- 1二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:08:03お願いします|あにまん掲示板URA前に医者に「あと3走もすれば確実に折れる」と忠告されたタキオンに泣きながら走って欲しいけど、無事でいて欲しいという相反する感情を打ち明けたモルモット君とそんな彼に「ここまで連れてきてもらったから…bbs.animanch.com
こちらのリクエストより。遅くなって申し訳ございません…
【注意】
個人の解釈が含まれております。
それでは、どうぞ。
- 2二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:09:14
はは…やったぞ…プランAの、完成だ…!!!
遠い、鮮やかな海辺での記憶。
──可能性を追うことは、犠牲がつくものだ
倦怠感と共に目が覚める。憂鬱な朝だ、カーテンを開くとまだ陽は昇っていない。隣のベッドで眠るピンク色の頭のウマ娘を置き去りにして、ゆっくりと廊下を辿る。向かう先は実験体の元…いや、違う。
行き先は必ずカフェと共用の実験室だ。
ぼんやりと光る薬が光源となった、一番落ち着くはずだった部屋。
プランAを実行するために通い続けた、この部屋の空気は苦い。研究が終わらない。
限界まで続けなくてはならない。
…壊れるまで。何度でも。
────アグネスタキオンさんの状態ですが
吐き気のするあの冷静な声。
惹かれた瞳の炎を消した、あの憎い話。
私の脚は、度重なる実験で補いきれない程に疲弊しきっていたらしい。
「…ふざけるなよ。私の言うことを何でも聞いて尽くすのが君の仕事だろう?
なぜ否定する。なぜ気遣う。やめろ、そんな目で見るな。私に対しては、速度に狂った瞳だけを見せてくれ。君がすべきことは実験に協力すること。…一緒に可能性の果てを見たかったんじゃないのか!?なぁ、なぁ…!」
──あなたの脚はもう限界だ。長期休暇を入れるならまだしも、過酷なURA出走は不可能です。逆に言えば、どうして今まで出走できていたのか…疑問でしかありません。
あの言葉で、親愛なるトレーナー君の態度が一変してしまった。
今まで何度も心配されてきたが……比べ物にならないほどの、痛くて仕方がない心配という名の悪意が…随分と柔らかくなってしまった私の心に溶けていく。
くそ…くそ……!
何度も、拳を机に叩きつける。
…ウマ娘の力の大きさに、木製の家具など容易く壊れてしまう。それでも、止めることができなかった。頭を抱え込み、現実逃避を始めた私が見たものは…懐かしい一つの記憶だった。 - 3二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:10:03
〜
…なんだいトレーナー君。私の実験成果を冠する名前はあるか、だって?ふむ…教えたはずだが忘れたのかい?
『U=MA2』
あぁそうだ、U=mc^2とかけたんだ。
一応MAも物理量としては力の大きさを示すし存在はしているが、どうでもいいね。
…ところでモルモット君。上手いシャレというものはいくつも意味をかけるものだと知っているかい?
そうだ…これにももう一つの意味がある。まぁ教えるつもりはないから、せいぜい頑張って見出したまえ。フフ…ヒントぐらいは与えておこうか。
時に、モルモットは英語で何というかな?
おぉ…guinea pig、よく知ってるね君。
この質問をすると、日本にモルモットが持ち込まれた時にオランダ商人がmarmot…マーモットという別種と名前を間違えて広めてしまっただけあって、必ず皆間違えるんだ。
だからカタカナでモルモットと書くときに、それが指す動物はmarmotの方でguinea pigではない。
長々と話したこれがヒントだ。
さ、他愛のない話は終わりにして今日の実験を始めようか…!
〜
昼。授業には出席しなかった。
そんなことよりも大事なことがある。死人のような足取りで、彼のトレーナー室に向かうのだ。休養期間に入ろう、そう言われたあの時から訪れていない部屋。
…そろそろ。せめて顔だけでも合わせたい。
いきなり入っていった私をいつも迎え入れてくれた。今回だって…同じはずだ。
ガチャリとノブを回そうとした瞬間、中から同時に出てこようとしていたトレーナー君と目があった。気まずい空気、どうやら向こうもこちらを迎えにこようとしていたらしい。
「…授業だろ?サボったよ。そんな気分じゃなくてね」
教員から連絡があったのだろうとすぐに察する。昔ならいつものことだった。昔なら…。
「……URAファイナルに出場したい。最初は君が私を出場させようとしたのに、こんな真逆の立場になるなんて思ってもなかったよ」 - 4二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:10:32
扉の閉まる音がする。部屋の中で立つ二人。
…どうやら目の前の狂った人間は、私と同じ気持ちだったらしかった。
プランAの完成、それだけを願って。
私の脚のことをよく知る唯一無二の他人。
…だからこそ、わかっていたのだろう。
私の目の前に差し出された、一枚ぺらの書類を見る。
「出場、受けていたのか。医者にはなんて説明したんだい?…本人の意思、ねぇ。担架の用意でもしてくれているのかい?」
軽口とは裏腹に、魂が戻ってきたような感覚がした。予想通りで、予想以上。
「…ったく、君は本当に相談しないな。年初めもそうだったが、ちゃんと連絡してくれないと困るだろう…?
……泣いてるのかって?…グス……黙れ…………見るな……」
ぐしゃぐしゃと顔を歪めてしまう。
…急に上着が飛んで来て、私の顔を覆った。
泣いた。赤児よりも…大きな声で。
久々に、大切な暖かさを感じた。
〜
「…で?トレーニングするのかと思えば、勉強をさせられるとはね……」
有馬記念までで必要な身体能力は全て磨いたと言われてから、私たちは向かい合って座り、位置取りを始めとする様々なコツを学んでいた。
「これで速度も更に上昇する?クク…君は何を言っているんだ…?
瞬発力というか、ロスはなくなるだろうが、そんなもの微量でしかないだろう?」
笑いながらも学習は進む。退屈な授業より明らかにマシだったのは、相手が3年近くを共に歩んできた人間だからかもしれない。
この感覚は感情の研究に活かせるだろうか。 - 5二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:10:54
「…とりあえず私の見込みでは3回の出走の内、準決勝まではなんとかなると思うんだ。
…なにせ悲願だった長距離一着が取れているからね。このあたりは、ある程度セーブできそうならしてみるよ。ま、どうなるかはわからないがね…。
だから決勝だ。何とか走り切りたい。だから…君の力を貸してくれ。マッサージだの何かしら手段はあるだろう?…あぁ針は勿論辞めてくれよ、あれは何故成功したのか未だにわかっていない…今は最善を尽くしたいからね。
さて、次は何をしようか?
ふむ、足ツボマッサージかい。何でもいい、好きにやりたまえ。為になるなら何でも許そうじゃないか。
…なに?風呂に入ってきてからの方が効果的だって?よし、少し待っていたまえ、すぐに戻る」
たっぷりと湯に浸かり、指がふにゃふにゃになった後。靴と靴下を脱ぎ、タオルを敷いた床にうつ伏せになって足を向ける。
「あっはっはっはっは!!!ちょ、くすぐったあっはっはっはっは!!!!!」
柔らかく温かい手で優しく揉みほぐされてゆく。凝り固まっていたらしく、ペキペキと血行が改善されてゆくのを強く感じた。
そして、
「痛っ!?ま、待ってくれトレーナー君、こんなに痛むなんて聞いてな痛たたたたた!」
曰く、毛細血管の集まった反射区への程よい刺激によって下半身だけでなく上半身に対しても、使わないことで微かに衰え始めてゆく機能を呼び覚ます効果があるらしい。
「うぅ…良薬は口に苦いか。だが体がぽかぽかしてきたような気はするし効果は間違いなさそうだイッ……⁉︎…いや、続け痛ッ⁉︎」
そんな日が、何日か続き。
脚の十分な休息と、懸命なマッサージの成果によって…私は準決勝を勝ち越した。 - 6二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:11:12
〜
そして今日。
運命のURAファイナルズ決勝戦だ。
控室に赴き最終ストレッチを二人で行う。
気軽な雑談など、もういらない。
すべきなのは確認と──宣言だけだ。
「…決勝だね、トレーナー君。
私には何も不安はない。
君がいてくれたから、どうにかもう一度だけ見れそうだ」
…可能性の果てへ。
さぁ、出走だ…!
パドックに出ることも、緊張、熱意、そして狂気の入り混じった芝生を踏むのも…もう慣れたものだ。
何度闘ったか。何度、夢見たか。
私は今、私の足だけで立てているのだから…
許されて、いるのだから。
対戦相手…メンバーのマークは済んでいた。中距離2000m…強豪のウマ娘たちの大半がこの距離を走ると聞く。だからこそ一番恐ろしく、魅力的なのだ。
有終の美を飾るのに、最適なレース…。
期待を背負う、一番人気などどうでもいい。
勝ちたい、勝ちたいッ!!!
最後に…もう一度だけでいいから。
果てを見たいッ!!! - 7二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:11:30
──各ウマ娘、ゲートに揃いました
合図が迫る。
風は止んでいる。
頭の中ら清流が流れているような…澄み渡った集中に溢れて。
────飛び出せ。今だ!!!
タイミングは完璧だった。得意な先行策に相応しい、綺麗なスタート。遠くから聞こえてくる実況から、誰もミスしなかったことが告げられた気がする。関係ない。
蹴られて青の匂いが立つ。
感触は柔らかく、浮かぶようだった。
(ハッハッハッハッハ!!!
いいねぇ、実にいい気分だ…!医者の言ったことは誤りだった。
このままどんどん加速して、研究成果を見せてやるとしようじゃないか!!!)
流れ出る、心地の良い汗。
絶好のレース日和だ。太陽が、日差しが背中を押してくれる。
直線を駆け抜けて最高の、気分────
ピシッ - 8二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:12:36
違和感が…大きく体を駆け抜けた。
広がる衝撃、続く明らかな異常。
おっと!?ここでアグネスタキオン減速!
悲鳴がどこからともなく刺してくるようだ。
困惑が、大きく、大きく。
どんな体勢になっているのだろう?
速度の果ては?世界は…?
踏み込む足が鈍い。
大きなヒビが、骨に入ったらしかった。
コーナーを、どんどん遅くなる足で周る周る…暗い絶望感が心にのしかかってゆく。
後続に抜き去られ、順位は7位。
冷たい。風が、どんどん冷えるようだ。
(…あぁ、ごめんよトレーナー君。やはり無理だったのか…。可能性は、私は……) - 9二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:14:37
声が、聞こえた気がした。…一番大切な助手の声が。聞こえないはずなのに、はっきりと。
────名前はあるか、だって?
瞬間、目の前の靄が晴れてゆく。あの時…照れ臭くて飄々と隠した大切なこと。
UはUltimateの略…究極を意味する。
そして、MとAは…MarmotとAgnes Tachyonの頭文字だ。モルモット君と、私の名前の頭文字…。
脚の感覚は元に戻り始め…痛みや怪我が、少しずつ修復されてゆく──
そうだ、そうだった。私たち『2』人だったから掴み取れた逆境への超克と、究極の速度への成果だ。
『U=MA2』!!!
さぁ、可能性を導き出そう!!!
脚が動いた。プランA完成の喜びを噛み締めた夏合宿での思い出が蘇る。一歩、一歩。回す脚はどこまでも速く。私は超光速のプリンセスだ!!!
アグネスタキオン!調子を取り戻したか、再び加速!驚異的な速度です!!!
今度は歓声が、応援の声が…私の背中を押してくれている。それに目の前の連なったバ群に対し、直前までやっていたレース展開の勉強が活きてくる…!
(イケる!!!見ていろトレーナー君!)
上がる、追い抜かす。一人、また一人…!
最後の直線、最後の一人も抜かしたッ!!!
「これが…私たちの掴んだ可能性だぁぁぁ!!!」
目指した果ては、この手の中に。
激戦を勝ったのはアグネスタキオン!途中の不調は演出だったのか!?とんでもない末脚でした!!! - 10二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:15:05
ライブを何事もなく終えて控室に戻ってゆく地下道の中途…。
「トレーナー君!クク、見ていたかい?
最高のレースだったとは思わないか!?」
興奮と疲労。
そして、目の前の困惑とした表情。
「あぁ、途中でおそらく脚にヒビか何か入ったらしいが、実験の積み重ねが成果を残したんだよッ…!?」
いきなり抱きかかえられ、すぐに車に乗せられる。そのまま祝賀会もなく、急ぎで病院に連れて行かれた。
「精密検査によると信じられないことですが本当に小さなヒビが入っているだけでそれ以上…骨折すらもしていません。休養期間として最低2ヶ月は取った方がいいでしょう。
…お、お大事に!」
故障との縁を断ち切った。どうやらまだ、レースに出ることができるらしかった。
「トレーナー君!!!怪我は結局大事には至らなかった。諦めないことは大切だね。
…ところで、例のものを覚えているかい?
そう、温泉旅行券だよ。二人で行くのも悪くないだろう?
…え?気でも変わったのか、だって?おいおい、先に心配し出した君がそれを言うか。
フフ、これも研究のため…しっかりと付き合ってもらうよ!」
可能性の果ては、時代と共に先へ先へと遠のいてゆく。
いつか追いつけるその時まで──
今日も、実験が始まった!!! - 11二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:16:35
終わりです。
依頼者に届きますように…
それと、いつもご愛読ありがとうございます。 - 12二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:18:49
ブラボー…!おぉブラーボ!!
- 13二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:26:15
良かったです!
- 14二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:26:36
はははは!congraturation!!!
- 15二次元好きの匿名さん21/11/29(月) 23:36:12
いい意味で感想を書くのが躊躇われるモノを頂いた…
- 16二次元好きの匿名さん21/11/30(火) 00:35:28
U=MA2の解釈いい…
- 17二次元好きの匿名さん21/11/30(火) 05:53:47
素晴らしすぎるぅ!
二人で一つのU=MA2すき…