- 1二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:14:34
*某所に投げたものをリライトしたものです
ここはトレセン学園生徒会室。
トレセン学園の生徒のために日夜激務がこなされている場所である。
そしてこの時間帯はお昼休み。
学園ではお昼を食べた後に勉強をする者もいればお昼寝やランニング、さらにはまたご飯を食べるものもいる。
束の間の穏やかな時間。生徒会室に2人のウマ娘がいた。
「昼休みにすみません、会長。こちらの書類なのですが――――会長?」
話しかけた『女帝』の名を持つ、生徒会副会長のエアグルーヴ。
そしてそんなエアグルーヴに話しかけられているのが。
「ああ、エアグルーヴか。すまない、集中して気づかなかったよ」
『皇帝』と呼ばれる、史上初の無敗の三冠、そして七冠ウマ娘である生徒会長のシンボリルドルフだ。その圧倒的な走りと漂う品格により、生徒たちのあこがれの的となっている。
その会長の手にはスマホが握られていた。
「会長、もしかしてまた調べものですか?休憩中ぐらいはゆっくりしてほしいとつい先日いったばかりなのですが」
文武両道のシンボリルドルフであるが、たびたび働き過ぎてしまうことがあるようで。
エアグルーヴや、今この場にはいないナリタブライアンをはじめ他の生徒会メンバー、マルゼンスキーやトウカイテイオーなどといった親しい友人、そして彼女のトレーナーからはそのことをたびたび指摘されているのである。 - 2二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:16:00
「いや、ちがうさ。さすがに君たちの指摘を何度も無視して怒らせるようなことはしない。私が今やっていたのは――――」
そう言って会長が見せたスマホ画面に映っていたのは……
「これは……チェス、ですか?」
白と黒の正方形が交互に縦横八列に並び、そこに六種のコマが白黒合わせて合計32個。古代インドが起源とされ、似た遊戯として将棋が挙げられるチェスだった。
「ああ。以前チェスが趣味だと言っただろう?以前からこうしてアプリで嗜んでいるのだよ」
そのアプリはAI と戦えるほか,いわゆる詰め将棋的なモードやオンライン対戦モード、さらには他人同士の対戦の棋譜を読む機能もある。
普段見受けられないような会長の姿をまじまじと見つめるエアグルーヴ。
そんな副会長の姿を見たシンボリルドルフは。
「エアグルーヴも気になるのか?君さえよければ、一緒にやってくれると嬉しいのだが」
「は、はい……!ぜひお願いします!ですが、恥ずかしながらチェスのルールというものを知らず……」
「心配無用。君ならすぐに覚えられるさ。ではまず、この駒の動きは――――」 - 3二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:16:47
時は経ち、夜の初め頃。
トレセン学園にある二つの学生寮の内の、美浦の方の一室にて。
「ふむ、これでやっとチェックメイト、だな」
空いた時間を使い、シンボリルドルフはチェスのオンライン対戦を楽しんでいた。
ウマ娘としての脚の実力だけでなく頭脳までもトップクラスな彼女。
そんな頭の回転によってなされるチェスは、それはもう強いものである。
事実、彼女はユーザー名:Rudolfとしてチェスのオンライン対戦をしているが、他ユーザーからは『もしこれでアマチュアだとしたら、そこからプロを本気で目指せば間違いなくトップクラスになれる』などと評価されてもいる。
そんな評価が直接シンボリルドルフ本人の目に留まるわけではないが、もちろん、彼女はうぬぼれてなんかいない。負けるときだって彼女にもある。ターフと盤上、舞台となる戦場は違えど勝負であることには変わりはない。勝っても負けても、自分の駒運びを深く分析し次に生かそうとしている。――まあ、これをエアグルーヴあたりが知ったら「もう少し気楽にやってみたらどうですか」と注意されるのだろうが。
追加かでオンラインを数戦と、詰めチェスを何個かやり、今日はこれぐらいにして寝ようとアプリをタスクキルしようとしたそのとき。
ピコン、と。
「おや、対戦申し込みか」 - 4二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:21:00
このアプリでオンライン対戦をするにあたって、世界中の誰かと当たるフリーマッチ(もちろん、自分に近いレベルという条件に絞ることもできる)の方法などがある。しかし、ランキングで見たユーザーやつい先ほどまで観戦していた対局者などに対して対戦を申し込むことが出来るのだ。
彼女自身も何度も申し込んだこともあるし、逆に申し込まれたこともある。しかしすでに夜は遅い。せっかく申し込んでくれた相手には悪いが断らせてもらおう。
そう思いながら、OKボタンの左にあるボタンに指を伸ばすが……
「ん、なんだこれは……」
その相手のユーザー名を見て動きが止まる。何故なら――――
「プレイヤー欄が”空白”じゃないか……」
そこにあるはずのプレイヤー名が”無かった”のだ。
誰しもがこういうのには名前を付けるものではないのか?というかそもそもプレイヤー欄を空白にすることなど可能だったか・……
そんなことを考えながら、プロフィール欄をタップし、戦績を確認しようとする。そして表示された結果は――――
「これ、は……勝率100パーセントだと!?」
総試合数4桁近い数字の内、“ただ一つの敗北も存在していなかった”。 - 5二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:23:30
あらゆる勝負事にて無敗というのはほぼ不可能に近い。自分だって無敗の三冠を取ったのは血の滲むような努力があったからこそだし、その後七冠を取れはしたが無敗で取ることはかなわなかった。
チェスだって同じだ。今現在、数年前から公式戦で無敗というプロがいるが、それ以前には敗北の味を知っている。
しかし、目の前のこいつは膨大な試合を経ているのに負けがない。しかも直近の数戦の棋譜を見るに、文字通り言葉通りの”完封勝ち”である。恐らく、もっと過去の棋譜も同じことだろう。
そんな圧倒的な試合を見せてくれるこのアカウント。一度でいいから戦ってみたい。
そう思って対戦に応じる。
もう普段なら彼女は寝るはずの時間帯であるが、そんなことはもう頭にはなかった。 - 6二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:26:50
翌日。トレセン学園の食堂にて。
「会長、すごくお疲れのようですが大丈夫でしょうか?」
すごく眠そうなシンボリルドルフの席の向かいに、エアグルーヴが座る。また仕事を遅くまでやられていたのですか、と目を細める女帝に皇帝は慌てて口を開いた。
「ああ、すまない。私としたことが昨晩このようなことがあってね……」
そうして昨晩起こったことを続ける。
プレイヤー名欄が”空白”のプレイヤーとチェスをしたこと。
そしてその相手に”何もできなかった”ことなどなど。
「会長がそこまで……。相手はやはりプロなのでは?もしくはチェスのAIプログラムとか」
「いや、恐らくだがそれはないと思っている」
まず、いくらプロでも負けなしなんてことはほぼ不可能だ。それができるレベルの選手がいてもこのようなプロアマが混ざっているアプリでわざわざチェスをやるとは思えない。
「プログラムとかAIとかの類だとは私も思ったよ。だが、それも違うと私は考えている――――」 - 7二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:28:55
チェスや将棋、囲碁などをはじめとする『二人零和有限確定完全情報ゲーム』のソフトで、従来は、膨大な量のコードで計算スピードに物を言わせた全幅検索の強引なやり方。そして現在はAI――――特に多層ニューラルネットワークを用いたディープラーニングが主流となっている。そんな物に対して、黎明期ならともかく“プログラムの裏をかく”なんてことはさすがのシンボリルドルフでも不可能。
「ブラフ、ハッタリ、罠など。自分の今持ちうる全ての戦術を総動員したが、所詮アマチュア。プロならともかく、私では通用しないはずなんだ」
全戦全勝の完封勝ち。そんなことができるほどのAIに比べて素人な自分が通じるわけがない。
だが――――
「“通じていた”、ということですか?」
「ああ。といっても、“通じていると勘違いしている”というのに近かったのだけどね」
まるで脳内を覗かれているように自分のすることを予測され、そのすべてを悉く潰されるどころか、あまつさえ利用されたのだった。いくら最新のAIとはいえ、戦局を誘導仕切り、途中まで“自分が有利である”と勘違いさせるのは難しいと思う。
己のすべてを見透かすかのようなその頭脳。果たしてそれは人間かウマ娘か。それとも…… - 8二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:33:04
「ねえ、その人名前欄が空白で、しかもめちゃくちゃ強かったんでしょ?私、その人知ってるかも」
突然、彼女たちに声がかかる。その主は、
「ああ、ナリタタイシンタイシンか。その、知っているとはどういうことか教えてくれるかな?」
小柄な身長のナリタタイシンだ。レースの実力はもちろん、トレセン学園随一のゲーマーとして生徒の間で割と有名だったりする。
「うん。その人、他のゲームでも全部ランキング一位だったりするんだよ。しかも一度の敗北もなし」
なんと、二八〇を超えるゲームで頂点を総なめにしており、その人物が一位でないゲームは手を出していないからとも言われているという。そんなことができるならやはり機械なのではないかと言われていたが、どのゲーム・SNS にもアカウントが存在しており、”そいつと対戦した”と報告する声が日々上がっている。さらにはゲーム雑誌からの取材が何回もあったという。 - 9二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:34:40
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- 10二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:35:34
「なるほど。ならタイシン。その人物というのは一人ではなく、10人ほどで構成されたプロ集団などではないのか?そうでもなければ、そこまでの結果は不可能だと思うのだが」
と、当然とも言える疑問をエアグルーヴが口にする。
「うん、ネット上でもそういう意見はあるし、私も最初はそう思った。でも、多分違うと思う」
私自身も何度か戦ったし、そいつのプレイ動画を結構な数を見たことがあるんだけど、その全部が似てるっていうか。
それに、他のどのトッププレイヤーの戦い方とも違ってた。だから、大人数で名乗ってるっていうのはないと思う。
本当に信じられないんだけどね、とタイシンは最後に付けたして去っていく。
「さて、エアグルーヴ。長々と話してしまってすまなかった。我々も生徒会室に戻るとしよう」
もはや都市伝説と化しているその人物。プレイヤー欄が常に空欄なことから、ついたあだ名は――――
「『 』 (くうはく)か。あの圧倒的強さ。今は勝つことは難しいだろう。だが――――」
「いつまでも負けるつもりは毛頭ないのでね。いつかは勝たせてもらうよ?」
顔も正体も知らない相手に向かって、宣戦布告をするのであった。 - 11二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:47:26
空気を読めず申し訳ないが言わせてくれ
書いてくれてありがとう - 12二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:51:21
負けず嫌いなカイチョーすき
- 13二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:51:41
(*これで一応終わりです。メンゴ)
- 14二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:53:21
今更ながら、”クロス注意”の意を書くべきだっただろうか…
- 15二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 01:57:11
普通に引き込まれてた、神SS助かる