剣先ツルギに心を折られたい

  • 1二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:23:23

    初めは鳥の鳴き声のように聞こえた。真夜中に、それも薄汚いブラックマーケットの片隅に野鳥などいる筈もないだろうに。
    今日の取引相手は周りの音など気にも留めていないらしく、アタッシュケースの中の札束を丁寧に数えている。これは油断ではなく余裕の態度と言っていいだろう。
    私の部下と彼が引き連れてきたボディーガード、合わせて22人もの戦力がこの狭い路地に詰め込まれているのだから。何も事件など起こりようがない。
    起こりようがなかった。起こり得なかった筈だったのに。
    「クキ……キッ……キヒィアアア"ァァ"ッッ!!」
    鳥の声が近づく。けたたましく、耳障りに。そして地獄から響いて来たかのように重苦しく。
    私は反射的に懐へ忍ばせていた銃へ手を伸ばした。危険への素早い対応力は、私が持つ能力の中でも誇るべき一つだった。
    ──安全装置を外すまでの時間で私は半分の部下を失った。
    上空からミサイルを撃ち込まれたかのような衝撃波が走る。砕けたコンクリートの破片は弾丸のそれにも劣らない威力で降り注ぎ、駆け抜けてきたモノが腕自慢の護衛達をまとめて轢き潰す。
    「何だ」、と言いかけた所で私の取引相手が宙を舞った。目算で5メートルほど、私の頭上を越えて廃材の山に突っ込み、動かなくなった。
    現れた者はその場所を奪い取るようにして立ち、異様に見開かれた目でギョロギョロと周りを見渡す。
    「けひ……ぎひひひひひっ!」
    鳥、などではなかった。しかしその者を人間と呼ぶ事に私は激しい抵抗を覚えた。
    薄闇から滲み出たような赤と黒。捩れた姿勢と、その骨が飛び出したかのような翼。幸運にも……いや、不幸にも初撃で倒れなかった私達へ向けられる血色の散弾銃。
    「う……うわああぁっ! 逃げっ」
    いち早く叫んだのは私の右腕たる優秀な部下だった。
    どがん、と。暴力的な発砲音が轟いて彼女の言葉は途切れる。……判断は正しかった。しかし遅すぎたようだ。もう間に合わない、彼女も、私も。
    枯葉が枝にしがみつく光景の方がまだ見応えがあるだろう。赤黒いシルエットが放つ暴力は抵抗どころか悲鳴を上げる事さえ許さなかった。爆音が1度響くたびに数人ずつ蹴散らされていく。
    私はそれを他人事のように眺めている。手に取ったばかりの銃をしばらく眺め、それから捨てた。長い間使ってきた得物だったが、今の私にはもう無用の品だ。

  • 2二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:23:37

    破壊と暴虐を振りまくこと十数秒。最後に、彼女は座り込んだままの私の前に立った。首を90度傾けて私を見下ろしている。
    意外にも走馬灯は見えなかった。何も脳裏に蘇るものが無い。ゆえに現実逃避さえ出来なかった。私は絶望的に立ちはだかる壁を弱々しく見上げ返す。
    怖い。初めて罪のない人を撃った時にもこんな恐怖は感じなかったかもしれない。
    だが、仕方ない。あらゆる罪には然るべき報いが与えられると分かっていた。私の番がとうとう回ってきたのだ。私にできるのは、粛々とそれを受け入れるだけ。
    「………………ごめんなさい……」
    一瞬、口から漏れ出したのが自分の言葉だと信じられなかった。何を言っているんだこの女は、と自分自身に対して思ってしまった。
    「ごめんなさい……私の、負けです……許してください……す、全て……貴方に引き渡します……」
    「…………」
    惨めで堪らなかった。今からでも高笑いを上げて銃を拾い、そして無惨に蹴散らされる方が悪党として美しい道筋のように思える。
    愚にもつかない私の懺悔を、論じるに値しない私の命乞いを、彼女は何の感情も見出せない表情で聞いていた。
    ……あぁ、出来ない。この女に、私はきっと一生立ち向かえない。
    「ど、どうか……お願いします……ど、どんな償いでも……」
    「……こっちだ! ツルギ委員長! 援護部隊、到着しましたーっ!」
    ハッと振り返ると、路地の向こうから黒い制服の女子生徒たちがこの場に駆け寄ってきつつあった。
    気にかかったのは『ツルギ委員長』との言葉。噂だけは聞いた覚えがある。トリニティ総合学園、その秩序を守る正義実現委員会には『戦略兵器』がいると。彼女が"それ"なのだろうか。
    再び正面を向き直った時、彼女はもうこちらに背を向けていた。見ている側が不安になるほどの猫背で、何事も無かったかのように歩いていく。
    「……! 例の手配犯! 確保! 全員確保ー!」
    「う、うわ……犯罪者とはいえこの怪我は……。救護騎士団にも連絡を! 重傷者がえーっと、5、6…」
    私が困惑している間にわちゃわちゃと、正義実現委員会のメンバーであろう生徒たちがあちこちに散らばり始める。私にも銃が向けられた。手を上げろとか何とか言われているのが聞こえる。
    指示に従いながら、私は去っていく彼女の……正義実現委員長の背を見ていた。目を離せず、折られた心に焼き付けるように、ずっと見ていた。

  • 3二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:24:06

    って感じで折られたい…

  • 4二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:35:52

    うわぁいきなり落ち着くな!
    立ち位置が特殊過ぎない???

  • 5二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:36:52

    人の世の理で悪事を働いていた悪党がそれの通じない暴力の化身に全てを投げ捨てて命乞いをしている姿、好きですよ

  • 6二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:38:21

    もう二度と立ち上がれないねぇ…

  • 7二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:40:12

    >>4

    いやでも圧倒的な力になす術なく心折られたいってのはちょっとわかるよ、出来ればその後踏み躙って欲しい

  • 8二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:42:04

    最終的に手を下されることもなくツルギは背を向けて去っていく辺りに癖を感じる、イイと思う

  • 9二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:46:03

    好き
    他の強キャラ蹂躙シリーズも見たくなるな

  • 10二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:46:09

    何が起きてるか分からない内に半壊しちゃって理性の方が諦めちゃうのかわいいね…
    この日の事をずっと夢に見たりしながら健全に生きていこうね…

  • 11二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:47:45

    「片付けておけ」とばかりに無防備に背中を向けて立ち去るのかっこいい

  • 12二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:56:49

    特等席で何もせず仲間が吹き飛んでいくのを眺めたい気持ちはある いっそ楽しみたいまである

  • 13二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 22:58:46

    キヴォトス最強クラスの生徒で命乞いするならやっぱネルかツルギだなという気持ちはある

  • 14二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 23:05:01

    >>13

    わかる

    ネルにはもう終わりかよ?みたいな反応されたいし鼻で笑って見逃されたりしたい

  • 15二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 23:10:33

    >>13

    自分で言ってて思ったけど、やっぱ命乞いしたあと雑に処理を他人に放り投げるやつが好きなのかもしれない

    ヒナ・ホシノ・ミカは殺ると決めたら殺りそうだけど、ネル・ツルギは戦意喪失したら自分では手を下さなそうなのが良い

    敗北という結果すらなく、勝てないという恐怖だけで膝を屈して2度と立てなくなるのいいよね……

  • 16二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 23:17:32

    >>11

    部下たちがその辺の事わかっててきびきび動いてるのもまた良い

    この相手側の壊滅的な状況もいつものことなんだなって

  • 17二次元好きの匿名さん23/05/03(水) 23:22:39

    ぶちのめされるのが癖になるとかじゃなくて完全に折られるのが良いのか…世界は広いな

  • 18二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 00:13:17

    絶対強者に体より心を折られたいという気持ちはよくわかるぜ、俺もそうだ……

  • 19二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 09:49:58

    刑務所でもずっとトラウマになってるんだろうな……鳥の鳴き声なんかに怯えたり

  • 20二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 10:52:01

    この子にツルギが先生とイチャイチャしてる所を見せたらどうなるだろうな
    ポッキリいってた心がまた別の方向にひん曲がるのかな

  • 21二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 21:19:22

    >>16

    出番を奪うようだけどこれが結局被害が少ないからなぁ

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