- 1二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:00:02
- 2二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:00:26
私は、あなたのファンで良かった。
「ウインディちゃんは…最強なんだからな!!」
彼女は咆哮をあげながら、ダートを駆けていく。
沸る闘争心を隠そうともしない、野生的なその走り。
自分を見ろと言う強いエゴ。
それを貫き通して、彼女は世界を変えた。
私は、彼女の全てに惹かれた。
ゲートが、開く。
砂塵が舞い上がる。
強く踏み出した足音が、気迫が、ビリビリと振動となり伝わる。
最前列、ゴール前。
私は、ここから見る景色が大好きだった。
ゴール前、自身の夢と意地を賭けた競り合い。
彼女達は、一つしかない栄光の為に。
その一瞬に、全てを賭ける。
私は、彼女の顔を見つめていた。
歯を食いしばり、剥き出しの闘志を隠そうともせずに、ひた走る。
そうだ、私は…。 - 3二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:00:43
あの波乱を呼んだ年度最優秀ウマ娘辞退から程なくして、URA公式から知らされた、その報。
『シンコウウインディ、脚部不安による長期休養』。
それが知らされるやいなや、陣営を攻める様な根拠の薄い批判や低俗な煽り等、見ていられない程にSNSでは不穏な空気が流れた。
その空気を肌で感じ、一人きりの部屋、ベッドの上で膝を曲げながらただ思索にふける。
今ファンに出来ることは、何なのだろうと。
しかし関係者でも無い私が、あれやこれやと好き勝手言う訳にもいかない。
下手なことを言えば、迷惑がかかる。
…本当はすぐにでも、言い返したかった。
…思い悩む中で友人に言われた、時間がいずれ解決してくれると言う助言。
それは、確かな事実だろう。
しかし私はこの言葉を、これ程残酷に思ったことはない。
その『解決』が意味するものは、大体。
それが、話題にすらならなくなったと言うことなのだから。
きっと彼女と彼女の陣営は、歯を食いしばって必死に頑張っている。
その時が来るのを信じて、ただ、待つことしか出来なかった。
─私は、ウインディちゃんを待っています
半信半疑の、書き込みと一緒に。
そしてその書き込みを境に、私は友人の勧めもあり、彼女の話題から離れるように、他の話題や新しい趣味を探すようになっていった。 - 4二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:01:00
その沈黙が破られたのは、突然だった。
─シンコウウインディファン交流会のお知らせ─
しばらく鳴ることが無かった、スマホの通知。
画面には確かに、その文字が並んでいた。
開催日時は4月14日。
平日だった。
しかし、その日の意味を私は知っている。
彼女の誕生日で…私の誕生日だ。
SNS上では、今後の進退についても話されるのではないか等と憶測が飛び交っていた。
推しは推せる時に推せ、と言う友人の後押しもあって私はその知らせを見てすぐに、応募要項の欄に必要事項を書き込んだ。
─ウインディちゃんに、会いに行きます
…抽選が通るかどうかの確信すら持てず、その交流会の詳細も知らない状態で、その思いを書き込むのだった。
そして、数日後。
スマホの通知には、『当選』の二文字が浮かんでいた。 - 5二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:01:14
交流会当日の朝。
当日まで会場はお楽しみ、と書かれていたがまさかトレセン学園だとは思わなかった。
GIレースも始まり、どこもかしこも活気に満ちている。
学園の何処かで、交流会がされるのだろうか。
しかし、ホームページを見ても、告知用SNSを見ても、学園内の案内ボードにもそんなことは一言も書かれていなかった。
…下手したら部外者扱いなのでは?と不安になり、案内してくれるスタッフの人に思わず聞いてしまう。
「…会場、間違えていませんか?」
「合っていますよ」
「でも、何処にもそんなこと…」
「大丈夫です。貴方は…確かに選ばれたのです」
「は、はい…」
案内されるがままにやってきたのは、応接室だった。
「こちらです」
「…扉、開けてくれないんですか?」
「…開けて頂ければ」
「…はい」
意を決して、扉を開ける。 - 6二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:01:33
「あ!来たな!」
扉の向こうでは、笑顔の彼女がソファに座りながら手を振っていた。
……彼女の脚は痛々しいギプスで固定されており、傍らには二本の松葉杖が沿えられていた。
…まさか、交流会と言う名の1対1の対談だとは思わなかった。
子分、帰って良いぞーと言われ、部屋を出ていく案内スタッフ…もとい彼女のトレーナー。
…変装してまで案内人を務めさせられる、その仕事の多彩さにも驚かされた。
「な、何で私なの…なんですか…?」
色々思考が追いつかず、挨拶も忘れたままソファに座ってしまう。
「話しやすい方で良いのだ。…ウインディちゃん、エゴサしてたからお前のこと知ってたのだ」
「ご、ごめんなさい…」
「謝る必要ないのだ。覚えない筈がないのだ」
「ええ…?」
そう言われても、喜ぶべきなのか謝るべきなのか困ってしまう。
どちらとも付かない曖昧な顔をしていると、彼女は渋い顔をする。
「分からないか?呼ばれた理由」
「わ、わからないから…聞いてるの…」
「は~、仕方ないのだ。何かウインディちゃんの周りは自信の無い奴ばっかり集まるのだ。しっかり聞くんだぞ。…聞くんだぞ!」
「は、はい!」
咳払いして、彼女は言葉を続ける。
「だって、誰もウインディちゃんを見てくれない中でも。飛び交う罵詈雑言の中でも。誰も話題にすらしなくなっていった中でも」
「……」
「お前は、ずっとウインディちゃんを信じてくれたのだ。だから…お礼を言いたかったのだ。ありがとう、なのだ」
頬を少し染めながら、真剣な瞳で私を見つめてそう言ってくれた。 - 7二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:01:53
呼ばれた理由は、合点が言った。
普通、推しにこんなことを言われれば天にも登る気持ちになるだろう。
…正直、身に余るほどの光栄だ。
だけど、私は。
……目立ちたい訳じゃなかった。
ただ彼女は強いと、そう思ったから応援していた。
認知されたい訳でもなかった。
有名古参ファン、と言われることもあった。
でも、そうなりたかった訳じゃない。
ただ、そうしたいからそうしていただけだ。
なのに。
「でも私は、休養の時の騒ぎ…何もしなくて…ううん、何も出来なくて…」
「触れないで居てくれたことが嬉しいのだ。…多分、お前はずっと悔しかったと思うのだ。」
「…うん。でも…こうして会えて本当に嬉しいよ…」
その言葉を聞いた私の眼には、溢れんばかりの涙が浮かんでいた。
「あーあーあー、ボロボロなのだ」
「ごめんね…脚が悪いのに」
「…これくらい、なんてことないのだ」
柔らかいハンドタオルで、私の涙と…鼻水を拭ってくれる。
汚れたら即座にスタッフ…もとい彼女のトレーナーが替えを持ってきてくれた。
少し、面白かった。 - 8二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:02:21
「脚が悪いって、さっき言ったな」
「……うん」
彼女は、少し不機嫌な顔をしながら話を続ける。
「みーんな言ってるのだ。これだけ大きな怪我なら引退すれば良いのにって」
…正直、それは同意見だ。
些細な怪我でも走りは崩れ、取り返しのつかないことになると言うのは珍しくない。
最悪、日常生活を送ることすら出来ない事態に繋がるかもしれない。
そして何より、フェブラリーステークス、そしてURAファイナルズダート覇者と言う経歴にもキズが付くことになる。
「…お前もそう思ったのだ?」
「…うん」
その不安と疑問は、本人を前にしても隠せなかった。
むしろ、その脚の状態を見てその思いは尚のこと強くなってしまった。
「まあ、事実なのだ。復帰まで早くても1年はかかるって言われてるのだ。それなら…別の道を探した方がずっとおりこうなのだ」
彼女は、私を否定しなかった。
否定しないことが、辛かった。
「でもなあ…ウインディちゃんは思い通りになんかなってやらないのだ!」
その不安を拭い去るように力強く告げる、彼女の言葉、そしてその瞳。
それを見て、気付いた。
その反骨心。
無理だと思い知らされても、その限界が見えても。
ただ自分が目立ちたい、名を知らしめたい一心で世間に噛みつく。
負けないことじゃない。
失敗しないことでもない。
どんな理不尽にも負けない、心の強さ。
「…知ってるよ」
…私は、それに惹かれたのだと。 - 9二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:02:40
…ファンに出来ることは、なんなのだろう。
あの休養の報を聞いた時から、彼女を知った時から。
私はずっと考えていた。
だけど、考えても考えても。
出来ることはこれしか思い浮かばなかった。
ただ、信じる。
信じることが、彼女の力になると信じて。
「見てろよ!ウインディちゃん、ぜーったい戻ってくるのだ!」
「……うん!信じて…待ってます!あ…これも言わないと」
「「誕生日、おめでとう!」」
私たちは笑顔で、固く固く手を握りあった。
初めて触れたその手は、力強くて、温かかった。
…その直後に、その感触すら忘れそうになるほどの衝撃を受けた。
「…え?」
「言っただろ?お前のこと知ってるって!わっはっは!びっくりしてるのだ!びっくりしてるのだ~!」
「そ、そりゃびっくりするよ…!?だって、こうして言ってもらえるなんて思ってもみなかったもん…」
「お前がウインディちゃんを見てるってことは、ウインディちゃんもお前のことを見てるってことなのだ!わっはっは!今日もフーセン飛んでたのだ!」
「うん…誕生日だから飛ぶよね…フーセン…でも…凄く嬉しいよ。ありがとう」
「あーあーあ、またぐちゃぐちゃになるのだ」
「…応援、行くから。次が決まったら…絶対に教えてね」
「その時が来たら知らせるのだ!来てくれるって信じてるのだ!」
今日この日、私は改めて大切な人が信じてくれること、感謝して貰えることの嬉しさと…それが持つ力を噛み締めた。 - 10二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:02:57
あの約束から、1年以上の月日が経っていた。
シンコウウインディ復帰戦のGIレース。安田記念。
世間の注目は専ら、黄金世代と呼ばれるウマ娘達に向けられていた。
久しぶりに味わう、現地の雰囲気。
観客、関係者達各々の期待と焦燥が入り混じる、熱を帯びた空気。
観客席最前列、ゴール前。
私はあの時と同じく、そこに居た。
目立ちたい訳じゃない。
認知されたい訳でもない。
ただ、この目で見たかっただけだ。
「ウインディちゃんは、強いんだよ…!」
私が信じる、彼女の走りを。
私に出来ることなんて、それくらいしかない。
年月が経って色あせてしまった、彼女の応援グッズ。
そして、今年取り揃えた最新の応援グッズ。
私が、彼女を信じ続けたと言う証。
壊れるんじゃないかと思うくらいに、両方をぎゅっと握りしめていた。
ゲートが、開く。
そして、その走りを見て私は思う。
──本当に、あなたのファンで良かった。
─100年先も 終わり─ - 11二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:03:15
このレスは削除されています
- 12二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:04:22
本当にウインディちゃんのお誕生日をお祝いするSSなのか疑問ですが、こんな時だからこそスポットライトを当てたかった、彼女のストーリーを語る際には欠かせない、ウインディのファンこと通称強火ファンちゃんのお話です
彼女がどういう立場の人物なのか、ぶっちゃけ殆ど明かされていませんが、ただ一つ言えるのは彼女もまた、我々の奮闘の裏で戦い続けた一人なのだと言うことです
一介のファンに対して贔屓し過ぎじゃないかと言う展開の不自然さは否めませんが、担当トレーナーとしてウインディちゃんから彼女へ、彼女からウインディちゃんへ互いに言葉を贈ってもらいたかった、と言うのがこの話を書き始めた切っ掛けです
お話自体は結構前に書き初めていましたが、完成が遅れてしまったため、急遽誕生祝いSSと言うことにしました
読んで頂きありがとうございました
大魔王シンコウウインディ様、お誕生日おめでとうございます
貴方達の幸せを祈ります - 13二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:07:02
過去のウインディちゃんSS纏めです
初めて書いてからちょうど2ヶ月になりますが、こうしてお祝い出来て嬉しいです
【SS】拝啓、悪の大幹部様【シナリオネタバレ・トレウマ要素注意】|あにまん掲示板「子分に渡したいものがあるのだ」バレンタインならもう貰ったよ、と伝えると不満げな顔をして唸ってきた。「…ぐるるる。キャンディは勿論ウインディちゃんの本心なのだ。でもなんかこう…物足りなかったのだ!」何…bbs.animanch.com【SS】あいについて【トレウマ】|あにまん掲示板こちらのSSと関連した話です。一応こちら単体でも読めます。https://bbs.animanch.com/board/1600921/ウインディちゃんとの関係に悩むホワイトデーです。トレーナーの性別…bbs.animanch.com【SS】ウソをついて良い日【トレウマ】|あにまん掲示板ウインディちゃんとエイプリルフールについて話すトレーナーのSSです前作、前前作との関連は薄いですが、一応同一の時空と言うことになってますhttps://bbs.animanch.com/board/1…bbs.animanch.com - 14二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:47:45
捏造、良いじゃないですか こんな牽強付会なら大歓迎ですよ…
- 15二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 04:00:20
たしかに誕生日に持ってくる話じゃないかもしれないけど切実な想いがすき
- 16二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 06:26:35
誕生日だからこそいつもより想いを込めてお話を作るものだと自分は思っているので良いと思います
- 17123/04/14(金) 11:06:43
- 18二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 19:52:55
強火ファンちゃんすき
- 19二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 22:57:29
- 20二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 23:02:37
100年先も推しへの……好きなウマ娘への愛を誓ったわけか……
好きだわぁこういうSS - 21二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 01:29:18
- 22二次元好きの匿名さん23/04/15(土) 11:01:53
あげ