- 1二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:19:37
「ローレルローレルローレルローレル♪ 陽気にローレル♪」
「…………えぇ」
あまりに急な出来事に、俺はただ困惑の声を漏らす他なかった。
ソファーに腰かけて、テーブルの上の資料を整理している最中の出来事。
珍しくノックもせずにトレーナー室の扉を開け、謎の歌を口ずさむウマ娘が現れた。
栃栗毛のショートヘアー、桜色の目、髪には月桂冠の髪飾り。
俺の担当であるサクラローレルは歌いながら、こちらに近づいて来る。
そして彼女はそのまま俺の隣へと座り、にこやかに歌唱を続けるのであった。
「ほーらほーらはじまるよ~♪ トレーナーさんさん~♪」
「ちょっと待ってよ……一体なにが始まるんだ……?」
「お待ちかね、サクラローレルのフレンチお悩み相談の時間ですよ」
「初耳なんだけど……」
「ええ、テーマソングも含めて本邦初公開ですから」
「さっきのテーマソングなんだ」
「次は私の出番だと思って、今さっき作ってきました」
次とは何の話なんだろう。
こちらの困惑を流しつつ、ローレルは満面の笑みを浮かべて俺を見つめている。
自分の顔が映るのではないかと思うほどに、純粋で、美しい瞳。
直視しているのが少しだけ恥ずかしくなって、俺は思わず目を逸ら――――せなかった。
その寸前に、ローレルが両手の掌で俺の頬を抑えるように触れて、固定したからだ。
「さあ、トレーナーさん、何かお悩みはありませんか?」
「いや、別にないけ……ちょっ、ローレル?」
「本当に、ありませんか……ぷっ、ふふっ、トレーナーさんの顔可愛い……っ!」 - 2二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:19:59
否定の言葉を出した瞬間、ローレルは両手を少しばかり力を加えた。
アッチョンプリケ、とでも言いたくなるような顔がどうもツボに入ったらしく、彼女は肩を震わせている。
いや、君がそうしてるんだけどね? というツッコミはとりあえず仕舞っておく。
数秒後、笑いから復帰したローレルは両手の力を緩めて、再度俺の目を見つめた。
「本当に困っていること、何にもありませんか?」
「意図が良くわからないけど本当になひふぉ……ろっ、ろーふぇる?」
「おお……トレーナーさんのほっぺ結構伸びますね……ぷにぷにしててなかなかの触り心地……」
驚きの表情を浮かべるローレルは謎のレビューを呟く。
彼女の両手は、俺の頬を軽くつねるようにぎゅっと摘み、あろうことか引っ張っていた。
別に痛くはないのだけど、上手く喋れないし、流石に恥ずかしい。
俺の思いを察してくれたのか、彼女は手を離し、再度掌で俺の頬を抑えた。
そして今度は――――ずいっと、その可憐な顔を、俺の顔に近づける。
お互いの息がかかりそうなほどの距離。
顔を固定されている俺は目を逸らすことが出来ず、彼女も目を逸らすことはなかった。
怒っているような、悲しんでいるような、困っているような、そんな表情が目の前にある。
やがて、彼女は小さな声で、いつもよりも少しだけ低い声で言った。
「デスクのところに、エナジードリンクの空き缶を貯め込んでますね?」
「うっ」
ぎくり、という音が聞こえてきそうにほどに、図星を突かれた。
あまり良くない、とは思いつつも、修羅場を乗り越えるためについつい頼ってしまった。
ローレルが見ると怒りそうなので隠していたのだが、どうやらバレていたようだ。
彼女は俺を追い詰めるように、さらに言葉を続ける。
「それと、コンシーラーで隈を隠しているみたいですけど、バレバレですよ?」
「ううっ」 - 3二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:20:22
これまた、図星。俺はうめき声を出す以外ない。
最近は仕事の処理に追われて、十分な睡眠時間を確保できているとは言い難かった。
心配をさせないように、普段使わないメンズ化粧品で隠したのだが、お見通しのようである。
「それに服も皺だらけです、ちゃんとお家に帰っていますよね?」
「……帰っては、いるよ?」
「……えいっ」
ぎゅっと、俺の頬を抑える力を強めるローレル。
実際、嘘はついていない。
家にいる時間がかなり少なく、ほとんど寝るために帰ってる状況なだけで。
そんな俺の誤魔化しを容易く見通した彼女は、大きくため息をついた。
「Les cordonniers sont les plus mal chaussés」
「……それは?」
「フランスのことわざです、『靴屋が一番悪い靴を履いている』、どういう意味かわかりますか?」
「…………医者の不養生」
「はい正解、花マルです、とは、い・き・ま・せ・ん・け・ど」
ローレルは一言ずつ区切りながら、むにむにと俺の頬を揉み込むように指を動かす。
……まあ、ここまでされれば、彼女の今日の不思議な行動の意図はわかる。
俺の力不足で、彼女の不要な心配をかけてしまった。
担当トレーナーとして、これは猛省しなくてはならないことだ。
もっと勉強をして、努力をして、もっと効率良く回せるようにならないといけない。
「――――もっと頑張らないと、って考えてる目ですね」
ローレルの鋭い言葉に、はっとさせられた。
見れば彼女は眉を逆ハの字に曲げて、頬を膨らませて、こちらを見ていた。
桃の花を感じるその瞳には、怒りよりも悲しみの色が強く感じ取れる。 - 4二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:20:41
「今やっている資料の整理なら、私にだって手伝えます」
「いや、でもそれは俺の仕事で、君には」
「お仕事が溜まっているなら、少しくらいなら一人でトレーニングも出来ます」
「……君のトレーニングを見るのが、俺の役目だから」
「それで、貴方が倒れて私を見れなくなってしまうとしても、ですか?」
俺は、何も言い返せなかった。
無理をすることを必死で我慢してきたローレルの前で、一番してはならなかったこと。
それを、一番良く知っていなくてはならない、担当トレーナーの俺がやってしまっていた。
サクラローレルのトレーナー失格、そう言われても仕方がない。
自分の至らなさに、思わず表情が歪んでしまう。
彼女はそんな俺に対して、皺を伸ばすように指で顔をなぞりながら、言葉を紡ぐ。
「……そんな思いつめた顔をしないでください、トレーナーさん」
「ローレル、俺は」
「ちゃんと、わかってますよ。貴方が、私の夢のために頑張ってくれていること」
――――でも、貴方を犠牲にして叶えた夢じゃ、私は誇ることが出来ません。
いつの間にか、忘れてしまっていたのかもしれない。
ローレルの夢を叶えたいと考えて、考え過ぎて、考え込み過ぎて。
俺の中で、あの日二人で交わした誓いが、少しだけズレてしまっていた。
今は、はっきりと思い出せる。
あの交わした言葉を、あの日交わした誓いを、あの交わした想いを。
何かを察したのか、ローレルは満足そうに頷いて、優しい声色で、静かに告げた。
「私は貴方と一緒に、夢を叶えたいんです。そのことを忘れないでくださいね」
もう絶対に、忘れないよ。
俺はローレルの言葉を強く刻み付けながら、彼女にそう返す。
それを聞いた彼女は、花が開くような笑みを浮かべて、満足そうに頷いたのであった。 - 5二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:21:21
「ローレルローレルローレルローレル♪ 野原でヴィクトリー♪」
「…………えぇ」
あまりに急な出来事に、俺はただ困惑の声を漏らす他なかった。
出オチの一発ネタと思いきや、まさかの再放送である。
良い感じの話で終わる流れかと思っていたのだが、まだエンドロールには早かった模様。
にこやかに謎の歌を披露するローレルからは、何やら一種の圧を感じた。
「まーだまーだ足りないよー♪ トレーナーさんさん~♪」
「今がチャンスだ、と言わんばかりに畳みかけて来るなあ」
「サクラローレルのフレンチお悩み相談は終わってませんからね」
「あー……」
なるほど、読めて来た。
ローレルは、俺に言って欲しい『悩み』がある。
正確にいえば、彼女がやりたいことの建前となる『悩み』を、俺に言って欲しいのだろう。
少しばかり思考を巡らせる。
恐らくは、先ほどのやりとり、俺の仕事振りに関連する内容であるのは間違いない。
仕事そのものは実のところ、今やっている資料整理で目途はつく。
……今日のことが無ければまた無計画に仕事を増やしてしまっていただろうけど。
ともあれ、聡い彼女のことだ、その辺りも把握はしていると考えて良いだろう。
そして彼女は先ほどから俺の健康面について気にかけてくれている、とすれば。
「…………疲れをとりたい?」
俺が何とか絞り出した一言に、ローレルはピンと耳を立ち上がらせる。
そして、待ってましたと言わんばかりの得意げな表情を見せた。
彼女は両手を満開の桜のように広げると、大きな声で言い放った。
「ローレル先生のフレンチアンサー! ……耳掃除、なんていかがですか?」 - 6二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:22:02
「……耳掃除?」
「はい、トレーナーさんは耳のお手入れは疎かにしているみたいなので」
「まあ確かにあまり気にしてないけど」
「耳ツボを刺激しながらやれば疲労回復効果もあって、一石二鳥です」
ローレルはそう言いながら、テーブルに広がっていた資料を片付けながら、道具を広げ始めた。
ティッシュやウェットシート、綿棒などが続々と出てくる。
準備を整えながら、誇らしげに彼女は言う。
「お母さんがお父さんに良くしていて、私も教わったんです」
「そうなんだ、あの渋い声のお父さんが……」
「ヴィクトリー倶楽部の小さい子達にも評判なんですよ?」
懐かしそうに語るローレルに対して、俺は内心焦っていた。
耳掃除する流れになりつつあるが、教え子にそんなことをさせていいのか、という疑念がある。
しかし、尻尾を機嫌良さそうに揺らす彼女を見てると、今更そんなことを伝える勇気がない。
さらに言えば、そもそも発端が自分にある以上、余計なことは言い出しづらい。
そうこう悩んでいるうちに彼女は準備終わらせて、ソファーの端に陣取り、ポンポンと太腿を叩いた。
「さあ、トレーナーさん、頭をこちらにどうぞ」
「……えっと、これは?」
「ふふっ、膝枕は恥ずかしいかもしれませんが、ウマ娘じゃない人へのやり方、これしか知らないので」
くすくすと笑みを零しながら、ローレルは言った。
ああ、これは今の俺の心情を見透かした上で、彼女は話をしている。
諦めのため息を一つ、俺はこの激流に身を任せる決心をした。
「……そういえばフレンチアンサーとは言うけど、フランス流の耳掃除って?」
「綿棒だけで処理するのが一般的です、それと持ってはいませんが火をつけて耳掃除する道具があります」
「なにそれこわい」 - 7二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:22:33
「ではトレーナーさん、遠慮なくどうぞ」
ローレルの言葉に、俺は躊躇しながらも、ゆっくりと身体を傾けていく。
そして恐る恐る、彼女のスカートに包まれた太腿に、俺の頭は着地した。
ふわりと漂う石鹸の香りと桃の花にも似た香り、そして微かな汗の匂いが鼻腔のくすぐる。
鍛えあげられた彼女の太腿は力強さを感じさせながらも、その柔らかさとハリは失われていない。
彼女の持つ身体の熱もダイレクトに伝わり、あまりの艶めかしさに、身体は硬直する。
「……もう、そんな緊張しないでください、リラックス、リラーックス、ですよ?」
そう言いながら、ローレルは俺の頭を、子どもあやす様に撫で始めた。
さらさら、さらさらと彼女の手と俺の髪が擦れあう音色が、鼓膜を揺らす。
自分の顔が熱くなるのがわかってしまうほど、恥ずかしい。
けれど同時に、彼女の手が触れる都度、自分の身体から力が抜けていくのもわかった。
「ふふっ、いいこいいこ……♪ それじゃあ、耳の外側のお掃除から始めますね?」
シュッ、とウェットシートが抜かれる音。
少し冷たいですよ、と言葉が届いた次の瞬間、ひんやりとした感触が耳に触れた。
身体が少し反応してしまうが、不快ではない、むしろ心地良い冷たさ。
ローレルが手を動かすと、シートが耳を拭う音と共に、清涼感が全体へと広がっていった。
「ふむ、耳の外側は綺麗にしているみたいですね……では、このままツボ押しに……」
そう言うとローレルはシートを離して、指で直接、俺の耳に触れた。
細く、柔らかく、温もりを感じさせる彼女の指の感触が、耳から頭に直接伝わってくる。
彼女はそのなめらかな指ですーっと耳全体をなぞった後、耳たぶを軽く摘まむ。
「ここもぷにぷにしてますね……いえ、餃子の耳たぶ食感ってどういう感じなのかなと」 - 8二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:23:00
すいませんすぐ始めますね、とローレルは謝罪を告げた。
気になるならいくらでも触ってくれて構わない、そう言おうとした瞬間、ぎゅっと耳たぶの中央が押される。
――――耳たぶから、痛みが走った。
しかし、それはただ痛いというだけでなく、言うなれば痛気持ち良いという刺激。
びくんと反応を示した俺に対して、彼女は静かに、不満げな声をあげた。
「むぅ……ここは目のツボです。やっぱりトレーナーさん、お仕事のし過ぎなんですよ」
ローレルは片手の指で耳たぶを押しつつ、もう片方の手で耳のふちを押していく。
どちらもとても心地良いのだが、それ以上に、彼女の指の感覚がどうしても気になってしまう。
普段自分ですらあまり触れない場所に、ローレルが触れている。
不思議な現実が、少しばかり恥ずかしくなって、顔が熱を帯びるようになっていった。
その変化に彼女も気が付いたのか、ツボ押しの手を止めて、掌で俺の耳全体を包む。
「お耳が熱くなってきてますね、血の廻りが良くなったからですか、それとも……?」
含み笑いを漏らしながら、ローレルは言う。
あまり大人をからかわない、と苦し紛れの言葉を俺は口にした。
はぁい、と彼女は気のない返事を返すと、ツボ押しを止めて、テーブルに手を伸ばす。
視界の端に捉えた彼女の手には清潔さを表す白い棒、いわゆる綿棒があった。
「では、これから耳の中を掃除しますので、動いたりしちゃダメですよ?」
そう言うと、ローレルは耳のふちを摘まんで、軽く引っ張った。
耳の中を覗かれている、と考えると妙に意識してしまい、むずむずといかんともし難い痒みが走る。
「これはなかなかの溜まり具合ですね……最後に掃除をしたのは覚えてますか?」 - 9二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:23:35
少し驚いたような声色で疑問を口にするローレルに、俺は覚えてない、と伝えた。
実際、自分でやった記憶はない。小さな頃、母に何度かやってもらったきりで、後は放置である。
俺の回答に、呆れたように彼女は息を吐くと、袖を軽く捲り上げた。
「思ったより大仕事になりそうです。辛かったら、スカートを掴んでくださいね?」
まるで小さな子どもに言い聞かせるような、優しい声色でローレルはそう伝える。
本気なのか冗談なのか、判断に迷っている間に、何時の間に近づいていた綿棒が、ちょんと触れる。
それは開始の合図、彼女は小さな声で、囁いた。
「では……失礼しますね」
さりさりと、匙が耳の入り口を、軽く擦るように触れている。
微かなくすぐったさと、神経を刺激される心地良さに、思わず身じろぎをしてしまいそうになった。
しかし、先ほどのローレルの言葉を思い出して、ぎゅっと拳を握って耐える。
「少しこしょこしょってしただけで、たくさん取れますね……ふふっ、やりがいがあります」
さりさり、すりすり。
それから何度も、何度も、耳の壁を擦る音と静かな彼女の吐息が、心地良く鼓膜を震えさせていく。
抗えない快感に意識が沈みそうになると同時に、心の奥底からもどかしさも生まれる。
耳の奥で疼く痒みの本体に触れて欲しい、そう思ってしまう。
そんな俺の思考を見透かしたように、ローレルは優しく囁いた。
「大丈夫ですよ、これからちゃんとお耳の奥も、お掃除しますからね?」
その言葉通り、ローレルの操る綿棒が、耳の奥へと侵入する。
直後、ざりざり、がりがりと雑音混じりの音色が、心地良く俺の鼓膜を揺らしていく。
反応して大きくなっていく痒み、それを直接刺激される快感、耳の奥をなぞられるくすぐったさ。
その全ては最終的に『気持ち良い』という感覚に変換されて、徐々に思考が溶かされていった。 - 10二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:23:53
「ふふっ……お顔が蕩けてますよ、トレーナーさん」
写真撮っても良いですかと問いかけるローレルに、浮ついた思考で何とか勘弁してと答える。
彼女は残念そうに、それでいて冗談めかした返事をしながら、綿棒を動かす手を止めない。
一回、二回と耳を擦る毎に、俺の理性はごっそりと削られていく、徐々に意識が朦朧としていく。
どのくらい時間が経過したのか、視界はいつの間にか暗闇に包まれる寸前で、何も考えられない。
このまま睡魔と頭に感じる温もりに身を任せてしまおうか。
そんな思考がよぎった、刹那の出来事。
「……ふぅー♪」
――――突如、耳から吹き抜ける春一番。
確かな温もりを残した一陣の風は、俺の背筋を走り抜け、意識を一気に覚醒させる。
思わず顔を上に傾けると、ローレルの顔が目と鼻の先にあった。
悪戯が成功した子どものようなあどけない笑みを浮かべながら、彼女は言う。
「まだ寝ちゃダメですよ、反対側があるんですから、ささ、ごろんとしてください」
俺は息を吹きかけるのは禁止にしてくれ、と伝えながら促されるままに身体の向きを変える。
必然的にローレルのお腹に向き合う姿勢となった。彼女の香りと温もりがより強く感じられる状態。
別の体勢の方が良いのではないか、そう指摘するよりも早く、彼女の手が俺の耳に触れた。
「それじゃあこっちのお耳も綺麗にしていきますね……今度は遠慮なく、眠っても大丈夫ですよ?」
……まあ、今更か。
どの道、今のローレルを止めることなんて、色んな意味で出来そうにない。
目を閉じて、大きく息を吐いて、力を抜く。
俺は全てを諦めて、今はただ、この耳掃除を堪能することにしようと心に決めたのであった。 - 11二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:24:13
とんとん、と何かを叩く音で、俺は目を覚ました。
見れば、ローレルが俺に膝枕をしたまま、先ほどまでやっていた資料整理の続きをしている。
俺の覚醒に気づいたのか、彼女は覗き込むように俺に視線を合わせた。
「おはようございます、耳掃除も、書類整理も、ちゃんと終わりましたよ」
ローレルの顔には、してやったりといわんばかりの笑み。
……やられたな、初めから、この展開を狙っていたのだろう。
けれど謝罪の言葉や自己嫌悪を、彼女は望んではいないのは、いくら鈍い俺にもわかる。
――――本当にありがとう、助かったよ。
心から言葉を伝えると、ローレルは笑顔をより純粋なものへと変えて、大きく頷いた。
それでは、今日はこのまま帰宅して、ゆっくり休んで備えることにしよう。
そう考えて身を起こそうとするが、何故か起き上がることができない。
理由はシンプルで、ローレルが俺の身体を抑え込んでいたからである。
「ダメですよトレーナーさん、まだ耳掃除の仕上げが終わってませんから」
そう言うと、ローレルは俺の耳に顔を近づけた。
息を吹きかけるのは禁止、そう抗議をすると、彼女はくすりと笑う。
「ええ、それは禁止されたのでしません。それに私“達”の仕上げといえばご存じでしょう?」
お鍋は締めがなければバクシンしたとは言えない――――ですからね。
突然飛び出した、どこか聞き覚えのある謎の格言と、謎のフレーズ。
ローレルは熱を帯びた吐息と共に、小さく、それでいてはっきりと囁いたのであった。
「…………せーの、ヴィクトリー♪」 - 12二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:24:31
お わ り
前フリが長いのが反省点 - 13二次元好きの匿名さん23/04/16(日) 23:58:20
長さは読み応えになるのでセーフ
色気と押しの強さがたまらんですなぁ
古い歌知ってらっしゃる…… - 14二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 00:00:43
また君かあ助かるなあ
ローレルのトレーナーってお兄ちゃんから鋼の意志を抜いた感じだよね - 15二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 00:02:45
前フリが完璧だぁ
- 16二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 00:39:15
よき…
- 17二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 01:12:21
- 18123/04/17(月) 07:19:59
- 19二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 12:38:15
ローレルいい……
- 20123/04/17(月) 19:27:10
今ならPUで引けちまうんだ
- 21二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 20:00:23
助かる
- 22二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 20:45:49
ローレル×トレーナーSSありがとう…(成仏)
- 23123/04/17(月) 21:06:47