- 1ハピエン至上主義23/05/28(日) 05:53:11IF:映画終盤の帰還の代償に六花への恋心を失ってしまった|あにまん掲示板もしも宇宙規模となったグリッドマンの救出には成功しながらも、裕太自身が飲み込まれないために最も強い感情である六花への想いを対価にしてしまった話。あくまで恋心を失っただけで、今までのように記憶喪失はして…bbs.animanch.com
拙作、「IF:映画終盤の帰還の代償に六花への恋心を失ってしまった」の続きになります。初めてで慣れないSS投稿で字数制限とか考えてなかった結果レス数が足りなくなったので新しく建てました。
キャラのエミュ不足、文章力の無さ、解釈違いなど色々あるかもしれませんが最後までお付き合いいただければありがたいですm(_ _)m
- 2二次元好きの匿名さん23/05/28(日) 05:54:20
このレスは削除されています
- 3二次元好きの匿名さん23/05/28(日) 06:03:34
建て乙。このまま最後まで楽しませて頂きます。
- 4二次元好きの匿名さん23/05/28(日) 06:07:10
- 5二次元好きの匿名さん23/05/28(日) 06:42:01
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- 6ハピエン至上主義23/05/28(日) 07:30:51
あれから私はリビングまで戻って、再び響くんの寝顔を眺めていた。それなりに長い時間、店で皆と話していたと思うのだけど、響くんが目を覚ました様子はない。改めて、人の家でよくここまでぐっすり眠れるものだと感心してしまう。
「そんなに寝心地いいかな?うちのソファ……」
私もしょっちゅうソファで寝転がることはあるけど、流石に熟睡した記憶はない。となるとうちのソファには響くんにだけ作用する安眠効果があるのかもしれない。いや、ひょっとしたら響くんの趣味が昼寝なのかも。
「……なんて、流石にそんなわけないか」
傷は残ってないし、2代目さんやレックスさんの「心配はいらない」という言葉を疑うわけではない。けれど今ここで寝ているのは怪獣との戦いが影響している。特に今回は敗走と言ってもいい結果だったし、私たちが思っている以上に響くんにダメージが残っていてもおかしくはない。休息のために眠りが必要なのも当たり前だ。
……やっぱり意識的にポジティブな考えをしていないと、嫌な考えが過ってしまう。ついさっきまでは私自身きっと大丈夫だろう、なんて思っていたけどこのまま目覚めなかったら?ううん、今回は大丈夫でも今度はもっと酷い怪我をしたら?何度も何度も何度も何度も、響くんが戦いに出る度に抱いてきた不安が膨れ上がってくる。
「……凄いな、2代目さんは」
ふと、さっきまで状況をまとめてくれていた2代目さんのことを考えてしまう。彼女と、そして今ここにはいないアンチくんのことを。 - 7ハピエン至上主義23/05/28(日) 07:37:37
◇◇◇
「……さて、少し長く話しすぎてしまいましたね。そろそろお店の人も戻ってくるでしょうし、皆さんもお疲れでしょう。今日は一度解散してまた明日、今後の方針を話し合うことにしましょう」
「そうっすねー。あ、でも泊まる場所どうします?」
「??今回も六花さんのところに泊めて貰えばよくない?」
「いや、前回は唐突に巻き込まれたから仕方なかったけど今回はダメでしょ。そんな何回も迷惑かけるわけにはいかないって」
「確かに……あ、でもすぐ終わると思ってたから、俺金持ってきてないや」
「何してんすか先輩……」
「うーん。一人二人なら事情説明すれば俺んちに泊められると思うけど、流石に全員はなぁ……」
「普通この人数でいきなり押しかけて泊めてもらうのは難しいですよね……」
「やっぱここに泊めてもらえばよくない?」
内海くんを含めた一般人組が今日の寝床について相談している。というか夢芽ちゃん、ナチュラルにうちに泊まるつもりだったんだ……いや、ママなら普通に今回も全員受け入れそうだな。
「待て待てお前ら。今晩の宿について心配する気持ちは分かるが、その前に確認することあんだろうが。
……2代目、ナイトの奴はどうなった?あいつはちゃんと無事なのか?」
完全に弛緩ムードになっていた私たちの空気をレックスさんの言葉が一気に引き戻す。決してアンチくんのことを忘れていたわけではないけど、レックスさんの表情から私が思っている以上に深刻なのだと分かる。
「アンチくん、何か大変なんですか……?」
「あの怪獣と一緒にどっか行ったってだけでもマズい状況だろ。……まあそれだけならアイツのことだ。上手いこと足止めしつつ自分はしぶとく生き残るに違いねえ。だからそれに関しちゃ心配はしてないんだが……」
「じゃあ、何が心配なんすか隊長?」
「去り方がマズい」
ちせちゃんの疑問にレックスさんは即答する。その様子に私以外の皆もただ事ではないと気づいたらしい。 - 8ハピエン至上主義23/05/28(日) 07:39:10
「2代目。俺と蓬達がいっぺんにこの世界にきた結果、パサルートに負荷がかかって一時的にゲートを開けなくなった。だからマックスさん達をこっちに呼べなかった、それは間違いないな?」
「……ええ、その通りです」
「だがさっきの戦い。最後の最後でゲートが開いて、ナイトはあの怪獣と一緒にどこかに消えた。けどゲートの負荷が直ったにしてはマックスさん達がこっちに来る気配はねえし、そもそもあの怪獣だっていつ戻ってくるか分からねえ。今後の方針はまた明日、何て悠長なことを言ってる場合じゃねえはずだ。つまり……」
「……ガウマさんの想像通りです。さっきの戦い、私はパサルートのゲートを『強制的に』開きました」
問い詰めるようなレックスさんの言葉に、2代目さんが観念したように答える。実際レックスさんもあくまで確認だけで、本当のところは分かっていたのか驚いた様子はない。
「『強制的に』って、それ言葉だけ聞いてるとあんま良くない気がするんですけど」
「……そうですね。本来時間をかけて直るのを待つべきだったゲートに介入して、強制的にこじ開けたんです。
……結果として一次的にゲートの『入口』は開きましたがそれだけ。出口は開いていませんし、そもそも強制的に開けたゲートなんて僅かな時間しか保ちません」
「それってつまり…….ナイトさんと怪獣は、あのワープゲートみたいなのに取り残されてるってことっすか!?」
「いえ、パサルートはトンネルのようになってはいますが実際には異次元空間です。周りは壁ではなく、そう見えるだけの虚空。穴のような物だと考えてください」
なんだろう?子供の頃に見てたSFアニメのタイムマシンみたいな物だろうか。
「本来であれば指定した入口と出口の間にルートを引き、そこから外れない限りは何の問題もありません。しかし今回は出口を指定せずに入口を開き、その入口もすぐに閉ざされました」
「つまりナイトさん達はパサルート?に入ってすぐに虚空の穴に落ちたってことですよね?それってどうなるんですか?」
「……安全なのは指定した出入口だけです。ルートを外れ、虚空に落ちてしまった場合は時間や空間の流れも曖昧な『時空の狭間』を永遠に彷徨うことになります」 - 9ハピエン至上主義23/05/28(日) 07:43:28
……ますますあのSFアニメっぽい。でもそれって、
「じゃあアンチくんは今、怪獣と一緒にどこか分からない場所を彷徨ってるってことですか!?」
「裂け目があればどこか別の世界に辿り着けているはずです。ですが見つからなかった場合は……」
「怪獣と一緒に『時空の狭間』を永遠に彷徨うってことか……」
「それだけではなくてですね……先程も言ったように、負荷がかかっていたゲートを強制的にこじ開けたことで、逆に世界の修復力が働き正規の方法でもゲートが開かなくなっているんです。なので、新世紀中学生の皆さんをこちらに呼ぶことも、蓬さん達を元の世界に戻すことも出来なくなってしまって…….」
「マジか」
突如告げられた帰宅不可能宣言に蓬くんが絶句している。前回とは別の意味でいつ家に帰れるか分からない事態に、私も内海くんも同情してしまう。……他の3人が全く気にしてなさそうなのが逆に心配になるけど。
「急を要する事態だったとは言え、皆さんにご迷惑をお掛けする事態になってしまい申し訳ありません……」
「いや、お前らの判断がなかったら俺たちも裕太も生きてなかったかもしれないからそれについては責める気はねえよ」
「そうですね……緊急事態だったし、命には変えられませんもんね……」
「なんかよもさん落ち込んでません?」
「普通落ち込むもんだと思うよ」
「そんな気にすることないと思うけど」
やっぱり蓬くん以外の3人は全然気にしてないっぽい。本当に大丈夫なのか?
「けどやっぱナイトのやつが心配だな……怪獣との戦い以前の問題じゃねえか。そもそも今生きてんのかアイツ?」
「ガウマさん、なんだかんだナイトさんのこと心配してるんですね」
「いけ好かねえ奴ではあるが、もう長い付き合いの仲間だしな。それに強えし、いなくなられると困る」
「素直じゃないっすねー」
「うるせえな、俺は素直だっつの」
ガウマ隊の軽口で場の空気がまた明るくなり、2代目さんも笑顔を浮かべている。多分、これが彼らの強さなんだろう。戦う時は常に皆一緒で、お互いに励まし合い支え合う。私や内海くん、響くんとの関係性とは全然違う在り方。 - 10ハピエン至上主義23/05/28(日) 07:52:28
「2代目さんも心配、ですよね。アンチくんのこと……」
だからなのか蓬くん達にではなく2代目さんに対して、ついそんな言葉をかけてしまう。響くんとアンチくん。それぞれ相手も関係性も違うけど、今回もこれまでも、私達は彼らの戦いを見守り、そして傷つく姿に心を痛めてきた。アンチくんに請われてゲートを開いた時の2代目さんの顔は見てるこちらも苦しくなったし、普段響くんの戦いを見守る私も同じ顔をしていたんだと思う。だから──
「……そうですね。見ての通りナイトくんは無茶をしますから、見守る側からすれば危なっかしくて仕方ありません。きっと今も、怪獣を足止めするために必死に戦っているはずですし……
でもナイトくんのことです。今回もいつもみたいにフラッと、美味しい場面で帰ってくるに違いありません!」
「……え?」
「とはいえそれも良し悪しですね。あまり長い時間帰ってこないと、蓬さん達をいつまでもこの世界に拘束する羽目になってしまいますし。なるべく早く戻ってきてもらわないと」
全く世話の焼ける、と2代目さんは首を振っている。その様子は私の想像とはちょっと、いや全然違う。
「アンチくんのこと、心配してるんですよね……?」
「勿論。私が見てないところで無茶をして大怪我してないか、とか。他の世界に迷い込んで迷惑をかけてないか、とか。他にも心配ごとは尽きません」
「そうじゃなくて!さっき2代目さん言ってましたよね?パサルートの中で虚空に落ちたら、『時空の狭間』を永遠に彷徨うって」
「そうですね。高い確率でそうなると思います」
「今まさにアンチくんがその状況になってますよね!?それは心配じゃないんですか?このまま帰って来ないんじゃないかって、不安にならないんですか!?」
「──ええ、なりませんよ」
思わず声を荒げてしまった私に対して、2代目さんの表情は柔らかく微笑んでいる。そこには嘘や誤魔化しなんて全くなくて、
「確かに全く不安がないかと言えば嘘になります。普通に考えれば無事に戻ってきてくれる保証もない。
──でもね六花さん、ナイトくんはちゃんと帰ってきてくれるって私には分かってるんです」
「それは、どうしてですか……?」
「だってナイトくんの最終目標はグリッドマンに勝つことなんですよ?倒すべき相手がまだ残っているのに、自分が先にいなくなっちゃうなんてこと。ナイトくんは絶対しません」 - 11ハピエン至上主義23/05/28(日) 08:23:50
「……アンチくんのことを、信じてるってことですか?」
「長い間一緒に戦ってきましたからね。それに、私はナイトくんの先輩ですから。知ってますか?後輩であるナイトくんは先輩である私に逆らっちゃいけないんです。私が帰りを待っている以上、彼にはちゃんと帰ってくる義務があるんですよ」
……ああ、違う。2代目が私より歳上?だからなのか。人間と怪獣としての思考の違いなのか。それとも関係性の強さなのかは分からない。本人が言うように不安がないわけでもないのだろう。
だけど、それ以上に2代目さんとアンチくんの間には絆がある。何があっても絶対に帰ってきてくれるという絶対的な信頼がある。
(……私とは違う)
私はまだ、響くんが傷つく度に不安になる。きっと今でもジャンクの前に立つ後ろ姿を見たら引き留めたくなる。
──きっと私には……2代目さんとアンチくんのようには、響くんのことを信じることはできない。
その事実に気づいてしまい、私はもう何も言えなくなってしまった。
◇◇◇
それから私は逃げるように家に戻って、まだ目覚めない響くんの寝顔を眺めている。他の皆はまだ店の中で談笑しているみたいだけど、どっちみち皆を泊めるかどうかはママがいないと決められないし、私が何かを言うことじゃない。
「……響くんまだ目を覚まさないのかな」
今はただ声が聞きたい。私と響くんの関係に悩むより、響くんは無事なんだと生きているんだと実感したい。沸き上がる不安がなくなるのならあの瞳で見つめられても耐えられると思うから。
「だから早く目を覚ましなよ……裕太」
響くんの恋愛相談、怪獣の出現と正体、倒れた響くん、2代目さんと私の違い……今日は色々ありすぎて、心がまとまらなくて、目を閉じながら私はつい、彼の名前を呼んでしまった。 - 12ハピエン至上主義23/05/28(日) 08:29:29
そんなこんなで朝早くにすみません、終盤に向けて新スレスタートになります。前スレからお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございます。完結までもうしばらくお付き合いいただければ幸いです。
ただ実は、某浮かれポンチ恋愛大怪獣のエミュに難航しており筆が止まってます。テレビ本編の彼女ならエミュれるんだけどなぁ……次の更新は遅くなるかもです申し訳ない。
ちなみに今更ですが、どう頑張っても思考と行動を再現できそうもないので本SSにおいて六花ママの出番はありません。出ても多分一言二言です、悪しからずm(_ _)m - 13二次元好きの匿名さん23/05/28(日) 11:18:20
お疲れ様です
段々とフィナーレが見えてきたところで着地が気になります…!主のお名前に希望を向けて待機です! - 14二次元好きの匿名さん23/05/28(日) 18:30:07
保守
- 15二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 00:09:30
保守
- 16ハピエン至上主義23/05/29(月) 04:56:23
夢を見た。
学園祭が終わって、後夜祭で私は友達とステージを眺めている。突然、遠慮がちに肩を叩かれた。振り返ると赤髪の少年にちょっと付き合ってほしいと誘われて、私は彼についていく。途中で他愛のない話をしながら、やがて誰もいないホールに辿り着く。
二人だけの空間で少年は意を決して私への想いを口にして。私もまた、拗ねたような文句を言いながら嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になって、そして──
「…………ん」
店の方からママの声が聞こえた気がして目を開ける。時計を見る限り20分くらい寝落ちていたらしい。
……どこか凄く現実感がある夢だった。きっと、歯車が噛み合ったらそういう展開もあったんだろうって思えるくらい。ひょっとしたら、グリッドマンが生み出した宇宙の中にそういう世界もあったのかもしれない。
「……あれ?響くん!?」
ふとソファを見たら、そこに寝ているはずの響くんの姿がなかった。代わりにさっきまで響くんにかけていたタオルケットが綺麗に畳まれている。私が寝落ちている間に、入れ替わりに起きて帰ったのだろう。
皆の言う通り本当に眠っていただけだったことに安心しつつも、自分の目と耳で確認したかった半分、恋愛相談でのやり取りを思い出せば会わなくて良かった半分で複雑な気持ちになる。
「……あったかい」
立ち上がってなんとなくタオルケットに手を触れてみる。多分本当に少し前まで使われていたであろうそれにはまだ、響くんの温もりが残っていた。 ◇◇◇
「なあ内海。あのまま裕太を一人で帰してよかったのか?」
「……良かったのかって、なんでっすか?」
「なんでってそりゃお前……」
「いや、レックスさんの言いたいことは分かりますよ。でもなんていうか……これに関しちゃ俺にできることはないっていうか」
「……まあ、そうだな」
六花が部屋に戻ってからしばらくして、裕太が目覚めた。戦いの直後に気を失ったせいで色々と慌てていたが、先に共有していた内容を伝え終わる頃にはすっかり落ち着いていた。
『俺の心が生み出した怪獣……全然実感わかないけど、だとしたら尚更、俺がなんとかしないといけないよね』
なんてやる気すら見せていたくらいだ。ちなみに裕太の心から生まれたとは伝えているが、それが六花への恋心であることに裕太は気づいていない。俺達自身、それを伝えることを避けたのもあるが。 - 17ハピエン至上主義23/05/29(月) 05:03:31
「レックスさん。2代目さんの話だとゲートがちゃんと直るのはいつになるか分からないけど、ゲートが直らない限りはあの怪獣も戻って来れないって話でしたよね」
「あんま楽観的にはなれねえけどな。それでも多少の時間はあると思うぞ」
「その間に思いつけばいいっすよね。怪獣対策と、あと……」
その続きは言えなかった。あの巨人怪獣が裕太の恋心であるなら、何かしらの方法で裕太に戻せないか。蓬くんはそう考え、俺も口にはしなかったがそう思っていた。けど自分たち以上に怪獣と戦ってきた2代目さんは無理と断じ、レックスさんもこれ以上の被害を増やさないためにも怪獣を倒すことを優先している。だからここで何か言うのは良くないと思い直したのだが、
「そうだな。付き合いはそんな長くねえけど、あの二人を拗れたままにしとくのは気分が悪いし、次に怪獣が出るまでになんか思いつくといいんだけどな」
「え……レックスさんは怪獣はさっさと倒す派なんじゃ」
「そりゃ何も思いつかなきゃお前らには悪いけどさっさと倒す。それは変わんねえけどな。
けどこうなったそもそもの原因は怪獣にあって、あの二人はそれに巻き込まれたクチだろ。ならギリギリまで何とかしてやりたいとは思うさ」
「レックスさん……」
どこか遠い目をしつつもそう言ってくれるレックスさんに俺は嬉しくなる。見た目こそガラの悪いそっち系の人に見えるが、この人はとても情が深く面倒見の良い人だったことを忘れていた。
「やっぱり素直じゃないっすよね隊長」
「ガウマさんらしいけどね」
「るっせえぞお前ら。ほら、今回はここに厄介になるんだからお前らもちゃんと働けよ」
さっき六花のママさんに宿泊許可をもらったからか、ガウマ隊の皆が改めて店の奥に入っていく。その後ろ姿を見て俺は、
「ありがとうございますレックスさん!俺に何ができるかは分かんないけど、あの二人のために何ができるか考えてみます!」
「……おう、頑張れよ内海!」
戦いにせよあの二人の関係にせよ、俺は傍にいて見守ることしかできない。それでもあの二人のために、自分にできることをやろう。馬鹿にされるかもしれないが、ウルトラ知識の中に何か役立つものもあるかもしれない。俺は改めて決意して、六花の店を後にした。 - 18ハピエン至上主義23/05/29(月) 05:05:36
◇◇◇
「……なるほど。何かおかしいと思ってたけどそんなことになってたんだ」
どこか遠くの世界の別の宇宙。一人の少女がパソコンの画面を見つめている。
ただの気まぐれ、昔好きだった本が読みたくなったから、久々に棚から取り出した……そんな気分で、自分がかつて神として君臨していた世界を覗き込み、今世界はどうなっているのかを、友人達は元気にしているのかを確認。
……その結果、予想と違う展開に少し頭を痛めている。
「私のせいなのもあるけど、厄介ごと多すぎだよねあの世界……」
今回もあの世界は、というより大切な友人に問題が起きてしまっている。単なるすれ違いであれば出る幕ではないけど、今回も例によっての怪獣案件。介入する理由はある。が、
「流石に今回は難しいかな……?」
今回自分が出張ってしまうと、明確に約束を破ってしまうことになる。何せ問題の中心にいるのは自分の友人。前回のように姿を見せず、話もしなければいい……という立ち回りは少々難しいかもしれない。
「……でもやりようはあるかな。差し当たっては『彼』の力を借りるのが良いよね」
幸いにも、今あの世界にはこの事態の解決のカギになりうる適任者がいる。多分きちんと話せば協力してくれるだろうし、彼の力を借りれば何とかなるかも知れない。そのためにも、もう一人に力を借りる必要があるのだけど、
「さて、それじゃあ行こうかな。
──待っててね、六花」
画面を前に少女の瞳に光が灯り始める。約束は守る、でもその上で大切な友人を助けたい。
その想いと共に、新庄アカネはツツジ台へと飛び込んでいった。 - 19二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 06:33:57
新条アカネ、動きます
- 20二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 10:19:21
ほっしゅ
- 21二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 17:36:27
保守
- 22二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 23:44:20
保守
- 23ハピエン至上主義23/05/30(火) 05:07:16
◇◇◇
「……あれ?」
気がつくと、どこか知らない部屋に立っていた。家具も荷物も全くない、まるで引越しに際して全ての荷物を片付けた後のようなすっきりとした部屋。電灯もついていないが、窓からは眩しい金色の光が差し込んでいるお陰で全く暗くはない。
「おかしいな……昨日は六花さんの家に泊めてもらうことになって、皆で夕飯食べて、それでガウマさん達一緒に前に使わせてもらったお兄さんの部屋で眠ったはずなんだけど」
当たり前のことだが室内にいるのは俺だけ。ガウマさんも暦さんも、なんなら夢芽や六花さんにちせちゃんといった女子メンバーもいない。
普通に考えれば夢ということになるのだろうか。それにしては現実感が強いというか、自分も周りも認識できすぎているというか。
「──初めまして、麻中蓬くん」
唐突に後ろから少女の声が聞こえ、慌てて振り返る。薄桃色の髪にシャツとスカートを着こなした少女だ。ニコニコと笑顔を浮かべているが、よく見るとどこか無理をしているような笑顔にも見える。ぎこちないわけではないが、なるべく他人と上手く付き合っていくために作られた処世術としての笑顔。ある意味では自分と同じタイプかもしれない目の前の人物とは間違いなく初対面ではあるのだが……
「……新条、アカネさん?」
「え?私のこと知ってるの?」
「一方的に、ですけど」
以前とある怪獣に取り込まれた皆を連れ戻す際に、幼いナイトさんと向かい合っていた少女だ。あの時羽織っていた黒いパーカーは今はないが、それ以外は素足であることを除けば今と変わらない。なんとなく、この部屋は彼女の部屋なんだろうと分かった。
「裕太達の世界を作った神様で……六花さんの親友で……ナイトさんにとっての大切な人ですよね?あ、そうだ。この前の戦い、助けてくれてありがとうございます」
「そういうのはいいよー、私は皆に借りを返したかっただけだしね。でも『ナイトさん』かぁ……」
「どうかしました?」
「いや、君にとってあの子は『ナイトさん』なんだなって思ったら色々とね。あ、悪い意味じゃないよ?」
気づけば新条さんの笑顔が柔らかくなっているように感じる。多分今の会話で俺に対する印象が悪いものではなくなったのだと信じたい。 - 24ハピエン至上主義23/05/30(火) 05:12:29
「ところで……俺、六花さんの家で寝てたと思うんですけど。ここはどこなんでしょうか……?」
「ここは私の家。現実でいえば六花の家のすぐ隣だよ。
あ、でも安心してね。あくまでこれは君にとっては夢の中。別に夢遊病とか、こっそり私が連れ出したとかじゃないから」
「夢の中……じゃあ目が覚めたら寝る前と同じ場所で目が覚めるんですか?」
「勿論だよ。でもその前に私のお願いを聞いてくれないかな……?」
なんとなく予想していたけど、やはりそういうことらしい。とはいえこのタイミングで彼女が俺にする話なんて……
「ひょっとしたらもう知ってるかも知れないですけど……あの怪獣を倒すお願いとかなら、俺は役に立てないと思います」
「知ってる。あの怪獣は響くんから切り離された心そのものだからね。間接的とは言え、ある意味その原因を後押しした君とアン……ナイトじゃ止められない。
……まあやりようはあるんだけどね」
「なんとかなるんですか!?どうすればいいんですか!?」
「今は無理だよ。それに私のお願いはそこじゃないし」
逸る俺を諭すように新条さんは首を振る。正直その方法とやらをすぐにでも知りたいのだけど、今はとりあえず話の続きを聞くことにする。
「そんな改まったことじゃないんだけど……その時が来たら、君の力を貸して欲しいんだ」
「俺の力?」
「うん。君の……『怪獣を掴む力』を」
ドクン、と胸が早鐘を打つ。わざわざ俺だけを呼び出して力を貸して欲しいという以上、そう言う頼みなのは分かっていた。だけど、
(あれを、もう一度……?)
先の戦いで怪獣を掴んだ時のことを思い出す。まるで広大な宇宙に放り投げられたかのような、自分の存在が認識できなくなり自我もどんどん無くなっていくあの感覚。ただ一つの強い感情が空間を埋め尽くしていて、俺の存在が消え去っていく恐怖。あと1秒でも長くあそこにいたら、間違いなくそれは現実になっていただろう。
「……その様子だと、想像以上に苦しかったんだね」
「そう、ですね……なるべくこの力は使いたくないんですけど、それを抜きにしても二度とあそこには行きたくないです」
「無茶なことを頼んでるのは分かってる。でもこれは私にはできない、君にしかできないことなの。
……私と君とでは、怪獣に対するスタンスが決定的に違うから」 - 25ハピエン至上主義23/05/30(火) 05:16:04
「スタンスが違う?」
「君は怪獣にも心があると考えて、それに寄り添おうとしている。支配して操るのではなく、その心に触れて、自己と同一化させることで操作する。
多分、今までに君が出会ってきた怪獣の多くがそういう心を持った怪獣だったんじゃないかな」
どうなんだろう。確かにそういう怪獣には多く出会ってきたかもしれない。俺がこの力に目覚めるキッカケになった怪獣、ちせちゃんの友達ゴルドバーン、そして自らに怪獣を埋め込んでいたシズムくん……
「正直その考え方は私には真似できないしするつもりもないんだけどね。でもそういう考え方もアリなんだって、今は思う。
……そしてあの怪獣には、そんな君の力だからこそ意味があるの」
「俺の、力……」
右手を見つめながら、俺は考えを巡らせる。怪獣に対するスタンスとかそういうのはよく分からないけど、多分新条さんはあの怪獣を倒すだけではなくその先を見据えて俺に協力を要請してきたんだろう。
裕太から切り離された心から生まれた怪獣、その結果拗れてしまった友人達の関係。その解決のために、俺にできることがあるのなら…… - 26ハピエン至上主義23/05/30(火) 05:18:06
「──分かりました。やってみます」
考えるまでもなく、答えは決まりきっていた。
「……ありがとう。やっぱり君にお願いして良かった」
「でも俺の力を貸して欲しいって、普通にあの怪獣を掴めばいいんですか?それにその時が来たらって……」
「うん、それはね……」
そうして新条さんは具体的な内容を話し出す。俺がやるべきこと、タイミング、そして──
「……詳しいことは分からないんですけど、ホントにそんなことできるんですか?」
「グリッドマンとあの怪獣の特性を考えればね……多分いけるはず」
「なんかアバウトですね……」
「ゴメンね、私としても初めてのことだから」
「良いですけど……問題はタイミングですね」
「そこは私と彼を信じてもらうしかないね。でも絶対に間に合わせるよ」
……やっぱり不安だ。でもやるべきことは、ハッキリしているし上手くいくように頑張るしかない。と、唐突に世界に白が混じり始め自分の存在が曖昧になっていく。
「え、何ですかコレ!?」
「心配しないで。話が終わったから、これから君を現実に戻すだけだよ。
……改めてありがとう蓬くん。私のお願いを聞いてくれて」
「気にしないでください、あの二人は俺にとっても友達なんで」
俺の返事に新条さんが柔らかく微笑むのが分かる。そのまま世界が真っ白になると共に俺の意識は浮上して──
「……完全に寝過ごしてんじゃん」
目を覚ましたら外は明るく、時計の針は12時をとうに回っている。他所のお宅にもかかわらず、前回以上に完全な寝坊をかましてしまっていた事実に頭を抱えるハメになってしまった。 - 27二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 06:39:46
アカネと蓬の絡みとか俺得過ぎる
- 28二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 07:14:55
最後ちょっと抜けてるところが実にアカネらしい
- 29二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 10:25:33
保守
- 30二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 19:06:29
保守
- 31二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 01:49:20
保守
- 32二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 06:34:45
保守
- 33二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 08:07:20
保守
- 34二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 17:54:53
保守
- 35二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 00:03:45
保守
- 36ハピエン至上主義23/06/01(木) 02:29:47
「あれ、夢芽ちゃんだけ?」
学校から帰ってお店側の入口から家に入ると、カウンターで退屈そうに座っている夢芽ちゃんがいた。一人で店番を任されてるようだけど、全身から不機嫌そうなオーラが出ているあたり、その役目を果たしているとは言えそうにない。
「お帰りなさい六花さん。ガウマさん達とちせちゃんはママさんの買い出しの手伝いに行ってます。……蓬は私をほっぽってどこか行きました」
「え、どうしたのそれ。喧嘩?」
「今回はそういうんじゃないんですけど……いつの間にか『ちょっと裕太に会いに行ってきます』って書置きだけ残していなくなってました。寝坊して姿を見せないと思ったらこれですよ」
やっぱ裕太さんは危ないな……なんてブツブツ呟く声が聞こえるあたり、よっぽど機嫌が悪いんだろう。私としても基本的に夢芽ちゃんと蓬くんはいつもベッタリだったのでちょっと新鮮な感じだ。
「……思い出したらなんか腹立ってきた。六花さん、私とデートしません?」
「急にどうしたの……?」
「いや、蓬が裕太さんと浮気してるんなら、私も六花さんと浮気しようと思って」
「浮気って……男子同士で遊ぶだけじゃないの?」
「いーや浮気です。よく考えてみたらここ最近の蓬、私より裕太さんを気にかけてたし。この前だって私が怒って電話してるのに裕太さんとゲームでオンライン対戦してたし」
「あ、それは確かに嫌かも」
「ですよね!?だから六花さん、デートしましょう。二人で出かけて女子話しましょう」
「うーん、何がだからなのか分からない……それに私達以外いないなら、お店空けるわけにもいかないし」
前々から思っていたことではあるが、ちょっと変わっている子な気がする。実際お店を空けるわけにいかないのも事実だし、私は荷物を置いてエプロンを取り出そうとして、
「あれ、二人だけ?裕太はともかく他の皆は?」
「あ、店番きましたよ六花さん」
「え。いきなりなに?どういうこと?」
実に都合よく──当人にとってはタイミング悪く──内海くんがやってきたことで、私はエプロンをしまい直した。 - 37ハピエン至上主義23/06/01(木) 03:03:01
「内海さんが快く店番代わってくれて良かったですね六花さん」
「急展開すぎて何が何やら……流石に申し訳ない気がする」
内海くんが店に入ったが早いか、捲し立てるように店番を任せて夢芽ちゃんは私を連れ出した。あまりの勢いについ流されてしまったが、後で内海くんには謝っておこう。
「まあいいじゃないですか。とりあえず私、六花さんと二人きりになりたかったんで」
「あ、じゃあ蓬くんが浮気だなんだっていうのは冗談なんだ」
「いえ、それは本音ですね。帰ってきたら裕太さんと二人まとめてじっくり問い詰めようと思います」
「蓬くん大変だなぁ……」
思わず同情してしまうけど、デート云々はともかく夢芽ちゃんが私と二人になりたいというのは嘘じゃないらしい。というかさっきまでお店に二人だけだったのに、敢えて場所を移動するあたり何か他の人に聞かれるのはマズい話でもあるんだろうか。
「いえ、折角だし落ち着ける場所がいいかなって。他の人の邪魔がない方が都合がいいっていうのはありますけど。あーでも、ちせちゃんならいても良かったかな……」
「落ち着ける場所?」
「はい。というわけで、あそこに行きましょう」
「え?あそこって……」
夢芽ちゃんが指差した場所は私も一度だけ登ったことがある。どう考えても落ち着いて話ができる場所とは全く思えないけど、夢芽ちゃんの表情的に間違いではないらしい。
私は少し不思議に思いながらも夢芽ちゃんに着いていく形で、一年前ぶりに水門の上を目指すことにした。 - 38ハピエン至上主義23/06/01(木) 03:16:11
「うわ、やっぱ全然作り変わんないな……何か不思議な気分」
「夢芽ちゃんの世界にもこの水門あるの?」
「そうですね。名前は違いますけど、見た目は一緒です。あ、ここだけじゃなくて六花さんの学校も私と蓬が通ってる学校と作り同じですよ?」
「そうなの?あ、でも確かに初めて会った時も、地元と変わらないのに名前が違うって困ってたよね」
以前レックスさん言ってたけど、私達の世界と夢芽ちゃん達の世界は本当に似ているらしい。というか多分、細かい部分を除けば全く一緒なのかもしれない。
「でもなんで水門なの?まだお店の方が落ち着けると思うけど」
「世界は違いますけど、私にとっては色々思うところのある場所なんです。香乃……お姉ちゃんもよく一人で来てたみたいだし」
「お姉さんって確か……」
「あ、気にしないでください。昔は受け入れられなかったけど、今はホントに大丈夫なんで」
「そうなの?」
「はい、蓬が一緒にいてくれましたから」
夢芽ちゃんは幼い頃にお姉さんを亡くし、最近まで本人曰く「どうかしていた」時期だった。自分から約束を持ちかけてはそれを破るというあまり褒められない行動を繰り返し、学校でも浮いていたという。
だけどガウマ隊の皆と駆け抜けた怪獣との戦いの日々、そして蓬くんと一緒に真相を探す内に、自分なりにお姉さんのことを受け入れることができた。
以前台本作りのために話は聞かせてもらっていたけど、夢芽ちゃんの中では本当に納得できているらしい。キッカケはひどいものだったけど、結果的にはその日々があったからこそ蓬くんとの距離が縮まったことを考えると今はもう嫌な思い出というだけではないのかもしれない。
「最近はもうここに来ることはなかったんですけど……でも二人で真面目な話をしたり、考え事をするにはここが一番だと思って。というわけで六花さん」
「な、なに?」
ズイッと急に夢芽ちゃんが顔を近づけてきて思わず後退ってしまう。その顔はとても真剣そうだったけど、
「──六花さんが抱えてる不満、ここでもう全部吐き出しちゃいましょう」
「……はい?」
真面目な話からの突然の提案に、我ながら間の抜けた声が出てしまった。 - 39ハピエン至上主義23/06/01(木) 03:19:54
保守ありがとうございます、更新遅くてすみません……
話の結末とかは問題ないんですけど、そこに至るまでの繋ぎの部分で詰まったり、主に夢芽さんのキャラエミュが上手くできなくて難航しております。
ただ問題なくこのスレ内で完結までは行きそうなので、長引いて申し訳ないのですが今しばらくお付き合いいただけると嬉しいですm(_ _)m - 40二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 05:55:03
更新お疲れ様です
続きが楽しみでしょうがない - 41二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 08:58:39
保守
- 42二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 18:09:45
保守
- 43二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 22:39:05
保守
- 44ハピエン至上主義23/06/02(金) 04:25:47
「……急にどうしたの夢芽ちゃん?」
「私思うんですけど、六花さんて普段から言いたいこと、結構我慢してるタイプですよね?昨日蓬に言ったことなんて、ずっと溜め込んでたことじゃないですか?」
『……なんで蓬くんはあの時、響くんを送り出しちゃったの?』
『そもそも響くんがグリッドマンにならなければ私は……っ』
「あれは……ごめん。全く思ってなかったといえば嘘になるけど、別に蓬くん達を責めたかったわけじゃなくて」
「いや六花さん、今そういう遠慮はいいんで。ていうか六花さんが溜め込んでる不満てあんなもんじゃないですよね?この際なんで、もう全部ぶちまけちゃいましょう」
「いや、そんな急に言われても……」
確かに夢芽ちゃんの言う通り、私はかなり不満を溜め込んでるのかもしれない。それこそ、
ここ最近はずっと。
だからといってそれを全部今すぐに吐き出せるかといえば難しい。ぶつける相手がいないのもあるし、誰かに当たりたいわけでもないし、そもそも自分の中から出す方法が分からない。昨日みたいに精神的に参っている時に、勢いあまって叫んでしまうことはあるかもしれないけど、今この場では無理だ。
「別に愚痴とかでも良いんですよ。何かあるでしょ、裕太さんのここが嫌とか。裕太さんのこういうところを直してほしいとか」
「え、待って。なんで響くん限定?」
「だって六花さんを今一番苦しめてる問題って裕太さんじゃないですか」
「いや……ええ……?」
確かに響くんに言いたいことがないわけじゃない。直してほしいこと、止めてほしいことだって多少はある。だけど、
『──絶対有り得ないけど、例えばただの友達の俺から告白されたら反応に困るでしょ。ていうか正直迷惑でしょ』
……今の私がそれを言う資格は多分ない。そもそも本人がいないところで言えることでもない気がする。
「……分かりました。じゃあ私の蓬に対する不満を聞いてください」
「いや、なんで!?」
「私が先にお手本を見せれば六花さんも言いやすくなると思うんで。それじゃあいきますね」
「いやちょっと待って夢芽ちゃん?」
「前に舞浜に二人で遊びに行った時なんですけど……」
「夢芽ちゃん!?」
◇◇◇ - 45ハピエン至上主義23/06/02(金) 04:27:14
「ックション!!」
「大丈夫、蓬?昨日無理したみたいだし、ひょっとして風邪引いた?」
くしゃみをする蓬が心配になり声をかける。授業が終わり、家に帰るべきか悩んでいたところで、校門前で待っていた蓬に声をかけられた。なんでも話があるということなので、なんとなく二人で学校に戻りいつもの屋上で駄弁っている。
「……いや、多分夢芽が俺のこと愚痴ってるんだと思う」
「そうなの?え、それって大丈夫?」
「まあいつものことだし。……それより昨日無理してたのはそっちもでしょ。あれから身体は大丈夫なの?」
「うん、全然大丈夫。そんな心配されるほどじゃないっていうか」
「そっか。戦いの後で急に倒れて、六花さん凄い心配してたからさ。それなら安心した」
「六花かぁ……」
六花の名前が出て、少しだけ気が重くなる。昨日は色々ありすぎたけど、一晩休んで落ち着いたことで、怪獣が出る前に六花と気まずい状態になったのを思い出してしまった。クラスが違うこともあって今日はまだ会ってないし、そのせいか六花の店に寄ることも悩んでいた状態だ。
「なんかあったの?確かに昨日の六花さん、少し暗かったけど」
「なんていうかその……実は昨日、六花と内海に恋愛相談をしてですね……」
「……マジで?」
別に隠すことでもなし、元々蓬に相談しようとしていた内容だったこともあり、俺は昨日のことを蓬に話してみた。蓬は真面目に聞いてくれていたけど、六花が公園まで走っていった下りまで話し終えると険しい顔を浮かべていた。
「六花さんに、それ言っちゃったかー……」
「やっぱりマズかったよね……」
「マズいっていうか……うん、取り敢えずそれは置いとこう。で、裕太としてはどうしたいの?」
「そりゃ六花に謝るよ、この先気まずくなるの嫌だし。でもどうやって切り出せば良いかなって……」
「いや、そっちじゃなくて後輩さんのこと。告白されたんでしょ?」
「あ、そっちか」
元々昨日からその件について相談していたんだった。六花を怒らせたり、怪獣が出たりであの子のことを考える余裕が全然なかった。どう返事をするにせよ、相手の気持ちに真剣に向き合うべきだと分かっていたのに、これじゃ相手に失礼だ。
そんなことを考えていたからか、俺を見る蓬が少し驚いたような顔をしていたのには気づかなかった。 - 46二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 09:03:24
読むのが辛かった序盤中盤を乗り越えて今の前進している内容は読んでて心地良い
- 47二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 18:18:25
ハッピーエンドへ向けて保守
- 48二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 21:08:37
保守
- 49二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 05:02:47
夢芽ぇ、六花を頼んだぞ!
- 50二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 13:50:15
保守
- 51二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 21:49:11
ほーしゅ
- 52二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 22:07:05
ほひ
- 53二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 06:16:56
保守
- 54ハピエン至上主義23/06/04(日) 07:34:40
「そういえばさ。裕太と六花さんが仲良くなったキッカケってなんだったの?」
「……唐突だね。どうしたの急に?」
「いや、そういえば前は聞かなかったなって思って」
多分俺が六花を怒らせてしまったと聞いたから、蓬なりに考えをまとめたいんだろう。別に隠すことでもないし、最初の記憶を思い出そうとしてみる。
「うーん、仲良くなったキッカケ……去年は同じクラスだったけど、ちゃんと話すようになったのはグリッドマンが俺に宿ってからだからなぁ……」
「そういえば、その頃の記憶ないんだっけ?」
「一応今は知ってるよ、グリッドマンを助けた時に流れ込んできたから。だけど俺自身が六花と仲良くなったのは、あの戦いの後からなわけで……」
『……もし記憶喪失のふりだったら、最悪だからね』
「けどそういえば、グリッドマンが宿る前に何か大切な話を六花にしたような……」
……いや、そもそも。俺が宝多六花という女の子の存在を意識するキッカケになった出来事があった気がする。
「確か二人で話す機会があって……そうだ、去年の球技大会。空き時間にたまたま教室で二人きりになって……六花が休んだ友達にハチマキを届けるって……カーテンと一緒に六花の髪が風で靡いて──」
そこまで思い出したところで、いつものように頭に靄がかかり始める。思考が白く染まり、何か新しく生まれた大切なものが、自分の中から抜け落ちて──
「裕太!」
肩に衝撃を受けて、意識が戻ってくる。気がつけば蓬が真剣な表情で俺の肩を掴んでいたようだ。
「こういうことか……新条さんが俺に協力求めてきた理由が分かった気がする」
「……蓬?あれ。俺、今……」
「大丈夫?今何を考えてたかとか覚えてる?」
「う、うん。俺と六花の最初の接点だよね……ちゃんと覚えてる」
そうだ。自分にとって、六花と一番最初にした会話は去年の夏前に行われた球技大会だった。本当に偶々、交わした言葉もそう多くはなかったけど、それでも多分お互いを明確に認識したのはあの日が最初の筈だ。 - 55ハピエン至上主義23/06/04(日) 07:37:33
「おかしいな……別に忘れてたわけじゃないのに、何で今まで思い浮かばなかったんだろ?」
それにさっきの、最近よく自分に起こる妙な感覚。よくよく思い返してみれば、前にあれが起きた時も六花のことを考えていたような気がする。
「もしかして、俺の中から六花に関係する記憶とか思い出が無くなってる……?」
一度違和感に気づいてしまえばその結論に辿り着くのは難しくなかった。良くも悪くも不思議なことには縁があるし、なにより昨日出た怪獣は自分から切り離された心から生まれたと説明されたばかりだ。
「でもなんで六花だけ?内海のこともグリッドマンのことも、蓬達のことだって普通に思い出せるのに」
「俺達にも分からないけど、多分それは裕太にとって特に大切なものだからなんじゃないかって」
「俺にとって?……どういうこと?」
「いや……俺の口からはちょっと……」
「えー、何それ……」
自分に起きている異変が分かって、割と深刻な事態なのかもしれないけど、イマイチそんな感じがせず、冗談めいた軽口を叩いてしまう。だけどそれはそれとして、
「蓬、今俺に何が起きてるのかはよく分かんないんだけど……でも俺、六花との思い出が無くなったり、六花に嫌われたりするのは嫌みたいだ」
蓬のお陰でいつもと違い、自分の中から何か大切なものが完全に抜け切る前に戻って来れたからだろう。それが何なのかは分からないけど、自分にとって失いたくない何よりも大切な物だったということだけは分かる。それが大切な友達に関係しているなら尚更だ。
「何となくだけど、あの怪獣を倒せば今の状態は何とかなりそうな気がする。だから次は絶対勝つよ」
「……そっか。俺も俺なりに出来ることを手伝うよ。ダイナゼノンには乗れそうにないけど」
「ありがとう。それじゃあその……」
「うん?」
「……どうやって六花に謝ればいいかな?」
差し当たって昨日から続く問題を解決しないといけない。多分これに関しては経験豊富であろう蓬に、俺は改めて相談することにした。 - 56ハピエン至上主義23/06/04(日) 07:43:40
◇◇◇
「……というわけで、この前だって私に黙って他の女子と遊びに行くし。私だってそこまで蓬を縛りたいわけじゃないですけど、前以て私に言ってって約束してたことなんですよ?酷くないですか!?」
「あー、うん。確かに酷いと思うなー……」
あれから数十分。元々は私が愚痴を言いやすくなるお手本との名目だった筈だけど、ヒートアップしたのか夢芽ちゃんの蓬くんへの不満は未だに続いていた。
「……意外」
「?何がですか」
「いつもあんなに仲良いのに、そんなに蓬くんに対して不満あったんだね夢芽ちゃん」
「え。前にも聞いてもらったことありますよね?」
「うん、台本作り手伝ってもらった時とかも聞いてたけど……」
確かにあの時も、夢芽ちゃんは途中から愚痴を言い始めてたし本人も不満はあったんだと思うけど。だけどあの時のそれは、聞かせられた私やちせちゃんからすれば惚気みたいなもので、あまり不満って感じはしなかった。だから今回の、ともすれば蓬くん本人に聞かれたら大分拗れそうなガチなやつはかなり意外だった。
「そんなに不満あるなら蓬くんにちゃんと言った方がいいんじゃない?」
「勿論言ってますよ。それでも直してくれないことの方が多いですけど」
「そうなんだ……じゃあ喧嘩になったりとかするんじゃ」
「しょっちゅうですね。真面目に話聞いてくれない時とかあるし」
「しょっちゅうなんだ……」
何となく二人が喧嘩している姿を想像してみる。夢芽ちゃんが怒って蓬くんがなだめるような感じだろうか。割と激しいところがある夢芽ちゃんだけに一度喧嘩になればかなり後まで尾を引きそうだけど、その辺り蓬くんが上手くやっているのかもしれない。それでもしょっちゅう喧嘩をするとなると結構大事な気もするけど、未だに二人の関係が続いていることを考えると心配することでもないのだろう。 - 57ハピエン至上主義23/06/04(日) 07:49:08
……私ならどうだろう。仮に響くんと喧嘩になったとしたら。
「……やっぱ無理だなぁ」
「六花さん?」
多分私は他人とぶつかるのが根本的に怖いんだと思う。不満や不安をぶつけることで嫌われるのが怖いし、相手のことを嫌いになることも怖い。だから、本当に拗れそうになったら思わずその場から逃げ出してしまう。
一年前、アカネへの対応を巡って内海くんと険悪になった時もそうだった。ただの友人相手でさえそうなのに、より近しい相手、大事な相手ならどうなるのか。
「私って結構ガキだし、口に出したら全部出ちゃうと思う。そうなったら絶対、今までと同じではいられないと思うんだよね……」
私の中で響くんへの不満は確かにある。直してほしい欠点もある。だけど不満の殆どは響くん本人には非がないし、欠点は長所の裏返しでもある。その良さを無くしてほしいとまでは思わないし、そもそも相手の嫌なところを挙げられるほど、私自身は完璧じゃない。だから、
「──喧嘩して、お互いに嫌なことをぶつけ合って、それが原因で仲が拗れて……響くんに嫌われたり、響くんのことを嫌いになりたくない」
響くんからの好意が無くなってるからとかそんなのは関係なくて。どんな理由であれ、響くんに嫌われたくないし嫌いたくない。そうなるくらいなら自分の中で仕舞い込んで折り合いをつけた方がずっと良い。
「六花さんは好きな相手と嫌い合うのが嫌なんですね……
──でも私と蓬は普通に喧嘩して別れたりしてますよ?」
「えっ!?」
「何なら最初に話した舞浜デートの帰りで一回別れてます。まあ。なんだかんだすぐに付き合い直しましたけど。
喧嘩した直後なんかは蓬のこと普通に嫌いですし、蓬の方もそうなんじゃないかな」
何でもないことのようにあっさりと衝撃発言を言ってのける夢芽ちゃんに絶句してしまう。普段の二人からはそんな様子は微塵も見られなかっただけに一度喧嘩して別れていたというのはかなりの衝撃だった。
「え、それって大丈夫、なの……?」
「まあ、あの時は結構危なかったかもです。あのまま何もなかったら多分別れたままだったと思うし。
遠慮して喧嘩しなくなったら逆にダメなんだって分かったんで。だから喧嘩になっても、これからもお互いに嫌なところは嫌だって言っていきます」
最終的に蓬は絶対私の所に戻ってくるんで、なんて笑いながら夢芽ちゃんは言ってのける。 - 58ハピエン至上主義23/06/04(日) 07:52:44
「六花さんも私たちを見習って……なんて事は言いませんけど。でも裕太さんに言いたいことがあるなら我慢せずに言った方がいいんじゃないですか」
「いや、それとこれとは……」
「というか文句の一つや二つ言ったところで裕太さんは六花さんのこと嫌いになりませんよ。六花さんだって本当は分かってるんでしょ」
「それは……前までの響くんならそうかもしれないけど」
「今の裕太さんも変わりませんよ。だって昨日公園で久々に見た裕太さん、前会った時と全然変わってなかったし」
「でも……」
夢芽ちゃんはそう言ってくれるけど、私はそんなに自分に自信が持てない。なにせこの一年、自分の気持ちも響くんの気持ちも信じられなかったのだ。それに今の響くんは以前とは違う。私を見つめるあの目を思い出すと、どうしても……
「──あ、裕太さん。今どこですか?……学校?蓬も一緒……ああ、そのことは後できっちり問い詰めるんで……ええ、取り敢えず昨日の公園に来てもらっていいですか?ちょっと物申したいことがあるんで」
「って何やってんの夢芽ちゃん!?」
「あ、はい。そうです……六花さんもいますよ?これから一緒に行きますんで……分かりました。なら丁度いいんで、取り敢えず首洗って待っててください。じゃ……
さて。じゃあ行きましょう六花さん」
「さてじゃないよ!?え、何したの夢芽ちゃん!?」
「思った以上に六花さんがめんど……可愛い性格してるので、もう私立ち会いの元で喧嘩させるしかないかなって」
「今めんどくさいって言わなかった?」
「言ってないです。そんなことより行きますよ六花さん」
「いや、そんな勝手に……」
「裕太さんも六花さんに言いたいことあるみたいなんで、取り敢えず行きましょう。大丈夫です、私は味方なんで」
「え、なんか嫌な想像しかできないんだけど……!?」
急展開に急展開が続いてもう何が何だか分からない私をよそに、夢芽ちゃんに手を引かれて水門から降りていく。少し楽しそうな夢芽ちゃんとは逆に私は不安でいっぱいになりながら公園まで向かうことになってしまった── - 59二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 08:33:16
なるほど。ここでアクセプターは鳴らない要素を取り入れるってことですね。
- 60二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 10:55:03
- 61二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 18:26:57
保守
- 62二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 22:36:34
まぁ六花さんにはこういうズバズバものを言う子が必要だよ
- 63二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 23:00:12
このレスは削除されています
- 64二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 00:03:09
完結したらpixivに置いて欲しいですね
- 65ハピエン至上主義23/06/05(月) 01:49:54
「内海さんさっきから何見てんすか?」
「宇宙船ていう特撮雑誌。俺こういうの好きなんだよ」
帰ってきたガウマに店番を代わってもらい、いつもの定位置で雑誌を開いている内海を、ちせが覗き込んでくる。六花やはっす相手ならともかく、女子に特撮趣味を見られることには未だに気恥ずかしさを覚えてしまう内海だが、ちせ相手だとあまり気にならないらしい。
「ウルトラシリーズってやつっすね、私も偶に見てましたよ。『ご唱和ください我の名を!』ってやつっすよね?」
「……え、何それ知らない。そっちの世界のウルトラシリーズってそんななの?」
「え?こっちの世界ではZやってないんすか?」
「知らない知らない!今やってるのタイガだし」
「タイガ?……いや知らんわ。先輩、ウルトラシリーズのタイガって知ってます?」
「あれじゃない?去年やってたシリーズ」
「去年!?え、待ってそっちの世界って今何年ですか!?」
「2021年だけど。……そういやこの店のカレンダー、2019年になってるね」
「マジで?俺たちの世界まだ2019年なんですけど……!?」
「次元の壁を越えれば時間の流れも変わるってのは割と珍しくないらしいぞ。ナイトなんてしょっちゅうらしいし」
動揺する内海に対して、ガウマは何でもないことのように説明する。ちせと暦もそうなんだー、なんて軽く受け止めているが、内海からすればそれどころではない。
「じゃ、じゃあちせちゃん達の世界だとこっちの世界よりウルトラシリーズの新作が多く出てて、しかも俺より先に見られるのか……マジか……」
「ホントだ。こっちじゃZやってませんね……あれ?この敵役Zに出てたな」
「え、待ってマジで待って。めちゃくちゃ気になるけど俺が知っちゃいけない話出てないそれ!?」
興味を持ったのか、ちせはスマホでウルトラシリーズを調べ始めたらしい。自分たちがいる世界とこの世界でのテレビ番組が同じようになるのかは定かではないが、内海の心の安定のため暦は話題を変えることにする。
「そういえばガウマさん。昨日の話だとあの怪獣って裕太くんの恋心って話でしたよね」
「ああ、そうな」
「裕太さんから六花さんへの恋心って話でしたよね」
「親友の恋愛事情掘り下げられるの結構キツいな……」
「ひょっとしてなんですけど……
──六花さんがあの怪獣を振ったりしたら、倒せるようになったりしませんかね?」 - 66ハピエン至上主義23/06/05(月) 04:39:05
「暦さん……」
「……先輩、流石にそれはないでしょ」
「……やっぱそうだよね。いや、ナイトさんが去り際に六花さんに言ったこと考えると、そういうことなのかなって」
「いくらなんでもそれは流石に……」
「いや、有り得るかもしれねえ」
暦の突拍子のない思いつきに内海とちせは引いてしまったが、ガウマは何か思うところがあったらしい。
「ナイトはああいう奴だが、意味のないことは言わねえからな。六花がカギだってんなら何かしらあるんだろ」
「それと振る振らないって何か関係あります?」
「普通はねえけど、今回は相手が相手だからなぁ……」
「……でも真面目な話、六花はそういうことしないと思いますよ。色々面倒なことになってるだけで、六花は別に裕太のこと嫌ってる訳じゃないし。『怪獣倒したいからそういうフリだけしてくれ』なんて頼まれてもやる奴じゃないし」
至極当たり前のことではあるが、六花が相手を振る理由がない。あの怪獣が裕太の一部だというなら尚更。
「……正直、俺としては別のこと気になってんすけど。2代目さんの話だとあの怪獣って、前戦ったラスボス怪獣の残滓が裕太の恋心を利用して怪獣になったって話でしたよね?」
「そう言ってたな。それがどうかしたか?」
「別にそのこと自体は疑ってないんですけど……だとしたらあの怪獣って『どっち』寄りなんすかね」
「どっち寄り……裕太さんの恋心と怪獣の執念。どっちが主になってるかってことっすか?」
ちせの言葉に頷く。ナイト達はそれまでの戦闘から、あの怪獣の性質ははマッドオリジン寄りだと考えていたようだが、昨日の戦いと最近の裕太の様子から内海達は自然と裕太寄りの性質なのではないかと考え始めている。先の暦の意見もそれが根底にあるからだろう。だとすれば、
「あの怪獣、途中まで何かを探してるような動きしてたじゃないですか。もしあれが本当に裕太の恋心がベースだとしたら……ひょっとしたら俺達、何か大きな見落とししてるんじゃないですかね?」 - 67ハピエン至上主義23/06/05(月) 04:40:35
ここまで長引いて申し訳ありません、ようやく最終盤まで来れたので何事もなければ今週中に完結できる予定ですm(_ _)m
- 68二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 04:49:01
更新お疲れ様です
このまま最後まで頑張ってください - 69二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 07:42:11
保守
- 70二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 15:23:28
保守
- 71二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 23:28:22
応援してます保守
- 72ハピエン至上主義23/06/06(火) 05:12:40
「来たよ裕太」
お馴染みとなった公園に入ると、既に二人は先に着いていた。心なしか蓬くんから緊張しているような雰囲気を感じるのは、私の後ろで不機嫌そうな夢芽ちゃんに当てられたからだろうか。
響くんの方は……よく分からない。昨日倒れた時は不安と心配が勝って響くんの顔を普通に見ることができたけど、いざこうして対面してみると気まずさもあってか顔が見れなかった。
「お待たせしました裕太さん。電話で話した通り立花さんから言いたいことがあるそうなので、聞いてもらいます」
「いきなり!?」
「こういうのはさっさと始めちゃうのが一番なんです。というわけで六花さん、言っちゃってください」
「えぇ……そう言われても……」
響くんに対して言いたいことを言う、夢芽ちゃんにはそういう名目で連れて来られた訳だけど。やっぱりというべきか、いざ響くん本人を前にしても私の中から言葉は出て来ない。上手く感情を言葉に出来ないというのもあるけど、響くんの反応を想像するのが怖い。それでも夢芽ちゃんに気を遣わせてしまった手前、何か言わなければと口を開く。
「響くん……その、私……」
「ごめん六花っ!!」
私が何かを言う前に、それまで静かだった響くんが勢いよく頭を下げる。あまりの勢いに驚いて、私は自分が何を言おうとしていたのかも忘れてしまった。
「ひ、響くん?」
「俺多分、昨日六花を傷つけた……そんなつもりは全然なかったけどごめん。俺の相談に乗ってくれたのに、嫌な気持ちにさせて本当にごめん!!」
「えっ、ちょっと待って。頭上げてよ響くん」
「嫌な気持ちにさせたと思うし、怒られても仕方ないことを言ったんだと思う。本当にごめん六花!!」
「いいから!そういうのいいから頭上げてよ響くん!」
流石にいたたまれなくなって響くんに声をかけるけど、一向に頭を上げようとはしてくれない。想像と違う展開に混乱してしまうけど、別に謝ってほしいわけじゃない。今の響くんが以前と違うのは分かっているしそもそも、
「別になんでもないから。ていうか響くんも何がいけなかったのかとか分かってないでしょ。そんなんで謝られてもむしろ困るっていうか……」
「確かに正直なところ俺の言葉の何が六花を傷つけたのかとかはいまいち分かってないかもしれないけど……
──でも俺、六花と気まずい関係のままでいたくない。六花に嫌われたままなのは嫌なんだ」 - 73ハピエン至上主義23/06/06(火) 06:40:46
その言葉に私は思わず固まってしまう。今の響くんは以前とは違う。以前まで感じていた私への好意もないし、今の言葉の真意も友達と気まずい関係になりたくないと言う以上の意味はないだろう。だけど、
「……ねえ響くん、頭上げて」
改めて声をかけると、ようやく響くんは顔を上げて私を見つめる。ガラス玉のような青い瞳が私の姿を映す。
(……あれ?)
今日初めて見た響くんの顔。何故かは分からないけど、昨日までとは雰囲気が違うのを感じる。響くんからの好意──自分で言って恥ずかしくなるけど──を感じないのは変わらないけど、その瞳にちゃんと私が『映っている』。響くんが私のことをちゃんと見ている……それだけで、ほんの少しだけ心がけて軽くなるのを感じた。
「……気にしてないっていえば嘘になるけど、別に怒ってないよ。あれはあくまで例えだって分かってるし。
むしろ私の方こそごめん。相談受けてたのに途中でいなくなっちゃって……」
「六花は何も悪くないよ。六花に嫌な思いさせた俺が悪いんだから」
「ううん、そもそも私が空気を悪くしなかったら響くんもあんな風な言い方しなかったでしょ。やっぱり私が悪い」
「六花は俺の相談に真剣に乗ってくれてただけじゃん。それを言ったらそもそも相談持ちかけた俺が悪いよ」
「いや私が……っ」
「俺が……っ」
お互いに非を認めてしまってるせいで、自分の方が悪いと譲らない。お互いに語気が強くなっていき、もう少しで本格的な喧嘩になるかなぁなんて思い始めたところで、
「……」
「……ハハッ」
顔を見合わせてついつい笑ってしまう。なんだろう。響くんとこんな風に言い合うのは初めての経験の筈なのに、久々に響くんとちゃんと話せた感じがする。 - 74ハピエン至上主義23/06/06(火) 06:50:04
「……響くんてやっぱり頑固なところあるよね」
「それは六花の方でしょ。悪いのは俺の方なんだから怒ってくれてもいいのに、ちょっと我慢しすぎだと思う」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
笑いながらついつい憎まれ口を叩き合ってしまう。そんなやり取りもなんか新鮮で楽しい。
「……じゃあ、どっちも悪かったってことでこの話はお終い。それでいいよね?」
「分かった、それでいいよ。
……それはそうと、六花が言いたいことってなんだったの?」
「さあ?なんかどうでも良くなっちゃった」
勿論私の中の悩みや不安が無くなったわけじゃないし、響くんとの関係も変わってない。夢芽ちゃんの狙いともズレてしまってるし、私が抱え込んでいる感情は結局言葉には出来てない。だけど多分、今はまだこれでいい。
久しぶりにちゃんと響くんと向き合って話せた、それだけでほんの少し、私の心は晴れた気がした。 - 75二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 10:11:37
お疲れ様です
- 76二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 13:11:34
良かった、本当に良かった
- 77二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 20:12:08
保守
- 78二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 04:32:51
保守
- 79二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 12:52:51
- 80二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 16:01:34
保守
- 81二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 00:22:36
保守保守
- 82二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 00:22:55
保守
- 83ハピエン至上主義23/06/08(木) 05:09:41
「……なんかあっさり仲直りしてるんだけど」
「俺達がそこまで気を使う必要なかったのかもね」
二人の様子を見守っていた蓬達は拍子抜けと言った様子だが、どちらも笑顔を浮かべていた。特に蓬に関しては、先日の六花の言葉を受け、裕太が今の状態になったことに対して責任のようなものも感じていたため、なんだかんだ丸く収まったことに安堵している。
「ありがとね夢芽ちゃん。それに蓬くんも……昨日はごめん。私ひどいこと言っちゃって……」
「気にしてないですよ。六花さんの立場なら仕方ないと思うし」
「私は昨日みたいに六花さんに言いたいこと全部言ってもらいたかったんで、ちょっと物足りないですけど」
「まあ、丸く収まったんだからいいじゃない。裕太も大丈夫?今は変な風になってない?」
「うん、大丈夫。ありがとう蓬」
「良かった、じゃあ皆で店まで戻ろうか。きっと他の皆も集まってるだろうし」
「は?何言ってるの蓬。まだ私の話が残ってるんですけど」
「……マジか」
「蓬も大変だね……」
「何を他人事みたいな顔してるんですか。裕太さんにも聞きたいことが山程あるんですけど?」
「なんで!?」
六花の話がひと段落したことで、今度は夢芽が蓬達を問い詰める番になったらしい。自分を放って二人でいたのが不満なのか、はたまたそれ以外の理由か。怒りの矛先が裕太にも及ぶらしいことに苦笑しつつ、一応夢芽の暴走を抑えようと六花は意識する。
……この場の全員の気が緩んでいたからだろうか。まるでそれを待っていたかのようなタイミングで大地が揺れ始める。同時に空間がひび割れ、そこから手が飛び出し……
「あれって!?」
「昨日の怪獣……グリッドマンもどきだ!」
アンチと共に異次元へと消えたはずの、巨人怪獣があまりにも早すぎる帰還を果たした。 - 84ハピエン至上主義23/06/08(木) 05:17:19
「アクセプターも鳴ってる……グリッドマン達も気づいてるんだ」
アクセプターから鳴り響くGコールを受けて、4人に緊張が走る。あまりにも早すぎる帰還のため明確な対策はまだ練れていないが、こうなった以上は戦うしかない。一刻も早く準備すべく裕太達は店に向かって走り始める。
「ガウマさんとも連絡取れた!裕太と夢芽が到着次第出るって!」
「2代目さんは!?」
「そっちも連絡できてる!でもゲートの修復があるから戦闘には参加できないって!」
走りながらも蓬は手早く連絡を済ませていたらしい。グリッドマンとガウマは既に準備万端らしく、後は自分達の到着次第だ。
六花は走りながらも一瞬、怪獣に視線を向ける。相変わらず大人しいというか、前回の登場時と同様、積極的に暴れ出そうとはしないらしい。
いや六花が怪獣の姿に既視感を覚えるまでの前半戦、怪獣は暴れこそしなかったが、それとは別に何かを探すような動きをしていた。だが今回はそれがなく、どこか一点を見つめている。いや、一点というより……
「私を、見てる……?」
六花がそう呟いた瞬間、怪獣の目が妖しく光りだし、その視線が文字通り六花を貫く。
「「六花(さん)!?」」
直後、六花の体が白く輝き出す。それはまるで、裕太がアクセスフラッシュする際の光景のようで──
「六花!!」
慌てて裕太は手を伸ばすが、時既に遅く六花の体は完全に光に変わり……
「響く……」
「六花ああああああっっ!!」
まるでジャンクに飲み込まれる裕太のように、六花の体はグリッドマンを模した怪獣へと飲み込まれていった。 - 85ハピエン至上主義23/06/08(木) 05:20:49
前回何かいい感じのところで終わってた気がしなくもないかもですが、すみません。もうちょっと続きます。でもまあ映画の尺で言えばマッドオリジン戦入ったところなので、ほんとにもうすぐです
- 86二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 05:28:13
一難去ってまた一難
まさかここで六花さんが囚われのヒロインポジに - 87二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 11:43:39
期待
- 88二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 14:58:29
保守
- 89二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 21:10:21
保守
- 90二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 22:13:42
保守
- 91ハピエン至上主義23/06/09(金) 05:03:03
「六花が怪獣に…….助けないと!!」
「待ってよ裕太!今の俺たちには何もできないだろ!」
「でも!」
「落ち着いて、俺達は似たような怪獣と戦ったことがある。その時は怪獣を倒せば取り込まれた人や物は無事に戻ってきたんだ。だから!」
六花が取り込まれたことで焦る裕太とは逆に、声こそ荒げつつも蓬はかつての経験──ガルニクスとの戦い──を参考に裕太を落ち着かせようとする。実際今の状態の裕太では怪獣相手には何もできない。裕太もそれは理解したのか、歯噛みしつつも頷く。
「……分かった。早くジャンクに向かおう、早く六花を助けないと……っ!?」
「裕太!?」
意識を切り替えた直後、裕太が突如胸を抑えてよろめき出す。慌てて蓬が肩を貸すが、その苦しみようは尋常ではない。
「この感じ……やっぱり裕太から怪獣の気配がする……!?」
先日の再会、そしてついさっき学校の屋上でも一瞬感じた怪獣の気配。だが今回の気配の強さはそれらの比ではない。
「蓬、裕太さんは!?」
「分からないけど……かなりヤバそう」
裕太に何が起きているのかは分からないが、このままだとマズいことだけは何となく理解する。
睨みつけるように怪獣を見上げると先日戦った時より、いや先程よりも存在が大きく、ハッキリしているように感じる。六花を取り込んだから?いや、その変化は今も続いているようにも見える。つまり……
「今も裕太から情動を奪ってるのか!?」
あの怪獣は裕太の六花に対する恋心から生まれ、裕太と繋がっていることは考察していた。そして怪獣は人間の情動を糧に強く成長する。六花を取り込んだことで、今まで以上に裕太の情動を奪い始めているのだとすれば…… - 92ハピエン至上主義23/06/09(金) 05:06:35
<────!>
「こっち見てる!?」
ここまで止まっていた怪獣が遂に動き始め、その視線が蓬達に向けられる。恐らく今度は裕太を狙っている。
「夢芽、急いでジャンクまで戻ろう!」
「分かってるけど、裕太さんがこれじゃ戦うどころじゃないよ!?」
「……俺なら、平気だから……六花を、助けないと……!!」
「こんな時に無理しないでください!」
二人で裕太に肩を貸しつつ急いでジャンクに向かおうとするが、それよりも怪獣の行動の方が圧倒的に早い。巨人怪獣は明確な敵意を持ってその手を蓬達に振り下ろし──
<──させるかぁッ!!>
間一髪、横から飛んできたダイナゼノンの飛び蹴りが怪獣の体を吹き飛ばす。
「ガウマさん!!」
<待たせて悪い!何かヤバそうな感じだったからこっちから迎えに来たぞ!>
虫の知らせか、離れた場所からでも蓬達の危機を察知したらしい。ガウマはちせ達を連れて迎えにきてくれたようだ。
「俺と夢芽は平気です!でも六花さんが怪獣に取り込まれて、それに裕太も……」
<何だと!?……クソ、しゃあねえ!3人とも乗れ!!>
僅かなやり取りで状況を察したガウマが蓬達をダイナゼノンへと乗り込ませる。直後、合体を解除してダイナウイングのコックピット内に3人が移され、
<夢芽、蓬達をジャンクまで送り届けてこい!裕太には悪いが、大将の力が必要だ!>
「……分かりました!ここお願いします!」
幸いにも怪獣はまだ立ち上がっていない。ガウマの声に応え、ジャンクに向けて夢芽はダイナウイングを一気に加速させる。
- 93ハピエン至上主義23/06/09(金) 05:27:56
「蓬、裕太さんお願い。私はガウマさんの所に戻るから」
「分かった……気をつけて!」
すぐに店に到着し、夢芽は二人を下ろしてすぐに戦場に戻っていく。少しすると、再びダイナゼノンへの合体が完了され、怪獣と戦闘を始めましたのを遠目からも把握できた。
「裕太!?大丈夫か、何があったんだ!?」
「内海くん!ごめん手を貸して!」
裕太の様子がおかしいことに気づいた内海が慌てて店から飛び出し、蓬と共に店内まで肩を貸して歩かせる。怪獣からは少し距離が離れはしたものの、やはり裕太の苦しみようは変わらない。その様子に、ジャンクの画面に現れたグリッドマンも心配そうだった。
<裕太、大丈夫なのか……!?>
「大丈夫……だから行こうグリッドマン。六花を助けなきゃ……!」
「何言ってんだ裕太!そんな状態で戦えるわけないだろ!?」
「大丈夫だって……!俺がいないと、グリッドマンが戦えない。グリッドマンがいないと、あの怪獣を倒せない……!」
「だからって!」
「六花を助けるんだ……!俺が行かなきゃ……俺が助けなきゃ……!」
その姿に内海は何も言えなくなってしまう。確かに怪獣と戦うには裕太とグリッドマンの力が必要だが、それでも今の裕太を戦わせることは受け入れられない。
だが、裕太は『六花を助けたい』と言った。怪獣を止める、倒すと言う言葉よりも先に。
今日ずっと店にいた内海には、裕太と六花に何があったのかは分からない。どちらにせよ裕太の恋心が戻ったわけではないだろう。それでも、六花を助けたいという裕太のその姿を見て止めることなどできなかった。
「力を貸してグリッドマン。あの怪獣を倒して、六花を助ける……!」
<……了解した。共に行こう、裕太!>
その覚悟にグリッドマンも力強く応える。裕太は内海と、そして蓬に振り返りそれぞれと頷き合うと再びジャンクに向き直る。そして、
「──アクセス……!フラァ─────ッシュ!!」
怪獣に情動を奪われ、今も苦しむ体に鞭を打ちながら、裕太は六花を救うべくグリッドマンとのアクセスフラッシュを実行した。
- 94二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 13:05:37
続き待機
- 95二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 23:21:14
保守
- 96二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 08:10:14
保守
- 97二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 16:56:47
保守
- 98二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 20:24:55
保守
- 99二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 03:08:41
保守
- 100ハピエン至上主義23/06/11(日) 04:12:25
<ダイナセイバー!!>
ダイナゼノンの両腕から光刃が伸び、怪獣へと斬りかかる。対する怪獣もまた、左腕から光刃を生成し、ダイナゼノンと素早く切り結ぶ。
「あれって確か、グリッドマンが使うっていう剣じゃなかったでしたっけ!?」
<なんか知らねえが、技に関しちゃグリッドマンをパクり始めたみたいだな……っと!!>
グリッドマンの光刃はアクセプターから伸びるため、ダイナゼノンとは異なり一本しか出せないが、元々パワーの強い怪獣だっただけにその出力も桁違いだ。一撃、二撃と刃を交える度に強い衝撃が中にいる夢芽達を襲い、この距離で戦い続ければダイナゼノンよりも先に彼らが保たないのは自明だ。
「なんとかビーム!!」
このままだと押し負けると判断し、夢芽はウイング部に装備されているビームガンの引き金を引く。本家本元の名付け親による『なんとかビーム』は、以前ガウマが単独で放った時よりも高威力であり、巨人怪獣に防御させ、距離を稼ぐのに十分だった。
「本当に前と違ってこっちの攻撃も通りますね!?」
<蓬の考察が当たってたってことか。けどこのまま戦っても埒があかねえ……!>
「グリッドマン さんはまだっすか!?」
悔し気にちせが叫ぶが、先程まで裕太と一緒にいて苦しんでいる様子を見ている夢芽は彼らのようにグリッドマンを待つ気持ちにはなれない。勿論この怪獣にはグリッドマンの力が必要なのは分かっているが……
<────!>
「ちょっと待って!?あの怪獣の構えって……!」
突如怪獣は伸ばした腕をクロスさせ力を溜め始める。左腕に力が凝縮していき、比例するように怪獣から発せられる圧力が高まっていく。それは間違いなくグリッドマンの代名詞の──
「グリッドビーム!?」
<アイツこの技までパクったのか!?いや、そんなことより……!>
ただでさえ、厄介な怪獣が遠距離攻撃まで持ち出してきたら益々勝ち目がない。ガウマは回避行動を取るべく慌ててダイナゼノンを動かすが、恐らく間に合わないだろう。
- 101ハピエン至上主義23/06/11(日) 04:13:36
このままだとやられる……!ダイナゼノンがそれを覚悟し、怪獣がクロスしていた腕と溜め込んでいた力を解き放とうとした刹那、怪獣の真下から輝くゲートが出現し、同時に伸ばされた拳が怪獣を殴りつける。解き放たれる筈だった力はどこにも被害を出すことなく霧散し、怪獣は大きく吹き飛ばされた。
<遅れてすまない、ダイナゼノン!>
<待ってたぜ大将!>
突き上げた拳をそのままにグリッドマンが実体化。間一髪でダイナゼノンを救ったのだ。
「大丈夫なんですか裕太さん!?」
「大、丈夫……グリッドマンと一体化したら少し楽になったから……!」
力なく答える裕太の声からはとても大丈夫とは思えない。
助けてくれたのはありがたいが、ひょっとして六花達は裕太のこういう無茶な姿をずっと見守ってきたのだろうか。
「ああもう、やっぱり六花さん我慢しすぎ!ちゃんと言ってあげないとダメだこの人!」
「ど、どうしたんすか南さん?」
「なんでもない!裕太さん、後で蓬の件と合わせて後で話ありますから!」
「お、俺!?」
そんな裕太の姿に腹が立ってきたのか夢芽が叫ぶ。裕太は勿論、他のメンバーも置いてけぼりだが今はそれどころではない。
グリッドマンに殴り飛ばされた怪獣はゆっくり立ち上がり、改めて視線をグリッドマンに向け直す。怪獣との戦いはより激しさを増そうとしていた。
- 102ハピエン至上主義23/06/11(日) 04:17:14
◇◇◇
その頃、怪獣に取り込まれた六花は白い空間にいた。彼女は知る由もないが、景色そのものは先日蓬が『繋がった』時の空間となんら変わらない。だが蓬を襲った孤独感や、力の奔流は感じられず、むしろ居心地が良いとさえ感じる。
「……なんか不思議。怪獣の中ってこんな風になってるんだ」
自分でも驚くほど冷静に、六花は現状を認識する。本来であれば間違いなくピンチな事態、場合によっては自分の存在がグリッドマン達にとっての弱みになり得る。頭では理解できているのに全く危機感を覚えないのは、この空間が自分には危害を及ぼさないという確信にも似た直感があるからだ。居心地の良さも、恐らくはこの直感に関係している。
「……なんだろ。なんていうかすごく恥ずかしいっていうか……ムズムズする」
居心地の良さと共に感じる、妙な気恥ずかしさ。六花にしてみれば、周りに誰もいない自分だけがいる教室で、館内アナウンスと称した自分への公開告白を延々と聞かせられているようなもの。いや、音として聞こえている訳ではないけれど、その分ダイレクトに感情を全身で浴びているような感じ。正直恥ずかしさと居た堪れなさから逃げ出したくなるが、残念ながらこの空間に逃げ道はない。
「……そっか。私、こんなに想われてたんだ」
この怪獣は裕太の六花に対する想いから生まれた。蓬達との話ではそんな結論が出ていたが、六花としてはピンと来ていなかった。確かにユニバース事件を経るまでの裕太からの感情は余りにも露骨だったかもしれない。でもそれが勘違いだと、自意識過剰な気のせいだと自分に言い聞かせたくなるほどに、ここ最近の裕太の反応は違っていた。……この一年半の間で抱いていた印象が全て塗り変わってしまう程に。
「……響くん」
知らず、自分の体を強く抱きしめる。恥ずかしさとか、腹立たしさとか、困惑とか、悲しさとか言葉にできないくらい色んな感情が胸の奥から溢れ出してくる。だけどその奥にあるのは間違いなく、喜びだった。響裕太も宝多六花のことを好いている、その確信が持てたことがとにかく嬉しい。自分では分からないが、多分今の顔は他の誰にも見せられないことは間違いなかった。 - 103ハピエン至上主義23/06/11(日) 04:18:10
そうして、暫くうずくまっていると、不意に外の様子が頭の中に流れ込み、六花を取り込んだ巨人怪獣がグリッドマンとダイナゼノンの二体を相手に戦っている光景が見える。
「響くん!?……夢芽ちゃん!蓬くん!」
怪獣は先日までとは違い、明確に敵を排除するために戦っている。グリッドマン達が繰り出す多彩な攻撃や連携を最も容易く跳ね返し、逆にそのパワーで彼らを圧倒している。絶体絶命という状況でこそないが、ピンチに陥っているのは間違いなかった。
「……なんとかしないと」
こんな所で止まっている場合ではない。この怪獣の中にいる自分にできることをしなければ。以前夢芽達から聞いた人や物を取り込み時間干渉まで行った怪獣の話を思い出す。その時は蓬がダイナソルジャーの力で仲間達の元に向かい次々と開放していったらしいが、六花にはその手段は使えない。
「でもこの怪獣が響くんの心から生まれたのなら……!」
一つの確信がある。ならばじっとしていられない以上、その確信に賭けるべきだ。
『──お前がカギだ!』
「……私にしかできないこと。それが、私のやるべきこと」
奇しくも裕太の行動理念と同じ言葉を口にして、六花はその場から走り出す。右も左も分からない空間だが、自分の向かう先が目的地だという予感がある。
……どのくらい走っただろうか。周りの光景は変わらないが、やがて六花の視界に自分以外の誰かが映る。
「……見つけた」
姿を確かめ、そこからはゆっくりとその人物に近づいていく。雨に打たれ、何度も転げ落ちたようなボロボロの格好。自分よりほんの少しだけ背が高い、真っ赤な髪が特徴的な少年の姿。
あの日、六花が止めることが出来ずに夜闇に消えていった後ろ姿が。あの時と同じ格好で背を向けて立っている。
「やっぱりここにいたんだね……探したよ。
──響くん」
その声に多くの感情を乗せて、宝多六花はその背に向けて優しく名前を呼びかけた。 - 104ハピエン至上主義23/06/11(日) 04:22:32
大変遅くなりました。今夜中に一気にラストまで駆け抜けられたらいいなと思ってます。
……ちなみになんですが、この後の展開で恐らく「これは違うだろ」「この展開は解釈違いかなぁ」と思われても仕方ない箇所や手段が多分三つくらい出てきます。
本SSを書くにあたり、それらに関しては最初から予定していた内容なのですが、改めて考えると読み手としてはどう解釈されるのか気になる部分になってしまいました。その旨、予めご了承いただけるとありがたいですm(_ _)m - 105二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 14:10:10
保守
- 106二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 16:27:22
どんな解釈でも、不知火型で受け止める
どんとこい。ユニバース。 - 107二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 16:37:05
- 108二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 23:46:14
保守
- 109ハピエン至上主義23/06/12(月) 03:01:03
◇◇◇
外ではグリッドマン達が劣勢を強いられていた。純粋にこの怪獣が強いのもあるが、それに並行して裕太の不調がグリッドマンにも影響を与えているのも大きい。更にそれに呼応するかの如く、怪獣も益々力を増している気がする。
「裕太!やっぱりあのまま戦わせるのは無茶だったんだ……!」
ジャンクの前で戦いを見守る内海が歯噛みする。ダイナゼノンとの連携しても尚、勝てない強敵。六花を助けるためとは言えあのまま戦いに赴く裕太を止めるべきだったのではないか?夜闇に走り出すいつかの背中が脳裏に過ぎり、後悔と自責の念が込み上げてくる。
それは隣で同じく戦いを見守る蓬も同じだった。ダイナゼノンに乗り込んだ夢芽達とグリッドマンと一体化した裕太。彼らが命懸けの戦いに赴き、今この瞬間にも追い詰められ苦しんでいるのに自分には何もできない。六花と内海はいつもこんな思いで裕太を見守っていた……常に無力感に苛まれながらも裕太の帰る場所として在り続けたその意味を今更ながらに理解して、その強さを尊敬する。だがそれ以上にただ見守しかできない自分に腹が立ってしょうがなかった。
「……っ」
せめて何か彼らの助けになるべく右手を掲げる。ほんの少しでいい、僅かな時間だけで稼げるなら……
「ダメだって蓬くん!それはレックスさん達に止められてるだろ!?」
「でもこのままじゃ皆が!」
「それで怪獣をなんとかできても今度は蓬くんがどうにかなったら意味ないって!」
必死な言葉に、歯を食いしばりながらも蓬は手を下ろす。本当は分かっている、多分まだアカネのいう『その時』は来ていない。下手に動くべきじゃないってことくらい。でも、
「まだなんですか……新条さん……!!」
<──!!>
<ぐわあああああ!!>
怪獣の左腕からビームが放たれ、グリッドマンとダイナゼノンにを吹き飛ばし大きなダメージを与える。エネルギーランプも点滅し始め、絶体絶命の状況だ。
<裕太、大丈夫か……!?>
「だ……大……丈、夫……!!」
グリッドマンの呼び掛けに応える裕太は、まだ折れてこそいないもののその声に力はない。蓬は怪獣が裕太から情動を奪っていると推察していたが、より正確に言えば生命力を奪われているという感じに近いのだろう。このままでは六花を救うどころか裕太の命そのものも危うい。
- 110ハピエン至上主義23/06/12(月) 03:07:55
<──!!>
追撃をかけるべく近づいてきた怪獣がグリッドマンの首を掴み、一方的にいたぶり始める。何とか助けに回るべくダイナゼノンが立ち上がろうとするが、先の攻撃によるダメージが大きいらしく、苦悶の声を上げながら追い詰められるグリッドマンを見ていることしかできない。
<グリッドマン!ちくしょう、動いてくれダイナゼノン……!!>
「裕太さん!」
ガウマと夢芽の叫びも虚しく、追い詰められるグリッドマンから……そして裕太からも力が抜けていく。
(この、ままじゃ……俺、は……)
ダメージと合わせて、裕太の意識が薄れていく。戦う理由も、これまでの記憶や感情も白くなっていく。
<ダメだ裕太!意志を強く持ってくれ!>
「裕太!」
「しっかりしてくれ裕太!」
グリッドマンが、そして内海と蓬の声も最早遠い。裕太の意識はそのまま闇に落ち……
──響くん
「……ッ!!」
いつかの雪の日、長い眠りから目覚めた自分を迎えてくれた少女の微笑みを思い出す。自分の名を呼ぶ穏やかな声が、落ちかけていた意識を一気に引き戻す。
- 111ハピエン至上主義23/06/12(月) 03:12:51
「……そうだ。俺は六花を……!!」
グリッドマン同盟の大切な仲間。グリッドマンを通じて仲良くなった大切な友達。最近悲しませてばかりの少女。
……その全部が正しくて、そして決定的なところがちがう。響裕太にとっての宝多六花はそれだけじゃない。きっと世界と、いや宇宙にも等しいくらい大切な存在の筈で──!!
いたぶられながらも強く右腕を握りしめ力を込める。そして、眼前の怪獣を強く睨みつけ、
「……六花を……助けるんだッ!!」
怪獣の顔面目掛けてその拳を叩きつける!不意をつかれた影響か、その一撃でグリッドマンから怪獣を引き剥がされる。いや、それだけではないのだろう。
「「裕太!!」」
<裕太!>
その光景を見た内海と蓬は、何かが変わったことを感じる。一体化しているグリッドマンも、自身との一体化がより完全な状態になったことを感じ……
「……お前は俺の心から生まれた怪獣なのかもしれない。ひょっとしたら俺以上に六花のことをわかってるのかもしれない。
──でもっ!お前に六花は渡さない!!」
この瞬間、間違いなく響裕太は彼らの知る『響裕太』そのもだった。全ての始まり、世界を作った神の意志からすら外れたイレギュラー。それはつまり、裕太の強い想いが再び世界に穴をこじ空けた事を意味しており──!!
- 112ハピエン至上主義23/06/12(月) 03:18:54
「……来た!準備はいいよね!?」
<──無論だ。俺の力、お前に預ける!!>
遠く離れた神の元にも、その変化は伝わる。以前は夢越しに、それも怪獣に近しい蓬の元にしか現れることができなかったが今回は違う。裕太が世界に穴をこじ開けた今ならば……!!
「インスタンス……ドミネーション!!」
<ッ、なんだ!?>
「あれは!!」
ツツジ台に再びゲートが開かれる。そしてパサルートの先から現れたのは、
「「「ナイトさん!?」」」
「ゴルドバーンッ!!」
その身を蒼く輝かせたグリッドナイト、そしてちせ達が良く知る元々の姿に戻ったゴルドバーンが、彼らの歓喜の声に包まれながら再臨した。
◇◇◇
「お、ようやく目ぇ覚ましたぞコイツ」
「大丈夫か、ナイト?」
時は少し遡り、ナイトはとある世界で新世紀中学生に見守られながら目を覚ましていた。
「お前達、何故ここに?……いや、怪獣はどうした!?」
「落ち着いて。ここで眠ってたのは君だけだよ。怪獣はいない」
「事情は彼女から聞いているが、大丈夫か?」
「彼女……?」
「あ、あそこにいる……」
キャリバーに指し示された方を向くと、ナイトにとって特別な存在が、気まずそうに微笑んでいる。
- 113ハピエン至上主義23/06/12(月) 03:20:39
「……新条アカネ」
「久しぶり……っていうほどでもないかな」
「お前が俺を助けたのか?」
「まあそんなところ。あのままだったら怪獣はともかく、相当ヤバいことになってたよ。相変わらず無茶なことやってんね」
「……すまない」
素直に謝るナイトの姿にアカネはただ困ったように笑うだけで何も言わない。このままだと話が進みそうにないと思ったのか、率先してボラーが口火を切る。
「で?これからどうするよ」
「どうするって?」
「こいつが無茶やったせいで俺達はあっちの世界に行けなくなってんだろ」
「そ、それは、ナイトだけのせいではない……」
「結局怪獣倒しきれてないんだから意味ねえだろうが。どうすんだよ?」
実際ボラーの言う通りではある。グリッドマンとダイナゼノンらそしてグリッドナイトが揃って勝てなかった怪獣は、ナイトの活躍で一応の時間を稼ぐことこそできたが倒せた訳ではない。おまけにナイトがこちらにいる以上ツツジ台側は戦力が欠けている状態にもかかわらず、こちらから向こうに行く手段がなくなっている。
もしツツジ台に怪獣が再び現れた際の勝ち目がないのだ。
「全く勝ち目がないわけじゃないよ。方法はある」
「君を信用しろと?」
「……そうだね。気持ちは分かるけど、そこは私を信じてほしいかな」
「……そうだな、すまない。」
「別にいいよ、仕方ないことだし。取り敢えずアンチ……ううん、ナイトに活躍してもらう必要があるかな」
「俺に……?」
「うん、あの怪獣は響くんの心から切り離されたもの。理屈はともかくとして、そのキッカケになってしまった蓬くんとナイトではあの怪獣に対抗できない。
……厳密には別存在なんだけど、アレクシスとダイナゼノンの力で同期しちゃったからね」
「めんどくさい性質してんな……」
「それは分かっている。その上で俺に活躍させるとはどういうことだ?」
「だからさ、『響くんの背中を押した君とは違うナイト』の力を使えばいいんだよ」 - 114ハピエン至上主義23/06/12(月) 03:23:06
その場の全員の頭に?が浮かんでしまう。新条アカネが言わんとしていることが理解できない。
「グリッドマンが生み出した無数の宇宙。その中には君たちの経験した宇宙と『限りなく同じだけど微妙に違う』世界もある。だからそうした『違う世界のグリッドナイト』の力を使えば、多分怪獣に対抗できるはずだよ」
「そんなことが可能なのか?いや、可能だとしても俺と同期した瞬間に通用しなくなるのではないか?」
「あくまでガワを被せる感じ、って言えばいいのかな。私にはアレクシスみたいな力はないからあくまで一時的に借りるだけ。だからそういう心配はないと思うよ」
「そうか……お前が言うなそうなのだろう」
「でも問題があるとしたら……」
説明した矢先、アカネの声が少し沈む。問題があるということらしいが……
「ガワを被せる感じとは言ったけど……それでも一時的とは言え、君自身を作り変えることになる。そしてそのためには君自身の中に入って心を掴む必要がある」
自分の右手を見つめるアカネの姿に言わんとする事を察する。それはつまり、怪獣優生思想と同じことをするということ。目的こそ違うが、そのために怪獣を掴み、強制的に強化させるということだ。 - 115ハピエン至上主義23/06/12(月) 03:26:47
「君はグリッドナイトであると同時に、私が生み出した怪獣でもある。だから出来る方法なんだけど……それはつまり君の心を『掴んで』、そして」
「構わない、やってくれ」
考えるまでもない。必要だと言うならやるだけだ。
「即答って……言ってること分かってる?私に心を弄らせるってことだよ?怪獣を使って世界を良いように作り変えてきた私に。今度こそ君を本当の怪獣に変えるかもしれないし、君を使ってまたあんなことをしちゃうかもしれなくて……」
「構わない。
──お前になら、俺の心と力を預けることに迷いはない」
微塵の迷いも躊躇いもなくナイトは断言する。他の誰もが、本人さえも考えるそんな不安は杞憂だと。他の誰よりも新条アカネを知っているが故に。
「全く、本当に君は……じゃあ遠慮なく君の力を使わせてもらうよ」
「待て待て、そもそも俺達が向こうに行けないって問題はどうすんだよ?」
「それに関しては大丈夫。多分勝手に道が開くと思うから、その時が来たらナイトとゴルドバーンを送り込むよ」
「は?俺達は?」
「お留守番。道が開くって言ってもこの場の全員がいっぺんに通るには不可が大きすぎるからね」
「……確かにな。私だけでも行きたい気持ちはあるが」
拳を握りしめて悔しそうにしつつもマックスはその事実を受け入れる。誰よりも裕太と六花の仲を気にかけていた者として、今回の怪獣に思うところがあったのかもしれない。それを横目で見つつアカネは改めてナイトに向き直る。
「ナイト……その」
「アンチでいい。その名もまた、お前から貰った大切な名前だ」
「……ありがとう。だったらアンチ、あの二人のことをお願いね」
「保証はできない。俺に出来ることは怪獣を倒すことだけだからな。だが……」
ナイトも──アンチもまたアカネに向き直る。その顔には確かに、彼女の知るアンチの面影があった。
「──響裕太には借りがある。借りは返すものだと教わった」 - 116ハピエン至上主義23/06/12(月) 03:28:21
すみません、今夜で一気に駆け抜けたいと言っておきながら、文字数多くなってしまってまとめきれませんでしたm(_ _)m
小分けにする感じで改めて今夜上げます - 117二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 10:12:09
待ってます
- 118二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 19:04:09
いよいよ終わりが見えてきた。このまま駆け抜けろ
- 119二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 22:49:11
保守
- 120ハピエン至上主義23/06/13(火) 03:40:10
◇◇◇
<はあっ!!>
かつてと同様にグリッドバーンナイトへと合体したナイトの飛び蹴りが、グリッドマンの攻撃から立ち直っていない怪獣へと直撃。更に高速で飛び回り、すれ違いざまに翼や拳を叩きつけ、
<グリッドナイトサーキュラー!!>
グリッドナイトの左腕から生み出された光輪が連撃のトドメとして投げ飛ばされ怪獣へと直撃。その体を真っ二つにするまではいかなかったが、確実に怪獣の体に傷を与えることに成功する。
<……無事なようだな、お前たち>
<君も無事だったんだな、グリッドナイト……!>
<ナイト!?おま、何だその見た目!?しかも何で攻撃が通ってんだよ!?>
グリッドマンのすぐ側に降り立ったグリッドナイトにガウマが思わずツッコミを入れてしまう。
どうやってこの世界に戻ってこれたのか、その青い姿は何なのか、今まで通じなかった攻撃が何故効いているのか。聞きたいことは山程あるが、グリッドナイトその全てを無視し、グリッドマンの肩に手を乗せる。瞬間、グリッドナイトの体から蒼い光が迸り、グリッドマンのエネルギーランプの点滅が治まった。
<これは……!?>
<どうやらこの姿の俺にはこのような力があるらしい。貴様と違い傷を癒すわけではなくエネルギーを与えただけだが、これでまだ戦えるだろう……──麻中蓬!!>
自身の能力について語るが早いか、グリッドナイトが蓬の名前を叫ぶ。
ジャンク越しの蓬は、蒼いグリッドナイトの姿を見た時に全てを察していた。どこか別の世界、自分と同じ経験をしてながらも何かが微妙に異なる自分。7月15日が終わらない世界で仲間達共に合体怪獣と何度も戦ったクロニクルの記憶。そして今が『その時』だということを。
<お前の役目は分かっているな!?>
「……勿論ですナイトさん!内海くんゴメン、俺も行ってくる!!」
内海の戸惑いも他所に、蓬は店の外まで飛び出すが早いか右手を虚空に伸ばす。そして、
「──来いッ、アクセスモード!ダイナソルジャー!!」
蓬の右手が蒼く光りだし、その手に人型の何かが形成される。この麻中蓬にとっては初めての、それでいてしっくりと馴染むカッコいい相棒。深い蒼に染まった二体目のダイナソルジャーは蓬の叫びに合わせてその身を巨大化。蒼炎をまとい、蓬と共にグリッドマンの左側に降り立つ。
- 121ハピエン至上主義23/06/13(火) 03:48:18
「蓬!?え、何がどうなってるの!?」
「うええええ!?なんなんすかそのダイナソルジャー!?」
「説明は後で!!ナイトさん、外側は任せていいですか!?」
<言われるまでもない!……合体するぞガウマ!!>
<勝手に話進めんなお前ら!……けどしゃあねぇな。久々に俺たちの力を合わせるぞ!>
「「「はい!」」」
ガウマの掛け声と共に、ダイナゼノンと蒼いグリッドナイト、そしてゴルドバーンが一つになっていく。グリッドナイトを中心に、分離したダイナゼノンのパーツとゴルドバーンが合体。かつてフジヨキ台で強敵達を屠ってきたその姿こそ、
「「「<<超合体竜王!カイゼルグリッドナイト!!>>」」」
紫の翼を展開し、カイゼルグリッドナイトが飛び立つ。蒼いグリッドナイトの影響か、普段よりも出力が大幅に上がっており、そのまま一気に怪獣に攻め込んでいく。
<……よし、私達もカイゼルグリッドナイトに続くぞ!>
「いや、裕太にはやってもらうことがあるんだ。グリッドマン、手を出して!」
カイゼルグリッドナイトが怪獣と互角の肉弾戦を繰り広げ始めたのを確認し、ダイナソルジャーは右手で拳を作りグリッドマンにかざす。困惑しつつもグリッドマンは左手で拳を作りダイナソルジャーの右拳にぶつけ合わせる。
- 122ハピエン至上主義23/06/13(火) 03:48:34
これから俺が、裕太をあの怪獣の中まで連れて行く」
「連れて行くってどういうこと!?」
「そのままだよ。このままあの怪獣を掴んで、その心に触れる、裕太を巻き込んでね」
<そんなことが可能なのか!?>
「新条さんが言うには。アクセプターの心を繋げる力、そしてナイトさんと適応したことで出力が上がったダイナソルジャーの力を使えば行ける筈!」
いつの間にアカネと接点を持っていたのか、つい問い質したくなるが今はそれよりもやるべきことがある。このタイミングで俺を連れていくと言うことはつまり、
「六花さんが取り込まれたのは多分誤算だったんだと思う。でもこの際丁度いいから、このまま六花さんもまとめて、裕太自身を取り返してくるんだ!」
「……分かった。本当に行けるんだよね!?」
「新条さんが言うにはね!裕太には怪獣使いの才能はないかもしれないけど、そもそもあの怪獣は裕太の心から生まれた。だったら本人に行けないわけがない……はず!」
「そこは断言してほしいんだけど!……でもやるしかない!」
裕太の決意に呼応するかのように、ダイナソルジャーの蒼炎がより強く燃え上がる。アクセプターを通じて裕太と蓬の力が繋がるのをグリッドマン は感じていた。
<……裕太、これは君にしかできないことなのだろう。必ず、君自身と六花を連れ戻してくるんだ!>
「分かってる、ありがとうグリッドマン。蓬、お願い!!」
「ああ!──インスタンス……!ドミネーションッ!!」
ダイナソルジャーの中で、開かれた右手の奥で蓬の目が赤く輝く。怪獣との決着、そして六花救出に向け、裕太と蓬は、怪獣の中に飛び込んで行った。
- 123ハピエン至上主義23/06/13(火) 03:53:00
◇◇◇
「……探したよ。──響くん」
怪獣の中の空間を走り回って、私は目的地に辿り着く。あの夜と同じ、ボロボロな響くんを。
「響くん?私の声、聞こえてないの……?」
だけどこの場に辿り着いてから何度か響くんの名前を呼んでいるのに、一向に反応を返してこない。聞こえていないのか、それとも眠っているのか。直接触れて確かめようにも見えない壁のようなものに遮られてそれも叶わない。
「どうしよう……響くんと話せば何とかなるかもって思ったんだけど……」
間違いなくこの響くんこそ怪獣の中心。怪獣を倒すのもここから出るのもこの響くんがカギになると思ったからこそここまで来たけど、話もできないんじゃどうしようもない。
「何か響くんの意識をこっちに向けられること……ああでも、そもそもこっち見てないしどうしたら……」
かつて同じような状況で、蓬くんはダイナソルジャーの力で壁を破ったらしいけど、私にそんな力はない。私に出来ることがあるとするなら……
「響くん、こっちを向いて響くん!響くん!」
届くまで彼の名前を叫び続けることだけ。きっとそれこそが、私にしかできないことだと思うから。
「響くん!……ねえ響くん!!」
だけど声は届かない。何度その名前を叫んでも、響くんは前を向いたまま何の反応も示さない。……あの夜と同じだ。内海くんの声も私の声も届かず、一人走って行ったあの夜と。 - 124ハピエン至上主義23/06/13(火) 03:53:17
「やっぱり、ダメなの…………?」
あの夜だけじゃない。振り返ってみれば、覚悟を決めて前に進んだ響くんを止められたことなんて一度もなかった。グリッドマンが宿っていた時も、そうでない時も。だからきっと、今この状況においても私の声は届かなくて。
「……分かってるよそんなこと」
ずっと分かっていたことだ。普段は引っ込み思案なくせに、いざとなると誰に何と言われようと突っ走る。それが響裕太という少年で、止めることなんて誰にもできない。
……うん、分かってる。分かってるんだそんなことは。
「……分かってるけど。分かってるけどさぁ……!!」
……そもそもこの怪獣は私への恋心が形になった怪獣じゃないの?至る所から私に対する好意も感じてるんだけど。なのに肝心の響くんが私を完全無視ってどういうことなの?
『裕太さんに言いたいことがあるなら我慢せずに言った方がいいんじゃないですか』
夢芽ちゃんからのアドバイスを思い出す。全くもってその通りかもしれない。
少し前に『外の響くん』とは昨日の件について仲直りしたばかりだけど、そもそも今日までに積み重なってきた不満が全部解消されたわけじゃない。さっきまではそれでも良いって思ってたけど……こうも無視されると私も腹が立ってくる。
「ホント、いい加減にしてよ響くん……!!」
いい機会だ。他に誰がいるわけでもないしどうせ聞かれてなんていないんだ。思う存分、言いたいことを言わせてもらおう! - 125二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 05:34:52
保守
言いたいこと言う六花さん楽しみ - 126二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 10:43:42
保守
- 127二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 21:48:41
保守
- 128二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 01:11:38
六花さんの言いたいこと期待保守
- 129ハピエン至上主義23/06/14(水) 04:00:17
「いっつもそう!普段あんなに気弱で自信なさそうにしてるくせに、なんでやる気になった途端突っ走るの!?俺にしかできないならって何!?そういって傷ついて帰ってきて、私がどれだけ心配してるのか分かってる!?ううん分かってないよね、私や内海くんが何を言っても止まってくれたことなんてないもんね!?」
夢芽ちゃんの愚痴という実例を見たからだろうか。いざ口にしてみると思いの外言葉が止まらず溢れてくる。
「あの時だってそう!他に方法がなかったからって、なんで自分が消えちゃうような選択を迷わず決めちゃうの!?結果的に帰ってこれたからいいけど、本当に消えちゃってたかもしれないんだよ!?残される側の気持ち考えたことあるの!?私や内海くんがどんな気持ちになるのか考えたことある!?ないよね、あるはずないよね?もし考えたことあったら何も言わずに走り出したりしないもんね!!」
昨日の蓬くんに対する言葉なんて比じゃないくらいの爆発。正直私ってこんなに叫べたんだって少し冷静になってる自分もいるけど、今はそんなの関係なくて。
「ていうか本当は私のこと好きじゃないでしょ?一年の頃からチラチラこっち見てきてさ、言いたいことがあるならハッキリ言えばいいのにってずっと思ってたよ!お陰でこっちも意識させられてたけどさあっ、なのにいざ声をかけてきてそういうことなのかなってちょっと嬉しくさせたと思ったら何?記憶喪失?しかもあの時のことだけは今でも思い出せないって何なの!?しかもそのことを全然気にしてないとか一体どんな神経なわけ!?」
あの時、柄にもなく機嫌が良かった私の純情を返して欲しい。あの翌日から始まった怪獣との戦いの日々があったからこそ響くんと親しくなれたのは事実かもしれないけど、それとこれとは別問題だ。
「響くんが元に戻った後も、私結構アピールしてたつもりたんだけど!?確かに私だって響くんとグリッドマンの関係とか考えて悩んだりもしたけど、私なりにいつ告白されてもいいように待ってたつもりなんですけど!?ぜんっぜん自分の気持ちを伝えたりしてくれなかったよね?去年の冬に一緒にラジオ聴いた時なんて、わざわざ彼氏なんていないって言ったのに途中でヘタれるしさあ!!挙句の果てにお化けって何!?後輩の女子と仲良く演劇見てますとかふざけてんの!?告白されて悩み中っていい加減にしてよ響くん!!」 - 130ハピエン至上主義23/06/14(水) 04:10:51
「この際だから言わせてもらうけど!私のことなんて気にも留めずに走っていく響くんがずっと嫌だった!!皆を守るためなら自分が傷ついても気にしない響くんが嫌だった!!私でも気付くくらい露骨だった癖に全然告白してきてくれないのが不安で不安でしょうがなかった!!私の心を掻き回すだけ掻き回した癖に……!!
──ハッキリ言って、そういう響くんのことが私は大っ……」
口にしかけたところで、続く言葉を押し留める。いくら勢いに任せても、その言葉を口にするのは嘘になる。だって、
「……嫌い、とまではいかないか。うん、ただ嫌なだけ。これは私の気持ちの問題だし」
ある程度言いたいことを言ったからが少し冷静になる。色々思うところはあるし、さっきまでの言葉が嘘ってわけじゃないけど。
「……私なりに響くんの良いところも悪いところもずっと見てきたつもり。そうじゃないと気持ちに応えるなんて無理だもんね」
気持ちを確かめるという意味では、ずっと告白されなかったのはある意味都合が良かったりした。そもそも文句があるなら私から言え、って周りも思ってたみたいだし。
「……正直に言えば、真っ直ぐ走っていく響くんのことも嫌いじゃないんだよ。もっとこっちのこと気にしろって思うし、無茶なことだってしないでほしいけどさ」
グリッドマンが宿っているとかいないとか関係なく、響裕太はヒーローだから。誰かのために頑張って戦う時が一番カッコいいことが分かってしまったから。
「……やっぱダメだなぁ。私は夢芽ちゃんみたいに嫌なこと言い続けたり嫌いになったりはできそうにないや。だって嫌なところは好きなところでもあるんだから」
全く、我ながら甘いことこの上ない。だけど私はやっぱり、そんな響くんが。そんな響くんだからこそ良いって思う。
だから私は笑顔で前を向く。結局この響くんは最後まで反応を返してはくれなかったけど、多分そういうものなんだろう。あくまで響くんの形をとっているだけで、響くんそのものというわけじゃない。
ここまでの私の暴走はただの一人語りで、私が自分の感情に向き合うための儀式だ。こんなことが起きなかったら、きっと一生本人には伝えず胸に抱えていた自分の気持ち。だったらもう最後まで行ってしまおうと腹を括って──
「──ねえ響くん。私は……響くんのことが……ううん、
裕太のこと好きだよ」 - 131ハピエン至上主義23/06/14(水) 04:13:51
◇◇◇
<なんだ!?>
「怪獣が……苦しんでる?」
突如苦しみ出した怪獣の様子を窺うべく、カイゼルグリッドナイトは距離を取る。ここまで互角の攻防を繰り広げてこそいたが、自分たちの攻撃が有効打を与えた手応えはない。となると怪獣の中で何かがあったと言うことで……
◇◇◇
「え、何!?」
突然空間が大きく軋み出す。まるで地震のように大きく揺れ出し立っていることすら出来なくて、思わず倒れ込みそうになる。
「何が起こってるの?……ていうかこれヤバいんじゃない?」
よく分からないけど、世界が壊れようとしている感じがする。さっきの告白がきっかけになったのだろうか?何にせよこのままだと私は……最悪な想像をしてしまいそうになって、
「──六花ああああああああ!!」
私を呼ぶ声にハッと顔を上げる。どうしてここにいるのか、どうやってここに来たのか。分からないけどそれは確かに、
「響くん!?」
「遅くなってごめん!迎えにきた!!」
空間を破って、虚空から響くんが跳び込んでくる。あまりにも必死な表情で、私だけを見て走ってくる姿に思わず顔が熱くなってしまう。
「……このタイミングでそれって、吹っ切れそうにないじゃん……!!」
「え?何、どうしたの?」
「何でもないよ!それよりどうやってここに来たの?」
「それは蓬に……って説明は後!今は早くここから出ないと!」
「ちょっと待った裕太!目的もう一個あるでしょ!?」
「蓬くんまで!?」
- 132ハピエン至上主義23/06/14(水) 04:15:32
私の手を取って走り出そうとする響くんを、一緒に着いてきていたらしき蓬くんが止める。さっき言いかけてたけど、ここに来れたのは蓬くんのお陰らしい。
「そう言えばそうだった!えっと……あそこにいるのが『俺』だよね?」
響くんはこの空間にいる『響くん』に気づき、私の手を離して歩いていく。怪獣に異変が起きた影響か、『響くん』は目こそ閉じているけどいつの間にかこちらの方を向いていた。
「この『裕太』も連れて帰らないと。裕太いける?」
「分っかんないけど……やってみる!」
そう言って、響くんは左手を『響くん』に向けて──
◇◇◇
「お待たせ!グリッドマン!」
怪獣の中から戻り、裕太の意識は改めてグリッドマンと一つになる。グリッドマンもそれに気づいたのか、喜びの声と共に裕太を迎えた。
<裕太、帰ってきてくれたか!六花は!?>
「私は大丈夫!皆、心配かけてごめん!」
グリッドマンの呼び掛けに、ダイナソルジャーから六花が応える。どうやら蓬達と共に戻ってきたためか、蓬と同じ場所に転送されたらしい。
「六花さん!お帰りなさい!」
「色々ごめん夢芽ちゃん!あ、あと今蓬くんと一緒にいるけどこれは不可抗力で……」
「六花さんなら全然大丈夫です!蓬もお疲れ様!」
「六花さんは良いんだ……」
どこか複雑そうに苦笑する蓬に釣られて六花も笑ってしまう。何はともあれ後の問題は怪獣だけだ。
- 133ハピエン至上主義23/06/14(水) 04:15:49
戻ってきた裕太達が怪獣を見やると、巨人怪獣はどこか苦しみながら徐々に姿が変わっていくのが分かる。その姿はまるでかつてグリッドマン達を苦しめたマッドオリジンそのもので……
<どうやら本性表したらしいな。だがこちらにはもう時間がない。一気に決めるぞグリッドマン!>
<了解した!裕太、蓬、君達の力も借りるぞ!>
「勿論です!いくよ裕太!!」
「うん!行こう、グリッドマン!蓬!」
カイゼルグリッドが腕を組み、足からアンカーを固定して力を溜めていく。蓬の乗るダイナソルジャーもその姿をダイナミックキャノンへと変形させ、グリッドマンが肩に乗せ、同様に力を溜めていき……
「俺の心が生み出した怪獣……色々思うところはあるけど、これで最後だ!」
決意と共にグリッドマンが引き金を引き、呼応するかのようにカイゼルグリッドナイトも必殺技を解き放つ!
<<「「「──レックスグリッド……ファイヤーッ!!」」」>>
<「「──ダイナミック、グリッドファイヤー!!」」>
赤と蒼、二体の龍の顎から必殺光線が放たれ巨人怪獣だった怪獣に直撃。光に包まれ体が崩壊していく中で、怪獣は苦悶の声を上げながらも、それでいてどこか安らかに消えていく……やがて光が収まった先には塵一つ残ることはなく、
「──さよなら……『響くん』」
ユニバース事件から続いていた長い物語にようやく幕が降りようとしていた。
- 134ハピエン至上主義23/06/14(水) 04:19:28
大変長らくお待たせしました。とりあえずバトル終了です。
あとは後日談というかエピローグ部分出して完結になります。
……ちなみに六花さんの「言いたいこと」は、ラジオや雑誌等での声優さんやスタッフの感想。後はボイスドラマ等を聞いて僕が勝手に捻り出した、このユニバース限定のやつですので、多分解釈割れると思います。 - 135二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 04:42:01
やっぱりアレはラジオのネタだったか!良いところから拾ったな。これは納得の行くオチ。六花さん今肩の重荷めっちゃ軽いだろうな。読んでるこっちが気持ち良くなったわ
- 136二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 04:48:05
こんな素晴らしい概念SSを掲示板止まりで置いておくには勿体ない
是非何処か多くの人に届くようにして欲しいです - 137二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 04:56:32
スレ主、ありがとう……
私が思ってたことを六花が吐き出してくれて、それな!まじわかる!!もっと言ってやって六花さん!!!って思ったから!
面白くて面白くて仕方ない。文才が凄い
是非何かしらでこのSSを投稿して頂いて、定期的に読み返したくなるくらいに貴方のファンになってしまった
- 138二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 15:27:07
保守
- 139二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 17:27:36
保守
- 140二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 01:39:55
これ実は六花の発言が外に筒抜けでした展開ある👀チラチラ
流石に六花さんが可哀想か... - 141二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 07:56:49
保守
- 142二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 14:58:09
保守
- 143二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 23:07:01
保守だ!
- 144ハピエン至上主義23/06/16(金) 03:50:17
怪獣を倒し、フィクサービームの力で街を直した後、私は響くんを誘ってなんとなく街を歩いていた。とはいえ特に目的地があるわけでもない。強いて言えば一緒に歩くことが目的だろうか。
やがて誰もいない公園の前を通りかかったところで、響くんが口を開く。
「六花、その……大丈夫?どこか具合悪かったり痛いところあったりしない?」
「どうしたの急に?全然そんなことないけど」
「ホントに?曲がりなりにも怪獣に捕まっちゃったわけだから、もし何かおかしいなって思ったら……」
「別に病気になったわけじゃないし、気にしすぎだって。それ言ったら、響くんの方はどうなの?色々戻ったんでしょ?」
「うーん……正直あんまり実感がなくて。自分の中で何が変わったのかとかは全然分かんない。分かんないんだけど……」
少し歯切れが悪くなりながらチラチラとこちらを見てくる響くん。ひょっとしてあの暴走独り言を聞かれていた……或いは、中の『響くん』と一つになったことでその記憶を共有したのだろうか?……だとしたら恥ずかしいことこの上ないのだけど。
「その……ここ最近六花にすごい迷惑をかけてたって言うか。酷いことを言ってしまった気がするというか……」
「あ、そっち?……まあここ最近は結構辛かったかなぁー」
「ご、ごめんなさい……」
わざとらしい私の言い方に、シュンとして小さくなる響くんについ笑ってしまいそうになる。まあ私としては本人相手ではないとはいえ、怪獣の中で既に言いたいことはあらかた言い終わってるので、それで十分なのだけど。
「別にもういいよ。色々あったし、今回も響くんが悪いわけじゃないんだし」
「いや、でもさ……」
「それにグリッドマンにも謝られたからさ。本当にいいんだよ」
「グリッドマンが?」
「さっき偶々二人だけになる機会があってさ。ジャンクってうちの店に置いてあるのに、二人だけで話したの初めてだったから新鮮だったよ」
「……ちなみにどんな話をしたの?」 - 145ハピエン至上主義23/06/16(金) 03:56:52
◇◇◇
<実を言えば、私はアクセプターを通じて裕太の現状をある程度は把握していた。……六花との関係のことも>
「え、そうだったの?ちょっと恥ずかしいんだけど……」
<勿論常に把握しているわけではない。説明するのは難しいが……時々景色や感情が流れてくる感覚といえばいいだろうか。状況的に考えて、裕太の感情が強く出ている時にこの感覚は起きていたようだ>
「それってつまり……」
<初めは小さな違和感だった。私が宿っても変わらなかった君への想い、それを感じなくなっていたことに。
そして先日の裕太と六花の口論でようやく全てを理解した……>
そこまで言って、グリッドマンは画面越しでも分かるくらいに深々と頭を下げてくる。
<……今回の事態はかつて怪獣につけ込まれたの私を救うために、再び裕太に代償を支払わせてしまったこと……いや、元を正せばかつてアレクシスに敗れ、裕太に宿ってしまったことが原因なのだ。……そしてこの一連の出来事が、裕太だけを苦しめていたわけではないことを私は知った。
──すまなかった六花。本来であればもっと早くに、裕太だけでなく君にこそ謝罪をせねばならなかった>
それは多分、私が初めて聞いたグリッドマンの弱々しい声だった。響くんと共に勇ましく怪獣と戦い、どんなピンチの時も最後には勝ってくれる超人。私の親友のことも救ってくれた英雄はその実、私たちと同じように悩み苦しむ一個の存在だったのだ。
「……気にしてないって言えば嘘になる。グリッドマンが宿ったことで響くんの時間が奪われたのは事実だし、私だって……それに一年前の別れ際に言われた言葉のせいで色々悩まされる羽目になったし」
<す、すまない……>
「……でも、もういいよ。今更文句言ったってしょうがないし、グリッドマンがいなかったらアカネは今も酷いことを続けてたと思うし」
まだ何も知らなかったあの頃。知らぬ間に友達や家族を失い、最後までそのことに気づかない可能性だってあった。
- 146ハピエン至上主義23/06/16(金) 03:58:49
怪獣を倒し、アカネを救うことができたのはグリッドマンがいてくれたからこそ。それに、
「……グリッドマンが響くんに宿らなかったら、私はきっと響くんのことをこんなに知る機会なんてなかった。
本当の響くんと私が知る響くん。どこが同じで何が違うのか、何が好きで何が嫌いなのか。改めて友達になって、私は響くんの色んな一面を知ることができたんだ」
最初に宿るタイミングだけは考えて欲しかったけど、なんて憎まれ口を叩きつつ、私は改めてグリッドマンに向き直る。全部が全部良いことばかりじゃなかったけど、それと同じくらい。あの日々がなければ得られない大切なものが沢山あるから。
「──だから私はグリッドマンを許します。こんな言い方だとちょっと偉そうだけど、でも他に言い方ないもんね」
<六花……>
「だけど、どんな事情があっても勝手に他人の気持ちを暴露するのは良くないからね。それはもう絶対やらないように」
<……分かった。以後気をつけよう>
「なら良し。……じゃあ改めて、これからもよろしくお願いします」
<ああ、これからもよろしく頼む!……ありがとう、六花>
◇◇◇
「……さあ?強いて言えば、仲直りかな?」
「え。六花、グリッドマンと喧嘩してたの?」
「そういう訳じゃないけどねー」
冗談めかした私の返しに響くんは不思議そうな顔をするが、それでもあの会話は私の中だけで秘めておきたい。恥ずかしいことも言っちゃったし。
- 147ハピエン至上主義23/06/16(金) 04:00:22
「何か気になるけど……まあ、六花とグリッドマンが仲直りしたならそれでいいや」
結局一人で納得したらしく、響くんが穏やかに微笑む。やけにあっさり引かれてしまったことにちょっと納得いかないが、それでふと昨日のことを思い出す。ちょうどいい機会なのであくまで自然に聞いてみることにしよう。
「そういえば、さ」
「うん?」
「結局、返事はどうするの……?」
昨日受けた恋愛相談。後輩さんからの告白にどう返事をするのかをさりげなく聞こうとしたつもりだったのだが……ダメだ。全然自然に聞けてない。
「ほら、お試しで付き合うのもアリなのかも、って言ってたし。結局どうするのかなって」
「断るよ。気持ちには応えられないって、ちゃんと伝える」
意外な即答に思わず目を丸くしてしまう。昨日はあんなに悩んでいたのに一体どんな心境の変化なのか。
「……良いの?気まずい関係になりたくないんでしょ?」
「勿論そうだけど、やっぱり好きでもないのにお試しで付き合うって俺にはできそうにないし。それにほら」
「?」
「──六花と気まずくなって話せなくなることの方が、俺は嫌だから」
「〜〜〜〜っ」
何の気負いもなく、そんなことを真面目な顔で言うものだから。思わず私の顔が熱くなってしまう。
そういえばそうだった、響裕太という少年は肝心の告白に関しては二の足を踏んでタイミングを逃すくせに、何気ない一言で相手にクリティカルを与えることがあるという厄介な一面を持っていた。……実のところ恋愛にこそ発展してないだけで、他の女子相手にもそういうことをして密かな人気を得ていることをなみこから聞いた覚えがある。
「六花?顔赤いけど大丈夫?あ、やっぱり体調悪かったりする!?」
そしてこれだ。なんというか、本当にもう……!! - 148ハピエン至上主義23/06/16(金) 04:03:09
「……全然大丈夫。そういうんじゃないから……それより、そろそろ戻ろ。夢芽ちゃん達、そろそろ帰るかもだし」
「確かに。流石にいつまでもこっちに残ってもらうわけにはいかないもんね」
あっさりと信じて響くんは店に向かって先に歩き出していく。その姿にまた釈然としないものを感じてしまう。……そして私は柄にもなく気分が上がっているらしい。このままやられっ放しなのは納得がいかないので、一つ反撃することにする。ボソリ、とその背中に届かないくらいの小さな声で、
「──好きだよ、裕太」
「……………………………………へ?」
ギギギ、と音が出そうなくらいぎこちない動きで私に振り返る響くん。その顔はきっとさっきまでの私と同じくらい真っ赤になっていて、
「り、六花。いいいい今何か言わなかった!?」
「え?別に何も言ってないけど」
「え!?そんな、今確かに……」
「空耳じゃない?それとも私に何か言って欲しいことでもあるの?」
「そ、それは……えっと、その……」
思った以上の反応に何だか嬉しくなり、足取り軽く、今度は私が響くんの前を歩いていく。きっと私の顔は他の人には見せられないくらい笑顔になっているだろう。
「響くんが何を聞いたのかは知らないけどさ!それを聞きたいなら、女子より先に自分から言った方がいいと思うよ!」
「……わ、分かった!」
その顔は見れないけど、響くんが大真面目な顔で頷いたのを感じて益々笑ってしまいそうになる。
結局響くんが元々持っていた想いが全部戻ったのかは分からないけど、今はその反応だけで十分だ。
「──ほら行くよ響くん!皆が待ってるよ!」
「わわ、六花!?」
響くんの手を握って、私は予感する。きっと遠くない未来、響くんに伝えたかったこと全部を伝えられる日がくる。その確信と、しっかり握り返されたその手の温もりを強く感じながら、私と響くんは皆が待っているだろう家へと帰っていく。
──雲が晴れて、私の心はガラス玉のように透き通っていた。 - 149ハピエン至上主義23/06/16(金) 04:10:25
前スレから数えて本当に長らくお付き合いいただきましたが、これにて本作における裕太と六花の話は締めとなります。
終わり方に悩みましたが、最初のテーマがテーマだけに明確に告白させ合って付き合わせるよりは、「なんやかんや二人はくっつくよね」で終わらせた方がいいかなと思いました。
とはいえ内海他、作中メンバーの帰還なりなんなり完全にぶん投げてしまってるので、スレ数が残ってて自分の文章が纏ったら
・内海の後日談語り
・野次馬ガウマ隊
・お帰りナイトくん
辺りは書くかもしれません。全然文が纏ってないんで確約は出来ないのですが、まだスレが残ってたら頑張ります - 150二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 04:15:01
ごめん、ちょっと泣く
- 151二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 05:36:00
- 152二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 07:41:05
- 153二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 08:37:26
>>152 それ良いアイデアかもね。ピクシブだと丁度まとめてるスレあるし、こっちをずっと保守しておかなくても更新追えるし
- 154二次元好きの匿名さん23/06/16(金) 17:08:16
保守
- 155二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 01:15:30
序盤の地獄からの、中盤の謎、そして終盤の勢いのあるアクション。非常に良いSSでした!
- 156二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 08:19:26
ほしゅ
- 157二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 09:06:13
2スレにわたって陰ながら応援してたものが報われてよかった…!乙さまです!
悲劇を経ても最後は終わり良くあってこそですなぁ - 158二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 19:19:30
折角なのでスレ主が書けるだけ書けるようにスレ完走するまで保守しておきたい
- 159二次元好きの匿名さん23/06/17(土) 23:12:43
保守
- 160二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 08:44:43
>>158 賛成の保守
- 161二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 17:55:08
保守
- 162二次元好きの匿名さん23/06/18(日) 19:52:44
「ハピエン至上主義」に相応しいストーリーでした👏
- 163ハピエン至上主義23/06/18(日) 21:10:03
ちょっと見にきたら保守られてる!ありがたい……
と言うわけで、>>152 さんもおっしゃられてるように現在pixiv垢取得してそっちに写してる途中ですが、こっちにもオマケ載っけます。
◇◇◇
怪獣との戦いを終え、裕太と六花が無言で街を歩いているその裏で、その後をこっそり尾ける集団がいた。言うまでもなくガウマ隊+内海である。
「何か二人とも黙って歩いてるだけで全然色っぽい感じしないっすね……」
「六花さんはともかく、やっぱり裕太さんって結構ヘタレだと思う」
「やっぱり止めた方がいいんじゃない?こんなこっそり後から尾けるの絶対良くないって」
「暦の言う通りだぞ。お前ら少しは気ぃ遣え」
「だからこうしてこっそり後を尾けてるんじゃないっすか!それに先輩も隊長も本当はノリノリなの分かってんすからね?」
「いや俺は別に……」
「俺はお前らが変なことしないか見張るためにだな……」
「どうでもいいけど皆さん隠れてる自覚あります?」
当人達のノリとしては尾行ということになるのだろうが、一緒にいる内海をしてこれバレてるよなー、と思うくらい声は大きい。にも関わらず裕太も六花もこちらに気づいていないのは、案外二人ともいっぱいいっぱいだったり緊張しているのかもしれない。
「分かってると思いますけど、あくまで見守るだけですからね?変な介入とかしないでくださいよ?」
意外にも発起人になってしまった内海が他メンバーに釘を刺す。彼の名誉のために説明すると、内海の行動に関しては決して下世話な考えではない。怪獣との戦いが終わり、裕太の様子に少し変化を感じたのか六花が外に連れ出して行ったのを見送ったのはいいものの、ここ最近の二人を間近で見てきた人間として少し心配になったからというのが理由だ。……まあ迂闊にもその事を、2代目からの連絡待ちのため店でくつろいでいたガウマ隊に言ってしまったせいで、「面白そうなんで付き合う」なんて女性陣の勢いに押されてしまった訳なのだが。
「分かってますって、私たちを信用してくださいよ内海さん」
「ところで蓬がいないんですけど誰か知りません?」
「蓬くんなら何かお礼を言いにいくとか言ってさっき出てったけど」
「え、私聞いてないんですけd」
「お、何か二人とも公園入ってったぞ!」
「告白来るんじゃないっすかコレ!?」
「この面子がやらかさないか不安しかねえ……」
- 164ハピエン至上主義23/06/18(日) 21:18:03
益々不安になる内海だが、下手に目を離す方が恐いと観念し、ガウマ隊と共に公園近くの木々に隠れることにする。
全ての会話を聞き取れているわけではないが、チラッと見えた六花はとても落ち着いているように見える。というより、何か吹っ切れたのだろうか?
「あ、蓬。……何か知らない人と一緒にいるみたいだからちょっと行ってくる」
「え、南さん最後まで見ていかないんすかー!?……行っちゃった」
「やっぱり俺達も戻りません?流石に悪い気がしてきました」
「……だな、特に問題も起きそうもねえし。内海はどうする?」
「俺も戻ります、裕太も六花も大丈夫そうなんで」
「えぇー……皆ノリ悪いなー……」
ノリとかそう言う話ではない。あくまで心配だからついてきただけなので、その必要が無くなったら帰るだけだ。そう思って、内海は穏やかな表情を浮かべながら皆を引き連れてその場から
「──六花と気まずくなって話せなくなることの方が、俺は嫌だから」
「「「「「「!?」」」」」」
……離れることなく光の速さで隠れ直す。気付けば公園から離れたはずの夢芽や元々いなかったはずの蓬さえ近くに隠れているのが見て取れる。
「ちょ、なんで皆この場から離れないんですか!?」
「こんな急展開を見逃せるわけないじゃないですか!裕太さんやれば出来るんですね……」
「六花さんメッチャ顔赤くなってる……やるなぁ裕太」
「蓬くんまでそっち側に回るか……」
「内海くんもこっち側に来てるじゃん」
「お前ら静かにしろ!声が聞こえねえ!」
「隊長もノリノリじゃないっすか!」
「結局皆気になるんだね……」
「……って裕太さん、何か帰ろうとしてるんすけど!?」
「なんでその先言わないのあの人!?ちょっと私行ってきます……!」
「それはダメだって夢芽!裕太にも事情があるって聞いてるでしょ!」
「関係なくない?恋心戻ってようが戻ってなかろうが、あんな顔してる六花さんを間近で見たら落ちるでしょ普通!」
「ちょっと皆黙ってって!バレる、バレるから!!」 - 165ハピエン至上主義23/06/18(日) 21:21:54
ワーギャーと騒ぐ一同。だが隠れ場所の問題だろうか?或いは六花に余裕がなかったのか
「──好きだよ、裕太」
「「「「「「──ッッ!!」」」」」」
決して大きな声ではないそれが内海達の耳には届いてしまい、思わず身悶えしてしまう一同。まさか六花の側からこんなストレートな告白台詞が出てくるとは……!
「お、やるなぁ六花のやつ」
「当の裕太くんは信じられないって顔してるけどね」
「き、聞こえなかったのかもしれない……」
「だが二人の関係が進んだのは間違いない。ここ最近の事情を聞いて心配していたが杞憂だったようだな。喜ばしい」
「いや何であんたらもいるんですか!?」
いつの間にか、今回の戦いで一切出番がなかった新世紀中学生の面々が、内海達の近くで様子を窺っていた。この世界にいるのは恐らく2代目の協力なのだろうが、だからといって何故このタイミングで?
「誰も店にいねぇから探しにきたんだよ。おい内海、お前俺らほっぽって何こんな楽しい思いしてんだよ」
「いや別に楽しんでるわけじゃ……」
「何か、凄いデジャブを感じる……」
いつだったか、夢芽に告白した日のことを思い出す蓬。あの時は確かシズムにガウマ、ナイトに2代目が各々の思惑で見守っていたらしいが……そんなレベルの人数ではないこの状況に、思わず蓬も裕太達に同情してしまう。 - 166ハピエン至上主義23/06/18(日) 21:22:57
「ふ、二人におめでとうと言ってくるか……」
「バカやめろキャリバー!何考えてんだお前!?」
「……め、めでたいことではないのか?」
「そうかもしれないけど、ここは空気を読んであげようよ」
「……それ、今の俺らに一番無縁な言葉っすよ」
「あ、あの二人手を繋いだ!」
「初々しいな……」
「でもこっち来てない!?」
「帰り道がこっちなんでしょ」
「ヤバくないっすか、私達が尾けてきてたのバレちゃいますよ!?」
新世紀中学生も交えて再びわちゃわちゃし出す面々。そんな皆に混ざりながら、内海は嬉しそうな六花達の様子に一人安堵の息を漏らす。
「内海くん?」
「いや、何つーか……ホント良かったなって。そう思うよ」
「……だね」
立場は違えど、共に裕太の親友として二人の仲を心配していた者同士、内海と蓬は笑い合う。
本当に色々あったが、裕太も六花も落ち着くところに落ち着いたのだろう。野次馬めいた行動をしてしまったことは申し訳ないし、ほんの少し疎外感も感じてしまうが、それ以上に二人の気持ちが通じ合ったことは友人として喜ばしい。慌てる周りを横目に、内海は久々に心から安堵した笑顔を浮かべていた。
──後日。ちょっとした発言からこの時二人を尾けていたことが六花にバレ、他の皆が各々の世界に帰ってしまっていたがために、彼女の怒りを内海一人で受ける羽目になってしまったのはまた別の話である。 - 167二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 09:00:32
保守
- 168二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 11:52:51
保守
- 169二次元好きの匿名さん23/06/19(月) 19:26:32
続いて嬉しい
- 170二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 01:14:36
保守
- 171二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 01:49:44
アカネちゃんと蓬の話も楽しみにしてまっせ
- 172二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 09:58:19
はあ~、甘いぜ。これはハピエン至上主義を名乗るだけあるぜ
- 173二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 18:51:27
ピクシブまとめ待ってます
- 174二次元好きの匿名さん23/06/20(火) 21:24:25
保守
- 17510223/06/21(水) 06:58:47
このユニバースの裕太と六花がどうくっつか見たいと望むのは…野暮なのかな
- 176二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 08:09:49
ほしゅ
- 177二次元好きの匿名さん23/06/21(水) 17:35:07
- 178ハピエン至上主義23/06/22(木) 01:03:43
- 179二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 10:12:50
楽しみに待ってます!
- 180二次元好きの匿名さん23/06/22(木) 17:30:25
保守
- 181二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 02:44:53
保守。折角だしスレ完走したい
- 182二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 13:11:45
保守
- 183二次元好きの匿名さん23/06/23(金) 23:25:13
後日談SS待機
- 184二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 10:45:56
ほしゅ
- 185二次元好きの匿名さん23/06/24(土) 22:14:31
保守
- 186ハピエン至上主義23/06/25(日) 02:04:51
お待たせしました。もう少しでpixivの方に本編全部写し終えられそうなので、後日談その2をば
「ありがとうございました。お陰で裕太の助けになることができたし、貴方の力がなかったらもっと大変なことになってたと思います」
「そんなことないよ、今回私が手伝えたことは本当にほんの少しの助けだけ。響くんが取られていたものを取り戻すことができたのも、六花も助けることをできたのも君達が頑張ってくれたから。むしろ私の方がお礼を言わなきゃなんだけど……体の方は大丈夫?」
怪獣を倒し、事態を解決し終えて暫くして、蓬は水門の前でアカネと話していた。周りに自分が来ていることを知られたくないのか、アカネは陰に隠れているためその表情は窺えない。ただその声音からは暗い印象は微塵も受けなかった。
「はい、それは全然。けど実際……裕太は元に戻ったんですか?」
「あの子も言ってたと思うけど、あの怪獣は響くんの六花に対する想いそのものが利用されて怪獣になったもの。……残念だけど響くんの元に返ることはないよ。
今回響くんが取り戻したのは、あくまでもあの戦いから今日までの間に奪われた情動だけ。そういう意味では完全に元に戻ったとは言えないかな」
「そうですか……」
分かっていたことだが、やはり全部が上手くいくわけではないらしい。今後の二人のことを考えると少し気が重くなってしまう。
「蓬くんが気にすることじゃないよ。今回君は十分働いてくれたし、後のことは二人の問題だし、そんなに心配することでもないからね」
「……今回は俺、殆ど何も出来なかったですけど。
でも新条さんは本当に二人のこと心配じゃないんですか?それにこのまま最後まで六花さんに会わないままで……」
「……気にならないって言えば嘘になるけど、それ以上に大切な約束があるから。お互いのためにも、会わずに別れられるならそれでいいんだ」
「……そういうものですか」
「そういうものだよー」 - 187ハピエン至上主義23/06/25(日) 02:12:48
『……よもぎー!!』
そんな会話をしていると、不意に遠くから蓬を呼ぶ声が聞こえる。蓬の姿を見つけて夢芽が呼び来たらしい。今まで他の皆と野次馬をしていた筈だが、ずっと蓬が側にいなかったことを気にしていたのだろう。
「……迎えが来たみたいなんで、そろそろ俺行きますね」
「うん、本当にありがとね。……頼んだ私が言うのも何だけど、あの力はもう使わないほうがいいよ」
「……それができたら、俺もそうしたいんですけどね」
アカネの言葉に苦笑しつつ蓬は立ち去っていく。勿論その先にいるのは、彼にとって一番大切な少女だ。
『ねえ、私に内緒でコソコソ何やってたの?』
『いや、今回の件でお世話になった人がいたからお礼言いたくて』
『……知らない女の匂いがする。浮気?』
『そんな訳ないじゃん』
『……ホントに?』
途中で合流した夢芽に、自分の知らないところで何をしていたのか詰め寄られているその姿が、何だか微笑ましく見える。当人からすればたまったものじゃないのかもしれないけど、なんだかんだ蓬も満更ではなさそうだし、いつの間にやら夢芽は甘えるように蓬の背中に寄りかかって抱きついている。
「……きっと君は大丈夫だね」
世界こそ違えど、ある意味では自分と同じく、世界の理から外れた力を持っている少年。
だけど蓬はかつての自分とは違う。アカネを救ってくれた六花や裕太、内海と言った大切な友人達と同じような存在が、蓬の側にはいてくれている。彼が選び、彼に寄り添う存在がいてくれる限り、蓬が道を違えることはないだろう。 - 188ハピエン至上主義23/06/25(日) 02:14:33
不意に足音が聞こえ、アカネは後ろを振り返る。恐らく蓬との会話を邪魔しないように待っていたナイトがいつも通りの無愛想な表情で立っていた。
「話は終わったのか」
「元々お礼を言いたかっただけだから。……君もお疲れ様、お陰で凄く助かったよ」
「礼を言われることではない。俺は俺のやるべき事をやったまでだ」
あくまでも堅い返事に、昔はもう少し素直だった気がするんだけどなー、なんてアカネは苦笑する。一体誰の影響を受けたのやら。
「本当に良いのか?」
「何が?」
「……あの輪には加わることは出来ずとも、もっと近くに行くことくらいは許されるだろう」
言外に約束にこだわり過ぎているのではないか?と言っているのだろう、どうやら蓬と同じことを心配しているらしい。
そんな気を遣えるようになったんだな、としみじみ思ってしまうが、よく考えればナイトはアンチだった頃からそうだった。その方法は不器用なものではあったけど、彼は自身の在り方を模索すると共にアカネのことを常に気にかけていた。ただ単純に、あの頃のアカネにはそれを素直に受け止められるほどの余裕がなかっただけで。
「……良いんだよ、ここからで十分。これ以上近づくのは野暮になっちゃうし」
少し遠いが、ここからでも十分見守れる。そう思いながら視線の先に目をやると、裕太と六花が笑い合っている姿が見える。……うん、やっぱり心配する必要なんて何もない。
「……思えば、響くんが始まりだったもんね。私が作った私だけに都合が良い世界。それが崩れ始めたキッカケは、響くんの六花に対する想いだったんだから」
新条アカネが作った世界に最初に現れたイレギュラー。当時の世界でただ一人だけ、一番好きな女の子がアカネ以外の少女だった少年。その想いが世界の壁を壊す光景を何度も見てきたし、そもそも今回の事件の発端もその想いの強さにある。
確かにあの夜までに培ってきた裕太の六花への想いの殆どは怪獣になって消えてしまったかもしれない。しかしその程度で六花に対する何もかもが無くなってしまう程、あの少年の想いは小さくも軽くもない。 - 189ハピエン至上主義23/06/25(日) 02:16:26
「泣いているのか、新条アカネ」
「……そんな訳ないよ。ただちょっとだけ……」
裕太と六花、そして二人を傍で見守る内海や蓬達……あそこに混ざることが出来ないことが、ほんの少し寂しいだけ。だけどこの世界は自分が生きる世界ではないから、この気持ちは胸にしまう。本当の私が生きていく世界に帰るために。
……大丈夫。辛いことや挫けそうになることもあるけれど、こんな自分にも新しい友人ができたから。それに親友達が笑ってくれている、この光景を見ることが出来たから、私はこれからも頑張っていける。だから、
「──響くんと幸せにね、六花。我慢ばっかりしないで、たまにはちゃんと甘えなよ」
大切な親友達のこれからに祝福を。かつて神だった少女は微笑んで、彼らとは逆の方に、ナイトの横を過ぎていく。
別れの言葉はいらない。そもそもそういうのは苦手だし、言いたいことはもう全部言い終えて、
「……そういえばアンチ。あの子にはちゃんと挨拶したの?」
「……挨拶?」
と、一応気にかけることが一つあったことを思い出して、振り向かずにアカネは尋ねる。だが予想通りというべきか、ナイトの反応からして答えは明らかだった。
「全く誰に似たんだか……いいアンチ?今の君にはちゃんと待ってくれている人がいるんだから、挨拶はちゃんとしないとダメだよ。お別れはともかく、会った時の挨拶は大切なんだからね」
「……分かった」
多分無愛想かつ大真面目な顔で言っているであろうその声に、別の意味で微笑んでしまう。きっと彼女も苦労しているのだろうけど、それはそれ。彼と一緒にいることを選んだのだから頑張ってもらおう。
……そんなことを思い、夕陽に照らされながら、今度こそ新条アカネは自分がいるべき世界に帰っていった。
◇◇◇
そして一人の青年もまた、自身が共にいるべき相手の元へと帰っていく。自分にとって先輩であり、同志であり、相棒であり、姉のような存在でもあり、互いに守り合う相手。彼女に言うべき言葉は、新条アカネに諭されるまでもなく分かっている。
「──ただいま戻りました、2代目」
「──はい。お帰りなさい、ナイトくん」
心配はしていないと言いつつも、誰よりも青年の帰りを待っていた女性は、屈託のない笑顔を浮かべてその帰りも喜んでくれた。 - 190ハピエン至上主義23/06/25(日) 02:20:45
- 191二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 02:52:22
アカネママぁ〜
- 192二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 11:33:04
後日談も別シリーズのSSも楽しみにしてます!
- 193二次元好きの匿名さん23/06/25(日) 21:51:37
他のSSも楽しにしています。
- 194二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 05:03:15
次回作あるしたらまたスレ建てる?それとのピクシブをメインに活動する?SSも良いけど、またこれ見たいな長期シリーズもまた読みたい。
出たら「SSSSシリーズの好きなSSを貼るスレ」(まだあったら)で紹介します! - 195二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 13:45:17
保守
- 196二次元好きの匿名さん23/06/26(月) 14:58:04
保守
- 197二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 00:27:07
最後のレスはスレ主に譲りたい
- 198ハピエン至上主義23/06/27(火) 11:00:54
皆さん本当にありがとうございます。
>>194さんの質問ですが、長編になりそうなものが思いついたらスレ立てると思います。
- 199二次元好きの匿名さん23/06/27(火) 12:07:47
↓どうぞ
- 200ハピエン至上主義23/06/27(火) 23:59:49
改めてお付き合いいただきありがとうございました!
シリーズ関係ないですが、新作書いたのでよろしければこちらもお願いします!
#SSSS.GRIDMAN #裕六 合体ごっこ - ハピエン至上主義の小説 - pixiv「ダイナゼノンに乗ってる時ってどんな感じなの?」 ある日の『絢』でのこと。いつもの定位置に座りながら、内海くんが蓬くんにそんなことを尋ねていた。彼はウルトラシリーズが好きと公言しているが、ロボットにも興味があるとは意外だ。 「内海くん、ロボットも好きなの?ウルトラシリーズ関係なさ...www.pixiv.net