- 1二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:01:05
「今夜は月がとても“BUTY”……『綺麗』に“観測”できるよ」
担当ウマ娘のネオユニヴァースは夜空を見上げながら、そう言う。
今日は彼女と少し遠くのプラネタリウムへと出かけた。
……のだが、帰りの電車が大きく遅延し、学園の最寄り駅につく頃には周囲は真っ暗。
学園と寮には連絡済みのため、二人でゆっくり歩いていた。
「そうだね、今夜は月が大きくて、とても良く見える」
彼女の言葉に誘われて、視線を真上に向ける。
真っ暗な空には、小さく煌めく星々と、大きくてまんまるの優しい光。
プラネタリウムを見たせいか、今日は何故だか、星空が妙にくっきりと見える気がした。
そんな宵闇に見惚れていると、隣から少し困ったような声が聞こえてくる。
「……想定外の“RACT”、これは“軌道制御”が必要」
「うん?」
ユニヴァースの言葉に、俺は思わず視線を彼女に向けた。
期待した反応が得られなかった、そんな少し残念そうな表情を浮かべている。
もしかしたら、言葉の認識を誤ったのかもしれない。
そう思った矢先――――バツが悪そうに視線を逸らして、言葉を紡いだ。
「ゼンノロブロイが教えてくれた」
「あの子が?」
「『月が綺麗ですね』には“二重性”の“性質”がある、と」
「ああ、なるほど……ってキミは何を言わせようとしてたんだ?」
「あう……『ごめんなさい』だね」
「まあ怒ってはいないけどさ」 - 2二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:01:21
ユニヴァースは口元を隠しながら、楽しそうに笑う。
月が綺麗ですね、の別の意味。
著名な小説家が『I LOVE YOU』をそう訳したという逸話。
俗説と聞いたこともあるが、ここまで有名になれば真偽などはもはや些細なことだろう。
もっとも――――あまり俺はこの言葉が好きではないのだけど。
「……“ゆらぎ”を“検知”?」
「むっ」
自分でも知らない内に、表情に出ていたのかもしれない。
慌てて表情を戻そうとするも時すでに遅し。
ユニヴァースは興味深そうな目でこちらを覗き込んでくる。
「もしかしてトレーナーはこの“理論”が“ODUM”?」
「あはは、ちょっと苦手というか、ちょっと失敗したことがあってね」
「……“マグネター”、けれど“接近”はしない方が良いかな」
「いや、昔のことだし、今じゃ話のネタの一つだよ……小さい頃から月が好きでね」
そう言いながら、二人で空を見上げる。
小さい頃から変わらない、大きくて、丸くて、穏やかな明かりを灯す星。
「真っ暗でも明るくて、すぐ見つけることが出来て、太陽と違ってずっと見てられるから」
「ネオユニヴァースも“月”は“DIGG”だよ、ふふっ、『おそろ』だね」
「そうだね、それで小さい頃は月を見る度に綺麗だねーとか丸いねーとか口に出してたんだ」
なんとなく、口に出して伝えた方が、もっと綺麗になるような気がしたから。
両親がお互いや俺に対して、口に出して褒めるタイプだったからそう思ったのかもしれない。
それ自体は悪いことではないし、むしろトレーナー業においては良い影響があったと思う。
だからこそ、あの失敗は笑い話にできるわけだが。 - 3二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:01:41
「中学の頃にね、ちょっと気になっている女の子がいて」
「…………」
「本が好きで、大人しいけど好きな物には積極的で……今思うとゼンノロブロイっぽいな」
「……むぅ」
昔を懐かしみながら言葉を進める俺の頭に、ペシペシと軽い感触。
見れば、不満そうな表情を浮かべたユニヴァースが俺の頭を何度も叩いていた。
「……どうしたの?」
「わからない、けれど『めっちゃムカつく』」
「理不尽」
ユニヴァース本人も理解出来てないことならば、俺が理解するのも難しい。
彼女は納得してない表情ながら、続きを聞く気になったらしく、一旦手を下した。
とりあえずお気に召さないようなので、さっさと話を進めることにする。
「文化祭の準備で遅くまで一緒に残ったことがあってね、途中まで送っていったんだ」
「……“ランデブー”、トレーナーは“CSNV”だった?」
「意味はわからないけど風評被害を受けてることはわかるぞ……まあとにかくそれで緊張してね」
今思えば子どもだったな、とは思う。
当時は異性との交遊経験も少なく、何を話せば良いか判断がつかなかった。
今もそこまで得意ではないが、もうちょっとマシな会話が出来たことだろう。
「話題を探していたら満月が目に入ってね、無意識に言ってしまったんだ」
――――今日は月が綺麗だね。
その時、あの子が見せた驚愕とも失望とも拒絶ともとれる表情は忘れられそうにない。
少なくとも、脈はなかったんだろうなあ……そう思うと少しだけ心が痛む。 - 4二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:02:06
「相手が本好きだったのもあってか勘違いされて……誤解は解けたんだけど」
「“斥力”が発生するようになった?」
「そういうこと、それ以来、月に『綺麗』って言葉は口にしなくなったな」
とはいえ、もう十年近く前の話。すっかり俺の中でも消化されて、ちょっとした鉄板ネタとなっている。
これを聞いた人達の反応は大まかに分けて3つ。
一つは、災難だったな、慰めながらと笑い飛ばす。
一つは、言葉を少し選ぶべきだったね、と戒めつつ苦笑する。
一つは、懐メロ漱石だっけ? と首を傾げる。
ユニヴァースはどうかな、彼女の表情を伺った。
俺の話を聞き終えた後、一瞬だけ間を置いてから彼女は月を見上げて言った。
「それは、“月”が『かわいそう』だね」
「月が?」
想定外の反応に、俺は思わず聞き返してしまう。
ユニヴァースはこくりと小さく頷くと、人差し指同士を突き合わせた。
「『月が綺麗ですね』は本来、月への“HYMN”であるべき」
「……まあそうだね」
「けれど別の“恒星”に“掩蔽”されてしまっている」
本来『月が綺麗ですね』は月に対する褒め言葉。
しかし例の翻訳が有名になったことにより、別の意味で語られているという部分はある。
ましてや俺の場合、その言葉の使用自体を敬遠してしまっているわけで。
「月が受けるはずだった“称賛”は“NIZR”してしまった」
月に向けられるべき言葉は、その機会すら失っている状態といえる。
月自体は何も変わらず、美しいままで、夜を照らし続けているというのに。 - 5二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:02:28
「だから少し『かわいそう』かな」
それでは月が可哀相だ、そうユニヴァースは告げた。
「それは――――悪いことをしたかもしれないな」
なるほど、と俺は彼女の意見に同意する。
確かに、月からしてみれば理不尽だろう。
今までは自分と相手のことしか考えていなかったが、ユニヴァースならではの視点。
彼女は俺の言葉に小さく微笑み、そして提案をした。
「だからトレーナー、今“伝達”するのを『オススメ』する」
「……今?」
「ネオユニヴァースは“WRGU”しないから、『あんし~ん』だよ?」
「その言葉には不安しかないのだけど、うん、まあ、そうだね」
今日、何度目になるかわからないけれど、俺は月を見上げる。
大きくて、まんまるで、優しくて、昔からずっと変わらない、美しい光。
気の利いた言い回しも考えてみるけれど、やっぱりこの言葉しかしっくり来ないから。
「……月が、綺麗だね」
あれほど避けていたはずなのに、すんなりと口から出てくる。
案外、俺自身もずっと伝えたかったのかもしれないな、そう思うくらいには。
「“ONMR”、『もっと』、今までの分まで“送信”してあげて」
「もっ、もっと? えっと、今日も月は綺麗だよ、とか?」
「アファーマティブ、38万キロ先まで“DSN”に乗せて、もっと、もっと」
「…………月はいつも綺麗だね」
「えへへ、うん、もっと、もっと『欲しい』かな」 - 6二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:02:44
ユニヴァースは少しだけ緩んだ笑みを浮かべる。
耳はぴこぴこと反応し、尻尾は言葉を聞く度にゆらゆらと揺れ動く。
いつの間にか、彼女の腕は俺の腕に絡みついていて、近くで言葉を聞こうとしているよう。
ここまでされれば――――俺も彼女の意図には気づく。
まんまと乗せられてしまったことが、ほんの少しだけ悔しくて。
だから俺は、ちょっとした仕返しのために、口を彼女の耳に近づける。
吐息がそのまま耳にかかりそうな距離で、俺は小さく、優しく、ぼそりと呟いた。
「ネオ、『月が綺麗ですね』」
びくんと、ユニヴァースは耳と尻尾を立ち上がらせて、大きく跳ね上がる。
彼女は悪戯がバレてしまった子どものような笑顔を浮かべると、腕を更に強く絡ませた。
身体を密着させて、自らの顔を、俺の腕に寄せる。
満足したのか、催促はせず、ただ安らかな表情で、ユニヴァースは一言だけ言葉を返した。
「スフィーラ……『死んでもいいわ』だよ、トレーナー」 - 7二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:03:41
お わ り
月「は?」
って内容になってしまったのが反省点 - 8二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:16:34
月「許す。もっと続けろ。」
- 9123/05/07(日) 23:36:54
許された……
- 10二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:44:27
寝る前にいいもんみれた
- 11二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:49:27
神聖四文字がわかんねぇ…!
ぜんぶネオユニがでてこねぇのが悪い
月は見えませんでした - 12二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:53:45
好き!(夏メロ漱石で笑っちゃったけどコレはコレで味がある)
- 13二次元好きの匿名さん23/05/07(日) 23:55:52
トレユニは「教師と生徒? 愛と運命ですけど?」ってレベルで盛っても良いとされている
かわいいお話をありがとう
出汁じゅわっじゅわっに採られたお月さま笑っちゃいました - 14123/05/08(月) 00:17:35
- 15二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 00:51:47
くっ、ネオユニ語がわからん わからんがなんかイチャついてやがるのはわかるぞ!
本来は月に向けた称賛なのにって観点すき。と言いつつ本人もダシにしちゃうのかわいいね - 16二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 01:54:00
- 17123/05/08(月) 08:13:38
- 18二次元好きの匿名さん23/05/08(月) 18:02:21
ネオユニのSS書く人が着実に増えてきて嬉しい
- 19123/05/08(月) 21:30:13
何人いてもいいですからね
- 20二次元好きの匿名さん23/05/09(火) 08:04:53
カウンターくらうおユニさんは健康によいので上げ
- 21123/05/09(火) 09:32:50
おユニさんは万病に効くよね……
- 22二次元好きの匿名さん23/05/09(火) 11:14:17
ロブロイがいいダシになっててこれは素晴らしい
ロブロイに似たあの子との悲しい思い出も、ユニとハッピーエンドに追記して到達できるね…生きるものは可能性のかたまりですね - 23123/05/09(火) 19:28:34
- 24二次元好きの匿名さん23/05/10(水) 00:16:22
- 25123/05/10(水) 01:20:34
わかる(わかる)