【SS】あるウマ娘の独白

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 18:39:39

    『普通』って何だろう。そんな風に考えることがある。
    普通。ありふれている、珍しくないこと。ごく特に変わりがない・平均的・一般的なこと。意味としては単純だが、それは視点によって変わるもの。特にトレセン学園の様なアスリート養成機関においては。

    「はぁ……はぁ……」

    膝に手をつき、肩で呼吸をする。何十回目だろうか、選抜レースで勝てなかったのは。多くのトレーナーは勝ったウマ娘に集中し、こちらに意識を割く者はいない。何時ものことだ。次のトレーニングと選抜レースの登録について考えながらトラックを後にしようとした時、勝ったウマ娘の言葉が耳に入った。

    「いや、私なんかまだまだ普通ですし…」

    このトレセン学園にはウマ娘レースの頂点を目指す沢山のウマ娘が入学してくる。そのほぼ全てが一定の走力を持った者達。地元じゃ負け知らずなんて文言はありふれた誉め言葉だ。そんなエリート達が高々数十しかない優勝を目指し競い合う勝負の世界。蟲毒と形容してもいいかもしれない。そんな場所での『普通』が一般のそれと同じな訳もなく。
    勝つための努力は前提条件。そこから先は才能と努力の強度で決まる。故に多くのウマ娘は入学して1年程で自分の限界を突き付けられ、失意のままに学園を去る。私も重賞を勝つような化け物との力の差を思い知らされたし、辞めようかと思ったことは十回じゃきかない。

    「何やってるんだろ」

    ルームメイトの出払った寮に戻り、倒れる様に寝転ぶ。とっとと諦めて帰ってしまえば楽だろう。でも、そうしてしまったら今まで積み重ねてきた人生を否定してしまうようで。帰ろうという気にもならなかった。では、このまま辛酸を舐め続けるのか。それは精神的にも許容し難いものだろう。

    「勝ちたいなぁ…」

    そうポツリと呟いていると、ガタゴトと入口の方が慌ただしい。ルームメイトがトレーニングから帰ってきたらしい。たまには彼女にレースの相談をしてみるのも良いかもしれない。

    「ただいまぁ~~」

    「お帰り。最近遅くまでやってるけどどうしたの?」

    「ええと、それはね―――」

    弾む会話。外には澄んだ星空が見えていた。

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 18:39:57

    ひとまず以上。

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 20:07:14
  • 4二次元好きの匿名さん23/04/23(日) 20:26:13

    儚げな雰囲気良い…

オススメ

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