枕ローレルwww

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:52:20

     L'air ne fait pas la chanson. 人は見かけによらない。
     あまりフランスらしさがなくて受けが悪いから、フランス語のレッスンをする時もあまり用いないことわざ。でも、的を得ていると思う。

     誰かと付き合いが長く深くなればなるほど、今まで見えなかった相手の一面が見えるようになる。
     何が好きとか嫌いとか、起きる時間や寝る時間、行きつけのお店──隙間だらけのパズルにピースが集まっていくようにその人の本質が明らかになると、当然抱く印象も変わってくる。
     そして、そういう印象の変化は大抵の場合、ネガティブな方向へ動くもの。優しそうな人だと思ったのに付き合ってみたら横柄だったとか、几帳面に見えて部屋が汚かっただとか──誰もが上辺を取り繕う世の中だから、短い付き合いで相手がどういう人かを判断するのは難しい。

     かくいう私も、そういう経験がなかったといえば嘘になる。偶然の出会いがきっかけでパートナーになったトレーナーさん。第一印象は、真面目で優しいしっかり者、といったところだった。
     でも、長い時間を過ごしていくうちに、彼は私の想像とは少し違う人だということが分かった。──でもそれは、決して不快なものではなくて、むしろその逆。

     トレーナーとしては優秀なのに、私生活ではどこかだらしない。
     人生経験が豊富そうに見えて、実は初心。
     自分の芯をしっかり持っているのに、押しには弱い。

     まっすぐで裏表のない貴方は、その実自分でも気づかないような二面性を秘めている。大人らしい子供っぽさ、しっかり者の慌てん坊──どのように形容すればいいのか分からないけれど、その食い違いに、私の心は強く惹かれた。
     まだ私の知らない貴方を見つけたい。貴方自身ですら知らないような一面に出会いたい。寄り添って、揶揄って、愛して、弄んで──いつか貴方のすべてが私の心に刻まれた時、貴方の心にも私という光が焼き付いてくれればいい。
     なんて打ち明けたら嫌われてしまうかな。でも、そんなところも偽りのない私の一面。生涯ただひとりのパートナーである以上、いつかは受け入れて欲しいと思っている。そう、それが私だから────

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:52:56

     トレーナーさんは本当に分かりやすい人。特に、睡眠が足りていない日はクマが酷いからひと目で分かる。ブライアンちゃんの異変に真っ先に気づくような私が、こんなあからさまなサインを見逃すはずもない。
     トレーナー室で顔を合わせた今朝もそんな様子だったものだから問いただしてみると、彼はばつが悪そうに頷いた。

    「昨日は、眠れませんでした?」
    「……分かっちゃうか。最近色々忙しくてね、でもちょうど一段落ついたところだよ」

     そう語るトレーナーさんの顔からは、悩みを抱えて眠れなかったというような痛々しさは感じない。大方、仕事に熱中しすぎて思わず徹夜をしてしまったといったところだろう。疲労の中に確かな充実が浮かぶ瞳は私も嫌いじゃなかった。
     とはいえ、疲労は疲労。無理をしているのは明らかだから、誰かが止めてあげないといけない。

    「そうですか、一段落ついて……ねえ、トレーナーさん」
    「どうした?」

     ミーティング用のソファに深く腰掛けて、トレーナーさんを呼ぶ。
     きょとんとした目に見せつけるように膝をぽんぽん、と叩くと、その視線が天井の隅へと泳いだ。これはたまに見せてくれる、困った時の癖。

    「お疲れですよね、ひと休みしていきません?」
    「……ローレル。前にも言ったが一応トレーナー室は仕事場だし、こういうのはやめないか?」
    「あら、ここじゃなかったらOKってことですか?」
    「それは……言葉のアヤだよ。寮に帰ってちゃんと寝るから」

     こういうことをするのは別に初めてというわけでもないのに、まったく困った人。でもそういうところが可愛いと思う。
    揶揄われていることは分かっているはずなのに、煙に巻いたりなし崩しに受け入れたりせず、真摯に私の言葉を受け止めて、毅然とした対応をしようとして──結局、どうすればいいか分からず困ったような顔をする。そんな所がますます揶揄い甲斐があるのだけど。

    「外は気温も上がってきましたし、そんな寝不足の状態で寮まで歩いたら途中で倒れちゃいますよ。せめて、少し休んでからにしないと」
    「だったら、ひとりで仮眠するから……」
    「むぅ」

     しかし、今日の彼はなかなか手強かった。いつもならこの辺りで押し切れるところなのだけれど──確かこの間、理事長さんから新しく担当ウマ娘を持つようにという打診があったから、その影響もあるのかもしれない。

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:53:42

    「……ねえ、トレーナーさん。私、貴方にはたっくさん助けてもらいました。脚のことはもちろんですけど、いつだって私の思いを汲んで動いてくれましたし、つい頑張りすぎちゃった時にはこっそりケアもしてくれましたよね」
    「俺は君のトレーナーだから。君を支えるのが仕事だ」
    「ですよね、貴方ならそう言うでしょう。……でも、前に私が言ったこと、覚えてます?」
    「え……?」

     あの日、トレーナーさんと出会ったのは──満開の桜並木の下だった。
     私と同じ夢を見てくれる人だからこそ、「契約」だなんて堅苦しい言葉で括れる関係にはなりたくなくて、少しムキになりながら求めた誓い。

    「私たち、一緒に夢を叶えるパートナーじゃありませんか?片方がもう片方に尽くす関係ではないですし、ましてや、どちらかが欠けてしまったりしたら……私は耐えられないかも」
    「ローレル……」
    「私だって、貴方を支えたいと思ってるんですよ?きっとトレーナーさんが私を想ってくれているのと同じくらい。……もし本当にこういうことが嫌なのなら、これからは誘ったりしません。無理に付き合ってもらったら、それこそ気が休まりませんからね」

    「でも、ほんのちょっとでも私の献身を嬉しく思ってくださってるのなら、私のわがままを聞き入れてくれませんか?貴方が支えてくれたこの脚で、今度は貴方に身体を休めて欲しいんです。……どう、でしょうか?」
    「……分かった。そこまで言われちゃ、断れないよ。ただ、少しだけだからな?」
    「……はいっ!ありがとうございます!ではこちらへどうぞ!」

     方便じゃない、今言ったことはすべて私の本心。ただ、伝えるタイミングを少し工夫しただけ。
     かくして私の膝に収まったトレーナーさんの頭は──やけに軽く感じた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:54:33

    「肩に力が入っちゃってますよ。それじゃ休めないでしょう」
    「いや、しかしだな……」
    「私、もうガラスの脚じゃないんですよ?もっと体重かけても大丈夫ですから」

     そう言って耳に軽く息を吹きかけると、「ううっ」と呻いたトレーナーさんの身体が大きく震えて、それからゆっくりと確かな重みが膝に沈んでいく。──耳、弱いんだ。また新しく知った彼の一面。自分から持ち掛けた膝枕の代価としてはあまりに破格だ。
     そうしてしばらく窓を鳴らす風の音や、仄かに聞こえる外の喧騒に耳を傾けていると、膝の上のトレーナーさんが少し身動ぎした。スカート越しのこそばゆさに視線を落とせば、とろんとした微睡みと目が合って。

    「ごめんローレル、思った以上に疲れが溜まっていたみたいで……」
    「いいですよ、眠ってしまって。誰かが来たら起こしてあげます」

     嘘。誰が来たとしてもトレーナーさんの眠りを妨げさせたりはしない。たとえヴィクトリー倶楽部の皆やブライアンちゃんにだって──私たちの時間に入り込む権利なんてありはしないはずだから。

     ──rb:Il faut casser le noyau pour avoir l'amande. アーモンドを食べるためには殻を割らなければならない。
     「大人だから」「担当トレーナーだから」踏み込む度に引かれた一線を少しずつ少しずつ有耶無耶にしていって、気づけば貴方はこんなにも心を許してくれるようになった。仕事場であるトレーナー室で、かつてガラスの脚を持っていた担当ウマ娘の膝を枕に眠りこける──
     出会った頃の貴方がいずれ訪れる未来を知ったら、いったいどんな顔をするんだろう。

    「Au clair de la lune, mon ami Pierrot……」

     小さい頃に母の膝の上で聞いた──いつだったか、父にも同じようにしているところを見た──子守歌を口ずさみながら、静かに立てられ始めた寝息を妨げないように、逆に安眠を更に促すように、短く整えられた髪を撫でる。
     シャンプーで洗って、ドライヤーで乾かしてそれきりなのだろう。細かな手入れとは無縁な髪は、自然のままに生い茂っているフランスのレース場の芝となんだか似ている。たくましくて、無骨で、ありのままの姿で──懐かしささえ覚える手触りが愛おしくて仕方ない。

  • 5二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:55:07

     ふと、「ローレル」と寝言で貴方が呟いた。夢の中でも呼んでもらえるだなんて、まったく担当ウマ娘冥利に尽きる。嬉しそうに緩んだ顔。きっといい夢を見ているに違いない。
     過去のレースのことを思い出しているのか、それとも未来を見ているのかは分からないけれど──そう、分からない。貴方の心は分かっても、その中にいるサクラローレルはどんな姿なのか、私は知らない。

    「……起きたら、教えてくださいね」

     知りたい。それもきっと、共にいる時間を経て培った、大切な貴方の一部だから。
     頭を撫でていた手を止めて、貴方の身体を仰向けに転がした。目覚めた瞳が最初に映すのが、夢から出てきたばかりの私であることを祈って。

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:57:03

    オワリ。膝枕でネタ被りしたんで(そんなことある?)お蔵入りにしようか迷いましたが勿体ないんで投げました。
    スレタイをクソにしないと死ぬ病気なのでこんな有様ですが、本タイトルは「Deux ou trois choses que je sais d'il」とさせてください。

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:57:59

    なんぞそのスレタイ(挨拶)

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:58:27

    反射的にお気に入りにぶち込んでしまった
    ありがとう

  • 9二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:58:42

    スレタイ詐欺!!!!スレタイ詐欺じゃないか!!!!
    子守唄と膝枕のセット大好物なので最高だった……

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:58:53

    これは凄い
    凄いのが出てきたぞ

  • 11二次元好きの匿名さん23/04/18(火) 23:58:54

    予測可能回避不可能な良作

  • 12二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:00:37

    貴殿はまさか…いつものクソスレタイ甘々アヤベさんSS書き主!?

  • 13二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:03:41

    的を”射る”警察だ!
    素晴らしく良質なSSに本官のハートは射抜かれたのでヨシ!

  • 14二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:05:51

    今日はすっきり寝られそうだ

  • 15二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:06:03

    >>13

    確か得るの方が正解だと思ったから射るから直したのに…

  • 16二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:14:54

    ローレル引きたくなっちゃうやばいやばい…

  • 17二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:15:24

    このクソスレタイでしか得られない栄養素がある

  • 18二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:18:23

    ありがとうそれしか言葉がみつからない

  • 19二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 00:40:58

    >>12

    違うけどパク……影響を受けました

  • 20二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 08:25:19

    PU終了間際なので記念あげ

  • 21二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 08:30:56

    >>16

    引け

  • 22二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 09:18:24

    いいねえ……

  • 23二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 11:40:17

    私の瞳に映る貴方を見てと言ってたのが、貴方の瞳に映る私に変わるのすき

  • 24二次元好きの匿名さん23/04/19(水) 11:46:41

オススメ

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