(SS注意)私達の委員長!

  • 1二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:36:55

    『ダービーの一番人気はナリタトップロード!』

     スマホで見るニュースサイトに燦然と輝く見出し。
     私は食堂でそれを見て口元を緩ませながら、頷いてしまう。
     先日の皐月賞、私達の委員長――――ナリタトップロードは惜しくも3着。
     1着のオペラオーさんに後ちょっとの差で、皐月賞の栄冠を逃してしまった。
     応援しているだけの私でも、泣くほど悔しかった。
     走っている本人はもっと悔しかったに違いないし、心が折れてもおかしくない。
     でも、委員長はすぐに立ち直って、次の戦いに向けての努力を続けていた。

     やっぱり、私達の委員長は凄い。

     次の日本ダービーにはアヤベさんも出るけど、やっぱり私は委員長に勝ってほしい。
     そのためにも、私は一つの努力を始めることにした。
     よし、休憩も終わり。私は両頬を軽く叩いて、教科書とノートを開く。
     たまたま通りがかったクラシメートは、それを見て夏に雪を見たような表情をした。

    「…………アンタ一人で勉強なんて出来たの?」

     失礼な、そりゃああんまり上手くいってないけどさ。
     でも、委員長には少しでもレースに集中してもらって、今度こそ笑顔を見たいんだ。
     日本ダービーと私の勉強じゃあ比較にならないけど――――私も、頑張る。

  • 2二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:37:12

     日本ダービー本番数日前。
     いつものように食堂で悪戦苦闘している私に、一人のウマ娘が声をかけた。
     
    「あっ、あの、お勉強失礼します!」

     ふわふわのロングヘアーに、左耳にはオレンジの髪飾り。
     その子は緊張した様子で、私に話しかけてきた。
     見覚えのない子だけど誰だろうか。その様子からなんとなく後輩な気もするけれど。

    「トッ、トプロ先輩のお友達ですよね! 一緒勉強されてるところを見たことがあります!」

     一緒にというか私が一方的に教わってるだけだけどね、ウヘヘ。
     とはいえ、委員長絡みか。あの子割と後輩からも慕われてて、人気もあるからね。
     トップロード先輩でしょアンタまさか……とボケようとしたが、真剣そうだったのでやめておく。
     私は一旦教科書を閉じて、彼女に向き直り、そうだよーと柔らかめの声をかける。

    「あの、私トプロ先輩の走りに憧れてて……!」

     いやーわかるわかる、私達の委員長格好良いもんね。見込みあるよ、君。
     私は腕を組んで、後方理解者ヅラを浮かべながらうんうんと頷く。
     
    「それで、次のダービーに向けて、何か特別な応援を出来ないかなって……!」

     彼女は必死そうな表情で訴えかける。
     きっと委員長にとっては、彼女の『頑張ってください』の声だけでも十分だろう。
     けれど、それは応援する方の気が収まらない、わかる、今の私も同じだもん。
     そう考えるとなんだか親近感がわいてきて、私はこの子に協力することを決めた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:37:30

     とはいえ、特別な応援というのも難しい。
     応援団を結成して、練習中の委員長を応援しまくる。
     どう考えても邪魔になるので、これは却下。
     特製人参ハンバーグを作ってプレゼントして力を付けてもらう。
     レース前の体重管理もあるので却下。委員長は貰ったら無理してでも食べるだろうし。
     いっそ委員長の練習に付き合ってあげる。
     ぶっちゃけ私も含めて練習相手にもならないので却下、悲しいすぎる。
     後輩の子と二人で頭を悩ませていると、ふと、私に名案が浮かんだ。
     
     ――――お守りを渡してみるってのはどうかな。

     お守りならばそこまで嵩張らないし、手頃な物だから委員長も遠慮しないはずだ。
     その提案に、後輩の子は目を輝かせた。

    「それ良いですね! ありがとうございます! 他の子にも声かけてきます!」

     あっ、他にも何人かいるんだ、流石は私達の委員長。
     頭を何度も下げる彼女に対して、私は気にしないでと手を振る。
     そして、ふと思いついて――――渡す前にもう一度来て欲しい、と伝えた。
     せっかくだから、私も一枚嚙ませてもらおう。
     さあ、手芸の勉強も始めないとね。
     ……後日、作業風景を見た同室の子から鍼灸でも始めたのかと言われたのは秘密。

  • 4二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:37:53

    「あの、これから渡しに行くつもりなんですけど」

     数日後、後輩の子は律儀に私のところへとやってきてくた。
     山のように積まれたお守りと、何人もの後輩ウマ娘達を引き連れて。
     うわあ、なんだかすごいことになっちゃったぞ。
     私は若干顔を引きつらせながら、そのお守りの山に自分で作ったお守りを加える。
     じゃあよろしくね、と伝えると彼女は不思議そうに首を傾げた。

    「一緒に行かないんですか?」

     その言葉に、私は毎日会ってるから気恥ずかしくて、と返す。
     すると彼女は納得したように頷いた。
     多分この時間なら食堂にいるだろうと伝えると、彼女達は頭を下げて去っていった。
     そして完全に彼女達の気配が消えたのを見計らって、私はポケットからあるものを取り出す。
     ピンク色の、縫い目で『お守り』という文字を書いた、手作り感マシマシのお守り。
     先程後輩の女の子に手渡したものと、ほぼ同じものだったりする。

     ……委員長と、おそろ、なんちゃって。
     
     自分で言って、自分で苦笑してしまう。
     他人がやってたら滅茶苦茶引くくらいに重いし、委員長も気づかないであろう自己満足。
     でも、これを委員長が持ってくれると思うと、心が躍って。
     もっと応援しようという気持ちと、もっと頑張ろうという気持ちが強く湧いてくる。
     ぷらぷら揺れるお守りを眺めていると、自然に笑みが浮かんでくる。

    「うへへ……♪」

     通りすがりのクラスメートから、うわキモと声が聞こえた。
     おっ、喧嘩かー?

  • 5二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:38:13

     日本ダービー当日の東京レース場、その日は皐月賞は打って変わっての晴天だった。
     たくさんの観客が見守る中のレースは――――委員長にとっての理想的な展開。
     中団待機からの最終直線でのスパートで、オペラオーさんを追いかけるように抜け出していく。
     
    『テイエムオペラオーとナリタトップロード! 更に外の方からアドマイヤベガが!』

     後方からアヤベさんを追い込んできて、私にはもう3人以外見えなくなってしまった。
     委員長は必死な表情で先頭のオペラオーさんとの距離を少しずつ縮めていき、そして。

    『真ん中を突いてナリタトップロード! ナリタトップロード先頭ー!』

     そして、かわした。
     お守りを握り締める手に、力がこもる。
     心臓がうるさいくらいにドキドキと鳴り響く。
     凄い、凄い凄い! 委員長は凄い! 私の委員長は、本当に凄い!
     ゴール手前、あと少し、喉が潰れるほどの声援を送った、その刹那――――星が流れた。

    『外からアドマイヤ! 外からアドマイヤベガーッ!』

     猛烈な末脚で、アヤベさんが襲い掛かる。
     あのクールな雰囲気からは想像もできないほどの激しい追走。
     みるみるうち委員長との距離はなくなっていって、あっという間にその位置を並べた。
     私は祈るように、お守りを握った手にもう片方の手を合わせる。
     委員長もう少しだから、お願い、お願いします、行って、行って、行け、行け、行け――――!

  • 6二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:38:29

    『アドマイヤベガ! アドマイヤベガです! 皐月賞の無念を晴らして、輝く一等星!』

     溢れる大歓声、勝者に向かって称賛の声が観客席から飛び込んでいく。
     掲示板には無常にも光り輝く『クビ』の二文字。
     私は膝から崩れ落ちそうになるのを、手すりに掴まって、何とか耐える。
     涙を流しそうになるのを、俯きながらも、何とか耐える。
     クラスメートのアヤベさんの栄冠なんだ、おめでとうって、言わなきゃ。
     委員長だってあのダービーで2着なんだ、すごかったよって、伝えなきゃ。
     きっと、ターフの上の委員長だって、泣いてない。
     皐月賞の時のように、もう次を見据えているに違いない、だって、委員長は凄いんだから。
     私は称賛の言葉を二人に届けるために、顔を上げる。
     そして――――見た、見てしまった。
     
     大粒の涙を流しながら、声を上げて泣く委員長の姿を。

     私の手からぽとりと何かが落ちる。
     それは必死に握りしめてしまったせいで、ぐちゃぐちゃになってしまったお守り。
     そして気づく、私達の委員長に向ける期待が、彼女を押しつぶしてしまったのではないかと。
     私達の委員長は、私の委員長は、凄いのに、凄いのに……!

    「委員長……いいんちょお…………!」

     耐えたはずの涙が、ぽろぽろと零れてしまう。
     落としてしまったお守りを拾い上げることも出来ず、ただ立ち尽くすだけ。
     嗚咽混じりの私の喉から、小さく、ごめんなさいという言葉がすり抜けた。

  • 7二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:38:51

    お わ り
    来週が待ち遠しい

  • 8二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:39:33
  • 9二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:39:55

    ウワーッ!まさかの続編!!!!
    ありがたやありがたや……やっぱつれぇわ…

  • 10二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:42:19

    京都新聞杯が楽しみですね(震え声)

  • 11二次元好きの匿名さん23/04/24(月) 20:44:11

    タスカルちゃんの人!
    タスカルちゃんの人じゃないか!!
    来るんじゃないかと思ってたんだ!!

    トプロの頑張りを見て自分も!ってなるとこが…
    手縫いなんて頑張って…好きだ…
    さらっとトプロ委員長ゲーム挟んできたのは笑った

    今回もいいもの読ませてもらいました!!

  • 12123/04/24(月) 21:08:52

    感想ありがとうございます

    >>9

    本編が曇らせで終わりましたからね仕方ないね

    >>10

    まさか天下のサイゲが二週連続で曇らせ展開だなんてそんな(震え声

    >>11

    最新話見てどうしても我慢できなくなってしまいました

  • 13二次元好きの匿名さん23/04/25(火) 08:55:54

    美しい……

  • 14123/04/25(火) 10:49:36

    >>13

    トプロの泣き顔いいよね……

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています