(SS注意)GWのその後の話

  • 1二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:00:25
  • 2二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:14:55

     昼下がりのトレーナー室。
     俺は困り果てていた。

    「ゼファー、出ておいで、正直その格好暑いでしょ?」

     部屋の隅に、黒い小さな山のようなものがちょこんと鎮座している。
     見ればそれはコートの布地であり、頭から覆い隠す様に全身を包んでいた。
     俺の声にその山がぴくりと反応し、小さな声を返す。

    「いいんです……私は淫風ウマ娘なんです……はしたない姿を風に晒して……」
    「だからナイスネイチャも謝っていたじゃないか、皆気にしてないよ」

     担当ウマ娘のヤマニンゼファーは沈んだ声色で、そうぼやいた。
     事の発端は――――彼女が新しい服を購入したところから。
     友人のダイタクヘリオスと共に購入したそれは、普段の彼女の私服とはかけ離れたものだった。
     トップスはお腹が見えるほどの短い裾の半袖Tシャツ。
     ボトムスはデニムのショートパンツ、腕にはちょっとしたアクセサリ。
     少しだけ攻めた感じの、いわゆるギャルっぽいファッション。
     まあ、その、ちょっと過激というか、刺激が強い格好であったのは否定できない。
     けれど似合っていたのも事実だったため、俺は普通にその服を褒めた。
     次いで出会ったトウカイテイオーも、何か言いたげだったが、普通に褒めた。
     ゼファーは俺達の言葉に気を良くして、珍しくはしゃいだ様子を見せてくれた。
     そして、その風に乗るように、校門前でたまたま出会ったナイスネイチャに感想を聞いて。

    『……うわエッロ』

  • 3二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:15:19

     疲れていたらしいナイスネイチャから、直球過ぎる感想を頂いた。
     直後失言に気づいて、慌てて謝罪をしてくれたものの、ゼファーのダメージは大きかった。
     瞳を潤ませて、顔を真っ赤に染め上げて、即座に回れ右をして。

    『しっ、失礼しました!』

     まるで疾風とも言うべき速度で、トレーナー室へ駆け込み、現在に至る。
     ナイスネイチャにも悪気はなかった、きっとそれはゼファーもわかっている。
     ただ同時に、聡い彼女はその言葉に一定の真実が含まれていたことも、理解していた。
     そして、俺とテイオーも少なからずそう思っていたのだろう、ということも。
     いや、まあ、うん。
     口には出さないし、大人としてそう思うべきでないことも理解してる。
     しかし、そういう感想を一切持たなかったかと問われれば、否定はできない。
     せめて、婉曲的な表現で、指摘をしてあげるべきだったのだろう。
     なににせよ、暑くなってきたこの時期に、コートを上から被ってるのは見過ごせない。
     俺は彼女に近づいて、視線の位置を合わせるように屈んで、声をかけた。

    「ずっとそんな格好じゃ体調崩すよ? せめて着替えておいで」
    「……」

     俺の言葉に、ゼファーはくるりと身体をこちらに向ける。
     顔だけは出ている状態になっており、その額にはきらりと光る汗が流れていた。
     暑いからか恥ずかしいからか、頬には未だに赤みが残っている。
     彼女はジトっと珍しい目つきでこちらを見つめて、口を小さく開いた。

    「……トレーナーさんは、あの風采を見て、なんとも思わなかったんですか?」
    「……少し露出が多いかなとは思ったけど、一般的な範囲だったとは思うよ」
    「…………」

  • 4二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:15:37

     ゼファーはじっとこちらと目を合わせたまま、突然コートを脱いだ。
     むわっとした熱気と共に鼻腔をくすぐる、汗の匂いと、ゼファーの爽やかな香り。
     半袖のTシャツは汗ばんでいるせいか、肌に張り付いて、ボディラインをより強調しており、また若干透けていた。
     デニムのショートパンツは影響がないものの、しゃがんでいるせいか太腿がむっちりと自己主張を始めて、妙な色気を感じる。
     至近距離からのあまりの強風に――――俺は思わず、目を逸らしてしまった。

    「やっ、やっぱり! トレーナーさんもえ……その、あの、えっ、えっち……いろかぜ! 色風めいているって! 思ってるんじゃないですか!」

     ばさっと勢いよく前を閉じるゼファー。
     その目尻には涙を溜めて、眉は逆ハの字、耳は絞られていて、怒っているのは明白。
     やらかした、そう思わざるを得ない。
     少なくともさっきは目を逸らすべきでなかった。
     そんな意図はなかったとしても、結果としてゼファーを再度傷つけてしまった。
     しっかりしろ――――俺は、彼女を支えて、共に歩んで、共に風になると誓ったのだから。
     俺は彼女の両肩に手を置いて、じっと、真剣に見つめる。

    「ゼファー、すまなかった」
    「……トレーナーさんなんて、知りません」

     ぷいっと唇を尖らせて目を逸らすゼファー。
     なんか普段とは別の意味で可愛らしいなと、ちょっと思ってしまう。
     その邪な思考は横に置いて、俺は彼女への言葉を続ける。

    「君の新しい服はとても似合ってて、素敵だったよ」
    「……うそです、虚風です」
    「嘘じゃないよ、ただ、それと同時に、その、魅力的過ぎたというか、だな」
    「……魅力的」
    「ゼファーの可愛らしさと爽やかさと……色気が、良く出てた、と思います」

  • 5二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:15:57

     何故か敬語になってしまった。
     正直、中等部の子に言うことじゃないと思う。
     けれど同時に、誤魔化した言葉を彼女が望んでいないと思ったから。
     最低限、言葉は選びながら、俺は彼女に正直な感想を、そのまま伝えることにした。
     ゼファーは、暑さのせいか少し頬を赤みを強くしながら、視線をこちらに向ける。
     びっくりしたように目を丸くして、その無垢な瞳を、俺の目に合わせてくれた。

    「かわいい、ですか?」
    「ああ、君の愛らしさが良く出ていて、普段とは別の良さがあったよ」
    「……アゲアゲおけまる、でしたか?」
    「……うん? それは良くわからないけど、その、ドキドキはしたかな、うん」

     突然の謎言語が飛び出したが、何とか解釈して言葉を返す。
     ゼファーは俺を見つめて、再度、コートを脱ぎ捨てた。
     新鮮で、魅力的で、刺激的で、爽やかで、とても可愛らしい彼女の姿。
     今度こそ、俺は目を逸らさないで、じっと見つめる。
     彼女もまた、表情を変えないまま俺のことを、じっと見つめ続けていた。
     やがて、そよ風のような小さな声で、ぽつりと呟く。

    「…………穀風を、ください」
    「うん、とっても可愛くて、君の新しい魅力がわかる、良い服だね」
    「……もっと」
    「あまりに刺激的で、ドキドキして、あまり他の人に見せたくないなって思ってしまうくらいだ」
    「……ふふっ、よくばりさんですね、もう少し、恵風が欲しいです」
    「君も割とよくばりさんだなあ、そうだな、もう少し細かいところを――――」

  • 6二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:16:15

     ゼファーがやっと微笑んでくれて、それが嬉しくて、舌が回る回る。
     彼女の良いところなんて、上げていけばいくら時間があっても足りないくらいだ。
     そのまま、十数分、彼女の新しい服を褒め続けた。
     やがてゼファーは、肩を震わせながら、声を出して笑う。

    「ふっ、ふふ……あはは……はい、トレーナーさんの好風はたっぷり頂きました」
    「そっか、それは良かった」
    「でも困りました、私もこの服自体は緑風を感じますが、人前では臆病風が吹いてしまいます」

     そう、ゼファーはあまり困ってなさそうな表情で告げる。
     違和感を覚えつつも、その意図が詰めず、俺はそのまま相槌を打った。
     すると、彼女は突然、その小さな両手で俺の手を掴んで、無理矢理前で合わせる。
     お互いに、大事な約束事を、誓い合うように。

    「だから、貴方以外、誰にも見られない場所に、連れて行ってくれませんか?」

     その場所がどこなのか、皆目見当がつかないのだけれど。
     それ以上に、そのお願いを否定する理由を、見つけることが出来なくて。

    「ああ、約束するよ」

     そう短く、ただしっかりと答える。
     するとゼファーは、春風に誘われて開く桜のような明るい笑顔を見せてくれた。

    「はい、風待ちしていますからね?」

     それからしばらくして、学園の一部で、ちょっとした噂が流れた。
     服が一式入りそうな袋を持ったゼファーが俺と共に、トレーナー寮に向かう姿が目撃されたとか、なんとか。

  • 7二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:16:41

    お わ り
    スレ立てした瞬間落ちると焦りますねえ

  • 8二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 01:14:01

    褒め始めると止まらないトレーナーの性

    それはともかくトレーナー宅でタイマンファッションショーやってる…!?

  • 9二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 02:53:33

    担当ウマ娘のバ体チェックはトレーナーの業務なのでヨシ!

    ◇このドスケベギャルファッションは──?

  • 10二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 03:40:23

    いじらしいゼファーは可愛いですね
    それはそうとトレーナー寮でファッションショーは「そういうプレイなん?」案件すぎる……

  • 11二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 06:27:17

    崩れかけた風語彙を慌てて矯正するのかわいい

  • 12123/05/24(水) 06:43:05

    感想ありがとうございます

    >>8

    ゼファーの褒めるところなんていくらでもありますからね

    タイマンファッションショー……なんて良い響きなんだ

    >>9

    ギャルはえっちだから仕方ないね

    トレーナーってのはけしからん仕事なんだなあ

    >>10

    タイマンファッションショーはトレーナー業務だからセーフ

    いじらしさを上手く表現出来てれば良かったです

    >>11

    話の流れ的に普段あまり書かないゼファーの一面が書けて楽しかったです

    その部分は結構お気に入りだったりします

  • 13二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 08:40:06

    ひたすらかわいい
    中学生に脳を焼かれたトレーナー陣可哀想なまごろしじゃん

    タイマンファッションショー、これは、流行る!

  • 14123/05/24(水) 13:19:50

    >>13

    感想ありがとうございます

    流行って欲しいなタイマンファッションショー

    可愛さを表現できてたら幸いです

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