IF:映画終盤の帰還の代償に六花への恋心を失ってしまった

  • 1ハピエン至上主義23/05/04(木) 23:26:17

    もしも宇宙規模となったグリッドマンの救出には成功しながらも、裕太自身が飲み込まれないために最も強い感情である六花への想いを対価にしてしまった話。

    あくまで恋心を失っただけで、今までのように記憶喪失はしておらず、六花のことは内海と同じグリッドマン同盟の大切な仲間であり友達としては好きな感じ。

    なんというか記憶喪失だったら何かの拍子で恋心が新たに芽生える可能性も普通にあるけど、恋心を失って友達止まりならそんなご都合展開が起き辛くて失ったものの重さをより実感しやすくなると思って。

    そんなSSを誰か書いてくださらぬか

  • 2二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 23:28:41

    グリッドマン「裕太の六花への強い想いが~」
    裕太「うん、六花も内海も大切な友達だからね!」
    グリッドマン「うぅっユニバース出る…」

  • 3二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 23:33:45

    六花が曇る……

    自分を好きになってもらうようにアプローチする六花さんは見てみたい

  • 4二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 23:38:53

    まーーたグリッドマンが罪悪感でユニバースになって振出しに戻りそう

  • 5二次元好きの匿名さん23/05/04(木) 23:39:43

    内海が最初に違和感に気づくんだろうなぁ…
    そして曇るんだろうなぁ…

  • 6二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:08:14

    夢芽の「立花さんたちもお幸せに」に対する裕太の反応で「ん?」ってなってそう

  • 7二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:08:33

    もう一度恋に落ちれるってコト!!!???

  • 8二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:09:13

    このレスは削除されています

  • 9二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:25:27

    すぐにわかるような変化じゃないところがミソだな
    本格的に発覚するのは学園祭になりそう

  • 10二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:28:04

    なんか六花さんはめちゃくちゃ悲しい表情しながら受け入れちゃいそうで内海とグリッドマンが一番曇りそう

  • 11二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:31:11

    >>8

    友人でなくても誰かの危機なら戦うだろうから大丈夫だな()

  • 12二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:34:54

    裕太の中で恋の概念そのものが無くなったのならかなり厳しいが
    単に恋心がゼロになっただけなら何とかなりそう
    裕太の六花への愛は♾️やで
    またすぐに湧いてくるさ

  • 13二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:35:13

    なんでそんなどこぞのゼロノスみたいな目にあわせるんです…?

  • 14二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:37:29

    ヒーローは特定の大事な人を作っちゃいけないからな(何かあったら悲しませるし自身の弱点にもなりうる)
    自分にしか出来ないことを選んだことでヒーローとしてあるべき状態になれたんだ

  • 15二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:39:12

    六花の事を認識できても記憶することが出来なくなる裕太?

  • 16二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:48:50

    >>15

    どこぞのツンツン頭やんか

  • 17二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 00:50:12

    >>7

    むしろこの展開が見たくなってきた

  • 18二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 02:05:45

    >>15

    それで行こう

  • 19ハピエン至上主義23/05/05(金) 09:27:43

    意外とスレの反応が良かった。
    このまま皆さんの情動を解放してSS書いてくれても良いのよ。

    自分の中でこんな感じかなってやつはあるけど、SS書いたことないしキャラエミュもとちゃんとできるか分からない懸念があるので

  • 20二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 11:26:20

    >>19

    SSはノリと勢いや!!

    ただ今回の題材だと結構長くなりそうだし、プロット作らないと難しそうではある……

  • 21二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 12:48:22

    でもこの人グリッドマンに憑依された直前は六花さんのこと友達と認識してたぞ
    それでも好きになったんだから
    人生5回あっても5回とも六花さん好きになるぞ

  • 22二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 13:45:28

    >>21

    あ、そういえばそうじゃん

    これグリッ太はいつから好きになったんだっけ?

  • 23ハピエン至上主義23/05/05(金) 23:12:55

    >>20

    あざます。では稚拙ながらSS書いてみます。


    ただ、GW中は仕事の関係で中々顔を出せない、

    一応大雑破なプロットはあるのですが、そこからちゃんとした文に起こすのが初めてなので遅いので、スレ落ちしたらご容赦くださいm(_ _)m


    一応もう少ししたら冒頭部分出す予定です

  • 24二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 23:38:19

    >>22

    合コン回以前だろうけど

    ただグリッ太の恋心って皮の影響受けてるっぽいから

    完全に真っさらな状態でもう一度恋できる保証にはならないような

    もう一度惚れることは出来るだろうけどさ

  • 25二次元好きの匿名さん23/05/05(金) 23:45:24

    >>23

    ガンバ(六花ママみたいに

  • 26ハピエン至上主義23/05/06(土) 02:30:46

    お待たせしました。未熟ながらSS書いていこうと思います。人によっては解釈違いな箇所もあるかもしれませんが、ご容赦くださいm(_ _)m

    【視点:六花】

    「内海ーいるー?」

    授業の合間の休み時間に聞き慣れた声が響く。
    ふと目を向けると、そこにいたのはやっぱり響くんだった。
    響くんは2年に上がる際、私と違って文系を選んだ。結果として、今は親友の1人であるはっすと同じ2-Bに在籍しているのだが、私のいるこの2-Fには響くんの親友である内海くんがいる。
    なので学園祭が終わってしばらく経っても、内海くんに会いに割と顔を見せることが多かった。
    うちのクラスとしてもいつもの光景なので、私以外は特に気にするような様子はなかった。

    「お、裕太。どうしたのよ」
    「この前借りたウルトラ作品のBlu-ray見終わったからさ。返しに来たんだ」
    「え、早くない?ちゃんと全話見た?」
    「見たよ。なんていうか勉強になった」
    「本当か!?どの話が一番良かったよ?」
    「えっと……マスコット怪獣がいなくなっちゃう話。すっごく泣けた」
    「47話か!確かにあの回は泣けるよなー」
    「あと最終回!ウルトラシリーズってあんな風に主人公が仲間と別れたりするもんなんだね」
    「いやまあ、あそこまで明確に別れるのはあの作品だけだと思うけど……」

  • 27ハピエン至上主義23/05/06(土) 02:31:31

    どうも内海くんが推しているウルトラ作品の話題で盛り上がってるらしい。正直私としては何が良いのか分からないのだけど、どうやら響くんへの布教は成功しているようだ。
    ……でも聞こえてくるワードがどれも不穏な感じがする。どうしてわざわざそんな作品を見せたんだろう。

    「……あ、もう予鈴鳴りそう。Blu-rayありがとう内海。詳しい感想はまた今度聞かせるよ」
    「おう。またなー」
    「あっ……」

    話が終わってしまったらしい。このままだと響くんが教室に戻ってしまう。私は思わず何か声をかけようと席を立とうとして、

    「っ!!」

    不意に開いた窓から強い風が吹いてきて、思わず目を瞑ってしまう。冷たくて勢いのある風に、自分の髪がブワッと広がるのを感じてーーー

    閉じていた瞼を開いたときには響くんの姿はもうどこにもなかった。

  • 28二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 02:34:04

    雲のむこう約束の場所かな?

  • 29二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 09:10:36

    保守

  • 30二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:15:05

    保守

  • 31二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:18:44

    楽しみだ……!

  • 32二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:34:06

    面白い題材だ

  • 33二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 13:29:07

    一応保守

  • 34二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 14:14:07

    日常なのか怪獣とのバトル入れるのか

  • 35二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 21:19:26

    ほしゅ

  • 36ハピエン至上主義23/05/07(日) 02:14:33

    「そういえば六花さー。結局響くんとは何もないの?」

    ある日の放課後、私はなみことはっすを加えたお馴染みの3人で、いつものように喫茶店で駄弁っていた。

    「何って?別に何にもないよ」
    「本当にー?クラス違うのに学園祭の台本作り手伝ってくれてたじゃん」
    「確かに感想は聞かせてもらってたけど……」

    もう一か月も前になる学園祭。2-Fの出し物はグリッドマンユニバースと銘打った演劇だった。
    一年前、響くんとグリッドマンを中心に私たちの周りで起きていた怪獣との戦いの日々。異世界で繰り広げられたという蓬くん達と怪獣との戦いの日々。そしてついこの間巻き込まれた、文字通りカオスだった戦いの日々……
    私はそれらの戦いの日々を、内海くんの希望も交えつつ何とか文章に落とし込んで、演劇の台本を書き上げた。
    そんな私の脚本に、響くんは拙いながらも感想を述べてくれていたのは事実ではあるのだけど。

  • 37ハピエン至上主義23/05/07(日) 02:16:59

    「……脚本担当は私だけじゃなくて内海くんもいたし。それに、それ言ったらはっすだってクラス違うのに手伝ってくれてたじゃん」
    「うちはホラ、六花もなみこもいるし。たまにしか見に来てないし」
    「その点、響くんはずっと六花達と一緒にいたじゃん。準備期間中殆ど3人で行動してたし」
    「なー?」

    確かに学園祭の準備期間中、響くんは殆どの時間を私たちと一緒に過ごしていた。
    お世辞にも参考になる意見を言ってくれたとは言えないけど、私の一番伝えたかったことに対して最後まで肯定的だったことは嬉しかったのも記憶に新しい。だけど……

    「本当に何にもないから。感想を聞くために台本は読んでもらってたけどそれだけだし」
    「本当にー?」
    「本当ですー。そりゃ友達だからさ、廊下ですれ違ったりしたら話くらいするけど」
    「色っぽい話はないと?」
    「あるわけ無いでしょ。
    私たちは……ただの友達だよ」

    そう、色っぽい話なんて本当に何もない。夏休みに遊びに誘われることも、後夜祭終わりに告白されるなんてこともなかった。
    あの日々と演劇の脚本を通じて自分の気持ちに正直になった今も尚、
    ーーー私と響くんは「友達」のままなのだから。

  • 38ハピエン至上主義23/05/07(日) 02:47:05

    結局あれから2時間くらい駄弁りつつ、女子会はお開きになった。
    私と響くんの関係について、なみこはまだ気にしているようだったけど、途中ではっすの企業案件に話題が移ったことでそれ以上追求されることはなかった。
    今思えば、多分はっすは意図的に話題を変えてくれたんだろう。元々なみこと一緒に悪ノリをすることが多いはっすだったけど、2年に上がってからは、相手の踏み込んで欲しくない所を見極めてやんわりと話題を逸らすようになった気がする。
    それが企業案件も手がけるようになった売れっ子動画投稿者としての能力なのか、それとも最近よく一緒にいるようになった誰かさんの影響なのか。
    どっちなのかは分からないけど、少なくとも今日に関してはありがたかった。

    「……いくら突っつかれても、何もないとしか言えないじゃん」

    すっかり暗くなった帰り道を1人歩きながら、ついぼやいてしまう。きっと何も起きなければ、遅くても学園祭までの間には自分と響くんの関係性は変わっていたのだろう。
    一年前のあの日。ううん、そもそもの始まりだった響くんが倒れる直前に宝多六花は響裕太の想いを知った。そして多くの出来事を経て、宝多六花は響裕太を意識するようになった。
    正直なことを言えば、どちらかが一歩を踏み出せばすぐにでも関係が変わっていたであろうことは2人の親しい友人達には周知の事実であり、少なくとも自分もまた自覚していた。
    だけど、その一歩を踏み出すにはお互いに臆病すぎて、そしてーーー

    「あれ、六花?」

    不意に聞き慣れた声が耳に届いて、ドクンと胸が早鐘を打つ。
    その声は今まさに私の頭を悩ませていた人物であり、どう接するべきか分からなくなり始めている人物であり、

    「響、くん……?」

    私が好きになった男の子が、不思議そうな顔で私を見つめていた。

  • 39ハピエン至上主義23/05/07(日) 02:49:25

    遅くなりましたが、今日の分になります。
    文章、特に地の文書くのメチャクチャ難しい……常日頃からSS書いてる人マジで尊敬します。

    GWは明日まででそれが終わったら仕事がひと段落するはずだから、書き溜め出来るといいなぁ……

  • 40二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 08:14:03

    地の文あるのすっごく助かる
    面白いとても

  • 41二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 17:01:47

    保守

  • 42二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 00:58:57

    期待

  • 43二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 01:10:06

    また新しいタイプの曇らせユニバースを開発してやがるなと思ったらSSまで始まってた

    まぁ本家も割と道中は曇天模様か、最後さえハッピーエンドなら何してもいい的な

  • 44ハピエン至上主義23/05/08(月) 01:13:57

    お待たせしました。本日分投稿です。次回から少しだけ視点が変わります。
    ……しかし六花さんに恋心持ってない裕太とか最早ただの別キャラでしかないな。

  • 45ハピエン至上主義23/05/08(月) 01:17:28

    「どうしたのこんな時間に。ひょっとして今帰りなの?」
    「あー……なみこ達と話が盛り上がっちゃってさ。ついでだから夜ご飯も一緒に済ませて来たところ」
    「あ、そういうことか。確かに友達と過ごしてる時って、気づいたら一気に時間流れてるもんね」
    「それなー」

    クスクスとお互い笑い合う。一瞬前は思わぬ人物の登場で動揺しかけたけど大丈夫。多分私は今自然に笑えてるはずだ。

    「そういう響くんこそこんな時間にどうしたの?響くんの家ってこっちの方向じゃないでしょ」
    「俺も今帰り。中学時代の後輩が演劇のチケット用意してくれてさ。さっき見終わったからこれから帰るところなんだ」
    「演劇?」
    「そう、地元の劇団演劇。ほら学園祭前に六花達の台本の参考になるんじゃないかって内海と演劇観に行ったじゃん。あれから舞台にハマっちゃってさー、時間が合ったら観に行ってるんだよね」

    そう言いながら響くんは今日見てきたという演劇のチラシを見せてくれる。……実を言えば私と響くんの関係は、以前とは少し変わっていた。
    以前の響くんは私と話す時どこか落ち着きがないというか、悪く言えばたまに挙動不審なところがあった。目が合ったと思ったらすぐに目を逸らしたり、そのくせすぐにチラチラとこっちを見てきたり。ぎこちない笑顔を浮かべたかと思えば、ちょっとしたことでアワアワしたり、顔が赤くなったり。まるで子犬のようにコロコロと表情が変わる姿や反応は、呆れることも多かったけれど基本的には好ましく感じていた。
    だけど最近の響くんにはそんな様子は欠片もなく、端的に言えば落ち着いている。
    今だって見てきた演劇の感想を笑いながら話しており、そこには以前のような落ち着きのなさや緊張感なんて全く感じられない。まるで内海くんと話している時のような自然体で私とも話すようになっていた。

    「ーーーと、そんな訳でさ。結構良かったから、今度別の舞台も見に行こうと思うんだよね。良かったら六花も一緒に行く?」
    「え、私!?」

    思わぬ誘いに声が裏返りそうになる。響くんからこんな風に誘いを受けるのなんて随分と久しぶりだ。学園祭を通じて少しだけ演劇に関心を持つようになったし、響くんがここまでオススメするなら興味も湧いてくる。
    私は少しだけ逡巡して、

  • 46ハピエン至上主義23/05/08(月) 01:22:29

    「……興味はあるけど、時間が合うかは分かんないし、私のことは気にせず見てきなよ」

    今の響くんと同じ時間を過ごす自分が想像できなくて、結局断ることにした。

    「確かに。六花とはクラス違うし、色々勝手が変わってくるよね。残念だけど仕方ないね」

    対して響くんは残念そうでこそあったけど、私の返事そのものにはあっさり納得していた。すんなりと引く姿に少しだけ胸が痛む。

    『何か参考になればって思って……一緒に、行かない? 演劇』

    いつかの球技大会の日。あの時も同じように演劇に誘われたことがあった。あの時は予定が合わなかったため断ってしまったが、その時の響くんの顔はとても残念そうだったのを覚えている。だけど今は……

    「ってもうこんな時間か。ごめんね六花、帰り道の途中なのに引き留めちゃって」
    「ううん、全然。ママには遅くなるって連絡してあるし、ウチまで近いしね」
    「それなら良かった。あ。でも夜遅いし、家まで送ろっか?」
    「そんな気を遣わなくても全然大丈夫だよ。迷子って訳じゃないし、何も危なくなんてないし」
    「本当?でもなんかお化けとか出てきそうじゃない?」
    「出るわけないじゃん。ひょっとして響くんの方が怖いんでしょ」
    「俺は大丈夫。いざとなったらグリッドマンに助けてもらうし」

    自信たっぷりにアクセプターを見せる響くんに、知らず笑みが溢れそうになる。つい最近気づいたことだけど、私は彼が見せる子供っぽい表情や仕草が私は好きみたいだ。……以前と比べると、そんな表情を見ることは殆ど無くなってしまったけれど。

    「じゃあね六花。また今度お店に遊びに行くよ」
    「うん。また、ね」

    そのまま響くんと別れ、各々の帰路に向けて歩き出す。ふと、何となしに響くんの歩いた方向を振り返ってみると、響くんは迷いも名残惜しさも感じさせずに真っ直ぐ歩いていた。
    ……多分、今の私のように振り返ることなくこのまま帰るんだろうということが何となく察せてしまう後ろ姿に、胸がチクリとしてしまう。

    「あの日」に、そしてグリッドマンからも伝えられ、ついこの間まで響くんから感じていた自分に対する好意。
    ーーーそんなものは自惚れと自意識過剰による幻想だったんだと、そう思えてしまうほどに。

  • 47二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 08:20:42

  • 48二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 16:19:56

  • 49二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 20:18:07

    なんという良SS・・・
    隠していた独占欲が漏れ出ちゃうシチュってなんかいいよね

  • 50ハピエン至上主義23/05/09(火) 00:32:52

    お待たせしました、一時的に内海視点になります。

    【視点:内海】

    「六花と響に何があったん?」

    ある日の放課後、2人で暇を潰している最中にはっすはそんな切り出しをしてきた。

    「……やっぱ、気になる?」
    「気になるっていうか、あんだけ年がら年中「六花大好き」オーラ出してたやつがそのオーラ消したらビビるでしょふつー」
    「オーラって。まあ分かるけどね」
    「響のあれって1年の頃から露骨だったじゃん。最近の小学生でももう少し上手く隠すってのにさ。多分気づいてたのうちらだけじゃないっしょ」
    「まあ俺は……俺も気づいてたし、そうでしょ」

    あくまでも世間話のような軽口につられて「俺は本人から直接相談を受けたしなー」、なんて口にしそうになるがギリギリで押し留める。いくら周りに気づかれていたとしても、それを本人の知らないところで言いふらすのは何となく憚られた。

    「今思えば準備期間に入ってからの響ってなんか積極的にあんたらのクラスに入り浸ってたし、学園祭終わりで決着つける気だったんでしょ。ターボ先輩?」
    「そこはノーコメントで、あとターボ先輩はやめい」
    「でもあれから暫く経っても何にもないし。ひょっとしたら上手く隠してんのかなって、それとなく響に探り入れてみたら」

    『六花と?別に何にもないけど。あ、でも演劇の感想はちゃんと伝えたよ。すっごい笑えたって』

    「なんて素で言ってくるし。知らんうちに六花にフラれてて吹っ切ったのかと思ったけど、教室での様子見る限りそんな感じしないし」
    「……念のため聞くけど、六花さんには何か聞いた?」
    「いつもの返しされたけどね。でも付き合い長いし何となく分かる。ってか、響じゃなくて六花の方がフラれた感じなのが納得いかないんだけどそこは逆じゃないのかよ」

    はっすの言いたいことは分かる。元々あの2人は傍から見ても付き合うのは時間の問題で、両想いなのがバレバレだった。だからこそ中々告白に踏み出せない裕太と、それを黙って待つ六花の姿にヤキモキしては落胆してきた。六花に近しいはっす達は気が気でなかっただろう。

    俺だってそうだ。グリッドマン同盟として2人の事情は察していたが、それでも中々進展しない状況に呆れたことは一度や二度じゃない。
    だから裕太が「六花に告白しようと思う」と相談してきた時は遅いとツッコミこそすれ自分なりにアドバイスをしたのだ。

  • 51ハピエン至上主義23/05/09(火) 00:35:34

    ……そう、本当なら学園祭終わりに友人達が結ばれていたであろうことを俺は知っている。そして

    「やっぱ内海はなんか知ってんだね」
    「知ってることは何もねえよ。裕太と六花の間には何もなかったってことしか。でも想像は出来るよ、あの2人のこと」
    「ふーん」
    「聞きたい?」
    「上手く言えないことなんでしょ。なら言えるようになったら聞く」
    「……そんな気遣いできるようになったんだな」
    「こういうのに突っ込んでまたターボ先輩にキレられたくないしねー」
    「それを言うなよ……でもありがとな」

    思わず苦笑してしまうが、一年の終業式以降のはっすはこういう気遣いを見せてくれることが多いのでありがたい。個人的にはあの一件以来関係が変わったので、今となっては嫌な思い出では無かったりするのだが。

    「やっぱ、そっちのが色々詳しそうだし。これに関してはターボ先輩に任せるわ。上手いこと2人の仲を取り持ってくれよな」
    「……あんまり期待はしないでくれよ、俺が何か出来る訳でもないし。でもまあ俺なりに動いてはみるわ」
    「期待してるぜ、ターボ先輩」

    丁度時間になったのか、この話はこれでお終いだ、とばかりに手を振ってはっすは帰っていった。改めていい奴だな、と思わず笑みが溢れてしまう。

    「……しかし実際どうしたもんかね」

    裕太の現状に関しては確かに想像がつく。だが想像がつくだけで、何かが出来るわけではない。というか本当に想像通りだとすれば他人ができることなんて何もないのだ。恐らく六花もそれが分かっているからこそ、現状を受け入れている。

    「でもま、俺も無関係って訳じゃないし。取り敢えず近いうちに六花さんと話してみるか。気が重いわ……」

    何も出来ることなんてない。だがこのままの状況が続けばグリッドマン同盟そのものに影響が出かねない。
    俺は六花への切り出し方を考えながら、そのまま帰ることにした。

  • 52二次元好きの匿名さん23/05/09(火) 08:14:24

  • 53二次元好きの匿名さん23/05/09(火) 12:33:20

    保守

  • 54二次元好きの匿名さん23/05/09(火) 20:12:57

    このレスは削除されています

  • 55二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 06:42:43

    保守

  • 56二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 08:00:49

  • 57二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 16:03:42

    保守

  • 58二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 00:41:03

    ほしゅ

  • 59ハピエン至上主義23/05/11(木) 04:11:51

    「つーわけで、次に見るならTだな。ホントはこっち先に見た方が良いんだけどウルトラシリーズの門は広い。映画まで手を伸ばせばにDへ続く話って分かるしな」
    「へえー、ウルトラシリーズって世界観が繋がってるんだね。じゃあその次にGを見れば良いの?」
    「繋がってるのと繋がってない作品は結構あるなー。ちなみにGはTとDの世界観とは別物な」
    「え。でも平成ウルトラ三部作って前に……」

    家に帰ってきたら友人達が店のカウンターに座りながらウルトラ談義に花咲かせていた。他のお客さんはいないとは言え、流石に店先にまで声が響くのは迷惑な気がする。

    「ちょっと、人ん家で何話してんの」
    「あ、六花さんお帰りー」
    「お邪魔してます」
    「お邪魔するのはいつものことだからいいけどさ。ていうかママは?何やってんの?」
    「ママさんなら『六花が帰ってくるまで店番よろしくねー』ってそのまま外回り行ったよ」
    「あの人ホント自由だよなぁ」

    いや、自由すぎるでしょうちの母。すっかり馴染みの顔になったとはいえ家族でもバイトでもない人達に何を頼んでいるのだ。

    「ごめんね六花。内海に勉強教えてもらってたんだけど、途中で話弾んじゃって」
    「いや、他にお客さんいないしママに頼まれたんなら良いけど……でもそういうことならうちに来る必要なくない?どっちかの家ですればいいじゃん」
    「そりゃここはグリッドマン同盟の秘密基地だし」
    「何それ。答えになってないし」

    内海くんの言葉に呆れてしまう。今グリッドマン同盟が何の関係があると言うのか。

    「どうでもいいけどね。とりあえずありがとね、私が帰ってきたし店番はもういいよ」
    「あんまり店番らしいことできてないけどね……ってヤッバ、もうこんな時間じゃん!!」

    苦笑したと思ったら、響くんは時計を見て慌て出し始めた。机に出していた勉強道具をガチャガチャとしまい出して慌ただしく帰り支度を進めていく。

  • 60ハピエン至上主義23/05/11(木) 04:14:03

    「ゴメン、後輩と待ち合わせてるから先帰るね!2人ともまた学校で!!」
    「え、響くん!?」

    思わず呼び止めてしまうが響くんは構わず外に飛び出して行ってしまった。ただの偶然、たまたま私の帰りの時間と重なっただけ。
    だけどまるで私と入れ替わるように店を出て行った響くんの姿にどうしようもない壁を感じてしまう。
    気づけばあまりの展開の速さに内海くんも呆然としていた。

    「マジか、裕太」
    「……最近の響くん、演劇にハマってるって言ってたけど」
    「ウルトラシリーズに興味持ち始めてくれてんのは知ってたけど……というかあいつ、俺以外に親しい友達とかいたのか」
    「それは流石に失礼でしょ。分かるけどさ」

    元々クラスが変わったことで響くんと私たちの接点は以前より少なくなっている。学園祭までは台本作りの手伝いという名目でしょっちゅう顔を見せに来てくれていたが、今となってはその必要もない。私たち以外の交友関係があるなら、そっちを広げるのも当たり前なのだ。

    「……でも、ある意味都合良いっちゃ良いか。正直なところ六花さんに話あったし」
    「私に?」

    意外な言葉に内海くんを見るとまるで告白でもするかのような真剣な表情にだった。なんだろ、まさか本当に告白なんてことはあり得ないし。

    「いやでも、何から話せばいいかな……」
    「?」

    というより肝心の内海くん自身が何を聞けばいいのか分かっていないようだった。頭を掻きながら必死に言葉を選ぼうとしているその姿に、私は何となく察してしまう。内海くんは、

    「えと……六花はさ」
    「響くんのことでしょ」

    何かを言われるより私から先に本題を切り出す。実を言えば考えるまでもなかったことだ。この一年で親しくなったとは言え、私と内海くんの間で話すことなんてそんなに多くはない。ましてこのタイミングで話すことなんて言えば一つしかなかった。

  • 61ハピエン至上主義23/05/11(木) 04:15:42

    「……やっぱ、気づいてたよな」
    「そりゃあね。グリッドマン同盟ですから」
    「今それ言うかよ……でもそうなんだよな、俺達はグリッドマン同盟で、だからこそ気づけた。いや、分かっちゃったんだよな」

    内海くんは何かを諦めたように肩を落とす。多分、内海くんなりに気を遣おうとしてくれていたのだろうけど、私の反応で意味はないと思ったのだろう。だから、

    「……なあ、六花。多分だけどさ、」

    遠慮がちに内海くんの口から言葉が紡がれる。
    それは、とっくに分かっていたことで、そして同時に聞きたくなかった言葉で、

    「ーーー多分裕太は、六花のことが好きじゃなくなってるんだと思う」

    今の響くんの状態をこの上なく理解した言葉だった。

    【視点:内海】
    一番最初に裕太の違和感に気づいたのはいつだったろう。
    未だ記憶に新しい、文字通り別の宇宙を巻き込んだとんでもない戦い。そして一連の事態の原因として利用されたグリッドマンを救うため、俺たちに力を貸してくれた2人の怪獣はその手段を教えてくれた。
    「グリッドマンとアクセスフラッシュする」こと。やること自体はいつもと変わらない。俺たちが見守る中で、裕太が何度もしてきたことだ。だけど、

    『お前が、お前自身を失うぞ』
    『一個体に過ぎない普通の人間が、宇宙規模に拡大したグリッドマンと合体して自我を保てるはずがない』

    この時は違った。敵の策略により宇宙になってしまったグリッドマンと一つになることは、裕太自身の消滅を意味していた。

  • 62ハピエン至上主義23/05/11(木) 04:16:32

    戦いの結果いなくなるのではない、最初から命を落とすことが分かっているアクセスフラッシュなんて解決策とは言えない。
    認められなかった、止めたかった。なのに、

    『俺にしかできないことなんだろ』

    俺の親友は微塵も躊躇うことなく走り出した。
    俺の声も、六花の悲痛な叫びも届くことはなく、裕太は夜闇に消えていった。
    置いて行かれた俺たちは、その後裕太に何があったのかは分からない。分かっているのは、裕太は消滅することなくグリッドマンを連れ戻すことに成功したという結果だけ。それでも大切な親友が友達を連れて無事に帰ってきてくれた。それだけで十分だった。

    だから、蓬くん達との別れ際の裕太に違和感があることにすぐには気付けなかった。

    『六花さんたちも、お幸せにー!!』
    『あの2人まだ付き合ってないらしいよ』

    別れ際のからかいを受けて六花は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いていた。俺は「付き合いの短い友達にも見抜かれてるじゃん」なんておかしくなって笑っていた。
    だけど裕太だけは、その意味が分からなかったのかキョトンとしながらぎごちなく手を振っていた。
    そして事件の弊害でその後の日々が目まぐるしく過ぎていき、細かいことに気を回す余裕がないまま迎えた学園祭。完成したグリッドマンユニバース演劇こそ観に来てくれたが、後夜祭が終わってもなお裕太から六花に対して何か行動を起こすことはなく、それどころか六花との接点がなくなっても平気そうな裕太の様子でようやくおかしいことに気付いた。

    何故もっと早くに気付かなかったのか。どうしてあの時にちゃんと確かめなかったのか。

    響裕太は確かにグリッドマンを救い出すことには成功した。しかしその代償として、裕太にとって最も大切であったであろう『宝多六花への想い』を無くしてしまったのだと。

  • 63ハピエン至上主義23/05/11(木) 04:28:22

    あれから俺たちは店を出て公園まで歩いていた。といっても何か目的があるわけでもなく、六花が先導する形で店を出ていきそれに着いていった結果公園に着いただけだ。まあ俺としても裕太抜きの2人だけで店にいるのは嫌な記憶が多いし、場所を変えるのに異論はなかった。
    或いは……公園に来れば馴染みの怪獣二人組が現れ、何か話が聞けるのではないか。俺も六花もそれを期待していたのかもしれない。

    「……実際、さ。内海くんから見てどうなの?」
    「どうって、裕太が?」
    「グリッドマンと一緒に帰ってくる前と後。そんなに違うように見える?」

    ベンチに腰掛け、顔を見せずに六花は尋ねてくる。裕太が以前とそんなに違うのか。そんなの、

    「……根っこの部分は変わってないと思う。クラス違うからちゃんとは分かんねえけど、少なくとも俺と一緒にいる時、他の誰かと話してる時のアイツは前と全然変わってないと思う」
    「……」
    「でも違う、間違いなく裕太は変わってる。
    ……いや違うか。多分失くしたんだ。裕太にとって何よりも大切なものを」

    即ち、六花への恋心。グリッドマンが憑依している時でさえ変わらなかった強い想いを、今の裕太は失っている。

    「ふーん……内海くんの言う大切なものが何かは分かんないけどさ。内海くんと一緒にいる響くんは全然変わってないんでしょ。
    だったらさ、失くしたものなんて何にもないんだよ。きっと」
    「んなことねえよ。だったらなんで裕太があんな……っ」

    思わず語気を強めて六花に詰め寄りそうになるが、視線だけをこちらに向けた六花の表情に踏み止まる。今の六花の顔はあくまでも無表情に見えて、表情からその真意を読み取ることはできない。
    でも実際にはどうなのか。グリッドマン同盟として、そして裕太の帰りを待つ立場であった同士として、俺は六花と一緒にいることが多かった。裕太を見つめる横顔を何度も見てきたのだ。その意味を知っているからこそ、ここで声を荒げるのは俺ではない。

    「……俺は裕太に相談されてた。六花のこと、自分の気持ちのこと。時期を外してるって分かった上で前に進みたいって、俺は聞いてたんだよ」
    「……」
    「正直なこと言えば、責任感じてる。あの時裕太にもっと早くに動くよう背中を押してたら、もっと違う結末になってたんじゃないか。あんな自己犠牲に走らせることはなかったんじゃないか、って」

  • 64ハピエン至上主義23/05/11(木) 04:32:43

    裕太から初めて告白の相談を受けた日、俺は文化祭終わりに告白するようアドバイスした。どうせ時期を外してるんだから、と。
    だけどもし裕太にもっと早くに告白するよう背中を押していたら、とっくの昔に裕太たちは結ばれていて、グリッドマンを救う際にも別の手段を考えることができたんじゃないか。現実に他に方法がないにしても、あのまま裕太を1人で見送るようなことはなかったんじゃないか。

    「内海くんが何言ってるか分かんないけど、何にも変わんなかったと思うよ。どんな状況でも響くんなら1人で走ってたと思う」
    「そうかもしんないけど、考えるんだよ。俺はずっと、お前ら2人と一緒にいたんだから」

    六花を見つめる裕太の顔も、裕太を見つめる六花の姿も知っている。だから歯痒いのだ、今の2人が。何とかしたいと思うのだ。

    「六花。お前は良いのかよ」
    「良いって、何が?」
    「裕太との関係だよ。俺はさっき「六花のことが好きじゃなくなってる」って言ったけど嫌われてるわけじゃない。むしろ友達として距離は縮んでると思う。でも」

    「ーーーどうしようもないじゃん」

    言葉を続けるより先に、弱々しい声が俺を止めた。六花の表情は変わっていない、でもその姿はさっきよりも小さく見えて、

    「内海くんが全部正しいとしてだよ?響くんが大切なものを失くしてて、それが私に関わることだとしてだよ?それが分かったところで何になるの?」
    「……それは」
    「どうしようもないでしょ。響くんが元々どんな気持ちを持ってたとか、私がどんな気持ちを持ってるか、とか。……本当に、どうしようもないんだよ」

    会話を打ち切るように、六花は立ち上がる。その背中があまりにも小さくて、何かを言うべきなのに俺には何も言えなくて、

    「だからさ、響くんが失くしたものなんて何もないんだよ。あの日、響くんはグリッドマンを助け出してくれた。命を落とすこともなかった。私が響くんから感じてたのは全部自惚れと勘違い。最初からそんなのなかったんだよね」

    まるで自分自身に言い聞かせるように言いながら、六花は公園の出口まで歩いて行く。
    何か言わなければと思うが、ダメだ。何を言っても逆効果な気がして口を開けても言葉にすることができない。それでも何かを言わなければと六花を追いかけて、

    「ーーー響くん?」

    俺は、人生で2度目となる友人の脳破壊の現場を目撃することになった。

  • 65ハピエン至上主義23/05/11(木) 05:23:02

    【視点:六花】
    「ーーーどうしようもないじゃん」

    今のままでいいのかと聞いてくる内海くんに対して私はそう返す。実際にどうしようもないのだから仕方ない。
    内海くんの言う通り、今の響くんは私への好意を失ったのかもしれない。今のままでは友達としては良くても、その先には進めない。でも、

    「どうしようもないでしょ。響くんが元々どんな気持ちを持ってたとか、私がどんな気持ちを持ってるか、とか。……本当に、どうしようもないんだよ」

    今の響くんは記憶喪失になっているわけじゃないし性格が激変したわけでもない。ただ一つ、私に対する距離感が友達のそれに安定しただけ。
    誰に迷惑をかけるわけでも、響くん自身が困っているわけでもない。だからもう、どうしようもない。

    「だからさ、響くんが失くしたものなんて何もないんだよ。あの日、響くんはグリッドマンを助け出してくれた。命を落とすこともなかった。私が響くんから感じてたのは全部自惚れと勘違い。最初からそんなのなかったんだよね」

    内海くんの方を見ないまま、私は立ち上がって公園を出ようとする。きっと話を続けたら何か大きなものが私を突き破りそうな気がして嫌だった。少しでも落ち着きたくて足早に出口まで向かって、

    「ーーー響くん?」

    公園の向こう側の道路で歩いている、数十分前まで私の家で内海くんと談笑していた響くんの姿を見つけた。格好も荷物もさっき店を飛び出して行った時のまま、何も変わっていない。

    「……え?」

    特徴的な桃色の髪色、どこかで見かけたように着崩したパーカーを着込んだ見知らぬ少女が並んでいることを除いては。

    「ゆ、裕太……!?」

    後ろから追いついてきた内海くんが絶句している。恐らく彼にとっても目の前の光景は衝撃的だったのだろう。なにせあの響くんが、見知らぬ女子と仲良く並んで歩いているのだから。
    2人とも固まった状態のまま、その光景から目が離せない。よく見ると少女は手にチラシらしき物を持っており、しきりに指を差しながら何かを説明しているように見える。響くんは途中何度か頷きながら、同じように少女の手にあるチラシを指で示しながら何かを話していた。

    『中学時代の後輩が演劇のチケット用意してくれてさ』
    『ゴメン、後輩と待ち合わせてるから先帰るね!』

  • 66ハピエン至上主義23/05/11(木) 05:24:17

    以前聞いた単語が頭を過ぎる。なるほど、あれが響くんの中学時代の後輩。てっきり男子かと思っていたが、よくよく思い返してみれば別に性別に関しては言及していなかったように思う。道を挟んでいるとは言え私と内海くんは結構凝視しておると思うのだが、2人は気づく様子もなくそのままどこかへと歩き去っていき、

    「あ……」

    最後まで笑顔が途切れることなく、2人の姿は視界から消えていった。

    「嘘だろ、裕太……」

    震える声で内海くんが愕然としている。親友が女子と仲良く歩いていたという目の前の光景がとても信じられなかったらしい。本当に仲が良さそうだった。声こそ聞こえなかったが、恐らく響くんにとっても気安い相手なのだろうことが窺える。そして少女の方は恐らく響くんのことが、

    「……ッ」

    不意に胸がキュッと痛くなり、顔が歪みそうになる。ここ最近たまに感じる痛みだが、今回はいつもよりもずっと痛い。そう、響くんと見知らぬ少女はまるで恋人のようで……

    「……ごめん内海くん。私帰るね」
    「え?あ、ちょ、六花さん!?」

    内海くんの静止も聞かず私は思わず走り出していた。あのままあそこでジッとしていたらきっと壊れてしまう。そんな予感がして走らずにはいられなかった。

    (響くんに彼女?でも歳下は興味ないって前に……そうじゃなくてなんでどうしていつから誰なの妹さん?でも姉妹はいない筈であれが後輩?)

    頭の中をグルグルと色んな考えが交錯していく。まとまらない、とりとめのない、訳がわからない。

    (なんで?なんで?どうして……どうして……!!)

    頭がグラグラする。胸の奥で何か嫌なものが広がっていく。私は混乱する自分から逃げるように、街の中を駆け抜けていく。

    「……なあ神様。これで2度目なんだけど、俺、なんか悪いことしたんですかね」

    置いてきたその場所で、内海くんが頭を抱えていることには気がつかなかった。

  • 67ハピエン至上主義23/05/11(木) 05:27:44

    夜分遅くにすみませんでした。これで前半部分が終わりになります。
    ちなみに今後の流れなのですが、いざ描いてみると六花さんに救いがなさ過ぎて自分の貧困な発想力ではハッピーエンドもしくはそれに準じるエンドが想像できなかったので怪獣の力を借りたいと思います。
    あと、六花さんの脳破壊イベントは最低でも後一回あるのでご了承ください

  • 68二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 07:21:47

    ハピエンが約束されてるので、心置きなく曇らせを摂取できますね

  • 69二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 07:31:10

    このレスは削除されています

  • 70二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 07:56:06

    単純に文章が凄く上手いし、めっちゃ読みたくなる
    クオリティ高くて本当に面白い

  • 71二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 08:03:31

    それでも裕太さんなら、神様の設定を無視した裕太さんなら、グリッドマンさえ洗脳した裕太さんなら、グリユニでの世界の危機の突破口になったくらいの六花への思いを持った裕太さんなら、ちょっとした六花とのエモいシーンでまた、六花さんを好きになるよ。正直裕太さんは六花が好き過ぎる。

  • 72二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 08:10:41

    保守

  • 73二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 08:13:52

    >>71

    六花に対する裕太の厚い信頼よ

  • 74二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 19:25:57

    これで前半だと?!

  • 75二次元好きの匿名さん23/05/11(木) 20:34:47

    うーん、良き

  • 76ハピエン至上主義23/05/12(金) 02:12:08

    時々変な夢を見る。そこでの俺は友達を助けるために闇の中を走っている、んだと思う。そこは真っ暗闇で、自分の体も見えないし名前さえ分からない。だけどやらなきゃいけないことだけははっきり分かっているから走っている。
    思う、というのは実感がないからだ。いや違うか、「無い」というより「無くなっていく」感じ。夢を見ていると自覚した直後は覚えている大切な何かが、普段の自分なら絶対に無くしたくない宝物が、前に進む毎にどんどん自分の中から零れ落ちていく。時々自分の名前を叫ぶ声も聞こえて、その声の主を自分は知っている気がする。時々切なくて、でもそれ以上に胸を暖かくしてくれる人。でもその人のことも段々分からなくなっていく。零れ落ちた宝物と一緒に、声に対する思い入れも消えていく。
    あの宝物はなんだったのだろう、あの声は誰だったのだろう。気にならないと言えば嘘になるが、それ以上に俺がやるべきことがある。友達を助けなくちゃ。皆を守らなきゃ。自分にしかできない、自分がやるべきこと。だからーーー

    【視点:ナイト】
    「……来たか」

    今し方切り捨てた怪獣の残滓を振り払い、俺は虚空を見上げる。これで3度目、そろそろ決着をつけねばならない。

    「行けますか、ナイトくん?」

    傍で2代目が声をかけてくる。体力的な心配をしているのか、それとも気負っていると思われたのか。

    「問題ありません。今日の敵は小さかったので変身を温存することができました。万全の状態でヤツを迎え撃てます」
    「分かりました。でもくれぐれも無理はしないでください。今はあの怪獣の戦力を把握することの方が重要なんですから、あまり倒すことに拘りすぎないように」
    「分かっています。ではーーーッッ」

  • 77ハピエン至上主義23/05/12(金) 02:13:42

    全身から光を迸らせ、先の戦いでは温存していたグリッドナイトへの変身へと速やかに移行する。同時に空からゲートが開き、中から目的の怪獣が降り立つ。

    サイズとしてはグリッドナイトよりもやや大型。全身の体色はまるで空のような水色、ただし頭部のみは燃えるような赤色に染まっている。身体中にはまるで血管のような黒いラインが無数に引かれ、左腕には手甲のような物がついている。のっぺりした外見ながら二本の足で力強く降り立つ姿は怪獣というより巨人。見るものが見ればその姿はまるで、


    <今日こそは倒させてもらうぞ、『グリッドマンもどき』ッッ!>


    叫び、左腕に力を込め円を描く。かつてグリッドマンとの戦いの果てにその姿をコピーし、パクリだのもどきだのと言われていた俺自身がグリッドマンを彷彿とさせる怪獣と戦うことに何かしらの皮肉めいた物を感じるが、今の自分にそれを噛み締める余裕はない。

    数度の接敵でこの怪獣の厄介な特性を知っているからこそ、初手から全力で決めさせてもらう!


    <グリッドナイトサーキュラー!!>


    描き終えた円を手から解き放ち、怪獣へと投げ飛ばす。多くの怪獣を真っ二つにし、そうでなくても大きなダメージを与えてきた紫円の刃。グリッドナイトの代名詞とも言えるその技はしかし、怪獣の体に触れた瞬間に霧散する。当然傷もなければダメージを負った様子は微塵もない。


    <チィッ、やはり効かないか……!!>


    手応えのなさに歯噛みするが、しかし想定内ではある。俺は次の手に移るべく怪獣へと駆け出していく。

    一方巨人怪獣の方は降り立った場所から動かないまま、何かを探すように上半身だけキョロキョロと動かしている。同時に


    <グ……ッ!!>


    体を振る、ただそれだけで嵐にも似た風圧が起き、一瞬にして俺の動きを止めてしまう。3度の交戦を経て、この怪獣について分かったことは3つ。純粋な殴る蹴るはともかく、それ以外は俺の攻撃が一切通用しないこと。そしてもう一つは怪獣としては何の特殊能力も持っていないが、純粋にパワーが強すぎることだ。敵に対する攻撃ではない、ただの身じろぎだけで周りの全てを壊しかねない超パワー。

    事実、この怪獣は恐らく俺のことを認識すらしていない。まるで急かされるように何かを探し回っているに過ぎず、その余波がまるで攻撃のように俺の動きを阻害しているだけなのだ。

  • 78ハピエン至上主義23/05/12(金) 02:20:07

    「ナイトくん、やはりこの怪獣には敵意はないようです!」

    <分かっています、しかし!>


    善良かどうかまでは判断できないが、明確な害意はなく、積極的に破壊活動を起こそうと考えているわけでもない。だが怪獣であり、これほどのパワーを撒き散らす存在を放置しては世界が滅びかねない。幸いにして今回自分たちが訪れた世界はあまり人が多くないようだが、このままだとその数少ない命の全てが失われてしまう。


    <グリッドナイトストーム!!>


    遠距離から有効打を与えるべくエネルギーを解き放つも、やはり怪獣に触れた途端に霧散してしまう。同時に巨人怪獣は遂にその場から動き出しまるで森の木々を掻き分けるような仕草をしながらこちらに向けて走ってくる。


    <まずい!!>


    咄嗟に防御の態勢を整えるが、無造作に振るわれた腕の一撃だけで一気に吹き飛ばされてしまう。今まで多くの怪獣と相対してきたが、このパワーは規格外だ。攻撃とも呼べないただの一振りを受けただけで一気に消耗していくのが分かる。このままでは倒すどころの話ではなく、


    「ナイトくん、少し下がってください!!」


    2代目の叫びが聞こえ、咄嗟に後方へと飛び退る。その直後だった、


    <ーーーなんとかビーム!!>


    空より真紅の豪竜=ダイナレックスが姿を現し怪獣に攻撃。更に落下の勢いを利用して体当たりで怪獣を吹き飛ばした。


    <ガウマ!?なぜここに?>

    <説明は後だ!とにかく今はこの怪獣を片付けるぞ!!>


    話もそこそこに、ガウマ=ダイナレックスが再び怪獣に襲いかかる。吹き飛ばされていた巨人怪獣は態勢を立て直そうしていたが、それをさせじと至近距離からの踏み付けや尻尾による殴打で攻撃を加えていく。驚いたのはグリッドナイトの攻撃は全く効いた様子がないのに対して、ダイナレックスの攻撃は明らかに通っているように見えたことだ。あくまでも当たった瞬間に霧散するグリッドナイトの攻撃に比べれば僅かにダメージを与えられているに過ぎない。だが先程までに比べれば好機だ。


    <援護に回る!お前が攻めろガウマ!!>

    <言われなくても……何だ!?>


    突如巨人怪獣の額がグリッドマンのように音を立てて点滅し始める。直後、怪獣の体から同時に光の柱が立ち上り、それが消えた時には巨人怪獣の姿は消えていた。

  • 79ハピエン至上主義23/05/12(金) 02:48:06

    「助かりましたガウマさん。今回は少々危なかったので」
    「気にすんな。お前らの手伝いをすんのは大将からも頼まれてることだしな。
    けどなんなんださっきの怪獣。とんでもなく強いのは分かったけどよ、敵意とか操られてる感じとか全然しなかったぞ」
    「俺たちもそれを調査している。先の戦いでグリッドマンを利用しようとした怪獣の残滓を処理するため世界を巡るようになってから少しして、奴は姿を現すようになった」

    未だ記憶に新しいグリッドマンユニバース事件。この戦いで、グリッドマンを利用して強大な力を得ようとしたマッドオリジンを俺たちは撃破した。しかし執念によるものか、その残滓はあらゆる世界に散らばり少なからず影響を及ぼすようになっていた。
    この事態を解決すべく、俺と2代目は各世界を移動しては残滓を消し去る日々を送っていたのだが、ある時から先の巨人怪人が姿を見せるようになった。

    「これまでの戦いで分かったことは、とてつもないパワーを持っていること。いくら攻撃をしてもこちらに一才の敵意も関心も持たず、何かを探すような動きを見せること。状況によってまちまちですが、一定時間を過ぎると姿を眩ましてその世界からいなくなること。そして、ナイトくんの攻撃は一切効かないといったところです」
    「ダイナレックスの攻撃は通ってたみたいだが……あれじゃダメだな。精々蟹に挟まれたくらいのダメージしか与えられそうにない。
    心苦しいが、蓬たちの力を借りた方がいいかもな」
    「そうですね。この世界は人口が少ないのか被害はそれほどでもありませんでしたが、いくら敵意がなくてもあんな力を無差別に振るわれたらいつか大きな被害が起きてしまいます。
    私とナイトくんはもう少しあの怪獣を探ってみるので、ガウマさんは蓬さん達への協力要請とグリッドマンへの連絡をお任せしていいですか?」
    「分かった。大将を通じて裕太達にも連絡してもらう。それでいいよなナイト?」
    「…….そうだな」

    予感がする。あの怪獣はそう遠くない日にツツジ台に現れるだろう。その時はグリッドマンの力が必要になる。破壊も修復の力を併せ持つ、俺の宿敵の力が。

    「グリッドマンへの連絡を急ぐぞ。近い内に再びあの世界は戦場になる」

  • 80ハピエン至上主義23/05/12(金) 02:50:55

    そんな訳で本日分の投稿でした。戦闘パート難しい……
    次回はまた六花内海視点に戻りますが、SSSS.DYNAZENON組も参戦予定です

  • 81二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 07:12:42

    保守

  • 82二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 08:11:23

    保守

  • 83二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 17:32:01

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 18:01:21

    保守

  • 85二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 18:11:52

    保守

  • 86二次元好きの匿名さん23/05/12(金) 23:27:21

    保守

  • 87二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 07:29:30

  • 88二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 16:07:49

    他のスレが荒らしに埋められてしまったから少し心配になってきた

  • 89二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 23:22:41

    >>88

    あれ続きめっちゃ気になってたけど、どっちみちエタってたんだろうなとは思う

    でも最後があれは悲しかったな

  • 90二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 23:24:55

    このレスは削除されています

  • 91二次元好きの匿名さん23/05/13(土) 23:27:53
  • 92二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 00:17:39

    保守ッドビーム

  • 93ハピエン至上主義23/05/14(日) 00:51:51

    【視点:内海】
    親友が知らない女子と仲良くデートしていた事件から1週間。俺と六花はその前にしていた会話の気まずさも合わさって、あまり会話をすることはなく、裕太は裕太で1人だけクラスが違うこともあり、学校で一緒になることは殆どなかった。六花の店に集まる理由も見つけられず、このままではグリッドマン同盟は自然解散になりかねない空気すら出始めている。

    「……まさかここまで人間関係に影響あるとはなー」

    元々俺たちは同じクラスだったということ以外接点らしい接点はなかった。今でこそ俺にとっても気のおけない友人だが、当時俺と六花の間は裕太が取り持っており、それはアイツが2ヶ月の記憶を失った後も変わらない。裕太が間にいなくなれば、積極的には関わり合わない距離感の友達なのだ。

    「いきなりどうした、ターボ先輩」
    「いやなんつーか、今になって友達のありがたみが見に染みるというか。俺なりに頑張ってみたら余計拗れたっつーか……」
    「ああ、六花と響のことね。お疲れー」
    「ホント疲れたわ……俺が六花にかけられる言葉なんて何もねえし、裕太は裕太で知らない女子と一緒にいるし……」
    「あー。そういや最近よく見かけんね。あの後輩ちゃん」
    「……え、知ってんの?」
    「気になったから響に直接聞いたんよ。たまにうちのクラスにも顔見せててさ、学年違うのに健気だねえ」
    「健気って……やっぱそういう感じ?」
    「間違いないでしょ。あれ、つい最近まで響が出してたオーラとおんなじよ?それにホラ、内海たちの学園祭演劇。実は私の前にいたんだけど、思い返してみたら舞台より響の方向いてたような気する」
    「……それは間違いないな。俺、この間まで全然知らなくてさ。六花さんとその光景見て驚いたのなんのって」
    「……それで六花元気ないのか。なんか最近おかしいとは思ってたんよ」
    「……実際どうすんのがいいんだろうな」
    「こればっかりは当人同士の問題だかんねー。うちらが後押ししても、最後はどっちかがアクション起こすっきゃないわけだし」
    「……多分、今の裕太は動かないよ」
    「なんかムカつくけどそうだろうね。だから動くなら六花なんだけど……あの子がそういうことできるなら、ここまで面倒なことになってない気もすんだよね」

  • 94ハピエン至上主義23/05/14(日) 00:54:25

    保守ありがとうございます。初SSで文章起こすのが遅いのと、落ち着くと思ってた仕事が一向に落ち着かないせいで中々進められませんが、スレ残ってる限りはきっちり完結させるつもりですm(_ _)m

  • 95二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 01:56:59

    お仕事お疲れさまです!セリフも違和感なくて最高なので是非とも完走目指して頂きたい!

  • 96二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 11:28:15
  • 97二次元好きの匿名さん23/05/14(日) 18:37:33

    このレスは削除されています

  • 98二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 01:35:37

    続き待ってます

  • 99ハピエン至上主義23/05/15(月) 01:42:20

    「え、蓬たちこっち来るの?」
    『うん。この前皆で倒したあの怪獣絡みだって。まだよく分かんないんだけど近い内にそっち行くと思う』

    ある日の昼休み。相談したいことがあり、蓬に電話してみたらそんな答えが返ってきた。ここしばらくずっと平和な日が続いていたけど、ユニバースの影響なのか出る時は出るらしい。

    「え、じゃあ俺もそのつもりでいた方がいいのかな」
    『どうだろ?俺も詳しい話聞いてるわけじゃないし』
    「そっか……でも俺たちの力が必要ならいつでも言ってよ。蓬たちにはお世話になったし」
    『いや、お世話になったのはこっちでしょ。……あ、何か相談があるって言ってたけど何だったの?』
    「いや、そんな大した話じゃないっていうか……うん、忙しいならまた今度でいいんだ」
    『……ひょっとして六花さんとのこと?』
    「え?いや六花は全然関係ないけど。なんで?」
    『いや、相談があるって言ってたし。ちょっと深刻そうな声だったからそうかなって』
    「確かにそういう相談になるのかもしれないけど……なんで六花?」
    『だって裕太って六花さんのこと……』
    「え?」
    『え?』

    何か話が噛み合わないが、それは蓬の方も同じらしい。何を言えば分からず変な沈黙が流れてしまうが、唐突に電話越しに聞き覚えのある少女の声が聞こえたのがキッカケになった。

    『ごめん、夢芽が来たからそろそろ切るね。またすぐ会うかもしれないけど、何かあったら連絡してよ』
    「うん。こっちこそ忙しいところありがとね蓬」

    電話を切り携帯をしまったところで、ふと気になった。何故か最近、六花との関係はどうなのかとかよく聞かれるようになった。勿論六花は自分にとって大切な友達でグリッドマン同盟の仲間だ。正直にそういうことを伝えると、友人たちは怪訝な表情を浮かべたり何か悲しそうな顔を浮かべる。

    (なんだろ。俺そんなおかしなこと言ってるかな?)

    宝多六花、去年同じクラスだった女の子。学年の終わり頃まで話した機会はそんなになかったけど、倒れていたところを介抱されたことをきっかけに親しくなり、内海と共に戦いを見守り支えてくれた。俺が当時の記憶を失った後も関係は変わらず、クラスが変わった後も親しくしている。
    ……改めて考えると、とても良い子だと思う。学年でも噂されるくらい美人だし、それでいて気さくで話しやすい。時折見せる子供っぽい表情も魅力的だし、それにーーー

  • 100ハピエン至上主義23/05/15(月) 01:48:10

    「……………あれ?」

    突然ぼやーっと、頭に靄がかかったような気がする。胸の奥で灯り始めていた暖かい何かが急速になくなっていくような感覚がある。そもそも俺は何を考えていたんだっけ?確か蓬と電話をして、何か変なことを言われた気がするのだが……

    「なんか最近こんなこと多いんだよなぁ……病院行った方がいいのかな」

    あまり嬉しいことではないのに、この一年で病院には縁ができたなあなんて思っていた時だった。

    「響くん?」

    馴染みのある声に振り返った先には、恐る恐る声をかけてきたらしい六花がいた。

    「大丈夫?なんかボーッとしてたみたいだけど」
    「あ、うん。全然。ちょっと考え事してて」
    「それならいいけど……もうすぐ授業始まるけどいいの?」
    「へ?……うわ、マジだ!」

    時計を確認してみるともうすぐ次の授業が始まる時間になっていた。蓬との電話を終えた時は休み時間が終わるまで10分はあったはずなので、丸々突っ立っていたことになる。

    「……じゃ、私はそろそろ行くね」
    「あ、六花!」

    たまたま見かけた顔がのんびりしていたから声をかけただけなのだろう。六花も次の授業に合わせてその場から離れていく。まるで逃げるような後ろ姿に、どこか見覚えを感じて、何故か呼び止めなければいけない気がして、つい声をかけてしまう。何故そう思ったのか、その理由と衝動はすぐに無くなってしまったけれど。

    「あ、えっと……そうだ。今日の放課後、六花の家に行っていい?ちょっと話したいことがあって」
    「別にいいけど……学校じゃできない話なの?」
    「その、できれば、あまり人には聞かれたくないというか。俺にとっては大事な相談ていうか……」
    「……分かった。じゃあ放課後は店にいるね」

    それだけ言うと、六花は今度こそ立ち去ってしまう。良かった、蓬には相談できなかったけど、六花に相談できるならむしろその方がいいかもしれない。そう納得し、俺も慌てて教室まで走ることした。

  • 101二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 08:06:16

    保守

  • 102二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 09:51:00

    保守

  • 103二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 13:55:55

    ふ、不穏だぁ・・・・

  • 104二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 14:00:25

    >>103 ハピエン至上主義を信じろ

  • 105二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 19:55:26

    このレスは削除されています

  • 106二次元好きの匿名さん23/05/15(月) 22:10:16

    これまでの繋がりが奇跡を生むと信じて

  • 107二次元好きの匿名さん23/05/16(火) 03:33:27

    このレスは削除されています

  • 108二次元好きの匿名さん23/05/16(火) 08:11:50

    保守

  • 109二次元好きの匿名さん23/05/16(火) 17:20:04

    丁重な脳破壊。これは回復展開も濃厚なんだろうな

  • 110二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 02:09:35

    ほしゅ

  • 111ハピエン至上主義23/05/17(水) 02:23:37

    「……え、どうしたの内海くん。ウチになんか用?」
    「いや裕太に呼ばれたから……」
    「ふーん……」

    六花の家にあるジャンクショップに久々に足を踏み入れると、少し驚いたような六花に出迎えられる。今日は店を手伝う日ではないらしく、カウンター席に座って課題を進めている。こちらとしてはここ数日気まずく思っていたのだが、六花の方は特に何も気にしていないらしい。いや、俺が入ってきた時に少し落胆していた気はするが。

    「……ひょっとして、俺ってお邪魔な感じ?」
    「別に、響くんに呼ばれたんでしょ。だったらいいんじゃない。多分私が勘違いしてただけだし」

    それだけ言うと六花は顔を下げて再び課題に取り組んでいく。やはりどこか不機嫌そうな声音を感じるのは気のせいだろうか。気まずい空気が流れ出し、正直いたたまれない。早く来てくれ裕太、なんて念じながら待つこと数分、

    「2人とも待たせてごめん。ちょっと先生に呼ばれてて……」
    「遅かったね」

    開口一番に六花の不機嫌そうな声が告げられる。俺の知る限り六花は、裕太の言動に呆れることはあれ、怒ったり不機嫌になることは滅多にない。そんな彼女が顔も合わせず裕太を責めるというのは余程何か期待をしていたのかもしれない。

    「ごめん、俺の都合で2人に時間作ってもらったのに遅れるとか確かによくないよね……本当にごめん」

    対して裕太の方は本当に申し訳なさそうに頭を下げている。元々素直で嘘のつけない性格なので、多分本当に事情があって遅れたのだろう。六花の方もそれが分かったのか少しバツの悪そうな空気になっている。

    「ま、まあ遅れたのはもういいって。それでどうしたのよ裕太?改まって相談なんて」

    俺が進めないと話が進みそうにないので先を促してみるが、肝心の裕太はどこか歯切れが悪い。言いたいことをまとめられていないのか、ここに来て遠慮しているのかは分からないが

    「今さら遠慮すんなよ裕太。本気で悩んでる友達を笑うようなことはしないって。言ってみ?」
    「ありがとう内海。けどなんて説明すればいいのかな……」

    それでも裕太は言い方に悩んでいるようだったが、結局は腹を決めたらしい。同時に俺の中で警鐘が鳴った気がした

  • 112ハピエン至上主義23/05/17(水) 02:27:09

    「実は俺、最近また仲良くし始めた後輩が……あ、中学の頃のね?いる、んだけど……」
    「……その歯切れの悪さ、ひょっとして」


    「ーーーその子に、その……告白されまして」

    カタンッと何かが落ちる音がした。恐る恐る伺ってみると、六花がシャーペンを落としたらしい。表情に変化はないが、落としたシャーペンを拾う素振りもなく固まっているのを見ると割と衝撃を受けたのだろう。

    「えと……告られたの?」
    「うん」
    「裕太が、後輩の女子に?い、いつ?」
    「昨日の帰りに、だけど」

    少しテンパってきた俺とは対照的に、裕太の方は逆に冷静になったらしく、こちらの質問に澱みなく答えていく。いや待て落ち着け、まだ一番肝心なことを聞いていない。

    「……それで、どうしたの?」
    「どうしたの、って?」
    「告白されて、受けるの?返事は?」

    それを聞いたのは俺ではなく、いつの間にか裕太の方に向き直っている六花だった。声音が少し震えているように聞こえるのは俺の気のせいではないと思う。

    「いや、それが……返事をする前に走り去られちゃって。まだ何も」
    「え、じゃあ告白受けるのか!?」
    「いや、そのつもりはないよ。ないんだけど……」

    きっぱり告白を受ける気はない、と言いつつまた歯切れが悪くなる。

    「……正直その子とは趣味があったし自分でも仲が良いとは思ってるんだ。可愛らしい子だとも思うんだけど、だからって今までそういう意識は全然してなかったし。そもそも俺が好かれてるなんて全然思わなかったし」

    思わずマジで?とツッコみたくなるが思えば裕太は自分のことで一杯一杯な面がある。裕太の、というより裕太を取り巻く複雑な事情によるものが大きいが、普段の気弱さと相まって他人から自身に向けられる好意というものに気付きにくいのかもしれない。

  • 113ハピエン至上主義23/05/17(水) 02:28:30

    「きっと、すっごい勇気を出して告白をしてくれたわけだし、真剣に向き合わなきゃって思う。でもできたら今後も友人としては付き合っていきたいと思ってて……どうすればいいかな?」
    「相談のハードル高えな!?」

    途中から半ば予想できていたとはいえ、これは自分には荷が重すぎる。そもそも俺だって告白された経験なんてあるようなないようなな訳で……いや羨ましい訳じゃないしそもそも

    「私は難しいと思うけど。もし告白して、振られて、でも友達としての付き合いは続けたいって言われてもすぐには納得できないと思うよ」
    「やっぱりそうだよね……」
    「時間が経てばそういう関係に戻れることもあると思うけど。でも告白された側がすぐにそういう態度とってきたら『こっちの想いを真剣に取り合ってない』って思うし、した側がそういう態度になったら『あの告白は本気じゃなかったのかな』って思う」

    意外にも六花は真剣に相談に乗っている。結構恋愛絡みで噂とか流されること多いし、結構経験あるんだろうか。

    「例えばさ、試しに付き合ってみるって選択肢は?」
    「え。それは相手に失礼じゃない?」
    「内海くんそういう……」
    「いや違えって。それなりに仲良かったからさこそお試しで付き合ってみることで、友達の時には気づかなかったお互いの色々な面が見てくるかもしんないじゃん。で、お互いに居心地良かったりしたらそのままお試しじゃなく本気で付き合えばいいって話」
    「……何それ。内海くんの実体験?」
    「変な勘繰りすんな、一般論だ一般論。恋人としては合わないなー、ってなってもお互い納得の上だから友達付き合いに戻るのも難しくないと思うぞ」

    なんか妙な視線を感じるが、俺としてはそういう選択肢もあるとは思う。まあ本当にそうなったら六花の反応がどうなるか分からないのだが。

  • 114ハピエン至上主義23/05/17(水) 02:29:53

    「なるほど……お試しとは言え付き合っていく内に相手のことをもっとよく知って本当に好きになるかもしれないってことだね」
    「そそ。最近じゃ付き合ってから相手を好きになるとかも普通らしいぞ」
    「私はあんまり納得できないけど。ってか相手の良いとこ知るなら友達のままでも十分でしょ」
    「まあ確かに。でも意外と恋人かそうでないかで対応変わる奴いるみたいよ」
    「そりゃそうだろうけど……やっぱ相手のことを好きだって自覚を持ってから付き合う方が良くない?」
    「でもそれって場合によっては互いの意識がズレてすれ違ったりタイミング逃すこともあると思うんだよな……あ」

    つい口に出してしまったが、今の俺の発言は六花には禁句だったのではないだろうか。

    「そう、かもしれないけど……」
    「いや、今のは別に深い意味はないっていうか」

    再び気まずい沈黙が流れてしまう。一方の裕太は俺たちの意見を受けて真剣に悩んでいる。

    「……やっぱり響くんはその子と気まずい関係にはなりたくないの?」
    「え?そりゃそうだよ、大切な友達だし」
    「でも告白されたってことは、どっちにしろもう今まで通りの関係にはなんないよ。それとも内海くんの言うとおりお試しで付き合うの?」
    「うーん……まだ分かんないけど、それも一つの方法なのかなって思った」

    返事をしながらもどうするべきか考えているのだろう。多分裕太は何に対しても一生懸命で、真剣なのだ。結果が伴わなくてもどうすべきか、自分に何ができるのかを考えている。だが今は状況が良くない。その煮え切らない返事に俺の中で警鐘が鳴り始める。

  • 115ハピエン至上主義23/05/17(水) 02:33:01

    「だったら付き合えばいいんじゃない。響くんにとって大事な子なんでしょ」
    「いや、それとこれとは話が違うんだって。だから2人に相談してるんだし」
    「でも相手はもう行動しちゃったんだから、後は響くん次第な訳でしょ。なのに気まずくなりたくないって言うなら一つしかないじゃん」
    「そうかもしんないけど……どうしたの六花。急に機嫌悪くなりそうだけど」
    「別にそんなんじゃないし。ってかそもそもなんですぐに返事してあげなかったの」
    「それは最初に言ったじゃん。返事しようとしたらその前に逃げられちゃったんだって」
    「どうせボーッとしてたんじゃないの」
    「それは否定できないけど、でもいきなり告白されたら皆そうなるでしょ」
    「お、おい2人とも……」

    裕太相手に珍しく六花が感情的になり始めている。何度も喧嘩してきた身からするとこれは良くない傾向だ。このままだと何か良くない展開に、

    「最初からきっちり答え出してたら話は簡単だったんだよ。何でそうしないの」
    「だから言おうとしてもそのタイミングが合わなかったんだって」
    「それは響くんの言い訳でしょ、向こうは待ってたかもしんないじゃん」
    「そんなこと言われたって……意識してなかった相手からそんなこと言われたら反応に困るじゃん。六花だって意識してない相手から告白されたら、」

    決定的な亀裂が入って、

    「ーーー絶対有り得ないけど、例えばただの友達の俺から告白されたら反応に困るでしょ。ていうか正直迷惑でしょ」

    遂に裕太の口から決定的な言葉が、俺たちが薄っすらと感じつつも信じたくなかった言葉が、六花を貫いてしまった。

  • 116ハピエン至上主義23/05/17(水) 02:38:37

    お待たせしました。毎度のことながら文字起こしに慣れてなくて長文に……そんな訳で個人的に考える六花さんの脳破壊シーンパート2になります。まあ、こっち方面でダメージ受けるのはこれが最後のはず。そろそろ中盤超えて後半に行く予定です。苦手な戦闘パートもあるので頑張ります。

  • 117二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 03:05:07

    す、すごいところで一旦切ったな…続き待ってます

  • 118二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 07:05:39

    恋愛相談で終わると思っていたら、さらにその先があった…

  • 119二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 08:08:53

    ほし

  • 120二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 12:07:49

    な、生々しい…

  • 121二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 12:14:49

    六花さんのキレ方がガチでありそう…

  • 122二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 12:33:32

    >>76>>100の描写見る感じ、無くなったというよりも強力なデバフが入ってる状態なのかな

  • 123二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 12:34:28

    >>122

    裕太の恋心と言う特大サイズの情動をエネルギー源にされてる感じだよね

  • 124二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 13:06:49

    ドラマCDで裕太と六花が喧嘩しない、できないことをやっていたけど、喧嘩できない理由って裕太の無限大の好意が前提だから起きないんだな。このssを読むと分かった。喧嘩できるうちに喧嘩しとけってよもゆめは言ってるけど、このカップルは喧嘩起きてる時点、裕太の好意は無くなってるので、した時点で恋愛は終わってるよ。

  • 125二次元好きの匿名さん23/05/17(水) 21:52:42

    >>124 やっぱ裕六とよもゆめとはカップルの性質が違い過ぎるよな

  • 126二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 00:14:49

    >>122

    失ったというか抜かれたってのがありそう

  • 127二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 00:19:17

    >>124

    お互いを思いやった上での喧嘩ならまだしもね

    六花さんの面倒くささや重さを裕太が平気で受け止められるから成立してるカップルだもんなぁ

  • 128二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 07:59:28

    次のパートの方が六花さん脳破壊されてお辛いのでは?(楽しみ)

  • 129二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 08:07:13

    >>124

    よもゆめはかけがえのない不自由でお互いを掴んでいるという形だから、喧嘩もイチャイチャの延長線上

    裕六は裕太が六花を求めていると見せかけて六花の情動を裕太が受け止めているという形だから、喧嘩は明確にひび割れの発生

    みたいな印象がある

  • 130二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 16:40:17

    助けてぇ!神様ぁああああ!

  • 131二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 21:09:37

    おもろすぎる、ていうか文章うますぎんか、素人とは思えん

  • 132二次元好きの匿名さん23/05/19(金) 03:19:56

    >>128 後輩ちゃんを見て脳破壊した時、峠を越えたと思ったらこれだよ!

  • 133ハピエン至上主義23/05/19(金) 05:29:00

    「……やっぱり、そういうことなんだ」

    察してはいてもなるべく考えないようにしていたこと。「響裕太は宝多六花への想いを失っている」その事実を受け入れるに足る言葉が裕太の口から出てしまった。決定的な言葉を聞いてしまい、六花は俯いたまま席を立つと店の外へと向かっていく。

    「ごめん。用事あったの忘れてたから私行くね」
    「おい、六花!?」

    静止の言葉も聞かず六花はそのまま外に出てしまい、そのまま走り去るような音が聞こえる。ここが六花の家だというのに、敢えて外に出て行ったと言う事実が逆に深刻さを感じさせる。やがてその音が聞こえなくなった時、店内には本当に俺と裕太だけが残されていた。

    「……なあ、裕太。今のは流石に、」

    よくないだろうと、もう少し言い方というか相手の気持ちを考えるべきだと。一年前に六花との喧嘩を経験したからこそ身に沁みて学んだ教訓を伝えるべく、俺は裕太に向き直り……ギョッとした。

    「ーーー」

    裕太は無表情のまま、さっきまで六花がいた場所を向いたままじっとしていた。いや、無表情というより何も映していないのかもしれない。まるで蝋人形のように固まるその様子にただならぬものを感じてしまう。

    「裕太。おい裕太!!」
    「ーーーあ、れ、内海?えっと、俺確か内海と六花に相談があってそれで……」
    「だ、大丈夫かよ?」
    「え、うん。大丈夫だけど。最近たまにぼーっとしちゃうこと多くて……それよりひょっとして俺、六花に何かまずいこと言ったりしたのかな」
    「いや、まずいことというか。禁句というか……」
    「そっか……うん、ちょっと謝ってくる!」
    「え?って、オイ悠太!?」

    さっきまでの不穏さなど微塵も残さず、いつも通りに戻った裕太はそのまま六花を追いかけて外に飛び出していく。正直今の六花と裕太を2人にすべきではないんじゃないか、そう思うもさっきの裕太の姿に一瞬躊躇ってしまい、気づいた時にはもういなかった。

    「裕太……ひょっとして俺が思ってる以上にヤバい状態なのか?」

    困惑する俺の声に応える者は誰もいない。結局俺一人だけ、いつかのように取り残されてしまっていた。

  • 134ハピエン至上主義23/05/19(金) 05:36:50

    「……」

    何を考えていた訳でもなかった。外に飛び出したら、いつかの公園に辿り着いただけ。よく考えたらさっきまで店にいたんだから、家に入ればよかったのだ。だけど位置的に、店から家へ入口のすぐ側には響くんが、彼の指定席になっているジャンクの椅子があった。

    「無理に、決まってんじゃん……」

    察していたことで、分かっていたこと。そもそも以前の内海くんとの話で改めてその可能性は考えていたし、私自身納得しているつもりだった。でも、

    ーーー絶対有り得ないけど、例えばただの友達の俺から告白されたら反応に困るでしょ。ていうか正直迷惑でしょ

    「……嫌なわけ、ないじゃん」

    もう「あの日」とは何もかもが違う。あの二ヶ月の日々をキッカケに一緒に過ごしたこの一年で、私は沢山の響くんを知った。少し天然で抜けてるところ、勉強が苦手なところ、運動もそんなに得意じゃないところ、泣いたり笑ったり感情表現が豊かなところ、何事にも真っ直ぐ真剣に向き合うところ、そして一度決めたら一人で突っ走っちゃうところ……他にも沢山、響くんの色んな姿を知って、私自身の気持ちも確認できた。いつでも告白されても大丈夫なように、心の準備も終わってたのだ。

    「……面倒くさいな、私」

    ブランコを揺らしながら一人呟く。この期に及んで告白されるのを待っていたというのが、我ながら面倒くさい。……ひょっとしたらこの公園がそんなことを思わせるのかもしれない。二人で買い出しに出て、私に大学生の彼氏がいると勘違いしていたあの夜。あの時は色々あってアンチくんに邪魔された形になってしまったけど、あの時誰の介入もなければ、私は響くんに…….

    「たらればを言っても仕方ないけど。今の響くんにとって私は……」

    ただの友達、その言葉を思い出してまた胸がズキリと痛む。内海くんの言う通り、タイミングを逸したのは分かってる。気持ちに確信が持てないからと、自分からは動かず響くんの告白をただ待っていただけなのがこの結果だ。そういう意味でも件の後輩さんは凄い。一年の空白なんて気にせず仲良くなってすぐに動くなんて私より……

    「……やっぱヤだなぁ」
    「何がヤなんですか?」
    「それは、響くんが他の誰かと……ってえ?夢芽ちゃん!?」

    思わず返事をしそうになって驚愕する。本来別の世界にいるはずの友人、南夢芽ちゃんが不思議そうに私を見つめていた。

  • 135ハピエン至上主義23/05/19(金) 05:41:15

    「よもぎー!やっぱり六花さんだったー!」
    「あ、ホント!?良かった、見つけられたー」
    「蓬君まで!?え、どうして?何」

    夢芽ちゃんに呼ばれて遠くの方から蓬くんが駆けてくる。

    「ありがと、夢芽。それとお久しぶりです、六花さん。また少しこっちの世界にお邪魔します」
    「え、どういうこと?何で二人ともいるの!?」
    「裕太さんから聞いてないですか?なんかまた怪獣案件らしいですよ?」
    「そうなんだ……え、ってことはまたこの世界に怪獣が出るってこと!?」
    「そういう話っぽいです。多分後からちせちゃんたちも来ると思うんですけど」

    怪獣案件って、なんかとんでもないことを言ってる割には夢芽ちゃんの口調からはそこまで深刻な感じがしない。相変わらずちょっとマイペースな子だなぁ……

    「俺はちょっと気になることがあったんで、2代目さんにお願いして皆より先にこっちに来させてもらいました」
    「私は蓬が怪しかったんで着いてきました」
    「いや、何もやましいことはないからね?」
    「でも皆を待てないくらい気になることがあったんでしょ?怪しいじゃん」
    「そんな、夢芽が心配するようなことは何もないって。ホントにちょっとだけ気になったことがあるだけで……ごめん夢芽さん、その目やめてもらっていいすか」

    いつの間にか目の前で喧嘩のようなものが繰り広げられてる……でも二人の雰囲気からはそこまで深刻な感じはしなくて、あくまで日常のコミュニケーションの一環なんだって分かる。以前夢芽ちゃんが私の部屋に泊まっていた時も、蓬くんへの愚痴をよく零していたけど、それも途中から惚気にしか聞こえなかったし……ああ、この二人は本当に好き合ってるんだなあ……

    「……羨ましいな」
    「「え?」」

    ポロッと出た言葉に、二人の視線が私に向けられる。どうやら私がいたことをすっかり忘れていたらしい。でも蓬くんはそれで何かを察したのか、夢芽ちゃんと顔を見合わせた後、真剣な表情で私に聞いてきた。

    「六花さん。ひょっとして裕太と何か……いや違うな。
    ーーー裕太に何かありましたか?」

  • 136ハピエン至上主義23/05/19(金) 05:42:08

    「何かって……なんで?」
    「裕太と電話で話した時、違和感があって……どうしても確かめたかったんです。ひょっとしたら何か起きてるんじゃないかって」
    「え。蓬の気になってたことって裕太さんのことだったの?」
    「うん。だから言ったでしょ、夢芽が心配することなんて何もないって」
    「……警戒すべきは他の女だけじゃなかったか」
    「夢芽さん?ちょっと空気読んで?」

    夢芽ちゃんを嗜めつつ、蓬くんはまだ真剣な表情を崩さない。単に友人の近況を心配する、と言う訳ではない雰囲気につい気圧されそうになる。

    「六花さん達に比べれば、俺が裕太と過ごした時間なんてすごく短いです。それでも通じるところがあるから何となく分かる。裕太に何かあったんじゃないですか?何か、大きな変化が」
    「変化って、そんな急に言われても」
    「……俺、すごく世話になった人の様子がおかしくなってることにちゃんと気づかなくて。その人がいなくなる時にちゃんとお別れできなかったことがあります。結局その人とは再会できて、また会えるようになったんですけど……それでも、あの時ああすれば良かった、もっと出来ることがあったんじゃないかって後悔がなくなった訳じゃない」
    「蓬……」

    多分、それは蓬くん達とレックスさんのことなんだろう。以前台本作りの参考のために夢芽ちゃん達から色々話を聞いていたので、彼らの戦いや事情もよく知っている。特に蓬くんが、レックスさんとの最初の別れの時どんなに悔しい思いをしたのかも。

    「だから、もうあんな後悔はしたくない。俺にできることなんて実のところないかもしれない。でも何か俺にできることがあるなら、やれることがあるなら力になりたい。裕太も六花さんも、この世界で出会った友達だから。
    教えてください六花さん、裕太に何があったんですか?」
    「それ、は……」

    確かに蓬くんには響くんと通じ合う何かがあった。怪獣に追い詰められたあの時、迷わず走り出した響くんとそれを送り出すために理を壊す力を行使した蓬くん。この二人には私や内海くんでは共有できない何か別の繋がりがある。だからこそ、

    「……なんで?」
    「え?」
    「……なんで蓬くんはあの時、響くんを送り出しちゃったの?」

  • 137ハピエン至上主義23/05/19(金) 05:44:12

    ……精神的に参っていた自覚はあった。同じようで、でも決定的に変わってしまった響くんとの関係に。自分と同じくらい、いやひょっとしたらそれ以上に響くんを知っていて、自分にはできなかった行動を起こした少女の出現に。響くんから告げられた決定的な断絶の言葉に。そしてそのキッカケになった、あの夜のことに。

    「……なんで響くんだったの?どうして他の人じゃダメだったの?なんで……なんで……」
    「り、六花さん……?」
    「なんで……キャリバーさんでも、マックスさんでも、ヴィットさんでもボラーさんでも、アンチくんでも、内海くんでも……私でもなくて、響くんだけが傷ついて……犠牲にならなきゃいけなかったの……っ!?」

    それは私がずっとしまい込んでしまい込んで、ガチガチに抑えつけていた本音の一欠片。だけど、一度蓋が空いてしまえばもう止められなかった。

    「分かってるよ、響くんがグリッドマンに選ばれたから。その理由だって想像もついてるっ!あの夜だって他に手段がなかったって、響くん以外にはできないことだって分かってる分かってるんだよでも!!……なんで、なんで響くんなんだよ……っ」

    アカネの時も、ユニバース事件の時も、私たちは最後まで響くんの戦いを見守ることしかできなかった。それでも彼の支えになれているって分かったからそれでいいって、せめて彼の帰って来れる場所を守ろうと思っていた。だけど、納得はできても心配してなかった訳じゃない。私だって、多分内海くんだってそうだ。響くんにこれ以上傷ついてほしくない、戦ってほしくない。その思いは同じで、だからあの夜だって必死に止めたくて、それでも帰ってきてくれたからそれでいいって思ったのに……

    「響くんが帰ってきてくれたのは嬉しいグリッドマンが救われたのも嬉しい、でも!もしあの夜に響くんを止めらられてたら、そもそも響くんがグリッドマンにならなければ私は……っ」

    そこまで言いかけて口に手を抑える。この先を言うのだけは絶対ダメだ。それを言ったら全てを否定してしまうことになる。目の前にいる二人のことも、あの日々で得られた大切な仲間たちのことも、アカネとの別れすら否定することになる。穢すことになる。本当にギリギリのところだけど、それくらいは分かって抑えられる自制心があることに心の底から安堵する。

  • 138ハピエン至上主義23/05/19(金) 05:51:09

    「六花さん……」
    蓬くんも、夢芽ちゃんですら沈痛な表情を浮かべている。二人とも本当に響くんと私たちのことを心配して来てくれたんだろう。なのに私は、落ち込んだからって自分のことしか考えてない……

    「ーーー六花?」

    不意に、今一番聞きたくない声が聞こえた。私たちは皆、ハッとしたように振り返って、

    「久し、ぶり。蓬、夢芽さん……ちょっと六花を探して、たんだけどその……」
    「……裕太?」

    蓬くんの反応は私の予想と違っていた。バツの悪そうな響くんの姿を見るや、どこか驚いたような表情を浮かべている。

    「ど、どうしたの蓬?俺の顔になにかついてる?」
    「いや……裕太だ。あれ、何で俺は今裕太に……」

    信じられないものを見た、といった感じでそれきり蓬くんは黙ってしまう。夢芽ちゃんもそれを見て不思議そうに蓬くんを見ているが、正直私はそれどころじゃない。

    「えと……俺、さっき六花に酷いことを言ったのかもしれないって。それで謝らないとって、思って……あの、俺は」

    沈黙を嫌ったのか、その真剣な表情に青く輝くガラス玉のような瞳が私を見つめる。……だけど違う。私を見つめるその瞳の意味が、以前とは決定的に異なっている。やっぱり無理だ。そんな目で見ないでほしい。今のその瞳で私を見つめないでほしい。でないと私は本当に壊れてしまいそうだから、お願いだから……っ

    「響くん……私は……っ」

    私の中にある蓋から、再び感情が溢れだしかけた、その時だった。

    「「「「!?」」」」

    響くんの左腕に装着されたプライマルアクセプターから、けたたましい音が鳴り響く。今までに何度も聞いた、怪獣の到来を告げるGコール。直後、上空からゲートが出現し……

    ーーーのっぺりとした水色の巨人のような怪獣が、ツツジ台に降臨した。

  • 139二次元好きの匿名さん23/05/19(金) 06:21:50

    え?今日の分これで終わり?嫌だああああああ

  • 140二次元好きの匿名さん23/05/19(金) 07:20:03

    本当にめっちゃ読ませる文章で素晴らしいな
    この方が他のサイトでSS載せてくれるならすぐにフォローしに行きたいレベルで凄く好きだ

  • 141二次元好きの匿名さん23/05/19(金) 13:45:40

    何故だろう。怪獣の出現に安心感すら感じる

  • 142二次元好きの匿名さん23/05/19(金) 22:27:01

    六花が爆発する瞬間が楽しみだったからこれでやっと見たいものが見れたって感じする。解決編が楽しみだ

  • 143二次元好きの匿名さん23/05/20(土) 00:03:54

    このレスは削除されています

  • 144二次元好きの匿名さん23/05/20(土) 00:04:21

    名前がハピエン至上主義じゃなかったら途中で脱落してたかもしれない

  • 145二次元好きの匿名さん23/05/20(土) 08:54:39

    本編であれだけ隠してた裕太への矢印これでもかと溢れ出てるのは見てて妙な達成感があるよな

  • 146二次元好きの匿名さん23/05/20(土) 16:37:34

    保守

  • 147二次元好きの匿名さん23/05/20(土) 22:51:07

    保守

  • 148ハピエン至上主義23/05/21(日) 05:47:24

    「え、あれ怪獣……なの?」

    夢芽ちゃんが怪訝そうな顔で巨人を見つめる。もっともその疑問は私も同じだ。水色の体色に、燃えるような赤い頭部。身体中に走る黒いラインに、手甲のようものがつけられた左腕。色々歪で台無しな感じはあるけど、その姿は私たちの知るグリッドマンに近い……気がする。だけどそれ以上に、どこか既視感を感じるのは気のせいだろうか。

    「動かない……いや、何かを探してる?」

    蓬くんの言う通り、巨人怪獣は顔だけキョロキョロと動かして何かを探しているようだった。戸惑っているのか、或いは暴れる気がないのか?と思った次の瞬間。まるで積まれた荷物から慌てて目的の物を探すような必死さで、近くのビルをへし折り瓦礫を放り投げ始める。衝撃と風圧が辺り一帯に広がり、少し離れた位置にいた私たちにまで襲いかかる。

    「〜〜〜っ!!皆、無事!?」
    「はい!俺は大丈夫です!」
    「私も平気です!でも、」

    巨人怪獣は荷物をかき分けるように街を滅茶苦茶にしている。ここからでも分かるくらい煙が立ち上っていて、衝撃と風圧が辺りを襲う。そんな中、ただ一人だけが左手を抑えながら怪獣を見つめていて、

    「……六花。俺、自分が犠牲になってるなんて思ったこと一度もないよ」
    「え?」
    「怪獣が暴れたら、きっと沢山の人が傷つく。友達も、家族も、知らない人だって沢山。だから俺にできること、俺にしかできないことがあって、それが何とかできるなら俺はやる。やらなきゃいけないんだ」

    ──俺はやるよ。俺にしかできないことなんだろ
    あの夜にも聞いた、響くんの行動理念。真っ直ぐで、勇敢で、その結果自分が傷つくことには一才頓着しない響裕太の本質。その部分は、悲しいまでに変わりがない。

    「行ってくる。あの怪獣を止めないと!!」
    「っ、待って響くん!!」

    迷いも躊躇いもなく、響くんが走り出してしまう。その表情にはさっきまでの気弱さなんて微塵もない。その姿があの夜に重なり、思わず伸ばした手は何も掴めず空を切る。それがどうしようもなく悔しくて、私は泣きそうになる。

    「蓬、私たちも!」
    「分かってる、今2代目さんと連絡ついた!もうこっち向かってるって!」

    後ろで蓬くんたちが何か叫んでいる。多分この後合流するレックスさんと一緒にこの二人も戦いに行くのだろう。自分だけが何もできない、その無力感がいつまでも私を苛んでいた。

  • 149ハピエン至上主義23/05/21(日) 05:48:16

    早く行かなきゃ。怪獣を止めなきゃ。その一心で休まず走り続け、俺はようやくジャンクに辿り着く。店の中にいるのは内海だけみたいだけど、さっきまで暗くなっていたジャンクに光が灯っていて、そこには


    <裕太、来てくれたか……!>


    赤、銀、青の美しいトリコロール。ユニバース事件を経て、裕太達みんなのイメージが形作った鎧を纏ったグリッドマンが待っていた。


    「遅くなってごめん!一緒にあの怪獣を止めよう、グリッドマン!」

    <勿論だ。共に戦うぞ、裕太!>


    阿吽の呼吸で頷き合い、左手をかざす。このままグリッドマンと一つになり、


    「待った裕太!六花は?一緒じゃなかったのか?」

    「見つけたけど一緒には来てない。今は蓬達が一緒にいてくれてる」

    「蓬くんが!?いや待て一体どうなって……」

    「ごめん、説明は後で!すぐに怪獣を止めないと!」


    どうやら内海はあれからずっと店の中にいたらしく外の様子がおかしいことには気づいていても詳しい状況は分かっていないらしい。とはいえ今は一刻を争う。気を取り直してジャンクに向き直ると、気のせいか画面に映るグリッドマンに翳りが見えたような気がした。


    「グリッドマン?」

    <裕太、私は……いや今は怪獣を止めなければだな>

    「……うん。行こう、グリッドマン!」


    気を取り直し、今度こそ戦いに赴くべく左手をかざす。もうすっかり慣れた仕草。俺は勢いよく右腕をクロスして、


    「アクセス……!フラァ─────ッシュ!!」


    肉体が光に変わり、ジャンクの中のグリッドマンと一つになる。そしてパサルートを通過して、今まさに暴れている怪獣の前に降り立った。

  • 150ハピエン至上主義23/05/21(日) 06:10:09

    <行くぞ裕太!>


    地上に降り立ったグリッドマンはそのまま走り出し、未だ何かを探すようにビルを破壊している巨人怪獣に拳を叩き込む。渾身の力で殴られた拳は確かな手応えと共に無防備な怪獣に直撃し、その巨体を吹き飛ばす。同時に拳から溢れ出す光が町に降り注ぎ破壊された町を修復していく。


    <やっぱり凄い、これなら……!>

    <ああ!町への被害を抑えることができる!>


    破壊と修復を同時に行う能力が健在であることを確認し、グリッドマンは倒れた巨人怪獣に再び挑みかかる。一方、怪獣の方も明確に攻撃と呼べるものを受けたのは初めてなのだろう。グリッドマンの姿を認めたのか向かい合うように立ち上がり、グリッドマンの拳に合わせるように自らの右腕を叩きつける。


    <がっ!?>


    裕太たちは知る由もないが、先の戦いでグリッドナイトとダイナレックスを苦しめた圧倒的なパワーが明確な意思を持って叩きつけられたことにより、グリッドマンは一瞬で吹き飛ばされてしまう。たった一撃で一気に体力を削られるような感覚、最早最初の一撃のように肉弾戦を挑むのは無謀だった。


    <グリッドッ……ビーム!>


    すぐに思考を切り替えて、グリッドマンは自身の代名詞である必殺技を解き放つ。左腕に装着されたグランアクセプターから放たれた虹色の光線は巨人怪獣に直撃し爆発。


    「やったか!?」


    ジャンク越しに戦いを眺めていた内海が興奮するが、すぐにそれはマズいと悟ったのだろう。実際爆煙が晴れた時、巨人怪獣は確かにダメージを受けていたが、未だ健在だった。グリッドビームでも決定打になり得ないなら後は持久戦になってしまうが、グリッドマンの体力も無限ではなく、悠長に戦っていては修復よりも町の破壊ペースの方が上回ってしまう。どう戦うべきか悩んでいた直後、上空にゲートが開き紅い機人と紫の巨人が降り立った。


    <待たせたな、大将!>

    <手間取っているようだな、グリッドマン>

    <来てくれたのか、二人とも!>


    グリッドナイトとダイナゼノン、頼もしき仲間が現れたことでグリッドマンの声に喜びが混じる。

  • 151ハピエン至上主義23/05/21(日) 06:33:51

    「待たせてごめん裕太、ここからは俺たちも一緒に戦う!」

    <蓬、ありがとう!でも六花は!?>

    「六花さんには2代目さんがついてくれてます。心配しなくて大丈夫ですよ裕太さん!」


    夢芽の言葉に心底ホッとする。急いでいたとはいえ蓬たちに任せて六花を置いてきたことに今更ながら心配だったのだが、2代目と一緒なら心配はいらないだろう。


    <どうやらグリッドマンの攻撃は通じるようだな。ならば俺は援護に回る、攻撃はお前達に任せたぞ>

    「任せてくださいっす!今日はガウマ隊全員集合してますからね!」

    「すっかりちせもダイナゼノンに一緒に乗るようになったのね……」


    蓬と夢芽だけでなく、ちせと暦の声も聞こえてくる。搭乗者4人以上の団結力と感情の昂りで力を発揮する特性を持つダイナゼノンは、ちせの言う通り今日はフルパワーで活躍してくれるだろう。


    「しっかしなんか見覚えある変な怪獣っすねー。グリッドマン さん達の親戚っすか?」

    「ちせちゃんも?私もなんか見覚えあるんだよね……」

    「実は俺も……でも今はそう言う場合じゃないからね二人とも!」

    <蓬の言う通りだ。ナイトが役に立たない分、俺たちと大将であの怪獣を倒すぞ!

    ──ダイナゼノン、バトルゴォーッ!!>


    ガウマ隊らしい賑やかなノリと共に、ダイナゼノンの砲門全てが怪獣へと向けられる。ガウマもまた巨人怪獣の強さを実感済なだけあり、ダ必殺技の一つであるフルバーストで一気に削りにかかるつもりらしい。


    <喰らえッ、ダイナゼノン!フルバーストッ!!>


    ダイナゼノンに備え付けられた全火器による一斉射撃。単純な破壊力は勿論、蓬達ガウマ隊全員の意思の元放たれた必殺技は、

    ──巨人怪獣の体に当たった瞬間に全て霧散した。


    「うえええええ!?」

    「ちょっとガウマさん!?話が違うんですけど!?」

    <んな馬鹿な!?前戦った時はあんま効いてなかったとはいえちゃんと手応えあったぞ!?>


    今見た現象が信じられないのか、ちせと暦が困惑する。だがそれはガウマも同じ、本人の言う通りダメージこそ少なかったとはいえ手応えそのものは十分にあった。ならばこそ、ガウマ隊が揃い真の力を発揮したダイナゼノンであれば確実にダメージを与えられると考えていたというのに。

  • 152ハピエン至上主義23/05/21(日) 06:34:34

    <グリッドナイトストームッ!!>


    その現象を見届け、今度はグリッドナイトが跳躍し、自身の必殺光線を叩き込む。だがこれもまた、以前同様怪獣の体に触れた途端に霧散し、一切の効果を表さない。


    <やはり俺の攻撃も効かないか……!ならば!>


    跳躍の勢いそのままに、グリットナイトは怪獣の背後に飛びつきそのまま体を抑えにかかる。当然巨人怪獣もそれを受け入れるはずがなく、振り解くべく体を振り回すが、やれるべきことが少ないからこそ全力を尽くして抑えにかかるナイトを振り解くことはできない。


    <グリッドマン!今コイツに有効打を与えられるのはお前だけだ!やれ!>

    <了解した!>


    ナイトの心意気を汲み、グリッドマンが一気に駆け出し、勢いを乗せた必殺の飛び蹴りを喰らわせる。ナイトの抑えによって思うように動けない怪獣はそれをモロに受けて態勢を崩すし、更に間髪入れずにグリッドマンのラッシュが叩き込まれる。


    「ガウマさん、俺たちも!」

    <歯痒いが仕方ねえか。俺たちもナイトと同じようにあの怪獣の動きを抑えるぞ!>

    「「「「はい!」」」」


    ダイナゼノンもまた、怪獣の動きを封じる立ち回りに切り替える。大勢で一人をリンチするような酷い絵面ではあるが、誰一人としてそれを卑怯とは思わない。むしろ一瞬でも力を緩めたら、動きが鈍ってしまえば、一瞬でこの怪獣は二人を吹き飛ばし全ての力がグリッドマンに向けて放たれる危うい状況なのだ。そしてこの状況に持って行ってもなお、未だ決定打を与えるには至っていない。


    <クソっ、なんて頑丈なんだこの怪獣!>

    <俺たちのエネルギーも無限ではない。このままだと時間切れになるぞ!>


    裕太とナイトに焦りの声が混じり始める。二人は今のこの状態が想像以上にマズいことを直感していた。実のところグリッドマンという脅威に出会い攻撃こそ放ったものの、未だこの怪獣は「暴れる」という行為に力を使っていない。先の攻撃だって、虫を払うような意識で行った動作に過ぎず、明確な敵意を持って放たれたわけではないのだ。つまり相手がその気になれば、この均衡はすぐにでも破られる。

  • 153ハピエン至上主義23/05/21(日) 07:05:17

    「響くん……!!」
    「六花さん、しっかり掴まっていてください!なるべく戦闘区域からは離れていますが、いつ巻き込まれてもおかしくはありません」

    一方、2代目に連れられ戦艦サウンドラスに避難して戦いを見守っていた六花も気が気ではなかった。たった一撃でグリッドマンに大きなダメージを与え、グリッドナイトやダイナゼノンと力を合わせても中々勝てない強敵。まるでユニバース事件で暴れ回った黒幕のようだ。

    「他の皆は、キャリバーさん達はどうして来ないんですか!?」
    「それが……私達と蓬さん達をほぼ同時にこの世界に連れてきた影響で負荷がかかったのか、ゲートが閉じてしまったんです。新世紀中学生の皆さんやゴルドバーンが間に合うかどうかは……」
    「そんな……!」

    これ程の強敵、全員の力を合わせないと勝てない相手なのに。

    「なんなのあの怪獣……響くんも蓬くん達も危ないのに、なんで私にはどうすることもできないの……!?」

    友人達が必死に戦っているのに見守るしかできない。以前は受け入れていた自分の立ち位置に歯噛みする。そして同じくらい、最初に感じた既視感が気になって仕方がない。もしもそれが分かれば何か戦いのヒントになるかもしれないのに。早く気づかなければいけないと言う思いと「気づいてはいけない」という直感が頭の中で鬩ぎ合う。そうしている間にも巨人怪獣は自分抑えている二人を振り払おうともがき、この余波だけでグリッドマン達に着実にダメージを与えている。エネルギー切れは時間の問題だった。

  • 154二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 07:05:55

    本当に六花への恋愛感情以外はそのまま裕太なんだな

  • 155ハピエン至上主義23/05/21(日) 07:06:12

    <ちっくしょう、なんでこんな子供の落書きみたいなやつがこんなに強えんだ!!>

    「子供の、落書き……?」


    忌々しげに叫ぶガウマの言葉に、蓬の中で何かが繋がりそうになる。


    (いや、でも……仮にそうだとして、そこにどういう理由があるんだ?)


    怪獣の姿の理由、そこからパズルのように繋がって行く想像、違和感……思わず蓬の意識が戦いから離れそうになり、


    「蓬、しっかりして!!」

    「ッ!?しまった!!」


    一瞬の気の緩み。しかしそれは怪獣が縛りを吹き飛ばすには十分過ぎた隙だった。力を込めて振り回されたその腕がグリッドナイトを、ダイナゼノンを、そしてグリッドマンに叩きつけられ、その衝撃が周囲のビル群を一気に破壊していく。


    <<<<「「「「うわあああああああああああああああああっ」」」」>>>>

    「響くん!!」

    「裕太!!」


    裕太達の苦悶の声が響き渡る。見守る六花と内海の叫びが木霊する。しがらみがなくなり体を回す巨人怪獣の顔が一瞬、サウンドラスの方に向けられる。だがその一瞬で、何故かサウンドラスの中にいる六花は怪獣と目が合ったような感覚を覚えた。そして、


    「……なん、で?」


    怪獣の顔を真正面から目撃したことで、六花は既視感の正体に気づく。いや、気づいてしまった。理由は分からない、そこにどんな意図があるのかは分からない。だけど、その怪獣は間違いなく、


    「六花さん?」

    「なんで……どうして怪獣があの姿をしてるの?」

    「何か気づいたんですか!?」

    「だってあれは……あの姿は……!!」


    「──あれは、響くんの書いたグリッドマンだ!!」

  • 156ハピエン至上主義23/05/21(日) 07:12:41

    保守&応援ありがとうございます。そしてお待たせして申し訳ありません。
    戦闘パートの描写マジで書き方分からんくて中々時間が……取り敢えずここから、少しずつカラクリというか解答が提示されていく予定です。なのでこの戦闘に関する決着だけは今日明日中には終えたいところ……

    そして生々しい、作者名が「ハピエン至上主義」じゃなきゃ脱落してたなどの感想ありがとうございます。ご安心ください、自分名前通りのハッピーエンド至上主義なので皆納得の完全無欠な結末かどうかは別としてハッピーエンドには必ず持っていきます

  • 157二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 09:57:20

    まさかのまさかですか!これは凄い伏線回収

  • 158二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 20:53:03

    保守

  • 159二次元好きの匿名さん23/05/22(月) 03:44:05

    ここからエモい展開が続きそうで楽しみ。このスレで終われるかな

  • 160二次元好きの匿名さん23/05/22(月) 08:12:14

    保守

  • 161二次元好きの匿名さん23/05/22(月) 13:43:48

    保守

  • 162ハピエン至上主義23/05/22(月) 20:59:59

    「あれ裕太さんの絵っすか!?」

    「装飾とか余計な模様とかくっついてるけど、言われてみれば確かにあんな感じの絵だったような……」


    六花に遅れ、夢芽達もようやく既視感の正体に気づく。六花、蓬、夢芽、ちせ、そして内海。この5人は見覚えがあるはずだ。何せ学園祭の準備期間中、何気なく裕太が描いていた残念な絵を直接見ている。


    「俺なんか何度も見てるのに……いや、でも気づけるか普通!?」


    そうぼやく内海だが、それも無理からぬことだ。確かによく見れば裕太の絵が実体を得て怪獣化したように見える。だが紙に描かれた落書きのような絵と、暴れている怪獣を繋ぎ合わせるなんて難しい。そもそもあの絵は裕太がグリッドマンをイメージしてシャーペンで描いたもの。本物のグリッドマンはこんな水色一色ではないし、むしろ気づいた六花を褒めるべきだろう。


    <何を気を抜いている!姿がなんであれこの怪獣を止めるのが先だろう!>


    怪獣の姿に思わず気が緩みそうなところをグリッドナイトが一喝する。見た目がなんであれこの怪獣が強大な敵だということに変わりはないのだ。


    「いや、でも……なんか様子がおかしくないですか?」


    一方でダイナゼノンの中でガウマと合わせて大人組の暦は怪獣の様子が変わっていると感じていた。六花が怪獣の見た目の既視感に気づいてから、正確に言えばサウンドラスを見てから動きが止まっている。今なら倒せるかもしれないが、それ以上に何かが


    <ッ、ヤバい!!>


    巨人怪獣の目が青く光り、何かを叫ぶように咆哮を上げ、そのままグリッドマンに向き直る。異変に真っ先に気づいたガウマはダイナゼノンを動かし、怪獣に掴み掛かる。だが怪獣は意にも介さずグリッドマンに向かって走り出し、弾丸のような突進に巻き込まれたダイナゼノンはそのまま吹き飛ばされてしまった。


    <「「「「うあああああ!!」」」」>

    <蓬!皆!!>


    焦る裕太だが駆け寄る暇もなく、目の前まで迫っていた巨人怪獣にその右腕を叩きつけられる。先程までとは違う、明確にグリッドマンを倒そうとする敵意が乗ったその拳。咄嗟に防御体勢を取るも受けきれず、そのまま大きく吹き飛ばされてしまう。


    「裕太!!」

    「響くん!!」


    二人の叫びも虚しく、怪獣は先程までの鬱憤を晴らすかのように逆にラッシュを仕掛けていく。一撃一撃が並の威力ではないその拳に、防御する腕が砕けそうになる。

  • 163ハピエン至上主義23/05/22(月) 21:03:22

    このままではマズい。グリッドマンはなんとか攻撃の合間に合わせ、左拳でカウンターをぶつける。確かな手応え、ここからなんとか反撃に、


    <──え?>


    瞬間、裕太は自分に何かが流れ込んでくるのを感じる。とても大切な、しかし今の自分からはすぐに零れ落ちて失ってしまう何か。それが何なのか、今自分に何が起きたのか。それを考えるより先に怪獣が左手を掴み、そのまま投げ飛ばされてしまう。受け身も取ることができずに地面に叩きつけられ、裕太とグリッドマンの意識が一瞬飛びそうになり、額のタイマーが遂に点灯し始める。更に、


    <……まさか、この怪獣は……!!>

    <……グリッドマン?……え!?>


    突如、裕太は自身の体が急に重くなるのを感じた。この感覚には覚えがある、ユニバース事件の時、グリッドマンとの融合が完全ではなく自由に体を動かせなかった時と同じだ。


    <そんな、なんで急に!?グリッドマン、これって……!>

    <裕太、私は……!!この怪獣は……!!>

    <グリッドマン!?>


    グリッドマンの反応がおかしい。焦る裕太だが、戦いを見守る六花と内海はそれ以上に信じられない。


    「なんか様子おかしくない?ううん、これって……!?」


    以前、まだ怪獣だったアンチと戦った時とは逆。まさかグリッドマンの方が怪獣を倒すことを躊躇っている……!?


    <何をしているグリッドマン!>


    様子がおかしいことを察し、すかさずグリッドナイトが怪獣との間に割って入り攻撃を仕掛けるも、先程までと変わらずやはり一切通用していない。逆に邪魔をするな、とばかりにグリッドナイトを殴りつけ、更にそのまま投げ飛ばしてしまった。


    <グリッドマン!グリッドナイト!チクショウ、体が動かねえ……!!>

    「これ、かなりマズいんじゃないですか!?」

    「ああ、もう!こんな時にゴルドバーンがいてくれたら……!!」


    一気にピンチに陥った状況を打開しようと、ダイナゼノンも動こうとするが、先ほどのダメージで思うように動けない。夢芽や暦も何とか動かそうと必死に操作するが、立ち上がろうとするだけで精一杯だった。

  • 164ハピエン至上主義23/05/22(月) 21:05:40

    「やっぱり、あの怪獣は……」


    ただ一人、蓬だけはダイナゼノンの操作を忘れ思考する。戦闘開始時から感じていた違和感と既視感。六花の言葉で怪獣の姿に当たりがついたことで、ずっと考えていた疑念が明確な答えに至ろうとしている。

    裕太の絵をモデルにしたような見た目。5人揃って万全なはずなのに何故か逆に通用しなくなったダイナゼノンの攻撃。グリッドマンの反応。そして裕太の異変と六花の言葉……


    「……夢芽、ガウマさん。俺に何かあったら、呼び戻してください」

    <蓬、お前何を言って……!?>

    「まさか……蓬!?」


    この状況を打開する必要があり、何より確認する必要がある。そしてそれが出来るのは今自分しかいない……!!


    「──インスタンス……!ドミネーションッ!!」


    そして蓬は右手をかざし、理から外れた力を解き放つ。

  • 165ハピエン至上主義23/05/22(月) 21:06:04

    直後、蓬は真っ白な空間に叩き落とされる。光の空間というわけではない、白しか認識できない広大な空間。自分の体の感覚さえ分からなくなり、まるで長時間宇宙に放り出されたかのような孤独感に心が砕かれる。同時に空間内を満たす圧倒的な力と情報の奔流が自分を襲い、僅かに残った意識すら無くなっていく。


    (ゆ……め……!!)


    自分にとって最も大切な存在のことを考える。そうしなければ間違いなく麻中蓬という存在が消え失せると直感する。


    ──ぎ……も……ぎ……!!


    薄れ消えていく意識の中、誰かの声が聞こえる。それが自分を呼ぶ声なのかも、もう分からない。そして蓬の意識が完全に消える直前、この空間の正体と、どこかに通じる「穴」が見えた気がした──


    「よもぎ!!目を覚ましてよもぎ!!よもぎっ!!」

    「ッ!?」


    自分の名前を叫ぶ夢芽の声に蓬の意識が覚醒する。時間としては僅か10秒足らず。しかし蓬にとっては何十年にも感じた時間。


    「俺、ちゃんと生きて……っ!!」


    自分が確かに存在していることを実感し、急に体が震え始める。もう二度とあそこには行きたくない、無理だ、まだ怪獣と戦う方がずっとマシだ。今まで経験したことのない別種の恐怖に、力を使ったことを後悔しそうになる。だが、


    「良かった……蓬、大丈夫!?」

    <バカ野郎、なんて無茶しやがんだお前は!!>

    「夢芽……ガウマさん……ごめん。でも、これでハッキリした」


    どうしてこんな状況になっているのかは分からない。だが力を使い、怪獣と繋がったことで蓬は自身の考えが誤りでないことを理解した。あの怪獣が何なのか、そして、


    「……ナイトさん!このままじゃマズいです!!」

    <何!?>

    「俺たちじゃ……少なくとも俺とナイトさん。それに2代目さんじゃ、あの怪獣には勝てません!!」


    麻中蓬とグリッドナイト同盟。この3人では絶対にあの怪獣を止めることはできないという事を理解した。

  • 166ハピエン至上主義23/05/22(月) 21:10:04

    蓬の叫びを聞き、グリッドナイトは思考する。その言葉の真意を考察するためではなく、この状況を打開するために。実のところナイトもまた、この怪獣には勝てないという確信にも似た直感が働いていた。複数回の交戦、そして新庄アカネによって心を持たされた怪獣としての性質が、目の前の怪獣がどのような存在なのかを悟らせたのだ。だが正体が分かったからといって今の状況が好転したわけではない。先の蓬の行動でほんの僅かな時間動きを止めたことで、一時的にこちら側の体勢を整えることには成功した。しかしグリッドと裕太にズレが起こり始め、本来の力を出せなくなっている今、再び動き出した巨人怪獣によりなすすべなく追い詰められている。


    (時間が必要だ。1秒でも長く全員が体を休め、この怪獣への対抗策を考える時間が……!)

    今は勝てない。ナイトはそう結論を出し、一つの決意を固める。まとも戦力にはなれずとも、今の自分ができること。グリッドマンを勝たせるために出来ることを。


    <2代目!時間がありません。ゲートを開いてください、今すぐに!>

    「ナイトくん!?まさか……」


    ナイトの意図を理解し、2代目の表情が悲痛に歪む。確かに時間は稼げるが、最悪ナイトは戻って来れなくなる。


    「……分かりました。ゲートを強制展開します!」


    迷いは一瞬、ナイトの意思を汲み2代目は別次元へと繋がるパサルートのゲート展開に取り掛かる。数秒後にゲートが開き始めたのを確認し、


    <……ガウマ。グリッドマンを任せたぞ>

    <あ!?お前何言っ……>


    最後まで聞くことなくナイトは自身の姿をグリッドナイトの姿から、怪獣アンチへと変化。更に下半身を巨大ブースターへと進化させたスカイアンチになり、そのまま最大出力で巨人怪獣へと突進する。


    <グリッドナイト!?>

    <グリッドマン!これは貸しだ、必ず返せ!>


    グリッドマンしか目に入っていなかったのか、巨人怪獣はアンチの突進を無防備に受けて大きくよろめく。更に突進の勢いそのままに体を掴み、アンチは開いたばかりのゲートへと向かっていき、


    <宝多六花!>

    「アンチくん!?」


    <──お前がカギだ!>


    最後に六花に向けて重要な言葉を残し、アンチは怪獣ごとゲート内へ消えていく。2体の体が完全に入った直後、2代目の手によりゲートが閉じられ、アンチと怪獣はツツジ台から完全にいなくなった。

  • 167二次元好きの匿名さん23/05/22(月) 22:02:00

    いや、本当に頼りになるな、アンチくん

  • 168二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 07:40:01

    待ってました

  • 169二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 15:06:21

    保守

  • 170二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 17:27:00

    保守

  • 171二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 20:06:26

    保守

  • 172ハピエン至上主義23/05/24(水) 02:10:23

    <……裕太の様子は?>

    「ソファで寝かせてる。今は六花が看てるよ」

    <そうか……>


    その言葉に、グリッドマンがホッと胸を撫で下ろしたのが分かる。一時的とは言え、怪獣の脅威が去ったことで、グリッドマンとダイナゼノンはそれぞれ待機状態に戻った。しかし分離した直後、突然裕太は意識を失い倒れたのだ。2代目曰くただ眠っているだけであり、命に別状はないとのことだが、裕太が倒れた直後の六花とグリッドマンの狼狽ぶりは見ていられなかったほどだった。


    「蓬くんは大丈夫なの?ほらアレ、なんか怪獣操る力使ってたみたいだけど」

    「俺は全然。まあ絶好調とは言えないけど、そんな無理したわけじゃないし」

    「いや、お前結構無茶してたからな?怪獣使いの力ってのは厳しい訓練積んだ上で使うものだって前にも言ったろ?」

    「そういえばそんなこと言ってましたね……」

    「お前がそれを使ったことで何度も助かったのは事実だし、二度と使うな、とは言わねえけど。なるべく使わないに越したことはねえ。それは忘れんなよ」


    厳しくも気遣うガウマの姿に、蓬も素直に頷いている。よく見ればいつも以上に夢芽がピッタリとくっついており、彼女もかなり心配していたのだと分かる。


    「そういえば隊長、2代目さんの姿が見えないんすけど」

    「2代目ならマックスさん達に連絡とってる。ダイナゼノンがまともな戦力にならない以上、あの人たちには一刻も早く来て欲しいんだが……難しいかもな」

    「ゴルドバーンがいてくれたら……」


    怪獣はいなくなったが、倒したわけではなくいつ戻ってくるか分からない。次に勝つ目処も立っていない。店の中には重苦しい空気が流れていた。

  • 173ハピエン至上主義23/05/24(水) 02:15:35

    穏やかな寝息を立てながら、響くんが眠っている。こんな風に彼の寝ている姿を見るのは何度になるだろう。記憶では3回くらいだと思うけど、もっと多かったような気もする。


    「ホント、子供っぽい寝顔……」


    普段の少し気弱そうな姿とも違う、完全に無防備な表情。その顔からは怪獣と戦う時のような勇ましさは微塵も感じられず、むしろ可愛くすらある。さっき急に倒れた時は本当に気が気では無かったけど、この様子なら心配はいらないだろう。


    「……響くんの寝顔っていつも変わらないよね」


    普段の寝姿は知らないけど、私が目にしたはいつもこんな感じだった。まあ、目覚めた直後に記憶を失ってたり、そもそも刺されて倒れてたりと、穏やかな事情では無いことが多かったけど。だけど私は、こうやって彼の寝顔を眺める時間が決して嫌いじゃない。特に今は、唯一自分と響くんの距離感が変わっていないように感じるから。


    「でも……」


    不意に、さっきまでグリッドマンが戦っていた怪獣のことを思い出す。いつかの響くんが描いていたグリッドマンが、そのまま実体化したような怪獣。あの怪獣は何だったんだろう。あの瞬間、私と目が合った後から急に暴れ出すようになったのは多分気のせいじゃ無い。それにグリッドマンの様子だっておかしく……


    <──お前がカギだ!>


    怪獣と一緒に消える直前、アンチくんは私にそう言い残していたけど、あれはどういう意味だったんだろう。……私に、何が出来るというんだろう。


    「六花さん、今いいですか?」

    「……2代目さん?」


    そんなことを考えていると、扉越しに2代目さんが顔を覗かせてきた。元々はアンチくんより少し歳下に見える姿をしていたけど、あまり付き合いがない内に一気に大人の女性に変わったせいか、つい敬語になってしまう。夢芽ちゃん達からすればこの姿の方が普通らしいけど。


    「裕太くんの様子はどうですか?」

    「……ずっと眠ったままですけど、2代目さんの言う通り特に問題はないと思います」

    「良かったです……これから皆の所に戻ろうと思いますが、今大丈夫ですか?裕太くんが心配なら……」

    「いえ、私がここで看てたところで響くんが起きるわけじゃないし。一緒に戻ります。今の状況もちゃんと知りたいし」

    「分かりました」


    そのまま2代目さんは内海くん達の所に戻っていく。最後にもう一度だけ響くんの寝顔を見て、私も部屋を後にした。

  • 174ハピエン至上主義23/05/24(水) 02:59:31

    「現状を確認する前に、まず私とナイトくんが何をしていたかをお話しさせていただきます。
    先のユニバースの一件後、私たちはあの事件の黒幕、マッドオリジンの残滓を消すために世界を渡っていたんです」
    「残滓を……消す?」
    「ええ。あの怪獣のグリッドマンに対する執着は尋常ではありませんでした。そもそもグリッドマンの弱みにつけ込んだとはいえ、その能力を利用してあそこまで大掛かりな計画を立てた相手です。体は破壊しても、その悪意はまだ残っている。それが私たちの考えでした」
    「想いの強さが奇跡を起こすってのはウルトラシリーズでも定石だしな……」

    言われてみればあの怪獣はずっと「グリッドマンは私のものだ!」と口癖のように叫んでいた。怪獣の誕生には人の心や感情が作用するらしいし、もしあの怪獣が生まれた原因にも誰かの強い想いが関係しているなら、しぶとく生き残っていても不思議じゃないかもしれない。

    「実際、様々な世界でマッドオリジンの残滓が確認できました。勿論あくまで残滓、その強さは本体に及ぶべくもありません。世界によってはこの姿の私でも難なく消せたくらいです。
    しかしその世界に暮らす人々の情動を糧にすることで、ナイトくんが苦戦するほど力をつけた残滓もいました。それでも順調に旅は続いていたのですが…….」
    「途中からさっきの怪獣が現れ始めるようになったんだよな?」
    「はい。まるで何かを探すように動き、結果として街を破壊していく謎の怪獣。これまでに集めたデータから、あの怪獣もまたマッドオリジンが関係していることは分かりました。しかし積極的に何かを襲うことはなく、しばらくするとまるで消えるように世界を渡っていく……ナイトくんの攻撃が一切通用しないこともあり、あの怪獣の調査も並行して行っていたんですが、あまり成果は得られず……」

    2代目さんの話から察するに、あの怪獣と戦ったのは今回が初めてでは無いらしい。その声に無念さを滲ませている。

    「六花さん、内海さんには私たちが不甲斐ないばかりにご迷惑をお掛けしてしまいました。本当に申し訳ありません」
    「いや、頭を上げてくれよ2代目さん。仕方ないこともあるって」
    「そうですよ。別にわざと手を抜いたわけでもないんだし、それに……」

    あの怪獣が暴れ出したのは私が原因かもしれない。そう言いそうになって、結局言えずに口篭ってしまう。それは多分自惚れだろう。

  • 175ハピエン至上主義23/05/24(水) 03:30:46

    「俺もナイト達に合流して一度戦ったんだが、なんつーかとにかく力が強え怪獣でな。でもナイトとは違ってダイナレックスの攻撃には手応えがあった。だからまた2代目達とは別れて、お前らに協力を仰いだってわけだ」
    「でも、全然攻撃効いてませんでしたよね……」
    「そうなんだよ。ナイトの時と同じで、全然効かなくなってやがった。きっとあの後、どっか別の世界で強くなったに違いねえ」

    暦さんの言葉にレックスさんは苛立たし気に胸の前で拳を合わせている。自分だけで戦った時より、今回全員揃った状態の方が戦力になれなかったということがよっぽど腹立たしいようだ。それは多分、戦力にならなかったことではなく、レックスさんにとって大切な仲間である蓬くん達を否定されたように感じたからなのだろう。

    「──いえ。多分、ダイナゼノンの攻撃が効かなかったのは、俺が乗ってたからだと思います」

    不意に、蓬くんが口を開き、全員の視線が彼に向けられる。しかし蓬くんは動じる様子もなく、しかし何か悩んでいるように両手を口元で組んでいる。

    「……蓬?」
    「何言ってんだ蓬。お前一人が悪いわけねえだ……」

    不思議そうに見つめる夢芽ちゃんとレックスさん。しかし2代目さんは何かを察したのか、二人を手で制して、

    「蓬さん。さっきの戦いであなたは怪獣使いとしての力を行使しました。そこで、何かを見たんですね?……その結果、蓬さんとナイトくん。それに私ではあの怪獣を止められないと?」
    「……はい」

    何かを確認するような2代目さんに、蓬くんは確信を持って頷く。

    「最初から違和感はあったんです。それはあの怪獣だけじゃなくて、他の諸々も含めて何ですけど……でもあの怪獣を掴んでみて、確信しました」

    そして蓬くんは答えを口にする。あの怪獣の正体。或いはそれは私も、内海くんも感じていたことで……

    「なんでそんなことになってるのかは分かりません。倒し方とか、そもそも倒していいのかも俺には分からない。だけどこれだけはハッキリ言える。あの怪獣は──」

    「──あの怪獣は、裕太から切り離された心そのもの。裕太にとって一番大切な感情そのものなんです」

    私の心を乱していた一連の出来事、その核心となる答えだった。

  • 176ハピエン至上主義23/05/24(水) 03:33:19

    そんなこんなで深夜遅くにすみません。
    ここから次回は本SSの解答編に入ります、長かった……

    因みに今解答編からのラストスパートを書き起こしているのですが、ここまで文字数制限とかを全然気にしてなかった結果、どうも本スレの残りではラストまで書き切るのは難しそうなので、多分次スレにまで続くと思います。

    一応pixivのアカウント取得してまとめるつもりではいますが、もうしばらくお付き合い下さると嬉しいです

  • 177二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 08:08:33

    楽しみに待たせて頂きます。

  • 178二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 08:15:24

    ひっそりと追って応援してます…!続きが気になる!!!

  • 179二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 08:32:43

    しばらく溜めて一気読みしましがが、最高でした。完結まで応援しています。

  • 180二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 18:50:18

    保守
    そろそろレス数がやばい

  • 181二次元好きの匿名さん23/05/25(木) 00:30:14

    保守
    圧迫したくないけどごめん

  • 182ハピエン至上主義23/05/25(木) 10:36:04

    皆さん保守ありがとうございます。
    途中から自分の書き方だと、このスレ内で完結させるの難しいかもなーと思ってたので、多分今晩?更新分上げた後、次スレ立てると思いますm(_ _)m

  • 183二次元好きの匿名さん23/05/25(木) 21:22:00

    保守

  • 184ハピエン至上主義23/05/26(金) 05:53:09

    <やはり、そうだったのか……>

    「やっぱりグリッドマンは気づいてたんですね」

    <初めは気づけなかった。だが暴れ出し始めた怪獣を殴った時、何かが私と裕太に流れ込んで来るのを感じた。とても暖かい何かが。恐らくあれは……>

    「響くんの、心……」

    「じゃあ、途中からグリッドマンの様子がおかしくなったのは……」


    失われていた響くんの心が、今の響くんとグリッドマンに悪影響を及ぼしたということだろうか。何となくそれは違う気がする。そんなことを考えていると、事情を飲み込めていない暦さんがおずおずと手を挙げていた。


    「えと……すみません。蓬くんとグリッドマンを疑うわけじゃ無いんですけど、あの怪獣が裕太くんの心ってどういうことなんですか?」

    「そうですね……六花さん、内海さん。念のため今日までの裕太くんについて聞かせてもらっても?」


    2代目さんに促され、私と内海くんは顔を見合わせながら響くんの様子を皆に語り聞かせる。……正直それを話すと、私と響くんの気まずい距離感についても話す必要があったので凄く恥ずかしかったけど、背に腹は変えられない。皆も空気を読んでくれたのか、特に茶化すようなことは言われず、むしろ真剣な顔で話を聞いてくれていた。


    「……と、まあ。こんな感じです。殆ど俺たちが知る裕太と変わりはないけど、やっぱり一番の違いは六花さんとの距離感というか、感情の向け方というか……」


    ……前言撤回。私自身の気恥ずかしさもあるけど、それ以上に他人の恋愛事情なんてプライバシーを掘り下げることの罪悪感半端ない。それがどんなに傍から見てバレバレだったとしても。


    「……参考になりました?」

    「十分です。お二人ともありがとうございます、お陰で状況が見えてきました」

    「するとアレか?本当にあの怪獣は裕太の恋心が形になった姿なのか?」

    「それ以外の要素も含まれているとは思いますが……そうですね。あの怪獣を構成する最も大きい要素ではあることはほぼ間違いないです」

    「シズムくんと同じような感じなのかな……?」

    「どうだろ。確かにあの時のシズムくんは、怪獣を育てるために俺達の傍にいたみたいだったけど」


    シズムというのは確か、蓬くん達が戦っていたという怪獣優生思想の一人だった気がする。大まかな話しか聞いていないけど、蓬くんにとって苦い記憶の一つらしく、その表情に少しだけ陰が差しているように見える。

  • 185ハピエン至上主義23/05/26(金) 05:54:27

    「でも、なんで裕太さんの心が怪獣になってるんすか?怪獣の発生源は、もうこの世界には無いんですよね?」
    「……恐らく、グリッドマンを救いに行ったことが原因でしょう」

    私たちの顔を窺いながら、少し遠慮がちに2代目さんが口を開く。やっぱりそうなんだな、と、何となく分かっていたこともあって私と内海くんには驚きはない。一方グリッドマンの方は顔を伏せて、無念さに体を振るわせているように見えた。

    「……あの時、幼い私とナイトくんは言いました。『ただの一個体に過ぎない人間が、宇宙規模に拡大したグリッドマンと一つになれば自我を失う』と。あれは脅しでもなんでもない、純然たる事実なんです」
    「え、でも裕太くんは無事に帰って来たんですよね?グリッドマンと一緒に」
    「ええ。喜ばしいことではありますが、本来あり得ないことなんです。奇跡が起きた、なんて都合の良い言葉では片付けられないくらいに」
    「確かあの時、裕太は『今のグリッドマンは皆で形作った姿』だって、そう言ってました」
    「それも要因の一つではあると思います。裕太くんと皆さんを繋げる何かがあり、それを縁に皆さんの想いが流れ込んだ。他にも新庄アカネが何らかの協力をした可能性もあります」

    響くんが無事に帰って来れた奇跡の要因はいくつもある。2代目さんはそう前置きした上で、

    「──しかし、それでも足りなかった。裕太くんが、『響裕太』としてグリッドマンと共に皆さんの元に帰ってくるには、まだ奇跡が足りなかったということなんだと思います。結果として、」
    「裕太さんから、六花さんへの恋心が失われた……多分、裕太さんにとって1番強い情動を」
    「……私たちと別れてからグリッドマンを救い出すまでの間、裕太くんにどれほどの苦難が降りかかったのか、それは分かりません。しかし一個人が宇宙規模の情報量に呑み込まれれば、どんなに強い想いも押し流されて無くなってしまってもおかしくはないんです」

    必ずグリッドマンを救い出す、グリッドマンと一緒に皆を、私たちを守る。そう考えていたに違いない。自分のことなんて顧みない、出来ることがあるなら全力を尽くす。それが私が見てきた、私が──になった響くんだから。

  • 186二次元好きの匿名さん23/05/26(金) 05:58:09

    このレスは削除されています

  • 187ハピエン至上主義23/05/26(金) 06:05:24

    <……私を救うために、六花への想いを捨て去ったということなのか>


    声には自責と後悔の念が込められている。グリッドマンにしてみれば、自分が原因で三度、響くんを苦しめているように感じてたのかもしれない。……グリッドマンには悪いけど、私にはフォローできそうもない。だけど内海くんはそんなグリッドマンに苦笑して、


    「裕太にそんな計算できると思うか?アイツがそんな打算的な奴ならそもそもとっくに告白済ませてるって。裕太は単純に真っ直ぐすぎるんだよ」

    「……そうですね。裕太くんは、貴方を見つけ出すまで自分という存在を失うわけにはいかなかった。だから宇宙に呑まれないために自分の中で一番強い想いを持ち続けた。それが失われたのはあくまで結果であって、必要に迫られたから捨てた、ということではないと思います」


    慰めるためではなく、あくまで『響裕太』をよく知る者として内海くんと2代目さんは笑っている。……響くんがそういう人だっていうことは、私も分かっているのに。

    ……また少しずつ暗い感情が浮かび上がってくる。文句が言いたいわけじゃない、場の雰囲気を壊したいわけじゃない。なのに皆のように笑うことはできそうもなくて、


    「でも凄いですね六花さん」

    「な、何が……?」

    「裕太さんですよ。2代目さんの言うことが本当だとしたら、裕太さんは六花さんへの気持ちでグリッドマン さんの所まで辿り着いて救い出したんですよね?」


    「──つまりそれって、裕太さんの六花さんに対する想いが宇宙と同じくらい大きいってことですよね?」


    言葉を失ってしまう。そんな風に考えたことがなかったから、響くんの私に対する感情は気のせいだったんだと思い込むようにしていたから。だから逆に、『無かった』のではなく『大きかった』んだと改めて言われて反応に困ってしまった。


    「蓬はどう?宇宙と同じくらい大きい?」

    「いや、試したことないから分かんないけど……」

    「そこは自信を持って『そうだよ』って言うべきところじゃない?」

    「そりゃ夢芽のことは好きだしずっと一緒にいたいけど、そんな比べるべきものじゃないし」

    「私に対する、なんて一言も言ってないんだけど?……でも、蓬の場合は宇宙より大きいよねきっと」

    「俺に求めるハードル高すぎじゃない?」


    いつの間にか二人の世界に入り始める蓬くんと夢芽ちゃん。その様子が私には呆れつつも微笑ましかった。

  • 188二次元好きの匿名さん23/05/26(金) 06:15:21

    このレスは削除されています

  • 189ハピエン至上主義23/05/26(金) 06:16:28

    「なるほどな……裕太が恋心を失った理由に関してはなんとなく分かった。でもまだ肝心なことが分かってねえ。なんで失ったはずの恋心から怪獣が産まれてるんだ?」

    話が脱線し始めたからか、レックスさんがピシャリと本題に戻してくれた。少し空気が緩んでしまったけど、そもそも怪獣の脅威が去ったわけではなかったのを思い出す。

    「……仮説に仮説を重ねることにはなりますが……恐らく裕太くんの恋心は、グリッドマンを連れ戻した時点では失われていなかったんじゃないでしょうか?」
    「え?それって、ここまでの話全否定じゃないっすか」
    「正確に言えば、宇宙規模に拡大していたグリッドマンを収縮した際に、裕太くんの恋心も巻き込まれる形でグリッドマンに統合されていたのではないかと。先ほども言ったように、裕太くんの心は宇宙規模の情報量に押し流されてしまったので彼の中からは失われてしまいましたが、グリッドマンに巻き込まれる形で戻ってきたとしたら?」
    「仮にそうだとして、怪獣との繋がりが見えてこないぞ?」
    「……不幸な事故、でしょうか」

    その言葉に全員が首を傾げる。

    「あの時グリッドマンは、マッドオリジンの腹部に溜め込まれていた怪獣発生源を左拳で殴りつけながら、至近距離でグリッドビームを放ちそれらを消し去っていました。
    しかしビームで消し去られる前に、砕かれた欠片の一部がグリッドマンの左手につけられたアクセプターに当たってしまったんだとしたら……」
    「それって何かマズいんですか?」
    「本来であれば全く。しかしマッドオリジンはグリッドマンの合体能力を利用してあの事件を引き起こしていました。
    そして合体能力の要は、グリッドマンが身につけているアクセプター……これは本来『心を繋げて一つにする』力があると、ナイトくんから聞いたことがあります」
    「ってことは何か?あの最後の一撃が、逆にグリッドマンとマッドオリジンを繋げたと。そう言うことなのか?」
    「確証はありませんが……」

    つまりグリッドマンの合体能力を知り尽くしていたマッドオリジンの執念と、心を繋ぐアクセプターの性質。この二つを利用されたと言うことだろうか。

  • 190ハピエン至上主義23/05/26(金) 06:22:47

    「……実は俺、さっき裕太と再会した時、裕太から怪獣の気配みたいなのを感じたんです。すぐにその気配は消えたんで、気のせいかとも思ったんですけど、あれってまさか……!!」

    公園で再会した時の蓬くんの反応はそれが原因だったんだろう。2代目さんもその言葉に頷いて、

    「マッドオリジンから逆流したものかもしれません。恐らくアクセプターを介して、マッドオリジンとグリッドマン、引いては裕太くんと『繋がって』しまった。
    そして同時に知ったんでしょう、夢芽さんが言ったように、宇宙にも負けない裕太くんの恋心を」
    「繋がったってことは、そこから物や力を引き出せる。つまり僅かに生き残った怪獣発生源に宿ったマッドオリジンの意識がグリッドマンと繋がり、グリッドマンの体に巻き込まれる形で裕太から抜け出ていた恋心を吸収。そいつが時間をかけて怪獣になったって訳か」
    「先ほども言ったように仮説に仮説を重ねすぎています。推測でしかありませんし、今となっては知る由もありませんが……」
    「ならひょっとして、あの怪獣を倒せば裕太は元に戻るんじゃ!?」

    ハッとしたように蓬くんが顔を上げる。以前戦った怪獣の中にも人や物を内に取り込む怪獣がいたけど、その時は怪獣を倒すことで囚えられていた人々を解放することができたと聞いたことがある。なら響くんも……

    「……残念ながら、それは不可能だと思います」
    「どうして!?」
    「蓬さんが一番分かっているはずです。裕太くんの恋心はあの怪獣に取り込まれているわけじゃない。あの怪獣を構成する血肉そのものが裕太くんの想いなんです。……一度物質として別のものに変えられた物を戻すことはできません」
    「そんな……」

    見えたと思った光が一瞬にして消える。それはつまり、宝多六花への想いを響くんが取り戻す手段はないということだ。
    その言葉に、私以上に蓬くんはショックを受けているように見えた。

  • 191ハピエン至上主義23/05/26(金) 06:53:59

    「……もう一つ。蓬は何かに気づいたみてえだが、なんで蓬が乗るとダイナゼノンの攻撃が効かなくなるんだ?それにナイトの攻撃も」

    再び暗くなり始めた雰囲気を変えるためか、レックスさんが再び話を戻してくれる。必要なことではあるんだけど、その気遣いはありがたかった。

    「蓬にナイト。それに2代目にどんな共通点が……」
    「……それは、俺たちがあの怪獣が生まれるキッカケの一つだからだと思います」

    その言葉に、全員の注目が再び蓬くんに集まる。

    「あの時、ナイトさんと2代目さんは『グリッドマンを救う手段』を。俺は裕太を『グリッドマンの元に行かせるため』に力を使いました。他に方法はなかったし、裕太自身止まるつもりはなかったと思う。
    でも多分、俺たちの行動が裕太の背中を押したのは間違いないんです。あの怪獣を構成しているのは、グリッドマンを救いに行く過程で裕太から失われたもの。つまり」

    間接的に、『響裕太から宝多六花さんに対する想い』を失わせる手伝いをした。嫌な言い方をすれば、響くんが消える手助けをしたとも言える。その因果が、怪獣に何らかの形で作用し、蓬くんが乗ったダイナゼノンとグリッドナイトの攻撃を無効化している。蓬くんはそう考えているようだった。

    「じゃあ、よもさんがダイナゼノンに乗らなければ……」
    「多分、攻撃は通るようになると思う。……正直悔しいけどね」

    その様子に私はハッとする。ひょっとして蓬くんは、公園での私の言葉をずっと気にしていたのかもしれない。響くんの様子と、怪獣の正体。それが分かって本当なら自分が責任を負うべきだとそう考えて……

    「なるほどな……そういうことなら蓬は留守番だな。あの怪獣は俺たちでなんとかする」
    「……本当に倒さなきゃダメですか?あれは裕太の」
    「大切な想いなんだろ?俺だって思うところがないわけじゃねえ。けどな蓬、あの怪獣が次に現れたら、きっとすげえ被害が出る。この世界で生きる人たちの未来が失われるんだ。俺はそんなの認めねえ……
    だからあの怪獣は必ず倒す。その結果、裕太と六花には悪いことになってもだ」

    どこまでも真剣に話すレックスさんに、蓬くんとグリッドマンは再び顔を伏せてしまう。
    レックスさんの言う通り、元が何であれ怪獣である以上倒すしかない。でもいざあの怪獣と再び相対した時、私は怪獣が倒されるのを受入れることができるのだろうか……

  • 192ハピエン至上主義23/05/26(金) 06:57:22

    朝早くから、いつも以上に長文すみません。
    取り敢えず解答編でしたが、深夜のテンションなのと文章力のなさできちんと伝えられてる自信がない……すみませんm(_ _)m

    一応キリは良さそうなので、次回以降次スレに移行します。ある程度書き溜めができ次第建てるので、稚拙ではありますがもうしばらくお付き合いいただけるとありがたいです

  • 193二次元好きの匿名さん23/05/26(金) 07:17:07

    非常に読み応えのある内容でした。とても良かったです。

    所でなんか変なレスしてる奴いない?

  • 194二次元好きの匿名さん23/05/26(金) 09:37:39

    お疲れ様です!
    次スレのタイトル決まっていたら検索しやすさも兼ねて教えてほしいです

  • 195二次元好きの匿名さん23/05/26(金) 20:17:49

    ラストスパートって感じですかね

  • 196二次元好きの匿名さん23/05/26(金) 21:00:11

    もし全部変わっても伝えたい言葉変わらずにあるのなら…

  • 197ハピエン至上主義23/05/26(金) 22:34:06

    ありがとうございます。まだスレ立てできるほど次のてんかいの文字起こしできてないのでもうちょっと時間かかりそうですが、次スレは多分

    六花「響くんに伝えかったこと」

    で、立てると思います。もし別スレで似たようなタイトルのスレとかが先に立ってたりしたら、今回のスレ名に後編とかつけて立てようかな、と

  • 198二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 08:54:57

    次スレん9準備までギリギリで保守

  • 199二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 20:02:35

    最後のレスはスレ主に譲りたいけど間に合うかな?

  • 200ハピエン至上主義23/05/28(日) 05:54:58

オススメ

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