[ss]メジロマックイーン、みかん氷に出会う

  • 11/523/04/18(火) 21:49:14

    「……マックイーンちゃん?」
    「え゛」

    ─突然声を掛けられたことに驚き、ひどい声を上げてしまいました。
    まさかこんなところで、友人に会うとは思っていなかったのですから。

    「あっ」

    先に私に声をかけてきたアイネスフウジンさんは、まずいことをしてしまった、といった顔で固まりました。
    驚いているのは私の方なのですが……いえ、違いますわね。

    まさか私が野球場の外野席で、球団のレプリカユニフォームと帽子を身に着け、大声をあげて選手を応援しているとは思っていなかったでしょうから。

    「ひ、人違いでした! 失礼しましたーっ!」
    「あ、アイネスさん!」

    お互いに3秒程度フリーズしてしまい、声を掛けようとしたのですが、アイネスさんは走ってどこかに行ってしまいました。
    とはいえあの格好と抱えたアイスの箱からして、アルバイトの最中なのでしょう。
    引き留めるのも仕事の迷惑ですし、見送るしかできませんでした。

    私の密かな休日の楽しみである、プロ野球観戦。この趣味を知っているのは、私の周りでは本当に一部だけのはずでした。
    だからアイネスさんも私につい声をかけてしまったことに気づき、知らない振りをしてくれたのでしょう。
    アイネスさんに知られたからと言って、面白おかしく吹聴するような方ではないと思っていますが…
    今は、この試合に集中することにいたしましょう。

    ……球場グルメも、少し興味をそそられるのですが。

  • 22/523/04/18(火) 21:50:25

    「あれ、あそこに座ってるの、メジロマックイーンちゃんじゃない?」

    ─試合終了後のこと。
    球場外のベンチで休んでいると、私の名前が呼ばれていることに気づきました。女性の声だったと思います。

    「えー、マックイーンお嬢様がなんでこんなところにいるのよ? 野球観戦してたってこと?」
    「あはは、さすがにそりゃないかあ」

    そういって、彼女たちはどこかに歩いていきました。
    ちらと顔を見ましたが、面識のない女性の方でした。私を知っている学外の方でしょうか。
    身に着けていたユニフォームは、本日の対戦相手球団のレプリカユニフォーム。

    「……」

    私はそのまま、ベンチで呆然としていました。
    ……体に力が入りません。こんなにもやるせなく、虚しい気持ちになったのは初めてです。

    最終回、ツーアウトまではリードしていたのに……あんな、あんな結末は……

    「はあ……」

    どうしようもないため息が、自然と口から洩れました。
    呆然とスタジアムの方を眺めたままの私は、周りからはどう見えていたでしょうか。

    「……マックイーンちゃん」
    「え?」

    ─そんな茫然自失の私を心配してなのかはわかりませんが、声をかけてきたのはトレセンの制服に着替えたアイネスさんでした。

  • 33/523/04/18(火) 21:51:15

    「……」
    「……あー、その……さっきはごめんね、急に声掛けて」
    「あ、いえ。私の方こそ」

    ……仲が悪いということもなく、先日も一緒に牛丼を食べに行ったのですが。
    今日に限って、妙に気まずい雰囲気になってしまいます。
    いえ、悪いのは私なのですけれど。あんな顔をしていれば、声をかけづらかったでしょう。

    「えっと……つ、次は勝てるから!ね!」

    ああ、気を遣わせてしまいました。私がどちらのチームを応援していたか、結果としてどうなったかアイネスさんにもわかっていたようです。

    「……申し訳ありません。こんな姿を見せて、気を遣わせてしまいましたわね……」
    「そ、そんなことないの! あたしが声を掛けたいからってだけだから!」

    今日は、何を話しても裏目になってしまう気がしますわ……

    二人で隣同士座っていた時、先に何かを取り出したのはアイネスさんでした。

    「マックイーンちゃん、これ、良かったら食べる?」
    「……? これは?」
    「みかん氷って言うの。知ってる? 球場のスイーツなんだけど……あ、あたしの奢りだから、気にしないでいいの」

    私の方に差し出したのは、小さなカップでした。
    かき氷の上に、今にも零れ落ちそうなほどのみかんが乗っています。

    「では、お言葉に甘えて。いただきます」

  • 44/523/04/18(火) 21:51:58

    スプーンを入れて、ゆっくりと味わいます。
    ビジュアルはシンプルなものですが、思ったよりもシロップの味が濃く、かといって甘すぎない優しい味でした。

    「……!」
    「ふふっ、美味しかった?」
    「ええ、ありがとうございます。アイネスさん」

    顔に美味しいと書いてあったでしょうか。
    アイネスさんにそう感じられたのが、少しこそばゆいような感じもします。

    「あたしもそれ好きでさ。バイトが終わってから、よく食べてたの」
    「そうだったのですか?」
    「マックイーンちゃんにも食べてもらいたくて」

    先ほどまでの重苦しい空気は、いつの間にか晴れていました。
    甘いものにつられて顔が綻び、それで場の空気が和むというのは少し恥ずかしいような気もしますが……

    もしかすると、私が落ち込んでいることを察して用意してくれていたのでしょうか。
    それでわざわざ球場のスイーツを用意して、私を探してくれたのでしょうか。

    そう考えると、私もただこうしてアイネスさんに励まされるだけではいけません。
    少しだけ、気分も晴れました。

  • 55/523/04/18(火) 21:52:34

    「アイネスさん、この後の予定はありますか?」
    「これから? あたしは暇だけど」
    「でしたらこの後、中華街で夕食をご馳走させていただけませんか?」
    「え!?」

    何かで恩返しがしたいと考えて、思い付いたのは食事のお誘いでした。

    「いや、そんな……あの辺のお店、どこも高いし……」
    「励ましていただいたお礼ですわ」
    「そう、なの?」
    「ええ。私がそうしたいのです」

    もっと別の何かがあれば、それでもよかったのですけれど。
    アイネスさんには、落ち着いた場所でゆっくりとお礼を言いたかったのです。

    立ち上がってカップをゴミ箱に捨て、アイネスさんにも立ち上がるように促します。
    声を掛けられたときの気まずい空気は、もうありませんでした。

    「……ん、そういうことならご馳走になりたいな」
    「ふふ」
    「ありがとね、マックイーンちゃん」

    私からのお礼は……改めて受け取っていただきたいですわ。

    ……あとは食事の際に、つい試合の愚痴をこぼさないようにしたいですわね。



    -おしまい-

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 21:53:14
  • 7二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 21:56:37

    https://npb.jp/bis/2022/games/s2022063000252.html

    この試合かと思ったがこれはワンアウトの時点で追いついてるから違うか

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 21:59:48

    ずんだマックちゃんの方か
    今回も良いお手前でした 

  • 9二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 22:03:43

    ほっこりした 
    いいね 

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 22:33:10

    球場いきたくなってくるわ 

  • 11二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 22:36:58

オススメ

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