- 1121/11/27(土) 21:25:30
「ライス、今度の週末に私の家に来ませんか」
少しためらいがちな様子のブルボンさんにそう言われたのは、最近毎日続けている並走が終わって休憩している時だった。
「家……? ブルボンさんのおうちってこと?」
「それ以外にあるとは思えませんが……」
「どうして?」
「理由が必要ですか? 親しい友人を家に呼ぶのは当たり前だと父が……あの、嫌であれば断ってもらっても……」
「う、ううん! とっても嬉しいよ! ただいきなりだったからビックリしただけ! ブルボンさんとブルボンさんのご両親がいいのなら、お邪魔してもいいかな……?」
そう言うと、ブルボンさんの顔がパッと明るくなった。
「ミッション『ライスを家に誘う』の第一段階をクリアしました。ステータス『高揚』を確認。早速両親に伝えてきます」
そういうと、ブルボンさんは足早に去っていった。少し浮足立っているように見えて、ああいうブルボンさんは珍しい、と思う。でも。
「ふふっ。ブルボンさんのおうちかあ……楽しみだな」 - 2121/11/27(土) 21:26:01
「ただいま帰りました」
「お邪魔します……」
ブルボンさんのおうちに入ると、ご両親が出迎えてくれた。
「おかえり、ブルボン! あら、その子がライスちゃんね。可愛いわー」
「あ、あの、ライスシャワー、です」
この人がブルボンさんのお母さま。とても美人だ。ブルボンさんによく似ている。
「ブルボンの父です。ライスさんのことはブルボンからよく聞かされているよ。さあ、中へ入りなさい」
ブルボンさんのお父さまは、なんて言ったらいいんだろう、厳格?な雰囲気の人だ。
でも顔には笑みが浮かんでいるので、歓迎されていると思う。たぶん。
中に入ると食事が用意してあった。
「少し早いけどお昼にしましょう。お父さんが珍しく料理するって張り切って……」
「それは確かに珍しいです」
「いや、そんなに珍しいかな……」
ブルボンさんは笑顔だ。ライスやバクシンオーさんたちの前でも笑顔にはなるけど、ご両親の前ではまた違う笑顔のような気がする。
4人で食卓を囲んでオムライスを食べた。滅多に料理しないと言っていたけどとても美味しい。聞くとブルボンさんのお父さまは元トレーナーさんで、お母さまとはトレセン学園で知り合ったとか。
トレーナーさんはウマ娘の世話を色々しないといけない。料理が上手いはずだ。
「ライスさん、ブルボンは学園で迷惑をかけていないかい」
「いえ、迷惑なんて……! むしろライスが迷惑かけてるくらいで……」
「ライスに迷惑をかけられた覚えはないと記憶していますが……」
「そうかなあ」
「ブルボンがいつも話してる通りのいい子ねえ。練習にも遅くまで付き合ってくれるって……。そうだ、レースも見てるわよ! とっても速いのねえ!」 - 3121/11/27(土) 21:26:43
少しだけ、ほんの少しだけ、どきりとする。レース。菊花賞のことを思い出す。
ブルボンさんのご両親も見ていただろうか。いや、きっと見てる。どう思っただろう。三冠を阻まれて、がっかりしただろうか。
ブルボンさんのご両親に限って、絶対にライスを恨んだり嫌ったりはしていないとは思うけど。
「お母さん、ソファーを新調したのですか」
「ああ、そうなのよ。前のやつ、随分くたびれていたもの」
ライスの気持ちを知ってか知らずか、ブルボンさんが話をそらしてくれた。少しほっとする。ダメだなあ……あの時一番悔しかったのはブルボンさんなのに。
和やかな空気のまま食事が終わると、ブルボンさんのお母さまは台所へ食器を洗いに立った。
ライスも手伝おうとしたら、ブルボンさんに「お客さまは座っていて下さい」と制止された。代わりにブルボンさんが台所の前に立つ。
真正面のお父さまと二人きりになった。
「……ライスさん、娘と仲良くしてくれてありがとう」
「え? あ、いえ、ライスの方こそ……」
「あの子はとても優しい子だ。でも少し、感情を表に出すことが苦手で……私に似てしまったのかと、親としてはいささか心配だった。でもライスさんのような友達がいてくれるのなら、安心出来るな。何しろ君はあの時……いや、何でもない」
「?」
急に話を切ってしまったけれど、ブルボンさんのお父さまは穏やかに微笑んでいた。 - 4121/11/27(土) 21:27:12
その後はブルボンさんの部屋でSF映画を見たり、二人でお菓子を作ったりして過ごした。ブルボンさんは料理も凄く上手い。器用で羨ましいな。
「少し離れていますが、町はずれに景色の綺麗なところがあるんです。一緒に行きませんか」
ブルボンさんにそう言われたので、散歩がてら二人で歩くことにした。ブルボンさんの故郷は自然が豊かでとても空気がいい。
「ライス、今日は来てくれてありがとうございました。ステータス『満足』を確認。とても楽しかったです」
「うん、ライスも楽しかったよ」
ブルボンさんの目的地は少し高いところにあるらしく、途中から坂道になった。
「疲れていませんか、ライス」
「平気だよ……ブルボンさんは?」
「余裕です。この日のために新しい足に換装して来ましたから」
「え?」
「メカジョークです」
「……ふふ」
そんなに急な坂道ではないのでウマ娘のライスたちにとっては楽だ。しばらくして、目的地の高台に着いた。もう日が暮れかけている。
「わあ……町が一望できて……とっても綺麗な場所」
「はい。ぜひライスにも見てもらいたくて、連れて来てしまいました。昔から大好きな場所です」
「うん……素敵なところだね……」
「……これで、今回のミッションは全て完了です。ライスが来てくれて、私ももちろんですが両親も喜んでいました」
「そんな。ライスはおまけみたいなものだよ」
「いえ、両親は前々からライスに会いたがっていましたから。本当ですよ」
「なんで? なんで、そんなにライスに……?」
ライスが尋ねると、ブルボンさんは少し考える仕草をした。言おうか言うまいか、迷っているようにも見える。でも言うことを決めていたのか、すぐに口を開いた。 - 5121/11/27(土) 21:28:07
「ライスには思い出したくないことかもしれませんが……あの菊花賞の後、私の両親はライスのことをひどく心配していました。あのレースでは誰も悪いことなんてしなかった。でもライスのことを悪く言う人がたくさんいて……両親も元トレーナーとウマ娘と言う関係でしたから、ライスがどんなに傷ついたかよく分かったのでしょう」
ああ、やっぱりライスはバカだなあ。ブルボンさんのご両親は、ライスのことを心配してくれていたんだ。それなのにライスは……。
「それで私とライスが親しくなったと聞いた時、とても喜んで。父は言っていました。あんなことがあった後で友人になってくれる子、ライバルになってくれる子は貴重だ。大切にしなさいと」
「そんなことを……」
「私は、ライスと出会って少し変わったと思います。以前と比べて、些細なことで感情が揺れたり、物事を深く考えることが増えました。それは私が弱くなったのではなく、むしろ強さを得たのだと思っています。だから父の言う通り、大切にしたい」
ブルボンさんが微笑みながらライスを見る。夕日に浮かぶブルボンさんの表情はとても綺麗だった。
「あなたがあの日、私に食らいついてきてくれたから、今の私があります。ライス、あなたが良ければ……これからもずっと、私の隣にいて下さい」
「ブルボンさん……うん、うん……!」
胸が熱くなる。こんなに幸せなことってあるだろうか。ブルボンさんと出会えて良かった。
あの日一生懸命走ったことは間違いじゃなかった。
「そうだ。もう一つ、大事なタスクがありました」
「なに?」
「今度は私が……ライスの家にお邪魔したいのですが。ダメ、でしょうか」
なんだ、そんなこと。
「うんっ! 大歓迎だよ!」
おわり。 - 6二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 21:30:32
こいつ! やりやがった!
本当にミホライSSを書きやがった!!
♡つけてやる! - 7121/11/27(土) 21:30:41
お読みいただきありがとうございました!
何かあとがきしようと思ったけど何も思いつかないのでこれにて終了!
ミホライはいいぞ - 8二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 21:54:44
ミホライ流行れ
- 9二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 21:55:24
ありがとう…それしか言葉が見つからない…
- 10二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:29:27
おお…
- 11二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:30:38
アイスティーしか無さそう
- 12二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 10:43:40
しゅき…
- 13二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 10:53:32
ブルボンライスはいいぞ
- 14二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 11:18:13
よかった、みんないい人たちで読んでてほっこりできるね
某師匠の因子が継承されてたけど… - 15二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 11:20:38
良いね