タイプスリップ通い妻女帝概念なんだけどさ

  • 1◆IVjFIo4omu9921/12/01(水) 00:12:39

    マジでなんで消えたの?
    メモにせこせこ書いてコピペして貼ってたから残ってはいるけどさ、スレに投げるギリギリになって加筆修正したりもしたからさ、あのスレに投げたそのままでは残ってないんだわ。
    探してるスレがあったからちょっと見直してから投げる

  • 2二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:13:31

    このレスは削除されています

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:14:08

    >>2

    消した荒らしはお前か

  • 4◆IVjFIo4omu9921/12/01(水) 00:14:54

    魚拓とってくれた人がいたらしいし、そこ見てもらえればわかるぞ
    わしはマジモンの本人じゃ

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:15:20

    お、SS書いたご本人?
    気にせずまた貼ってくれるとありがてえっす…!

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:16:10

    本人様でしたか、続きを楽しみにしてました…

  • 7二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:16:11

    大変かもしれんが気長に待ってるでー

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:16:34

    少し時期が過ぎてから投稿した方がいいかもね、やべーの潜んでるから。

  • 9二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:16:53

    噂や推測は色々あるけど1ユーザーには原因は特定できん

  • 10二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:17:46

    というかこれでスレ主が消した訳ではないのが分かったからまじでスレが消された理由が分からんな…

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:18:25

    もう読めんかと思ってたからありがたやありがたや

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:18:34
  • 13二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:18:50

    SSスレ荒らしてた奴が得意気に自慢してたからあいつでしょ

  • 14二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:20:32

    >>13

    そんな人いるのか

    きっと日の目を見ることなく人生を終える哀れな人なんだろうなぁ…


    とりあえずスレ主復活は王道展開並みに熱い

    お願いします!

  • 15◆IVjFIo4omu9921/12/01(水) 00:22:17

    >>12

    ありがたいですわね……

    次もまた消されるようならハーメルン行きますわ。そこなら荒らしもこないと思いますし。

  • 16◆IVjFIo4omu9921/12/01(水) 00:39:03

    Q.自分が書いたものを読み直して加筆修正する気分はどうだ? 感想を述べよ!
    A.いやーキツいでしょ。

    震源地に投げたプロローグの時の自分の脳内のトレーナーのイメージと、今のトレーナーのイメージが全然別なのでちょっと魚拓部分も書き直します。
    おそらく時間がかかるので気長にお待ちくだされ

  • 17二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:39:53

    >>16

    待ってる…

  • 18二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:40:28

    >>16

    時期は少し開けた方がいいだろうしちょうどいいと思います!

    生きる希望ができたな、待ってます!

  • 19二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 00:43:48

    >>2

    56す

  • 20二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 12:22:35

    俺は保守をする

  • 21二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 12:23:47

    ありがたや

  • 22◆IVjFIo4omu9921/12/01(水) 16:57:13

    改稿のストレスで胃が抉れるので代わりに書き殴ったフラッシュ・フィクション。


    「……なあ、きみ。もし仮に明日世界が滅ぶとしたらどうする?
    「なんだ、急に?」
    「まあいいからさ。もしもだ。もしも仮に明日、何かしらの事情で世界が滅ぶとして、そのとききみはどうするか、ってこと」
    「……変わらないだろうな」
    「その心は?」
    「いついかなる時であっても、私は私だ。“女帝”の名に恥じる行いをするつもりはない」
    「ふむ、なるほどね……」
    「しかし急に妙なことを聞くな。なにか思うものでもあったか?」
    「いやあ、それがねえ……もうすでに世界は一度滅んでるんだよね。11月29日の月曜日深夜から30日火曜日の早朝にかけてのどこかで」
    「……何を言っている?」
    「スレッドが誰かのせいで消えちまったってことさ。そのせいで世界は滅んだ。僕なんてただでさえ一度死んでるっていうのに、今度は世界諸共にお亡くなりだぜ? ひっどい話もあったもんだねえ……」
    「まて貴様、急にどうした? 一体何があった!?」
    「ま、それでもやり直しが効いたんだからいい方だがね。ああ、それと。ここでのことは本筋に一切関わらない。すなわちただの与太さ」


    「どういう意味──────夢、か?」
    「……おはよう、エアグルーヴ。……きみほどのひとでも寝ぼけることはあるらしいね」
    「なっ…………!?」

  • 23二次元好きの匿名さん21/12/01(水) 21:06:24
  • 24二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 07:05:03

    保守

  • 25二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 08:01:49

    普段ワートリ×ウマ娘スレにいる者です
    そのスレ内で様々なssを書いていただきありがとうございました
    楽しく読ませていただいております
    通い妻エアグルーヴ概念を知ったのは、上記スレ内で紹介された時でした
    読んだ時には、こういう発想もあるのかと驚かされました
    それ故に、今回の件には大変胸を痛めています
    重ねて、お悔やみ申し上げます

  • 26二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 08:04:14

    ご本人やないか
    全裸待機します

  • 27二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 08:06:39

    最近多いわね

  • 28◆IVjFIo4omu9921/12/02(木) 10:20:42

    服は着てもろて

  • 29二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 14:16:25

    12月は流石に寒いから服を着て待機しろ

  • 30二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 19:39:31

    >>26

    靴下あげるわ

  • 31二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 19:42:25

    自分を差し置いて(なお何もしてない)人から褒められてる奴が大嫌いな荒らしが暴れてるから最近は面倒だね
    この概念好きだよ

  • 32二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 20:19:07

    なんかSSを通報してる粘着がいるらしいね

  • 33二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 23:53:44

    保守

  • 34二次元好きの匿名さん21/12/02(木) 23:55:44

    今さらだけどタイプスリップってなんぞや

  • 35◆IVjFIo4omu9921/12/03(金) 00:16:12

    >>34

    震源地の人がタイムスリップ通い妻女帝概念って言ってて語感がいいなってそのまま採用したけど今更になってタイムリープかもしれないと思い始めたりしていたりそうでなかったりします

  • 36二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 08:25:33

    >>26

    保守ついでにネクタイあげるわ

  • 37二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 19:05:10

    保守

  • 38二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 22:55:04

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 07:38:22

  • 40二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 15:38:37

    保守守ー守・守ー守守

  • 41二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:46:18

    保守・キリエライト

  • 42二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 00:57:30

    保守の報酬はSSで

  • 43◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:46:30

    禿げるわこれ。文章手直しってつらすぎておお、もう……結局直せば直すだけぐちゃぐちゃになるので諦めました。
    過去編再放送した上で新しい部分を投げます。

  • 44女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:47:23

    「……まだ仕事が終わらないのか?」
    「……あー、こんな時間か。悪いね、これが終わったら帰るよ」
     そういっておきながら、結局手元の書類が片付いても、ずっと遅くまで私のために仕事を続けていた。

    「またコンビニで適当に済ませているのか。栄養バランスに気を配れとあれほど……」
    「あー、うん、あんまり時間がなくてねえ……」
     ならば私が作ってやろうかといっても、あの男は薄く笑って遠慮するだけだった。

     そうして、私のトレーナーは若くして亡くなった。
     激務による過労と、不安定かつ平均的に短い睡眠時間、偏った栄養バランスの食事。そういった要素が合わさり、急に倒れてから帰らぬ人となった。

  • 45女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:48:37

    あの男が亡くなってから、少しばかりの時間が過ぎた。
     トリプルティアラを達成し、お母様と揃ってのオークス制覇を成し遂げた私の知名度は、私が思っていた以上に高かったらしい。
     テレビをつければ、連日のようにニュースで『【女帝】エアグルーヴのトレーナー、過労死』と騒がれている。
     元々人手が慢性的に不足しているトレセン学園で、ウマ娘を1人担当しながら、生徒会業務の手伝いに、私の後輩の指導、連日舞い込む講演会や取材の依頼をこなす激務。いくらあの男が進んでやっていることとはいえ、体への負荷が大きかったらしい。
     元々体がそこまで強いわけではなかったそうで、そこに激務と不安定かつ短い睡眠と、それに偏った栄養バランスの三重苦を背負えば、長く持つはずもなく。
     早朝に裏庭の花壇で倒れているのが発見され、病院へ搬送されるも、そのまま心筋梗塞で死亡という診断が下され、終わり。
     そしてそのことを、口さがないメディアがここぞとばかりに騒ぎ立てていた。

    「まったく、私に手間をかけさせおって……」
     
     いつもいつも勝手だが、今回ばかりは許せない。
     どうしてそう勝手にいなくなるんだお前は。なぜそうまでも体を酷使しておいて、誰の力も借りなかったのか。なぜ、なぜ、なぜ────
     なぜ、私を置いて逝ったんだ。主人を置いて勝手にいなくなる杖がどこにある。

  • 46女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:49:05

     トレセン学園では、現在メディアの立ち入り禁止令が敷かれている。
     理由は言うまでもなく私のトレーナーのことだ。
     複数の生徒による証言により、さまざまな仕事を自分から背負い込んだ結果の過労が判明し、トレセン学園の一大スキャンダルとして膨れがり燃え広がっている。
     学園側の声明として生徒への接触はお控えくださいとメディア各社へ伝えられてはいるが、まさかその程度のことを行儀良く聞くならば苦労はしない。

    「まったく、あのたわけめ……体を大事にしろとあれほど……」

     結果として私は学園の敷地から出れば記者に群がられ、グラウンドに出れば事情を知りたがる生徒たちに囲まれ、生徒会室かトレーナー室から出られないようになっていた。


     寮に帰ろうにも、帰るまでの間に記者に囲まれかねない。
     そういうふうに理由をつけて、ここ数日私はトレーナー室で寝起きしていた。
     実態はあの男の残り香に浸っていたいだけという、おおよそ女帝らしからぬ弱さではあったが、そんなことを暴露してしまうわけにもいかない。

     少しばかり、夜風を浴びよう。
     そう思ったのがどうしてかはわからないが、突発的に沸いた欲求に、何一つとして疑問を抱かなかった。

    「……ここは」

     気がつけば、三女神の像の前。
     噴水に映り込んだ月が波紋に揺らぐ様を、ぼんやりと眺めていた。
     空は遠い。今見えている月の光も、今の光ではない。遠く離れた太陽から光を受けて輝く、宇宙の鏡。
     かつて会長の仰った通り、私は遍く皆を照らす太陽のようにありたかった。
     ならばトレーナーは月だっただろうか。それも、違うように思う。
     月は再生の象徴ともされるが、トレーナーは帰ってこない。ならばあの男に月が似合うわけがない。あの男は太陽だろう。燃え尽きるまで輝き、皆を温める。私はあの男があるからこそトリプルティアラを成し遂げるまで輝けたのだから、きっと月だろう。
     あの男は、最期まであれこれと慌ただしく動いてばかりで、太陽というには程遠いほどに動き回る奴ではあったが。
     ……いや、太陽というには死ぬのが早すぎる。せいぜいは恒星の一つ、それが燃え尽きたようなものか────

  • 47女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:50:29

    「……いかんな。どうにも感傷的になってしまう」

     空に浮かぶ月は、これから陰っていく立待月。私もこれから陰っていくのだろうか。それでも再生していくのだろうか。
     太陽なしに月は輝けないのだから、私ももう輝く日はないのだろうか。
     あの男はいくつものメニューを遺していた。あの夏合宿に2人で書き上げたメニューを筆頭に、私が面倒を見ている後輩のためにそれぞれに合わせた推奨される練習、意識して摂取するべき食事、フォームの改善点などを記したメモ。
     それらを活用しても、もう進めそうにない。ウマ娘の力は人間との絆によって本領を発揮するという。ならば私は、もう勝てないかもしれない。
     引退も視野に入れ始めると、急に涙が溢れ出した。
     駄目だろう、それでは。
     空の果てに天国があるなら、そこからあいつは見下ろしている。
     なら、女帝たるもの、立ち止まるわけにはいかない。いかないが。
     心は弱る。もしもトリプルティアラも、オークスも取っていなければ、もう少しばかり楽をさせられていただろうか。失礼極まりない考えが氾濫する。

    「……本当に、勝手にいなくなりおって。私の迷惑も考えず……本当に、たわけぇっ……」

     誰にも見せられない弱さを月と三女神像だけが見守るなか、泣き疲れたままに意識が落ちる。

    「──可哀想な、子──」

     眠りに落ちる間際に、誰かの声が聞こえた気がした。

  • 48女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:51:15

    「……その、大丈夫かい?」
    「……とれー、なー……?」
    「ああ、うん、そう。新人トレーナーです。はじめまして」

     目が覚める。目の前に立って私の顔を覗き込んでいたのは、死んだはずのあの男だった。
     あたりを見回せば、場所は三女神像の側ではなく、なぜかグラウンドの外れに置かれたベンチ。
     私はそこに腰掛けた状態で眠っていたらしい。
     ……なるほど、これは夢か。
     眠っている間に勝手に歩いて、三女神像の前からグラウンドの脇に到着しているはずがないし、なにより死人は生き返らない。
     しかし夢にしては質感が違う。
     刈り揃えられた草いきれの匂いや、背景のリアリティ。なによりも強く手を握れば、爪が手のひらに食い込む痛みがある。
     これは夢か、現実か。
     あるいはあの男が死んだのが夢だったのか、とも思うが、スーツは出会った当初のように新品同然の状態を保っているし、目の下に濃く張り付いていた隈は影も形もないし、バッジもまだまだ新品の光沢を残している。
     なによりも最初にこの男が言った、はじめましてという言葉。
     夢か現実かはわからない。わからないが、おそらくここは契約を結ぶよりも前の瞬間。私とこいつはまだ出会っていない。

    「……本当に大丈夫か、きみ……何か要り用なものは?」
    「いや、問題はない。世話になったな」

     もしもこれが夢ならば、目覚めた後に忘れてしまうのだとしても。思い出すだけで苦しくなるこの顔を見ていたくはない。
     そんな思いで、そそくさとこの場を去った。

  • 49女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:51:27

     そして、何事もないように授業を受け、何事もないように生徒会業務をこなし、何事もないようにトレーニングを終え、何事もないように自室で就寝し、何事もないように目が覚める。
     スマートフォンで日付を確認すれば、契約よりも前の日に遡っているのは昨日の時点で把握しているが、しかしまさか──当然の挙動をまさかというのもおかしな話ではあるけれど──日付がしっかりと1日進んでいるとは。
     生きているのだから当然だが、ニュースで連日あの男の急死とそれに伴うトレセン学園ブラック疑惑の報道がなされているということもない。新聞も、ネットニュースも、ずっと昔に見覚えのあるようなものばかり。
     まさか本当に巻き戻ったのか、それとも私がトレーナーと過ごした日々はただの壮大な予知夢だったのか。
     もしもこれが夢ならば、早く目が覚めてほしい。
     暖かい夢に浸っているからこそ、冷たい現実がより痛くなるものなのだから。

     そして、1週間が過ぎた。
     不自然な日々は、自然な形を保って続いている。
     そろそろ、受け入れる必要があるかもしれない。
     原因不明、事態の全容も不明。私だけが異邦人である以上、郷に入っては郷に従うべきだ。
     女帝たらんという志に、いらない考えは捨てるべき。
     ならばどれだけ苦しくても、どれほどに悲しくても、私のトレーナーは1人だけだ。

  • 50トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:51:58

     本当に素晴らしいウマ娘は、オーラが違うのだという。
     実力、あるいは血筋、もしくは才能。そういったものがなにか風格として現れるのだとか。
     トレーナーライセンスを取る前にその話を聞いたときには、そんなことがあるのかと思っていた。
     そして、中央トレセンに配属されてから、その言葉の意味を知った。
     エアグルーヴ。まだデビュー前というのに、すでに女帝という二つ名を戴く、次世代の有望株。
     母が勝ち取った樫の女王の座を目指す1人のウマ娘にして、生徒会の副会長として多忙な業務をこなす、言ってしまえば超エリート。
     その姿を一眼見た時に、何かを感じた。
     初めて会ったのは早朝のグラウンドの片隅。ベンチに座って蹲っている姿に不安を覚えて声をかけた。なんともないと言ってそのまま去っていってしまったが、その後ろ姿をみて、心を揺さぶる何かがあった。
     走りを見てからも、その形容し難い予感は強まっていった。
     何かが違う。筋肉などの基礎スペックという側面からも、走法などの技術的な側面からも測れない、遠くから見ているだけで気圧されるような、なにか。
     おそらくこれがあの言葉の正体だと知って、ストンと腑に落ちた。なるほど、これがオーラか。
     そう思っていたら、なぜかあちらの方からトレーニングを一旦中止して近づいてきた。

    「……先程から私を眺めていたようだが、何か用か」
    「いやいや、お構いなく」
    「スカウトのための下見なら、少しばかり後で話がしたい。構わないな」
    「……いいのかい? 正直な話、きみくらいの逸材なら引く手数多だろうに」
    「だとしても、だ。少しばかり、噛み合わないトレーナーが多くてな」 

     噛み合わない、というのはどういうことだろう。
     たしかに何度か契約を結んで、その度に切っているという話は聞いたことがある。選抜レースに出ることなくその素質を見初められたほどの実力者なのだから、トレーナー側からみておおよそ契約を切る理由はない。
     ならば性格的な問題かとは思うが、しかし性格が合わない程度の些細な行き違いがそう何度も頻発するだろうか。何人も見ればある程度合う相手もいるだろう。
     その答えを知るのは、後のこと。

  • 51トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:52:13

    「……なるほどね」

     彼女が──エアグルーヴというウマ娘が求めているのは、大まかに分けて二つ。レースに関しては、最大目標をオークスに掲げるという。そこまでは変わった話ではない。GⅠレースに限らず母娘の連覇を狙うウマ娘だって少なくはない。
     もう一つは、私生活に関すること。
     生徒会副会長としての業務をこなしつつ、レース以外でも女帝として相応しい振る舞いを心掛け、かつ業務以外にも後輩の指導などを行う。
     正直にいってしまえば、これが曲者なのだ。
     やることが多ければ当然自身のトレーニングの時間も確保しにくくなるし、不意の予定変更への対応も難しい。
     言わんとすることはわかる。たしかに彼女の行いは全て正しい行いであるし、それが学園のために大いに役に立っているというのも頷ける。
     ただ、それがトレーナーの側に受け入れられるかといえば、別問題になってくる。
     ここが彼女と合わないトレーナーの特徴、ということか。

    「……貴様は、これをどう思う」
    「立派な志だな、とは。ただ、言うは易くとも、それをこなすのは難しい……なんて、それは承知の上か」
    「ああ。たとえ茨の道であっても、これを変えるつもりはない」
    「なるほど、なるほど……」
    「もちろん貴様に協力しろとまでは言わん。これは私の個人的な事情だからな。だがせめて、最低でも尊重はしてもらう」
    「うん、そっか……それ、僕に手伝えることはあるかい」

     そういうと、なぜか彼女は驚いたように──けれど、少しだけ顔を歪ませた。
     ほんの一瞬。対面に座っていた僕だから気づけるだろう、一瞬の異常。
     そのことを指摘するべきか、それとも触れないべきか。悩んでいるうちに、先に彼女が口を開いた。

    「手伝いを頼めるならば、頼みたい。だが、決して無理はするなよ」
    「それはもちろん。それじゃあ、とりあえずお試しで1週間やってみようか。契約のことはそれから決めよう」
    「ああ、よろしく頼む」

  • 52女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:52:34

    「うん、そっか……それ、僕にも手伝えることはあるかい」

     世界が一変しても、この男は変わらないらしい。
     物事に熱中すると寝食を疎かにするくせに、体が弱い。そんな性質を持ちながら、他人のためには労を惜しまない。
     そういうところが気に入ってはいたが、しかし今となっては話が違う。
     結局それで死んでしまうのではどうしようもない。だからこそ協力まではしなくてもいいと言ったが、やはり手助けを申し出てきた。
     一度目の時は、私の負荷を軽減するために、勝手に行動していた。
     後になってから私も頼ることを覚えて協力して動いていたが、しかしそれでも勝手に背負い込んでそのまま斃れた。
     この二度目がいつまで続くかはわからないが、今度こそ、今度こそは。
     絶対に、死なせはしない。

  • 53トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:55:28

     1週間のお試しトレーナー契約、四日目のこと。 

    「……端的に感想を申し上げてもよろしゅうございますか、女帝陛下」
    「好きにしろ」
    「きみ、凄まじいな」

     ふん、と鼻を鳴らす彼女は、どこか自慢げにも見える。
     エアグルーヴのここ数日のスケジュールは、僕から見て異常だった。なにせ休む暇が文字通りない。常に頭か体のどちらか、あるいはその両方を考えつく限り最高効率で使うのだ。そのくせただの天才かと思えば人を使うのも上手いのでもう圧巻の一言。天下の中央トレセンに合格したから知恵働きに多少の自信はあったけれど、流石に彼女に勝てるとは思えない。年長者としての威厳やらなんやらといったあれこれは二日目で暇乞いをしてきた。
     後輩の走りの指導、ウイニングライブの練習、それに生徒会としての業務に自分のトレーニング。あと花壇の世話と自分の勉強。付け加えれば一口に生徒会の業務といっても種類が多い。書類もそうだが備品やらの確認も。あとおまけに目安箱のチェックと、そこで上がった要望に関しての解決策の提示など。
     生徒会副会長ともなれば他の役員からの質問も多いし、権限の分だけ仕事は多いだろうと思っていたが、まさかこれほどとは。人生経験とはなんだったのか。おおよそ僕は彼女に勝てるとは思えない。もしかして彼女は年齢を誤魔化しているだけでバリバリのキャリアウーマンだったりするのだろうか。それなら納得できるのだけれど。

    「きみ、もしかしてこれを毎週こなしているのかい」
    「いや、今週は少し多めだ。なにせ人手が増えたものでな。それでもまだ理想には遠いが」
    「どんな向上心してるんだい君は。もしかして満足という言葉をご存知ない?」
    「貴様の働きに関してはそうだな」
    「手厳しいねえ女帝陛下……!」

  • 54トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:55:36

     こちらの仕事ももちろん多い。彼女が面倒を見ている生徒の指導は流石に専門家としてなんとかできるだろうと思っていたが、結局のところ新人にはできることなど少ない。それでも寄せられる要望に応えるためにここ数日は図書館に篭ってばかりで、読書家の部類ではある自分でも頭痛がする量の活字を読んだので、もう今週いっぱいは活字を見たくない。けれど流石にそうはいかないだろう。もっと頭痛がしてきそうだ。
     他の仕事も手伝って、おまけに彼女のトレーニングメニューも勘案して、それでまあ、半ばグロッキーになった。
     そのかわりに及第点とのお言葉はいただけたので良しとする。ちなみにその後容赦なくダメ出しを食らった。改善点は全て納得できるもので、僕はもしかして要らないんじゃないかと思うほど。レースセンスもおよそデビュー前のものとは思えないし、もしや人生2週目だったりするのかな。そんなことないか。
     しかしまあトレセンは広い。やたら広い。なにせ“廊下は全速力で走ってはいけない”なんて言われるほどだ。普通“廊下は走ってはいけない”だろうに。おおよそこの疲労感の原因の5割はこの広い学校を駆けずり回ったせいだろう。

    「トレセン学園って、きみらが走って移動するのを前提に作ってるんだろうな」
    「馬鹿を言うな。貴様は体力がなさすぎる」
    「手厳しいけど事実だからねえ、何も言えない……」

     馬鹿みたいに広いここを東奔西走していれば普通よりちょっと体の弱い僕には途方もなく疲れる。なんでこんなことになったんだっけ。ああそうだそこの女帝殿が原因だ。
     なんなら体育はいつも見学だったようなヘニョヘニョのもやしにいきなりこれはちょっとどころじゃなく辛い。そのうち慣れて体力つくだろうか。

  • 55トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:56:29

    「まあ、でもさ」

     誰かのために行動して、それで、ありがとうって言ってもらえると、それだけでも嬉しい。

    「人の役に立ててるってのは、悪い気分じゃないよなあ」
    「格好つけるな、たわけ」
    「いやいや、本心だよ?」
    「どうだかな。貴様は頻繁に物言いが胡散臭くなる」
    「そこまで言うほど長い付き合いじゃないだろ、僕ら」
    「何を言って──!? ああ、そうか……」

     まるで数年来の付き合いのようにたわいもない軽口を叩いていたのが、急に詰まる。
     少しだけ顔を歪めて、それからまた、元に戻る。
     時々彼女はおかしくなる。原因は知らない。生徒会長さんにもそれとなく聞いてはみたが、そんなことはこれまでなかったらしい。
     そして、なぜかは知らないが僕について把握していることが異常に多い。僕の出来ること、できないことをうまく見極めているのはまだしも、言った覚えのないことまで知っていたりする。例えばそれは彼女の後輩からの勉強の質問を受けているときとか、休憩中にお茶を淹れようとしたときとか、そういうたわいもないタイミングに。

  • 56トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:56:35

     例えば僕は日本史選択だった。だから世界史は人並み程度にしか知らない。そのことを教えた覚えはないのに、なぜか彼女は知っている。
     僕は紅茶派ではなくコーヒー党で、かつ砂糖は少なめミルクは多めで飲むのが好きなことだとか、あるいは日本茶ならほうじ茶と玄米茶が好みなこととか。そういう細かいことを、何故かドンピシャに当ててくる。おかげで休憩のたびに驚かされる。生徒会室でお茶でも淹れて休憩にしようという話になると、他の子には何が飲みたいか聞くのに、僕だけ「ほうじ茶でいいか」とかそういうピンポイントな質問がくるのだ。コーヒーを頼んだ時に好みの味で出てきた時にはちょっとどころじゃなく驚いた。
     まあ、そういうこともあるんだろうか。どうなんだろうか。
     天下のトレセン学園ともなれば実験室でボヤ騒ぎを連日起こす生徒もいるし、駄洒落が下手くそな生徒会長もいるし、なんか光り輝いているトレーナーもいるし、飛び級してきた小学生もいるし、朝から晩までコースに入り浸って走っている子もいる。ここは個性のごった煮だ。それはそれとしてトレーナーを袋詰めにして運ぶ生徒を見かけた時には110番通報するか悩んだ。結局それはエアグルーヴが問題ないというので流したけれど、しかしあの芦毛の子はそこらへんどうなっているんだろうか。こないだなんか生のマグロ担いでたけど。
     とにかくそんな環境だから、ちょっとくらいのことは普通の範疇なんだろう。
     そういうことだから、そういうことにした。とりあえずはそういうことにしておく。
     あまりにも省略を連発すると夢枕獏風味が出るな、などと意味不明なモノローグを挟みながら、忙しない1日は続く。

  • 57女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:57:27

     そして、約束の一週間が過ぎた。
     総括すればトレーナーはやはりそのままあの男と同一人物だった。死人が生き返ったわけではなく、私がなんらかの要因で過去を再構成した長い夢を見ているか、それとも本当に過去に戻ったのか。
     肉体的なスペックに関していえば、トリプルティアラを勝ち取った時よりも、シニア級でスズカと争った時よりも劣化して、おそらくは担当契約前の身体能力そのまま。決して生温い鍛え方をしてきたわけではないが、本格化前というのとトレーナーがついていなかったのが重なり、やはり全盛期とは程遠い。レース勘はそのままなのだけが救いだろうか。

     巻き戻ってから何度か、水槽の脳という思考実験が脳裏をよぎる。
     私がいま見て、聞いて、感じているものは本物なのだろうか。本当の私はまだ三女神像の前で泣き疲れて眠っているままではないのだろうか。あるいはそれさえも幻で、電極を刺された脳が水槽の中に浮かんでいるだけで、実際は何もかも幻なのではないか。そういう類の疑心暗鬼にずっと襲われている。
     ただ、そうであったとしても。
     私は女帝だ。そうあれと思われ、そうありたいと決め、そう振舞ってきた。
     たとえ全てが欺瞞であったとしても、その意思を違える気はない。
     
    「さて、これにて約束の一週間が終了したわけだ。ということではいこちら」

     差し出されたのは、すでにあの男の記入すべき欄が全て埋められた契約申請の書類。
     槇村英治。かつて恃みとしたトレーナー。勝手にいなくなった愚か者。
     筆圧の薄く、頼りなく細い筆跡の下に、私の名前を書いて添える。
     それを返してやれば、うんとひとつ頷いてから、右手を差し出した。

    「じゃあ、これからよろしく頼むよ、女帝殿」
    「ああ、よろしく頼む」

     理由はわからないが、もう一度得た僥倖。
     今度こそは離すつもりはないという思いで、固い握手を結んだ。

    「さてと、目標は当初の予定通り、桜花賞、オークス、秋華賞の三つ。特に最大目標はオークス。この認識に間違いはないね」
    「ああ。何度も言った通りだが、オークスはお母様が制したレースだ。負けるわけにはいかん」
    「わかってるさ」

     こうして、本来ありえざる二度目の挑戦へ向けて、もう一度スタートを切った。

  • 58女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:58:10

    「日が沈んだらさ、あー、今日も1日が終わった……と、思うだろ? 僕はこれからも仕事です……」
    「泣き言を言うな」
    「うぇー、厳しいなぁ……あ、来週の水曜に雨予報出てるけどどうする? 屋内トレーニングにするか、グラウンド使って重い馬場の対策やるか。個人的にはジムでの筋トレがいいと思うんだけど」
    「筋力トレーニングにしておこう」
    「了解。じゃあ使用申請出しておくから、水曜日はジム集合で」

     トレーナーがついてから、1ヶ月ほど過ぎた、ある日の夜。
     “1回目”とは異なり、今の私はこの男との3年間を駆け抜けて変化した。自覚はないが、死ぬ前のトレーナー曰く、かつての私は融通の効かない堅物で、人の使い方をよくわかっていなかったらしい。「個人的な意見だけれども、なんだか笑顔を見せることが増えたね」と言われたことを覚えている。
     3年間でそれだけ変化した人格が、3年前に巻き戻って差し込まれる。その場合どれだけの変化が生ずるのか、と悩んでいたが、そこまで大きな問題はなく1ヶ月が過ぎた。
     あまりにトレーナーの死が急過ぎたこと、そしてその状態から急に過去に巻き戻ったことが重なり、時々“1回目”のトレーナーと、現在、すなわち“2回目”のトレーナーを混同しそうになる。そもそもほぼ同一人物なのだから仕方ないかもしれないが、あの男が生きていた頃に戻ったように錯覚してしまう。
     幸い訝しまれることはないが、仮にそこを指摘された場合、どう答えるべきか。
     それを抜いても悩みは尽きない。3年間を終えた私の精神がここにいるというなら、それまでここにあったはずの、奴曰く融通の効かない堅物だった私はどこへ行ってしまったのか。そして逆にトレーナーの死亡したあとの時点はどうなっているのか。そもそもこの状態がいつまで続くのか。原因も犯人もその動機も不明となれば、調べるものも調べられない。

  • 59女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:58:19

    「おーい、きみ」
    「───? ああ、どうした」
    「きみがトレーニングを見ている後輩について、少しばかり所感を書き出してみた。ここ1ヶ月で練習を見た感じの改善点とそのためのトレーニング、あと重点的に鍛えるべき部位。できれば身長と体重を含めた身体的なデータの推移と食べたものに関する記録が残ってればもうちょっと細かくやれるんだが,流石にそれはデリカシーの問題が出てくるんでね」
    「そのデリカシーの問題が出るデータを私に提出させているのにか?」
    「同意の上だし、なんならきみから言い出したんだろ……まあ、僕も同じことを考えてはいたが……」
     
     そういえばそうだった。“1回目”は少し時間が経ってからのあちらからの提案だったが、今回は早い段階から私の方から記録を渡している。慣れているのでいつも通りに提出したが、よくよく考えれば私にとってのいつも通りは、奴にとってのいつも通りではない。
     このことに直面すると、どうにも耐えがたい。
     会長も、ブライアンも、この男も、ドーベルも、スズカも。誰も彼もが私の知るそのままのようで、そうではない。私のことを覚えているようで、忘れている。
     その寂しさには、どうにも堪える。

  • 60◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:59:14

    再放送終わり。ここから新しく書いた部分です。
    なおリアルの方が現在めちゃくちゃに忙しいのでここからも更新がぶつ切れになりそうです。お許しください。

  • 61女帝視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 02:59:55

    「うぇー、あっついなあ……これ全部運ぶんだろ? うへぇ……」
    「泣き言を言うな。私も手伝ってやるから、貴様も自分の仕事くらいはこなせ」
    「わかっちゃいるけどなあ……うわあ、重たいぞこいつ……」

     季節は夏。
     灼熱の砂浜。痛いほどの日差し。体力を容赦なく削る酷暑。
     夏季休暇の2ヶ月間を利用しての夏合宿に、私たちは来ていた。

    「ま、僕らは軽く調整だがね」

     1週間後に迫った私のメイクデビューに向けて、今できることはさほど多くない。3日前に最終追い切りを済ませれば、ただでさえ少ないトレーニングはもっと減る。
     それが疲労を溜めないで、レースで最良のパフォーマンスをするためとは理解しているが、とはいえ流石に何もしないのは気が引ける。

    「休むのが仕事さ、いいね? 何かしらの肉体労働があったら、僕なり誰かなりに任せればいい。とりあえずコースデータと相手の確認を重点的にやろう」
    「貴様に肉体労働はさせられんな」
    「なにおう? これでも一応、昔よりは元気なんだけどね」
    「それでも弱いことに変わりはないだろう……無理はするなよ」
    「わかってるってば、過保護だなぁ」

     そういいながら、荷物を運ぶ背中は遠ざかっていく。
     それがどうにも不吉に見えてならない理由は、言うまでもないだろう。

  • 62トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 03:00:37

     札幌2000m、メイクデビュー。
     そこにエアグルーヴが出走するのを、観客席から眺めていた。

    「……パドックでも問題ない仕上がり、頭ひとつ抜けた風格、か」

     彼女については、よくわからないことが多い。
     なぜ僕をこうも気に入っているのか。自惚れでなければいいが、しかしまさか生徒会活動と競技者としての活動の両立を認めた程度で、彼女ほどのウマ娘が新人をトレーナーにする理由はない。
     なにせ練習メニューに対してダメ出しを出せるのだ。僕にも理解できる理由まで添えて。それほどまでの能力を持って、一体どうして僕にこだわるわけがあるのか。
     適当に出走登録と練習器具の申請だけ出すトレーナー──事務員だの名義貸しだの言われる、もっとも碌でもない類いのトレーナーだが、専属なりチーム所属なりのトレーナーを見つけられないような子から見れば、最後にすがる一本の藁──でも捕まえておけば、何も言われずに好きにできるのに。
     何もわからないままに、ゲートは開く。

    「……ほんとこれ、僕は要るのかね?」

     なんら一切ダメ出しのしようのないようなレース運び。
     シニア級のそれと比べても遜色ないほどに完璧に位置を取り、完璧に仕掛け、完璧に差し切る。まるで子供の中に大人が紛れ込んだような、レベルの違いを突きつけるパフォーマンス。かかることも出遅れることもない、メイクデビュー特有の初々しさを一切感じさせない圧巻の独壇場。
     湧き上がる観客の中で、心中に疑問符が膨れ上がる。
     果たして一体、僕は何ができているのだろうか。

  • 63トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 03:00:58

    「あ、エアグルーヴ先輩……!」
     
     札幌から帰る途中、空港で見慣れた姿を見かけた。
     面と向かって話したことはないが、これまでの3ヶ月ほど、走りを見ることは何度もあった。
     メジロドーベル。あの名門メジロの出身で、男性が苦手。それ以上のことはよく知らないが、走りには光るものがある。いい女性トレーナーを見つけられれば確実に輝くだろう逸材。

    「僕はあっちの方で時間を潰しておくから、後で落ち合おう」
    「すまないな」
    「いやいや、誰が悪いってこともないしね」

     そうして離れてから、やはり思うのは今日のレースのこと。
     インターネットニュースでは、すでにエアグルーヴの記事ができていた。元選手の評論家から見ても非の打ち所がないとまで称される、ティアラ路線期待の新星。
     おまけに取り上げられる謎の新人トレーナー。インターネット論客はやはり正直者しかいないらしく、辛辣にもっとトレーナーを選んだ方がいいと書いてあった。僕もそう思う。
     いつもわからないことばかりだ。正直に言ってしまえば僕足手まといでしかないというのに。なんならいっそこのメイクデビューの内容さえあれば、生徒会活動との両立を認めさせることだってできるかもしれないほどなのに。
     それでも彼女が僕にこだわる理由とは、なんだ?

  • 64トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 03:05:24

     琴線に触れた理由はわからない。
     青い空、青い海。投げかけた疑問は水平線に流されて消えた。

    「……どういうことなんだろうなあ」

     ぼんやりと海と空を眺めているきっかけは、合宿所に戻ってから2週間ほど経ったあと。
     普段面倒を見てる子達を見に行ったり、エアグルーヴの手伝いをしたり。そうして過ごしてるうちに、休みを突きつけられた。

    「貴様、最近働き詰めだろう? 明日くらい休んでおけ」
    「いやいや、やりたいことは多いし……」
    「どうせ仕事だろう。2週間も休みなしに動いていれば、そのうちに倒れるぞ」
    「まさか。自分の体のことぐらい────」
    「いいから休めッ! ……私も明日は休む。いいな?」
    「──ッ、わかったよ、休めばいいんだろ?」
    「隠れて何かしていた場合は、わかっているな?」
    「うぇ、お見通しか」

     有無を言わせぬ物言いに、じゃあせっかくだから、と近所の釣り船を予約して、道具一式を借りて適当に糸をおろして適当に遠くを眺めて、今に至る。
     撒き散らしたコマセと、釣り糸の先についたカゴから散ったオキアミに寄り付いたアジが針先のイカの切れ端に食いついて、引き上げてやれば複数垂れ下がった針にそれぞれかかった状態で二、三匹同時に釣れる。さっきからなんだかんだいいペースで釣れているので、生簀代わりのバケツの中は通勤ラッシュより酷いことになっていた。
     
    「……食い切れるかね、これ……最悪誰かに差し入れるか」

  • 65トレーナー視点◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 03:06:14

    「あー、世の中訳わからないことが多いな」

     世界公平仮説はとうの昔に捨てたつもりだったけれど、もしかしたら捨てきれないまま、心のどこかにこびりついていたらしい。
     全ての物事に因果があるわけではない。神様の気まぐれだってどこかに迷い込んだりもするだろう。
     でも、ちょっと物事うまく行きすぎじゃないか? 僕の手持ちの情報じゃ理屈を編み上げることができないことが多すぎる。

     ただただ、疑問符は尽きない。
     雲のない空から日差しが降り注ぐ。焦げそうだから日陰に潜ろう。
     そうして、ぼんやりと意識を落とした。


    「……エアグルーヴ。釣り船漁船には重大な欠点がある」
    「なぜ顔を隠している。せめて話す時くらい相手の目を見て話せ」
    「……釣り船漁船ってさ、ひさしはあってもそこまで大きくないんだよな」
    「だからなんだ?」
    「しかも太陽は動く。船だって動く。つまり……」
    「つまり?」
    「そんなところで寝こけた結果、顔面の右半分だけ日焼けした」
    「ふ、ふふっ……」
    「明日からあしゅら男爵を名乗って生きることにするよ」

  • 66二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 03:08:13

    ウワーッ!豊作!!

  • 67◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 03:08:52

    おわり。おそらくレース描写は2周目女帝がルドルフばりにつまらないレースをやるのでこれからも全カットになります。
    早くトリプルティアラを獲らせてトレーナーの仕事を激増させねば……

    それとリアルの関係上更新がどこまでも不安定になります。そのうちなんとかなるかもしれませんが、どうなることやらこちらにもわかんない状態ですので、適当にお待ちください。

  • 68◆IVjFIo4omu9921/12/05(日) 03:12:48

    (手癖でバッドエンドに行きたくなる衝動! おそらく次は阪神JFあたりまでですかね。メインの部分にたどり着くために結構キングクリムゾンしたのにまだ育成シナリオの3分の1も行かないってなんでなんやろなあ……)

  • 69二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 03:15:29

    もう報酬が貰えてた
    やったぜ!乙

  • 70二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 06:23:33

    わあい続きだやったぜ

  • 71二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 16:13:00

    保守

  • 72二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 16:20:24

    続きができとるー!!やったー!!

  • 73二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 20:03:13

    続きが出てて俺は…ニッコリした

  • 74二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 00:37:32

    ホッシュ……

  • 75二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 07:00:56

    保守

  • 76二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 14:40:16

    ノスタル爺保守

  • 77二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 18:47:16

    もっとくれ

  • 78二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 01:06:29

    >>68

    バッドエンドは行かないでもろて

  • 79二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 01:24:57

    描写が丁寧ですここここ

  • 80二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 10:09:12

    保守

  • 81◆IVjFIo4omu9921/12/07(火) 20:37:04

    手癖でバッドエンドに進ませそうになり展開に悩むボク!

    槇村君が死んでエアグルーヴもいなくなってしまった旧世界を描くか悩むボク!

    リアル事情が忙しくて今日の更新は無理そうなので保守がてらにダイスを振るボク!

    というか春まで忙しいのが続きそうで絶望するボク!


    dice1d100=50 (50) 歳!


    槇村君のこの世界での死期だそうだ! はーっはっはっはっは!

  • 82二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 21:17:39

    しかしねぇ…我々は保守するしかないのだから…

  • 83二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 00:37:17

    保守

  • 84二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 09:14:15

    保守

  • 85名無し21/12/08(水) 16:12:02

    保守

  • 86二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 23:31:32

    >>81

    そういや考えてなかったけどこれ元の世界のエアグルーヴってどうなってるんですかね……?

  • 87二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 10:38:33

    保守
    しかし作者さんはいつ来るのだ……?

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