよくそダセェ」

    「なに……?」


    「……ランプが、灯ってない……?」
    「写真判定だとよ……ククッ、楽しませてくれるねぇ」

  • 72◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 17:10:25

    「……ど、う……なったんだ! 教えてくれ、妹は……!」
    「あ? ……お前、見てなかったってのか? トレーナーが、担当ウマ娘のレースから目を逸らしたのか?」
    「っ……」
    「オイオイオイ、マジかよ。マジで言ってんのかよ、お前」
    「……教えてくれ、頼む」
    「……、クソ。知った顔を見かけたからって挨拶に来てやるんじゃなかったぜ。オレに啖呵切ったくせにこんな弱っちいやつだとはな」

    エンプレスの追い上げに、気合いで耐えた────それだけだ。

    と、ヤツは口にした。
    ただそれだけだ、と。

    俺は、俺は……目を、逸らしてしまった。
    妹が最後まで諦めずに走って戦っていたのに、俺は、俺は……っ。

    〈判定が出ました! ランプが灯り────確定! 1着は4番! 2着は3番、わずかハナ差での勝利です!!!〉


    「!!!」
    「へェ……」
    「……か、った……勝った……?」
    「そうみてぇだな」
    「……勝った、のか……そうか、そうか……」
    「フン。興醒めだ。帰る」
    「……」

    「二度と目ェ離すんじゃねえぞ、お兄ちゃん」

  • 73二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 17:11:38

    妹ちゃんだいぶ勝負根性あるな

  • 74二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 17:12:39

    妹自身がデビュー戦負けた時に自己分析してた根性が今度は勝因なのもすごい熱いぜ

  • 75◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 17:28:19

    「ぁ、……勝った、勝った……!」
    「あら。1cm……及ばなかったようですわね。あと1秒変わるのが早ければ、勝利は私のものだったでしょうに」
    「ぁ、え……変わ……え?」
    「ふふ、おめでとうございます」
    「ぁ……はい、どうも……」
    「しかし、これではトレーナーさん……いえ、司令官でしたわね。司令官に怒られてしまいますわ」
    「し、司令官……ぇ、厨二か……?」
    「そう呼ぶようにと言われておりますの。わたくしのチーム、なぜかコードネームで呼び合うようにと言われておりまして……わたくしはエンプレスと」
    「は、はぁ……やべぇ……」
    「わたくしもあまり気に入っていませんの。せっかく素敵な名前があるのにそれを隠すだなんて、女王として許容し難い」
    「……」
    「ともかく、おめでとうございます。わたくしはこれで3敗目……このままではクラシックに間に合わないかも」
    「……ぇ、あ……と、その」
    「ふふ、お気になさらず。わたくしの実力不足ですわ」
    「……はい」
    「ふふ、いまは勝利をお喜びになってくださいまし。あなた様の最後の踏ん張り、とても素晴らしかったです。学園でお会いしたら、またお話しさせてくださいね」
    「ぁ……は、はい、どうも……お願い、します」
    「それではまた。ごきげんよう」

  • 76二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 17:29:46

    cv杉田のトレーナーか…

  • 77◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 17:48:03

    ・・・

    「あ、にぃやんここにいた! 探したんだぞ〜!」
    「……ぁ、ああ、悪い」
    「勝った! ぶい!」
    「……おめでとう、よくやったな」
    「うん! 見ててくれた?」
    「っ……」
    「……お兄ちゃん?」
    「ぁ、ああ……もちろん見てたよ。見てた。よく、頑張ったな」
    「へへ〜」
    「まさか写真判定になるなんてな」
    「正直、焦りましたね……あの女王先輩、めっちゃやばかった」
    「ああ、そうだな……途中からまるでヒトが変わったみたいになってさ」
    「そうそう……なんかこう、お嬢様口調? なんたらですわーって」
    「……確かにそんな感じだったな」
    「お嬢様を目指す一般女性なのかもしれない」
    「やべぇな……それ」
    「にぃやん気をつけなよ、自己紹介に胃カメラ見せられるかも」
    「ちょっとなに言ってるかわからない」
    「ま、いいじゃんいいじゃん。そんなことより、勝ったんだから分かってるよね? ね?」
    「……? なんか約束してたっけ」
    「祝勝会だよ!! いい飯連れてけ!」
    「へいへい……前担当の喫茶店でいいか?」
    「うまいけどさ、めちゃくちゃうまいけどさ! お祝い感がさ……ね、分かるでしょお兄さま? ね?」
    「しかたねーな。考えといてやるから、ウイニングライブ頑張ってこいよ」
    「よ〜っし! 未勝利戦なんでそんな大きな舞台じゃないみたいだけど!」
    「それでも勝ちは勝ちだ。最前列で見といてやるから」
    「ほんとっ! じゃあ、行ってくるねっ」
    「ああ、頑張れよ」

  • 78二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 17:56:19

    実際諦めが良すぎるのは負け癖になってるんだろうな……
    人の縁に恵まれていて本当によかった

  • 79◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 18:03:07

    ────担当するウマ娘がセンターで立つウイニングライブを見るのは、いつぶりだろう。
    前担当の最後の方は、ほとんどG1に絞って出走していたから……本当に久しぶりな気がする。

    今日は勝った。
    化け物のような追い上げをしてきた女王、だったか。そのウマ娘に追いつかれ、競り合い……それでも、写真判定にまでもつれ込んで、ハナ差1cmの勝利。

    本当に嬉しい。本当に誇らしい。
    けれど、俺の胸にはどうしようもなく素直に喜べないもやもやが残っていた。

    「……俺は、目を離してしまった」

    ゴールの寸前。
    まさにゴール板を駆け抜ける、その瞬間。

    俺は妹の勝利を諦め、目を離してしまった。
    妹が勝つことを信じきれなかった。

    妹は最後の最後まで諦めず、勝利をもぎ取ったというのに。

    「……情けない」

    情けない兄貴だ。
    俺が背を押してやると、俺が勝利への最後の1ピースだと、何度も口にして励ましていたのに。
    俺はまた、背を押してやれなかった。
    最後の1ピースになれなかった。

  • 80◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 18:03:47

    「〜♪」

    「……」
    小さなステージで、全霊を込めて妹は歌い、踊っている。
    その眩しさに思わず、目を細める。

    嬉しそうだ。嬉しいに決まってる。
    ようやく勝てたんだ。ようやく、始められるんだ。
    嬉しくないはずがない。
    俺だって嬉しい。
    妹が勝って、喜んでる。これ以上ないくらいに嬉しい。

    けれど、俺はその嬉しさを、素直に受け止めることができなかった。



    『二度と目ェ離すんじゃねぇぞ、お兄ちゃん』



    「……ごめん、弱い兄ちゃんで、ごめん」

  • 81二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 18:04:45

    いいんだ、これから強くなれば良い

  • 82二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 18:05:27

    このレスは削除されています

  • 83二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 18:06:33

    ずっと勝ててなくて精神的に参ってたんだろうな…

  • 84◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 18:43:08

    ・・・

    「早く乗れよー」
    「うーんちょっと待って、前先輩からLANEきてて」
    「なんて?」
    「初勝利おめでとう、って」
    「そか」
    「えへへ、なんか……ようやく勝ったって自覚してきて、ヤバい。めっちゃ舞い上がっちゃう」
    「そのまま飛んでっちまえ」
    「今なら空も飛べる!」
    「……」
    「ん?」
    「いや、なんでもない。お前なら、本当に飛んでいきそうだなと思って」
    「どういうことだよ、おい」
    「いいから早く乗れよ、帰るぞ」
    「あ、はい」
    「飯、なに食いたい」
    「……ハンバーグ」
    「ハンバーグ? じゃあやっぱり……」
    「前先輩の」
    「……ええ?」
    「前先輩のハンバーグがっ! 食べたいっ!」
    「あのなぁ、前担当は今日忙しくて見に来れなかったんだぞ」
    「ギギギギ……」
    「ったく……また頼んでおいてやるから、今日は我慢しろよ」
    「ちっ……仕方あるまい。今日のところはピザで許してやろう」

  • 85◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 18:43:18

    「ピザ?」
    「うむ。デリバリーのやつ、Lサイズ2枚だ」
    「めっちゃ食うな……ってか、いいのか? それだと家で食うことになるけど」
    「いいのっ。外で食べる美味しいご飯もいいけど、なんだか今日はおうちでゆっくりしたいの」
    「……疲れたか?」
    「へへ……まあ、ね」
    「じゃあそうするか。スマホで注文しといてくれ、帰り道にある店探して。もらって帰ろう」
    「わ〜い! やったやった、ピザだピザ! サイドも頼んでいい?」
    「そうだな。コンソメポテト食いたい」
    「お、いいチョイスですな。あたしはフライドチキンとサラダと〜……」
    「とりあえずさ」
    「ん?」
    「乗ってから決めてくれない?」
    「はい、すみません」

  • 86二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 18:51:31

    ん?と思って読み直したら何度も促してるのに乗ってなくて芝

  • 87◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 18:55:50

    「たっだいま〜! ぴーざ♪ ぴーざ♪ ぺっぱろーにぴーざ♪」
    「ただいま。ちゃんと手洗えよ」
    「わかってるって〜」
    「着替えて風呂洗ってくるから先食ってていいぞ」
    「はーい」
    「……はぁ」

    ようやく我が家に帰ってきて、少しだけ心が落ち着く。
    妹も勝てたことで舞い上がってるし、元気になってくれてよかった。
    負けてしばらくは引きずってたしな……やっぱり前担当のレースを見に行ったのは大きかったみたいだ。

    妹は着実に、確実に強くなっている。
    それに比べて、俺はどうだ。
    前担当といた頃から、なにも成長していないじゃないか。
    なにも強くなれていないじゃないか。

    このままじゃ、ダメだ。
    俺も強くならなきゃ……強く、強くならなきゃ。
    前担当も前を向いて、走り始めた。
    ……引きずってるのは、俺ばっかりだ。

    トレーナーがこんなのじゃ、担当ウマ娘だって困っちまうよな。

  • 88◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 18:56:21

    「うまっ! めっちゃ久々だけどピザうまっ! エビマヨ最強か……?」

    少し遠くから妹の声が響いてくる。心底嬉しそうな声だ。

    「マジで先に食い始めてるよ……」
    前は俺が戻るまで待っててくれたのに……自由すぎだろ。
    まあ、これもいい傾向だと思うことにして。

    俺も前を向いていかなくちゃ。
    もう、目を離さない。
    どんな勝利も、敗北も。
    どんな結末だろうと、絶対に目を離さない。

    「おーい、俺のぶん残しといてくれよー」
    「ごめんもうエビマヨなくなりそう」
    「うそだろ!?」
    「うそうそ。ちゃんとあるよ〜」

  • 89◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 19:36:45

    「ちゃんとって、半分も食ってんじゃん……」
    「うますぎてつい」
    「いや分かるけど。エビマヨがうまいのは分かるけど」
    「はやくはやく、こっちこっち」
    「なんで隣だよ。正面座るわ」
    「んだよぅ、ちょっと寄ってやったのによぅ」
    「いただきます」
    「召し上がれ〜」
    「……、うまっ」
    「でしょっ。やっぱエビマヨ最強、ペパロニもうまいけどエビマヨが世界最強」
    「はー……やべぇ、またお前のダイエットメニュー考えなくちゃいけないのか」
    「罪の味ですねぇ……って待て、あたしは太らんぞ!」
    「嘘つけ。前より体重増えてんだろ」
    「違いますぅ〜! 脂肪じゃありません〜! 筋肉です〜!」
    「……まあ、確かにかなり筋肉はついたな」
    「今ならにぃやん背負って山登りも余裕だぜ」
    「嫌だわそんなん」
    「んだよぉ、小さい頃おんぶしてくれたじゃん。そのお礼ですよ」
    「なにが悲しくて妹におんぶしてもらわにゃならんのだ」
    「妹の背中で、妹のぬくもりと成長を感じてくださいよ。華奢で細い背中、なのに力強さを感じる……素敵なことじゃありませんか」
    「寒気した」
    「ひどいっ!」
    「いいか妹よ。兄はな、妹に世話を焼かれるのが何より嫌だな生き物なんだ」
    「嘘つけ。お前あたしにめっちゃやらせてるだろが。お風呂掃除と洗濯やってるのあたしだぞ」
    「分担作業だろそれは。居候の分際で」
    「まだ居候言うか! もう立派な同棲でしょーが、これ以上ないくらい仲良し夫婦でしょうが」
    「食ったエビマヨ全部出そう」
    「そんな毛嫌いすんなよ、傷つくぞ! あたし傷つくぞ、久しぶりにガチへこみするぞ!」

  • 90二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 19:43:08

    ウマ娘世界で兄をやっている人たちの多くが考えてそうな話だあ>妹に世話を焼かれるのが~

  • 91◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 20:13:10

    「あ、コーラとって」
    「ほいほ〜い」
    「……、うん、やっぱピザにはコーラだな」
    「ジンジャエールも美味しいけどね」
    「わかる」
    「ね」
    「……どうした?」
    「え?」
    「なんか企んでるだろ」
    「え、そんなことないけど」
    「お前、変に静かだもん。なんかあるなら言ってみろよ」
    「……ほんと?」
    「2割の確率で聞いてやる」
    「またそれ……いや、ほら、言ってたじゃん」
    「ご褒美?」
    「分かってんのかよ……意地悪いなこの兄貴」
    「いいよ、聞いてやる」
    「えっ……いいの?」
    「ああ。男に二言はない……悪いペパロニとって」
    「ん。……じゃあ、さ」
    「うん」
    「じゃあ、じゃあだよ」
    「……」
    「……キスして」
    「……」

    「え?」

  • 92二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 20:16:22

    攻めたな妹ちゃん!?

  • 93◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 20:19:59

    「あの、は?」
    「キスしてほしい」
    「……ちょ……」
    「1回だけだから……お兄ちゃん」
    「ま、っ……な、ん」
    「…………ぶふっ」
    「……は?」
    「うっひっひ、にぃやんめっちゃ困ってるじゃん」
    「ぉま、は……ぇ?」
    「うそうそ。冗談ですよぅ」
    「な……おま、お前さあ……」
    「どきっとした?」
    「し、てねぇよ。アホかよ、ドアホ」
    「アホじゃないです賢いですぅ〜!」
    「ったく……意味わからん揶揄い方すんなよ……」
    「最近にぃやんのツッコミ全部ワンパターンなんで、たまには違う扉開けてやろうかと」
    「方向性考えろお前……」
    「ご褒美考えときまーす。ちゃんと聞いてよね、ちゃんと聞くって言ったもんね」
    「2割の確率でな」
    『いいよ、聞いてやる』
    「録音すんな!」
    『いいよ、聞いてやる』
    「お前よこせそれ」
    「嫌じゃい! 聞いてくれるまで鳴らし続けるんじゃい!」
    「……、じゃあ早く考えとけよな」
    「ため息混じりやめろよ普通にグサって来るんだからな、そのため息聞くたびに胸が不安になって心臓止まるんだからな」

  • 94二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 20:20:05

    2割かぁ

  • 95◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 20:28:38

    「ごちそうさまでした」
    「ごちそーさまでーしたっ」
    「さてと……疲れたろ、先に風呂入ってこいよ。片付けやっとく」
    「ううん、にぃやん先入りなよ。あたしちょっと前先輩にLANE返したい」
    「じゃあさっさと上がるよ」
    「ごゆっくり〜。あたしもゆっくりしとく〜」
    「へいへい」
    「片付けもやっとくよ。ゴミ袋にまとめるだけだし」
    「じゃあ頼んだ。行ってくる」
    「いってらっしゃ〜い」

    「……ふう」
    少し申し訳ない気持ちを抱えたまま、先に風呂場へ。熱いお湯に身体を入れると、自然と口から息が漏れた。

    ……さっきのあれは、不覚にもドキッとした。してしまった。
    妹相手に、一瞬でもそんな気持ちを、抱いてしまった。

    なんか、変な感じだ。

    あいつはよく『大好き』とか『ハグして』とか『キスして』とか冗談で言ってきたりはするが……最近、実際に行動に移してくることが増えてきている。

    ハグは前走で負けた時、したっけ。
    俺は嫌だったが、めっちゃ嫌だったが、負けて辛そうなあいつの顔を見たら、少しだけ許してやろうと思って、軽くハグしてやった。

    「でも、キスは流石になぁ……」
    範疇越えすぎ、だろ。
    無理とか無理じゃないとか、それ以前の問題だ。
    兄妹でやるには、色々と……色々と、アレすぎる

  • 96二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 20:32:10

    手の甲にしたっていいのよ(どちらにとってもそういうことではない)

  • 97◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 20:39:59

    「……」
    お湯を手のひらにのせ、無造作に顔を洗う。
    「はぁ……」
    やばい。あの顔が、瞼の裏から消えない。
    本気の顔に、見えた。
    そんなわけないと、分かっているのに。
    演技だと分かっているのに、そう、見えてしまった。

    俺と本当に、キスをしようと。

    「……俺も浮かれてんのかな、勝って」

    あいつのノリに乗せられすぎだ。
    気を許しすぎ、てるのかも。

    『お兄ちゃ〜ん』

    「……、っ」
    ドクン、と胸が震える。
    風呂のドアの前に小さな影……妹だ。
    妹のことを考えている時に、急に声をかけられて驚いてしまった。

    「な、なんだよ。もうちょっとで出るから待っててくれ」
    『ううん、大丈夫』
    「そうか?」
    『うん。もう脱いだから』
    「は?」

    「ご褒美もらいにきましたよん、お兄さま〜☆」
    素っ裸の妹が、ドアを開けて現れた。

  • 98二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 20:40:55

    !?!?!?

  • 99◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 21:01:39

    「は、ばっ……!?」
    「ご褒美」
    「ぃや、……え、なっ……」
    「いいよ、聞いてやる」
    「真似すんじゃねえよ!」
    「え〜? もう脱いじゃったし、まあいいじゃん」

    素っ裸の妹は尻尾をパタパタ、耳をパタパタ。
    ご機嫌な時のこいつがよくやる癖だ。
    ということは、冗談じゃ────

    「前は恥ずかしいんで、見ないでもらえると」
    「見てねえよずっと目閉じてるよ!」
    「んだよ、度胸ねぇな」
    「アホなんかお前!」
    「うわ顔真っ赤、顔真っ赤! おもろい!」
    「出たら殴る」
    「はいはい、そう言って殴ったことないでしょ、あたし知ってますからね。んじゃ失礼します」
    「ひぃ……」
    「ふぅ……あったか〜……」
    「マジで入ってきたこいつ……ちょっとあんまり寄らないでもらえませんか」
    「ガチで引いてるリアクションやめろぉ! 一緒に入るだけだから、それ以上のことしないから!」
    「いえ、あの、もう十分すぎると思うんでやめてほしいです、お願いします」
    「引かないでっ、ねえお願い引かないでっ! ちょっと一緒に湯船であったまって身体洗ってすぐ出るからっ」
    「いやもう、あの、ほんとに」
    「別に膝に乗せてとか、頭洗ってとか言わないからっ」
    「……小学生の時は、毎日一緒に入ってたな」
    「ん、あたしの特等席でしたね、はい」
    「2人で風呂入るのが当たり前だった」
    「うん。むしろお兄ちゃんいないと無理でした、お風呂」

  • 100◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 21:03:27

    「たまにおかんとか、おとんと入ってたろ」
    「お母さんは入ってたけどお父さんはちょっと嫌だった……」
    「娘にゲロ甘な父親に悲しき過去……」
    「でも、お兄ちゃんと一緒が1番よくって、お兄ちゃんがお泊まりする日はお風呂入らない時もあったよ」
    「なんかそんなこともあったっけ……お前、ほんと俺のこと────」

    好きだな、と言いそうになって……なんでかやめた。

    「……へへ。あったまりますなぁ〜」
    「なあ」
    「ん〜?」
    「お前が出てくれないと俺身体洗えないんですが」
    「もうちょっと楽しもうぜ、兄妹水入らず」
    「いやもう、毎日一緒に住んでるんですけど」
    「裸の付き合い!」
    「なんで妹と裸の付き合いするんだよ意味わかんねぇよアホかよ」
    「ま、ゆっくりあったまろーよ」
    「お前なあ……」
    「ふっふっふ。あたしが出るまで貴様はこの風呂に拘束され続けるのだ。妹様に屈しろ」
    「最悪だ」
    「最高だろ! こんな美少女と一緒にお風呂だぞ!」
    「屈辱だ」
    「名誉だろ! あたしと一緒にお風呂入れるんだぞ、お兄ちゃんだけの特権だぞ!」
    「……」
    「うーわ、出たよ無視。1番雑で笑いも何も生まないやつ」

  • 101二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 21:21:37

    原作でもここまでお風呂は入らなかったぞ!

  • 102◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 21:59:05

    「……」
    「ねぇ、にぃやん」
    「……なんだよ」
    「もうちょっと寄っていい?」
    「やめてください」
    「お願い」
    「……」
    「ご褒美……」
    「お前それを盾にすればなんでも出来ると思ってんだろ……」
    「はい!」
    「……ちょっとだけだぞ」
    「やった〜、ウェーイ」
    「寄りすぎじゃねぇかな!?」
    「背中触れただけだろお前童貞かよ!?」
    「うるせえよお前マジで響くから静かにしろよ」
    「はい」

  • 103◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 22:03:02

    「ねえ、膝座らせて」
    「お前さっき言ったこと矛盾してるよな」
    「さっきは、ですよ。今はまた別ですよ」
    「お前ふざけんなよマジで」
    「足元タオルひいとけばいいでしょ」
    「いや、流石にあかん。あかんって」
    「ちぇ〜」
    「……、」
    「おいため息やめろ」
    「ため息じゃない」
    「ん? 緊張したんか? ん?」
    「……くそっ」
    「お? その、くそっ! は図星を突かれた、くそっ! ですかな? お?」
    「お前……お前いい加減にしろよ……」
    「なんだよぅ、いいじゃんかよぅ、スキンシップしたいんだよぅ」
    「なんで」
    「ずっと、我慢してたじゃん? レース始まってから」
    「そうでしたっけ。負けた日の夜を思い出して見てもらえますか妹様」
    「あ、あれ以降で」
    「お前、都合いい頭してんな」
    「三週間溜めに溜めたお兄ちゃんゲージがゼロになったんすよ。んで、いま補充中ってわけですよ」
    「もういいだろじゃあ。はやく出てくれよ、俺も身体洗って出たい」
    「洗ってしんぜよう〜」
    「いらん。はやく出ろ。いつまでも目閉じてられん」
    「開けてもいいよ」
    「嫌だ」

    「……開けていいよ」

    「っ……」

  • 104◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 22:07:47

    囁く声に、胸がざわつく。
    目を閉じているから妹がどれくらい近くにいるかがわからない。
    ただ、水音のおかげで近づいてきていることだけがわかる。

    「見ても、怒らないよ。お兄ちゃんなら」

    「ぁ、おま……くだらないことは、もう」

    「へへ、は〜い」

    ……すぐに引いて、妹は湯船を出た。
    その後はくだらない会話をして、先に出ていった。

    「…………くそ、なんなんだ」
    意味がわからない……本当にわからない。

    俺を揶揄ってるつもり……のはずだ。勝ったから調子に乗ってるだけだ。

    「勝つたびにこんなことされるのか……?」
    なんだか先が思いやられる。
    が、まあ……少しだけ聞いてやるのは、いい。
    度を超えたら、次から殴ろう。

    じゃないと俺が色々ともたない。

  • 105二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 22:17:55

    >>99

    この兄ずっと目を閉じてると言ってるのに妹の尻尾と耳がパタパタしてるの分かるなんてすごいね(純粋な目)

  • 106二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 22:19:23

    >>105

    ほら、パタパタビュンビュン音が聞こえるんだろう(純粋な目)

  • 107二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 22:20:26

    このレスは削除されています

  • 108◆iNxpvPUoAM23/04/14(金) 22:22:05

    ・・・
    「くっそ……逆上せた……」
    「ほぁ、おにーひゃん、おはえり」
    「……なに食ってんの」
    「あいひゅ」
    「……あっそ。お前のせいでのぼせた。どうしてくれる」
    「んむ、……アイス食べる?」
    「食う。ってさ、アイスなんか買ってたっけ?」
    「ピザ屋さんの横にコンビニあったから、取りに行く時に寄ったの」
    「ふぅん。あれ、俺のどこ?」
    「ないよ?」
    「は?」
    「ひとくちあげる」
    「……」
    「なんだよその顔。これくらいは普通だろ」
    「お前……さっきの今でよくそんなこと言えるな……」
    「なんのことでしょう」
    「……、いいや。お前だけ食ったら」
    「へへ、すみませんなぁ。2人で一緒に食べようと思ったんですけれど」
    「嘘つけ」
    「ほんとだよ」
    「いいのもう。ちょっとそっち寄って。パソコン使いたい」
    「う〜い」

  • 109二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 23:50:55

    妹ちゃんの真意が気になる

  • 110二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 00:25:59

    ・・・

    「……」
    「ごめん、にぃに」
    「アイスのことか?」
    「違うよ。そうじゃなくて……その、さっきのお風呂の……」
    「……ああ」
    「ごめん、なさい。その……ちょっと調子乗りました、ごめんなさい」
    「……」
    「甘えたかったのは、ほんと。勝ったし、嬉しかったし……ご褒美って言えば、甘えてもいいかなって」
    「ふん……」
    「でも、ごめんなさい、やりすぎちゃったね。あれ、度が過ぎたっていうか」
    「そうだな……やめてもらえると助かる。自分のことはもっと大事にしてほしいし、それに俺の心臓にもよくない」
    「大事には、してるよ」
    「ならいいんだけどな」
    「ごめん、ごめんなさい」
    「いいよ、もう。怒ってない」
    「ほんと?」
    「ほんと。だからもう謝らなくていいぞ、前担当みたいになってるから」
    「ぁ……はは、そうだね。前先輩、めっちゃ謝るもんね」
    「癖なんだと」
    「なるほど……口癖がごめんなさい。すげぇな」
    「ははは、昔、俺もそんなこと言ったっけな」
    「付き合ってたとき?」
    「付き合ってないわ。アホかお前」
    「でもまだ好きなんでしょ?」
    「違うって」
    「ほんとかねぇ……」
    「しつこいなお前……」

  • 111◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 00:26:40

    「でもにぃやん、2人きりの時に迫られたら断れないでしょ」
    「……は?」
    「ってか、断らないでしょ」
    「お、おま……あの、おまえな」
    「好きじゃないの?」
    「親愛って意味なら」
    「恋愛じゃなくって?」
    「どうしたんだお前。やっぱなんか変だぞ」
    「……ううん、いいの。ごめんなさい」
    「はあ……」
    「……」
    「やっぱアイスくれ。ひとくち」
    「ぁ、うん、あーん」
    「自分で食える。スプーン貸して」
    「自分の取ってきなよ」
    「あーんさせようとしたんちゃうんかい。わかったよ取ってくるよ」
    「あ〜んうそうそ、あげるあげる! 使っていいから! ほらほら掬った、掬いました! ほらこれ食べて、ほら!」
    「なんなんだお前もう……」

  • 112二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 00:32:03

    何だか物語が動いてきた気がする

  • 113◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 00:41:18

    「ぁ、うま。お前なんで自分のしか買わないんだよマジで」
    「妹様に任せるがよいぞ兄上」
    「……絶対碌なことにならねぇし、まともなこと考えてないだろ。いらん」
    「なんだよぅ、真剣に言ってるんだぞぅ」
    「どうせ俺と前担当のことだろ」
    「ご名答☆」
    「ほら、碌なことじゃない」
    「ヤダヤダそんなこと言わないで! ちゃんと真面目に考えてるの、にぃにが幸せになれる方法とか色々考えてるのっ」
    「じゃあなんで風呂入ってきたんだよお前」
    「それはあたしの幸せのことを考えたんだよ」
    「意味わかんねーよ……」
    「あたしはにぃにと触れ合うことが幸せなのです。おわかり?」
    「わからん」
    「いや分かれよ。分かるだろ」
    「お前にはさっさと彼氏とか見つけて落ち着いてほしいわ」
    「あたしは〜、お兄ちゃんがだ〜いすきだから〜、彼氏とかいらないの〜☆」
    「……」
    「えうっそ今舌打ちした?」

    「いやいや、でもでもお兄ちゃんはあたしに彼氏ができたら、嫌でしょ?」
    「全然」
    「即答かよ! もうちょっと悩むそぶり見せろよ!」
    「お前こそ俺に彼女できたら嬉しいのか?」
    「……」
    「悩むのかよ」
    「悩むだろそれは。あたしのお兄ちゃんだぞ」
    「身内だろ」
    「それはそれだろ。にぃにのものは、あたしのもの。つまりにぃにもあたしのもの」
    「やべぇこいつ……」
    「あ、ガチで引かないでくださいね。あたし普通にショックですからね、傷つきますからね、現在進行形で傷ついていってますからね」

  • 114二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 00:51:11

    このレスは削除されています

  • 115◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 00:51:34

    「とりあえずにぃにさ」
    「んだよ……まだ続けんのかこの意味のない会話」
    「わかったよ、もうやめるから怒んないでよ」
    「怒ってはないけどさ」
    「……前先輩とは、ほんとに違うの?」
    「違う」
    「じゃああたしでもいいよね?」
    「よくないよ? お前ほんとに頭大丈夫か?」
    「だいじょび」
    「いや、大丈夫じゃない。寝た方がいい」
    「いやいやいけますって、むしろいかせますって」
    「もうやだ、お前ほんとやだ。妹からそんな言葉聞きたくない」
    「任してくださいよ、ウマ娘パワーでにぃやん逆らえなくするから」
    「お前もうマジで黙れ。真面目な話するから」
    「はい、すみません」

  • 116◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 00:55:24

    「それよりこれ、これ見てくれ」
    「すごく、大きいです……」
    「やめてくんない?」
    「あ、はい。……ぇと、今日の動画?」
    「ああ。女王がやばい」
    「あー……女王先輩すか……」
    「そういや、年上って言ってたのか?」
    「言ってない……けど、あの風格で年下は嫌だよあたし」
    「まぁ、そうかもな。……ゴールした後、喋ったって言ってたよな。なんか言われたか?」
    「ううん。おめでとうって、それだけ」
    「そうか。……あの女王、さ」
    「うん?」
    「……アイツと同じチームらしい」
    「あいつって?」
    「こいつ。お前がデビュー戦で負けたやつ」
    「ぁ……そう、なんだ」
    「明日、2戦目なんだと。で、……3戦目はホープフルステークスに出るらしい」
    「ホープフルって……えと、あれだ、G1!」
    「そう、G1。ジュニア級のウマ娘が出走できるG1レースのひとつ」
    「あとはなんだっけ……朝日杯FSと阪神JFだっけ」
    「そうそう。よく覚えてたな」
    「ふっふっふ。褒めるがよい」
    「それで今日、お前は未勝利戦に勝った。これで俺たちはようやくスタートラインだ」
    「……1歩も2歩も遅れてるね」
    「俺たちがこれから選べる道は……クラシックに全力をぶつけることと、阪神JFを目指すこと」
    「阪神……G1……」
    「俺としては、クラシックに当てたいけどな。お前の意見も聞こうと思ってさ」
    「む……はい、あーん」
    「いらねぇよ」
    「ちぇ……。G1かぁ……出走、できるの?」

  • 117◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 01:13:02

    「ぶっちゃけギリギリだ。出走投票はできるが、そこからは勝った数とか、G2やG3で2着以内……みたいな条件を見て優先される」
    「ふーん……あたしは10月にデビューして、11月頭にようやく1勝。G2に1回勝てば……チャンスはある?」
    「でもかなり無理をすることになる。現実的じゃない」
    「……」
    「確かに勝てれば出走できる可能性は高い。けど……お前の脚が回復しきらないまま出ることになる」
    「……そこまで言われて選ぶやついるの?」
    「お前ならやりそうだ」
    「めちゃくちゃ信頼されてますね、あたし」
    「ああ、もちろん信頼してる。いらんことばっかしそうでな」
    「うるせえなこいつ……」
    「ってことで、どうしたい?」
    「……」
    「ちなみに、あいつと戦う選択もある」
    「……っ……」
    「ホープフルを狙うなら、脚の回復も見込める。ただ……」
    「あの子と、また……ぶつかる」
    「俺としては回避したい。無理して取りに行くものでもないし、今は休んで、年明けからG3、G2で経験を積んでクラシックに行きたい」
    「……むぅ」
    「前担当の時も、同じ方針で進めた。あいつは三冠路線だったから、お前が目指す先よりもタフな相手と戦ってたが」
    「やっぱり三冠路線とティアラ路線って、そんな違うの?」
    「違うな。ティアラ路線が弱いとは俺は思わないけど、一般的には三冠路線がトゥインクルシリーズの花形だ」
    「……ザコのティアラ路線」
    「気にしてるのか?」
    「してない、と言ったら……嘘だよね、やっぱ」
    「……あいつがお前に突っかかる理由はわからない。単に強いやつを倒して糧にしたいのかなと思ってるけど」
    「あたし、でも強くないよ」
    「いや、強いよお前は。俺の予想通り……いや、想像以上だ」

  • 118◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 01:13:59

    「……でも、デビュー戦ではあの子に負けたよ。今日は勝てたけど……でも、あと1mでも距離が長かったら……」
    「いや、お前は強い。強いよ、大丈夫だ」
    「にぃに……」
    「……むしろ、弱いのは俺のほうだ」
    「え……?」
    「……謝らなきゃいけないことがあるのは、むしろ俺のほうだった。すまん、この通りだ」
    「え、ちょっ……な、なになに、どしたのにぃやん!? ちょ、頭あげて……土下座とかやめて、意味わかんないよ!」
    「俺は、お前を信じてやれなかった」
    「ぇ……と、え……え?」
    「俺は……俺は、トレーナー失格だ。ウマ娘の勝利を、最後まで願うことができなかった。お前がゴールする瞬間から、目を……背けてしまった」
    「ぇ────」
    「お前を信じていなかった。女王の追い上げに、お前は負けると……最後の瞬間、思ってしまった」
    「おにい、ちゃん」
    「……だから、弱いのは俺だ。お前は弱くない、強い。背を押すのが俺の仕事なんて……カッコいいこと言っておきながら、俺は最後の最後に仕事を放棄してしまっていた」
    「……」
    「すまない、ほんとに……すまない」

  • 119二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 01:24:44

    詫びと礼は言える時に言わねば言えずに溜まるって島津の武士も言ってたからこれでいいのだ

  • 120◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 01:44:29

    「殴ってくれ」
    「え、ちょっ……なんでそうなんの!? いいよもう、わかったから顔あげてよ……」
    「よくない。俺の気がすまない」
    「そ、そんなの知らないよ! そりゃ……ちょっとは、残念だよ。頑張ってゴールしたとき、にぃに……見てくれてなかったんでしょ」
    「……ああ。負けると思って、悔しくて、直視できなかった」
    「だから……見てたかって聞いた時、変な顔したんだね」
    「……」
    「でも、判定が出るまで、あたしも負けたと思ってた。絶対抜かれた、また負けたんだって」
    「……」
    「だから、それならおあいこじゃん? あたしたち2人とも、あたしのこと信じてなかったんだもん」
    「それでも、俺だけは信じてやらなくちゃいけなかったんだ」
    「……うん、そうだね。信じててほしかった。あたしがあたしを信じなくても、この世の誰もがみんな、あたしのことを信じなくても」
    「っ……」
    「……にぃにだけは、あたしのことを信じていてほしかった」
    「……すまない」
    「ちょ、だから……涙声やめてよ。あたしまで泣きそうになるじゃん」
    「……、っ……」
    「じゃあ、代わりに約束して」
    「……約束……?」
    「はい、顔あげる。ほら上げ、……すごい力だなおい!? こんにゃろ、やるかこのっ! ウマ娘パワーなめんなおらっ!」
    「うぅっ……」
    「ぅわ……大人の泣き顔ってこんな汚いのか……嫌だな、ちょっともう……ほらこっち向いて。おばちゃん吹いたるから」
    「……、……」
    「そんで、約束のことなんですけど」
    「ぁ、あぁ」
    「これからは、絶対にあたしを信じて」
    「……ああ」
    「この世界の誰ひとり、あたしを信じなくても……お兄ちゃんだけは、あたしのことを信じて」
    「……ああ」

  • 121◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 01:47:36

    「あたしはお兄ちゃんだけが信じていてくれるなら、頑張れる」
    「ああ……そのつもり、だよ」
    「つもり、じゃなくて、そうして。絶対、絶対に。死んでもそうして」
    「……ああ、絶対だ。何があっても信じる。世界中の誰がお前を見なくても、俺だけは見続ける。お前の味方でいる。誓うよ」
    「絶対、あたしのことを信じて。どれだけ負けても、どれだけ弱くても、お兄ちゃんだけはあたしが勝つことを信じて」
    「……ああ、信じる。信じてる」
    「もし約束破ったら、とりあえず3発くらい腹パンしてから、めっちゃ高い焼肉連れてってもらいます」
    「ぁ、ああ……わかった」
    「それから前先輩も連れて3人で旅行に行きます。費用は全部お兄ちゃん持ちで、運転もしてもらいます」
    「ああ、わかった」
    「それからどこか遠く……おとんもおかんも、知り合いもいないとこで、ふたりで家を建てるの」
    「わかっ……ん?」
    「おうちは庭付きの一戸建てで、あたしそっくりな真っ白の大きなわんちゃんを飼って」
    「……んん?」
    「で、子供はふたり。男の子と女の子……長男はお兄ちゃんそっくりで、長女はもちろんあたしそっくりなウマ娘」
    「あたしたちは兄妹ってことを隠してふたりで愛し合────いった!? 耳引っ張んな痛って、痛ってぇ……クソ痛ぇ……思いっきり引っ張りやがったこいつ……」
    「どさくさに紛れてアホなこと抜かすな……」
    「くそっ……いまなら押し切れると思ったのに」
    「意味わからん」
    「でも、戻ったからよし。お兄ちゃんはやっぱそうじゃないと」
    「……すまん」
    「次謝ったらキスします」
    「え、嫌だ……」
    「はい傷ついた。傷つきました。その露骨に嫌な顔のせいで傷つきましたもうお兄ちゃんなんか信じられません」
    「はぁ!?」
    「信じてほしい?」
    「……はい」
    「キスしてくれたら信じてあげる」
    「しねばいいのに」
    「このクソ兄貴め……っ……!」

  • 122二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 01:53:07

    シームレスに爆弾発言で笑かしてくるの緊張と緩和がうますぎるんだよ妹ちゃんよ

  • 123◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 02:37:35

    「よし、じゃあ……改めて方針は決まり。クラシックに本気出す……で、いいな?」
    「あ、はい。それでいいです、いいですよあたしは」
    「同意を得られたところで……んで、めちゃくちゃ遠回りになったんだけどさ」
    「あ、女王先輩の話だっけ」
    「ああ、それを聞きたくて」
    「スタート、めっちゃ出遅れしたよね、あのヒト」
    「した。もう無理だろってくらいやばい出遅れした。泣きそうな顔で追いかけてたけど……なんか、可哀想になるレベルだったな」
    「そしてその泣き顔に胸を射抜かれたと」
    「アホか。その時はお前しか見てなかったわ」
    「えへへ〜……で、最終直線だよ。びっくりした」
    「ああ……急にヒトが変わった」
    「ヒトが変わったっていうか……なんかもう、そのヒトが丸ごと変わったっていうか」
    「……その時、客席で見てた俺の隣にあいつがいたんだ。あの亡霊が」
    「同じチームだから応援してたんだっけ」
    「俺を見かけて挨拶に来たって言ってたが……とにかく、面白いから見てろって、知ってる風に言ってた」
    「……もしかして、人格が変わった?」
    「人格……人格か」
    「ほら、漫画であったじゃん。普段はナルシストでイケメンな海賊だけど、寝るとクソ強い戦闘狂みたいなやべぇ人格に変わるの」
    「あぁ、あったな。なるほど、二重人格か……」
    「元の人格はあんまり強くない……むしろ鈍臭い感じで、女王様の方はめっちゃ頭良くてめっちゃ強くて……って感じ?」
    「かもしれない。ただ、それなら最初から女王の人格で走ればいいのに……どういうことなんだろうな」
    「わかんない……主人格がどっちかは知らないけど、出遅れた方がそっちだとしたら、制御できないとか」
    「好きに入れ替われない……もしくは、ピンチになった時にしか替われない?」
    「あ、そうかも! 自由に切り替えできないのかも!」
    「……だとしても脅威に変わりはない。最終直線が470mあったとはいえ、あの距離を一瞬で詰められちまうとな」
    「マジで焦りましたよね……ほんと、あたし今回ばかりはほんとにちびるかと思った」
    「毎レースのたびにそれ言うのやめてくれる?」
    「はい、すみません」

  • 124◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 02:38:26

    「……あの先輩、今後のことは何か言ってたか?」
    「ううん、言ってない……けど、女王なんでしょ?」
    「なら、ティアラ路線の可能性は高いな」
    「あたしもそう思う。あの子よりも、先にぶつかる……と思う」
    「……だな」
    「あ、思い出した。あとね、女王先輩が言ってたんだけど」
    「うん?」
    「今日で3敗だって」
    「……そうか」
    「だから年末の……阪神JFに出走してもぶつかる可能性は低いと思う」
    「……やっぱり出たいか?」
    「まあ……挑戦はしてみたい、かな」
    「そうか。なら出るつもりでギリギリまでやっていくか」
    「ぇ……い、いいの……?」
    「信じるって約束したしな。言葉の軽さは行動で示す、それが俺の心情だ」
    「今日早速、行動で示してくれたもんね。目を背けて」
    「……」
    「うっしっし〜、めっちゃ嫌そうな顔してる〜」
    「ぉ、おま……お前な……」
    「見とけよお兄ちゃんっ! あたし、勝ったるからな!」
    「……ああ、信じてる」
    「よしっ! じゃあそろそろ寝よ、お兄ちゃん! もう疲れて眠い!」
    「おう、先に寝ていいぞ」
    「嫌だよ1人で寝るの。一緒に寝るぞ、PC閉じろほら」
    「え、なんでだよ俺はもうちょっと……」
    「いいからほら。寝てくれないとあたしが困るの!」
    「なんでだよ」

  • 125◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 02:40:13

    「にぃやん、目のクマすごいよ」
    「……そんなことは」
    「すごいから寝て」
    「……わかった、寝るよ。明日は休みだし、家でダラダラするか」
    「そうしよ〜! で、月曜日からまたトレーニングだ!」
    「脚の回復もあるから、少しペースは落としてやってくぞ」
    「おっけー! じゃ、にぃにの布団敷こう、ほら」
    「わかった、わかったって」
    「へへへ、久しぶりに一緒に就寝タイムだ」
    「そうだなぁ。最近はお前が寝てからもずっとレースの研究したり、メニュー練り直したりしてたし」
    「うん……めっちゃ嫌だった。寝てほしかった」
    「嫌てお前、仕事なんだよこっちは」
    「まあそう、だけど……にぃにちょっとやつれてたもん。そろそろ休んでよ」
    「分かってる。明日は休む。仕事のファイルは開かない」
    「ほんと? 約束ね」
    「ああ、約束だ」
    「じゃあ明日は家でダラダラしよっ。めっちゃ甘えたる〜」
    「……うざ」
    「んだよ〜、嬉しいくせに〜」
    「……」
    「はいため息。もう慣れましたよ、何回も同じパターンで返されたら慣れちゃいますよ」
    「一週間無視する」
    「は? うそだろおい、そんなことされたらあたし、しんでまうんですけど!?」

  • 126◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 02:43:12

    「……」
    「え、始まってる……嘘でしょ? ちょ、マジすか……」
    「……」
    「あたしにダメージ与えるためにガチなことすんのやばいだろ、この兄貴……」
    「……」
    「……あれ、じゃあなんでもし放題では?」
    「!?」
    「布団に潜り込んでも無視。お風呂入っても無視。無視されるけど逆に何しても文句も言われないし振り払われたりもしない」
    「……、」
    「それはそれでありか……」
    「お前、無敵か……」
    「え、無視やめるの? やめなくていいよ、いいこと思いついたから」
    「すんません、甘えていいんでやめてください」
    「なんだよ〜、やっぱりあたしのこと好きかよ〜」
    「もうそれでいいんで勘弁してください……」
    「ガチトーンの謝罪はやめろっ! めっちゃ申し訳ない気持ちになるからやめろっ! ごめんって、あたしが悪ふざけしすぎたって、ごめんって〜!」
    「もう、静かに寝ていただけると」
    「わかってます、寝ます、寝ますから……おやすみなさい」
    「ああ、おやすみ」
    「……」
    「……めっちゃ視線感じるんですが」
    「ちゃんと寝付くまで見てるからね」
    「勘弁してくれ……」

  • 127◆iNxpvPUoAM23/04/15(土) 02:43:39

    本日はここまで
    ありがとうございました
    明日は更新できないかもしれません

  • 128二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 02:47:12

    >>127

    おつ

    楽しみに舞ってる

  • 129二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 02:49:41

    おつ
    毎回楽しみだ

  • 130二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 02:50:11

    お疲れ様です
    次回も楽しみにしています

  • 131二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 07:39:19

    お疲れ様です〜
    今回も良かったです

  • 132二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 12:53:07

    妹ちゃんの領域がどんな感じになるのか楽しみ

  • 133二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 13:02:53

    気長に待つぜ

  • 134二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 19:50:52

    やっと追いついた
    元ネタの会話の再現度がめちゃくちゃ高かった

  • 135二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 19:57:45

    初期に元ネタ分かるぐらい上手くウマに落とし込んでるよね

  • 136二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 23:44:40

    乙です
    保守しておかねば

  • 137二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 23:49:38

    主の投稿がないとこんなにも寂しいものだなんて思わなかった

  • 138◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 02:56:11

    ・・・

    「は〜い、できましたよ〜」
    「やったぜ、念願の前先輩のハンバーグだ〜!」
    「ふふ、本当にお待たせしちゃって、ごめんなさい」
    「いいんすよぅ! 先輩もレース2勝目、おめでとうございまーす」
    「ありがとう、妹ちゃん」

    「2勝目のお祝いしないといけないのはこっちなのに、悪いな。こいつのわがままなんか聞かせて」
    「わがままなんて、そんな。むしろ初勝利の方が大事です。私も応援、行きたかったのに……行けなくて、ごめんなさい」
    「ありがとう。そう思ってくれるだけで十分だよ」
    「いえいえっ。見に行きたかったのは、ほんとですから。……それより早く食べましょう、せっかくの妹ちゃんのリクエストが冷めちゃいますっ」

    「ハンバーグ! ヘイッ! ハンバーグ! ヘイッ!」
    「みっともないはしゃぎ方すんなよ」
    「いいじゃんか、あたしのお祝いしたいって来てくれてるんだもん」
    「だからってなぁ……」

    「はいはい、仲睦まじいのは結構だけど、ほんとに冷めちゃうから早く食べましょうね」

    『はいすみません』

    「いただきま〜す」
    「いただきます」
    「はい、召し上がれ」

  • 139◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 02:57:59

    「……、……やっぱうまい!」
    「いっつもそれだなお前」
    「にぃやんもそうじゃん」
    「まあ、な。……、うまいもんはうまい」
    「うまい……これ以上の言葉をあたしたち兄妹は持たない」
    「うまい……このひと言を口にするだけしかできない」
    「前先輩の料理ほんとどれも最高なので嫁にほしい……にぃにとか、どっすか」
    「アホかお前」

    「あ、あはは……ぇと、おかわりもたくさん用意してあるから、いっぱい食べてね」
    「ありがとございます! いやー、初勝利から何日か経っちゃったけどハンバーグ食べたいって夢が叶って妹様はもう大満足ですぞ!」
    「ふふ、よかった。妹ちゃん、初勝利ほんとにおめでとう。動画で見たけど、すごかったね」
    「へっへっへ〜! まさかの写真判定ですよ、あたしも勝てると思ってなかったっ!」
    「写真判定かぁ……私も苦い思い出があるなぁ。その時もハナ差1cmだったっけ」

    「……そうだったな」
    「前先輩もあるんですか。写真判定って意外とよくあることなのか……?」
    「あるっちゃある。揉み合いになったままゴールした時とか……ほら、前担当の大学デビュー戦の3着も写真判定だったろ」
    「あー……、うん、言われてみればそうだったかも」
    「お前、忘れてたろ」
    「前先輩しか見てませんでしたね……」
    「レースじゃ5着まで……掲示板に載るまでが基本的に評価に入る。その中でも3着以内に入ってるかどうかはかなり大きい」
    「うーん……つまり、1着になれなくても3着までに入ればいいの?」
    「いいってわけじゃない。そりゃ入れたら御の字だけど、レースは1着を目指すもんだ。ヒトによっては1着か、それ以外って言うやつもいる」
    「改めてやべぇ世界にいるな、あたしたち……」

  • 140◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 02:58:57

    「ウマ娘が走る理由は、勝ちたい……だからね。特にハナ差の負けは、悔しいよ」
    「……」
    「ぁ、ご、ごめんなさい。せっかくのお祝いなのに、暗い雰囲気にしちゃって……」
    「へっへー、だいじょび。あたしは今、前先輩のハンバーグを食べられて最高に気分がよい!」
    「そ、そう? それならよかったぁ」
    「マジで毎日食いたい……」
    「ま、毎日は……厳しい、かなぁ……」
    「やはり嫁に来てもらうしかないか……? それか、先輩のおじいちゃんのお店に置いてもらう……」

    「マジで毎日通うな、それ」
    「通う通う。お店のハンバーグセットもめっちゃうまいけど、あたしは前先輩の方が好みです」
    「おじいさんには悪いけど俺もだ」

    「そこまで喜んでもらえると、私も作り甲斐が出ちゃうなぁ。また今度作りにくるとき、リクエストしてね」
    「はいっ! ……ところで先輩?」
    「なぁに?」
    「なんでにぃやんのハンバーグの方がちょっと大きいんですかね」
    「……えっ、えっ」

    「そうか? 同じだろ」
    「いいや違うね、違いますね。妹様の目は誤魔化されんぞ。どう見ても兄者のハンバーグの方がちょっとでかい!」
    「そんなことないって」
    「よこせ!」
    「やめろ意地汚い! 俺のだぞ!」
    「あたしのお祝いだぞ! あたしのおかげで食べられてることを感謝してから言え!」

    「無意識におまけしちゃってたのかな……?」
    「無意識……だと……?」
    「次は、妹ちゃんの方を大きくするね」
    「お願いします!」

  • 141◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 02:59:41

    「ほんとにごめんな……こんなので」
    「こんなのって言うな、わがままなのは認めるけどこんなのって言うな。こんなのでもお前の妹だぞ、可愛い妹だぞ」

    「ふふ、私も可愛くて大好きですから。連れて帰りたくなっちゃいます」
    「いえ〜い! あたしも前先輩が大好き!」

    「ならぜひ連れて帰ってくれ。俺にはもう手がつけられん」
    「お前めちゃくちゃ言うな先輩の前だからって」
    「こっちのセリフだわ。お前作ってもらっといて文句言うのやめろ」
    「はい、すみません」

  • 142◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 03:01:18

    ・・・

    「ふへぇ……お腹いっぱい……」
    「お前、めっちゃ食ったな。いくつ食ったんだよ」
    「フッ……お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのかい……?」
    「意地汚いのやめろよ……ほんと」
    「前先輩のハンバーグがうますぎるのが悪い。にぃやんもおかわりしたでしょ」
    「したけどさ。確かに俺もおかわりしたけどさ」
    「ならその時点であたしを責めることはできないぜブラザー……諦めて前先輩にお礼を言おう」
    『ごちそうさまでした』

    「いえいえ。喜んでもらえて私も嬉しいですから」
    「いや、ほんとにありがとう。トレーニングで忙しいのに、わざわざ来てもらって」
    「私もリクエストしてもらえて嬉しいですから、もう言わないでください。それに2人が喜んでくれるところ、私、もっと見たいんです」

    「じゃあやっぱりにぃやんの嫁に」
    「お前ほんと黙れ」
    「はい」
    「ぁ……ぁ、あはは……はは……」

  • 143◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 03:25:55

    「そういえばお兄ちゃん」
    「ん、なんだよ」
    「明日ってお休みでしたっけ」
    「平日ですが。普通に学校ありますが」
    「……なんとかなりませんかっ」
    「ならん」
    「ちぇ〜……」

    「ぇと……どうか、したんですか?」
    「いやぁ、明日先輩お休みなんでしょ? 学校」
    「ぁ、うん。明日は授業とってないから。それがどうかした?」
    「……先輩と走ってみたいな、って」
    「私と……?」
    「にぃやんの昔の担当さん、前先輩。そして現担当、あたし」
    「う、ぅん……うん?」
    「併せてみたいなー、って」
    「……併走? 私と?」
    「そう!」

    「あー、俺から説明するよ」
    「ぁ、はい」
    「2戦目の動画は見たって言ってたから知ってると思うけど、後方から一気に追い上げてきたウマ娘……」
    「……なるほど、そういうことですか」
    「ああ。あれは“領域”だ」
    「だから、私と……あの世界に近い場所にいる私と、実際に走ってみたい……と」
    「ああ。こいつがその世界に立てるとは限らないし、簡単なものじゃないってのもわかってる。俺自身、前担当が“領域”の門に立たなきゃ信じることすらできなかったからな」
    「トレーナーさん……」

  • 144◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 03:29:03

    「女王先輩とは、クラシックになったら絶対に戦わなくちゃいけなくなるんです。だから……前先輩、お願いします。あたしと走ってください!」
    「……」
    「ぁ、えと、でも明日が無理なら次のお休みでも大丈夫ですから! あたし、急いでないんで!」
    「……妹ちゃんの次のレースって」

    「G3、京都ステークスを考えてる」
    「……重賞」
    「阪神JFを目指す……つもりなんだ。俺は無理せずクラシックに本気を当てたいけど、妹はやってみたいって」
    「脚の休息は大丈夫なんですか……?」
    「……いや、かなりギリギリだ。ホープフルなら休む時間も作れそうだが、そっちはそっちでヤバいやつが出る」
    「……」

    「お願いします、先輩! 出る出ないは別として、先輩と走ってみたいのは本心なの! 100億パー本心なの!」
    「私と走っても……その、本格化は終わって力も落ちてきてるし、得られるものは多くないと思うけど……」
    「そんなのカンケーないです! あたし、前先輩と走りたい!」
    「……」
    「……ダメ?」
    「ううん、ダメじゃない」
    「え、ほんと!?」
    「実を言うと……私も妹ちゃんの走り、見てみたかったから。不甲斐ない先輩かもしれないけど、よろしくね」
    「ありがとうございますっ!!」

    「ほんとに、ごめんな」
    「謝らないでトレーナーさん。私も走ってみたいのは、本心だから」
    「ありがとう、前担当」

  • 145二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 08:47:35

    京都ジュニアSだと2000mか
    距離長い方が良いと見たかな

  • 146二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 10:31:26

    クラシックの2400を見据えて2000を走っておくのかな
    阪神JFは1600だからデビュー戦と同じ距離か

  • 147二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 14:32:45

    翌日────

    「わぁ〜、トレセン学園のグラウンド、なんだか久しぶり〜」
    「走る……ってことに関して言えば、1年以上……だな」
    「そう、ですね。また……走れるなんて」
    「それなら、デビュー戦で走った東京レース場の方が良かっただろ」
    「それはそれですよ、トレーナーさん。ここには私たちの……汗も涙もたくさん染み込んでますから」
    「……ああ、そうだな」
    「ん、……風が気持ちいい。もう、すぐにでも走り出したくなっちゃいますね」
    「走るか?」
    「え?」
    「妹は昼まで授業受けてるし、今なら時間あるけど」
    「……いいんですか?」
    「ああ。卒業しても前担当はトレセン学園のウマ娘だし、ちょっと許可もらってくるよ」
    「ごめんなさい、わがまま言ってしまって」
    「そこはごめんなさいじゃなくて、お礼がほしいところかな」
    「……ふふ、ありがとうございます」

  • 148◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 14:57:01

    「よし、いつでもいいよ」
    「はい! ……いきますっ」

    合図を出すと、すぐに前担当は走り始めた。
    思い出す。一年前まで、いや、もうそれ以上経っているが……彼女と共にグラウンドに来て、日が暮れるまで走っていたあの日々のことを。

    何度も走って、何度も泣いて、何度も苦しんで。

    勝ちきれないレースが続いた時期があった。
    勝ちを重ねられた時期があった。
    そして、走れなくなった時期が……あった。

    それでもようやく怪我を治して、乗り越えて、ようやく前担当は……トゥインクルシリーズではないけれど、別の舞台だけれど、また走り始めることができた。

    デビュー戦では、その姿が嬉しくて、みっともないくらい涙を流してしまった。
    それも東京レース場、あの坂を乗り越えた……あの姿が、本当に嬉しくて。

    「……もう、お前は走り始めてるんだよな」

    自嘲するように小さくつぶやく。

    「まだあの時のまま、止まってたのは俺だけだったみたいだ。妹と走るようになって、少しは前に進めたかと思ってたんだが」

    まだまだ、俺は未熟だ。
    大人としても、トレーナーとしても、人間としても。

    1番辛くて苦しかったのは、走っていた当人に決まっているのに。

  • 149◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 14:57:38

    「でも、もう止まってられないよな」

    前担当は、また走り出した。
    妹はもう走り始めてる。

    俺ももう、止まってなんかいられない。そんな余裕なんてどこにもない。

    もうすぐ妹のジュニア級が終わる。
    年が明けたらもうクラシックは目前だ。

    「妹も前担当も頑張ってるんだ、俺ももっともっと頑張るよ。情けないお兄ちゃんじゃ、いられないからな」

    長い長い、独り言。
    誰も聞いていない独白に、結論付けるように俺は、緩みそうになる口元を引き締めた。

    「はぁ、はっ……はぁ……トレーナーさん、タイムは、どうでしたか……?」
    「やっぱりトゥインクルシリーズの頃に比べたら落ちてる。本格化の終了がこんなに響くなんてな」
    「やっぱり、そうですよね。大学リーグの1000mの平均ラップタイムを聞いたら、きっと驚いちゃいますよ」
    「かなりスローペースなんだろうな」
    「ええ、ほんとに。……妹ちゃんと走って、何か力になれるかな」
    「無理に力になろうと思わなくていいよ。あいつはただ、前担当と走りたいだけだと思うし」
    「そうでしょうか。でも、伝えられることはあると思うので……頑張りますね、私」
    「……ありがとな」
    「いえいえっ。それじゃあもう一本、お願いします」
    「よし、わかった!」

  • 150二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 19:53:35
  • 151二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 22:19:33

    感想スレが完走してて草
    いや本当面白いわこれ。妹ちゃんがどういう領域を使えるようになるのか楽しみ

  • 152◆iNxpvPUoAM23/04/16(日) 23:37:14

    ・・・

    「は、ぁ……はぁ……はっ……は……っ」
    「お疲れ。息整えながらゆっくり飲んで」
    「ぁ……あり、がと……ございます……」
    「どうだった?」
    「は、い……、……ん、……、」

    「ぷはっ! ……すっごく、気持ちよかった」
    「……そうか」
    「それにまた、トレーナーさんに走りを見てもらえて……嬉しいな」
    「前も見ただろ」
    「ううん、そうじゃなくて……あなたのそばで走る私を、です」
    「もう、俺の仕事じゃないからな。それは」
    「……はい。私はもう、あなたの担当ウマ娘じゃ、なくなっちゃったから」

    「でも……トレーナーさんも、私のトレーナーに変わりはありません。担当ではないだけで、ね」
    「ははは、なんだよそれ」
    「ほら、ぁの……小学校の先生はいつだって自分の中では先生でしょう? それと同じですっ」
    「その感覚はわかるけど、そういうもんなのかな」
    「そういうものなんです。だからトレーナーさんも、私のこと、トレーナーさんって呼ぶことを許してくれてる」
    「……そうなの、かな」
    「そういうことにしておいてください。でないと、私がなんだか恥ずかしい子みたい」
    「妹がいたらめっちゃいじられてるだろうな」
    「ぁ、ぁれは〜……その、ほんとに、恥ずかしいからやめてほしい……」
    「顔真っ赤、かわいい……だっけ」
    「ちょ、とれっ……トレーナーさんっ!」
    「ごめんごめん」

  • 153二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:38:11

    前担当ちゃん本当かわいいな

  • 154◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 00:32:23

    「トレーナーさんまでからかうなんて……もう、しばらくご飯作ってあげませんよ」
    「ぇ、ちょ……それは、……」
    「……それは?」
    「いや、なんだ……あれだ、うん」
    「どれ、かな? 教えてください」
    「……困る」
    「困っちゃうんですか?」
    「ああ、困る。妹も気に入ってるし」
    「……トレーナーさんは、どうですか」
    「俺!?」
    「はい、トレーナーさんです。トレーナーさんは、私のご飯、気に入ってくれてる?」
    「……ぇ、と……ぁー……うん」
    「なんて言いましたか? すみません、聞こえなくって」
    「…………気に入ってるよ、俺も、前担当のメシ」
    「ふふ〜」
    「くそ、なんだよこれ。なに言わされてんだ俺……」
    「妹ちゃんがいたら、からかわれちゃいますね。にぃやん、前先輩のことナンパしてんの? って」
    「……やめてもろてええですか」
    「ふふ、はいはい。……さてと、ひと休みも済んだし、もう少し走ってこようかな」
    「まだ走るのか?」
    「なんだか、やっぱりここにいたら走りたくって。4限の終わりまでもう少しありますし、あとちょっとだけ」
    「わかった。でもあと20分だけな。そしたら軽くシャワー浴びてこいよ、昼メシ行こう」
    「はい、わかりました」

  • 155◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 00:43:12

    1時間後────

    「お腹もいっぱい、元気も満タン、前先輩の準備もオッケー! あとは倒れるまで走る!」
    「倒れたら意味ないからな」
    「そういう意気込みですよ、意気込み。わっかんないかなぁ、にぃやんにはあたしから溢れ出すこのスポ根魂を」
    「うるせぇよ。どうせ俺は見てるだけの人間だよ」
    「やーい見る専!」
    「……それは煽ってんのか?」
    「わからん! とりあえず、前先輩!」

    「ええ。私の準備もできてるよ。いつでも大丈夫」
    「それじゃあ、今日はお願いしますっ」
    「うん、よろしくね。私で伝えられることがどれだけあるかはわからないけれど、頑張って走ってみるから」
    「そんなことないですよ、前先輩。あたし、前先輩の走りを生で見たい、感じたいって思ってたんです。だから……今日は胸を貸してください」
    「ただの併走トレーニング……だけどね」
    「よろしくお願いします!」

  • 156二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 00:49:43

    さて、それぞれにとってそれぞれがどう見えるのか

  • 157◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 00:51:37

    「ふっ……!」
    「ん……っ!」

    走り始めたふたりを眺める。
    ふたりとも脚質は先行で、妹がわずかにハナを切るのが早かった。
    妹の走る背を、前担当が追いかける形でふたりはコースを進んでいる。

    妹の走りは、よく言えば力強い。悪く言えば力任せ。
    本格化によって表れたパワーを好き放題に使って大地を蹴る。

    対して前担当の走りは軽やかで、力強さはあまり感じない。
    本格化が終わって衰退期に入っているとは言え、当然ウマ娘であるわけだから、俺が走るよりは力強いし速度も段違い。

    この違い……妹にとって気付きに繋がればいいが。

  • 158◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 00:58:51

    「……妹ちゃん、やっぱり速い。トレーナーさんがしっかりと鍛えてくれてるのがよくわかる……」
    「……でもっ!」

    「ぅえ、なんでっ……、抜かれた!?」
    「うっそ、ちゃんと先輩に抜かれにくいようにしてたのに……っ」

    「前に出るのは大事だけど……少し後ろについて観察するのも大切だよ。じゃないと今みたいに、ほんの小さな隙を突かれて、抜かれちゃう」

    「くっ……おりゃあ〜!!」

    「あンの、ばか……!」
    「お前、ペース考えて走れって言ってんだろ! 2000mあるんだぞ、今そこで無理に追い返そうとしたら────」

    「ぅえ、えぇえ……むりぃ〜……」

    「あ、あらら……」

    「言わんこっちゃない……」

  • 159二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 01:00:18

    見事に掛かってる…

  • 160◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 01:07:25

    「アホかお前」
    「はい、すみません」
    「ったく……お前の友達と走ってる時、抜かれてもそんな風にならなかったろ」
    「だってぇ……抜かされる気全くないとこで抜かされて……焦っちまいましたね、はい」

    「その気持ちをぐっ、とこらえて走り続けるのもレースに大切なことだよ。最初から最後まで考えながら走らなくちゃいけないから、大変だけれど」
    「分かってるつもりだったんですけど、ムキになっちゃいました。ごめんなさい、前先輩」
    「ううん、私は大丈夫。少し休んだら、もう一度やってみましょう? 次は焦らないで、落ち着いて」
    「はい!」

    「いいか、お前の走りと前担当の走りは違う。お前はお前の走りをしろ、惑わされるな、引っ張られるな。あれじゃ相手の思う壺だ」
    「にぃやん……」
    「お?」
    「次は、後ろについてみる」
    「……わかった。やってみろ」
    「……うん!」

  • 161◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 01:25:35

    「……はじめ!」

    「っ……!」
    「……っ!」

    数分の休憩ののち、ふたりは合図と共に走り出した。
    今度の妹は前担当の指示に従い、彼女の後ろにつき、その動きを観察する作戦でいくようだった。
    大きな駆け引きの起きないまま、ふたりは調子良くコースを回り、第4コーナーを回り始めるあたりからようやく動き始めた。

    「前先輩の前のレース、仕掛けるタイミングは最終直線だった……なら、あたしが行くなら少し前!」

    前担当の背を見るようにひっついていた妹が少し離れ、温存し続けていた脚にようやく火を灯そうと────

    「……させま、せんっ!!
    「っ……ぇ〜っ!?」

    しかし、反則の判定をもらわないギリギリの範囲で前担当が妹の前に身体を入れた。
    前担当の横を突っ切るつもりでいた妹は、作られた壁に阻まれて前に出ることができない。

    「な、っ……なんでっ!? あたし、ちゃんと見てたのに……!」
    「まだ、まだよ妹ちゃん。あなたにはまだ力任せに走っても耐えられる脚がある……それなら、もっと外を回ってもいいんだよ」
    「もっと、外……? ぁ、そっかぁ!」

    ズシ、と足音が轟く。
    妹は一瞬、体勢を崩しかねないほどに低く強く、脚を踏み込んで────

    「目の前に壁があるなら、もっともっと外側を通ればいいんだっ!」

    相変わらずの力任せ。
    しかしそれでも、妹は前担当を追い抜き、ゴールを突き抜けた。

  • 162◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 01:38:16

    「はぁ……はぁっ……はあ、は……っ……抜い、た……!」
    「はぁ、ふぅ……ふぅ……、……おつかれさま、妹ちゃん」
    「ぁ、ざます……っす」

    「お前がいつも走ってる先行は、怯まず落ち着いて走ることが大切だ。前に行きたいやつは好きに行かせろ。お前はそいつが垂れるのを待て」
    「へい……」
    「粘って粘って、垂れ始めたら一気にぶっちぎる。それが先行って脚質の走り方だ。……少しは駆け引きってものがわかったか?」
    「ん……なんとな、く?」
    「……まあ、今はそれでいいよ。実戦で走るうちに分かってくるさ」
    「うす。前先輩も、ありがとうございます」

    「いえいえ。私もその走り方に慣れるまでは、少し時間がかかったから、他人事には思えなくて」
    「慣れる……?」
    「私、最初はいろんな脚質を試してたの。逃げも、先行も、差しも、追い込みもすべて」
    「え……そうなんですか? 走りのスタイルってそんな簡単に変えられるもんなの?」
    「いいえ、そう簡単ではありません。それぞれの脚質によってペースも違うし、かかるプレッシャーも変わってくる。だから色々と試しながら、自分に1番合う走り方を模索しなくちゃね」
    「はい……じゃあ、あたしが今やってる先行も1番合ってるとは限らないんだ」
    「そうだね。それでも私は、妹ちゃんは先行がいいような気がするけれど……こればっかりは、難しいから」
    「う〜む……なるほど……」

    「とりあえず少し休むか。前担当も休憩しよう」
    「あ、はい、トレーナーさん」

    「にぃやん疲れた〜おんぶして〜」
    「自分で歩けアホ」
    「ちぇ〜……」

  • 163◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 02:00:27

    トレーニング終了────
    「お疲れ。今日はこれで終わりだ。ふたりともシャワー浴びてこい、終わったらトレーナー室に集合」

    「お疲れ様でした」
    「お、お疲れ様でした……あざした……」
    「妹ちゃん大丈夫……? ごめんなさい、無理、させちゃったかな……」
    「ぁ〜、いやいや、そんなことないですよ。あたしが気合い入れまくっただけですから」
    「私も楽しくて、ついつい張り切っちゃった。これがレースだったら、4勝1敗だね」
    「前先輩がそんな煽りをしてくるなんて……っ」
    「ぇ、え、えっ! そ、そんなつもりじゃ……ごめんなさい、ごめんね……」
    「いいんです、いいんですよ前先輩。事実ですもん、4敗ですもんあたし……」
    「ご、ごめんなさい……ほんとにごめんなさい……」
    「もう謝らないでいいですってば! ……でも、悔しいなぁ」
    「……妹ちゃん」
    「あ、いえ、あれです、あれ。“領域”ってやつ、生で感じてみたかったんですけど」
    「……ああ、あれ」
    「はい、あれです。あの……相手の視界とか思考とかを奪うやつ?」
    「奪うって言うとちょっと怖いけど……覗き見する、って言うのかな。……これもちょっとよくないね」

    「対戦相手のウマ娘の、所有物を借りる────そんな感じ、かな」
    「借りる……」
    「そう。視界を借りて、視線を借りて、思考を借りる。借りるのはその一瞬だけだから、ちゃんと返すよ? それで借りた情報から、私は隙を見つけて前に出る。それが私の“領域”……ううん、“簡易領域”、かな。不完全なものだから」
    「……“簡易領域”」

  • 164◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 02:00:38

    「本物の“領域”は……もっと恐ろしいよ。限界を超えた先の先。当人すら知り得ない豪脚。全てを出し尽くしたはずの身体から溢れ出す、未知の世界」

    「思考はクリアになり、それまで重かったはずの脚は不思議なくらいに軽くなる。まるでどこまでも走っていけそうな気持ちで、走り続けられる」
    「それが“領域”。私が使えるモノは、本物の領域とは違う。言ってみたら、観察眼の……延長線」
    「未知の加速なんて私は知らないし、限界を超えた先なんて、到達できていない」

    「前先輩でも、ダメなんですか……?」

    「私なんて、まだまだ全然だよ。私の世代には、その世界に入り込んだウマ娘がいた。とても強くて、速くて、まさに世代最強と呼ばれるにふさわしい力を持ってる」

    「持ってる、ってことは……」

    「うん、まだ走ってる。私はトゥインクルシリーズから卒業して、いまは大学リーグだけれど……その娘はまだまだ走ってる」
    「いつか妹ちゃんもぶつかるかもしれない。……気をつけてね」

    「……はい、がんばり……ます。ちなみにそのヒトって、どんなヒトなんですか?」

    「ふふ、顔を見たことはあると思う……ううん、絶対に見たことはあるね。それも、何度か」
    「え……えぇ? あたしの知り合いにいたっけ、そんなヒト……」
    「う〜ん……知り合い、ではないかもしれないけれど」
    「知り合いじゃないのに知ってるヒト……? 芸能人とか」
    「芸能人でもないね〜」
    「……わからん」
    「ふふ、走り続けている限り、いつかターフで出会うことがあるよ、きっと」
    「はい……その時は、頑張ってみますね」
    「うん、応援してるね」

  • 165◆iNxpvPUoAM23/04/17(月) 02:15:15

    トレーナー室────

    「ようこそ前先輩、我がトレーナー室へ〜」
    「わぁ……ここに来るのも久しぶりっ、うわぁ……なんだかもう懐かしい気持ちになっちゃう。ぁ、私の写真……ぁゎ、は、恥ずかしいな……」
    「あれね、にぃやんずっと飾ってるんですよ」
    「そ、そうなん……ですか……?」

    「いいだろ、そんなこと。お前の写真も置いてんだから文句言うなよ」
    「別に文句言ってないだろ。下手な話の振り方すんなよコミュ障かよ」
    「……」
    「う〜わ、めんどくせえなこいつって思ってる顔だ。そういうのよくないよにぃやん」
    「前担当いる時のお前ほんと嫌い」
    「嫌いとか言うなよ胸に刺さるだろ! せめてなんかこう、可愛くないくらいにしてよ、普段は可愛いけどこういう時だけ可愛くないみたいな!」
    「お前さぁ」
    「ん? なに?」
    「やっぱこういう時のお前めっちゃ嫌いだわ」
    「このクソ兄貴め……」

    「ぁ、このぬいぐるみは……昔には、なかったですよね?」
    「ああ、それか」

    「あっ! それね〜、にぃにがゲーセンでめっちゃお金かけてとったんですよ。2000円くらい」
    「ぁ、あはは……また、やっちゃったんですか?」
    「へ? また?」
    「トレーナーさん、私が欲しいって言ったクレーンゲームの景品に……多分、同じくらいかけて取ってくれたの。あの時は軽々しく500円をいっぱい入れちゃうから心臓に悪くって」
    「にぃやん、あんた成長しないな……」

    「お前……なんかめっちゃ腹立つわ。帰ってこないでいいですよもう」
    「口喧嘩に負けそうだからってそういう手段に出るのやめろぉ!」

  • 166◆2h.wN6NhjIln23/04/17(月) 02:27:12

    「いいもんいいもん。あたし拗ねちゃうもん。にぃやんのPCで勝手にアニメ見てやる」

    「……どうでしたか、トレーナーさん。今日の私との併走……収穫はありましたか?」
    「ああ、十分だ。妹はまだG3すらキツイ」
    「……そうですか?」
    「一緒に走ったお前なら俺より分かるだろ。足りないものが多すぎる」
    「……、」
    「……けど、それが今日分かった。脚質もそうだし、相手を観察するってコトの意味もな」
    「という、ことは……」
    「ああ、方針は変えない。京都ジュニアステークスを勝って阪神JFを目指す」
    「……無理を、させちゃいますね」
    「無理はさせない。もう、担当ウマ娘のあんな姿は見たくないからな」
    「トレーナーさん……」
    「……なんだよ」
    「やっぱりあなたは素敵なトレーナーさんですね、ふふっ」
    「なんだよ、それ」
    「私のこと、もう引きずっていないみたいで安心しました」
    「……忘れたわけじゃない」
    「はい、それは私もです。ただ、前に進んでくれて、私は嬉しいの」
    「……情けないお兄ちゃんじゃ、いられないからな」
    「そうですね。かっこいいお兄ちゃんでいてあげてくださいね」
    「……頑張るよ。ありがとう、前担当」
    「いえいえ♪」

  • 167◆2h.wN6NhjIln23/04/17(月) 02:47:22

    数日後、京都レース場────

    〈さぁ始まりましたG3、京都ジュニアステークス!〉
    〈実況は私、赤坂とも解説は細江さんがお送りします! よろしくお願いします!〉

    〈まずは1番人気のウマ娘がパドックに登場します! 6月にデビューし、現在3連勝中の絶好調の────〉

    〈そして3番人気は先日の未勝利戦で勝利を飾り、G3の舞台へと乗り込んできた兄妹コンビ!〉
    〈トレーナーは実のお兄さんだと聞いております。初勝利をあげて二週間弱で出走する本レース、どのような展開が待ち受けているのでしょう────!〉

    「……緊張してるか?」
    「まさかそんなわけ! ……って、流石に言えないね。してるよ、めっちゃしてる」
    「だよな。初めてのG3、今までとは何もかもが違いすぎる」
    「重賞……って、こんなにやばいんだね、空気」
    「ああ、やばい。前担当が初めてG3に出た時もそんな感じだった」
    「前先輩……これに勝てたら、前先輩、喜んでくれるよね」
    「当たり前だろ。あんなに練習付き合わせたんだ、恩返ししなきゃな」
    「……にぃにも喜ぶ?」
    「当たり前だろ。ってかお前、レースのたびにそれ聞くのか?」
    「ん、聞く。ちゃんと喜んでくれるか不安だし」
    「ったく、アホだなぁお前」
    「わ、ちょっ……髪触んないでセット崩れる!」
    「大丈夫だ」
    「……ん」
    「今日は空気に慣れるくらいのつもりでやってこい。俺はお前がゴールするまで、瞬きすらしてやらねぇよ」
    「ちゃんと見ててくれるんだ」
    「約束したからな。絶対に目を離さないって」
    「……へへ」
    「気を楽にしていけ。前担当から教わったこと、しっかりと試してこい」
    「……うん! 行ってくるね、お兄ちゃん!」

  • 168◆2h.wN6NhjIln23/04/17(月) 02:50:04

    〈さぁ準備が整いました! 各ウマ娘、続々とゲートへ入ります!〉


    「……空気が重い。歓声も全然違う……うるさいくらい」
    「でも……」
    「芝の香りと風の感触はいつもと同じ!」


    〈G3、京都ジュニアステークス────スタートです!!〉

  • 169二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 07:51:24

    さてどうなるか

  • 170二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 15:14:36

    頑張れ妹ちゃん……!

  • 171二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 21:05:01

    一気に読んで追いついた
    面白い、続きが楽しみ!

  • 172二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 00:07:12

    念のため保守
    のんびりお待ちしてます

  • 173二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 01:03:27

    ・・・

    「だりゃぁあああっ!!」

    雄叫びを上げながら先行したのは1番人気、栗毛のウマ娘。荒々しいながらも勢いのあるその姿は、まさに連勝続きでノリにノっている状態と言える。

    そこへ続くのは2番人気の青鹿毛。1番人気のウマ娘とはこれまで二度にわたってレースをしており、そのどれでも惜敗を味わっている。彼女からすれば三度目の正直と言ったところか。

    そしてひとり、ふたりとウマ娘が先行集団に集まり────妹の姿は先行集団のやや後ろ。最後尾から6番目。
    今回のレースは14人出走。今までの走り方からすると後ろの方だ。

    「差し……」
    「今までとは違う走り方でどこまでやれるか。……頑張れよ、妹」

  • 174◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 01:04:32

    数日前────

    「……差し?」
    「ああ。今回のレース、先行勢が多い。お前じゃポジション争いに絶対負ける」
    「む。やってみないとわからないのではなくて、お兄さま?」
    「アホか。今までは自分が走りやすいポジションを楽に取れてたからいいが、今回はそうはいかない。お前よりも場数を踏んで、勝ち星を上げてる奴らが何人もいるんだ。そんな奴ら相手に位置取り争いで勝てると思うか?」
    「…………いやぁ」
    「だろ?」
    「めっちゃ怖いと思いますね、はい。あたし絶対無理な自信あります」
    「だから、逆に少し下がる。先行勢は前目に位置を取りたい。じゃないと自分の思う通りの展開にできないからな」
    「あたしもそっちの方がいいんだけど」
    「確かに自分の思い通りにできるならその方がいい。でもさっきも言ったろ、お前は身体がそんなにデカくない。普段の通り走ったって、絶対に位置取り争いに負ける」
    「ぅ〜、……あたしにできるかなぁ、差し」
    「前担当との模擬レースで分かった。お前は差しでも走れそうだ」
    「そうかな……」
    「無理に勝ちにいかなくていい。本番はクラシックだ。阪神JFを目指すつもりであるとはいえ、ぶつかって怪我でもしたら……意味がないからな」
    「……分かった。やってみる」
    「よし……ただ無理はするな、そして乗せられるな。いいな」
    「うん!」

  • 175◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 01:05:56

    そして現在────

    〈さぁ先頭集団が第3コーナーを回った! 未だ激しい位置取り争い!1番人気のゼッケン6番が周囲へプレッシャーをかける!〉

    「……お兄ちゃん、言ってたっけ」
    「あたしが3番人気なのは、あの口の悪い子と……女王先輩のおかげだって」
    「あの子はあたしが初勝利した次の日……7馬身差で勝って、ホープフルステークスへの出場を宣言した」
    「女王先輩も先週の未勝利戦で大差勝ち。……やばいやつばっかだ」
    「そのヒトたちにクビ差で負けたりハナ差やらで勝ったからって、3番人気って……ほんとに意味わかんない」
    「だってあたしはあたしだもん。誰から人気をもらおうと関係ない。あたしは……」

    「……あたしはお兄ちゃんが見てくれるなら、それだけでいいんだっ!」


    〈第4コーナーを回ってついに最終直線へ! ようやく先頭集団が崩れ始めたか! 先頭にいるのは────1番人気、ゼッケン6番!〉

    「うおおおぉぉぉぉっ!!!」

    6番────栗毛のウマ娘が張り裂けんばかりの声を発し、先頭を走る。

  • 176◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 01:07:09

    今までのレース動画を見ている限り、このウマ娘がスパートをかけるのは残り300mを切ってからだ。
    そうなると位置取りの関係上、どれだけあとから追い上げても間に合わない。
    だから仕掛けるなら────

    〈残り400m! ────おおっとここで一番外から仕掛けてきたウマ娘!! ゼッケン2番! 勝負に出たッ!〉

    「そう、そこだ!」

    思っていた通りのタイミングで飛び出した妹に、思わず拳を握る。
    意図せぬタイミングでスパートをかけられて焦らないやつはいない。シニア級で走り続ける古豪相手ならば通用しない手だろうが、今日の相手はまだ知識も経験も浅いジュニア級。

    タイミングをずらされ、焦らされたウマ娘は無理やりにでもスパートをかけるしかない。

    「ぉ、ぉぉおおおおっ!!」

    〈つられて他のウマ娘もスパートをかけ始めた! しかし対応に遅れたか、苦しいぞ!〉

    「やら、れっかよォぉおお!!」

    「まだ脚はある! 私だって今度こそ勝ちたい!」

    妹の追い上げに対抗するようにスパートをかけ始めたウマ娘たち。苛烈な先頭争いだ。

    〈残り100m! 現在先頭はゼッケン2番! 二番手との距離はほとんどないぞ!!〉

    「頑張れあたし! 踏ん張れ!」
    「今回こそ、勝ってにぃにを泣かせてやるんだ……!」
    「にぃにに! 前先輩に! 喜んで────、」

    〈ゴオォーーール!!!〉

  • 177◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 01:15:29

    「はぁ、はっ……は、ぁ……っ」

    〈1着はゼッケン2番!! 3分の1バ身差で初挑戦のGⅢを見事勝利で飾りました!!〉

    「か、っ……た……! 勝った……あたし、勝った!」

    「にぃやんに、お兄ちゃんに言わないと。勝った、って……」

    「なんて言うかな。どんな顔してるかな。泣いて喜んでるかな……へへ、前先輩にもLANEしなきゃ……もしかしたら中継見てたりしてるかな。控室戻ったらメッセージきてたりして」

    「……いてて」

  • 178◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 01:38:27

    「おめでとう、いい走りだった。ちゃんと今回は見てたぞ」
    「にぃやん泣いた?」
    「あ?」
    「泣いたかって聞いてんの。どうよ、おい」
    「泣くかよこんなもんで」
    「なに言ってんすか。むしろこんなんだから泣くんでしょうが。もっと妹のGⅢ初勝利喜んでもらえませんかね」
    「充分喜んでる。ほら、前担当からメッセージも来てるぞ。中継見てたってよ」
    「え、ほんと!? ちょちょ、見せて見せて」
    「ほれ」
    「ぉ……ぉ〜、ガチじゃん」
    「ニヤケすぎだろ」
    「うるさいなぁ! にぃやんこそちょっとニヤついてるでしょうが!」
    「う、うるせぇな! 悪いかよ、勝って喜んだら!」
    「へへへ、じゃああたしの狙い通りだね。今日の目標はにぃやんを泣かして喜ばせる、だったのだ」
    「泣いてねえわ。全然狙い通りじゃねえわ」
    「あ? やんのかおら、表出ろや! 走りで決着つけたるわ!」
    「勝てるわけねぇだろそれ!」
    「当たり前でしょーが。勝てる戦いしかやんないんすよ、あたし」
    「勝ったからって調子のいいことばっかり言いやがって。ほら、少しは汗と顔の泥拭けよ」
    「わぷっ」
    「ったく……」
    「んむぅ、うぇ……ちょ、まっ……拭くの下手すぎだろオイ! もうちょっと優しく、ってかソフトに扱えよ! あたしの顔、にぃやんのプラモじゃないんだぞ!?」
    「……ぁ、ごめん」
    「ぃゃ、ぁ……ぁの、ガチな謝罪されても困るっていうか、あの……そこはうるせぇ! とか、ぶっとばすぞ! とかじゃないんですか……」
    「いや、うん……ごめん」
    「ちょまっ、ごめ、そんなんじゃなくって! ちがうの、確かに拭き方は雑だったけどいいの、嬉しくてつい悪態吐いちゃっただけなの、照れ隠しなの!」
    「……」
    「微妙な顔もやめて! 優しく拭いてくれたらいいだけなの、ふわふわって感じでやってくれたらいいだけなの、嫌とかじゃないの、むしろにぃにが昔髪の毛乾かしてくれた時みたいで嬉しかったからもっとやってほしいの!」
    「うるさい。静かにしろ」
    「はい、すみません」

  • 179◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 01:48:14

    「これからウイニングライブだな」
    「ん……そだね。くっそヒト多いのめっちゃ怖いんですけど」
    「お前、陽キャっぽく見えて実はビビりだもんな」
    「うるせぇよ、言うなよ。明るくておてんばなようで実は人見知り激しいとか言うなよ」
    「全部自分で言ってるじゃねぇか」
    「ぐぬぬ……にぃやんのぼっちキャラが遺伝してしまった……」
    「ぼっちじゃねぇよ、友達くらいいるわ」
    「多くないじゃん。あたし来てから友達と出かけるとかって話一回もないじゃん」
    「当たり前だろ」
    「なんで?」
    「お前を1人にするのが怖い」
    「ぇ……ちょ、な、なんだよ急に……あたしがいるから、遊んだりしないの?」
    「そうだよ」
    「……ふーん」
    「だってお前1人にしたら絶対家散らかすだろ。食ったお菓子の袋はそのまま、服は脱ぎっぱなし散らかしっぱなし。PCで変なサイト見て広告詐欺に引っかか────痛ぇ!! 踏みやがったなお前!」
    「うるせーよ! 妹の純情を弄びやがっ……いたた……」
    「……は?」
    「な、なに? にぃやん怒ったんすか、むしろ怒ってるのあたしなんですけど。あたしの方が────」
    「お前、いまなんてった」
    「え、だからあたしの純情を……」
    「いま……痛いって言ったのか、俺の足蹴って」
    「ぁ……え、いや、それは」
    「脱げ」
    「えっ!? ちょ、ここでは流石にちょっと! あの、あたしもこう見えて女の子でして、こんなところで脱がされるのはちょっと……その、やっぱりおうちにしませんか、そういうことするのは……」
    「黙れ、靴脱げ。今すぐ脚見せろ!」
    「ちょ、待っ……い、痛い! にぃやん痛いよ、脚掴まないで!」
    「どこが痛いんだ!? 早く言え! どこが痛いんだ!」
    「ちょ、やめっ……にぃに、やめて、っ」
    「やめるわけないだろ! 早く見せろ、どこ痛めたんだ!」
    「待って、にぃにっ……! 顔、怖いよ……」

  • 180二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 01:52:43

    怪我はトラウマだろうからな…

  • 181◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 01:59:10

    「ぁ、……っ、……ごめん、取り乱しちまって」
    「うん……だいじょぶ」
    「……ごめんな、強く掴んで。赤くなってるな」
    「大丈夫だから、もういいよ。とりあえず控室……いこ」
    「……ああ」

    ・・・

    「……ん」
    「ちょっと腫れてるな……」
    「多分……ゴール前、踏ん張りすぎた」
    「慣れない距離に、初めての走り方だったからな。思ってる以上に負荷が掛かってたんだ」
    「……ごめん」
    「なんでお前が謝んだよ。悪いのは……」
    「にぃやんは、悪くない。だから謝らないで」
    「……」

  • 182◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 01:59:21

    「あたしが勝ちたいって、本気で思ったから……つい、力んじゃっただけ」
    「……でも、無理な走り方を支持した俺にも責任がある」
    「そんなの……じゃあ、お互い様だよ」
    「ウマ娘に関しての全ての責任はトレーナーのものだ。お前の判断も、走りの質も、勝敗も、俺の責任だ」
    「……そんなこと、ないのに」
    「そういうもんだ。部下の責任は上司の責任、って言うだろ」
    「社会人の話は知らんけど……あたしは、でも、本気で勝ちたくて、全力で走ったの。だから……お兄ちゃんのせいにはしない」
    「……お前」
    「へへ、それにお兄ちゃんに湿布貼ってもらって、包帯も巻いてもらうの、ちょっといいなって思っちゃった」
    「なんだそれ」
    「だってさっきもあんな顔するくらい心配してくれたんでしょ」
    「するだろ、普通」
    「それが普通でもあたしは嬉しい。あの瞬間は、頭があたしのことでいっぱいになっちゃったんだよね?」
    「……なに言ってんのお前」
    「うひひ、じゃあ頑張った甲斐あったかな〜」
    「アホじゃねぇの」
    「アホって言った方がアホなんですぅ〜」
    「……巻けた。立ってみろ」
    「んっ! ……うん、これなら歌うくらいならできそう。踊るのは……微妙かもしれないけど」
    「スタッフには俺から伝えとく。ライブの時間まで冷やしとけ」
    「は〜い」

  • 183◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 02:14:45

    翌日、病院────

    「お兄さんの見立て通り、まだ出来上がっていない身体に負荷をかけすぎたせいでしょう。軽く腫れているだけですが、無理をすればもっと大きな怪我につながっていた可能性も充分に考えられます」
    「しばらく走るのは禁止。腫れが引くまではトレーニングもしないように」

    「はい、わかりました」
    「湿布薬を処方しておきますね」
    「ありがとうございます、先生」
    「お大事に」

    ・・・

    「はー……病院って慣れないなぁ」
    「大事なくてよかった……マジで心臓終わるかと思った」
    「まあまあ落ち着きなよにぃやん。これくらいで走れなくなるようなヤワなウマ娘じゃありませんよ、この妹様は」
    「アホか。軽い怪我って油断してたら癖になって大怪我に繋がることだってあるんだぞ。怪我舐めんな」
    「舐めてはいないけど……でも、じゃあしばらくはお休みかぁ」
    「幸い、1ヶ月の安静で済む。クラシックの初戦……桜花賞には間に合いそうだ」
    「桜花賞……来年の4月、だね」
    「ああ」
    「入学してから、もうすぐ1年経つんだね」
    「……そうだな」

  • 184◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 02:17:33

    「にぃやんと再会して、一緒に暮らすようになって……もうすぐら1年なんだ」
    「早いもんだな。最初はうざかったけど、ちょっとは慣れたかもな」
    「むしろあたしがいないと寂しいく・せ・に〜♪ もっとあたしにら感謝しろよぅ」
    「やっぱうざかったわ。まじでうざい」
    「真顔で言うのやめて! 普通にショックだから、真面目に寂しいって返してもらうつもりのメンタルだったから!」
    「そんなことしんでも思わねぇし、思っても言わねぇ」
    「可愛くない兄貴だなこいつほんと……ぁ、そだ、ひとつ気になってたんだけど」
    「なんだ?」
    「冬休み、実家帰る?」
    「ぁ〜……まあ、帰ってもいいかもな」
    「おとんとおかんにトロフィー見せたい」
    「ああ、持って帰って見せてやろう。きっと喜ぶ」
    「あとさ、にぃに」
    「ん?」
    「……心配かけてごめんね」
    「いいって、もう」
    「あたし、怪我なんてしないくらい強いウマ娘になる。たくさん鍛えて、めっちゃ鍛えて、ムッキムキになったる。それなら心配ないでしょ」
    「……」
    「えっいま鼻で笑いましたか?」
    「ウマ娘の怪我ってのは、どれだけ頑丈になってもどうしようもないもんだ。お前への心配は、走ってる限りなくならないよ」
    「そういうもんなの?」
    「そういうもんなの」
    「……そっか」
    「でも、怪我しにくくはなる。だから脚が治ったら少しずつリハビリしてくぞ」
    「はぁい。……で、リハビリってどんなことすんの?」
    「ん? 一番簡単なのはプールとかかな」
    「プール? 泳ぐの?」
    「泳がない。歩く」
    「……歩く?」

  • 185◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 02:24:32

    「水中ウォーキングって言ったりするんだが、水の抵抗を受けながら歩くことで効率的に足腰を鍛えることができる。しかも水の浮力で関節への負担も和らぐからリハビリにちょうどいいんだ」
    「へー……」
    「そもそもプールは身体への負担を抑えつつ全身運動ができる。お前もスタミナトレーニングっつって泳いでるだろ」
    「泳いでますね……ってか、あれってそういう意味だったんだ」
    「説明しただろ昔」
    「知らん。忘れた」
    「ぶっ飛ばしてやりたい」
    「あたしは大概のことは寝たら忘れる」
    「3歩歩いたらだろ」
    「誰がニワトリじゃい! ……あ、今日の夕飯唐揚げがいいなー」
    「帰りにカフェテリア寄ってくか」
    「えー……おうちがいいな。脚もこんなんだしゆっくりしたい」
    「じゃあテイクアウトするか」
    「そうしよー!」

  • 186◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 02:35:58

    ・・・
    「たっだいま〜」
    「ただいま、っと」
    「夕飯まで時間まだあるし、すぐ食べないよね」
    「ああ。お前もゆっくりしとけよ」
    「まだ夕方だしなぁ……なんかこのままのんびりってのもつまんないしなー」
    「まあ、なんでもいいけどさ」
    「にぃやんは今から何すんの?」
    「調べ物」
    「なに調べんの?」
    「プール付きの医療施設……だな」
    「そんなのあるの?」
    「たしかウマ娘がよく利用するってやつがあったはず……オグリキャップも利用して怪我を治したって聞いたことがある」
    「はぇ……オグリキャップ……」
    「会ったことあるか?」
    「ないかも」
    「俺はあるぞ」
    「え、すごい! どんなだった!?」
    「めっちゃ食ってた」
    「へ?」
    「めっちゃ食ってた。カフェテリアのメシ」
    「……メシ」
    「あれは怖かったな……俺の30倍くらいの量のメシがすごい勢いで消えていくんだ……」
    「はあ……」

  • 187◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 02:41:55

    「健啖家ってやつだね」
    「にしては……食う量ハンパなかったけどな。アレに匹敵するやつはいないな」
    「へぇ……あたしもたくさん食べたらオグリ先輩みたいになれるかな」
    「どうだろな。でも食う量増やすのは大事だな」
    「ふむふむ。じゃああたし晩メシの唐揚げ20個食べる」
    「俺のがなくなるじゃねぇか!」
    「お兄ちゃんのものは、あたしのもの!」
    「お前は昔からそうやって俺は買ってもらえないモノ買ってもらってたんだよな。歳の離れた妹とはいえ、ひでぇ話だよまじで」
    「でもお兄ちゃんにあげたりしたじゃんおやつ」
    「ほとんど俺のやつ奪ってった奴がなに言ってんだ」
    「いいじゃんお兄ちゃんのが欲しかったんだもん」
    「俺のお菓子、未開封まるごと持って行ったくせに」
    「ぁ〜、ん〜……記憶にございません」
    「もうお前なんか知らね」
    「なーんーだーよー! 10年以上も前の話持ってくる方が悪いだろー! そもそもあんた何歳よ、もう26歳でしょうが!」
    「うるせぇよ、子供の頃の恨みはいつまで経っても消えねえもんなんだよ!」
    「いい歳した大人がみっともない!」
    「心は17歳なんだよ!」
    「1個上か……それもそれでありかも」
    「なにがだよ……」

  • 188◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 02:56:05

    「……」
    「ここ悪くないな……プールも広いし、遊ぶにしても充分楽しめそうだし。歩くのにちょうどいい浅瀬のプールもあるし……」
    「……」
    「でもちょっと遠いのがネックだな……出来るなる通える範囲がいいんだが……」
    「ねえ」
    「あん?」
    「暇」
    「漫画でも読んどけよ」
    「もう読み終わった。暇」
    「動画配信サービス、スマホに同期してやったろ。それでアニメとか見とけよ」
    「もう見たいと全部見た。暇」
    「……どうしろっての」
    「ゲームしたい」
    「すればいいだろ」
    「にぃやんとやりたい」
    「はあ?」
    「ね、遊ぼうよ。暇でしょ」
    「暇じゃねえよ。お前のリハビリ施設探してんだよ」
    「どうせ今日見つけたって明日行くわけじゃないんでしょ、1ヶ月くらい暇なんだからその間に見つけたらいいじゃん」
    「暇じゃねーよ。年末のGⅠがあるだろが」
    「え……あたし出れないよね?」
    「違う。見に行くんだよ、阪神JF」
    「あ、そっか」
    「お前が来年戦う相手たちだ。見といた方がいい」
    「……あたしの同期……」
    「ライバルだな」
    「ライバル……」
    「ひとつ、言っとく」
    「……なに?」
    「エンプレスが出走表明した」

  • 189◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 02:56:26

    「え、女王先輩が!?」
    「ああ。この前の未勝利戦に勝って、そのインタビューで言ったらしい」
    「まじかよ……出れるの?」
    「ギリギリだろうな」
    「……やべぇ……やべぇ」
    「尚更見といた方がいいだろ」
    「そだね、その方がいいよね」
    「今度は女王の動きにチェックしておこう。きっと勝つなら……女王だ」
    「あの先輩が……あの変な状態ならわかるけど、最初のおどおどした感じから想像つかないなぁ」
    「その秘密も、なにか分かるといいんだけどな」
    「くせもの揃いっすわ……」

  • 190◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 03:01:25
  • 191◆iNxpvPUoAM23/04/18(火) 03:34:12

    残りは適当に埋めていただくなり、好きにお使いくださいませ

  • 192二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 10:08:39

    立て乙です
    埋め

  • 193二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 11:03:50

    オグリ…怪我の治療…健康ランド師匠…

  • 194二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 11:09:26

    阪神JFには出られなかったけど、ここでクラシック出走に必要な賞金積めたのは大きいね
    埋め

  • 195二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 11:16:56

    ここから勝ちきれない試合が増えてきたらと思うと怖くて眠れないよ埋め

  • 196二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 11:40:33

    埋めて行きましょう

  • 197二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 11:41:13

    G1になってくると番号呼びも大変になりそうだ

  • 198二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 11:42:19

    阪神JFでぶっちぎる女王先輩とホープフルで全員石化させるライバルが見れるのだろうか

  • 199二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 11:45:04

    >>198

    石化までいくと反則取られるから、足を鈍らせるくらいにしてもろて…

  • 200二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 11:46:31

    200なら無事完結する

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