- 1二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:02:09
「ゼファたんウェーイ! これウチとパマちんからオススメのコスメ! ちなオーガニってるのゲットンしてきたんでマジアゲ☆ 鬼アゲ★ ヘローアストリア! って感じだから!」
「ありがとうございます、ヘリオスさん……中身を拝見させていただいても?」
私はお日様のような笑顔のヘリオスさんから、小さな紙袋を受け取ります。
紙袋には母の会社とは異なる、少しばかり気になっていたメーカーの名前。
不作法とは思いつつも心に上風が吹くのを抑えられず、ヘリオスさんが頷いたのを見てから中身を取り出します。
複数の、ネイルコスメでしょうか。GWに体験させていただいたものに似ていました。
まるでお花畑のように豊かな色風は、まるで光輝く宝石のよう。
「わざわざ私の風向きに合わせていただいて……ふふっ、自然の鮮やかな色彩です」
「しょー! 今度ウチらとおそろしよーぜぇ☆」
「はい、是非」
「おお、いいじゃんゼファー……いやーこの後だとアタシらの出しづらいですなあ……」
困ったような表情を浮かべつつ、ネイチャさんは大きな紙袋を差し出しました。
受け取ると、それは大きさの割にはとても軽風で、それでいてしっかりとした質感。
頂けるだけでも春風の心地ですが、どうしても暁風に触れてしまいます。
「これはアタシとイクノとタンホイザとターボから、中身見てあげて」
「ありがとうございます…………これは、凧ですか?」
「あはは……ターボからの熱い推しでね、その分奮発したやつだから」
「まあ、つんつんさんのからの追風ならば、是非とも天つ風に乗せてあげないとですね」
中からは、一見するとスポーツ用品か何かに見える道具。
一緒に入っている写真から、それが本格的な凧であることが何とか判断できました。
見るからに高価そうですが、遠慮するのは逆にあなじ、有難く受け取りましょう。
「お二人とも、本当にありがとうございました。ふふっ、来年は皆さんにもっと返風をしなくてはいけませんね」
「あはは、マジATMしてっから! ところで、トレーナーからはもうゼファたん祝ってもらった系?」 - 2二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:02:25
ヘリオスさんからの、ふとした疑問。
その問いかけに、私の口は凪いでしまいます。
理由は明白――――今日、私はまだトレーナーさんと顔を合わせていないからです。
「あらま意外、あのトレーナーさんなら朝一に会いに来そうだけど」
「……いえ、そこまででは」
私は、ネイチャさんからの言葉に対して、嘘をつきました。
本当は、一番に祝福の言葉を頂けるのではないかと、少し風待ちしていました。
あからしまで、風来坊のように身勝手な、妄想ともいうべき期待。
それでもあの人ならば、夢に見たような凱風を吹かせてくれるのではないかと、思ってしまいました。
ああ、私はいつから、お姫様に憧れる少女のような想いを抱くようになったのでしょう。
押し黙ってしまった私に、何か勘違いをしたのか、ネイチャさんは慌てて声をかけてくれます。
「まっ、まあ! きっとすごい準備とかしてるんだよ!」
「それなー! あの人エグちでゼファたんのバイブスアゲアゲしてるに決まってんじゃん☆」
「ふふっ、そうですね、改めて風待ちをさせていただきます」
その後、少しばかり声風を交えて、私達は別れました。
ではひかたを探しに――――と思っていたのですが、足は自然にトレーナー室へ。
ヘリオスさんとネイチャさんの便風は。とても嬉しかったです。
嬉しかったからこそ、私は、彼からの言葉を聞きたくなってしまいました。
気づけば足早、スキップ混じり、まるでまんまるさんみたく、跳ねるように歩みを進めます。
ああ、早く、早く、あの人からのおぼせを感じたい……そんなことを考えながら。
「そういえばヘリオスさん、ちょくちょく気になってたんですけどゼファたんって?」
「ゼファっちの誕生日のことっしょー☆」
「ああ、そうなんですか……急に呼び方変わったのかと思いました」 - 3二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:02:42
気が付けば、トレーナー室の前に私は立っていました。
小風のように扉を叩いてみるものの、中からは物音一つ聞こえてきません。
外出中でしょうか、そう思いながらドアノブを回してみると、扉は風に吹かれたかのように簡単に開きます。
夜風に揺れる木々のように静かに部屋を覗き込むと、デスクの上に突っ伏して寝息を立てているトレーナーさんの姿。
「あら、春風に誘われたのでしょうか?」
それは、珍風ともいえる光景でした。
少なくとも私が知っている中では、彼がトレーナー室で居眠りをしていたのは初風です。
思えば、最近は少しばかり煽風のように忙しそうにしていたような気がします。
もしかしたら、私が思っていた以上に、向かい風の日々を過ごしていたのでしょうか。
「……あなじ、です」
彼の玉風も知らず、どこ吹く風と、綿毛のようにふわふわ浮かれていた。
そう考えてしまうと、自分のことが恥ずかしくなってしまいます。
……いけませんね、きっと私がようずに思うことは、トレーナーさんも望んでないでしょう。
まとわりつく魔風を振り払って、私はタオルケットを手に彼のところで向かいます。
デスクの上は、花嵐が吹き抜けた後の桜の下のように散らかっていて、彼の苦労を表しているよう。
「いつも、私のために帆風を送ってくださって、ありがとうございます」
そよ風のように小さく声をかけながら、トレーナーさんの後ろに辿り着きます。
私はそこで初めて、デスクの上に広がっているものの正体を目にしたのでした。 - 4二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:02:57
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
- 5二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:03:13
――――さやさやと、穏やかな風と共に、視界が開いた。
目を開ければ、見慣れたトレーナー室の天井。
ぼやけた思考が精彩を取り戻し、今この状況に疑問を持った。
なんで寝転がっているのだろうか。
記憶が正しければデスクで作業をしていた、寝落ちしたとしても座っている状態のはず。
その疑問への答えは、すぐにわかった。
「おはようございます、もう少し和風を感じていても良いのですよ?」
担当ウマ娘のヤマニンゼファーが、微笑みと共に覗き込んでくる。
彼女の顔を見て、後頭部に感じる柔らかな感触と、じんわりとした熱に気が付いた。
どうやら、俺は今ソファーの上で、彼女に膝枕をされている模様。
「す、すまない! すぐ起きるから……!」
「いえ、もう少しだけ、このままで」
慌てて身体を起こそうとする俺の額を、ゼファーは手で抑える。
小さいけれど、柔らかで、温かい手のひらの感触に、起き上がることができなくなってしまう。
やがてパタパタという音とともに、涼しくて優しい風が、俺の顔を撫でた。
見れば、ゼファーが扇子をこちらに向けて扇いでいる。
その扇子には、見覚えがあった。
――――ああ、見られちゃったのか。
俺は苦笑を浮かべながら、彼女に言わなければいけない言葉を伝えた。
「誕生日おめでとう、ゼファー」
「はい、ありがとうございます……ふふっ、嬉しくて、つい頂く前に使ってしまいました」 - 6二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:03:29
そう言いながら、ゼファーは扇子で口元を隠して笑う。
青と白を基調とした、どこか彼女の勝負服を思わせる扇子。
風を送るものという特徴も相まって、彼女へのプレゼントとして準備したものであった。
色々と予定はズレてしまったけれど、喜んでもらえたならば、まずは良しとしよう。
「本当は朝一にでも届けに行こうかと思ったんだけど」
「……正直にいえば、ちょっと風待ちしていました」
「ごめん、おまけに眠りこけてしまうなんてね」
「でも、あのデスクの上を見たら、胸がぽやぽやみなみで、いっぱいになって」
光風な気持ちが、抑えられません。
そう言ってゼファーは扇子を外すと、緩んだ口元を見せてくれた。
そして、近くのテーブルの上から一冊の本を手に取った。
風光明媚な景色が表紙になっている、写真集。
それは俺が眠ってしまう前までは、デスクの上にあったはずのものであった。
「こちらの、風景の写真集は?」
「君が好きそうな景色だったから、気に入った場所があれば、連れて行こうかと」
「では今度ゆっくりと読ませていただきますね……この自然の風致となる日が楽しみです」
そう言って、ゼファーは本をテーブルに戻す。
彼女が、次に手にとったのは大きな布。
両手で広げると、青の下地に白い花が描かれた一枚で、見た目も綺麗。
しかしハンカチとしては大きく、かといってタオルに適した材質とも思えない。
それでも彼女は楽しそうな笑みを浮かべており、全部見抜かれてるなと、確信する。 - 7二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:03:54
「トレーナーさん、この布はなんですか?」
「……風呂敷です」
「ではあちらに俄風のように現れた盆栽は、何の木でしょう?」
「…………アカシデです」
「見風乾、ですね。では、こちらのレシピと火風の痕はどうでしょうか?」
「………………風船餅をご馳走しようかと思って、失敗して」
「ふっ、ふふっ、あはは……!」
ゼファーはもう耐えられないと言わんばかりに、目尻に涙を溜めて声を出して笑う。
まあ、その、なんだ。
朝一で彼女のところに行けなかった理由、今日居眠りした理由はコレである。
彼女の誕生日に何をプレゼントしようかひたすら迷って、寝る時間を惜しんで悩んで。
最終的に用意できるもの全部用意して、当日になっても考えた結果だった。
我ながら、優柔不断というかなんというか。
彼女も呆れるよなと思いながら思っていると、思わぬ言葉が飛んできた。
「こちら、全部頂いても良いですか?」
「えっ、それは構わないけど、邪魔じゃないか?」
「トレーナーさんがいっぱい考えて、たくさん想いを込めてくれた東風を、邪魔なんて思うわけがありません」
「それは嬉しいけど、無理はしなくてもいいんだよ」
「……それに、私は自分で思っていたよりも、よくばりな、しましまさんだったみたいで」
俺が用意したプレゼントを、ゼファーはまとめてぎゅっと胸に抱きしめる。
大事な宝物を抱えるように、待ち望んだ清風を堪能するように。 - 8二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:04:15
「貴方がくれた祥風を、余すとこなく感じたいと、思っちゃいました」
ゼファーは困ったように笑いながら、そう言った。
俺はその表情を見て嬉しくなって、少しだけ恥ずかしくなって目を逸らす。
……というか、俺はいつまでも膝枕をされているのだろうか。
流石にもう起き上がらなくては、そう思った刹那、彼女の手が俺の頭にそっと触れる。
「トレーナーさん、もう一つだけ、瑞風を頂いても良いですか?」
「ああ、何でも言ってくれ」
「爽籟ですね、それでは」
そう言って、ゼファーは俺の頭を優しく撫で始めた。
小さな手で、さらさらと髪に触れられる感触は、こそばゆくて、恥ずかしくて、心地良い。
そしてゼファーは耳元に顔を近づけて、小さな声で囁いた。
「もうしばらくこのまま……貴方と二人で、恵風させてくださいね?」 - 9二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:05:33
お わ り
ゼファたんウェイウェイ - 10二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 00:13:56
ありがとうございます
風語録どこで.? - 11二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 05:17:52
ゼファたんSS感謝!!お誕生日おめでとう……!!
- 12123/05/27(土) 06:41:59
- 13二次元好きの匿名さん23/05/27(土) 13:38:32
良きよりの良き……
- 14123/05/27(土) 19:25:32