- 1二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 22:29:25
- 2123/04/17(月) 22:33:10
- 3123/04/17(月) 22:33:27
『そういえば、いい香りがする人は遺伝子的に相性が良いそうだよ、カフェ! フジくんからの受け売りだが、私も興味が湧いてしまってねえ、自分でも調べてみたんだよ。まあ専ら生活様式やリズムによって発生する体臭の違いが相性として出てるという判断だが、一説によると免疫に関わるHLA遺伝子が影響しているようでこれを応用すれば――――』
ある日、タキオンさんから聞いたお話。
正直なところ後半の方は聞き流していて、細かい内容は覚えていない。
ただ最初の部分だけは、妙に記憶の片隅に引っかかっていて、頭の中にずっと残っている。
脳裏に浮かぶのは、いつも隣で支えてくれる、トレーナーさんの姿。
冷たい雨の中でも、先の見えない暗闇でも。
アナタがいてくれればどんなところだって、暖かい日だまりだと感じられる人。
彼の香りは、一体どんな匂いだっただろうか。
知りたい、私は知りたい。
直接確かめることなんて、恥ずかしくて、出来そうにもないけれど。
「ん……ここは……?」
思考の海へと沈んでいた私の意識が、突然、浮かび上がる。
目を開ければトレーナー室、私は机に突っ伏していた。
記憶を辿る、今日はミーティングの予定で、私はトレーナーさんを待っていたはず。
昨夜は“お友だち”との走りが興に乗ってしまい、ついつい遅くまで走ってしまった。
そのためかなかなか寝付けず、待っている間に眠ってしまったみたい。
「…………毛布? これは……アナタが……?」
ふと、自分の身体に毛布がかけられていることに気が付く。
“お友だち”がかけてくれたのかと思い、声をかけると“お友だち”は首を横に振り、指を差した。
指し示す先を見ると、椅子の上に乱暴に置かれた上着がある。
この上着には見覚えがある、これは、トレーナーさんの上着だ。
「トレーナーさん……来てたんだ…………起こしてくれれば……良かったのに」 - 4123/04/17(月) 22:33:49
随分と気持ち良さそうに寝ていたから、と“お友だち”は笑う。
そして、別件で呼び出しがあったため、今は一時的に不在の状態とのこと。
戻ってきたら謝罪とお礼を言わないといけない。
今の内にコーヒーの用意もしておこう。
頭の中でそんなことを考えていた、その矢先。
――――いい香りがする人は遺伝子的に相性が良いそうだよ。
突然、頭の中にタキオンさんの言葉が再生される。
なんてことはない、ただの与太話。
でも、そのことがどうしても気になって、仕方がない。
そして今、私の目の前には、誰にも知られることなく、それを確かめる手段があった。
私の視線が、トレーナーさんの上着に固定される。
「いえ……そんな……許されることでは…………」
悪魔の誘いともいえる思いつきを、私は必死で否定する。
本人の許しなく、他人の服の匂いを勝手に嗅ぐなどという行為は、許される行為ではない。
けれど、私はトレーナーさんの上着から、どうしても目が離せなくて。
ぽん、と急に“お友だち”に背中を押される。
きっとそれは、固まっていた私に、どうした? と軽く声をかけたつもりなのだろう。
不意な出来事に私は上手く反応できず、押されるままに、身体が前に傾いてしまう。
彼の上着との距離が、縮んでしまう。
ふわりと、トレーナーさんの微かな残り香が、嗅覚を刺激する。
刹那、私の中の悪魔が、背徳的な閃きを雷の如くもたらした。 - 5123/04/17(月) 22:34:24
「…………あのままでは……皺になってしまいますね…………かけておかないと」
私は立ち上がり、まるで誘われるがままに、彼の上着へとふらふら近づいた。
そう、これは彼の上着のための行動、全くの善意。
そして私は上着を手に取って、広げる。
コーヒーのように漆黒、ところどころに金色の意匠が入っている上着。
彼が初めて着てきた時、私の勝負服に似てたから、と恥ずかしそうに笑ったのを覚えている。
「……あの…………また背中を……押してくれる…………?」
私は彼の上着を見つめたまま、背後にいるであろう“お友だち”に声をかける。
“お友だち”は怪訝そうな声を上げながらも承諾し、その気配が近づいて来た。
どん。
強めの衝撃、倒れるほどではないにせよ、私の身体は先ほどよりも傾く。
なので、これは事故。
前に傾いた私の顔は、彼の上着にぽすんと飛び込んだ。
――――最初に感じたのは、馴染みのある、珈琲の香り。
そこから、染み渡るように、少しずつトレーナーさんの香りが、吹き抜けてくる。
少し汗も感じる男性の香り、けれどそこには日なたのような暖かさを含んだ香りも感じる。
上手く表現することはできないけど、これは、トレーナーさんの香りだ。
トレーナーさんの香りと、私の象徴ともいえる珈琲の香り。
私と彼の香りが重なり合って、絡み合っているという事実に、私の心臓はどきどきと早鐘を打つ。
「すぅ…………これは……とても…………良い……」 - 6123/04/17(月) 22:34:49
――――とんとん、とノックの音が鼓膜を揺らす。
トリップしかけていた私、全身をビクりと反応させてしまい、思わず上着を取り落とす。
直後、トレーナー室の扉が開かれて、トレーナーさんが姿を現した。
「……ただいまー、あっ、カフェ起きてたんだ」
「…………はっ、はい……毛布…………ありがとうございました」
「どういたしまして、って俺の上着が何でこんなところに……?」
彼は床に落ちた上着を見て、不思議そうに首を傾げる。
冷や汗が流れ、先ほどとは別の意味で心臓が大きく音を鳴らしていく。
その時、本日大活躍の悪魔が、頭の中で囁いた。
私はトレーナーさんから目を逸らしつつ、言葉を紡ぐ。
「“お友だち”が…………悪戯をしたみたいです…………」
トレーナー室全体が、まるで抗議をするように大きく揺れた。 - 7123/04/17(月) 22:36:15
お わ り
トレーナーの服に顔を埋めるカフェがみたい - 8123/04/17(月) 22:36:44
- 9123/04/17(月) 22:37:19
「そういえば……いい香りがする人は…………遺伝子的に相性が良いそうですよ」
私が珈琲の香りに言及すると、カフェちゃんはそんなことを言った。
物静かでクールな彼女には珍しく、誰かを想うような情念のこもった表情で。
彼女の言葉の内容以上に、その表情が気になって、私は意地悪な問いかけをしてしまう。
「それは素敵だね! それでカフェちゃんは誰の香りを思い出したのかな?」
「…………忘れてください」
恥ずかしそうに、目を逸らすカフェちゃん。
その様子があまりにも可愛らしくて、その日の出来事を私は忘れることができなかった。
そして、その数日後のお話。
「――――ごめん、ローレル。提出を忘れていた書類があって」
「はい、私は本を読んで待ってますから」
「悪い、すぐに戻るから」
「大丈夫ですよ、気を付けて行ってきてくださいね」
トレーナーさんは申し訳なさそうに頭を下げると、足早にトレーナー室を出た。
…………そんなに、慌てなくても良いのに。
転んだりしなければいいけど、と少し心配しながら、私は鞄からフランス語の本を取り出す。
開いたものの、何故かこの時はあまり読む気が起きなくて、すぐに閉じてしまう。
手持ち無沙汰となって、なんとなく部屋を見回していると、デスクの上に目が留まった。
そこには、月桂樹の葉の意匠が輝く、キャップ。
私がクリスマスに、トレーナーさんへプレゼントしたものだ。
「ふふっ♪」 - 10123/04/17(月) 22:37:44
それを見て、私は思わず笑みが零した。
流石に室内では外しているけれど、それ以外の場面ではずっとつけてくれている。
私とお揃いの、ローレルを。
気づけば、私はデスクに足を進めていて、そのキャップを手に取っていた。
多少くたびれた様子はあるものの、見るだけで、彼が大事にしてくれていることが良くわかる。
「……そうだ、ちょっとだけ」
私はそのまま、トレーナー室に置いてある姿見の前に立つ。
そして、ぺたんと両耳を伏せた。
ウマ娘用でない帽子は穴でもあけない限り、上手く被ることはできない。
けれどこのキャップは男性用で少し大きめ、耳を伏せた状態で少しの間であれば。
「うん、ぴったり!」
フィットしたのを確認して、私はキャップを、深く被った。
それが、いけなかったのかもしれない。
「…………っ!」
人体でもっとも汗のかきやすい部位は、額と言われている。
そしてキャップはその構造上、どうしても汗を吸収しやすくなってしまう。
トレーナーさんも定期的に手入れはしているけれど、ここ数日は季節外れの気温が続いていた。
そのためか、染み付いた彼の香りが、キャップを深く被った瞬間に私を強く刺激した。
「ん、でも、これ……」
嫌ではない、むしろ、好きかもしれない。 - 11123/04/17(月) 22:38:08
彼の香りを纏ったキャップを被ったことで、彼と一つになったような、そんな錯覚。
もっと、もっとこの香りを感じてみたい。
もっと強く、もっと直接的に、もっと深く、感じてみたい。
キャップに顔を埋めてしまえば――――そう思い、私は両手でキャップに触れて。
「…………ダメだよね、そんなこと」
すぐに、両手を下ろした。
それはその、あまりにも、背徳的な行為だと思う。
思ったとしても実行に移すようなウマ娘なんて、多分いないだろう。
いるとすれば、よっぽど相手に重い感情を持っているか、情念が強いタイプなんだと思う。
……私も、正直かなり名残惜しいけれど。
「うん、切り替えないと……この状態だと、二つのローレルを被ってることになるのかな」
鏡の中の私に煌めく髪飾りの月桂冠と、キャップの月桂樹の葉。
二つの、ローレル。
たまに見かける、青い髪の元気いっぱいなウマ娘を思い出す。
……なんとなく、バクちゃんに似ているよね、あの子。
彼女の言動を思い出して、頭の中でシミュレーションを回していく。
――――どこか浮ついた思考のままだった私は、気づいていなかった。
トレーナー室のドアが、ノックされたという事実に。
そして言葉を発したその瞬間、私の鼓膜をガチャリという金属音が残酷に揺らす。
「あっ、ローレル。この書類、君の署名が必要だったみたいで」
「ツインローレルだぞー! ブライアンちゃんー! ここで会ったが百ねん……め……」 - 12123/04/17(月) 22:38:32
空気が凍った。
私の耳は勢い良く立ち上がり、被っていたキャップを吹き飛ばしてしまう。
開かれた扉からは、信じられないようなものを見る目でこちらを見るトレーナーさん。
無限にも感じられる一瞬、私達はじっと見つめ合う。
ぱさりとキャップが床に落ちる音。
それを合図にトレーナーさんはそっと扉を閉じて、もう一度開いた。
「あっ、ローレル。この書類、君の署名が必要だったみたいで」
「無理矢理見なかったことにしないでください……!」 - 13123/04/17(月) 22:39:04
お わ り
ツインローレルが書きたかった - 14123/04/17(月) 22:39:56
- 15123/04/17(月) 22:40:15
「そういえばいい香りがする人は遺伝子的に相性がバクシンするそうですよ! ローレルさんが言ってました!」
バクちゃん!? という声が八重の潮風に乗って聞こえてきました。
その言葉に、私は何故か強い興味を持ってしまいます。
風は、様々な香りを運んできてくれるもの。
良い香りを感じる相手を、悪風と思ったことは確かにありませんでした。
では、トレーナーさんはどうだったでしょうか。
そう思うと、彼の香りを、私はいまいち思い出すことが出来ません。
彼が与えてくれた様々な凱風は、昨日のことのように一つ一つ思い出せます。
けれど、風ばかりに意識を取られて、彼の香りという観点は凪いでいたのです。
「トレーナーさんの香りは一体どのような……おや、これは」
バクシンオーさんと別れ、廊下を歩いていると、前から清風が吹き抜けました。
これは、私も良く知る風。出来ることならばずっと浴びていたい、トレーナーさんの風。
良き時つ風です、早速、試してみることにしましょう。
私を見つけたトレーナーさんは、涼風のように爽やかな笑顔で声をかけます。
「こんにちは、ゼファー」
「こんにちは、トレーナーさん。ちょっと失礼しますね、すんすん……」
「ええ!?」
そのまま私はぶつかるように、トレーナーさんの身体に近づき、鼻を鳴らします。
――――微かな違和感。
確かに私好みの良風な香りがします、けれどこれは、どこか見知ったもの。
少なくとも、彼の匂いではありませんでした。
私は首を傾げつつ、隙間風のように小さな声を漏らしてしまいます。 - 16123/04/17(月) 22:40:37
「……この香風は? どこかで浴びたことがあるような」
「あっ、わかる? この間ゼファーから貰ったコロンを使ってみたんだけど」
「…………!」
照れたような笑うトレーナーさんの言葉に、私の心は嵐となりました。
先日、彼が香水のカタログを読んでいたのを見て、私が送った便風。
母の会社の商品で、オーガニック素材に拘った、私も愛用している一品。
受け取ったトレーナーさんはとても喜んでくださり、私の心にも春風が吹きました。
――――まさか、それがここに来て仇の風になろうとは。
「……もしかして、使い方まずかった?」
「いえ、そんなことは凪です……程良い薫風となっていると思います……」
「そっ、そっか、それは良かったんだけど……なんで少し落ち込んでいるの……?」
風待ちしてたのに、望んた風が吹くことはありませんでした。
そのことは自分でも、意外に思うほど黒南風となって私の心に吹き荒れます。
それは授業中も、そしてトレーニングの時間になっても、残り続けていました。
「今日のトレーニングは軽めに流すんだけど……ゼファー、大丈夫?」
「はい……今日も存分に旋風となってみせましょう……」
「だから軽めだって……」
困惑した表情を浮かべるトレーナーさん。
……いけませんね、こんな難風の状態では、トレーニングに悪影響が出てしまいます。
天つ風に目を向けます、今日は日差しが強く、春とは思えない熱風が吹いていました。
トレーナーさんも帽子をかぶって日差し対策をしていました。
あの帽子を、後ほど小風のように密かに身に付ければ、彼の香風を感じられるでしょうか。 - 17123/04/17(月) 22:41:16
一瞬浮かんだ魔風を、私は首を振って切り捨てます。
隠れて人の物を身に着けるなんて淫風染みた行為は、恥ずかしすぎて私にはできません。
けれども、いつまでもこの状態というのも、またあなじ。
どうにかして、まことの風とならなければいけません。
「……トレーナーさん」
「なんだい、ゼファー」
「あの、あの時のように、共に風になってもらえませんか?」
そうすれば東風となれるかもしれません、小さく付け足しました。
申し訳ないという陰風を感じながらも、私はトレーナーさんに手を差し出します。
彼は一瞬驚いた表情を見せた後、花信風のような暖かい笑顔を浮かべて、爽籟と頷き。
ぎゅっと、私の手を握ってくれました。
そして、数分後。
「はー、はー……どっ、どうだった」
「はいっ! 素晴らしい祥風でした! 本当にありがとうございました!」
「あはは、元気が出たみたいで良かったよ」
雨風のような汗を流しつつ、トレーナーさんは笑顔で答えてくれました。
グラウンドで駆け抜けたので、他の方々の台風の目となってしまいましたが、それ以上の金風。
そして――――私の風招きが成功した瞬間でもありました。
息を整えている彼に、私はそっと近づきます。
「ではトレーナーさん、失礼しますね」
「えっ…………うええっ!?」
そして私は、彼の胸元に、抱き着くように顔を押し付けました。 - 18123/04/17(月) 22:41:44
炎風のような体温、煽風のように疾く疾くと鳴り響く鼓動。
むせかえるような汗の匂いから、確かに感じる爽やかな緑風。
これがトレーナーさんの香風――――いえ、光風と呼ぶべきでしょうか。
一つ二つと吸い込むごとに、私の身体は活力に満ち、心は豊かな恵風に包まれていきます。
それはまるで、広大の草原に寝転がり、青空に吹き抜ける青嵐に身を任せてるような心地。
ああ、彼の凱風が、こんなにも凱風だったなんて、私は知りませんでした。
なんて、勿体ないことを。
「ぜっ、ゼファー! ストップ! 皆見てるから一旦離れて!」
「……あら、周りが饗の風の賑わいとなっていますね」
「…………ああ、そだね」
顔を離すと、周囲は少しだけ騒がしくなっていました。
そして、目の前には先ほどよりも疲れた表情のトレーナーさん。
無理な走りをさせてしまいましたから、きっと激しく消耗してしまったのでしょう。
私は頭を下げました。
「すいません、無理な帆風を送っていただき、貴方に負担をかけてしまいました」
「……えっ、ああ、うん、そっちはまあ良いんだけど」
なんとも言えない複雑な表情を浮かべるトレーナーさん。
私はこれほどまでの穀風を頂いたのに、彼には何も返せないままです。
――――刹那、私の脳裏に一陣の風が吹き抜けます。
送られた風を、返してあげれば良い。
私にとってあれほどのしなととなったのです、きっと彼にとってもしなととなるはずです。
「……トレーナーさん、少しばかり体勢を、下風に合わせていただいても?」
「えっと、こんな感じかな」
私の視線に、トレーナーさんの顔が入り込みます。 - 19123/04/17(月) 22:42:07
そのまま、私は彼の頭を掴むように両手を伸ばしました。
後は『先ほどの私』と同じようにしてあければ良いだけです。
私は、そのまま彼の頭を――――。 - 20123/04/17(月) 22:43:25
お わ り
最近書く度にゼファーのIQが下がってる気がするのが悩み
とりあえず本日分は終了です、また書けたらその都度投下します - 21二次元好きの匿名さん23/04/17(月) 23:50:01
おつです。賢さGゼファー概念好き
- 22123/04/18(火) 00:59:27
- 23123/04/18(火) 07:34:50
- 24123/04/18(火) 07:35:14
「そういえばゼファっちがな? 良い匂いがする人は遺伝子的に相性よきよりのよきって! だからお嬢!」
「お断りします」
ウチは飛び込むようにトレーナー室に入り、トレーナーにぴえんと泣きついた。
「トレぴトレぴ~! お嬢が塩い~! 衝天ペガサスMIX盛り塩なんだけど~!」
「むしろなんでいけると思っちゃったの……?」
「うう……ウチの運命は終わったんだ……」
「ヘリオスの運命は定期的に終わるなあ」
トレーナーは呆れた表情を浮かべながらも、優しく頭を撫でてくれる。
さげポヨしまくってた気持ちが、ちょっとずつアゲアゲなっていく。
まるでターンテーブルを回すDJみたい。トレーナー、フロア沸かせるんじゃね?
うん、トレーナーのメンケアのおかげで、でいい波のってあげみざわ!
「ウェーイッ! ウチカムバー! トレぴかたじけパーリナイ☆」
「はは、それは良かった」
「ってかトレぴやばくね? うちさっきまでガチしょんぼり沈殿丸だったのに」
「俺が何もしなくてもヘリオスだったらまだすぐ輝けたよ」
「そかな~?」
「それなーじゃないんだ……」
いまいちわかりみが浅いけれど、とりま納得することにする。
それにしても、今日のお嬢のソルティさはエグちだった。
まさか言い切る前にやーよされるとは割ガチつらたんだったわ……。
ウチは匂いとか、そんなに気にならんケドなー。
ふと気になって、トレーナーに質問をブッカマしてみる。 - 25123/04/18(火) 07:35:29
「トレぴはさー、匂い嗅がれるのって嫌だったりする系?」
「……まあ基本的には。好きな相手だったら、前もって言ってくれるならギリOKくらい」
「じゃさじゃさ、ウチはウチはー!?」
「ヘリオスならまあいいかな」
「マ!? アハハ! トレぴはウチが好きピー!? すこすこー!?」
「まあ担当ウマ娘だからね、俺は君の一番のファンってところかな」
トレーナーは笑って、そう言う。
その答えはウチにとってテンアゲなもののはずなのに。
何故か心のどこかにおこなウチがいて。
――――少し、困らせてやろうと、思った。
「うぇいよー! じゃあトレぴー! 匂い嗅がせてー!」
「いきなりだなあ、良いよ」
「……そマ?」
あまりにも早すぎるおけりに、ウチが逆にラグってしまいほどだった。
目の前にはカムカムヒアヒアと言わんばかりに腕を広げるトレーナー。
うえ!? このパティーンは予想できんってか、フッ軽すぎん!?
流石に正面からhshsするのは恥ずかしすぎて、無理よりの無理すぎ!
なのでウチは、トレーナーの背後に回った。
トレーナーのうなじに、ウチの目は何故か、吸い寄せられる。
「じゃあガチ行くかんね!? ちな後からスメハラ的なのなしよりのなしだかんね!」
「そんなこと言わないよ……」
爆音のフェスのように、心臓はボォンボォンと鳴り響く。
苦笑混じりに答えるトレーナーの首筋に、ウチは顔を近づけた。 - 26123/04/18(火) 07:35:46
心が、すんと落ち着いた。
嗅いでいると落ち着けて、安心して落ち着けて、とにもかくにも落ち着けて。
パマちん辺りが聞いたら語彙力! って突っ込まれそうだけど。
バイブスは、全然上がらんくて。
でもそれを、きゅんですと感じてしまうウチがいて。
コレ――――マジでキンジタじゃん。
慌てて、トレーナーの首筋から顔を離して距離を取って、小さく呟いた。
「…………やばたにえん」
「……えっ、そんなに匂いヤバかった?」
「ううん、匂い自体は最&高だったよ、ハッピー野郎っていうか、ケドさー」
「おっ、おう」
「嗅いでると安心して、落ち着いて……ウチ、生涯フェスんなきゃっしょ?」
トレーナーの匂いは、ウチが心から穏やかになれる匂い。
でも、その安らかさに包まれていると、ウチがウチでなくなってしまうから。
だから勿体ないけど、今はお預け的な?
ウチはトレーナーの首筋を軽くなでながら、耳元で小さく呟いた。
「トレぴ、ウチがまたメンブレしたり、キャパいってなったら、嗅いでも良い?」
「……勿論、りょ、だよ」
「……ふふっ、あざまる水産~☆」
……うん、やっぱりトレぽよしか勝たん! - 27123/04/18(火) 07:36:09
お わ り
地の文までヘリオスにするのはやめようと思いました - 28二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 08:43:38
これはよきスレ・・・
前のキャラの行為が恥ずかしいものと思われてるのが個人的に面白い - 29123/04/18(火) 10:05:14
- 30123/04/18(火) 16:07:12
- 31123/04/18(火) 16:07:28
「そういえば、香りの良い人は遺伝子的に相性が良いってヘリオスさんが言ってましたねー」
「そっか、俺はネイチャの香り、良いと思うけど」
「……っ! もっ、もうトレーナーさんってば、アタシ以外に言ったらセクハラだからねっ!」
「……いや、本当にそうだな、今後は気をつける」
「まっ、まあ? アタシはそういうの気にしませんし? ……ドンドン言ってくれて良いんデスケド」
アタシは、トレーナーさんから目を逸らしながら、そう言った。
全くこの人ときたら年頃の女の子にあっさりそういうこと言うんだから……。
ちらりと彼の方を見やると、デスクに向かい、苦笑いを浮かべながらキーボードを叩いていた。
放課後のトレーナー室、トレーニングを終えたアタシは、事務作業をするトレーナーさんを眺めている。
お茶を飲みながら、時折、話しかけつつ、のんびりと無為な時間が過ごしていた。
これは、最近出来上がったアタシのルーティン。
『トレーニング終わった後、少しだけここで休んでたいんだけど……ダメ、かな』
表向きは、少しだけ気持ちを落ち着けてから帰りたいから。
本当は、少しでも長い時間、トレーナーさんと過ごしたかったから。
『俺はすぐサボっちゃうから、監視してくれる人がいると助かるよ』
少し驚いた表情をした後、トレーナーさんは微笑んでそう言ってくれた。
言わせっちゃったなと思う反面、言ってくれたことが嬉しくて。
そして今日にいたるまで、このルーティンは続いている。
ふと、先日トレセン学園で起きた大事件の話を思い出して、アタシは話題を戻した。
「先日グラウンドでのゼファーの件覚えてます?」
「忘れろって方が無理でしょアレ……あの子のトレーナー大目玉食らってたし」
「いやはや若い子は大胆ですなあ、ネイチャさんには、その……ナンデモナイデス」 - 32123/04/18(火) 16:07:48
先日、友人のヤマニンゼファーが起こした大事件。
たくさんの生徒達の前で、担当トレーナーと共に手を繋いで走りだして、そのまま頭から抱き着いた。
まあ、それだけならば、何人かしでかしそうなウマ娘が知り合いにもいる。
しかしながら、その後、担当トレーナーの頭を自らの豊満な胸に……こっ、ここからは検閲削除で。
尻尾ハグの件やら、風のようにクールに見せかけて、行動は嵐のようなウマ娘である。
なお後日、本人に話を聞いてみたところ香風を浴びてみたかった、などと申していた。
アタシはその光景をリアルタイムで見ていて――――ちょっとだけ、いいなと思ってしまった。
「あれ、さっきの香りの良い人云々が原因だったみたいですよー」
「そらまあトレーナーも災難……うん、災難だったな」
「……ほほう?」
「いや、変なこと考えてないから。疑いの目を向けないで」
冗談デスヨー、と薄く笑いながらアタシは言う。
まあトレーナーさんの本心はともかく、あの暴風ボディは同性でも意識してしまう。
しかし、香り、香りかあ。
ゼファーから話を聞いた時、あの子は妙に満足気な表情を浮かべていた。
ヘリオスさんから話を聞いた時、珍しくしおらしいというか、神妙な雰囲気を出していた。
多分、そういうことなんだろう。
きっと、トレーナーさんの香りを嗅ぐという行為は、ウマ娘としては一般的なんだ。
アタシのようなキラキラしてない、普通の一般ウマ娘でも、しても良い行為なんだ。
気づけば立ち上がり、そのままふらふらと、作業中のトレーナーさんの背後に立っていた。
「……ネイチャ?」
後ろを振り返り、不思議そうな目でアタシを見るトレーナーさん。
バクバクと鳴り響く心臓の鼓動を聞きながら、アタシは静かに、はっきりと言葉を紡ぐ。 - 33123/04/18(火) 16:08:07
「……ごめん、前見てて」
その声の調子から何かを察したようで、彼は黙って頷き、目を向く。
見えるのはトレーナーのつむじと、うなじと、耳と、背中と。
……うなじがいいな。
一瞬漏れる本能、アタシはそのまま導かれるように彼のうなじに顔を寄せて、停止した。
いやいやいやいや、うなじはいかんでしょ、なんかマニアックっぽいし、ガチみたいじゃん。
もっと一般的というかノーマルというか、そういうところの方が良い、とネイチャさんは思います。
そして、方向転換。
アタシはトレーナーさんの背中にオデコをとん、とくっつけて、くんくんと鼻を鳴らした。
――――なんの匂いもしなかった。 - 34123/04/18(火) 16:08:40
「なんてことがあったんだけど、もしかしてなんか病気だったりするのかな……?」
翌日のお昼休み。
アタシはイクノとタンホイザと共に昼食をとりながら、ガチ目の相談タイムである。
ウマ娘の嗅覚は普通の人よりも優れている、にもかかわらずアタシは彼の匂いを嗅ぎ取れなかった。
明らかに異常なことだと思う。不安が胸の内で抑えられなくなって、つい二人に話してしまったのた。
「……わわ、ネイチャ、大胆だねえ」
「……私達はいわゆる惚気を聞かされているのですか?」
「ちっ、違うから! アタシはトレーナーさんの体調をね!?」
まあ、いらんことまで口走ってしまったのは認める。
アタシの語気から本気を感じ取ってくれたのか、二人は改めて向き合ってくれた、のだが。
「むっ、む~ん……その原因は、その、言っちゃって良いんですかね?」
「黙っていた方がネイチャさんの為だとは思いますが……」
「だよねえ、うにゃーってなっちゃうネイチャも可愛いけど」
「そうですね、うにゃーってなるネイチャさんも久しぶりに見たいところですが」
タンホイザは顔を赤らめながら、どこか目を逸らしつつ。
イクノはいつも通りの表情を維持しつつ、楽しんでいる雰囲気を抑えていない。
多分、この二人は原因に感づいている。
そして二人は深刻な問題を茶化すようなウマ娘ではない以上、多分、あまり気にしなくても良いのだろう。
――――いや、気になるでしょ! こんな誤魔化し方をされたらさっ!
踏み込むべきか、退くべきか。
悩みのうめき声をあげていると、遠くから良く知る声が飛び込んできた。
「おおーい! ネイチャー! イクノー! マチターン!」 - 35123/04/18(火) 16:08:58
ばたばたとせわしない足音と共に、青いツインテールを揺らしてターボがやってきた。
そうだ、ターボならこの二人くらいに鋭い視点を持っているし、直球で答えてくれる。
やめた方が良いよー、と心配そうな表情のタンホイザ。
まあ止めませんけど、という表情で眼鏡をクイっと動かすイクノ。
「ねえターボ、アタシのトレーナーさんから匂いが全然しないんだけど、何か心当たりある?」
ターボは何を言ってるんだろう、と言わんばかりに首を傾げて目を丸くする。
――――結論からいえば、アタシのこの問いかけを大いに後悔することなった。
「ネイチャのトレーナーなら遠くからでもわかるぞ――――ネイチャの匂いがすごいするもん」 - 36123/04/18(火) 16:10:09
お わ り
うにゃる(未遂)ネイチャはいいですね - 37二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 20:19:09
- 38123/04/18(火) 20:56:59
育成シナリオ終了後ネイチャは無意識にベタベタくっついてそうな気がします
- 39123/04/18(火) 20:57:46
- 40123/04/18(火) 20:58:08
「そういえばご存じですか? ネイチャさんから聞いたのですが、香りの良い人は相性が良いというジンクスがあるそうです! 私とことを良く見てくれているトレーナーさんなら相性は抜群だ、調べてみるまでもない――――なんて浅いことは考えません! ですので!」
「よくばりセットやめて」
ソファーに腰かけるトレーナーさんは呆れた表情を浮かべて、私を見つめます。
先程、ネイチャさんとお話したときに聞いたジンクス。
ネイチャさんは言った瞬間、恥ずかしそうに顔を染めていましたが、きっと相性が良い人がいるのでしょう。
もしも、トレーナーさんから良い香りを感じれば、それは相性ばっちりということ。
もしも、トレーナーさんから良い香りを感じなければ、これからの結果でジンクスを破れば良い。
まさに一石二鳥、これは試さずにはいられません。
……と思ったのですが、トレーナーさんはどこか乗り気ではないご様子。
「……ダメ、ですか?」
「今日結構汗かいちゃったし、君に不愉快な想いをさせるのはちょっとね……」
「大丈夫です! トレーナーさんの汗を不愉快だなんて思いません!」
「それならそもそも嗅ぐ意味ないでしょう」
「……むう、ジンクスというのは実行するのが重要なんですっ!」
「実践主義……」
ここまで言っても、トレーナーさんは首を前に振ってはくれませんでした。
トレーナーさんはいつもは私のやりたいこと、挑戦したいことに付き合ってくださいます。
けれど今回は、私に不利益を及ぼす可能性を考えているのか、消極的です。
――――ならば、逆転の発想です。
両手をポンと叩いて、私は提案しました。
「でしたら、ダイヤの匂いをトレーナーさんが嗅いでくださいっ!」
「えっ」
「これでも同じ結果が得られます! さあ、どうぞどうぞ、存分に!」
「……いやいや、存分にって」 - 41123/04/18(火) 20:58:29
私は両手を広げてトレーナーさんを待ち受けますが、まるで動く気配がありません。
一秒、二秒と経過しても、二人の距離は停止したままでした。
少しだけ恥ずかしそうに顔を背けるトレーナーさんに、私は首を傾げて声をかけます。
「……来ないんですか?」
「成人男性が女子学生の匂いを嗅ぐってのは一般的に大問題なんだ、わかってくれダイヤ」
「そっ、そんな……私は嗅がれても気にしませんよ?」
「うん、俺と世間が気にするんだ」
「では二択です、私が匂いを嗅ぐか、トレーナーさんが匂いを嗅ぐか、二者択一で!」
「ひどいドアインザフェイスだなあ」
トレーナーさんは一度だけだからね、と軽く手を開いて私に向き合います。
その言葉に私の耳はピンと立ち上がり、尻尾は勝手にぶんぶんと揺れ動いてしまいました。
……なんだか子どもみたいで、ちょっとだけ恥ずかしいですね。
ですが、許可が頂けたならば、善は急げです。
さっそく行動に移そうと思って――――私は固まってしまいました。
トレーナーさんはそんな私を不思議そうに見つめます。
「……ダイヤ?」
「……私はどこの匂いを嗅げば良いのでしょうか?」
「俺に聞かれてもな」
正面から抱き着いて匂いを嗅ぎましょうか。
いえ、それは流石に恥ずかしいです。そういうのはもっと、段階を追ってから。
ならば後ろから背中の匂いを嗅ぎましょうか。
それはなんか日和ったみたいで、私の流儀に反します。
それに、その、少し意識して遠慮した感じが、逆に生々しいような気がして……。
ふと、小さな頃の記憶を思い出しました。
煙草とコーヒーの匂いに混じって、確かに感じたお父さまの匂い。
あの時の状況は、確か。 - 42123/04/18(火) 20:58:46
「……お腹の匂いが良いです」
「おっ、お腹? まあいいけど、どうやって」
「膝枕! 膝枕の体勢ならば無理なく嗅げます! いいですよね? ね?」
「ひどいフットインザドアだなあ」
ここまで来たら皿までだな、とトレーナーさんは膝をぽんぽんと叩きました。
私は軽い足取りでソファーの反対側に座り、そのまま身体を傾けます。
ぽすんと、彼の太腿に辿り着くと、彼の身体に接した頬がじんわりと熱を帯びていきました。
温かい、そして程よい柔らかさ、高級な枕よりもゆっくりと、安らげそうな場所。
匂いを嗅ぐなら寝返りをしなくちゃいけないのに、全然、動く気になれません。
「……ダイヤ? 大丈夫?」
「ふあ……」
心配そうな声色で、私の頭を軽く触れるトレーナーさん。
その手が妙に心地良くて、私の意識はふわふわと浮ついていきます。
このまま、もう少しだけ。
「…………とれーなーさん、もうすこしだけ、ダイヤにそうしててください」
「えっ? まあ構わないけど」
トレーナーさんのごつごつとした手が、優しく、何度も、ダイヤを撫でつけて。
ダイヤの意識は、少しずつ、ちょっとずつ、遠のいていって――――。 - 43123/04/18(火) 20:59:05
「…………じんくす!」
「起きて第一声がそれってマジ?」
突然、意識が覚醒して、私は飛び起きました。
呆れたように声をかけるトレーナーさんはすでに離れていて、私の身体にはブランケットがかかっています。
どうやら、あのまま眠ってしまったみたいです。
って、そう、ジンクスです。私は本来の目的をすっかり忘れてしまっていました。
「結局匂いを嗅げてません! トレーナーさんもう一度お願いします!」
「ダーメ、一度だけって約束だったでしょ?」
「そっ、そんなあ……」
私は、力なく肩を落としました。
トレーナーさんは私の我儘に付き合ってはくれますが、約束はちゃんと守らせます。
少なくともしばらくの間は、チャンスを頂くことはできないでしょう。
しばらく、私は考え込んでから、彼に向き合って、声をかけます。
「トレーナーさん、やっぱりもう一度だけダメですか?」
「……ダメだよ、いくらダイヤの頼みでも、約束は守らないと」
「…………でしたら、その、またいつかで良いのですが」
ドアインザフェイス。
私はまず断られるであろうお願いをしてから、本命のお願いをぶつけるのでした。
「膝枕を、またして欲しいなーって……えへへ」
トレーナーさんは少し驚いたように目を見開いてから、仕方ないなと言って微笑みました。 - 44123/04/18(火) 20:59:34
お わ り
ダイヤちゃんの一人称をダイヤにするタイミングは永遠の議題 - 45123/04/18(火) 23:05:59
- 46123/04/18(火) 23:06:22
『そういえば、良い香りのする人は遺伝子的に相性が良いと、ダイヤさんに聞きましたわ』
久しぶりのメジロ家でもお茶会。
マックイーンさまが突然そんな話を切り出しました。
マックイーンさまは、自分とトレーナーは一心同体なので当然相性が良かった、と胸を張って。
ライアンお姉さまは、匂いを確認するなんて、と顔を真っ赤にして慌てふためいて。
ドーベルは、アタシはそんなこと全然気にしないしホント気にしてないから、と顔を背けて。
三者三様の反応を見せてくださいましたのを、良く覚えています。
わたくしは、ただ深く考えず、トレーナーさまは良い匂いがすると思う、と答えました。
まさか、このことがあんな結果を生むだなんて、わたくしは思いもしませんでした。
「ほわぁ、素晴らしいですわ~可愛らしいですわ~お人形さまのようですわ~」
「そっ、そうかな? 私にはこういうのは……ちょっ、ブライト、写真はやめて!?」
トレーナーさまは顔を赤らめて、慌ててカメラのレンズを塞ぎに来ます。
わたくしは、以前からトレーナーと一緒にネグリジェパーティをしたいと思っていました。
彼女は背丈や体形がわたくしとほぼ一緒、十分に着回すことができます。
普段はパンツスタイルやジャージ姿で、スカートを履くことすら少ないトレーナーさま。
ですがそのお顔は同年代かと思うほど可愛らしく、絶対にフリフリしたのが似合うと考えていました。
実際には――――わたくしの予想をはるかに超えていました。
恥ずかしそうに手が身体を隠そうとするトレーナーさまの姿に、わたくしは首を傾げます。
「似合っておりますのに……それに、選ぶ時は割と乗り気だったじゃありませんか~?」
「うぐ……そりゃ、私も小さい頃はこういうのに憧れあったし、ねえ?」
トレーナーさまは頬をかきながら、昔話を話してくれました。
小さな頃は少女漫画を良く読んでいて、わたくしが好むような服に憧れがあったとのこと。
家の事情もあって手に入ることはなかったけれど、今でも微かな想いを残しているみたい。
……なんとなくライアンお姉さまと話が合いそう、と思いました。 - 47123/04/18(火) 23:06:46
「それにしても残念ですわ~、夜通しお話したいこと、たくさんありましたのに~……」
「あはは、ごめんねブライト、その代わりギリギリまで付き合うからさ」
「そういえば、お時間は大丈夫でしょうか~?」
「まだまだ時間は……ええっ! もうこんな時間なの!?」
「ほわぁ、いつの間にか日が暮れてますわ~」
確か、日が落ちるまではいるとおっしゃってましたので、そろそろお開き。
わたくしとしては泊まっていただきたいのですが、トレーナーさまは明日の朝予定があるそう。
名残惜しいところですが、仕方ありません。
「ではトレーナーさま~、あちらでお着替えになってくださいませ~」
「うん、そうさせてもらうね」
「ネグリジェの方はわたくしにお渡しくださいな~」
「……いや、私が着たんだし、洗ってから」
「それは一般的なクリーニング屋では受け取ってすらもらえませんが~」
「…………スイマセンオネガイシマス」
トレーナーさまは顔を青くして、震えながら答えました。 - 48123/04/18(火) 23:07:10
お互いに着替えを終えて、ネグリジェを受け取って。
トレーナーさまが帰ろうとする前に、忘れていたことを思い出しました。
「おばあさまからトレーナーさまにお渡しするものがありましたわ~」
「私に?」
「はい~、以前わたくしとお話していた海外のレース映像がたまたま手に入ったとのことで~」
「ほんと? ……遠慮する方が失礼だよね、ありがたく見させてもらおうかな」
「今お持ちしますわ~少々お待ちくださいませ~」
わたくしはそう言って、立ち上がり、ついでにネグリジェを片付けるべく手に持ちました。
一緒に行こうとするトレーナーさまを制して、部屋を出て、足を進めます。
それにしても、トレーナーさまのネグリジェ姿は本当に素敵でした。
次はどんなのを着てもらいましょうか。
今度は前もって予定を合わせて、夜までいてもらいましょう。
昔、ライアンお姉さまにやってもらったように、膝枕をしてもらうのも良いかもしれません。
……こういう時は、同性のトレーナーで良かったと思います。
男性のトレーナーでしたら、そんな甘え方は、淑女としてできませんものね。
そんなことを、考えながら歩いていたせいでしょう。
――――角から足早に歩いて来たドーベルに、わたくしは気づくことができませんでした。
「きゃっ!」
「ほわぁ」
「ごめんブライト、大丈夫だった!? ……ブライト?」
ぶつかった際の衝撃は大したことはなく、お互い転倒はありませんでした。
ただ正面からぶつかったため、手に抱えていたネグリジェが、そのまま顔に飛び込んて。
わたくしは、トレーナーさまの温もりと香りがほんのり残るそれに、顔を突っ込んでしまいました。
意識が一瞬、遠のきました。 - 49123/04/18(火) 23:07:26
「…………」
「……えっ、ブライト、本当に大丈夫?」
「…………………………はい~大丈夫ですわ~」
「そっ、そっか、それなら良いけど」
「わたくしも不注意で申し訳ありませんわではドーベルまた後ほど失礼しますわ」
「うん、そうだね……えっブライトが早い!?」
わたくしは足早にその場から遠ざかり、周囲の目を確認したのち、近くの空き部屋に入ります。
内側から鍵をかけて、持っていたネグリジェを、その場で広げます。
先程、感じたトレーナーさまの温もりと、残り香。
それはとても香しく、愛おしく、わたくしの脳裏に強く刻み込まれてしまいました。
もっと強く、もっと直接、感じたい。
わたくしは、自分の服の袖を捲り上げました。
こんなことはしてはいけない、そんなことはわかっているのに、止めることが出来ません。
「腕の先……腕の先っぽだけですわ~……」
不作法ではありますが、わたくしネグリジェの襟ぐりから腕を入れて、袖を通します。
ふわりと、腕がトレーナーさまに包まれるような感覚。
――――これは、まずいですわ。
心臓が激しく暴れ出して、全身が熱を帯びて、呼吸が微かに荒れだして。
もっと、もっともっと、トレーナーさまの温もりを、香りを、全身で堪能したい。
そんな、わたくし自身信じられないような感情が、もう、抑えきれなくて。
「…………」
わたくしは、一旦ネグリジェを傍に置いて、今着ている服を脱ぎました。
そして、再度ネグリジェを手にとって、わたくはそのネグリジェを――――。 - 50123/04/18(火) 23:07:41
「お待たせしましたわ~トレーナーさま~」
「あっ、ありがとうブライト…………なんか熱っぽいけど大丈夫?」
「大丈夫ですわ~、とぉわ~、激しい動きもこの通りですわ~」
「……良くわからないけど、調子は良さそうだね」
トレーナーさまは映像が入ったメモリーを受け取ると、鞄に仕舞って立ち上がります。
「じゃあそろそろ私もお暇させてもらうね、今日は本当にありがとう。ブライト」
「はい~、今後ともよろしくお願いしますわ~」
「こちらこそ、あと、今度は泊まれるように調整してみるからさ」
「…………」
「ブライト?」
「…………わたくしも楽しみにお待ちしてますわ~、その日に向けて~」
トレーナーさまの言葉から湧き出た情念を胸に仕舞い込みます。
誰にも悟られないように、わたくしは可能な限り満面の笑みを浮かべて、答えました。
「わたくし“達”に似合うネグリジェを~見繕っておきますわ~」
「……? そっか、任せたよブライト」
一瞬の違和感を覚えながら、トレーナーさまも笑顔で頷いてくれました。
――――ああ、次の機会が待ち遠しいですわ~。 - 51123/04/18(火) 23:09:13
お わ り
最後がこれで良いのか
書きたい分が終わったのでこれで終わりです
読んでくださった方、感想をくださった方はありがとうございました - 52二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:52:36
これだけの高難易度エミュが全部同じ脳ミソから出てくるってマジ?
ちょっと頭蓋骨割って中見せてもらっても? - 53123/04/19(水) 00:27:49
- 54二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 06:58:49
おつかれ
良かったよ - 55123/04/19(水) 07:26:33
- 56二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 12:14:43
てっきり最終的には他のウマ娘からフジに『そういえば、』のゲノム構文がかえってくるかと思ったが…
それはそれとして面白かったのでヨシ! - 57123/04/19(水) 16:16:08
- 58二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 16:47:36
- 59123/04/19(水) 19:49:46
👍
- 60二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 23:38:54
すきだ……
- 61123/04/20(木) 06:16:19
ありがとうございます