涙川【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:26:31

    注意
    元ネタと話の流れが異なる箇所があります
    それでもよろしければどうぞ

  • 2二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:26:48

    昔々、ニシノフラワーという身分いやしからぬウマ娘がおりました。
    彼女にはセイウンスカイという妻がおりましたが、スカイは身分が低く身寄りがありませんでした。
    ともに仲睦まじく暮らしていましたが、フラワーは新しく妻を娶ることになってしまいました。
    新しく迎える妻もまた身分が非常に高く、むやみに断ることができないためでした。

  • 3二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:27:07

    しばらくすると新しい妻の実家からこんな手紙が届きました。

    『あなたにはすでに長く連れ添っている方がいらっしゃる。
     世間から見たらそちらのほうを大事にしていると思われても仕方がないのではないか。
     早く新妻を一緒に住まわせてもらえないと心が休まりません』

    フラワーはほとほと困り果ててしまいました。
    その様子を見たスカイはフラワーに話しかけます。

    「ねえフラワー、私この家から出ていくからさ新しい奥さんと一緒に暮らしなよ」
    「そんな、スカイさん……!」
    「いいっていいって。ここまで不自由なく暮らしてこれたのはフラワーのおかげなんだしさ」

    そう言うとスカイは荷物をまとめて家を出る準備を整えました。
    あたりはすっかり夜になっていました。

  • 4二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:27:43

    フラワーが尋ねます。

    「別に今夜すぐ出ていかなくても……」
    「こういうことは早いほうがいいんだよ」
    「じゃあせめて引っ越し先まで見送りを」
    「夜中にフラワーを出歩かせるわけにはいかないよ~」

    二人がそんなやり取りをしていると、二人の友人であるキングヘイローが通りかかりました。
    キングはフラワーの代わりに見送ると申し出ます。
    スカイはしぶしぶ承諾しました。
    さみしそうな視線を送るフラワーの頭をスカイはやさしくなでました。

    「大丈夫。フラワーならきっとうまくやれるよ」
    「スカイさん……」
    「……そろそろ行くね」

    スカイの背中をフラワーはただ見送ることしかできませんでした。
    せめてキングが帰ってくるまでは起きていようと思っていましたが、夜も遅かったためフラワーは文机に突っ伏して寝てしまいました。

  • 5二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:28:05

    しばらく歩いてからフラワーの家が見えなくなると、スカイは突然しゃがみこんで泣き始めました。

    「スカイさん!?」
    「やだよお……フラワーと離れたくないよお……」

    ようやくキングはスカイが愛する人を心配させまいと涙をこらえていたことに気がつきました。
    ぽろぽろと涙を流すスカイの肩を抱きながらキングは町並みから離れていきました。

    スカイの涙が二人の後をたどる道しるべのように落ちていきました。

  • 6二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:28:31

    スカイの案内で二人がたどり着いたのは川のほとりにあるあばら家でした。
    呆気にとられているキングにスカイは語りかけます。

    「ありがとねキング。もう帰っても大丈夫だよ」
    「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!こんなところで暮らすつもり!?」
    「……仕方ないよ、頼るあてもないんだからさ」
    「だったら私の家に……!」

    スカイは首を横に振ります。

    「ダメだよ。キングだって高貴な出自なんだから、私なんかを住まわせたらヘンな噂されちゃうかもよ?」
    「でも……!」
    「……フラワーにもキングにも迷惑はかけられないよ」

    スカイはさみしげに笑いました。
    下唇を噛みしめながらキングは尋ねました。

    「フラワーさんにあなたの行き先を聞かれたらどう答えたらいいの?」
    「……涙川」
    「えっ」
    「だって川みたいに涙があふれて止まらないから、さ」

    そう言うとスカイはキングに抱きついてわんわんと泣き始めました。
    キングはスカイの背中にそっと手を添えました。

    キングの頬にも涙がつうと一筋流れました。

  • 7二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:28:52

    ひとしきり泣くとスカイはキングを送り出しました。
    キングは後ろ髪を引かれるような思いでしたが、仕方なく帰路につきます。
    フラワーの家へと戻る道を歩く中、スカイのさみしげな笑みがキングの心をとらえて放しませんでした。

    キングの目からも涙がぽろぽろとあふれ、スカイの涙の跡を上書きするように道を濡らしました。

  • 8二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:29:13

    フラワーが目を覚ますと月もかなり傾き、夜明けが近いことを示していました。
    眠ってしまった自分を苛んでいると、扉をたたく音がします。
    こんな時間に誰だろうか、と扉を開けると目を泣きはらしたキングでした。
    驚いているフラワーにキングは一部始終を話します。
    フラワーの胸中は張り裂けんばかりでした。

    「すぐに連れ戻します!」

    キングは待ってましたとばかりにフラワーの手を取って先導しました。
    走るフラワーの目から流れる涙が道に落ちていきます。

    三人分の涙の跡がまるで川のように連なっていました。

  • 9二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:29:33

    泣き疲れて膝を抱えたまま眠りこけていたスカイは扉をたたく音で起こされました。
    一体こんなあばら家になんの用だろうか。
    スカイは恐る恐る答えます。

    「だ、誰ですか……?」
    「涙川を探しに来たものです!」

    聞き間違えるはずがありません。
    フラワーの声です。
    あまりのことに声が出せないでいると。

    バキィッ!

    扉が蹴破られました。
    そして小さな身体が飛び込んできました。

    「一緒に帰りましょう、スカイさん」

    わずかに残る月の光がスカイに差し伸べられた手を照らしていました。

  • 10二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:30:09

    フラワーの家にたどり着くころには夜が明けかかっていました。
    スカイとフラワー、そして二人の後を歩いていた三人はずっと泣きとおしでした。
    しかし、深夜に流した涙とは違う涙が流れていました。
    フラワーがスカイに語りかけます。

    「スカイさん、私はもう二度とあなたを放しません。
     向こうのお話も断ります。なにか言われたら家を引き払ってどこへでも行きましょう。
     あなたの隣が私の居場所なんですから」

    スカイは涙を流しながら何度もうなずきました。
    ちょうどその時、朝陽が顔を覗かせます。
    キングはまぶしさに目を細めました。

    手を取り合う二人の姿は陽に照らされてきらきらと輝いていました。

  • 11二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:33:45

    元ネタは『堤中納言物語』の中の『はいずみ』というお話…のさらに前半部分です

    SSと原作、全然話の流れが違いますので是非読み比べてください

    旦那さん(フラワーの役)ものすごくクソ野郎なので

    お目汚し失礼しました


    書いたのをまとめたものです

    書いたSSスレをまとめたもの|あにまん掲示板月ごとでまとめるより思い立ったら都度整理してまとめたほうが見やすい(主に自分が)と思ったので以下のスレにまとめてある分も入っておりますのでご留意くださいhttps://bbs.animanch.com…bbs.animanch.com
  • 12二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:37:04

    いいね…

  • 13二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:37:58

    古典文学をリスペクトしながらウマ娘で落とし込むのすごいと思う
    読みやすくて好き

  • 14二次元好きの匿名さん21/11/25(木) 22:57:59

    すこだ…

オススメ

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