- 1二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:06:40
- 2二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:06:54
「うん……」
パーマーの手には招待状が握られていた。
楽しげな響きの催し物だったが、パーマーは浮かない顔をしている。
「行きたくない感じ?」
「そういうわけじゃないんだけど……これってメジロの本家に来たものだから」
「パーマーだってメジロのお嬢様でしょ?」
「……私はお嬢様なんてガラじゃないよ」
パーマーの目と耳はしょんぼりと伏せられていた。
ウチはパーマーが学園に来るまでにどんなことをしていたか知らない。
誰にだって話したくないことはあるし、ウチも無理に聞く気はなかった。
だって今が楽しいのが一番だから。
そんな軽はずみな考えでウチは口を開いた。
「ねえ、パーマー。それってウチもついて行ってよかったりする?」
パーマーは目を丸くした。
「それは全然大丈夫だと思うけど……いいの?」
「いいっていいって!ウチも参加してみたいし!」
にっと笑うとパーマーも安心したように微笑んでくれた。 - 3二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:07:08
「……ドレスの着付けって大変なんだね」
「あはは、お疲れ様ヘリオス」
メジロ家のお付きの人に手伝ってもらいながら着付けを終えたウチはぐったりと椅子に座り込んでいた。
対照的にパーマーはリラックスした様子だった。
「ヘリオス知ってた?昔はコルセット着けるだけで一時間かかってたんだってさ」
「マジか……昔の人パないな……」
顔を上げるとパーマーがこちらを見つめていた。
「ど、どしたんパーマー?」
「ん?ドレスを着たヘリオスもかわいいなあって」
かあっと頬が熱くなる。
そういえばドレスに合わせてメイクもいつものギャル風のものとは違うメイクにしていた。
なんだかパーマーに違う自分を見せているようでますます頬が熱くなってしまう。
「お嬢様、そろそろ……」
お付きの人がパーマーに声をかける。
パーマーに手を引かれて会場に入る直前、彼女に声をかけた。
「ぱ、パーマー!」
「どしたん?」
「ドレス、似合ってる、よ」
きらきらした誉め言葉や気の利いたセリフは出てこなかった。
それでもパーマーは嬉しそうに微笑んでくれた。 - 4二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:07:22
会場にはたくさんの人たちがいた。
しかも大人ばかりで成年に達していないのはウチらしかいないようだった。
それだけでも萎縮してしまうのに、会場にいる人たちはみんないかにも上品という感じで。
ウチが普段住んでいる世界とは違う住人に見えてしまった。
パーマーは迷わずある初老のおじさんのところまで歩いていった。
「おじさま、お久しぶりです」
「おお、パーマーちゃんか。大きくなったねえ」
にこやかに話す二人の横でウチは所在なく立ち尽くすだけだった。
「ところで横にいる子は……」
ウチに目線が集まる。
震える唇を開く。
大丈夫、いつもみたいにノリと勢いで……。
いつもみたいって、どんなだっけ?
もしもウチがヘンなことを口走ってしまったら。
ウチだけじゃなくてパーマーにまで迷惑がかかってしまう。
そう思うと声が出てこなくて。
目の前の世界がぐるぐると回りはじめる。
不意に肩を抱かれた。
「はい、私の親友で大切な人です」
肩に置かれたパーマーの手にウチはひどく安心してしまった。
ぺこりと頭を下げると初老のおじさんは微笑んでいた。
よかった、なんとかなった。
パーマーに支えられながらほっと胸をなでおろした。 - 5二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:07:37
フラフラのウチをパーマーが会場隅の椅子が並んでいるところに運んでくれた。
「ヘリオス大丈夫!?顔真っ青だよ!?」
パーマーが心配そうな目でウチの顔を覗き込む。
あわてて作り笑いを貼りつける。
「へーきへーき、ちょっと疲れただけだから」
「でも……」
お付きの人がいつ取ってきたのか水をウチに差し出しながらパーマーに話しかける。
「お嬢様、ほかの方にも挨拶をしてまいりませんと……」
「だ、ダメだよ!ヘリオスを放ってなんか……!」
水を一口飲む。
少し頭がはっきりした気がする。
「ウチのことは気にしなくていいよ、パーマー。お付きの人もごめんね、メーワクかけちゃって」
まだ心配そうに見つめるパーマーたちを送り出した。 - 6二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:07:52
にぎやかな会場の片隅に座ったまま水を口の中に流し込む。
コップ越しに見えるドレス姿のパーマーはウチと話しているときとは全然違っていて。
きらびやかで、上品で、優雅で。
ウチと違う世界にいるみたいだった。
おなかが痛い。
さすろうとするとこつんと硬いコルセットに当たった。
ぽろぽろと涙があふれてしまう。
このままじゃまずいと思って会場を出る。
なにも考えられずに来た道をたどり、控室に飛び込んだ。 - 7二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:08:16
ドレスを脱ぎ捨ててコルセットに手をかける。
しかし、お付きの人にやってもらったせいで脱ぎ方がわからない。
情けなくなってそのまま床に座り込んでしまった。
自分のすすり泣く声だけが部屋に響く。
涙で閉じられたまぶたの裏にはガラス越しに映るパーマーの姿が貼りついていた。
突然、別の音が部屋に飛び込んできた。
「ヘリオス!」
パーマーの声。
顔を上げる間もなく抱きしめられた。
「大丈夫!?うん大丈夫じゃないね、ごめん!早く帰ろう!」
慣れた手つきでコルセットが外される。
胸のつかえまで取れてしまったみたいで、ウチの目からもっと涙があふれてしまった。
「だ、ダメだよパーマー、勝手に帰ったらパーマーが怒られちゃうよ……」
「門限があるからって言ってきたからヘーキ!多分!」
そう言いながらパーマーは自分の分のドレスやコルセットを脱ぎ捨てた。 - 8二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:08:40
いつの間にかウチらは下着姿のまま見つめ合っていた。
「……ごめんヘリオス、無理させちゃって」
ウチはなにも言えず、ただぶんぶんと首を横に振るばかりだった。
「最初に挨拶したおじさまいたでしょ?あの人昔から私をかわいがってくれててさ」
パーマーの手がウチの頬にそっと触れる。
大きくてやわらかくて、安心する手。
「だからヘリオスが一緒に来てくれるってなったとき、嬉しかったんだ。私の一番大切な人を紹介できるって」
ウチはパーマーに抱きついた。
泣き声が外に聞こえないようにパーマーの肩に顔をうずめる。
パーマーは黙ってウチの頭をそっとなでてくれた。 - 9二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:08:59
制服に着替えたウチらは学園近くの公園を歩いていた。
夜もすっかり更けて月明りだけが公園を照らしていた。
お付きの人はドレスやらなにやらをメジロの本家に持って帰ってもらったらしい。
申し訳ないことをしたなあ、とパーマーは苦笑しながら頬をかいた。
ウチは泣きじゃくったせいでメイクがほとんど落ちてしまった顔を見られないようにうつむいていた。
すると突然、パーマーに顔を両手で挟まれた。
まじまじと見つめるパーマーの目にウチの顔が映っていた。
「ぱ、パーマー!いまウチすっぴんだから!はずいから!」
ウチの抗議に声にパーマーは微笑みで返してきた。
丸裸の自分を見られているようで頬が熱くなってしまう。
そのままパーマーの顔が近づいてきて。
月に照らし出された二人の影が重なり合った。 - 10二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:09:17
- 11二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:09:53
- 12二次元好きの匿名さん21/11/27(土) 23:21:04
極上のきましたね
- 13二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 00:20:58
パーヘリの王道少女漫画風SS好き
- 14二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 00:23:16
乙
おもしろかった! - 15二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 00:31:08
パーマーってお嬢様なんだよね(今更)
- 16二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 00:34:45
グワーッ!好き!!
- 17二次元好きの匿名さん21/11/28(日) 00:42:12
前置き見て上様が出てくるのかと思ったら普通に良い話だった…