【SS】あなたと、わたし【トレウマ/閲覧注意】

  • 1二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:31:20

    ウインディちゃんにある感情を向けるトレーナーと、ウインディちゃんのお話です 
    トレーナーの性別に指定はありませんので、ご自由に想像頂けたら幸いです
    契約前、個別ストーリー3話の光景が今回のお話の元ネタです
    ※トレーナーがウインディちゃんにマイナスの感情を抱いている描写があります
    ご注意ください 

  • 2二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:31:45

    私は、実は凄い人物なのではないか。
    そんな思い上がりは、思春期…ともすればそれよりずっと前に、普通は打ち砕かれる。

    どんな分野であっても、自分より凄い人間は山のように居る。
    その現実を突きつけられ、その内に世間とはこういう物だと自身で折り合いを付け、大言壮語を口にすることはなくなっていく。

    私を見る目が無いのではない。
    私が、見る目が無かったのだ。
    奥底にある、「自分を見て欲しい」と言う思いを必死に隠しながら生きていく。
    それが、普通のことなのだから。

    そんな中で出会ったのが、"彼女"だった。

  • 3二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:32:07

    「この世界はおかしいのだ!!」

    世間的に言えば、おかしいのは誰がどう見ても彼女である。

    「誰もウインディちゃんのことを見てくれないし、褒めてくれないのだ!!」

    才能があると思っていた人間が、本当は何者でもなかったことを、井の中の蛙であることを突きつけられる。
    これも、普通のことである。

    「やーい!引っかかったのだ引っかかったのだ!」

    追い詰められた人間が、他者に対して攻撃的な行動を取ってでも注目を浴びようとする。
    そして、大体はそのコミュニティから排除される結末を辿る。

    「ウインディちゃんなんか…っ!!」

    自信と言う物は、まるで透明なガラス玉である。
    毎日を過ごす内に徐々に傷がついて、それが削り取られていく。
    その自信の源すら分からなくなり、念入りに打ち砕かれた後、最後に残るのは強烈なまでの自己否定である。

    珍しくも何とも無い。
    散々見てきた、散々思い知らされた、その光景。
    …誰も手を差し伸べなければ、彼女はここで終わりである。
    誰がどう見ても、彼女の精神は限界だった。

    この校舎裏で彼女との縁は、終わりだと思った。

  • 4二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:32:35

    「…嫌…だ…この…まま…は…」

    肩を震わせ、呼吸は乱れ、目は虚ろ。
    もう終わりにしようと、心が死に向かった時。
    打ち砕かれた自尊心の後に残った本音が、絞り出される時。
    ……それがその人物の本質なのだと、聞いたことがある。

    ──拒絶。

    心の死。
    それを彼女は拒絶した。

    世間は自分を認めてはくれないと言う事実に対する反抗。
    何よりも、心がへし折れて諦めようとした自分自身に対する苛立ち。

    眼の前の彼女と、私。
    泥水の中で佇んだままの私と、泥水の中に沈もうとしている彼女。
    まるで暗闇の中、ピンスポットがお互いだけを照らしているかの様に、その模様が頭にクッキリと浮かび上がる。

    既視感のある光景だった。
    世間は、自分を認めてはくれない。
    自分より凄い人間は沢山居て、自分はただの有象無象でしかない。
    散々その事実を突きつけられてきたのに、まだ心の奥底では納得出来ない自分が確かに居る。

    ……その言葉は、彼女ではなく私自身に向けた、自己中心的な物だったのかもしれない。

    誰も、私を認めてくれない。
    誰も、私を見てすらくれない。
    それは当たり前で、仕方の無いことである。
    私には才能が無く、這い上がろうとする克己心も無いのだから。

  • 5二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:32:57

    だけど今、泥水の中で溺れながら足掻こうとする彼女を見放してしまったら。
    私が、"私"を見放してしまったら。
    誰が信じてくれると言うのか。
    誰が味方になってくれると言うのか。

    気付けば、彼女の手を両手で必死に握っていた。

    『貴方は、凄い』

    こんな曖昧で、頼りにならない言葉で鼓舞していた。

    この世界はおかしいと、当たり前に疑問を呈する貴方は凄い。
    自分を褒めてくれないと、不満を口に出せる貴方は凄い。
    どんなやり方でも、注目を浴びようと行動に移せる貴方は凄い。
    そして今、這い上がろうと足掻く貴方は凄い。

    ──貴方は、こんな所で終わる器じゃない。
    どうか、この世界を去らないでほしい。

    多感な時期の学生を導き、支える立場の人間とは思えない、ただの願望を口にしていた。

    「し、仕方ないのだ!ウインディちゃんの凄さを、アイツらに見せつけてやるのだ!」

    …それが抜群に効くとは、思わなかったが。

  • 6二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:33:33

    私が担当するのが、彼女である必要は無かったのかもしれない。
    彼女の担当が、私である必要は無かったのかもしれない。
    だけどあの時、あの手を取らなかったら、今の私はここには居ない。

    「…どうかしたのか~?」

    外で雨が降りしきる中、トレーナー室で暇を持て余した彼女が、座って作業している私を覗き込んでくる。
    貴方を好きになった理由を探していただけだよ、と笑顔で答えた。

    「ふふん!ウインディちゃんのかっこよさに嫉妬したのか?」

    …そう言われ、頭の中であの出来事が思い起こされる。
    私の中の原点に従うかの様に、静かに頷いた。

    「……え?ほんとなのかなのだ?マジで嫉妬してるのだ?」

    嫉妬は、単なる言葉のあやだったのだろう。
    そう聞いて、彼女が急に狼狽えだす。
    事実なのだから否定する理由はない。

    「嫉妬…こ、子分の反逆なのだ?」

    残念ながら、私が彼女に抱いている感情はけして良い物ばかりではないのだろう。

    人の目を気にする癖に、目立ちたいと思ってしまう。
    自分は認められないと言う事実を受け入れるのが嫌な癖に、認められないのは仕方ないと思い続け、本心に蓋をし続けてきた。
    だからこそ、その不満や悔しさを口に出し続け、あの"死"を否定した彼女を格好良いと思ってしまった。

  • 7二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:34:04

    私に出来ることは、少ない。
    だけど、大切な"誰か"が報われた時、嬉しいと思ってしまう。
    道を同じくした"誰か"が思い悩んでいる時、言葉を掛けてしまう。

    優しい言葉等、思い悩んでいる者にとって気休めでしかない。
    そんなことは良くわかっている。
    だけど、何もせずにはいられず動いてしまう。

    「な、何なのだ!?」

    困惑しながらそこに佇む彼女を、立ち上がり包み込むように抱きしめる。
    私は、貴方を愛する私を愛してしまう、ただの姑息な召使いなのだから。

    ─あなたと、わたし おわり─

  • 8二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:34:54

    彼女を好きな理由を作品の中で言語化しようとしましたが、正直純粋な憧れや好意の様なプラスの感情だけではない分、難しいと感じました 

    自分を凄いと思っていたこと、その自信が削り取られていったこと
    正直3話のこのシーンを見た時、自分もそんな時期があったなあと、グサっと来てしまいました
    (その過剰なまでの自信が削り取られていく過程の描かれ方が生々しく、シーン単体でも大好きです)
    しかし、彼女は諸々のストーリーでも分かる通り才能に溢れており、トレーナーが言った貴方は凄い、貴方は日本の宝と言う言葉は大言壮語でも何でもありません
    正直、私と同じと言うのはおこがましすぎる程です

    彼女は私ではないし、私は彼女ではないので、ごく当たり前のことではあります
    その諸々もひっ含めて、私は彼女のことが本当に大好きなのだと思います
    読んで頂きありがとうございました 

  • 9二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:35:29

    ウインディちゃんSSの纏めです

    正直コミカルで気軽に触れられる話も書きたいと思ってしまいます 

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  • 10二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:39:38

    なぜその娘が好きなのかを言語化する、そういうのって中々難しいですよね
    あえてマイナスの感情を表現することでは良いところがより分かるのはあるのかもしれません
    沢山の事に挑戦しているあなたを尊敬しています
    今回のお話も良かったです

  • 11二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 11:47:56

    >>10

    ありがとうございます

    ただでさえ人を選ぶ彼女の話を書いてしまう癖があるのが何ともいえないです

    沢山の題材に挑戦しているのは、ある意味色々なアイディアが浮かぶ彼女の姿を無意識の内に追っているのもあるのかもしれません

    そういっていただけることが励みになります 

  • 12二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 14:26:25

    深考ウインディちゃんなのだ

  • 13二次元好きの匿名さん23/05/06(土) 18:37:10

    >>12

    ありがとうございます

    深考ウインディちゃんはとまらないのだ…

    手癖なのでしょうが、正直もう少し手軽な話も書きたいです

  • 14二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 00:31:21

    本当に書きたい話と違うのかもしれませんが、良かったです 

  • 15二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 11:50:30

    >>14

    ありがとうございます

    当初の予定と違う話になってしまったのは確かですが、こうして書いた時点で自分の書きたい話ではあるのでそう言って頂けることがとても嬉しいです

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