この頃のローレルの幼馴染(男)が

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 00:38:24

    久しぶりに再会したらローレルがトレーナーとトレーニング(デート)してる途中だった時

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 02:36:31

     彼女に対する第一印象はやんちゃな女の子、だった。
     
     僕には小さい頃から共に育ってきたウマ娘の幼馴染みがいる。
     桃の花を思わせるような綺麗な瞳を持った少女。
     名前を――――サクラローレルといった。

    『わたしのゆめは、レースのちょうてん! がいせんもんしょう!』

     彼女が、良く話してくれた夢。
     トップブランドを目指してフランスで活躍する父に憧れを持つローレル。
     彼女はその父と同じようにレースの頂きを目指していた。
     それこそ日本のウマ娘が未だに制覇することが出来ていない夢の舞台、凱旋門賞。
     当時そのレースの格式を理解できない子どもだった僕は、深く考えずにこう伝えた。

    『ローレルちゃんなら、絶対に出来るよ!』

     その言葉に、ローレルが嬉しそうな、勝気な笑みを浮かべたのを良く覚えている。
     今思えば、僕はその頃から、彼女に惹かれていたのだと思う。

     ――――ただ、現実は非情であった。

     年齢を重ねるに連れて、彼女の怪我をする頻度は増えていく。
     最初の頃は、俺も彼女もあまり気に留めていなかった。
     けれども、最終的には、俺達は現実を認めざるを得なかった。
     ガラスの脚、ローレルの脚はそう称されるほどに、脆く、不安定なものであった。

    『うん、大丈夫。まだ走れなくなったわけじゃないから』

     慰めの言葉、心配の言葉をかけると、決まってローレルはそう言った。

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 02:39:38

     小さい頃から変わらない、前向きな言葉。
     けれど過去の勝気な性格は気づけば薄れていき、どちらかといえば大人しい性格になっていた。
     自身の不運に対しても、ひたむきに努力を続ける、その姿。
     その姿に僕は、彼女がどんな道を選んでも一生応援しようと、心に決めた。

    『私、トレセン学園に行くことにしたんだ』

     ある日、ローレルは僕にそう告げた。
     彼女が自身の夢を諦めない限りは、その未来は必然であるといえる。
     けれど、彼女の脚は、未だにガラスの脚のまま。
     トレセン学園に入学したとしても、辛い未来しか待っていないのではないか。
     そう思ったけれど、彼女の目を見たら、そんなことは言えなかった。
     真っ直ぐで、純粋で、それでいて強い闘志を湛えた瞳。
     ローレルは――――自分の夢をこれっぽちも疑っていない。

    『そっか、応援してるよ。でも辛かったら、何時でも戻っておいでね』
    『……うん、ありがとう』

     こうして、ローレルは地元を離れて、トレセン学園に入学した。
     それからの日々は、どこか空虚だった。
     朝早くから、ランニングをする彼女を見ることはない。
     包帯の巻き方を彼女に教わることはない。
     両親から教わったフランス料理の試作品のおすそ分けを彼女から貰うことはない。
     彼女の口からフランスに関する蘊蓄を聞くことはない。

     ――――ああ、僕の生活は、彼女に占められていたんだ。

     何故、いなくなってから気づくのだろうか。
     涙をこぼしそうになりながら、僕は決意する。
     次に会った時、僕の心からの想いを、彼女に伝えようと。

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 02:39:59

    『ナリタブライアン特集! 三冠制覇待ったなし!』

     夏休み、僕は両親とともに、父の実家へと出かけていた。
     とはいえ、特にやることもなく、時間つぶしにスマホでニュースを眺めているくらい。
     シャドーロールの怪物、ナリタブライアン。
     レースに関しては素人同然の僕から見ても、桁違いの実力を持つウマ娘である。
     すでに皐月賞、ダービーと快勝しており、ニュースや新聞も彼女の話題で持ち切りだ。

     ――――しかし、その記事を見る度、密かな苛立ちを覚えていた。

     ナリタブライアンに対してではない。
     彼女の同期としてトゥインクルシリーズに挑んでいるローレル、そのトレーナーに対してである。
     ローレルは、今年の皐月賞、そしてダービーに出走していた。
     けれど、その実力差は圧倒的であり、誰も掲示板に入り込んだ彼女のことを話題にも出さないほど。
     
     何故、わざわざあの怪物にぶつけたのか。

     勝てるわけがない、そんなことは僕以上に彼女のトレーナーであればわかっていたはずだ。
     わざわざそんなレースに出なくても、もっと確実に勝利を目指せるレースはいくらでもあった。
     ローレルの脚は、未だにガラスの脚。
     出走の機会は他のウマ娘よりも少ないのだから、もっと出るレースは厳選するべきだ。
     ……なんでそんなことも出来ないやつが、ローレルのトレーナーなのだろう。
     そう思うと、僕は苛立ちを抑えることが出来なかった。

    「そういえば、近くで夏祭りをしているみたいよ、行ってくれば?」

     母は、暇そうにしている僕を見かねて、そう提案した。
     正直あまり興味はなかったのだが、母の厚意を無下にするのも悪い。
     そして、実際やることは何もないので、僕は一人、夏祭りに出掛けることにした。

  • 5二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 02:40:15

     あまり期待はしていなかったのだが、想像以上に規模の大きい祭りであった。
     それと、何故かウマ娘の姿を良く見かける。
     中にはトゥインクルシリーズで見たことのあるウマ娘の姿すらあった。
     もしかしたら、ローレルも来ているかもしれない。
     そんな淡い期待を寄せながら、僕は夏祭りの会場を歩き回っていた。

     ――――人混みの中、僕は見つけた。

     栃栗毛のショートヘアー、そして何よりも月桂冠の髪飾りを。
     嘘だろ、と思った。
     望んではいたけれど、まさかこんな奇跡が実際に起こるだなんて。
     人混みを避けながら、少しずつ前進して、彼女に近づいていく。

    「あれれ~? ふふっ」

     懐かしい、ローレルの声が聞こえた。
     ああ、再会したら何を話そうか。
     レースを見ていたことを伝えようか、相手が悪かったと慰めようか。
     思考を回転させながら、声が届きそうな距離まで辿りつき、喉から声を出す、その直前だった。

    「トレーニングと言いつつ、デートのお誘いですか?」

     その光景に、僕の時間は停止した。
     ローレルの言葉に、慌てふためく一人の男性。
     見た覚えがある、確か彼はローレルのトレーナーだったはずだ。
     いや、今はそんなことどうだって良い。
     僕は、見てしまった。
     トレーナーをからかうように、冗談めかして言葉を紡ぐ、ローレルの目を。

     そこには親愛と信頼に満ちた、暖かな輝きが確かにあった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 02:40:34

     僕が、長年共に過ごしていた中で、一度も見たことがなかった輝き。
     そして、その輝いた瞳が、今まで見たローレルの瞳のどれよりも美しいと思ってしまった。

     その後のことは、良く覚えていない。

     ふらふらと、その場から立ち去って、気づけば父の実家に戻っていた。
     眠れぬ夜を過ごしながら、僕は一人憤る。

     ――――なんで、あんなやつに。

     あいつは、君に栄光を与えることが出来ていない。
     あいつは、君に無理な勝負を挑ませて、無駄に君を摩耗させた。
     どうしてそんなやつに、ローレルはそれほどまでの信頼を抱いているのか。
     燃え盛るようなドス黒い炎のような感情。
     それがいわゆる嫉妬という感情であることに、僕はこの時気づくことがなかった。

     更に時は流れて、菊花賞。

     この時もローレルは出走に、怪物ナリタブライアンにダービー以上の着差を付けられて敗北した。
     着差が開いてるということは、無理な出走がローレルへのダメージとなっているということだ。
     悲しい、残念だという想いと共に――――それ見ろと、思ってしまう自分がいる。
     こんな結果、最初からわかっていたじゃないか。
     なんでこんなレースに挑戦したのか。
     なんでローレルなこんなローテーションに従うのか。
     なんでローレルは、あいつが良いのか。

     その答えは、次の彼女のレースで明らかになった。

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 02:40:52

    『新春一番に桜が咲いた! サクラローレルが金杯を制しました!』

     中山金杯。
     僕はその光景を、呆然と見つめていた。
     あの怪物がいないとはいえ、ローレルは圧倒的な強さで一着をもぎ取って見せた。
     歓喜に盛り上がる客席。
     その中には地元のレースクラブで見たことのあるウマ娘の姿があった。
     感極まったローレルは、客席に向かって叫ぶ。
     ――――その声だけは、何故かはっきりと僕の耳を届いた。

    「すごいでしょー! 私の脚ーー!!」

     僕がガラスの脚だと、不運な脚だと思い続けてた、ローレルの脚。
     それを彼女は自慢するように、高らかに声を上げた。

    「走り続けてよかったー! 迷わなくて、よかったーーっ!」

     僕は辛かったらいつでも戻っておいでね、とローレルに伝えた。
     しかし彼女は、そんなことを選択肢にも入れなくて良かったと、叫んだ。

    「私――――後悔じゃなくて、勇気を持ててよかった……!」

     無理なレースに挑むなんて無駄だと、僕はローレルに思っていた。
     けれど彼女は、あの怪物に挑み続けたことを、誇りに思っていた。
     
     彼女の心からの叫び声は、浅はかな考えしか持たなかった僕の脳を破壊していった。

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 02:41:14

     やがて、ローレルのトレーナーがターフに現れた。
     彼は少しばかり彼女と会話を交わした後、俯いて硬直する。

     そんな彼を――――ローレルはぎゅっ優しく抱きしめた。

     ああ、そういうことだったのか。
     僕は心のどこかで、彼女の夢を、本気で信じていなかった。
     彼女の夢が、叶うだなんて、思っていなかった。
     彼女の夢を、理解していなかった。
     言葉だけで、信じるだの、叶おうだの伝えるだけで、どこかで不可能だと考えていたのだ。
     …………最初から、僕の想いは届くはずなどなかった。

    「おめでとう、ローレル」

     僕はターフから背を向ける。
     中山レース場で、ようやく咲いた遅咲きの桜。
     ――――その影で、僕の桜が散っていくのだった。

  • 9二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 02:46:33

    こんな夜中に文豪すな

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 03:33:04

    深夜の脳破壊スレだ

  • 11二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 10:36:09

    うおっ、お手本のようなBSS...俺は好きだ。

  • 12二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 11:00:15

    救いはない(無慈悲

  • 13二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 11:37:03

    お手本のようなBSSだけどきっちり終わりも理由も自覚できたのは救いだなと思った
    新しい恋が呼んでるよきっと

  • 14二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 12:18:42

    >>1じゃなくて2時間で辻書いたのかよ

    スゲぇな マジでスゲぇな

  • 15二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 12:41:15

    脚部不安や高過ぎる目標でどこか孤独感があって、ローレルが欲しかったのは上辺の優しさじゃなくて一緒に夢を追いかけてくれることだったんだなぁ

  • 16二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 20:14:49

    なんであにまんにはこの手の熱量を持った人が出て来るんだろ……

  • 17二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 20:15:54

    >>15

    同情じゃない、君と夢を見たい!って口説き文句で落ちたからね…

    僕くんにも優しさはあったはずなんだが

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