【SS】ウマ娘 外伝 part3

  • 1ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/20(土) 22:39:41

    クラシック三冠レース“ケンタッキーダービー”開幕

  • 2ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/20(土) 22:40:44
  • 3二次元好きの匿名さん23/05/20(土) 22:41:56

    立て乙

  • 4ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/20(土) 22:46:41

    ※この作品はとある名馬をモデルにした作品です。名称や一部の史実、時期や年数の改変が含まれますので読む際はご注意を

  • 5二次元好きの匿名さん23/05/20(土) 22:50:09

    保守がてらの乙

  • 6二次元好きの匿名さん23/05/20(土) 22:51:11

    立て乙
    しまった前スレ落ちちゃってたか

  • 7ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/20(土) 22:51:31

    5月6日、チャーチルダウンズ競馬場

    『―――遂にこの日がやって来ました』

    実況の声がほんの僅かだが硬い。それは緊張によるもの

    『ウマ娘が走るレース、その中でも最高峰に位置し、華々しいレイが捧げられるクラシック三冠初戦……“The Most Exciting Two Minutes”にして“The Run for the Roses”―――』

    観衆も固唾を飲む中で……実況は高らかに告げる

    『―――“ケンタッキーダービー”の開催を此処に宣言します!!!!』

    大きな歓声が競馬場内を包み込む。それは凍えそうな寒ささえ吹き飛ばす程の熱狂だった
    前日の雨で濡れて重バ場、吐く息が白くなる冷たい空気がチャーチルダウンズ競馬場を包む。そんな中で観衆は寒さなど知ったことかと今から始まるレースにかぶり付く

    『さあ紹介しましょう!! この地に集う優駿達を!!』

    パドックに立つのはこの栄えあるケンタッキーダービーを走る15人のウマ娘達。実況は彼女達を1人ずつ紹介していく。

    『―――12番人気はエウロペウィング! 好走を期待したいところ! ―――10番人気はシーフクロー! 今年に入って勝ち星を得ていない彼女は実力を発揮出来るのか!? ―――』
    「……ふぅー……頑張る」
    「納得いかん!? 何じゃこの人気の低さはぁ!?」

    連戦や勝ちが無い所為で人気が低いウマ娘達、しかし彼女達もこの舞台に立つ資格を得た強力なライバルに変わりはない。

  • 8ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/20(土) 22:52:17

    『5番人気はシルヴィーダンサー! その類い希なレースセンスと巧みな脚運びでケンタッキーダービーを制することが出来るのか!? ―――そしてツインサム! 多く観客から愛される彼女ですが期待に応えられるかが注目です! ―――』
    「今宵は踊り明かそうねー!」
    「そ、そんなに夜遅くまで掛からないよ!?」

    だがやはり上位陣が紹介されると会場の盛り上がりも更に増していく

    『―――グッドコンダクト! エヴァグレイズSとフラミンゴSを勝ち抜きこのレースに挑む! その質実剛健さと麗しさを兼ね備えた彼女はこの大舞台で勝利を掴めるか!? ―――』
    「調子はオーサム……勝利を目指します!」

    そして……本命が姿を見せる

    『そしてぇええーー!! 私達は“この2人”がぶつかり合うのを心待ちにしていたッ!! グレートレッドの再来にして東海岸の覇者、対するは革命を起こす異端児にして西海岸の覇者!! 誰もが考える!! どちらが強いのかと!! 私達は今日その目撃者となる!!』

    黒い修道服と赤いドレスを纏った両雄が並び立つ

    『1番人気ステイトリーモナーク!!!! 2番人気シルバーサバス!!!!』

    両者の名が呼ばれ、会場に怒号のような声援が響き渡る。
    片や笑顔でその声援に応え、片や鋭い視線でコースの方を睨む。容姿も立ち居振る舞いも正反対な2人……ステイトリーモナークとシルバーサバスはだが同じように闘志を燃え滾らせる

    「ようやくこの日が来ましたわ」
    「……あん?」

    歓声の渦に在っても凜として通る声、モナークの言葉を聞いてシルバーは顔を向ける

  • 9ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/20(土) 22:53:38

    「シルバーサバス。頂点とは常に1人だと私は思っていますわ」
    「……そうだな。私も同じ考えだ」
    「あらあら、うふふ。やはり私達……気が合いますわね。だからこのレース―――」
    「ああ。このレース―――」

    美しい笑みを浮かべて見下ろすモナークと牙を剥いて睨み見上げるシルバーは同じ言葉を互いにぶつける

    「「私が勝つ」」

    目の前の相手に負けたくない。勝ちたい。強くそう思う両者はパドックからコースへと移動を始めるのであった

    -・-・-

    コースに向かう地下バ道の途中。モナークは赤いドレスの勝負服を翻して歩きながら“彼女”の背を見詰める。黒い少女、シルバーの背を。

    既に集中力は極限状態に達しているのか周囲の音は何も聞こえていないように歩くシルバー、彼女に届いていないのを承知でモナークは静かに呟く

    「……気に入りませんわ」

    その言葉は先程の気が合うといった発言とは真逆の物。それを口にしたモナークの表情はしかし怒りでも嫌悪でも無い……ただ憐れむような眼差し

    「そのような顔で走る者に栄冠は渡せませんわね」

    足下を這うように伸びる影、一部のウマ娘達はシルバーが発するそのプレッシャーに吞まれているのか表情が硬い
    しかしモナークは影を正面から受け止めながら歩く。その赤い輝きで影を晴らすように。そうして影から解放され表情が回復したウマ娘達を導くように彼女は足を伸ばす

    「“Easy Goer(容易く成し遂げましょう)”―――そして見せてあげますわ……王者の走りを」

    心を奮い立たせる言葉と共にモナークはコースの土を踏み締めるのであった

  • 10ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/20(土) 22:54:56

    続く

    レース部分が書きかけなので少し後に投稿します

  • 11二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 01:40:56

    保守

  • 12ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 05:38:56

    15人のウマ娘達がゲートに並び出走の時を待つ
    その中でシルバーは意識を影に沈めていく

    (勝つ……証明する……“こいつら”と……最強を)

    十字架が揺れる。調子が良かった。今までに無い程に深く沈んでいく感覚を覚える

    (最初っから全力だ)

    10ハロン(2012m)の距離を走りきるイメージを構築する。想像の中で走るのはウマ娘の幻影、シルバーはその全てに勝つと意識を目の前の現実に回帰させる

    (行くぜ)

    ゲートが開いた瞬間にスタートを切られるよう構え、そして―――

    『―――スタートです!!!』

    気圧される

  • 13ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 05:39:32

    「……ッ!!?」

    走り出した瞬間、シルバーは“気圧された”
    集中が途切れる。それは一瞬のことで再びシルバーは集中するのだが……ウマ娘のレースではそんな僅かな時間が大きく影響を及ぼす

    『おっと接触です!? シルバーサバスがスタート直後にトライディアと接触!? その後にフルフラッグともぶつかったー!?』
    「……チィ……ッ!」

    半歩遅れたのが影響し、シルバーは狙っていたポジションへ辿り着く前に他のウマ娘とかち合ってしまった。予定に無かった位置取り争い、小柄で華奢なシルバーは不利に見えるが―――

    「私の場所だ……ここはッ!」
    「ぐぅ……!?」

    何処からそんな力が生まれるのかシルバーは力尽くでポジションを奪い取った
    しかしシルバーの心中では消えない動揺が燻っている

    (クソが!! “あいつ”……!!)

  • 14ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 05:40:05

    シルバーは背後から迫る強大な気配に歯軋りした

    『―――ツインサムが先頭を走ります! シルヴィダンサーは外から2番手! シルバーサバスは内側4番! そして―――』

    前を向いたままでも感じる、赤い輝き

    『ステイトリーモナーク!! 外側5番手で絶好のポジション!! 勝機を窺います!!』

    正面スタンドを通過し最初のコーナーに入りながらシルバーは斜め後ろに目をやる。そこには追従するように走るモナークの姿が有った

    「……!」

    見たのは一瞬、だがモナークの顔にははっきりとわかる程の笑みが浮かんでいた。それを知ってシルバーは眉間に皺を寄せる

    (ステイトリーモナークに気圧された……クソがっ!!)

    そこに立っているだけでも目を惹くのがモナークというウマ娘。そんな彼女が本気で挑めば……誰もが意識せずには居られなくなる。見る者全てを魅了する圧倒的な輝き
    シルバーはその所為でスタートをしくじった自分に腹を立てる。臓腑がぐつぐつと煮え滾るように熱く感じる

    「……ふざけんなよ、私……っ!! 舐めた走りしやがって……!!」

    己に対する激しい怒りが湧き上がる。それによってシルバーから放たれるプレッシャーがより重くなってコースを走る者達へ襲い掛かる。それはクラシック三冠に挑む心身共に一流でタフさを備えたウマ娘であろうと怯ませる。

  • 15二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 14:17:20

    保守

  • 16ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 22:39:58

    ちょっと修正

  • 17ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 22:40:57

    シルバーはその所為でスタートをしくじった自分に腹を立てる。臓腑がぐつぐつと煮え滾るように熱く感じる

    「……ふざけんなよ、私……っ!! 舐めた走りしやがって……!!」

    己に対する激しい怒りが湧き上がる。

    「クソったれが……!」

    このレースだけは譲れない。その怒りは既に憎悪に近く、シルバーの身を焦がす

    ―――“彼女だっていつかバラのレイが似合う、素晴らしいウマ娘に成れるかもしれませんよ”―――

    シルバーはあの日の言葉を思い出す。ジョンと家族になる前の、実の両親が親権を手放す時にジョンに向けて吐いた言葉を

    ―――“あのガキにバラのレイが似合うのは、墓に入った後だけだろうさ”―――

    その言葉とそれを聞いたジョンの悲しそうな顔だけが……今もシルバーの心にこびり付いていた

    「負けられないんだよ……“私達”はぁあああああッ!!!!」

    噴き上がる影がコースを染め上げ周囲の者達へ襲い掛かる。そのプレッシャーはクラシック三冠に挑む心身共に一流のウマ娘であろうと怯ませる

    【DANSE MACABRE】

    シルバーが領域に突入する

  • 18ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 22:42:04

    『―――シルヴィダンサー6番手で先頭を目指します! エウロペウィング7番手、掛かり気味でしょうか!? グッドコンダクト11番手で力を溜める! シーフクローは最後方しんがり、巻き返せるか!?』

    レースを重ね勝利を掴む度に強くなるシルバー。その彼女の力は領域により更なる躍進を見せる

    「……ッ!」
    「ぐぅ……!?」

    死神が踊る
    シルバーの放つプレッシャーが周囲を呑み込む。彼女達はまるで黒い濁流へと沈み込むような感覚に陥る。その源流たる黒い影を引き連れながら走るシルバーの姿は踊るよう。影の先を走る者も後を追い掛ける者にも等しく―――体を縛るように絡み付く亡者の腕を幻視した

    (これが貴女の走りですか……シルバーサバス!!)

    シルバーの走りを初めてレースで体感するモナークはその目で確りと見る。彼女の瞳に映るシルバーはまるで影が渦巻く竜巻。意識せずには居れず、しかし一度意識してしまえば身の危険さえ覚えるプレッシャーに襲われる

    『―――4ハロン(800m)46秒6で通過! 先頭は依然ツインサム! ―――4番手にシルバーサバス、その直ぐ横にシルヴィダンサーが着いて走る! そして―――』

    しかしモナークは揺るがない

    「素晴らしい走りですわシルバーサバス……ですが」

    全てを貫き通す槍の如き信念で以てステイトリーモナークは猛る

    「私はその走りを“認めない”ッ!!!!」

    赤き輝きが領域に突入する

  • 19ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 22:42:45

    【LEO CARNIVAL】

    勇往邁進。獅子王は我が道を進み―――その光は後を続く者達への道導となる

    『―――大本命!! ステイトリーモナークが進軍を開始したぁああーーッ!!』

    光が影を押し返す。モナークは自らに絡み付く影の腕を引き千切りながら先頭を目指して駆け出す。

    『シルバーサバスは外側から3番手に!! それにステイトリーモナークが続く!! その後ろからは後方から上がってきたぞグッドコンダクト!!』

    影の猛進と光の猛追により全体の速度が上がる

    「……っ!?」

    シルバーは今までと違う状況に困惑する。今まで以上に“影”を引き出した領域なら全員沈められると思っていた。それなのに彼女達は瞳に光を灯して走る
    赤い輝きを灯して

    (……気に入らねえ)

    歯軋りする。頭の奥が焼けるように熱い

    (気に入らねえッ!!)

    その光景にシルバーは更なる怒りを感じる。モナークの輝きにより一度は影に吞まれていた筈のウマ娘達が力を取り戻し、巻き返そうと走っている。それがどうしようも無く苛立ちを募らせる
    モナークの圧倒的なカリスマが周囲を照らし……限界を超えて押し上げる。それはまるでモナークを中心に全員でシルバーと戦っているかのような―――

  • 20ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 22:43:37

    「……お前らがその気なら……やってやるよ」

    筋肉が膨れあがり骨が軋む。周囲の影が駆逐される代わりにシルバーの纏う影がより濃く深くなる

    「見せてやる―――“私達”の走りをッ!!!!」

    レースは最終直線に入った。もう何も目に入らない聞こえない。シルバーの世界にはゴールと……“自分達”だけしか存在しない

    『―――ここでシルバーサバスが先頭に躍り出たぁあーー!!』
    「……ッ!!」

    そこでモナークは見た。あの日あの時、シルバーが学園で走った時に見せた“現象”を

    「……シルバーサバスッ!!」

    ブレる。シルバーの体がまるでジグザグに走るように左右にブレる
    極限の集中。モナークは領域に入ったことでシルバーが見ている世界の一部を感じ取る

    「見なさい……私をッ!!」

    モナークは呼び掛ける、だがそれはシルバーの耳には届かない。それでも彼女は己が信念に懸けて手を伸ばす。自分だけの世界に入って外に目を向けないシルバーに向かって

  • 21ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 22:44:28

    「“今”を走る私達を見ろ……シルバーサバスッ!!!!」

    シルバーは―――影から生まれた“子供達”と走っていた。それは過去、失われた小さな命達……その幻影
    モナークはその過去に囚われたシルバーの走りを容認することなど到底出来はしなかったのだ。だから勝つために走る、ゴールに向かって

    -・-・-

    「…………」

    ジョンはレースを見守る
    左右にブレるシルバーの走り、それを見詰めながらあのバス事故の後に彼女がリハビリを行っていた姿を思い出していた

    ―――“シルバーちゃんに後遺症が出ているかもしれません”―――

    看護師からそう言われたジョンは退院したシルバーの走りをグラウンドで確認した。その様は事故後で体力が落ちているのを差し引いても異常に見えた
    真っ直ぐに走れず左右に蹌踉けるように走るシルバーに病院側は何かした運動機能に障害が発生したのではないかと疑った。だが再度検査してもそのような障害は発見されず、健康であると診断された
    それでも、後遺症は確かに在ったのだ

    ―――“……シルバー。まさか君は……”―――

    肉体的な後遺症では無い。それは精神的な物、そしてジョンには直ぐにわかった。何故なら―――

    「―――あの日から……あの娘はずっと走っている。亡くなった子供達と一緒に」

    それは幻覚かそれとも亡霊か。追い抜き、競り合い、抜け出し……シルバーはゴールに向かって駆ける
    死に近い場所で、何処よりも暗い場所で

  • 22ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 22:54:02

    「……ッ!!」

    シルバーの肉体が悲鳴を上げる。過剰な力に脚が痛みを発する。それでも彼女は止まらない。痛みさえ掻き消す程の激しい怒りを心に焼べる
    そして遂に

    『―――ゴール板を通り抜けたぁああああーー!!!! 1着は―――』

    荒い息を吐く。そして掲示板に表示された自らの名前を見て……拳を強く握り締める

    『―――シルバーサバスッ!!!! ケンタッキーダービーを制しバラのレイを掴み取ったのは西の革命児シルバーサバスだぁああああーーッ!!!!』

    目に映る結果が、耳に聞こえる歓声が、高鳴る鼓動が。その全てがシルバーの勝利を称える

    「……?」

    だが、息を荒げながらシルバーは困惑する
    勝ちたかった筈のレースを勝てて普通なら喜び感動するだろうに……それが出来ない自分に困惑する

    「……足りない、のか?」

    痛みを訴える体を動かしながら考える

    「そうだ……まだ一冠。これからだ……」

    此処はまだ通過点の一つ。だから喜ぶような物では無い。シルバーはそう自分を納得させて―――

    「シルバーサバス!」
    「……あ?」

    自分を呼び止めた、光と温もりが……どうしようも無く煩わしく感じた

  • 23ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 23:10:46

    「……ステイトリーモナーク」

    その相手はモナークだった。2と2/1バ身差での2着、完敗だった。彼女は汗を滴らせながらいつも通り笑顔を浮かべてシルバーに近付いてくる

    「悔しいですわ。絶対に勝つつもりで走ってましたもの」
    「そうか」
    「ええ。だからこそ……勝者である貴女は称賛されて然るべきだと思ってもいます。おめでとうシルバーサバス」

    モナークは手を差し出す。互いの健闘を称えるように。それは以前にも一度同じように握手を求めた状況とよく似ている。だが―――

    「…………」
    「まさかとは思っていましたが……やはり手を取ってはくれませんか」

    握手を拒まれたモナークは汗で濡れた前髪を掻き上げると笑みを消してシルバーを見下ろす

    「チグハグですわね、貴女」
    「ああ?」
    「学園ではあんなにも楽しそう……ですがレースとなるとまるで別人」
    「……何が言いたい」
    「いえ、ただ少々気になりまして」

    負けて尚輝いて見えるモナークにシルバーは険しい目を向ける。しかし彼女はその視線を意図的に無視して言葉を続ける

    「ねえ、貴女。どうして―――」

    それはシルバーの内面に踏み込む言葉となる

    「どうして……レースを楽しまないのです?」
    「…………」

  • 24ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/21(日) 23:53:35

    歓声の中で2人だけの会話が続く

    「貴女の走りは……破滅の臭いがします。私はそれが許せない」

    知るか

    「レースとは夢を描き未来を見せる物。そうして観衆は、私達は笑顔になれる」

    どうでもいい

    「そうやって大勢から愛されるウマ娘に成れると私は思っていますの」

    うるさい

    「シルバーサバス、だから私は―――」
    「黙れ」
    「…………」

    シルバーは牙を剥いて凶相を浮かべる。モナークの言葉を遮り怒りを吐き出す

    「わかったようなことをペラペラと……クソッ垂れが。私に負けた奴が指図すんじゃねえ……!」
    「……痛々しいですわね」
    「ぁあん!?」

    シルバーが睨め付けるモナークの顔には、その瞳には怒りと憐れみがない交ぜになった色が宿っていた
    そしてモナークは溜息を一つ吐く

    「昔の貴女はもっと素敵でしたのに……」
    「……昔? 何の話だ」
    「こちらの話です。気にしないでくださいまし」

  • 25ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 00:11:52

    少しだけ頬を赤らめたモナークは誤魔化すように「こほん」と咳払いすると姿勢を正す

    「決めましたわ!!!」

    何を。そう聞く前にモナークはよく通る大きな声で答える

    「勝つだけでは無い、レースにとって最も大事な物を貴女に教えてあげますわ!!!」
    「……はあ?」
    「見ていなさいシルバーサバス!!! 次のプリークネスステークスではこうは行きません!!! 覚悟しておきなさい!!! アハハハハハハ!!!」

    自信満々にそう言い切ったモナークは踵を返すと高笑いしながら歩き出す。観衆からは険悪な空気は感じ取れず、ただ2冠目の勝負を約束したようにしか見えず競馬場の盛り上がりに陰りは無い

    「……何だってんだよ……あいつ」

    そんな赤き獅子王の背をシルバーはただ呆然と見送ることしか出来なかった

    -・-・-

    こうしてケンタッキーダービーはシルバーの勝利で幕を下ろした
    次なる戦いの場は2週間後、5月20日。ピムリコ競馬場で行われるレース……プリークネスステークス

    後にこのレースが長く語られる熱戦になるとはまだ誰も知る由も無い

  • 26ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 00:13:47

    続く


    書く時のイメージはシルバーサバスが魔王でステイトリーモナークが勇者です

  • 27二次元好きの匿名さん23/05/22(月) 00:19:59

    あのレース最終直線は何度見ても良きものだよね
    というかプリークネスって中1週なのか

  • 28二次元好きの匿名さん23/05/22(月) 00:58:06

    今日part1から読んできました!
    素晴らしいSSですね!
    皆の思いを背負って走ると言えば聞こえはいいのに、こんなにも悲しい走りになってしまうのはね…
    元ネタの方も随分辛い道を辿ったんですね…
    いつか本当にレースを楽しめるようになるといいのですが

  • 29ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 11:03:14

    トレセン学園の保健室に勤めるスクールナース(養護教諭)は笑顔でシルバーに言う

    「怪我ですね。間違い無く」
    「…………」

    日曜を挟みプリークネスSに向けての調整を開始した所、シルバー走り方に違和感を覚えたジョンは保健室に連れて行った。本人は平気だと頑なとして行こうとしなかったのだが無理矢理引き摺るように運んだ(協力、同じチームメンバーの先輩ウマ娘一同)。そこで養護教諭から診断されたのが―――怪我だった

    「打撲が原因でしょうか……レース中に接触でも有りましたか? 右脚の内出血により膝関節周辺が炎症しています」

    患部に湿布を貼りテーピングで脚周りを固定、先程までより動かしやすくなった右脚を眺めるシルバーの頭を撫でながらジョンは養護教諭に尋ねる

    「完治までどれぐらい掛かりますか?」
    「まあそこまで酷い怪我ではないので……2週間ですかね」
    「……あ?」
    「その間負担を掛けるようなことは避けてください。勿論レースも駄目です」

    シルバーは目を吊り上げて立ち上がる

    「おい! そんな―――」
    「わかりました。治療に専念することにします。ありがとうございました」
    「はい。お大事に」
    「アーサー!?」
    「ほら行くぞシルバー」

  • 30ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 11:03:53

    ジョンは杖を突いて歩くシルバーの補助をしながら保健室を後にする
    不満と苛立ちで表情を険しくするシルバー。擦れ違う学生達が逃げるように距離を取る中で彼女はジョンに聞く

    「どうするつもりだよ」
    「……決まっている。治るまで安静にさせるつもりだ」
    「そうじゃなくて!」

    シルバーは荒々しく頭を掻いて牙を剥く

    「完治がレース直前じゃねーか!」
    「……うん」
    「わかってんのか!? 保健室の先生が許可しねーとレースに出られねえんだぞ!?」
    「……うん」

    ウマ娘の体と心を守る為スクールナースには一定の権限が与えられている。それは最低でもレース当日の三日前までに完治したと診断しないと出走を取り消させることが出来るという物だ
    つまり2週間後に開催されるプリークネスSまでにシルバーの怪我の完治が間に合わないということである

    「三冠レースは全部出るんだよ! だから……!」
    「……うん」
    「……あ? ……おい、おっさん?」
    「……うん」
    「…………」
    「……うん」

    上の空だった

    「しっかりしろーッ!!」
    「うんっ!?」

  • 31ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 11:04:13

    お尻を思いっきりビンタして正気に戻した

    「あ。……ああ、すまないシルバー」
    「あんたが動揺してどうすんだよ、全く」

    シルバーは自分より余程挙動不審になっているジョンを見て少し落ち着いたのか鋭かった目が丸くなる。そんな彼女にジョンは申し訳無さそうに言う

    「すまん。君の怪我はトレーナーである俺の責任だ」
    「はあ? レースでの怪我にあんたの責任もクソも有るかよ。走ってんのは私なんだから私の責任……クソっ垂れ!! また腹立ってきた!!」

    落ち着けたのは短時間だけだった。直ぐに苛々したシルバーは頭を抱えて「ああ~!」と吠えながらこれからどうするべきかジョンと共に苦悩する
    そんな時だった

    「お悩みのようですわねシルバーサバス!!」

    まるで待ち構えていたかのようにシルバーとジョンの前に立ちはだかったのは―――

    「お前は……ステイトリーモナーク!」
    「うふふふ。あらまあ、情けない様ですわね……それでレースに出られるのかしら!」

    ケンタッキーダービーで戦ったモナークであった。彼女はふてぶてしい表情で笑みを浮かべている

    「レースに出られるか、だとぉ? お前ふざけたこと言って……んじゃ……」

    シルバーは挑発的なモナークの発言に噛み付こうとして―――気付く

    「ってお前も怪我してんじゃねーか!?」
    「うふふふふ。不覚!」

    モナークもシルバーと同じように脚に包帯を巻いていた

  • 32ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 11:04:53

    続く


    感想、保守ありがとうございます。励みにしてます

  • 33二次元好きの匿名さん23/05/22(月) 20:07:25

    2人揃って怪我したんだ
    数奇な運命感じちゃいますね〜

  • 34ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 23:28:23

    「……それで? そっちも怪我しちゃってる訳だが……私に何の用だよ」

    シルバーはわざわざ声を掛けてきたモナークに用件を聞く。それに待ってましたと言わんばかりにモナークは笑みを浮かべる

    「ふふふ。私、貴女に良いお話しを持って来ましたのよ?」

    そう言ってポケットから取り出したのは1枚のチケットだった。モナークはそれをシルバーに差し出す。

    「……スパ?」

    それはシルバーには馴染みの無い施設の入場券であった。モナークはよくわかっていないシルバーに説明する

    「スパリゾート。マッサージやリラクゼーションなど各種サービスが揃った温泉施設ですわ」
    「……レジャーってことか? 悪いが遊んでる暇なんて……」
    「まあ聞きなさいシルバーサバス。何も遊びに行こうと誘っている訳では在りませんわ。そう、他意は在りません。貴女にとってこのスパはとても重要な場所であると断言できます」
    「どういう意味だ?」

    その質問にモナークは得意満面で答える

    「その施設の鉱泉ですが……とても効きますのよ。怪我に」

    傷に効く。それを聞いてシルバーは目を丸くする

  • 35ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 23:28:53

    「……マジか?」
    「そんな無意味な嘘なんて吐きません。この温泉は浸かれば傷の治りが早くなるのですわ」

    チケットをまじまじと見るシルバー。何かを考え込む彼女の代わりにジョンがモナークに尋ねる

    「良いのか貰っても。此方としては助かるんだが……」
    「構いません。シルバーサバスには怪我を早く治してレースに出走してもらわなければ私が困りますから」

    そう言ってモナークはシルバーの手を取る

    「では行きましょうか」
    「は? 行くって?」
    「それではペンドラゴントレーナー、数日ほどシルバーサバスを借りて行きますわね」
    「え?」

    シルバーとジョンが戸惑うのも気にせずモナークは電話を取りだして連絡を入れる

    「出発するので迎えをお願いします。ええ。勿論お友達もご一緒です。それでは」
    「おいステイトリーモナーク。これはいったい―――」

    窓の外からバリバリバリと空気を激しく切る音が聞こえてくる。それに驚いたシルバーは耳を伏せながら目を白黒させる

  • 36ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 23:32:28

    「な、何だ!?」
    「さあシルバーサバス。時間は有限、一刻も早く傷を治しますわよ」

    手を引かれてグラウンドに出ると……そこにはプロペラを回転させながら着陸するヘリコプターが有った

    「ヘリって……マジかよ」
    「それではスパリゾートまで空の旅と行きましょうか」
    「金持ちめ」
    「褒め言葉と受け取っておきますわ」

    ヘリコプターに乗り込む2人

    「じゃあちょっと行ってくるわアーサー」
    「……あ、ああ……気を付けて?」

    見送るジョンは急な状況に付いて行けずぼんやりと答えるしか出来ない。そうして飛び上がっていくヘリコプターを見送った
    シルバーはと言えば一度飛び立ってしまえば純粋にヘリからの景色を楽しみ始める

    「高ぇ~、すげ~」
    「ドリンクと軽食も用意してありますが食べますか?」
    「食う」

    そうして2人を乗せたヘリは温泉施設に向かって一直線に飛んで行くのであった

  • 37ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/22(月) 23:33:01

    続く


    サービス回

  • 38二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 01:07:48

    次は水着回をすっ飛ばして温泉回か
    アメリカは日本と温泉文化がだいぶ違うけどこっちではどうなんだろ

  • 39二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 02:40:39

    ほしゅ

  • 40二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 10:45:33

    アーサーはいつ頃SSの歌を歌い出すのか

  • 41二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 18:36:27

    捕手

  • 42ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/23(火) 21:41:40

    目的地に到着した。近くのヘリポートに着陸した後に車で移動した2人の前にその施設が姿を見せる

    「でっか……でも人居ねーな。何でだ?」

    40階建てのホテル、それが根を張るように広がるレジャー施設は圧巻の一言。高級施設なんてトレセン学園しか見たことが無いシルバーであって此処が立派な物だとわかった。だからこそ一般の客が見えないことに疑問を抱く。モナークはそれに何でもない風に答える

    「まだオープンしてないからですわ」
    「……?」
    「グランドオープンは10日後。プレオープンは2度を予定しておりまして……今日は特別に部屋風呂だけ使えるよう交渉しましたの」

    鉱泉同じですから、モナークはそう言うと玄関を通って受け付けに声を掛ける

    「ルームキーをくださる?」
    「はい、こちらをどうぞ。ごゆっくりお楽しみくださいお嬢様」
    「ええ。しっかり療養させてもらいますわ」
    「…………」

    恭しく対応する受付に慣れた様子で対応するモナークをシルバーは妙な目で見る

    「何ですか宇宙人でも見たような目で」
    「いや、ヘリでも思ったけどマジでお嬢様なんだなお前」
    「そうですわね。ダッドとマムには常々感謝していますわ。このような贅沢が出来るのか両親が在っての物ですから」
    「……親、ねー……」
    「将来的には私が2人を養ってあげる予定でして、レースでの活躍もそれを見越しての箔を付ける意味も有りますわ」

  • 43ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/23(火) 21:46:22

    ルームキーの部屋番を確認して移動する。2人の部屋は30階、階段は負担が掛かるし何より面倒なのでエレベーターで上階へ。浮上する感覚にふらつくような気持ちになりながらシルバーは今更ながら気付いたことを指摘する

    「あれ? そういえばチケット使ってねえぞ?」
    「ええ。要りませんから。それはグランドオープンしてから使用する物なので」
    「じゃあこれって……」
    「このスパが気に入れば、誰か一緒に来たい人と使えば良いですわ」
    「…………」

    じゃあ何でチケット渡した? シルバーはそう思ったが一度受け取って物を返すのも礼儀に反する気がしたので悩む

    「……こんなにされても返せる物なんて何も無えぞ」
    「あらお忘れ? 私が望むのは本気の貴女とのレース……怪我の所為で全力を出せなかったなんて許しませんわ」
    「…………」

    シルバーはどうしてモナークがここまでするのか理解出来なかった。レースを共に走りたいからとここまで他人に金を掛けられる物なのだろうかと

    (やっぱ金持ちの思考回路はわからん)

    ただそれとは別に気になることが一つ増えた

    「……? 私の顔に何か付いてまして?」
    「……いや、別に」

  • 44ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/23(火) 21:52:22

    横顔をジッと見ていたのがバレたシルバーは気不味そうに目を逸らす。ただモナークの顔を見ていると何か昔の記憶が刺激されるのだ

    「もしや! 私の美しい顔に見惚れて―――」
    「それは無い」
    「何でですか!? 見惚れなさい!!」
    「逆切れ!?」

    そんな他愛も無いやり取りをしていると30階に到着。モナークはシルバーを部屋へと案内する

    「―――ここがお部屋ですわ」
    「へー。お邪魔しまーす……っと」

    鍵を開けて中に入れば……驚きの景色

    「おお」

    高層だけあり窓から見える景色は遠くまで見渡せる。開放感の有る作りだが周辺から覗かれる心配も無くリラックスして利用出来そうだとシルバーは思った

    「寮の部屋2つ分は入るんじゃねーか? 豪華だなー」
    「私も初めて入りましたが確かに良いお部屋ですわね」
    「でも1人で使うには広すぎだろ。逆に落ち着かねえ」
    「大丈夫ですわ。私達2人で使いますし」
    「…………」

    何か言われた気がしたが、その言葉は直ぐに脳で処理されなかった

  • 45ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/23(火) 21:59:19

    「一度目のプレオープンは明日なので今日の食事は事前に頼んで用意してありますわ。だから昼食と夕食、翌日の朝食の心配は無用―――」
    「今何て言った?」
    「はい? 食事の心配は要らないと」
    「そっちじゃねえよ!?」

    シルバーは部屋の中を指差して声を荒げる

    「お前と私で!! この部屋使うって話!!」
    「ああ。そっちですか……答えはイエスですわ。この部屋で一緒に寝泊まりしますわ」
    「何でだよ!?」
    「何故って……別に寮でも2人部屋なんですからそこまで気にするほどのことでも無いでしょう?」
    「それは……! ……っ!」

    落ち着いて考える。確かにシルバーは寮でエウロペウィングと同室なので今更誰かと同じ部屋で過ごすことに抵抗感なんて無い……その筈だった
    それなのに何故かモナークと過ごすと聞いて動揺してしまった自分にシルバーは困惑した

    「……? 変な方ですわね。……まあとにかく、湯治に来たのですし早速お風呂に浸かりましょうか」

    モナークはそんなシルバーの困惑など知らず制服に手を掛けて脱ぎ出す。シルバーはベッドに腰掛けると彼女に向かって手を振る

    「へいへい、行ってらっしゃい。ゆっくり浸かってこいよ」
    「何を言ってますの、貴女も入るのですよ」
    「……あんだって?」
    「ほら脱いだ脱いだ。一刻も早く傷を治さないといけませんのに……別々に入るなんて時間の無駄でしてよ!」
    「おい止めろ!? 無理矢理脱がそうとすんな!?」

  • 46ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/23(火) 22:35:33

    モナークのパワーによって脱がされそうになったシルバーは何とか抵抗して自分で脱ぐことに成功する

    「クソが、馬鹿力め」
    「褒め言葉と受け取っておきますわ。それはそうと水着はどれにします? 学園指定の物が嫌なら私が持ってきた水着も有りますわよ?」
    「ふーん、どれどれ……」

    どんな水着が有るのか純粋に気になって袋の中を覗く。そこには見慣れた学園指定の物も有ればカラフルで形状も様々な水着が入っていた

    「ちなみに、私がお勧めするのはコレです」
    「わー可愛い……ってアホか! 子供用じゃねーか!?」
    「えー。絶対似合うと思いますのに……」

    フリフリのワンピース型の水着を差し出してきたので叩き落とす。モナークはそれを笑って流すと自分の水着を着る

    「私はこれにしますわ! どうです? 似合ってますでしょう!」
    「……ビキニ着こなせるのは素直に尊敬するわ」

    ビキニを着たモナークはお忍びでバカンスに来たハリウッドスターみたいだった。とりあえずシルバーは目の前で揺れる大きな物を両手で支えてみる

    「重っ、メロンかよ」
    「何をしてますの……。……メロン……お風呂から上がったらメロンパフェでも注文しましょうか」
    「食う」

    シルバーは水泳選手が着るようなタイトな水着を着ると部屋着きの風呂へとモナークと共に向かうのであった

  • 47ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/23(火) 23:14:03

    外の景色を見ながら広い湯船に浸かるシルバーとモナーク

    「あー……広い風呂も良いもんだなー」
    「温もりがじんわりと沁みてきますわねー」

    2人揃ってのほほんとしながら温まる

    「しかしお湯の何が傷に効くんだ?」
    「此方の鉱泉は硫酸塩が含まれていますの。主成分は硫酸マグネシウムで肌から吸収されることにより―――」
    「ああ、うんちくは別にいいや。取り敢えず傷にも良いんだろ?」
    「んもう! 貴女が聞いたんでしょう!?」

    シルバーは「はいはい」と適当にモナークの言葉を流しながら仰向けで寝るように湯に浮かぶ。そんな彼女をモナークはジッと見詰める

    「…………」
    「……何だよ」
    「……いえ。別に」
    「言えよ気持ち悪い」
    「気持ち悪い!?」

    酷い発言にショックを受けるモナーク。しかしジロジロ見てしまった手前、理由を言わないのも悪いと思い答えることにした

    「……傷跡。貴女の傷跡を見てましたの」
    「ああ、これか」

    シルバーは自分の体を見下ろして全身に残る傷跡を瞳に映す

  • 48ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/23(火) 23:14:17

    「派手に見えるが傷自体はそこまで深くはなかったぜ。この通りレースだって走れてるしな」
    「それでも、痛かったでしょう?」
    「……忘れた。それに―――」

    そう言って湯の中に頭まで沈むシルバー。少しの間潜ってから勢いよく顔を出すと濡れた髪を掻き上げる

    「―――……傷の痛みなんて……“あいつら”と比べたら……」
    「彼奴ら?」
    「……何でもねえよ。それより何分ぐらい浸かってれば良いんだよこの風呂」

    あからさまに話題を変えようとするシルバー。モナークはそれに言及することも出来たのだが

    「そうですわね……20~30分が理想かしら」
    「長え~。飽きそう」
    「治療の一環なのですから我慢しなさい。何でしたらテレビとか見られますわよ」
    「お。じゃあ映画見ようぜ映画」

    モナークは風呂場に設置されたテレビを操作する。時間はまだまだ有る、だから慌てる必要は無いと考えながらシルバーとの時間を過ごすのであった

  • 49ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/23(火) 23:20:15

    続く


    シルバーはオレンジ2個分でモナークはメロン2個分の重さです

  • 50二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:26:06

    メロンて言うと90くらいかな

  • 51二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 01:10:10

    BとFくらいだね

  • 52二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 12:07:12

    保守

  • 53二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 18:36:22

    保守

  • 54ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/24(水) 22:23:53

    その後お風呂から上がったシルバーとモナークは昼食に舌鼓を打ち、午睡や読書などで体を休めてから併設されたフィットネスジムでトレーニングをする

    「何でも揃ってんなぁ、この施設」
    「素晴らしいでしょう。グレードの高い部屋ならこうして自由に施設を使えるのですわ」

    脚に負担を掛けないトレーニングで汗を流す2人。周囲に誰も居ないとあって集中出来る……のだが、広い施設を利用しているのが自分達しか居ないのが逆に落ち着かない気分も感じる
    スポーツドリンクを飲みながら一休みする2人はそのまま雑談する

    「明日のプレオープン? その時は大勢来るのか?」
    「ええ。一般客を招いた想定で営業して問題点を洗い出す必要が有りますから」
    「ふーん。じゃあそれまでにチェックアウトすれば良いのか」

    昼前に温泉に浸かり、このトレーニング終わりと夕食後に2回入浴する予定である。シルバーはそれでどれだけ脚の負傷が回復出来るか考えていると―――

    「何を言ってますの? チェックアウトはまだまだ先ですわよ」
    「は?」

    モナークは悪戯っぽい表情を浮かべると教える

    「取り敢えず10日間宿泊を予定していますの。タイムリミット限界まで湯治を行えるように」
    「…………」
    「ペンドラゴントレーナーに言ったでしょう。数日間貴女を借りると」
    「お前マジかよ……」

    シルバーはドリンクに差したストローを噛み潰しながら頬を引き攣らせる

  • 55ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/24(水) 23:08:40

    「こんな1泊だけでもとんでもない料金しそうなホテルで……10日?」
    「高いって……1泊1万ぐらいですわよ」
    「ぶっ」

    口に含んだドリンクを吹き出し掛けたシルバーだが寸前で耐えた

    「バーカバーカ!! お前本当のバーカ!!」
    「バ、バカ!? バカとは何ですの!?」
    「だって10泊10万以上だぞ!?」
    「2人だから20万以上ですわ!」
    「余計バカだ!?」

    ホテルの宿泊料金が凄まじい額で激しく狼狽えるシルバー。朝のヘリコプターの使用料も考えると本当にとんでもない金額が使われたことになる

    「お前さぁ……庶民の金銭感覚とか知ってる?」
    「失礼ですわね勿論知っておりますわ。こう見えて買い食いもしたことが有りましてよ」
    「本当かよ」
    「本当ですわ。バーボンボールとか買って食べましたわ」
    「あ、私もそれ食ったこと有るわ」

  • 56ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/24(水) 23:43:48

    シルバーはよく知っている菓子の名称が出て反応する

    「えらくマイナーなやつ上げたな。しかもアレって結構アルコール効いてるし、良い子ちゃんっぽいお前が知ってるなんて意外だな」
    「まあ自分でも稀有な経験をしたと思っていますわ。小さな頃、一緒に遊んだ方に貰わなければ食べる機会なんて無かったでしょうし」

    ケンタッキー州では案外名が知られているチョコ菓子だが他に行けばそう食べる機会が有る物では無い

    「お前も小さい頃あの辺に旅行でも来てたのか?」
    「父の故郷でして。その関係で短期間だけ滞在しましたわ」
    「へえ。じゃあもしかしたら私達、会ったことでも有ったりして。まあ無いか、そんな偶然」

    シルバーは冗談交じりでそう言ったが……モナークは微笑みながら返す

    「有りますわよ。会ったこと」
    「…………」

    言われたことがわからず少し固まるシルバー。しかし気を取り直してモナークに聞く

    「……え? 本当に?」
    「はい。買い食いも貴女から教わりましたわ」
    「悪い。全く記憶に無い」

    こんなゴージャスなウマ娘を見て忘れる訳が無い。それなのに会った記憶が無いのだからシルバーはモナークからそう言われても素直に信じられなかった

    「まあ小さかった頃ですし。それに当時の私はもっと地味な子でしたわ。貴女が忘れてしまうのも無理は無いでしょう」
    「地味? お前が?」
    「ええ。恥ずかしがり屋で、父や母の後ろを引っ付いて歩くような可愛い子供でしたわ」
    「自分で言うなよ」
    「これが当時の写真ですわ」
    「うっわ可愛い」

  • 57ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/25(木) 00:11:02

    幼かった頃のモナークの写真を見てシルバーはちょっと感動する。ぬいぐるみを抱いてる幼女には確かにモナークの面影が有るのだが、自信無さげな表情の所為で別人のようだ

    「お前妹とか居ねーの?」
    「居たら何をする気ですの?」
    「可愛がる」
    「目の前に本人が居るのですから私を可愛がれば宜しくてよ!」
    「いや~キツイっす」
    「貴女失礼ですわね!? パーフェクトな私の何が不満でして!?」
    「……私、ティアラが似合う子がタイプだから……悪い!」
    「振られた!? 何か知りませんが振られましたわ私!?」

    下らないやり取りだった。ただ楽しいのは確かだった
    しかしそうやって写真を見ているとシルバーの脳裏に過去の記憶が浮かび上がってきた

    「……ん~? この顔……どっかで見た気が……」

    モナークの言葉と自分の既視感、そこからシルバーは彼女と出会ったことが有るのだろうと察するのだが……肝心の記憶が出てこない

    「シルバーサバス、貴女ガキ大将だったでしょう。私はその他大勢の子の1人だったから印象に残らなかったと思いますわ」
    「……お前も大勢で集まった時居たってことか?」
    「正確に言うと迷子になっていた私を無理矢理引っ張って遊びの輪に入れた……ですわね」

    そこまで聞いてシルバーは「あ」と声を漏らす
    思い出した

  • 58ミサ◆2FyDxLGl.g23/05/25(木) 00:19:54

    -・-・-

    ボロボロの格好だが強気で生意気そうな顔をした幼いシルバーが道端で泣いている少女に近寄る

    『―――お前なに泣いてんの?』
    『……お家、帰り道、わからなくなって……ぐす』

    迷子のウマ娘だった。

    『ふーん。探してやろうか? お前の家』
    『良いの……?』
    『良いぜ。その代わり―――』

    シルバーは牙を剥いて笑う

    『お前、“私達”と一緒に遊べ』
    『え?』
    『いやー、10人でレースしたかったけど1人風邪引いちまってよー。丁度良かったわ』
    『え? え?』
    『レースー♪ レースー♪』
    『ええぇ~~!?』

    シルバーは少女の手を握るとそのまま引っ張って行く。自分とその友達が集まる遊び場へ

    -・-・-

    「―――お前あの時の迷子か!?」
    「覚えてらしたのね」

    迷子の少女だったモナークは柔らかく微笑みながらシルバーを見る

  • 59二次元好きの匿名さん23/05/25(木) 01:20:01

    ほしゅ

  • 60二次元好きの匿名さん23/05/25(木) 01:23:57

    王道のボーイミーツガールですねこれわ

オススメ

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