- 1二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:24:48
「雨……雨なのだ……」
「残念やな、天気はどうにもならんわ」
週末に他の子らやトレーナー達数人で花見の予定を控え、ウインディがささやかなおねだりをした。
花が多めに残ってる内に近場の桜を眺めながら散歩したい、今日は少し早めに上がろうという事やったが……トレーニング中から雲行きが怪しくなり、今も中々の雨足が続く。
普段ならまだ人の多い時間帯やが、寮に急ぐ以外で外に出てる者はおらんやろ。こりゃ桜も終わりかな。
この時ばかりはフル活用のエアコンでジャージを乾かし、出したままの灯油ストーブで暖をとりながらそんな事を思っていると、約束の面子から『無理そうですね』のLANEが入る。白紙となった予定に、ウインディは落胆も顕わに眉をひそめた。
「桜……雨……うぎぎ……」
「そんなに楽しみやったかぁ。ホラ、後ろ髪まだ濡れてんで」
「ホントならそこまでじゃ無いぞ、予定が潰れるのがイヤなのだ」
「月に叢雲、花に風とは言うけどもなぁ。せや、“雨月”いうのを知ってるか」
「古文のアレ?」
「厚い雨雲の向こうにある名月を想像する、それもまた風流な観月や。目を閉じて桜を思い浮かべてみ」
「桜……。満開の桜……」
湯の沸いたヤカンを取って、空いた所に別のものを並べた。
そして忘れかけていた“それ”を戸棚の奥から引っぱり出し、二つの茶碗に投入、お湯を注ぐ。
「ポカポカ陽気に一面の桜……ヒシアマの玉子焼き、大きいとこ頂きなのだ……今日は掘らないのだ、骨が出たら怖いのだ……
おや?桜の香りが漂って来たのだ、ウインディちゃんのイマジネーション大勝利なのだ!」
「ハイ、種明かし。目ぇ開けな」
「!茶碗に桜が咲いてるのだ?」
「これは桜茶。花の塩漬けや。雨の向こうの桜を偲んで、頂きましょか」 - 2二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:26:26
白い茶碗に桜が映える。頃合いに焙られた欠き餅と一緒に春を採り込み、想いを馳せた。
香りと記憶は強く結びつく。開封した日の事までもが思い出され、僅かに憂いが漏れたのか――ウインディが何かを言いかけて止めた。ホンマに聡くて、優しい子。
「慈悲深い魔王さま、慕う子分たちにも振る舞ってやり。寮で飲みきってエエから持って帰りな」
「えっ?コレ、大事なものじゃ……」
「そんな珍しい品でもなし。今、美味しく飲んでしまうのが一番や」
「ん、ありがと。ネーサン」
普段はアタシの事も子分と呼ぶ。二人の時だけは特別な呼び方をする、その顔を知る者は自分ただ一人やと思うと――こんな時間さえも特別に思えた。
――――――――――
ジャージの乾き具合を確かめ、ウインディが引き上げの支度をする。
「それじゃ、傘借りるのだ」
「車に気をつけな。今日の風呂は混むやろけど、しっかり温まるんやで」
「オッケーなのだ……、子分。またな」
辺りに誰か居るとは思えんが、甘えた顔を見られたら魔王の沽券にかかわると言う処かな。
二つの茶碗に少し湯を注ぎ直し、初めて出した相手を思い起こす。
『人は何かを捨てながら前に進む』
『失う事から全ては始まる』
『さよならだけが人生だ』
――誰の言葉やったろうか。もっと景気のエエ話は無いのかな。
選べもせずに捨て、失い、ただ進めとは凡人には酷やないか。
『捨てる神あれば拾う神あり』
『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』
『雨降って地固まる』
――せめてこういきたいな。早く、あまりにも早く力を失ったあの子も、新しい道を進んでるんやから。
写真のあの子に乾杯し、二つとも飲み乾した。 - 3二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:27:49
今年は桜が保ってるな~と思ったら……残念!という訳で思い立ちました
ウインディちゃんお誕生日おめでとう
前スレ
【SS】猫と芦毛と、曇りと晴れと|あにまん掲示板オリウマ・オリトレ・オリ設定注意bbs.animanch.com - 4二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:28:35
深夜にほっこり
- 5二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 00:31:17
聡いウインディちゃん好き
誕生日おめでとう - 6123/04/14(金) 00:50:54
さっそくの感想ありがとうございます!
満開の時にお花見に行っても桜の香りは意外に微かなの、不思議ですよね
桜餅の葉っぱや桜茶は、塩に反応して香りが立ってるんです
香り物質の名前はクマリンだそうですよ 可愛いですね - 7二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 06:34:10
応援隊スレで他薦されてた!嬉しい!
- 8二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 06:47:49
静かに流れていくかのようなお話で良かったです
- 9二次元好きの匿名さん23/04/14(金) 08:15:25