【SS】キミの名前

  • 1二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 20:48:55

    「これ、全部ファインが描いたの?」

    「そうなの。トレーナー、上手く描けてるかな」

    「うん、上手に描けてるよ」

     夕刻、窓から差し込む夕日の光によって茜色に染まる教室の中、教室の黒板の半分にラーメンや四葉のクローバー、サッカーボールの絵が描かれていた。
     
     LANEで教室に来てと、連絡もらった時は何事かなと思ったが、教室に訪れると素敵な絵が描かれていて驚いたものだ。クローバーやサッカーボールなら描けるけど、ラーメンの絵はここまで上手に描けない。ファインの並々ならぬラーメンにかける情熱が絵から伝わってくる。

     絵をほめると、ファインは優しく微笑みながら、

    「ふふっ、ありがとうトレーナー。ねぇねぇ、キミの名前を黒板に書いてみて、お願い」

    「・・・いいけど」

     ファインの意外な頼み事を聞かされて、少し戸惑いながらも、何年振りに握るチョークの感覚を懐かしみながら、私は自分の名前を漢字で丁寧に黒板に書いた。

    「ふむふむ。キミの名前は漢字ではこう書くんだね」

     すると、ファインはそうつぶやいた後、チョークを持って私が書いた名前を見ながら、隣に同じものを黒板に書いていく。その行動に目を見張る。

  • 2二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 20:49:35

    トレーナーとして、レース申請や練習設備を借りる際に、私が彼女の名前を書く時はあったが、その逆はないし、名前ぐらいならローマ字でもよいはずだ。
     ただ、ファインはアイルランド出身、漢字を書く回数は日本人よりも少なく、お世辞にも上手く書けておらず、彼女自身も今、書いた文字の出来には納得はしてない様子だった。

    「う~ん、キミが書いたものを見ながら書くと上手に書けるかなと思ったけど、なかなか難しいね」

    「ファインは漢字を書く回数は日本人より少ないからしょうがないよ。レースと同じで何回か練習あるのみだよ」

    「そうだよね。よし!がんばるよ!」
     
     そう言って、ファインは再び空いた黒板のスペースに私の名前を書こうとする。

    「ファインはなんで、私の名前を漢字で書こうと思ったの?良かったら、教えてくれる」
    その前に私は彼女にこの一連の流れの理由を聞いてみた。すると、彼女は私の方を向きながら答える。

    「それはね、トレーナーの名前をきちんと書いてみたいって思ったの」

    「どうして、またそんなことを急に?」

    「漢字ってそれぞれの一文字に意味があるよね・・・」
     
     そこで言葉を切ると、ファインは黒板に書かれた私の名前を見ながら言う。

    「トレーナーの名前を漢字で書けることでもっとキミのことを知れたら、いいなーと思ったんだ」

    「そっか・・・」

  • 3二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 20:50:11

    その答えを聞き、思わず笑みがこぼれた。ファインらしい優しい思いやりだと感じたからだ。そして、ファインは再び、黒板に私の名を書いてみる。
     私はその横で、ファインが書いていく名前の漢字をこう書けばいいよと時折、漢字を書いて、書き順などをアドバイスし、漢字の意味など教えながら見守っていく。ファインがチョークで書いては、私が黒板消しで消しながら、納得のいくまで何度も何度も繰り返す。
     こんなに熱心に私の名前の漢字を相手に教えたのは経験のないことだったが、悪い気はしなかった。
     そして、数分ほどかけて、ようやく満足の行くものが出来たのか、

    「できたー!!これでどう?トレーナー」
    と満面な笑みを浮かべながら、ファインがこちらを向いてきた。

    「うん、よく出来てるよ」
     ファインが書いた文字は、私が書いたものと同じぐらい綺麗に書かれていた。ファインがここまでしてくれたなら私も同じようにしてあげたいと思い、

    「じゃあ、今度は私の番。ファイン、君の名前を普段書いてる感じで黒板に書いてみて」
    と言ってみる。

    「えっ!?私の名前、書いてくれるの!!」
     まさか自分も書かれるとは思ってなかったようで、驚きながら聞いてくる。

  • 4二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 20:50:27

    美しいじゃないか

  • 5二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 20:50:35

    「もちろん。だって、これはファインが私のために一生懸命書いてくれたんだろ。だから、お返ししたいと思ってさ」

    「うんうん!すごくうれしいなぁ」
     嬉しそうに返事をしながら、ファインは先ほどと同じようにチョークを持ち、慣れた手つきで彼女の名前がローマ字の筆記体で書かれていく。

     書かれた文字はすごく綺麗で、流石は王家のお嬢様だなと思いつつ、これを真似て書くのは大変だなと感じつつ、先ほどとは逆の立場となって黒板に彼女の名を書いていく。教室の中は小刻みにチョークの音が響き渡っていた。

     そして、彼女の字の綺麗さには届かないが、納得できる出来栄えには書けた。

    「ありがとう!トレーナー。大切にするね」
    ファインはその文字を眺めながらそう言った後、何かを思い出したかのように手をポンっと叩きながら私に向かって言う。

    「ねぇ、トレーナー。せっかくだし、写真撮ろうよ。思い出として残しておきたいから」

     そう言って、ファインは自分のスマホを取り出し、カメラアプリを起動させる。それを見てから、私もスマホを構え、黒板を写真で撮った。
     お互いに相手の名前を綺麗に丁寧に何度も書いて、不思議と心が温まるような時を過ごし、黒板にお互いの名前が並んだ黒板の写真は私たちにとって忘れられない思い出となった。

  • 6二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 20:58:38

    トレーナーはウマ娘の名前書く頻度高いけど、逆はないなと思いながら書いてみました。トレーナーの性別はどちらを捉えてみてもいいように書いたつもりです

  • 7二次元好きの匿名さん23/05/18(木) 22:27:10

    拙いお互いの名前で相合傘しようね

  • 8二次元好きの匿名さん23/05/19(金) 03:30:57

    すき…

  • 9二次元好きの匿名さん23/05/19(金) 07:29:17

    >>8

    素敵……

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