- 1二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:31:32
都内、某所。
天を貫かんばかりのビル、溢れんばかりの雑音、濁流のような人波。
そんなありふれた喧騒の中、二人のウマ娘が共に歩いていた。
「今日は共に風となってくれてありがとうございました。私一人でこの乱気流の中に飛び込んでいたら、まるで何処に運ばれる枯れ葉のようになっていたでしょうね」
二つ結びした淡茶色の髪、白い流星、右耳には赤いリボン。
ヤマニンゼファーは隣にいるウマ娘に対して、心からの感謝の言葉を送っていた。
「ウチもゼファっちのママから色々教えてもらって逆に397的な? とりまウィンウィンってコトっしょ☆」
青いメッシュの入ったサイドポニーとフェイスペイントが一際目を引くウマ娘。
ダイタクヘリオスは、気にするなと言わんばかり大きく笑う。
この日、二人はゼファーの母親が務める化粧品メーカーの期間限定ショップに来ていた。
ゼファーが気軽に家族と会える機会だったものの、会場は彼女にとって不慣れの場所。
彼女の担当トレーナーも予定が合わず、諦めも考えた時、救いの手を差し伸べたのがヘリオスだった。
ゼファーとも交流があり会場周辺を自身の庭を豪語する彼女は今回の件にはぴったりの人物。
「ふふっ、相変わらず勁風。ですが、必ず何らかの便風を吹かせますからね」
「そっかそっか☆ じゃガチでATMすっからスペシャルなのオナシャスッ!」
「はい、是非風待ちしていてください」
「あー……てかさー、お腹ペコじゃね? ガスる? トリる? いっそ返し行っとく?」
「そういえばそろそろ空風の時間ですね……ですが見たところ、どこも饗の風の賑わいですね」
ゼファーは周囲を見回しながら、家風となってからの方が良いかもしれません、と付け加えた。
確かに彼女達の周囲の飲食店はどこも行列が出来ていて、すぐに入れそうにない。
無理に並ぶくらいなら学園に戻ってからの方が―――そう考えた時だった。
「なんかあの辺り沸いてね? 誰かパリピってるとか?」
「まあ、まるで台風の渦……ですが風音が少し軽いような」 - 2二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:31:58
彼女達の前方に、不自然な人の壁があった。
囲んでいるというよりは、遠巻きから何かを眺めているという様子。
黄色い悲鳴などは聞こえず、むしろ驚きの感情を込めた騒めきが、場を支配している。
異様な光景に二人が足を止めた刹那、ウマ娘の鋭敏な聴覚が、一つの声を拾い上げる。
『なんか、あの二冠ウマ娘が来ているらしいよ』
その声に、ゼファーの耳がぴくりと反応した。
彼女が二冠ウマ娘と聞けば、帝王の名前を持つ一人のウマ娘のことを思い浮かべる。
共に目指すべき目標、乗り越えるべき目標を持つ者同士。意識せずにはいられない存在。
ゼファーは一瞬の思案の後、ヘリオスに視線を向ける。
「すいませんヘリオスさん、あの台風の目に向かっても良いでしょうか?」
「おっ、トレンドに乗れ的な? ビックウェーブ逃すなってコト? りょ☆」
そう言うと彼女達は人混みの中に突入して、すり抜けるように進んでいく。
不思議とすぐに道を開けてくれる人が多く、その中心部までは時間がかからなかった。
そして、人の壁を抜けた瞬間、ゼファーは待ちきれないと言わんばかりに声を出した。
「あの! テイオーさ――――!」
ゼファーの言葉が詰まる。
彼女の目の前にいた人物は彼女の予想していたウマ娘――――ではなかった。
外は金、内は青という不思議な長髪、輝くような流星、遠くを見つめる青い瞳。
どこか、この世界のものではないような、そんな浮世離れした雰囲気を持つウマ娘。
「ネガティブ、ネオユニヴァースは『テイオーさ』とは“不一致”。“MYBE”……“錯誤”かな?」
ネオユニヴァースはくてんと首を傾げて、そう答えた。 - 3二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:32:16
一瞬の沈黙が流れる。
この時ゼファーは、思考が停止していた。
自身が勘違いをしていたこと、相手に失礼をしてしまったこと、相手が完全に初対面だったこと。
少し舞い上がっていた反動もあって、彼女の反応は完全に遅れていた。
ユニヴァースは反応待ち。
目の前で固まってしまったウマ娘を、少し興味深そうに観測していた。
この静寂を破ったのは――――太陽のように明るい声のウマ娘。
「うぇいよーユニぽん! ここでエンカとかマジ運命じゃね!?」
「……アファーマティブ、ここでの“遭遇”は“微粒子”レベル、『ミラクル』だね」
「……えっと、ヘリオスさんお知り合いなのでしょうか? 軽風な物言いですが」
「学園で、見たッ! これマジ!」
「ネオユニヴァースは“観測”をしているよ、“次元”は違うけれど“シンチレーション”を発生する“太陽風”」
「それは、まあ、光風に感じますが」
ゼファーは少し押され気味になりながら、そう答える。
どちらかといえば人を振り回すことの多い彼女には珍しい状況であった。
そして、そんなことはあまり気にせず、ヘリオスとユニヴァースは言葉を続ける。
「ユニぽんは今日は何する系? パリんの? フェスんの? 一緒にオケる?」
「今日は『好きなもの』を“摂取”する、が“PRSE”」
「お食事、ですか。ユニヴァースさんはどのような饗の風を好風を感じるのでしょうか」
「『納豆定食』」
「…………」
質問に予想外の答えが予想以上の速度で飛んできたため、またも沈黙するゼファー。
納豆の美味しさは、もちろん彼女も良く知っている。
しかし、わざわざこの都会の喧騒の中に来てまで食べるものなのか、という思いもあった。
その思考を見透かすように、ユニヴァースはじっとゼファーを見つめる。
そして、少しだけ怒ったように、ポンポンと軽く頭を叩いた。 - 4二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:32:34
「……えっと」
「ゼファーは『納豆』が持つ“ポテンシャル”を“MISM”、しているよ」
「ただ凪いでいただけなのですが……」
「あはは、ユニぽんマジエスパーじゃんじゃん☆」
「“牽引”する、“超新星爆発”をネオユニヴァースが“観測”させるよ」
そう言って、ネオユニヴァースはすたすたと移動を開始した。
残されたゼファーをヘリオスは二人顔を見合わせて、こくりと頷いた。
「これもきっと時つ風、ユニヴァースさんが風明かりを見せてくれるというなら帆風に乗りましょうか」
「りょ! おけまるにじゅうまるー! ヒアウイゴー! うぇーい!」
◇ ◇ ◇
人の多い大通りから外れて、徒歩ニ十分。
都会とは思えないほどに静かな街中に、そのお店はあった。
納豆専門店『出室』。
ユニヴァースに連れられて、そのお店に入店し、二人は大きく目を見開いた。
「ヤバ! 神! どちゃくそイケてんじゃん!! バイブス上がるんですけど!」
「……まさかこのような和風を浴びれる風洞があるとは思いませんでした」
「ネオユニヴァースの“DIGG”なんだ」
店内は古き良き和式の空間になっており、落ち着きを感じさせる。
そして奥へ進む視界に飛び込んでくるのは、棚に所狭しと並んでいる納豆の数々であった。
「こマ!? マジ選べんてー! 悩み過ぎてメンブレなんですけどー!」
「まさに豆台風ですね、種類が多すぎて、東風や南風やと迷ってしまいます」
「“ファーストコンタクト”で“CLCT”は“困難”。ネオユニヴァースは“MITO”を『オススメ』するよ」
「なるほど、名産品としての風声を良く聞きますからね」 - 5二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:32:54
ゼファーとヘリオスは、オススメの納豆を手に取る。
次に案内されたのは、これまた所狭しとトッピングが並んでいる棚であった。
ネギや辛子など定番なものから、チーズなど普段は考えないようなものまで。
再度目移りしてしまう二人に、ユニヴァースは声をかけた。
「“STDA”も勿論『美味しい』、けれどネオユニヴァースは“THIS”を『オススメ』する」
「これは……! いくらなんでもあからしまが過ぎるのでは……?」
「ええ! やばたにえん! これはネオぽん、なしよりのなしじゃね!?」
「“ダークマター”を“想起”するのは“UNDY”、けどネオユニヴァースを『信じて』欲しいな」
ユニヴァースの強い言葉。
先程までとはまた違う雰囲気に、ゼファーとヘリオスは頷き合った。
「わかりました、この仇の風に挑んでみましょう」
「よっしゃー! ブッカマいってみっかー!」
「……スフィーラ」
二人の言葉に、ユニヴァースは顔を綻ばして、ぽつりとつぶやいた。
「KPしよぜKP! あっ、その前にセルフィーいっとく!?」
「“EMGY”……! “映像記録”は『ダメ』だよ?」
「まあ、それではしっかりと味わって、風道を記憶に残さないとですね」
三人はテーブル席を囲み、席に着く。
テーブルの上には白いご飯と味噌汁、納豆と――――いか明太があった。
大地の恵みといえる納豆、海の恵みともいえるいか明太。
この出会うはずのなかった組み合わせは、ゼファーとヘリオスにとって未知の風であった。
『いただきます』 - 6二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:33:58
声を揃えて、食事の挨拶。
躊躇しながらも、納豆といか明太を豪快に混ぜ合わせると、それをご飯の上に乗せた。
そして意を決して――――口の中へと放り込んだ。
「やば! 美味! よきよりのよきよきすぎ!! こんなんしゅきぴになりしかないじゃん!!」
「アファーマティブ、この“配列”はまさしく“EVLT”……ゼファー?」
目を輝かせて舌鼓を打つヘリオスに対して、ゼファーは沈黙を続けていた。
ユニヴァースは不思議そうに顔を覗き込むが、彼女は俯いてぴくりとも動かない。
やがて、ことんと箸とお椀を置き、顔を上げた。
そして、言葉を紡ぐ。
「この納豆、風味を感じただけでわかります。これは有機栽培によって豊穣の大地で育まれ、花信風も緑風も金風もたま風も乗り越えて育まれた紛れもない恵風です。そこに職人さん達が一粒一粒に想いのこもった穀風を送ることによって完成されたこの味は逸品と呼ぶ相応しい甘露。この一陣の風ですら、いくら風待ちしたとしても望めないほどの祥風といえるでしょう、ああ、秋風に揺られる大豆の葉の音色が聞こえてくるみたいです、照らされるひよりと大地の香風があわさって、寝転がってしまいたいくらい」
瞬間、ユニヴァースとヘリオスの目の前に、広大な畑が広がった。
照り付ける太陽の日差し、安らぎを覚える涼風、鼻から吹き抜ける土の香り、葉風のせせらぎ。
それを、二人は確かに感じた。
「……!? “跳んだ”? ゼファーはネオユニヴァースの“同位体”だった?」
「出たー! ゼファっちの食レポ領域ッ! ゼファっちマジテンアゲじゃーん!!」
驚愕の表情を浮かべるユニヴァースと、テンションを上げるヘリオス。
そんな二人を柳に風と受け流しつつ、ゼファーはさらに言葉を続ける。
「そしていか明太、まるで採ってすぐに処理をしたかと思うほどにいかの旨味が凝縮されて嵐のように味覚を刺激してきます。そして明太もまた炎風になり過ぎず、さりとて至軽風にもならず、いかの旨味を後押しする追風となる繊細で絶妙な熱風。海風、沖つ風と長旅を終えて、荒波に揉まれて、ようやく私達の下へと来てくださった豊穣には感謝してもしたりないくらいです。これは潮風でしょうか? 波風が運ぶ海の音色がここまで届いているようにすら感じます、出来ればこのまま、美しい海へと飛び込んでしまいたいです」 - 7二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:34:35
瞬間、ユニヴァースとヘリオスの目の前には、青い海が広がっていた。
ふわりと感じる潮の香り、太陽を反射にてきらきら光り輝く海面、繰り返し流される波の音色。
それを、二人は確かに見た。
「……!? “ILLN”? ネガティブ、確かに『感じる』。これはもう“ダークマター”」
「あははー! 海だー! パリてー! ピりてー! BBQしてー!」
諦めの表情を浮かべるユニヴァースと、テンションを上げるヘリオス。
それらの意思を真艫に受けて、ゼファーのレポートはクライマックスを迎える。
「この大地から送られた穀風と、大海から送られた貝寄風は一つの大風となって私達の下への吹き荒れています。大地、海、そして風、このいか明太納豆にはこの星の全てが内包されているといっても過ぎた風とは言えないでしょう。いえ、むしろ今この時点で私達はまことの風を浴びたといっても良いでしょう、すなわち――――」
三人は、見た。
無限とも思えてしまうほどに広がる闇を、無数に瞬く小さな輝きを。
そして、遥か彼方に見える、一際大きく、どこか強く心を引かれる、美しい蒼い輝き。
彼女達は、その名を知ってる。
それを見た瞬間、彼女たちは声を揃えてその名前を口に出した。
宇宙にただ一つ、遥かな太陽の恵みを受けて、息づく世界。
「これは――――地球!」
「ディス――――地球☆」
「“THIS”……“地球”」
――――店員から静かにしてくれとまとめて怒られたのは言うまでもない。 - 8二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:35:16
「今日は、貴重な新風をありがとうございました」
「ユニぽんー! あざまる水産ー!」
「スフィーラ、ネオユニヴァースも『楽しい』をした。二人も“INTI”だよ」
ユニヴァースは最初に出会った時よりも、柔らかい笑顔でそう言う。
彼女はこの後寄るところがあるらしく、店を出た後、そのまま二人と別れた。
ヘリオスは満足気にお腹を摩りながら、ゼファーは軽やかな足取りで駅へと向かう。
「今日は思った以上の初東風に出会えて、とても良風な時間を過ごすことができましたね」
「マジ、たんんのしかったぁ~~~っ!! 今度もっと誘って納豆パーリーしようぜい☆」
「ええ、是非……それにしても」
ゼファーは一日を思い出す。
色々とユニヴァースには失礼なことをしてしまったが、彼女は許してくれた。
それどころか、新しい世界を自分達を導いてくれた。
不思議な人物と風の噂で聞いたことはあったが、噂は噂だった、そう彼女は判断する。
ただ、一つだけどうしても気になったことが彼女にはあった。
「…………あの方は随分難しい言葉を使うのですね?」
「それなー」 - 9二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:36:12
お わ り
ネオユニヴァースシナリオ良かったですね
単品だと流石にまだキツいとりあえず混ぜて書きました - 10二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:37:32
風語だけじゃなくパリピ語とユニヴァース語までいけるのかよ
すげぇな… - 11二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:45:09
混ざるとカオスだけど何を言いたいかはなんとなくわかるし皆可愛かった
ネオユニシナリオ最高だったよな - 12二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:45:37
エミュ難しい勢を完全に
- 13二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:46:26
- 14二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:50:41
おまいう
- 15二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:53:06
納豆専門店『出室』で吹いた
- 16二次元好きの匿名さん23/04/21(金) 23:58:32
ヤッパ…神イケじゃん…マネすご!
- 17二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 00:37:22
お前サイゲ乗れ
- 18二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 00:44:01
日本語翻訳版が出たら教えてくれ
- 19二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 01:07:20
何故ハートは一度しか押せないのか
- 20二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 02:03:12
食レポ時に発生するゼファー空間からのThis地球でもうダメだった
エミュ難しい三銃士でこんな良質なSS作れるのほんとすごいな…ありがとうございます… - 21二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 02:04:13
すっっげ……
- 22二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 03:13:49
なにこれぇ、なにこれぇぇぇ
- 23123/04/22(土) 06:35:23
感想ありがとうございました
なんとか頑張りました
実際書いてみるとネオユニヴァースがやっぱ頭一つ抜けてキツいですね……
話がトンチキになったので可愛さが出てれば良かったです
シナリオ滅茶苦茶良かったですね……調べながら育成したら5時間かかったけど
まだまだ勉強中です
ネオユニはもうちょっと専門用語を使わせたいですね
タイトルの元ネタはまんまそれですね完全にタイトルだけですけど
本当は太陽を最初に入れたかったけど銃と自由をかけるネタが捨てられなくてこうなりました
二人は喋り方のクセが強いだけで言葉自体は簡単なんだ
……とネオユニの台詞を調べてて思いました、調べてもわからないんですよねこの子
- 24123/04/22(土) 06:40:51
- 25123/04/22(土) 06:43:30
- 26二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 13:28:50
MITOはずるい
- 27123/04/22(土) 19:00:30
SETOも似たようなもんだしセーフセーフ
- 28二次元好きの匿名さん23/04/22(土) 19:21:41
ウワー!?風語とパリピ語とネオユニ語が並立してる!?
「あの方は随分難しい言葉を使うのですね」「それなー」が特大ブーメランで芝ですわよ - 29123/04/22(土) 20:15:22
ある意味メタオチということで