- 1暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 01:59:49
- 2暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:01:22
遠い異国の地にて、私は後進の育成指導に当たっていた。
年若いウマ娘たちを導き、レースでの勝利を共に誓い合った。
彼女たちが夢を追う姿はいつも眩しかった。
全力で挑み、全力でターフを駆け抜ける。
その姿に私も胸を高鳴らせた。
彼女たちは渾身の力で走り、勝って喜び、負けて涙する。
美しく気高いその姿に、私はかつての自分を思い出す。
毎日の様に修練を積み、ターフを駆けた日の事を思い出す。
全ては過去の事だ、遠い昔の出来事だ。
あの濃密な時間は、もう戻らない。
だけど、今だって、十分に幸せだ。 - 3暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:03:52
その国で過ごし、幾らかの年月が流れた頃。
国内で、軍事クーデターが発生した。
街は物々しい気配に包まれ、人々は戸惑う。
やがて小銃を手にした兵士達が姿を現し、発砲音が響くようになった。
街角に黒煙が漂う、公共施設は全て閉鎖された。
この国はどうなるのだろう。
私が指導していたウマ娘たちは無事だろうか。 - 4暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:07:21
軍事政権が樹立した。
軍部主導の鎖国政策が実施されたと聞いた。
すぐに国内経済が行き詰まり、人々は疲弊した。
混乱の中、ウマ娘たちのレースも廃止される。
当然だろう、誰もがそれどころでは無かったのだ。
そして私は仕事を失った。
ウマ娘を育成する機会も、場所も無くなっていた。
私の教え子たちが何処へ行ったのか、それを調べる術も無い。
そして私は気づいた。
失ったのは仕事では無い。
生きて行く目的を見失ったのだと。 - 5暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:09:23
深夜。
古びたアパートの一室で、私は椅子に座っていた。
窓の外には三日月。
足元にはワインボトル。
ワインボトルには、一滴のワインも残っていない。
テーブルの上に手を伸ばし、私はタバコに火を着ける。
何もかもが、全てが遠い、遠くへ行ってしまった。
誰のせいでも無い、何かが少し嚙み合わなかった結果だ。
そう、歯車が少し狂った、それだけの事だろう。
そう、そうだな。少し疲れた。
煙を吐き出しながら、私は目を閉じる。
そして、過ぎ去りし日々を思い出す。
輝く緑のターフをライバルたちと共に疾走した日々を思い出す。
夢は終わらないと信じて、走り抜いた日々を。
青空、芝の匂い。
全てが遠い。 - 6暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:12:22
微睡み掛けた時。
アパートのドアが軋む音を聞いた。
こんな夜中に、誰か来たのだろうか。
いや、私を訪ねる者なんて、もう誰もいない筈だ。
私は立ち上がる事も、顔を上げる事もしなかった。
小さな足音が聞こえ、そして私の傍らで止まった。
気のせいでは無く、誰かが来たのだ。
私はゆっくりと目蓋を開き、顔を上げた。
そこには、漆黒のドレスを纏った小柄な娘が立っていた。
月の光の様に白い肌。
艶やかな長い髪、煌めくスミレ色の瞳。
そして胸元に青い薔薇。
「目指した場所は、ここですか?」 - 7暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:14:07
「目指した場所は、ここですか?」
透き通る声だった。
震える鈴の様に、その声は微かに震えていた。
「誰だ、お前は……?」
私は尋ねる。
尋ねはしたが、実際のところ、誰でも良かった。
強盗でも、泥棒でも、もはやどうでも良かった。
もはやこの世に用は無い、そんな気がしていた。
紫煙に霞む視界の中、娘は寂しげに微笑んだ。
「――祈りを経て、ヘビは古き躯を捨てて蘇るの」
「何を言っている……?」
トーク帽で気づかなかったが、この娘には私と同じ耳があった。
ウマ娘なのか? しかし誰か判らない、見た事の無いウマ娘だ。
娘は私を見つめたまま、再び囁いた。
「ここは、あなたが願い、目指した場所ですか?」
「そんな風に見えるか……?」
自嘲気味に私は笑う。
この娘が誰なのか分からない。
ひょっとしたら、アルコールの過剰摂取で見た幻覚かも知れない。
幻覚が、話し掛けて来るとは。
いよいよ私も潮時か。 - 8暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:16:42
「……散々に走った。走り抜いた。私は幸せだった」
幻覚相手に私は答えた。
そしてまた笑う。
笑ってしまう。
幻覚相手に私は何を言っているのだろう。
「やがて走れなくなって、それでも私は幸せだった。私の夢を継いでくれる子供たちがいたからな」
幻覚の中で揺れる娘から視線を逸らす。
窓の外に浮かぶ、三日月を見上げる。
「まあ……それも終わった。戦争が全てを塗り潰した」
白々と光る三日月が、朧に滲む。
息を吐きながら言った。
「現実って奴はな、祈り程度じゃ覆せないのさ。目指した場所はここじゃ無くても、ここが私の終着駅なんだよ」 - 9暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:20:20
その時、頬に冷たい感覚が伝うのを感じた。
目の前に佇む娘が差し伸べた、白い手の細い指先だった。
その指先は、酷く冷たくて。
この娘は、幻覚では無いのだと知った。
幻覚で無ければ、何だと言うのか。
この冷たさは、何だろう。
私は娘を見た。
「お姉さま……」
耳朶を打つ優しい声。
それは月の光を思わせる、たおやかな声だった。
「……ここが終着の場所で、本当に良いの?」
スミレ色の瞳が、私の眼を覗き込む。
胸元に飾られた、青い薔薇の花びらが揺れる。
「お姉さまの理想は月の光すら届かない、こんな場所で本当に良いの……?」
「良いわけがあるかっ……!」 - 10暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:21:07
澄んだ瞳から視線を逸らし、私は吐き捨てる。
良いわけ無い。
良いわけなんか無い。
でも。
「でも、だからって、どうしろって言うんだ……こんなザマで、どうすりゃ良いんだよ……」
そうだ。
もう、どうしようも無い。
もう、どこへも行けない。ここが終点だ。
どうにかする方法なんか、あるわけ無い。
「神様にでも祈れってのかよ……」
三女神に祈ってどうにかなるってのか。
女神様にだって、神様にだって無理だ。
もし神様がいるなら、こんな酷い事になるわけが無い。 - 11暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:23:17
冷たい指先が滑り、私の頬を小さな手のひらが包む。
やはり冷たい手のひらだった。
「お姉さまの心に、まだ先を目指したいという想いがあるのなら――」
白い手のひらが首筋へと滑る。
黒いドレスを纏った華奢な身体が、私に寄り添う。
そのままそっと、抱きしめられた。
「――私たちが、古い躯を捨てる為の、祈りを捧げてあげる」
小さな身体もまた冷たかった。
でも、耳元で囁かれる小さな声は、不思議と暖かで。
陽だまりの中にいるようで。
「お姉さまは、どうしたいの?」
ああ。
この娘が幻覚で無いのなら。
死神か、悪魔か、何かなのだろう。
悪魔が、取引を求めているのかも知れない。
ならもう、それでも良い。
ここでくすぶって、何もかも消えてしまうくらいなら。
私は悪魔にでも、何にでも、魂を売って構わない。
幻覚か、死神か、悪魔か、何か分からないモノに、私は告げた。
「もう一度……走りたい……」 - 12暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:26:16
「信じられません! 栄えある宝塚記念で、また、とんでもない事件が発生しました!」
アナウンサーの声がテレビより響いた。
その顔面は蒼白だった。
「出走直後! 観覧席より飛び降りた一人のウマ娘が、いきなりレースに乱入したのです!」
液晶モニタの中では、何度も再現VTRが流されていた。
「レースは中断されず続行されたわけですが、しかし乱入したウマ娘は、最後尾から十八人をごぼう抜き! 一着でゴールを決めました!」
「そのまま乱入したウマ娘は姿を消し、消息は不明! 一方、宝塚記念を正式に一着で制した筈のウマ娘・ジャラジャラさんは、記者団のインタビューに答える事無く姿を消しました!」
「これで重賞レースへの乱入事件は三件目です! いったい何が目的なのか、彼女たちはいったい何者なのか! 厳重な警備が成されていたのにも関わらず、どうしてこんな事が起こってしまうのか……」
理事長とたづなは、その映像を食い入るように凝視していた。
やがて理事長は口を開き、叫んだ。
「危機ーーー!!」 - 13暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:27:45
「はい!」
理事長の叫びに、たづなは力強く応じる。
その表情は何時に無く切迫したものだった。
「このままではいかん! すぐにでも手を打たねば!」
「はい!」
「毎度毎度、黒い勝負服で乱入して来る彼女達を、何としても止めねばならない! 何時までもあんな暗黒ウマ娘たちに! レースを荒らされて良いわけが無い!」
「はい!」
立ち上がった理事長は、扇子を広げると宣言した。
「暗黒ウマ娘たちは、我々『トレセン学園』が迎え撃つ! URAファイナルズに彼女たちを招き、正式に勝負する事で決着としたい!」
「はい!」
レースに乱入する漆黒のウマ娘たちはいったい何者なのか!?
その目的はいったい!?
トレセン学園の精鋭たちは、果たして暗黒ウマ娘軍団を止める事が出来るのか!?
・・・という話を妄想したんやが。 - 14二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 02:31:51
お
始
物
ウマ娘版、魔界転生を続けたまえ。
乙 - 15暗黒ウマ娘軍21/11/27(土) 02:34:35
全身に梵字を書き込んだゴルシが迎え撃つ感じで。