- 1二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 22:22:20
誕生日は嫌いじゃない。“今日の主役”みたいな扱いは恥ずかしいけど、友人もメジロのみんなも、アタシのことをお祝いしてくれる。今朝なんて、起きた途端にタイキに抱きつかれてびっくりした。でも、嫌な気分になるなんてことはない。
少しそわそわしたような心持ちで、トレーナー室へ歩いていく。今日はもともとオフの予定だったのに、昨日やおとといと同じように向かってしまうのはどうしてだろう。答えはわかりきってるけど、簡単には認めたくない。
しっぽを宥めて、平静を装いながら見慣れたドアを叩く。板の向こうからの返事も聞き慣れたもの。アタシが無駄にドキドキしていることだけが、普段と違っているところ。
「トレーナー……おはよ」
「ん、おはよう」
お休みの日にアタシが来たのに、トレーナーは驚くこともしない。パソコンから上げられた顔は、ほんのりと優しさの籠った安心する表情。本当に何もない、普通の日のような光景。
だけど、テーブルにはリボンの包みがひとつ。小さいけど、れっきとした存在感を放っている。アタシだけが勝手に浮かれていたのかと思ったけど、トレーナーも覚えていてくれたみたいで。
「……あのさ」
勢いのまま口にしてから、はたと気づく。もしかして、アタシはとんでもないことをしてるんじゃないか? と。
トレーナー室に彼がいることをあてにして、わざわざ彼の元に押しかけて、祝ってくれることを期待して。あまつさえ、いきなり催促をするように声をかけたのだから。
バレバレじゃない、と一気に頭が冷えたけど、トレーナーはアタシの期待通りに応えてくれる。
「うん。お誕生日おめでとう。ドーベル」
たった一言なのに、どうしてこんなにも嬉しいんだろう。動かさないように注意していたのに、しっぽはひとりでに揺れ始めてしまう。頬も勝手に緩んでしまって、だらしない顔になってるかも。 - 2二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 22:23:16
「お昼頃に探しに行こうと思ってたから、ドーベルから来てくれたのは予想外だなあ」
「でも、ちゃんとプレゼントは用意してあるんだ?」
「当たり前だよ。君の誕生日を忘れるわけないじゃないか」
去年も嬉しくないなんてことはなかったけど、今年はより一層で。きっとそれは、トレーナーの隣で時間を過ごすにつれて、少しずつ……そう、少しずつだけど、心を開き始めているから。
初めて彼と対面した頃のアタシにいまの光景を見せたら、ありえないって卒倒してもおかしくないくらい。それだけ、一緒に歩んできた日々はアタシにとっての宝物なのだろう。
「お眼鏡に適うかはわからないけど」
差し出された包みに手を伸ばすと、指先が少しだけ触れ合う。びっくりして手を引っ込めてしまったけど、トレーナーはそのまま待ってくれていて。仕切り直すように、おずおずとしながらも改めてプレゼントを受け取る。
「ん……ありがと」
もっと素直にお礼を伝えられたらいいのに、正面から目を合わせられないし、無愛想な答えしかできなくて。初対面の頃からまるで成長できていないかもしれない。
でも。
いまのアタシはそこで後ろ向きにならずに、直していこうと前を向ける。だって、トレーナーが自信を持たせてくれたから。人見知りも前よりはマシになってきたんだから、もう一歩進むだけ。
「その、後で開ける……ね」
「お楽しみに」
「じゃあ……それだけだから」
「今日はパーティーとか楽しんでおいで」
「うん。また、明日」
ちゃんと真っ直ぐに、胸の内を明かせるように。日頃の感謝も、心から伝えられるように。
新たな一年の目標は、きっと達成できるはず。貰ったプレゼントを胸に抱いて、ちょっとだけ軽やかな足取りで、アタシはトレーナー室を後にした。 - 3二次元好きの匿名さん23/05/21(日) 22:27:19
前作
ダイイチルビーの微笑み|あにまん掲示板 名家の令嬢として名高いダイイチルビー。容姿、態度ともに隙はなく、纏う品格は一級品。彼女の姿を目にするだけで、圧倒されるほどの風格を感じるという声も上がっている。生きる世界が違うとさえ思う人も多い。 …bbs.animanch.com結局長々と書いてたやつは完成せずお誕生日に全然間に合わなかった
慌てて書き始めたやつもなかなか進まなくてとんでもない遅刻でごめんね……
今作は出会って二年目くらいのデレ始めをイメージした感じです