【SS】トレーナー君、今日は何の日か知っているかい?

  • 1二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:21:27

    私の問い掛けに、キーボードを叩く手を止めたトレーナー君は怪訝そうに眉を寄せる。

    「キスの日?」

    「ふふ、やはり君も知っていたか。」

    読み掛けの本をパタンと閉じ、机の上の空瓶の横にそっと置く。
    この後の『用事』に逸る心を抑えつつ、あくまでいつものシンボリルドルフを演じ続ける。
    間合いを詰めるまで獲物に気付かれる訳にはいかないのだから。

    「なんか意外だな。ルドルフも興味あるんだね、そういうの。」

    「勿論。私だって一学生な訳だしね。恋バナ、というヤツには興味津々だとも。」

    恋バナとはまた違うような……などと小声で呟きつつ、トレーナー君がラップトップを閉じる。
    どうやら本腰を入れて私のお喋りに付き合ってくれる気になったらしい。

    「いいのかい?作業の方は。」

    「粗方は片付いたしな。それにルドルフに付き合う方が大事だよ。」

    ……今のは"良い"な。
    胸にギュッとした感覚を覚えながら、話を続ける。
    このあざとさが天然だというのだから恐れ入る。

    「…へぇ。君にそこまで大事に思われているだなんて恐悦至極だな。」

    「当たり前だよ。大事な大事な担当ウマ娘なんだから。」

  • 2二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:21:39

    >>1

    妙に力の入った『担当ウマ娘』というワード。

    きっと他人から見れば、何をしでかすか分からない担当ウマ娘に釘を刺しているように聞こえるのだろう。

    だが、3年間も連れ添った私には分かる。

    彼が釘を刺している相手は私ではない。

    彼自身だ。

    トレーナー君も相当堅物だから。


    「ふふっ……」


    「ルドルフ?」


    「何でもないよ。それより聞いてくれ。今日、テイオーが生徒会室に遊びに来てね。私に1つ質問をしてきたんだ。内容はなんだったと思う?」


    ふむ、と顎に手を添え、トレーナー君が考え込み始める。

    自然と彼の唇に目がいく。

    最低限の手入れが施されただけの少しカサついた薄い唇。

    『事故』が起きた時に確かに感じた感触が頭の中で蘇ってくる。

    あれは実に甘美なものだった。


    「キスの日の由来とか?」


    「残念、ハズレだな。正解はね……」


    ──ファーストキスの味、だよ。


    ぴくりと眉が動き、トレーナー君の瞳が揺れる。

    明らかな動揺のサイン。

    きっと今の彼の頭の中には、温泉旅行の際の一件が思い浮かんでいるはず。

    たまたま足を滑らせた彼を、たまたま私が受け止め、そしてたまたま……互いの唇が触れ合ってしまったあの事件。

  • 3二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:22:02

    >>2

    「マヤノトップガンから『ファーストキスはレモンの味がする』と聞いたようでね。その真実が知りたかったんだそうだ。どう答えたと思う?」


    「……さぁ?」


    「ふふっ、連れないね。随分と冷たいじゃないか。」


    ゆっくりと執務用の机を回り込み、椅子に座ったままの彼を見下ろす形で立ち止まる。


    「私はね。『分からないな。』と答えたんだ。実際、あまりよく覚えていないしね。」


    「けれどトレーナー君なら……覚えているんじゃないかな?私のファーストキスの味を、ね?」


    「……あの時は本当にすまなかった。俺が言うことでもないけどさ、あれは事故のようなものだと思って流してくれ……」


    「おやおや。このシンボリルドルフの初めてを奪っておきながら、君は責任を取らずに逃げるつもりなのかい?」


    わざとらしく耳元で囁くように告げると、彼は困ったように視線を泳がせる。

    意地が悪いのは承知の上だ。


    「それは……でもルドルフだって俺なんかよりももっと良い人が──」


    「それ以上は許さないよ。例え君の言であってもね。君がシンボリルドルフに相応しい男か否かを決められるのはこの私だけだ。」


    彼の膝の上に跨がり、そっと両手を頬に添える。

    視線を合わせないように下を向く彼の顔を持ち上げる。

    未だに迷っているらしい彼の内心が瞳越しに透けて見えた。

  • 4二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:22:45

    >>3

    「……っ!ルドルフ、大人をからかうのはよしなさい。」


    「揶揄ってなどいないさ。もう一度聞くよ。私のファーストキスはどんな味がした?」


    「……ごめん、俺もテンパりすぎて全然覚えてない。本当にすまない……」


    必死に謝る彼の姿を見て、思わず笑みが溢れる。

    私が惚れたのはその誠実な所になんだよ。

    もっとも、君の魅力は不遑枚挙だがね。


    「だろうと思った。本当に酷い男だな、君は。」


    「けれどね、私は寛大だから。今、ここであの日の記憶を思い出させてあげるよ。」


    「ま、待て!ルドル──」


    彼の首の後ろに手を回し、強引にこちらへ引き寄せてその口を塞ぐ。

    僅かに感じていた抵抗もすぐに止んだ。

    少しばかりの逡巡の後、おずおずと私の背中へと手が回される。

    今まで感じたことがないほどの多幸感

    に包まれていく。


    やがて唇が離れ、お互いに見つめ合う。

    きっと彼も同じ気持ちなのだろうと何となく思った。

    もう自分の想いを抑えつける必要がなくなったと、そう言いたげな表情だったから。


    どちらからともなく再び顔を近づけ、お互いを求めあうように何度も何度も啄むような口付けを繰り返す。

    どれほどの間、そうしていただろうか。

    十分に満足感を憶えたところで、彼を解放してやる。

  • 5二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:23:28

    トレルドいいぞこれ

  • 6二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:23:41

    >>4

    「ご馳走様。ふふっ、思い出したかい?」


    「……フルーツ牛乳の味。」


    「ご名答。」


    だからあんな珍しいもの飲んでたのか、と呟いた彼の胸に倒れ込む。

    ゆっくりと頭を撫でてくれる手つきに心地良さを覚えながら、ぽつりと言葉を溢す。


    「ありがとう、私を受け入れてくれて。」


    「こちらこそ。今さらだけどさ、本当に俺で良いの?俺よりも好い人、多分いっぱいいるよ?」


    「そうかもしれないね。でも、私はトレーナー君が良いんだ。他の誰でもない君に生涯を捧げてほしいと思っている。」


    そっか、という彼の短い返事の後、トレーナー室は静寂に包まれる。


    「なぁ、トレーナー君。君に一つだけ謝っておかないといけないことがあるんだ。」


    「ん?」


    「ファーストキスの味を覚えていないと言っただろう?あれは嘘なんだ。今でもはっきりと覚えている。コーヒー牛乳の味だった。すまない、嘘をついてしまって……」


    僅かな沈黙の後、くつくつと小さく笑い声をあげて彼は言った。


    「そんなこと気にしなくていいのに。変なところで律儀なんだから。」


    「む…… しかしだな──」

  • 7二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:24:00

    >>6

    その時、小さなアラーム音が鳴ったかと思うと、机の上の腕時計型端末が小さく振動する。


    「おっと、もうこんな時間か。そろそろ生徒会のミーティングに向かわなければ。」


    「ん、行ってらっしゃい。」


    ひらりと片手を上げて見送る彼。

    後ろ髪引かれる思いを抱いていないと言うと嘘になるが、職務は全うしなければならない。


    「では、行ってくるよ。」


    扉に手をかけた時、不意に呼び止められる。

    振り返ると、彼はどこか照れくさそうな様子で視線を逸らす。


    「今週の土曜日にさ、指輪でも見に行こうか。……ルナ。」


    「! ふふ、楽しみにしているぞ、___君。」


    キスどころか、指輪まで。

    今日は欣喜雀躍なんて言葉では足りんぐらいの一日だったな、などと思いつつ私は生徒会室の扉を開くのだった。

  • 8二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:25:32

    以上です 推しカプにはキスの日に託けて存分にイチャついて頂きたい所存です

  • 9二次元好きの匿名さん23/05/23(火) 23:40:24

    いくらでもイチャついて良い日

  • 10二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 01:02:27

    むしろ年中イチャついてくれ

  • 11二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 12:18:44

    あげ

  • 12二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 21:49:37

    こいつら結婚するんだ

  • 13二次元好きの匿名さん23/05/24(水) 22:30:17

    >>12

    手放す気は毛頭ないからね しょうがないね

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