- 1書いてる人23/04/28(金) 23:00:36
宝多六花が初めて響裕太とキスをしたときの想い出は、恋人と唇を重ねた嬉しさ以上に忘れられないものとなっている。
歯と歯をぶつけてしまったのだ。
緊張と高揚で震える体をなんとか制し、目を瞑って至福のひと時をじっと待つ。
そこまでは良かったのだが、裕太はそうはいかなかったようで、逸る気持ちを抑えきれずに、ちょいと勢いを付けすぎた。
「あっ……⁉︎」
「いっ……⁉︎」
かつんっ、と小気味良い音が空間に響き渡り、六花と裕太は同時に悲鳴をあげて仰け反った。
なかなかの痛みと衝撃に思わず口元を抑えて裕太を見れば、彼もほとんど同じ姿勢で、何が起こったのか分からないと言わんばかりにこちらを見つめ返している。
「っ、たぁ〜……!ちょっと裕太、なにしてんの……⁉︎」 - 2書いてる人23/04/28(金) 23:02:12
- 3書いてる人23/04/28(金) 23:03:36
肩を落とし、あからさまにしょんぼりとしてしまった裕太を見て、六花はむしろ緊張がほぐれて微笑ましい気持ちになった。
また、期せずして自分も裕太も初めてなのだと実証することができたので、ちょっぴり嬉しいとさえ感じたほどなのだ。
もちろん、その後で二人はちゃんとキスをやり直し、大切なファーストキッスもなんとか面目を保つことができたわけなのだが、それにしても今回の裕太の失態は、六花の脳裏に強烈な印象を刻み残していったようだ。
それだけに、別の日になって、六花が裕太と二回目の口付けをしたときに、裕太がなんとか無事にこなしてみせたのが六花には意外であった。
その驚きを六花が知覚したのは、ぽわぽわとした幸福感から意識を取り戻した後のことで、
「あ……」
「り……六花……?」
「……今度は」
「え……?」
「今度は、ぶつけたりしないんだ……?」 - 4書いてる人23/04/28(金) 23:05:20
- 5書いてる人23/04/28(金) 23:07:10
「え、てか裕太ってば、枕相手にキスの練習してたの?やっば、想像したらだいぶ面白いやつじゃん……」
「か、からかわないでよ……!オレ、割と必死で……!」
「はいはい。だからうそだって。あれでしょ裕太。この前のこと、気にしてるんでしょ」
「う、うん……」
「そんなのいいのに。ほんとにあたし、怒ってなんかないんだからね?」
「だ、だけど……」
「……でも、嬉しい。裕太、あたしのために頑張ってくれてたんだ……」
「……うん」
「……ありがと、裕太……」
「り、六花……」
「…………」
「も……もう一回、してもいい……?」
「ん……」
瞼を閉じて、愛しい少年の柔らかな唇を受けいれる。
なんとも満ち足りる想いであった。
それからというもの、六花は裕太とキスすることがだんだんと増えていった。恋人同士なのだから、これは当然のことと言えよう。
流石に学校や路上でというわけにはいかないが、どちらかの部屋に二人でいる時などには、自然とそういう流れになっていく。
そうしたことを繰り返しているうちに、六花は、ふと気づいてしまったのだ。 - 6二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 23:07:53
この名前…あの人か!いつもいいもの読ませていただきありがとうございます
- 7書いてる人23/04/28(金) 23:08:24
- 8二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 23:08:24
書いてる人!書いてる人ではないか!
- 9二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 23:09:04
これは信頼の出来るクオリティですわ
- 10二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 23:09:57
まったくこの浮かれポンチ達は…(ニヤニヤ)
- 11書いてる人23/04/28(金) 23:10:53
- 12書いてる人23/04/28(金) 23:13:41
- 13書いてる人23/04/28(金) 23:15:41
- 14書いてる人23/04/28(金) 23:18:20
このことであった。
考えてもみてほしい。
恋人である裕太が自分に幸せを与えてくれるのなら、彼の恋人である六花もまた、同じだけの幸せを彼に与えてやらねばならぬのだ。
そうするだけの充分な自信が、六花にはない。
あれほどにキスの上手い裕太と比べて、ただ震えて唇を受けいれるだけな自分の、なんと下手っぴなことか。
年頃の乙女のプライド的にも、これは到底看過せざるべき事態である。
ならばどうするべきなのか。
答えはひとつ、練習だ。
それを悟った彼女は早速、裕太の言葉を参考にして特訓を開始したわけだ。
「ん〜……こう。いや、こう、かな。ん、ん、んん〜……?」
お風呂上がりでほこほこ火照ったパジャマ姿の六花が、自室で愛用の枕を抱きしめ抱きしめ、キスの練習を繰り返している。
裕太がそうしていると聞いたときには面白いと思ったものだが、自分でするとなったからには面白がっている暇もない。 - 15書いてる人23/04/28(金) 23:21:09
- 16書いてる人23/04/28(金) 23:24:58
- 17二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 23:26:39
六花さんが攻め裕太によってポンチになっちまった
君の責任を果たすんだ - 18書いてる人23/04/28(金) 23:27:20
先手必勝とはよく言ったもので、裕太はたちまちのうちに絶句し、次の瞬間、赤面した。
今まで二人が唇を重ねるときには、少なからず雰囲気というか、ムードというものがあった。
それが突然、しかも六花の方から、直接おねだりされた裕太の驚き、推して知るべし。
「裕太?」
「……あっ。あ、え、ご、ごめん。えと、なんだっけ……?」
「キス。させて」
「キ……え、り、六花、ど、どうしたの……?」
「……イヤ?」
「あっ、イ、イヤとかじゃなくてっ!ただその、少し驚いたっていうか……六花がそんなこと言うの、珍しいなって思って……!」
「……別によくない。あたしだって裕太とそういうこと……したい気持ち、あるんだから」
「そっ……そっか……うん、そっか……」
「……で?」
「え……?」
「え……じゃなくて。していいの。だめなの。どっち」
「あ……う、うん。い、いい、けど……」
「ん。じゃあ、そっち行くね」
「う、うん……」 - 19書いてる人23/04/28(金) 23:29:38
- 20書いてる人23/04/28(金) 23:34:08
- 21書いてる人23/04/28(金) 23:36:38
- 22書いてる人23/04/28(金) 23:39:35
- 23書いてる人23/04/28(金) 23:43:09
まるで獲物に巻きつく蛇さながらに、六花は裕太をぎゅうっと抱きしめて、心ゆくまで口を吸った。
練習のときは枕を使ってそのようにしていたから、六花にとってはこれが一番落ち着く形となるわけだ。
「ぷはっ……はぁ……はぁ……」
「裕太……」
「り、六花……待って、六花……」
「裕太……んっ……」
「あっ……ん、む、うぅっ……」
唇同士がまたくっつく。
何度もキスを重ねるごとに、触れ合う時間が長くなっていく。
ぐいぐいと体重を傾ける六花の猛攻に、裕太はベッドに突いた後ろ手一つで必死にバランスを支えていた。
もう一つの腕は体ごと六花に巻き締められてまったく自由を失っており、なんとか言葉で彼女を制止しようとしてもすぐさま口を閉ざされてしまうので、思うように抵抗できない。 - 24書いてる人23/04/28(金) 23:45:48
密着している六花の髪と体から、甘やかで芳しい香りが音も無く漂ってきて、裕太は目が眩み始めた。
そのことに六花は気が付かない。
ただひたすらに裕太を抱きしめ、桜色をした唇を裕太のそれへと押し付ける。
抱きしめれば抱きしめるほど、口づけをすればするほど、六花の心が躍り、弾んで、脳の奥から指の先まで満たされていくような想いになる。
裕太にキスで勝たねばならない。
裕太をキスで幸せにしてやらねばならない。
そうしなければならぬというのに、何度彼にキスをしたとて、身も心も幸せにされていくのは、何故か六花の方なのだ。
(どうしよう……このままじゃあたし、裕太に負けちゃう……もっともっと頑張らないと……もっともっと、裕太のために……) - 25書いてる人23/04/28(金) 23:48:05
焦燥と、負けん気と、溢れるような幸福感が、六花の瞳に輝く渦をぎゅんぎゅん加速させていく。
今や裕太は最後の砦となっていた後ろ手さえも失って、肉付きの豊かな六花の脚に挟み込まれるような形で押し倒され、ベッドに仰向けとなっている。
前触れもなく、生温かく蠢く何かが、六花に塞がれているはずの裕太の口へぬるりと入り込んできた。
それが六花のどの部分であるかを悟ったときに、純真無垢な裕太の体は、生娘の如く跳ね上がった。
「んぅ〜〜〜っ……⁉︎」
「んっ……んむ、んぅぅ……」
情熱的に貪られ、痺れて力の抜けきった裕太の四肢がぴくぴくと痙攣する。
丹念に、丁寧に、愛の奉仕を続ける度に、恋人の声なき呻き声が夢うつつに聴こえてきて、それがまた一層強く、六花の心をくすぐった。
舌に受ける裕太の体温をねぶり尽くし、味わい尽くして、なおも彼女は止まらない。 - 26書いてる人23/04/28(金) 23:50:15
- 27二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 23:50:59
六花さんブレーキ壊れちゃったんすか?
- 28書いてる人23/04/28(金) 23:53:53
瞳から渦の消えた六花が張り裂けんばかりの叫びをあげて、裕太の体から飛び退いた。
階下の店に聞こえるのではないかと思うほどにそれはそれは大きな悲鳴であったが、今の六花はそれどころではない。
その顔が一瞬にして赤くなり、さっと血の気が引いて青くなったかと思えば、再び血の気が戻って真っ赤になった。
なんという大それたことをやらかしていたのだろう。
これでは裕太を幸せにするどころか、彼に嫌われてしまってもおかしくない程の所業ではないか。
「ちょっ……やだもっ、ほんっと、あたし何して……!ゆっ、裕太っ⁉︎ごめん裕太っ、大丈夫っ⁉︎いやその大丈夫ってかなんていうか、今のはほんとに違くて、そのっ!ごめんほんと、マジでごめん!あたしそんな、そんなつもりじゃなくってっ……!」 - 29書いてる人23/04/28(金) 23:56:50
もはや何を言っても遅い。遅いがしかし、何かを言わずにはいられなかった。
とにかく助け起こさなければと、一度は飛び退った裕太の体に再び近寄る。
と、六花がその手を差し伸べて、彼に触れたか触れないかというところで、彼女の手首の辺りが不意にがしりと掴まれた。
「ひゃっ⁉︎ゆ、裕太……⁉︎」
「……オレ……」
「え……?」
「オレ……そういうの……まだ早いよなって、思ってたけど……」
六花の手首を握り締めた裕太が、彼女の体重を支えにしてむっくりとベッドに起き上がった。
荒い呼吸も、乱れた髪も、上気した頬もそのままに、俯けていた面を上げる。
愛してやまない、ガラス玉のような彼の瞳に、奇妙に輝く怪しい光がいまだ鮮明に残っているのを、六花は確かに目撃した。 - 30二次元好きの匿名さん23/04/28(金) 23:59:44
スイッチが入った片方が正気に戻る
が、もう片方のスイッチが入ったならば… - 31書いてる人23/04/29(土) 00:00:51
- 32書いてる人23/04/29(土) 00:02:29
- 33書いてる人23/04/29(土) 00:04:54
- 34二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 00:04:58
まさか?!アクセスフラッシュをするのか?!
- 35書いてる人23/04/29(土) 00:08:08
- 36二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 00:09:47
天丼きーたーー
これは綺麗なお点前 - 37書いてる人23/04/29(土) 00:10:45
- 38書いてる人23/04/29(土) 00:12:34
「えっ……で、でも……」
「いやほんとに。ほんとになんか、どうかしてた。ごめんね裕太。やっちゃったの、あたしの方だ……」
「そ、そんな!六花は全然、悪くないよ!全部オレのせいで、こんなっ……!」
「あたしさ」
「へ?」
「あたしね。裕太に負けたくないなって、思ってた」
「ま……負け、たく?え、なに、何の話……?」
「キスの話」
「キッ……えぇっ⁉︎」
「裕太とキスしてるとね。どきどきして、ぽわぽわして、すごく幸せな気持ちになる。いつもそう。裕太とキスすると、いっつもそうでさ。だからあたし、裕太はすっごく、キスが上手いんだと思ってた」
「え……あ、そ、そう……なの?」
「そう。でもさ裕太。あたし、ちょっと勘違いしてたかも」
「え?」 - 39書いてる人23/04/29(土) 00:13:53
- 40書いてる人23/04/29(土) 00:15:02
- 41書いてる人23/04/29(土) 00:16:35
- 42書いてる人23/04/29(土) 00:18:16
「……裕太……」
「謝ることなんてない。オレは六花と、キスしたいって思ってる。変な言い方かも知れないけど……六花も、あの、オレとキスしたいって、思ってくれてるんだよね……?」
「う……うん。あたしも……えと、裕太と……キスしたい、って、思ってる……」
「だったら。それで、いいんじゃないかな……」
「……うん」
「だから……その。これからも。六花と、キスして、いいですかっ……?」
「……ぷっ。なに、それ。あたしなんて答えればいいの。断っちゃってもいいやつなの?」
「え、えぇっ……⁉︎」
「いやだって、わざわざそうやって訊いてくるってことはさぁ?もしあたしに断られたら、裕太はあたしとキスしないってことだもんねぇ?」
「あっ、いやっ、違くって!いやそうだけどそうじゃなくてあのっ、オ、オレは、ちゃんと六花に……!」
「んぁ〜どうしよっかなぁ〜?裕太ってばキス下手だしなぁ〜?下手な人とはキスしたくないかもなぁ〜?」 - 43書いてる人23/04/29(土) 00:20:02
- 44書いてる人23/04/29(土) 00:21:55
- 45書いてる人23/04/29(土) 00:23:49
- 46書いてる人23/04/29(土) 00:25:39
「う、あ、あぅ、ぅ……」
上手く呂律が回らない。
六花は、目的を果たしていた。
さっきの六花は間違いなく、裕太をキスで打ち負かして幸せにさせていたのだ。
六花の方がキスが上手で、裕太の方がキスが下手。
真のキスの才能持ちがどちらなのか、それが明らかになったというのに、どうしてこんなに追い詰められた気分なのだろう。
(どうしよう……やっぱりあたし、裕太に勝てる気しないかも……)
見つめ合う二人の眼差しに、新たな光が渦巻き始める。
キスをするのかしないのか、固唾を呑んで待ち受ける可愛い恋人を前にして、極度の羞恥を覚えた六花が懸命に答えを探す。
彼女が果たしてどちらの答えを選んだのか……それは流石にこの場では、伏せておくこととしよう。
年頃の乙女には秘密が多いものなのだ。 - 47書いてる人23/04/29(土) 00:26:04
おわり。
ご覧くださりありがとうございました。 - 48二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 00:28:24
乙、最高の裕六をありがとう
- 49二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 00:28:39
素晴らしい情動だった。ありだとう
- 50二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 00:29:02
ちょっとコーヒー飲んでくる
口の中がめちゃ甘い - 51二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 00:29:12
やはり素晴らしい甘さ
毎度ありがとうございます - 52二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 00:31:20
こいつらユ・二・バァァァス!したんだ(多分)
- 53二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 00:32:03
俺も砂糖切らしてたから丁度いい
- 54二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 02:27:18
ありがとうございます
これくらいの甘さでいいんだよこれくらいで - 55書いてた人23/04/29(土) 09:36:53
みなさんコメントありがとうございます。
また、前の作品でお目目ぐるぐる六花さん作ってくれた人もありがとうございました。とても可愛かったので今回の作中で使わせていただきました。お礼言えてなくてすみません。
毎度ながら、他のところでこの作品見かけてもここの掲示板のことはそっとしておいてくださると助かります。
こっちでなら全然ウェルカムなので!
今までの作品はこんな感じです。
よろしければ一緒にどうぞ。
私はこれから6バースしてきます。
六花「人生で大切なこと」|あにまん掲示板ここは南口のやっすいファミレス。ドリンクバーで粘りながら長いこと他愛のない話に花を咲かせていた宝多六花と南夢芽であったが、その内に、少しだけスマホを弄っていた夢芽がふと思い出したような調子で顔を上げ、…bbs.animanch.comえっちえっち!裕太の泣いて怖がる顔えっち!|あにまん掲示板「はぁ〜い」『もしもし夢芽ちゃん……?今、いい……?』「六花さん。どうしたんですか急に、電話なんか」『あの〜。そのね。実はぁ……夢芽ちゃんに相談したいことが』「えっ!裕太さん、今度は何したんですか⁉︎…bbs.animanch.com聞いてくれますか六花さん|あにまん掲示板「蓬を抱き枕にして思いきりすーはーしたいわけですよ」「ちょっと待ってね夢芽ちゃん今なんか聴き間違えた気するからね」残念ながらそうではない。宝多六花の聴覚はまさに正確無比そのもの、寸分の狂いもなく言葉を…bbs.animanch.com - 56二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 10:18:26
最高のユニバースじゃった⋯⋯
- 57二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 11:40:46
- 58二次元好きの匿名さん23/04/29(土) 13:03:52
ユニバース!
ユニバーース!!
ユニバァァァァァァァス!!!