【SS・トレウマ注意】緋色の結婚

1二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 17:45:57

A Spouse of Scarlet
緋色の結婚

ミス＝パーフェクト、完璧なる少女。一目瞭然たる彼女の戦績は、まさしく「完璧」の体現。

彼女の女王足る圧倒的な脚もさながら、彼女の凛とした顔付きと豊満な身体もまた、彼女をより完璧な存在として君臨させる。

才色兼備の優等生。そんな彼女であるが、彼女もまたウェディングドレスに憧れを抱き続けて来た女性なのである。

少女なら一度は夢見るウェディングドレス。シャーベットカラーのベールを身に纏う彼女は、誰から見ても「美しい」、その一言に尽きた。

時に、人は美しい物を見ると自然と気分が高揚するのが自然の摂理である。かのミケランジェロのダヴィデ像に人は感嘆の息を漏らし、ミロのヴィーナスに魅入られ、モナリザの手に欲情する。それと同様に、女性が夢見る最も華々しい衣装に身を包んだ彼女の体貌を視界に入れたトレーナーが思わず高揚感に見舞われるのは、仕方ないのである。

結婚式の厳かな雰囲気を仮に壊しかねない彼の行動───否、行動には何も問題が無く、ウマ娘だから感知出来る程度に大きい足音だが───は、完璧主義者の彼女にとっては許容できない異物であっただろう。

「なにはしゃいでるのよ」

言葉だけ聞けば、それは刺々しく辛辣な言葉だろう。だが、その口調は彼を嗜める物でも無く、非難する物でも無く。ただ彼を、過酷な競技人生を共に駆け抜け、彼女の「完璧でありたい」という半ば無茶な夢を共に追い求め、そして共にゴールに導いてくれた、大切を越えて愛しい彼を、慈愛と共に迎える物であった。

それを証明する様に、彼女の端麗な顔はあどけなさを少々残した、彼と同様な満面の笑みを携えていた。

誰に言われるでもなく、互いに一歩、また一歩と距離が縮まる。ごく僅かだが確かに、ふわりとした優しく甘い匂いが風と共に飛来する。
　　　　　　　　・　・
もう一歩進めば、顔と顔が衝突する。そこまで来て、初めてお互いがここまで接近していた事に気付く。

どちらからともなく、クスっと笑う。その笑いは、互いにここまで接近していたことに気付かなかった事へのおかしさか、この距離感でもお互いを自然に受け入れている事への物か。
それとも、お互いが触れ合い、身体が発する熱を空気越しに感じられる事への安心感か。

「本当に.........バカね」

>>12

2二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 17:46:35

　　　　・・・・
それは、幾年も前に彼女が口にした言葉と、一言一句違わなかった。

「ふふっ...あの日の事を、アタシが忘れると思った？」

あの日。ビューティードリームカップに出場する事となり、”麗しの一着”を試着した日。トレーナーに、彼に、最高に美しい自分を見てもらう事を思わず楽しみに心待ちにしていた日。

あの時、確かに彼女は告げた。

───アタシたちのゴールはまだ先よ

「どうかしら？今日のアタシは」

まさか、あの日の言葉を忘れていないだろうか。そんな不安に駆られ、耳がぺたりと折れる。

だが、それは杞憂の事であった。

「───ええ、そうね！今日のアタシは、あの日のアタシよりも輝いているわよね！」

心の中で密かに誓った事。まだまだ、こんなものじゃないという事を、トレーナーに、バカなアイツに、皆に、知らしめる事。

今、この瞬間。全員が、彼女の凄さを思い知った。数多といるウマ娘という無色の綛糸のなかに、ダイワスカーレットという緋色の糸が一筋まじっている。そして、トレーナーはその綛糸を解きほぐし、分離し、彼女の凄さを白日のもとにさらけ出す務めを無事に果たした。

だからこそ、彼女はその豊満な胸を張って言えるのである。

「ねえ、トレーナー。アタシと一緒に、アタシたちのゴールまで最後まで付き合ってくれて、本当にありがとう！」

3二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 17:46:52

今日は、二人のゴール記念日。

皆に見守られ、一瞬どころか永遠にも思われる様な時間の中で。

翻されたシャーベットカラーの下から現れたのは。

あの日よりも、格段に眩く最高な笑顔と、何かを待つ様な瑞々しい唇であった。

誰も触れない二人だけの世界がそこにはあった。

滑やかな彼女に触れられるのはたった一人。

彼女と二人三脚で栄光を掴み取った彼のみなのは、当然である。

彼らが駆け抜けたゴールは、赤い布で覆われた最終直線の向こう側。

和如琴瑟と言うべき彼らは、確かにゴールインしたが、だからと言ってここで歩みを止める事は無い。

今まで一人だった走者が、二人三脚の二人に増えたに過ぎないのだから。

何時もの様に、時には口論になりながらも、更なるゴールを目指し、比翼の如き仲睦まじくどこまでも駆けて行くのだろう。