【SS】とあるシニア級ウマ娘の遺産_SecondYear【未実装ウマ娘登場注意】

  • 1初スレ落ち経験スレ主21/11/24(水) 21:38:33

    前スレが落ちたので2スレ目です。ゴキブリのようにしぶとく蘇ります。

    注意!

    このSS集は、未実装の競走馬のウマ娘化の妄想を基にした物語です。主人公、並びにサブキャラに未実装ウマ娘が多く登場します。当然、設定、関係性、口調等は独自設定によるものなので、そういうのが苦手な人は(できれば)何も書かずにブラバでよろしく!できれば広い心で受け入れて楽しんでくれるとありがたい!

    史実ネタについては調べてはいますが、見落とし間違いなどあればごめんなさい!

    ストーリーは全8章くらい(幕間あるかも)、一つ一つもまあまあ長いです。

    以上が大丈夫という人はぜひお楽しみください!

    前回スレ

    【SS】とあるシニア級ウマ娘の遺産【未実装ウマ娘登場注意】|あにまん掲示板注意!このSS集は、未実装の競走馬のウマ娘化の妄想を基にした物語です。主人公、並びにサブキャラに未実装ウマ娘が多く登場します。当然、設定、関係性、口調等は独自設定によるものなので、そういうのが苦手な人…bbs.animanch.com
    ロードカナロアウマ娘概念に関する論文風スレ|あにまん掲示板ちょっと降ってきたロードカナロアがウマ娘になったらの妄想を執筆してってもいいか?ちなみにたまたま似たようなスレが立ってたんだけどhttps://bbs.animanch.com/board/15828…bbs.animanch.com
  • 2初スレ落ち経験スレ主21/11/24(水) 21:39:04

    前スレでも言いましたが、2章はスレ落ち回避のために今日→明日昼→明日夜の3回に分けて投稿します。まとめて読みたい人は明日まで待ってもいいかもしれません。
    はいそこ、スレ落ちしたあとにスレ落ち対策は意味ないとか言わない!

  • 3SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:39:47

    >>1

    2章 「とあるスプリント王の壁」

  • 4SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:40:29

    >>3

    『──絶頂を極めた者に、最早勝つべき戦いは残っていないのか。』


    「…ん?」


    どうにも気にかかるキャッチフレーズが耳をよぎり、ピクリと震わせる。出所を探すと、そこにあったのはレース情報を流す校内モニターだ。

    そういえば、今年は幾つかのGⅠレースを盛り上げるため、それぞれに因んだウマ娘をPRするCMを放送しているんだった。自分が手痛い敗北を喫した高松宮記念にも、確かキングヘイローが抜擢されていたはず。十度の敗北の末に栄冠を掴んだ彼女が代表を務めたレースで手堅かった自分が負けたのは、何ともまあお似合いというか、因果というか。

  • 5SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:40:41

    >>4

    では今のフレーズは誰ので、どのレースのCMなのか。なんとなく後者の予想はつきつつもモニターに近づくと、


    『──レコードを叩き出した、ラストラン。』


    「…ああ、あの人か。」


    その一言だけで、それが誰を語ったものか自然と悟られた。


    そこに映っていたのは、我らスプリンターが未だに仰ぎ見る不滅の王者。まあ当然といえば当然、今月末の『あのレース』は、未だにこの人の影を追う者たちの墓場のようなものだ。


    『そのウマ娘の名は──』


    「ハイッ!サクラバクシンオーです!」


    「うおぉあ⁈」


    突如隣から響いてきた大音量に慄き、転びかけながら振り返る。するとそこに立っていたのは、


    「?何か呼ばれたようなお声がしたので駆けつけましたが、如何なされましたか?!ささ、ご遠慮なくこの学級委員長を頼ってください!さあさあ!」


    「…いや、明らかに名前呼ばれる前に反応してましたよね?」


    そう、我らが学級委員長にして遠すぎる王者、サクラバクシンオーがあけすけに笑っていた。




    『──圧倒せよ。スプリンターズステークス』

  • 6SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:41:02

    >>5

    「いやー、すみません!CMさんの音声でしたか!しかしお茶の間の皆さんにまで私の名前が届いては、これからもっともっと色んな人から頼られてしまうこと請け合いというものですねぇ!流石学級委員長、流石私というものです!」


    一通りの説明が終わり、流れるように謝罪から自画自賛へと入ったサクラバクシンオー。それを苦笑いで流しつつ、本人とCMのレース映像を見比べていると、自然と質問が口をついて出ていた。


    「実際、どうだったんですか?このレースは。」


    「むむ?」


    実際、会えたら聞きたいことの一つではあった。当時のバクシンオーが何を思ってラストランに挑み、終えて何を思ったのか。これからレースに臨む者としては、スプリンターズステークスには未だにその時の想念が染みついているように思えてならない。

    それを刻みつけた当人はというと──


    「ふむ、まあ正直に言うと、あまり覚えてません!私自身、あまり思い入れのあるレースという訳でもありませんので!」


    これである。

  • 7SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:41:26

    >>6

    「ええ…。ラストランですよね?思い残すことないように、とかあったりしないんです?」


    「いえ、特には!私優秀だったので、やらなければならないことはこの時には全部終わらせていましたから!まあ強いて言うなら、バクシン後を汚さず、という感じですね!」


    あっけらかんとした答えの最後を、何やら奇妙な言い回しが締めを飾る。


    「…飛ぶ鳥後を濁さず、ですか?」


    「そうとも言うでしょう!何せそれからは、皆さんの模範となるべき学級委員長として成さなければならない、長い全距離制覇の旅が始まったのですから!そこに行く前に、お世話になった短距離に後腐れなくお別れをする必要があったという訳なのです!」


    「…なる、ほど?」


    全距離制覇は今は流すとして、つまりあの引退レースはバクシンオーなりのケジメのようなものだった、ということだろうか。ケジメでレコード叩き出すのだから、どこまで行っても王者と言う他ない。


    「そういえば、あなたも出るのでしたね、スプリンターズステークス!カナロアさんとのレースは私もよく覚えてますとも!私も期待してますので、是非ともご健闘を!」


    「…!」


    「それでは、私は学級委員長としての業務がありますのでここで失礼!バクシンバクシーン!」


    そんな激励を残し、委員長は廊下を走り去って行った。その背中を見ていると、やはり思い出すのは2年前のあのレース。粗削りの走りで必死に食らいつき、そしてトップの実力を思い知らされた、始まりのラン。


    (…今の俺は、どこまでやれるんだろうか)


    そう思いながらモニターを見ると、ちょうどバクシンオーの最終直線が大々的に取り上げられていた。


    『これが最後の愛の蹄跡!サクラバクシンオーゴールイン!』


    映し出されたレコードの赤い文字が、やけに明るく照らし出されていた。

  • 8SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:41:51

    >>7

    「──はぁッ、はぁ…。タイム、どうだ?」


    「…ん、ラップ、上がり、どれも良好だ!確認も兼ねて、一旦休憩にするか。」


    トレーナーの提案で練習に一区切りを打ち、休憩に入る。呼吸を整え、ドリンクを嚥下し、冷気を体内に取り込む。喉の冴えはやがて全身に染み渡り、熱を帯びた脳も沈静化していく。そうして頭が少しずつ冴えてくると、昼間の邂逅の事を何とはなしに思い出してしまう。


    「…なあ、トレーナー。」


    「ん、どした?」


    「今のスプリンターズステークスのレコードって、確かバクシンオーさんのから更新はされてたよな?」


    熱を冷まし切ってない頭のせいか、質問はかなり突拍子のないものになってしまった。トレーナーはしかし、目をパチパチとすると、そのまま「ん~」と思い出すように首を傾げた。


    「そのはず、だったな。バクシンオーのが1分7秒1で、今のは1分7秒0だから、ちょっとだけ更新されてはいる。」


    「そう、か…。」


    そう言って、黙って目を伏せた。トレーナーは黙ってその様子を見ていたが、それ以上言葉が出ないでいると、向こうから言葉を投げかけてきた。


    「やっぱり気になるか、バクシンオー。」


    「…まあ、流石にな。今日さっきあったばかりで、どうしても頭をよぎる。けど…。」


    「けど?」


    「今月末、俺の相手はバクシンオーさんじゃない。カレンだ。」


    手を目の前にかざして、太陽に向かって伸ばす。指をすり抜ける光に、あの瞳を思い起こす。

  • 9SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:43:41

    >>8

    目指すべき誰よりもずっと近い、現スプリント女王。俺を負かした相手。俺をこの世界に誘った女。俺の、ライバル。


    「どうあってもカレンを越えなきゃ、バクシンオーさんにも、誰にも届かない。だから、余計なことは考えてられない。」


    拳を握り、宣言する。雑念は不要、栄光は忘れろ。もう繰り返さない。まっすぐに、自分のレースをする。それだけだ。


    「…変わったな、カナロア。前は夢のため、って二言目には言ってたのにな?」


    「うるさいな、俺も多少は反省ぐらいする。前回はカレンを見ないで走り過ぎたからな。」


    トレーナーの軽口にむすっした返答。それに対しトレーナーは苦笑しながら、肩の力を抜くような仕草。


    「まあともあれ、気負わずに行けよ?前に負けたからってあんまり深く考えなくていい。本番前に前哨戦でかち合うんだから、そこで実力比べだ。」


    「そうだったな、今週のセントウルにカレンも出るんだったか。よし、ならそこに向けてまずは調子を整えなきゃ、だ。という訳でトレーニング再開に一票だ。いけるか?」


    「おう!」


    ウマ娘とトレーナー、二人の気合いの入った声が、9月の空に元気よく響いた。

  • 10SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:46:15

    >>9

    「いや~、まさかどっちも負けるとは…。まあ、こっちが先着したから、それはそれで良いんだが…。」


    勝負服に袖を通しながら、控室で一人ごちる。トレーナーとは作戦の最終打ち合わせを済ませ、別れた後。今頃は観客席に着いた頃だろうか。あとは俺が勝負服を着て、ターフまで足を運べば、スプリンターズステークスは幕を開ける。


    セントウルステークスはやや歯切れの悪い結果となった。俺が2着、カレンが4着。先着はしたものの、こちらの本領を100%発揮することができなかった。前哨戦としてはまずまず、といったところ。

    しかし問題はカレンの方。4着ではあったものの、あの時はまだカレンも仕上げ段階には入ってなかったようだし、あれから仕上げてきたのなら、どこまで前回の経験が通用するか。


    「落ち着け…いける。」


    そうつぶやき、控室を出て通路を進む。ターフが近づく中、レースの情報や作戦がどうしても頭をよぎる。自分は今回大外枠、カレンの二つ隣、前回のように包まれないためには、カレンの後ろに付けた後のタイミングは…。

  • 11SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:46:46

    >>10

    「あっ♪ やっぱり来てた~。この間のレース以来、だよね?」


    「…カレン。珍しいな、後から来るなんて。」


    「えへへ~、ファンの子たちとお話してて、ちょっと遅くなっちゃった。」


    そう言いながら後ろから近付いてきたのが、今回の一番人気、堂々の主役だ。紅白黒の勝負服に身を包んだカレンは最終チェックと言わんばかりに窓で髪型をチェックすると、こちらに向けていつものとびきり小悪魔スマイルを向けてきた。


    「カレン、今回は負けないよ?ウイニングライブのセンター、もらうから。」


    いつもカメラに向ける笑顔とは違う、自信と覚悟に満ちた勝気な笑み。堂々とした勝ち宣言を笑みで返すと、カレンと歩幅を合わせて沈黙のまま通路を進む。周囲がトンネルのようなコンクリの円天井へと変わったあたりで、俺の方から口を開いた。


    「君も、こういう時に熱くなったりするんだな。もっと徹底してるというか、夢にストイックなタイプだと思ってた。」


    「む~、その言い方カワイくないな~。でも、夢に向かって、っていうのは確かにそうかもね。それで今日だって、三連覇がんばるぞ、ってカワイく燃えてるんだから。」


    胸の前でむん、と両手を握るポーズはカワイイが、そこにある気力と気迫は本物だ。去年のスプリンターズステークス、自分を下した高松宮記念、そして今回勝てば、今まで誰も成し得てないスプリントGⅠ三連覇。前回と違い、今度こそ本気の仕上げで、本気で勝負に臨んでいるのだろう。それに比べ、自分は──。

  • 12SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:47:09

    >>11

    「───」


    自分は、どうなのだろう。スプリントで大王に並び立つ、それが俺の目標だった。しかし改めて考えると、この先でどう並ぼうというのだろうか。

    かつて全力の走りの中に、自分が求める何かを見た気がした。今だって、スプリンターとして駆ける度に自分が満たされていくのを感じる。しかし、このまま走るだけで辿り着けるのだろうか。いや忘れろ、今更こんなところで…


    「?どうかしたの?」


    カレンの怪訝そうな声で、ふと我に返る。目の前にはトンネルの切れ目、暗い通路を抜けた先。隣に立ち止まるのは、可憐な少女。そして、今日の俺のライバル。


    「─ッ!いいや、何でもない。先に行ってるよ。主役は最後に出てくるものだしね。」


    頬を叩いて気合いを入れ、首を傾げた彼女の横を通って出口に向かう。その直前で止まり、振り返った。


    「──ただ。その主役の座、今度こそ俺が貰うから。」


    そう言い残して、駆けだした。後ろは振り返らない。きっと笑っているだろうことは、見なくても分かる。


    結局、どうやって目標まで辿り着くのかは分からない。けど今はいい。きっと全部をぶつけた先で、見える何かが答えになる。今はそう信じて、走り出せ。

  • 13SS初挑戦スレ主21/11/24(水) 21:47:52

    >>12

    ────ファンファーレが轟く。誰もが息を吞む。その一瞬の攻防に、人は永遠の夢を見る。

  • 14SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 08:53:49

    >>13

    『さあ、枠入りは順調に進んでいきます。海外から来たトップスプリンターたちが収まり、残るは上位人気の二名含めあと数人といった様子です。』


    場内のアナウンスを静かに聴きながら、ゆっくりと呼吸する。自分の枠入りは最後、まだ芝の感覚を確かめていられる。まだだ、気を高めろ。一度入れば、集中する余裕はない。


    スタンドの喧騒が遠くに聞こえる。向こう正面では何が見えているのだろうか。さっきから歩き回っている自分の姿か?いや、カメラが集中するのは彼女に相違あるまい。


    カレンもまた自分の枠入りを待ちながら、自分とは逆に静かに立ち止まっている。前回の高松宮でも思い知らされたが、カレンはああ見えてかなり据わった度胸を備えている。本人に言えばカワイくない、とどやされるだろうか。不思議と笑みが浮かんでくる。


    「!」


    『さあ、カレンチャンもゲートに収まりました!あと残るは──』


    時間だ。歩き回るのをやめ、大外枠の前で立ち止まる。一歩、二歩、三歩。後ろでガシャンという音が鳴れば、もう時間を遮るものは何もない。

  • 15SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 08:54:19

    >>14

    「───」


    静寂。息遣いが聞こえる。右に陣取る15人の呼吸の中に、何故だか心がざわつく音階が混じる。


    自然と身体が、取りなれたポーズへと移行していた。


    こうすると、否が応でも思い出す。半年前、自分が逃した栄冠を。あのときも、同じ息遣いが隣の何処かから響き…


    暗いゲートの中で、周囲が色を失っていく。その中で、耳に届く声もあった。


    『可憐な君は、1200メートル先で強く生まれ変わる──』


    静化した脳の片隅の思考。可憐など、自分に最も似つかわしくない言葉だ。当てはまるのなんて、一人しか知らない。だけど、もし。もし自分がこのレースを勝ってしまえば──。


    『スプリンターズステークス──』


    ───俺もカワイイだったってことになるのか?


    (ガコン!)


    『今スタート!』


    鉄格子が解かれ、疾風となって飛び出す。その口元は確かに、悪い冗談を聞いたような笑みを象っていた。

  • 16SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 15:43:47

    >>15

    『さあ各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました!まずは第三コーナー向かって誰が行きますか、内枠のウマ娘たちが引っ張る展開!人気の二人は先頭と中団に分かれる形です。』


    「ふぅぅ…。まずは、ここから…」


    実況を聞きながら、位置を確かめつつ内にズレてゆく。大外枠が功を奏した、前方がよく見渡せる。


    先頭集団は4人ほど、実況が言っていた通り内枠の子たちが多い。その1バ身ほど後ろになって第二集団、カレンはここの外側に陣取った。俺はそれを警戒しつつ、その背を見る形で真ん中集団の前方、といったところ。


    さて、どう仕掛けるつもりか。カレンは最初から飛ばすタイプではない。『あの時』の必勝パターンから見ても、第四コーナーを曲がるまでは動きはないと見て良いだろう。しかし問題はその前の第三コーナー、この1200コースではかなり長く緩やか。少しずつ曲がり、いつの間にか過ぎていたという場合もある。標識を確認、現在残り800ほど。もうコーナーの半ばあたり…!


    「──このまま、背中を追うか…?」


    ───すでに局面は、第四コーナーへと移ろうとしていた。

  • 17SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 15:45:53

    >>16

    「!あいつ…!」


    トレーナーは遠目から、カナロアの位置取りを見て歯噛みした。レース展開的には決して悪い位置ではない、全体を確認しただろうカナロアはそれに沿った判断をしっかりしていた。

    だが──


    「高松宮、繰り返す気か…⁈」


    そう、前回の高松宮記念と同じ、カレンの真後ろ。その時はその位置取りの結果、カレンを抜けきれずに3着を喫した。今回は外側、全く同じレース展開にはなるまい。だが、かつての敗戦時と同じ戦法。それは、かつてを気負うカナロアの内心を如実に表していた。


    「──ッ!」


    身体を乗り出し、手を口元にあてる。届くかは未知数、意味があるかは不明。だが、トレーナーとして、あいつを見届けてきた者として、今叫ばずどうする──!


    「…────ッ!──!」





    その声は、風に乗り、芝を漂い、ささやかに一人のウマ娘の耳をピクリと震わせた。だがそれは──


    『──何処を見てんだ!前!前を見ろッ!』


    ──世界を止めるのに、十分なささやきだった。

  • 18SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 15:47:13

    >>17

    前を見ろ?あいつ、今更何を。俺はずっと前を見ているだろ。今だって、見てる。あの時を繰り返さないために、この子に負けないために、前を──


    前。前って、どこだ?俺は、何処に行きたい?

    夢の先へ。


    どうやって?

    勝って。もう負けないで、勝てば──


    ──本当に?負けなければ、それでいいの?


    『各ウマ娘、第四コーナーへと入ります!』


    静止した時が、僅かに戻る。今までの緩やかな曲線が、明確な円弧を描く。目の前の少女が体制を傾ける。間隙、見えた。


    ──何処までも澄んだ、先の夢を見る目を。

  • 19SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 15:48:16

    >>18

    「───」


    カレンは、自分に勝つことが目標じゃない。無論他の誰かでもなければ、三連覇達成さえも目標じゃない。なら、何?


    『カレンの夢は、世界で一番、カワイイカレン!』

    ──そうだ。彼女は、そういう子だ。自分の魅力でたくさんの人を魅了し、心を満たす。バカバカしいとさえ言えるような壮大な夢、そのために走っているのが、カレンチャンというスプリンターだ。


    『皆さんの模範となるべき学級委員長として──』

    ──サクラバクシンオーもまた、言っていた。自分は学級委員長として、全生徒の模範になるとか。


    そして、ああ。あの人ももしかしたら、何かを見据えて走ったのかもしれない。一度も聞いたことはない。けど、その走りに夢を見た者は、確かにここにいる。


    ──そうだ。俺の周りには、前を見てる奴がたくさんいる。前にあった事じゃない、自分たちが望む、自分たちの道を。


    なら、俺の前には何がある。何処まで行く。何を目指す。


    カレンの前。

    ────その先へ。


    大王の再来。

    ──────その先へ。


    驀進王の残した壁。

    ─────────もっと、その先へ!



    『第四コーナー曲がり、直線向かいます』


    ───目の前に、何処までも続く『未知』が広がった。

  • 20SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 15:48:41

    >>19

    『直線でまず先頭に立ったのは6番、2番がそこに並んでいる、そしてここで追い込んできたのがカレンチャン!』


    「やぁあああっっ!」


    「「無理ぃ~!」」


    可憐に、苛烈に、目を眩ませるように。当代のスプリント女王は己の脚を駆使し、一気に先頭との距離を縮める。道を譲るように、幻惑されたように、他のウマ娘はその邁進にのまれてゆく。分かっていた結果だ。知らしめられた道理だ。カレンの脚は誰よりも速い。それが彼女の、『閃光乙女』の示してきた実力だ。


    ──だが。観客が、脇役たちが、女王が、既定路線を見守っていたのはここまで。その日のレースには、


    「おおっと?!そしてここで外から──」


    「───ぜえぇぇぁぁあああッ!!!!!」


    『──ロードカナロアぁ!!!』


    道なき未知を望む、何者かがいたのだから。

  • 21SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 15:49:03

    >>20

    自分は、何処に進もうというのだろう。この道は、何処へと続くのだろう。正直、まだ俺にはどこへとこの想いを届けたいのか、分からない。


    だが、何かが駆り立てる。もっと行けと狩り立てる。誰よりも先に行けと、俺の中の何かが吠えている───!



    「───ぜえぇぇぁぁあああッ!!!!!」


    『────────────ッ!!!』


    大きな声が、何かをがなり立てる。知らない。目の前に、目の端に、あの芦毛が風を切る。速い。速い。だから、もっと先へ。脚を回せ。血肉をくべろ。目の前の相手に、空気に、全てに喰らいついて、走れ、走れ、走れ───!

    抜けた、まだ先へ。抜かせるな、まだ走れ。このみちは、このさきは、まだ───!




    『ゴールイン!一着、ロードカナロアッ!』


    ───そのこえは、せんげんは、しらんだあたまにも、やけにめいりょうにひびきわたった。

  • 22二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 20:52:12

    >>21

    「ぜぇっ、ぜぇっ、はぁ…」


    肺が、苦しい。胸が、焼ける。身体が、熱い。心は、軽い。


    力を抜くと、足の回転は徐々に遅くなり、歩きへと変わり、やがて止まった。そのまま、どこを見るともなく立ち尽くし、肩で息をする。まだ、思考は戻らない。


    それでも、


    『一着、ロードカナロア!二着にはカレンチャン!見事、高松宮の雪辱を果たしました!』


    「───ワァアアアア!!!」


    その声の意味は、じわじわと染み込むように理解できた。


    「──勝っ、た?」


    「…ロア!カナロア!」


    「…!トレ、わぷっ」


    声に返答する間もなく、何かが覆いかぶさっていた。思わずたたらを踏むが、そんなこともお構いなしにぎゅう、と抱きしめられる。


    「やったな…やったな、カナロア!すごい、やったぞ!」


    「ちょっ、おい…」


    突然の事に驚きながらも、相手の背中をぺちぺちと叩く。それで伝わったのか、トレーナーの身体が名残惜し気に離れていった。息が上がり、ゆるみ切った顔と赤らんだ目元がどうにもおかしくて、どうしても笑みが浮かんでくる。

  • 23SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 20:53:08

    >>22

    「今までやって来たってのに、今更どうした、アンタ。」


    「いや、だって仕方ないだろ…!GⅠで、お前、ずっとがんばって、それに…」


    それだけ言って、トレーナーは言葉を無くしたようにただ指をさした。その先の掲示板には、一着に16、二着に14、そして──


    「───ぁ」


    『タイム、1分6秒7!あのバクシンオーのレコードを更に更新しました!』


    「───ワァアアアア!!!」


    歓声が世界を包む。誰もが歴史の歩みに歓喜する。その渦中にて、俺はただ、あの日にかけられた言葉を思い出していた。


    『私も期待してますので、是非ともご健闘を!』


    …この結果を見て、あなたは何て言うだろう。驚くか、笑って流すか。

    そう考えると、無性に見てほしくなる。見ているのなら、目に焼き付けてほしい。そう思って、何処かにいるあの人に向けて、指を天に、赤いサインに突きつける。


    『手を上げた、ロードカナロア!今、ここに、新たなスプリント王の誕生ですッ!』


    ───このレコードは、我々がずっと目に焼き付けてきたものの、意趣返しなのだから。

  • 24SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 20:53:27

    >>23

    この時、俺は実際、レースの反動で頭が回ってなかったのかもしれない。レコード更新に浮かれてたのかもしれない。けどふと、レースが始まる直前の事を、遠い昔のようなことを思い出してしまったのだから仕方ない。


    「なあ、トレーナー」


    「ん、どした?」


    隣で棒のように立ってる男に、ひょいと声をかける。気の抜けた返事を返したそいつに向け、俺は悪戯っぽく微笑んだ。


    「…俺、カワイイか?」


    ──その後のトレーナーの慌てようと混乱度合いは、言うまでもあるまい。

  • 25SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 21:42:42

    >>24

    「ったく、いきなり変なこと言いやがって…。お前、たまに変な度胸発揮するよな…。」


    「はは、悪い悪い。それで、インタビューの方はどうなった?」


    控室で身体の調子をチェックしながらぶつくさ言うトレーナーに、笑いながらさっきまでの仕事の具合を話すよう急かす。あの後トレーナーは取材陣に囲まれ、一息入れようと控室まで逃げ込んだのが、現在の状況だ。


    「流石、手ごたえは上々だよ。GⅠ連勝のカレンに真っ向勝負で競り勝って、しかも中山1200の新レコードときたもんだ。新スプリント王のご誕生で、しばらく取材は止まらないと思えよ?」


    「ああ、構わないさ。この先やっていくんなら、こんなものじゃ満足してられないからな。」


    「そりゃ頼もしい、この後も記者会見があるからしっかり経験を積むように。…よし、調子は問題なし!本格化を迎えての初GⅠ、この感じならこの先も問題ないだろ。」


    触診を終えたトレーナーはそう宣言し、立ち上がる。俺も自分で動かして確認してみたが、身体の方は問題ないらしい。高松宮の時に兆しを見せた本格化、それが開花した証拠だ。この様子なら、次のレースも問題なく走れるだろう。

    湧きたつ多幸感をこらえながら足を回していると、トレーナーが思考を読み取ったようにふと質問を投げかけられた。

  • 26SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 21:43:02

    >>25

    「なあ、ところでお前、次走はどうするつもりだ?」


    「…まあ、そりゃ高松宮、になるのか?」


    元々スプリントGⅠは国内では今回と高松宮、この二つしかない。スプリンターにとっての目標は、この二つのどちらか、あるいはカレンのようにどちらも獲ること。俺の場合は、カレンの先を行くなら、来年のスプリンターズステークスまで勝ちたいところだが…。


    「…少し、つまらないな。」


    「だよなぁ。お前の場合、単純なスプリント路線だけで満足できるかどうか…。」


    トレーナーは俺の呟きに同意し、頭をガシガシしながらうなる。俺も天井を見上げ、思案に暮れる。


    国内二つのGⅠタイトルを総なめ、確かにそれを達成すればスプリント界の頂点に君臨するだろう。それこそ、今までいなかったバクシンオーに並ぶ存在になり得るかもしれない。

    だが、足りない。自分の夢、「大王に並び立つ」という目標に届くには、あまりに月並みすぎる。かといって、スプリンターの身分でこれ以上の高みに行くにはどうしたものか。

    せっかく、自分の道というヤツを見つけたというのに。あの高速の世界で、「更に先へ」という願いを見つけられたのに、地面がないのでは歩いていくことなど出来ない。こんなところでつまらぬ挫折などできないというのに、思考はどうたどってもどん詰まりへと続いていく。


    トレーナーとウマ娘、顔を合わせる。答えを出せない問題だ、諦めるかまた出直そう、口惜しくもそう口にしそうになる。その時、


    「ハーイ!その問題、カレンにお任せ☆」


    天啓は、カワイイの形でドアを開けた。

  • 27SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 21:43:44

    >>26

    「…えー、ロードカナロアさん、今回の勝利に対して、一言感想をお願いします。」

    「純粋に誇らしい、の一言に尽きるな。ようやく、届きたい場所まで手をかけられた。」

    「おお、それではまだ道半ば、ということでしょうか?」

    「ああ。俺にはまだ、叶えたい夢がある。」


    その一言で、再びフラッシュが視界を埋め尽くす。こんな言葉でざわめくのだから記者というのは単純だ。まあ、これが仕事なのだから、こちらも正直に答えよう。

    現在は先ほど話に上がった記者会見中、トレーナーの出番は終わって、俺にバトンタッチしたところだ。やはり今回のレースは衝撃的だったらしく、質問は止まりそうにない。


    レースの中での意識という質問にはカレンの名前を挙げ、レコードに関しては「まだ完全に信じきれない」とお茶を濁した。この先同じだけの結果を出せるか、それは未来の自分次第だ。


    「次走の予定など、伺ってもよろしいでしょうか。」


    「…!」


    しかし、その次の質問で口が止まった。突然の間に、記者たちがどよめくのを聞く。隣でトレーナーがマイクを持ち上げたのが分かった。


    「まだ次走に関しては決めかねている状態ですので、また正式に決まってから──」

    「いや、いい、トレーナー。決まっている。」


    代理の返答を遮る形で、言葉を放つ。懸念するような表情のトレーナーに頷き、取材陣を向く。十数名の意識が、俺に再び向けられる。少しの深呼吸。

  • 28SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 21:44:17

    >>27

    「今、決めた。俺は────」


    この時まで、少し悩んでいた。その選択は、大王ならどうするか。驀進王も進んでいない場所へ、今から挑むべきなのか。しかし、


    「────俺はカレンと一緒に、香港スプリントに挑む。」


    ──そんな悩みは必要なかった。これは、俺の進む道なのだから。

  • 29SS初挑戦スレ主21/11/25(木) 21:45:04

    >>28

    カナロアの宣言から、2か月と少し。海を渡った先に、彼女の決戦の地はあった。そしてそこには──。


    「なあ~~~~~!!何で?!何でカレンとホテル別棟なんだよ~~~~~!!」


    「何でもヘチマもあるか!お前がカレンに掛かり切りになってまともに練習の休み取ろうとしないからに決まってんだろ!」


    そこには、ベッドの上で駄々をこねるスプリント王の姿があった。カワイイ恐るべし。



    〈スプリンターズステークス編 完〉

  • 30スレ落ち引きずりスレ主21/11/25(木) 21:47:17

    いつも通り、読んでいただきありがとうございます。
    …はい、スレを落としてしまいました。悔しい。自分のSSでスレ一つ埋め尽くすとか、やってみたかった…。はぁ…。
    気を取り直して、次回はちょっと短い幕間を挟んでから香港スプリント編。幕間は早めに仕上がると思うけど、念のため週末まで待って欲しいかも。その間スレはもう落とさん…!

    しかし、レース描写って大変だなぁ…。皆さんに伝わりましたか?

  • 31二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 08:50:52

    お疲れ様です…!
    保守…しきれなかった…!
    レース描写は良かったと思う!

  • 32二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 14:52:33

    保守!

  • 33二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 22:58:44

    age

  • 34SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 10:43:01

    保守して下さった皆さんありがとうございます!
    今日の夜、更新できるといいかな…?
    短いしカナロアの話とはちょっとちがうので軽い気持ちでお待ちください

  • 35SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:23:43

    >>1

    幕間之壱 とある三冠バの競演

  • 36SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:24:08

    >>35

    「…ふむ、それでは今年は、君たち二人が行ってくるということで良いんだね?」


    生徒会室。学園の最高峰のみが座る椅子から、紅紫の視線が目の前の二人を静かに見据える。投げかけられることそのものが大きなうねりを予感させる、皇帝の問い。しかしそれを間近に受けながらも、二人は動じることなく、楽観的に、あるいは飄々と応答する。


    「はいっ。二人で頑張ってきま~す♪」


    「この間、正式に招待状が来ましたので。俺でも資格は十分、と判断されたようです。」


    「うん、わかった。こちらも手続きを進めておこう。」


    その答えに満足したのか、シンボリルドルフは頷いて了承の意を表明し、表情を鉄面皮からやや和らげる。張り詰めた空気の弛緩する感覚、皇帝の目的が「確認」から「歓迎」へと移った証拠だ。


    「…香港スプリント。カレン君が去年に引き続き出走するだろうことは予想していたが、彼女を破った君が出てくれるのは嬉しい知らせだ。新スプリント王最有力候補の実力、海の向こうでも存分に発揮してくれると嬉しい。」


    隣の芦毛の少女から目線を移され、新スプリント王─ロードカナロアは肩をすくめた。


    「カレンに誘われた時は少し考えましたが、悩むほどの事ではありませんでした。『カレンを破ったウマ娘』として覚えられるのが目的ではないので。」


    「そうそう。カレンに言われた時も、そうハッキリ答えれば良かったのに~。」


    むう、と頬を膨らませたカレンにつつかれ、居心地悪げに身をよじるカナロア。その返答を聞き届け、ルドルフも満足げに口元を緩めた。


    「進取果敢、挑戦する気概は得難い功徳だ。

     …香港スプリントは、我々日本のウマ娘にとって凱旋門にも等しい障壁だ。かつて多くの名ウマ娘が、その壁に挑み、破れてきた。だが…」


    そこまで語り、もう一度空気が張り詰める。皇帝の瞳が、再び二人を見据える。


    「今の君たちは、ベストと言われた去年よりも更に力をつけていると、私は感じている。このレースが、君の『登竜門』と成り得るかどうか…。日本の地から、我々も君たちに期待して見させてもらうよ。」

  • 37SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:24:41

    >>36

    「…スプリント路線もしっかり見てたんだな、ルドルフさん。」


    「そりゃそうだよー!去年もカレンが遠征する時、声をかけてくれたんだから。」


    生徒会室を出てからカナロアの漏らした僅かな驚きを、カレンは歩きながらむう、と咎める。しかしその後、思い返すように唇に指をあて、小首を傾げた。


    「でも、去年とは確かにちょっと雰囲気が違ったかも。去年は『頑張ってきてね』って感じだったけど…今日はもっと、その気持ちが強そう。」


    「…『凱旋門にも等しい障壁』…か。」


    カレンの分析に、カナロアも会長の言葉を反芻する。あの言葉が、その想いをいっとう深く表しているような気がした。


    凱旋門。フランスGⅠ、最高峰のレースの一つであり、同時に日本のウマ娘を何度もはね返している世界の壁、その代表。基よりそこにかける日本の想いは一入だが、今年、いや今はその名が桁違いに重い。

    10月7日、第91回凱旋門賞。今年は誰であろうオルフェーヴルが日本代表の一人として出走し、そしてクビ差で世界に敗れた惜敗の日。そして、日本は世界に届けないと、そんな事実を無遠慮に突きつけられたような日でもあった。


    つまり、会長は、いや日本は、夢を見てみたいのかもしれない。自分たちが世界にだって並び立ち得る存在だという、長年見てきた夢を。


    「…なら、その世界っていうのがどういうものなのか、一足先に見ておくか。」


    「?どうしたの、いきなり。」


    ぽつりと独り言をこぼして歩き出したカナロアを、ハテナマークを浮かべながら追いかける。そんなカレンに、カナロアは少し悪戯っぽく笑いかけた。


    「カレン、今週末、暇か?」



    ───11月25日。世界が、来る。

  • 38SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:24:59

    >>37

    ジャパンカップ。日本国内唯一の国際招待競走であり、海外のウマ娘が毎年招かれ、その実力を競う最大の国際交流レースの一つ。そして今年に関しては──


    「凱旋門に挑戦したオルフェーヴルと、今年のトリプルティアラ達成者のジェンティルドンナが激突する、世紀の一戦の場、って訳だ。」


    「ああ。世界がどんなものか、俺は知らない。ならそれを最も知ってるヤツに、走りで見せてもらう。この世界を相手にする場で、な。」


    「なるほど、確かに条件は違えど、レベルで言えば確かにお前が挑む香港スプリントに勝るとも劣らない、それを見るのは悪くないアイデア…なんだが」


    そこまで言って、トレーナーは隣に立つカナロアに目を向けた。


    「お前、カレンはどうした?誘ったとか言ってたが──」

    「フラれた。」

    「…あ、そ。」


    低い声で断じられた言葉に深く突っ込まず、トレーナーは黙り込んだ。全然事のいきさつを話そうとしないとはどういうことやら。カレンチャン、恐ろしい子。


    そんなことを話す間に、ファンファーレが鳴り終わり、周囲の観客から大歓声が湧き上がる。冗談は抜きに、今回の一戦は確かに珍しい一戦だ。三冠ウマ娘が二人並び立ち激突するなど、シンボリルドルフとミスターシービー以来だ。他のウマ娘も、エリザベス二世カップ優勝のルーラーシップをはじめとした重賞ウマ娘ばかり。誰もがこの戦いの行方を、息を呑んで見守っていた。


    『各ウマ娘、ゲートイン完了』


    府中に静寂が流れる。11万人がその時を待ちわびる。未来に海の向こうへと挑むウマ娘も、目を凝らして息を殺した。



    『───スタートです!』

  • 39SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:25:25

    >>38

    ───レースは終盤、大欅を越えて佳境へと差し掛かっていた。


    「るるるぁああああ──────ッ!」


    第四コーナーを曲がりながら、大外より飛来する金色のたてがみ。直線に入っても加速は止まらず、円弧を引き継ぐようにキレ込みながらなお猛り狂う。


    「ジョーダンさん、行くッスよ!」

    「─ッ!オルフェ、アンタ──!」


    勢いそのままに、二番手を走るトーセンジョーダンを抜かさんと迫るオルフェーヴル。荒々しくもレースを喰いちぎらんばかりのその威容、まさに金色の暴君に相応しく───


    「────ふッ!」


    ──だが。この戦場において冠を戴くものは、あと一人。


    「失礼ッ!」

    「のわっ!ちょ、勘弁するし!」


    コース内側で二番手を走るトーセンジョーダン、その更に内を突き、一気に抜け出す鹿毛の影。三冠女王に輝いたジェンティルドンナ、暴虐は赦さぬとばかりに、覇気を纏って暴君の眼前へと躍り出た。


    「───!面白れぇッ!」


    その冒険に焚きつけられ、暴君は更に内へ。愚かにも自信に挑む女王へと襲い掛からんと、前を往くトーセンジョーダンを一気の置き去る。しかし、女王もその威信を掲げ、決して抜かせず前を目指す。ジョーダンを抜き去って二人の距離は迫り、迫り、そして──!


    ───両雄、激突。阻む者なくなった二人は火花を錯視するほどに激しく競り合う。両者は拮抗、拮抗、拮抗したまま突き進み、もはや一番手を蹂躙しようかという勢いで互いを喰らい合い──



    ──拮抗は、突如として終わりを告げた。

  • 40SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:25:45

    >>39

    「───ッ!」


    瞬きの判断で、ジェンティルドンナが脚に力を込め、頭一つ分抜け出す。スパートとはとても言えない、一瞬のみの優位。しかしその僅かな優位から、女王は右足を振り上げ──


    「───退いて、頂きますッ!」


    ──オルフェーヴルの一手先、今まさに踏み出そうとした芝へと叩きつけた。


    「──ぐ、ッ!」


    眼前の芝をたわませる一撃、その衝撃は波となり、暴君に真正面から浴びせられる。所詮はコケ脅し、一秒後には食いちぎられるのが道理の小細工。だが、その小細工によって進撃に生じる僅かな緩み、その間隙を見逃さぬ女王ではない。


    「ふッ、ぜぇぁッ!」


    振り下ろした右脚に更に力を籠め、己の肢体を乗せて一気に飛び込む。暴君の間隙を突き、眼前の端役を交わし、一気に先頭へ───!


    「───ッざけんじゃねぇぞ、オラァァァッ!」


    間隙は、破られた。オルフェーヴルが吠え猛り、自らに牙を剥いた不忠者へとその怒りをぶつけんとその後を追う。流石は金色の王、一度刃を向けられようとその進撃に狂いなし。抜け出し加速を図るジェンティルドンナに喰らいつき、後手の不利も瞬く間に消滅。レースはそのまま、最終局面へ。


    「───ぜぇえええッ!!」

    「───はぁあああッ!!」


    先ほどの火花など幻影と言わんばかり、此度の二人の激戦ははまさしく疾駆する煉獄の如し。互いの一歩先を争い、策略も方策も投げ捨ててただその身を戦いへと投げうつ。

    。激しい鍔迫り合いは芝をも焼き尽くすように進撃し、そして──



    「───もらい、ましたッ!」

    ───僅か、ギラついた女王の笑みが、終幕の一線を先着した。

  • 41SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:26:13

    >>40

    「んだああああ!クッソがぁぁぁ!!」


    ───レースの結果、オルフェーヴルは激しく荒れていた。最後の直線でジェンティルドンナからくらった震脚(?)にひどく機嫌を損ね、今にも本人に掴みかかろうという剣幕で猛り狂っている。だがその理由は負けたこと以上に…


    「いいアイデア来てたってのに吹き飛んだぁぁぁ!おいドンナ、どうしてくれんだ!お前が余計な事してくれた所為だろうが!」


    「…そんなこと、私の預かり知る所ではございません。貴方を抜き去るので精一杯でしたので、そちらのアイデアとやらの処理はそちらでどうぞ。」


    「ンだとォ…?」


    基より芸術家気質なオルフェーヴルが走る理由の一つは、「走っているといいアイデアが浮かんでくるから」。勿論それ以外でも走るのが好きではあるのだが、とにかくこの創作を損ねることが、彼女最大の逆鱗である。特に走ったりしてる最中に浮かんできたアイデアを何らかの接触で吹き飛ばそうものなら、彼女の憤怒を買うことは避けられない。有名な「トレーナー投げ飛ばし事件」も、模擬レース直後に話しかけたことでこの逆鱗に触れたのが原因だとか。


    「おい、あれちょっとまずいんじゃないか?カナロア、止める方法とか知ってるか?」


    「ぶっちゃけ知らん。オルフェはああならなければ聞き分けいいから、俺もなるべく怒らせない方向で接してたから…。まあ、万一のことがあったら頑張って仲裁してみるが…」


    そんなオルフェとジェンティルドンナが火花バチバチとあっては、見る側がハラハラするのは当然の事。カナロアとそのトレーナーも、一触即発の雰囲気に肝を冷やすが…。

  • 42SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:26:42

    >>41

    「何ですか、これ以上は見苦しいとしか言えませんが。」

    「テメェ、アタシをこれ以上コケにするってんなら──!」


    「なーなー、今誰かアタシの事読んだかー?」


    「…あ?」

    「はい?」


    ひょっこり。そんな擬音がつきそうな雰囲気で修羅場に飛び込んだ異分子は、固まる二人を他所にマイペースで空間を持っていく。


    「なー、今誰かアタシの事呼んだろ?『ルーラーシップー!』って。誰だ、アタシのファンか~?へへ~しゃーねーなー、サインでもブロマイドでもやって──」


    「っだーもう、知らねぇよそんなの!クソ、もう怒るのもバカらしくなってきた…。」


    「せっかくの一着なのに頭が痛くなるわ…。あなたもたわけたことばっかり言わないでちょうだい、ホントに…。」


    「なっ──!た、たわけとか言うなよ!そんな、そういうことはもっとこう、ごにょごにょ…」


    「言ってないわよ!もう!」


    謎に照れて叱られるルーラーシップだが、その役目は十分に果たされた(?)のだった。

  • 43SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:27:18

    >>42

    「ふう…いや、何とかなって良かったな。あのままだとジョーダンさんとかとオルフェをどうなだめるかって話になってたし、俺もそこまでやれる自信はないし。」


    「いや、何とかなってたか、アレ…?まあ、結局大事にはならなかったし、良しとするか。…それで?お前は、見たかった『世界の舞台』ってやつは見れたのか?」


    帰りのバス内、今日のジャパンカップの振り返りで胸をなでおろすカナロアに、トレーナーから忘れかけていた本目的を問われる。それを受けて、カナロアは少し考える素振りを見せたものの、すぐに首を振った。


    「ぶっちゃけ最後のアレで全部とんだな、ルーラーに感謝したものかモノ申したものか…。まあ他のウマ娘はさておき、オルフェーヴルに向ける評価は変わらずの『怪物』だな。生で見たのは久しぶりだったが、やっぱり持ってるモノが違う。走りも、気合いも。当然、それに対等に渡り合ったジェンティルドンナもな。」


    そこまで言って、カナロアは上を向いて皮肉げに微笑した。


    「…つくづく俺は、先輩にも同期にも、後輩にも恵まれたな。どうやら俺にとって世界ってのは、オルフェに並ぶには…自分に満足いくだけの自分になるには、切っても切れないものらしい。」


    「…得るものはあった、と捉えてよろしい?」


    「ああ、気の入りようが変わったとも。早速帰って、仕上げの準備を整える。そして──」


    バスのブレーキが掛かる感覚を合図に、カナロアは席を立つ。そのまま車体が止まるのを待たずに、一歩、二歩と入口まで歩みより、振り返った。斜陽を浴びるその目は、あの黄金のたてがみを幻視するように色彩を帯びる。


    「──向かうぞ。香港とやらに。」



    〈ジャパンカップ編 完〉

  • 44SS初挑戦スレ主21/11/27(土) 22:28:23

    「ちょっと短い幕間を挟んでから香港スプリント編」と言ったな…あれは嘘だ。
    正確に言いますと、幕間に入れようとした要素がだいぶ膨らんだので、二つにぶった切りました。なので今日のは幕間その1、明日夜にその2の更新が入ります。
    はい、ぶっちゃけオルフェとドンナの喧嘩に割り込むルーラーシップ概念書きたかっただけです。すみません。
    いつも通り、♡、コメ、保守ありがとうございます!レース描写についてもありがとうございます。今後はだんだん増えていくかも。頑張る…!

  • 45二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 08:54:30

    期待保守

  • 46SS初挑戦スレ主21/11/28(日) 15:02:39

    保守ありがとうございます…!
    ちなみに前スレでも言ったのですが補足させてもらうと、今回の幕間のキャラは以下の「オルフェ芸術家概念」を参考にさせてもらいました。スレ主よりもキャラ解像度高い!興味ある人はおすすめです!

  • 47SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:15:31
  • 48SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:17:12

    >>1

    幕間之弐 とある大器の渡海前

  • 49SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:17:51

    >>48

    ──ジャパンカップから一週間。空港には、小さな人だかりができていた。


    「頑張ってねー、curren!中継で絶対応援するから!」


    「やったぁ~!カレン、嬉しい!皆の分も走ってくるから、見逃さないでね♪」


    「…相変わらず、すごい人気だな…。」


    ファンに囲まれるカレンを見つめながら、カナロアは感嘆ともつかぬ溜息をついた。飛行機の出立時間はあと一時間弱、余裕を持ちたいならそろそろ動いてもいいはずだが、カレンはファンを蔑ろにすることは絶対にしない。ギリギリまでファン交流を続けるだろう。それがカレンのカワイイの美学だ。


    「…俺はそういうの、まだ見つかってないからな…。」


    「あら、変なことを言うのね。それを見つけるのも今回のあなたの目標だったと思ってたけど、勘違いだったかしら?」


    「っ!」


    突如として降ってきた台詞の出所を探し、バッと振り向く。するとそこには、栗毛を伸ばした艶やかなウマ娘。久しく会う機会のなかった先輩だ。


    「まさか、カメハメハさん…!」


    「まさかって、ひどいわねぇ。後輩の門出を見送るのは、先輩としての甲斐性ってものでしょう?」

  • 50SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:18:05

    >>49

    驚くカナロアの言葉に対し、少し唇を尖らせながら、キングカメハメハは悪戯っぽく微笑んだ。


    「ほら、もっとビシッとしなさい。王様の名が廃れるわよ?」


    「いや、だってまさかあなたが…ん?王様?」


    ふっと叩かれた軽口に混じった、妙な言い回しを拾うカナロア。するとカメハメハは「あらあら」とどこかニマニマしながら、片手に持った新聞紙をこちらに手渡した。


    「まさか知らなかったの?あなたの名前、香港では『龍王』って書くらしいわよ。強そうじゃない、よかったわね。」


    「え、え、いやまさか…。」


    カメハメハに渡された紙面を見ると、空港で販売しているレース情報誌だった。恐る恐る香港スプリントの出走表を確認してみると…。


    「うわ、本当だ…!俺の名前、別に龍の要素ない筈なんだが…?」


    「まあまあ別にいいじゃない、呼ばせてもらえるだから。カッコイイわよ?」


    「いやそれはそうだけど…『龍王』ってお前、流石に…」

  • 51SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:18:28

    >>50

    自分の名前でぶつぶつ呟き始めたカナロアに対し、カメハメハは柔和に微笑んだ。その笑みには織り交ぜられた少しばかりの感嘆に、紙面に目を落としていたカナロアは気づかない。


    「なかなか会えなかったのは、ごめんなさいね。わたしもいつ会えたものか、タイミングが分からなくて。」


    「…カメハメハさんもそういう時があるんですね。もっとこう、泰全としたイメージでしたけど、ん…。」


    「そんな風に見てるのは、あなただけよ、まったくもう。わたしはそんなに完璧なウマ娘じゃありませんっ。」


    カナロアの言葉を遮るように頭に手を置いて、子どもをちょっと咎めるように撫でるカメハメハ。その手の感触を感じながら、カナロアはふとスプリンターズステークスの時のことを思い出した。


    「…あの、カメハメハさん。」


    「ん?何?」


    「カメハメハさん自身は、何のために走ってたんですか?俺はこうやって、あなたに夢を見ました。あなたのようになりたいと思いました。けど、あなたが本当は何を思ってあのダービーを駆け抜けたのか、俺は知らない。」


    その言葉に、頭に置かれた手がピクリと動く。胎動のような震えはそのまま静止へと移り、周囲の雑踏だけの時間が一秒、二秒と続いた。黙り込んだカメハメハ、しかしカナロアは発した問いを引き戻さず、ただ言葉を待つ。と、するり、と髪の間を指がすり抜ける感触。

  • 52SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:19:00

    >>51

    「…ふふ、それはまだ秘密。あなたを幻滅させたくないもの。」


    「…!幻滅なんて──」


    「いーえ、します。別に、くだらない理由だなんて言うつもりはないけれどね。あなたがわたしに見た幻想を、そんなに早く消したくないの。」


    そう言ったカメハメハは、カナロアの見えないところから、慈しむような表情で頭を撫でる。するりするりと、髪を梳かす。


    「あなたは、わたしに夢を見た、って言った。それなら、それがあなたにとっての答え。わたしの答えなんて、邪魔になるだけよ。──いい、カナロアちゃん。人が見る夢は、与えるものじゃない。見せた人じゃなくて、見た人が、そのメッセージを決めるの。だからあなたは、あなたがわたしに見た理想のままに、走っていきなさい。これからあなたは、わたしも知らない景色を見に行くんだから。」


    「──」


    カメハメハさんでも、知らない景色。今更ながらその認識は、オルフェーヴルに並び立つというイメージとは異なる感慨をカナロアにもたらした。不安、臆面、しかし仰望、そして期待。これから行く先に待ち受ける様々なものに、カナロアの胸は早鐘を打つ。


    その心境の変化を手のひらから感じ取り、カメハメハは少し笑いながらその手を放す。そして顔を上げたカナロアを見て満足そうに頷き、目を細める。その目は、先ほどとは違う、ギラギラとした何かに満ちていた。


    「うん、それでいいのよ。その目で、海を渡った先で、しっかりと見届けなさい。あなたの道には何があるのか、そしてその先に、何があるのか。先を見て走る、そんな姿が、あなたには似合うんだから。」


    「…はい!」

  • 53SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:19:17

    >>52

    「おーい、カナロアー!そろそろ出ないと乗り遅れるぞ…っと、キングカメハメハ…!」


    「ふふっ、久しぶりねトレーナーさん。あの時はどうもお世話になりました。さて、もう引き止めるのはまずいみたいだし、そろそろ行ってきなさいな。あとは──」

    駆け寄ってきたトレーナーににこやかに挨拶し、カナロアに向き直るカメハメハ。その表情は、いつも見てきたものと変わらず、やはり泰然とした笑みだった。


    「──頑張ってきてね、カナロアちゃん。見てるから。」


    「───」


    「──あーっ!カナロアさん!」


    カメハメハの激励、しかしそれに応える前に割り込んできた甲声、そしてそれに続くバタバタという足音。何事かと振り向いた時にはすでに、5、6人のウマ娘に囲まれた後だった。


    「うおっ、何々…?」


    「テレビで見てたよ、currenに勝っちゃうところ!」

    「カレンチャンすっごく強かったのに信じらんない!」

    「もう、責任取れなかったら許しませんよ!」


    …どうやら、カレンのファンたちがこちらの存在に気付いたらしい。向こうを見ると、カレンが何か自分のトレーナーと話しながらこちらに近づいていた。

    まあ、カレンのファンなら自分を良く思ってなくてもおかしくはないか。そう心の中で呟いたカナロアだが、その予想は意外な裏切りを受けることとなった。

  • 54SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:20:46

    >>53

    「──香港スプリント、情けない走りはしないでくださいね!カレンの花道なんですから!」


    「…はい?え、何を?」


    「何を、じゃない!カレンに勝ったのに香港でダメダメに走ったら、カレンの面子が立たないでしょ!」


    「スプリンターズステークス、すごかったよ!香港でもすごいところ、見せてね!」


    予想とは裏腹に、かけられたのは罵声ではなく𠮟咤激励。最後の子なんかは普通に応援してくれているらしい。何事かと目を見ると、皆カナロアに向かって熱量低からぬ視線を向けている。

    無論、好意的な眼差しばかりではない。応援するカレンを負かした相手だ、すぐに好きになれる方が珍しい。だが、決して悪意ある視線でもない。試そう、図ろう、そして期待しよう。そんな意志を持って、こちらに目を向けている。


    ふとカナロアの脳裏に、自分の名前が蘇る。『龍王』。なんとも大層な肩書き、自分には似合わないことこの上ない。見た人が勘違いしそうだ。だが、


    『人が見る夢は、与えるものじゃない。見せた人じゃなくて、見た人が、そのメッセージを決めるの。』


    ──なら、勘違いをそのままにさせようか。「龍王」なんて呼ばれたウマ娘、それが情けないヤツなんて思わせるのは心外だ。そんな悪戯心にくすぐられ、カナロアは笑みを浮かべる。


    カレンはすでに合流し、おかしそうに様子を見つめてる。カメハメハは逆に少し離れて、立ち去るように見守っている。その観衆に、そしてこれから見るであろう観客に対し、カナロアは笑いながら啖呵を切った。



    「ああ、見てろよ。───カレン以外に俺の前を行かせるつもりは、俺もないからな。」



    〈立志編 完〉

  • 55SS初挑戦スレ主21/11/29(月) 00:25:03

    という訳で、謎に長くなった幕間でした。反省。
    次回はいよいよ香港スプリント、なんだけど、こちらはいつ投稿になるか分かりません!ごめんなさい!
    自分としても書きたかった箇所なので気合いを入れてますが、十中八九また分割して投稿することになると思います。スレ落ち対策に。
    決まったらまた連絡するので(保守ついでに)、すみません、辛抱強く待っていただければ…!
    いつも通り、♡、保守、コメントありがとうございます!もっとくれてもいいのよ?(強欲)

  • 56二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 10:58:10

    やっぱり師匠に送り出される系の船出は…いいよね…

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています