- 1二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:18:58
- 2二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:19:18
夕陽でオレンジ色に染まったグラウンドでは生徒たちがそれぞれトレーニングをしている。
その中でもフラワーさんはひときわ小さな身体をしていたが、傾いた夕陽は彼女を通して地面に大きな影を落としていた。
「キングさん、今日も一緒にトレーニングしてくれてありがとうございます」
「いいのよ、むしろこっちがお礼を言いたいくらい」
フラワーさんは学年こそ下だが短距離マイルに関しては私より経験があり、あのバクシンオーさんも一目置くスプリンターだ。
そんな彼女から学ぶことはたくさんあった。
フラワーさんがにこりと微笑む。
名は体を表すとはいうが、本当に花のように可憐な笑顔だった。
「キングさんはやさしいんですね」
「ふふっ、おだててもなにも出ないわよ?」
ふとフラワーさんの頭越しに見えた人影に目がとまる。
スカイさんだ。
手を振って声をかけようとしたが、寸前で飲み込んだ。
私たちを見ているはずの彼女の目は。
まるでどこか遠くのものを見つめているかのようで。
スカイさんが踵を返してグラウンドから離れていく。
「キングさん?なにかありましたか?」
フラワーさんが振り返ろうとする。
私はあわてて彼女のほっそりとした両肩を掴んだ。
「そ、そういえば新しいストレッチのやり方を教わったの!フラワーさんも試してみない?」
少し驚いた様子のフラワーさんがこくこくとうなずく。
あの姿のスカイさんをフラワーさんには見せてはいけない。
なぜかはわからないがそう思った。 - 3二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:19:46
- 4二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:20:06
出迎えてくれたスカイさんの様子はいつもと変わりないように見えた。
私たちはベッドに寄り掛かるように座り、再生ボタンを押した。
内容は恋心を抱いていた幼馴染が貴族に見初められ、彼女を取り戻すために主人公が屋敷へと潜り込むというものだった。
終盤、知略を駆使してようやく二人のもとへたどり着く主人公。
二人は仲睦まじく笑い合っていた。
そこで主人公は悟った。
「なんだ、邪魔者は私の方じゃないか」
主人公は彼女に話しかけることもなく夜の闇へと消えていき、物語は幕を閉じた。 - 5二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:20:55
見入ってしまっていた私はエンドロールが流れてからも画面を見続けていた。
するとスカイさんが口を開いた。
「……似てるよね」
「えっ?」
「私たちとあの三人が似てるなあって話」
スカイさんはうっすらと笑みを浮かべている。
耳はしおれた花のように倒れこんでいた。
胸がずきりと痛む。
「最近さ、フラワーと仲いいよねキング」
「一緒に練習してるだけよ」
「……そう」
ぎゅっと膝を抱えるスカイさん。
「もしもキングがフラワーのこと好きになっちゃったら負けちゃうよ?私が」
「なっ……!?」
言い返そうとした言葉は彼女の涙で遮られた。
「だってさ、キングはバカみたいにまっすぐであきらめが悪くて……努力家で、やさしくて……」
小さくなる声と反比例してスカイさんの目からは涙があふれた。
「……私なんかが敵うわけないじゃんか」
絞り出すような声でつぶやくと、スカイさんはそれきり顔を膝にうずめてしまった。
そんな彼女を見て、私は─── - 6二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:21:18
思い切りスカイさんの頭をはたいた。
ぺしーんといい音が鳴った。
「は!?えっ!?なにしてんのさキング!?」
「おだまり!いきなり目の前でうじうじされる身にもなりなさいよ!」
はたかれた頭を押さえているスカイさんに向かってずいとにじり寄る。
「だいたいそういうことはフラワーさんの気持ちを聞いてからでしょうが!聞いたの!?」
「き、聞いてません……」
「じゃあさっさと聞きなさい!言っておくけどあなた以外の人が入り込む余地ないわよ!」
だから、と呆気にとられているスカイさんの頬を両手で挟み込む。
そして彼女の空色の瞳をじっと覗き込んだ。
瞳には私の顔が映り込んでいた。
「自分を卑下するのはよしなさい。あなたのことを愛している子のためにも」
私の両手に挟まれたままのスカイさんがこくりとうなずく。
少しだけスカイさんの目に光が戻った。
私はふっと笑って自分のおでこを彼女のおでこにくっつけた。
やわらかな温かさがおでこから伝わってくる。
「……がんばりなさいな。私も応援してるんだから」
おでこを離すと少し頬を赤らめたスカイさんが私を見つめていた。
さっきよりもずっと強い光が彼女の目に宿っていた。
「ま、スカイさんがヘタレてるままだったら私がさらってしまうかもしれないけどね」
「ええっ!?応援してくれるんじゃなかったの!?」
「嫌だったら必死でがんばりなさいな!いじけてる暇なんてないわよ!おーっほっほっほっほ!」
私の高笑いが夜の美浦寮に響く。
……あとでヒシアマ先輩にまあまあ怒られた。 - 7二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:22:03
翌日のグラウンドにはジャージ姿のスカイさんがいた。
その隣にはフラワーさんが嬉しそうに寄り添っている。
私は手すりに寄り掛かりながらその様子を見ていた。
「やれやれ……めでたしめでたし、かしら?」
少し苦笑いを浮かべる。
ふと昨日見た映画を思い出した。
スカイさんはあの映画の三人が私たちに似ていると言った。
実は私もそう思っていた。
私はスカイさんが好きだ。
あの空色の瞳も、ふわふわとした髪も、心の奥底に秘めた熱い思いも。
スカイさんの全部が好きだ。
ただ、私がその思いに気がついたのは。
あなたがフラワーさんにはにかみながら話しかけていた時だった。
笑い合うあなたたちの姿は、私があきらめるのに十分すぎるほどまぶしかった。
……もしも、この想いにもう少し早く気づくことができていたら。
首を振って空を見上げる。
詮無いことだ。
手すりから離れ、グラウンドから立ち去ろうとする。 - 8二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:22:30
- 9二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:23:11
- 10二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:25:32
ここでフラウンスキングを摂取しまくってるから気づかなかったけど、キングとフラワーって作中での接点が今のところゼロなんだよな……
- 11二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:26:03
アーイイ…アー…
- 12二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:26:44
フラウンスキングだからもしやと思ったら
今回もすごくいい… - 13二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:40:25
これヤバいわ…
ちょっと胸に切なさが押し寄せてくるわ
でもセイちゃんは確かに人が背中押してあげる必要がありそう - 14二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 21:43:45
ォ゛あ゛...良い...
- 15二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 23:09:56
- 16二次元好きの匿名さん21/11/26(金) 23:26:39
すきだ…