とあるモブトレーナーの休日

  • 1二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:36:04

    ピンポーン、と。
    チャイムが鳴る。俺はソファーから立ち上がると、玄関に向かった。
    ドアを開けると、見慣れた顔が──担当のドカドカが立っていた。

    「トレーナーさん、おはようございます!」
    「おう、よく来たな。まぁ、上がってくれ」

    お邪魔しまーす、と言いながらドカドカが玄関で靴を脱いでいる時、廊下の奥、キッチンから一人の栗毛のウマ娘がひょっこり顔を出した。

    「ドカドカちゃん、ようこそいらっしゃい!」
    「あ、奥さん! 今日はお世話になりますっ!」

    そう、俺は結婚している。妻との出会いは大学時代にさかのぼる。
    当時、トレーナーになるべく勉強中の俺は、同じ大学にローカルシリーズを走っていたウマ娘がいると知り、実践的な話を聞きに行ったのが始まりだ。
    まぁ、それからお付き合いを始め、俺がトレーナーになったのを機に結婚した。
    家は親戚の伝手で安く借りられたが、生活はまだまだ厳しいので妻は近所のスーパーで働いている。
    大学に入っていた以上、妻にもやりたい事があったが、それはある意味叶えられていた。

  • 2二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:38:19

    「それじゃあ、こっちいらっしゃい。始めましょ?」
    「はーいっ」

    そう言って、2人はキッチンに引っ込んでしまった。
    こうなると俺はやることがないので、リビングに戻ってウマ娘雑誌に目を通す。

    「やっぱ、マックイーンの話題ばっかりかぁ……」

    来週に控えた春の天皇杯。
    マックイーンにとっては二連覇がかかっている。
    他のウマ娘の話題もチラホラあるが、俺の担当のドカドカの扱いは小さい。

    「まぁ、仕方ないか……」

    自分で言うのも情けないが、ドカドカは主役級の器ではない。
    バ場適正、距離適性、脚質が一級品とは言えず、レース運びもそこそこ。
    豊富なスタミナと身体能力でごり押すしかないウマ娘だ。
    それでもG1に、春の天皇杯に出走できるほど頑張ってきたのだ。

    2人、いや3人で。

    ドカドカとはスカウトしてすぐに、妻の事を話していた。
    今になって思えば、ひどい自意識過剰……でもなく、結婚して舞い上がっていたのだろう。
    ドカドカの反応も実に微妙なものだった。
    正直、あの時の自分を殴り飛ばしたい。
    だが、それも今となっては悪いことばかりではなかったと思う。

  • 3二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:40:52

    スカウトしてすぐ問題になったのは、ドカドカの偏食だった。
    肉と米が大好きの彼女は、野菜をあまり食べない。そして、カフェテリアでいくらでも出される食事に、実家があまり裕福ではないらしい彼女の枷が外れてしまった。
    要するに、太り気味だったのだ、彼女は。
    もちろんたくさん食べられる事はアスリートに必要な能力で、重要な才能だ。
    たくさん食べられるということは、内蔵が強い証拠であり、内蔵が強くなければ高負荷のトレーニングに耐えられない。
    無論、何事にも限度がある。
    何度も注意したが、ドカドカは軽く流すだけで聞き届けてはくれなかった。
    お陰で彼女のジュニア戦線はズタボロだった。これには流石に彼女も反省したらしい。
    が、自主的なメニュー選びができるカフェテリアで、ドカドカが欲望を抑えられるかは怪しく、俺もまだまだ経験不足な新人に過ぎない。
    そこで、手を上げてくれたのが妻だった。
    実の所、スポーツ学科で栄養学を学んでいて、自身もレースに出ていた妻は、この手の事に詳しい。

  • 4二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:42:02

    妻はすぐにドカドカと会うと、やっては行けないことや、やった方が良いことを彼女に教え。
    毎日、俺にドカドカの弁当を持たせる様になった。
    そのかいあってドカドカは復調し、クラシック戦線は目を見張る活躍を見せる事となった。
    その事もあり、ドカドカは大変妻に懐いており、同じウマ娘としての相談にも乗ってくれているらしい。
    負担はないのか、以前妻に聞いた事がある。すると、

    「私、こういう事がしたかったのよっ!」

    とまぁ、満面の笑みで答えてくれた。我慢させていたんだと、不甲斐なくも思ったが、実に心強い言葉だった。
    さて、キッチンに籠った2人が何をしているかと言うと、なんでもない。
    ただの料理の勉強会だ。

  • 5二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:43:38

    しかし、大事なレースを控えてすることか言えば、言葉が詰まる他ないが、これは今年に入ってドカドカから言い出した事だった。

    「私も今年でシニア級、三年目です。後々の事を考えて、色々やっていきたいんです」

    そう真剣な目で言われては仕方がなかった。恐らく、彼女の脳裏には「引退」の2文字が浮かんでいるはずだ。
    それを止めることは、1トレーナーの領分から外れる。
    妻とも相談して、彼女の提案を聞き入れることにした。
    雑誌に片手に色々考えている内に、かなり時間が経っていたらしい。
    キッチンから俺を呼ぶ声を耳にし、立ち上がる。

    来週のレースがどうなるか、まだわからない。

    それでもドカドカが悔いを残さない走りをして、そして良い結果がついて来ればいいと、そう願っている。
    後、その日の昼食はやけに豪勢だったことを付け加えておく。

  • 6二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:44:47

    いいぞ

  • 7二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:45:17

    好き

  • 8二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:45:36

    ええやん…

  • 9二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:46:07

    冷静に考えてドカドカって名前だいぶ酷くない?

  • 10二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:46:36

    スローモーションのモブトレとか書いてた人?全部読みたい

  • 11二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:47:15

    ウマ娘に歴史ありだな

  • 12二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:51:56

    素晴らしい
    適性オールBは辛いなドカドカ…

  • 13作者21/08/26(木) 23:54:13
  • 14二次元好きの匿名さん21/08/26(木) 23:56:57

    こんなところでドカドカの解像度が上がるとは思わなかった
    誰もが化け物みたいな適性と能力を持っているわけじゃないんだよな…

  • 15二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 00:04:16

    いいねえ…

  • 16二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 00:14:26

    なんか一個でも適正Aあるのってまさしく才能なんやなって

  • 17二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 00:38:27

    既婚トレーナー概念も素晴らしいな。
    なんていうか、すごく平和だ。

  • 18二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 06:12:05

    おもしろかった!

  • 19二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 13:05:26

    >>9

    トコトコ

    ジャラジャラ

    プニプニ

    がいることを教える。

  • 20二次元好きの匿名さん21/08/27(金) 13:07:13

    >>9

    ヨカヨカは北九州記念勝ったし…

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