- 1二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 21:40:37
「ギャレスなら勿論ご存じだろうけど」
三角に膝を曲げて地べたに座りながら魔法薬のレシピやコツをまとめた自作ノートを読み返している男に話しかける人物は、男性とも女性とも取れるスリザリンの生徒だった。黒い骸骨を模した珍妙な仮面を外し隣へと座り、赤毛のグリフィンドール生の肩へ寄りかかりながら彼のノートを覗き見た。
「……相変わらず字汚いね、でも要点はよく纏められてる。んまあそんなことより。最も強力な愛の妙薬『アモルテンシア』の匂いは人によって異なるんだったよね?嗅いだ人の一番好きな香りになるんだとか」
「……………ああ、いかにも。対象がより手をつけたくなるように調合製法を考案したのか偶然こうなったのかはわからないけど、愛を強引に引き出すなんて強力な魔法薬を生み出せた訳だからきっと前者だろう」
ごく自然に筆跡を侮辱されたギャレスは一瞬煩わしさを覚えたものの、数秒の硬直を経て気持ちを落ち着かせてからどうして急にアモルテンシアの話を吹っ掛けてきたのかを疑問に思いながらそう返答した。
「愛といっても幸か不幸か、無条件の──真の愛を産み出すことは出来ないんだよね。ねえ、君にはどんな匂いが漂ってくると思う?」
(時間感覚を間違えて落としてしまった人) - 2二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 21:42:48
「んー、パッと思い付きはしないけど……強いて言うならフィフィ・フィズビーかな、あのシュワシュワ感が最高なんだ。匂いといわれればいまいちだけどさ」
『フィフィ・フィズビー』とはハニーデュークスにて販売されている炭酸入りのキャンディー。口に含むと宙に浮き上がるという欠点か利点かわからない特徴を好む者も少なくはない。二年前ギャレスがそのフィフィ・フィズビーを参考にした飲料の開発の為に乾燥させたビリーウィグの針を盗ませた事を思い出したスリザリン生は妙に納得したようにへぇ、と声に出した。
「てか、どうして急にアモルテンシアなんかに興味を示したんだい?」
「『この世で最も強力な愛の妙薬』なんて肩書きがついてたら気になっちゃうでしょ。ギャレスはそこら辺どうなのさ」
「僕だって魔法薬学の神童として実際何度か醸造してみようとしたけど……あんまりうまくいかなくってさ。四対零で僕の完敗だよ」
スリザリン生が五年生として編入して間もなかった頃、自己紹介間もなくしてギャレスは自他共に認める『魔法薬学の神童』と自身を呼称していた。どうやら今でも誇りに思っているようだ。
「そんな君でも失敗することはあるんだね。あれは上級指定されてるから仕方ないとはいえ……ねえ、今夜一緒にやってみない?」
「ポリジュース薬は造れたというのに不思議だよ。……やるって、まさか」
スリザリン生はギャレスの肩に手を回しにまにまと笑いながら一言「アモルテンシアの醸造だよ」とさぞ当たり前のように告げた。
- 3二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 21:44:29
期待
- 4二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 21:55:47
「僕が嗅いだらどんな匂いになるのか興味深いし、効果も一目見てみたいからね。ふふ、当然君に飲ませるなんて事しないよ?」
誰もなにも言ってないというのに何故か自分に飲ませるという案を勝手に却下され、別方面の恐怖を抱いたギャレスはさりげなくスリザリン生が座っている方向とは逆の方へと体の重心を傾ける。
「材料は僕が集めておくから。十時半がいいかな、じゃあ必要の部屋で待ってるね」
そう言い残して彼は立ち上がり、一方的に約束をこぎつけられ唖然としているギャレスへ手を振りながら小走りで去っていった。
深夜のホグワーツ城七階、天文台の塔に続く回廊へと足を運んだギャレスはその周辺を数回往き来し『必要の部屋』への入り口の出現を待った。再度壁に視線を向けると先程まではそんな気配もなかったというのに小綺麗な扉が鎮座していた。ドアノブに手をかけ中へ足を踏み入れたギャレスは一目見渡すだけでも広大な空間であることがわかる部屋へと導かれた。
壁一面を埋め尽くす絵画、ハナハッカに満月草などの魔法薬の素材となる植物から噛み噛み白菜や毒触手草といった危険性の高い魔法植物が部屋中を照らすシャンデリアの下栽培されている光景を目の当たりにしたギャレスは、何度も通いつめているというのに思わず息を飲み込んだ。
『ギャレスー?』
部屋主であるスリザリン生の声が西側の部屋から木霊する。名を呼ばれた男は立派に育った魔法植物、特に何故か他の魔法植物よりも多めに栽培されている噛み噛み白菜に(別の意味で)目が釘付けになりながら声が聞こえた方向へ歩みはじめた。
- 5二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 22:40:46
ずっと前に醸造が終わっているであろうウィゲンウェルド薬と集中薬が放置された調合台の数々が陳列された一室の隅、異様な大きさのソファに寝転がるスリザリン生がいた。入室した青年を見るなり上体を起こしあげ、安堵からくしゃっと笑うとソファから降りて床に置かれた箱を持ち上げる。
「良かった!ちゃんと来てくれた」
「待ちぼうけ食らわせるのも申し訳ないからね。 ん、その箱は?」
「材料に決まってるでしょ。この瓶が真珠の粉末、これが冷凍したアッシュワインダーの卵で、月長石の粉は……」
一つ一つを取り出し在庫の確認し終えたスリザリン生はギャレスへ目線を寄せて再度微笑み、「ちゃんとノートにレシピ写した?」と尋ねた。それに答えるようにギャレスはノートを取り出し、橙色の付箋が貼られたページを開いて彼に見せた。
「よしよし、準備万端!早速始めようか?」
「本当にやるつもりなんだね……」
「まあギャレスが来なくったって記憶頼りに一人でやるつもりだったし」
「うーん、これが強い野心か」
スリザリン生はアモルテンシアの醸造に使う調合台を確保するべく何日放置されたか未知数な集中薬を瓶に詰め、杖を一振りし鍋と周辺を綺麗にしてからギャレスと共にアモルテンシアのレシピに沿って材料を鍋へと投入していった。
「アッシュワインダーの卵は入れた?じゃあ次は薔薇の花びら、半分すりつぶして……残りは切り刻んで。月長石の粉はもう入れといたから、これを三十分くらい醸造しておく」
「最初の行程は結構楽じゃん」
「あぁ、でもそう簡単な問題じゃないんだ。最後に杖を振らないといけないんだけど、僕にはどうも感覚がいまいち掴めなくて」
「そこで僕の出番って訳だね?んじゃあ一次醸造終わったら呼んでよ、ニフラーとかユニコーン達に餌やってこないと」
- 6二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 22:53:55
スリザリン生はさながら『任せなさい』と豪語するように拳を握りながら不敵な笑みを見せて部屋をあとにした。ギャレスは彼の後ろ姿を見つめながら(ユニコーン『達』?)と希少な魔法生物を一頭以上保護しているという事実を疑った。鍋の中ひとりでに混ざりあう別系統の赤とぽつぽつと沸き始めた気泡に胸を弾ませながら標準サイズのソファへと腰掛け、自前のノートをまた読み返した。
とはいえ魔法薬に興味を示したその日から何冊ものノートの白紙を全て埋め続け、時折読み返し、新たな気付きを得る度小さな余白に書き殴り……一部といわず中級までの魔法薬についてほぼ全て暗記してしまったギャレスは、アモルテンシアの煮える音だけが鳴る部屋を抜け出しスリザリン生がいるであろう部屋(とは名ばかりで、実際は外を模倣する異空間)へと向かった。
『ああっ、ヘイゼル!毛は真っ白だからって心は真っ黒じゃないか!!その餌はビスケットの!弱いものいじめ反対!』
声だけでも何やら保護している魔法生物の一頭に手を焼いている様子が想像できるスリザリン生の状況を遠目に見たギャレスはすぐに彼の元へ駆け寄った。雪でさえ濁って見える程純白なユニコーンと、通常のより一回りほど小さいムーンカーフの間に一悶着あるようだ。
「だーかーらー!!!マフラーに噛みつかないっ……なんで君だけこんなに気性が荒いの……」
「えーと、手伝おうか?」
「わっ、ギャレス!僕は大丈夫、ただちょっとヘイゼルが他の子達の餌を勝手に食べようとしてて……温厚なはずのユニコーンがどうしてこんな感じなんだろう。あれ、もう三十分経っちゃった?」
「いや、まだ後十分くらいある。ただちょっと暇になってさ」
「あぁ、ごめんね。お詫びに後で僕と──」
「結構」
何と言おうとしたかは謎に包まれたままだが、経験談からろくな目には遭わないだろうと予期したギャレスは食い気味に断った。マフラーを真っ白なユニコーン──ヘイゼルに引っ張られながら不満そうな表情を映すスリザリン生は無礼にも面白く見えてしまい、ギャレスは咳払いする振りをして軽く笑った。
「誤魔化そうとしてもわかるんだよ!?笑い事じゃないって……もう、離して!ヘイゼル!」
- 7二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 23:26:00
ギャレスはマフラーを引っ張りながら必死にそう叫ぶスリザリン生をどうにか助けるべくヘイゼルの関心をそらそうとしたものの、女性を好むユニコーンの気質のせいで抵抗された挙げ句腹を重めに蹴られる羽目となった。
「あーあ、ぼろぼろになっちゃった」
スリザリン生はソファに腰を下ろし、所々ほつれて切り裂かれたような穴の空いてしまったマフラーを見つめながらため息を溢した。ギャレスは彼を気の毒に思い、壁に凭れかかりながら「入学当初から使ってたんだし、買い換えるのに良い機会じゃないか」と励まそうとした。
「……うーん、まあ、新品を買うってだけならそうなんだけど。えっと、そういう訳にもいかなくって」
一言一言の声量が弱々しくなっていきながらも笑顔を保とうとしている『陽の人』の具現化が、まるで親しい人が目の前で息絶えたかのように気分を落としている様子につられギャレスも眉間に皺が寄った。
「そんなに思い入れがあるのか」
「うん。フィグ先生がくれたから」
ギャレスは自分のあまりにも忖度を知らない発言に心苦しくなり、スリザリン生の隣へ座ると気まずそうに「ごめん」と一言呟いた。マフラーを握る手を緩めながらギャレスへ顔を向くと目を細めて笑みを繕った。
「もう二年前の事だから大丈夫だって、ちょっと寂しくなっちゃっただけだから!」
肩に寄りかかりまぶたを伏せたスリザリン生を憐れんだギャレスは自身の腕を彼の肩へと回した。
「積極的だね」
「なにを言ってるんだ?」
- 8二次元好きの匿名さん23/05/29(月) 23:54:04
環境音のみが心地よく空間に染み渡る静寂の中、鍋から巨大な気泡が破裂する音が聞こえた二人は即座に立ち上がる。時計の分針は醸造を始めた時刻とほぼ同じ位置に、時針はXII──十二時を指していた。
「こ、これって三十分丁度じゃなきゃダメだった感じ!?」
「そういう訳じゃないとは思うけど……まさか僕の今までの挑戦が全部失敗に終わったのって」
「ギャレスのバカ!!!」
「僕のせい!?関係ないかもしれないじゃないか!」
急ぎ足で火を止めた二人は鍋の中で沸々と煮えたぎる、先程までの熟したトマトのような彩色とは一転してほとんど黒一色の液体に不安を覚えながらも調合を一応完遂させようとした。
「……そして真珠の粉末を入れて、反時計回りに五回混ぜる。最後に杖を振る」
「ふー……僕の番だね。ギャレス、ノート貸して」
ノートを手渡されたスリザリン生は矢印や大まかな位置関係がスケッチされたページを注視し、杖先でなぞるように鍋の前で振った。
「うーん、手応えはあるんだけど一次醸造が危ういからな……」
「大丈夫だって! そういえば前失敗した時はどんなことが?」
「本来は真珠色の液体になって蒸気が螺旋状に上がるはずなんだけど、前回はレモンみたいな黄色で蒸気は何故か下に向かって出た……恐る恐るリアンダーに飲ませたら一日中しゃっくりが止まらなかった。後左手が麻痺してたらしい」
「なーんだそれ、まあ代わりに僕が見るよ……え?」
授業中にもしゃっくりを絶え間なくし続けるリアンダーを想像してクスッと笑ってしまったものの、その後の左腕が麻痺したという言及になんとも言えない気持ちを抱きながら鍋を覗き込んだ。ギャレスは一歩下がって報告を待った。
- 9二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 00:58:40
「……」
「……どうだ?」
スリザリン生は問い掛けに言葉一つ紡がず液体を掬い上げ小瓶に移すと速やかにギャレスへ手渡して直ぐ様鍋の前へ戻る。ギラギラと照る無調色の真珠をそのまま溶かしたような銀色の液体を詰めた小瓶を様々な角度から眺め、また天井にのぼる螺旋を形作る湯気に目配せするとギャレスは醸造の成功を確信した。
「まさか本当にやり遂げた……?なあ、───」
「ギャレス」
ギャレスがスリザリン生の名を呼び掛けようとした刹那、彼がそれを拒むように、それを押し退けるように口を開いた。
「………あっ、えっと、ギャレスと、シナモンの匂いがする」
「「………」」
先ほどギャレスに渡した小瓶よりいくらか大きめの瓶に残りを注いだスリザリン生は背筋を伸ばしながらあくびを溢した。
「折角成功しちゃったし、試してみたいよね」
「僕には飲ませないって言っただろ」
「わかってるって、だから僕が飲むの」
「……は?いやちょっと待って、アモルテンシアの効果わかってる?君とはいえその量でも……あぁぁ…」
- 10二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 01:36:14
スリザリン生は制止に一切の耳を貸さずなんの躊躇も無しに瓶の蓋を開け中身を一気に飲み干した。空瓶を強く握りしめながら焦りと呆れを隠せずにいるギャレスを一目見て目を細めたスリザリン生は彼へじりじりと歩み寄り始める。壁際に追い詰めると、そばかすがちりばめられた頬に手を添えながら彼はただ笑った。
「なあ、大丈夫か……?あっ、ちょっと、おい」
「ギャレス」
名を呼ばれて肩を竦めたが、その後の彼が向けたなんの変哲もない笑顔にギャレスは体から一気に力が抜けた。
「これ、僕には効果ないっぽい」
「え」
「多分この薬が引き起こす執着心だとか強迫観念とかより僕が元々ギャレスに向けてる気持ちが勝っちゃったっぽいんだよね」
「はぁ……うん、とりあえず大丈夫そうでよかったよ」
「えへへへへ」
「本当にやめてそういうの怖いから」
- 11二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 02:28:26
午後一時過ぎのある日、中庭のベンチに座るギャレスを半ば寝そべりながら抱きしめているスリザリン生を目撃したのは鳶色の髪をもつグリフィンドール生の少年だった。
「こんにちは、先輩」
「あっ、アルバスー!」
目の前に広がる光景に無自覚の内に顔をしかめたアルバスへ手を振ったスリザリン生はそのまま「抜き打ちテストはどうだった?事前の勉強会は助かったかな」と何食わぬ顔で尋ねた。
「おかげさまでなんとか。あの、今度、というより今日良ければとある呪文を教えてほしいのですが」
「いいよー、じゃあ夕食の後必要の部屋で!」
「ありがとうございます。……えっと、ギャレス先輩、大変そうですね」
アルバスは魔法生物飼育学の宿題を提出期限二時間前に急遽終わらせにかかっているギャレスに目配せして声掛ける。
「やあアルバス君、いやー……どうしても生物達に関心がいかなくて。魔法生物からしか採取できない物質があるとはいえ、結局魔法薬の延長線みたいな」
「一つの事に熱中できるのは称賛に値するけどアルバスはこうならないでねー」
「印象操作するなって」
「…………はい。それではまた後で」
アルバスが背を向けて歩いていくのを見届けたスリザリン生はだらしない体勢を立て直してから未だに三問目から進んでいないギャレスの宿題を見下ろした。
- 12二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 02:28:38
そろそろ寝よう……
- 13二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 09:19:21
このレスは削除されています
- 14二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 09:20:37
このレスは削除されています
- 15二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 09:21:35
「いやー、やっぱり後輩に頼られるといい気分になるね!」
「君はそろそろ応えてあげた方がいいと思うんだ」
「ん、何について?……あぁ、スニジェットはすっごい小さい黄色の鳥だよ。かつてゴールデンスニッチが発明されるまでクィディッチで使用されていた魔法生物で、今はすごく希少だから保護区域が各地にあったりするんだ」
『3. スニジェットの外見及び実態、現状を述べよ。』に随分と行き詰まっているのだろうと解釈したスリザリン生は自分が模範的だと思った回答を告げた。思考を巡らせながら手の中でゆらゆら揺れていた羽根ペンはその発言を最後にぴたりと静止し、それと同時期にペンの持ち主は嘆息を漏らした。
「……こっちじゃなくて……いやありがとう、ありがたいんだけど、僕が言ってるのはアルバス君についてなんだ」
「アルバス?」
「……なんでもない」
ギャレスは言葉を選びながらグリフィンドールの一年生についての助言を脳内で構成していたが、最初の一言を発する前に諦めをつけスリザリン生が口走った答えを内容をほぼ全て据え置きに学術的な文体にし羊皮紙に綴った。
(寝起きに手直しすると誤字が増える増える……)
- 16二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 13:02:15
- 17二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 16:49:54
「……やっぱりあの二人ってそういう感じなんでしょうか」
「ギャレスの方は何も言ってないだけで実はうざがってるんじゃないか?ああ、あいつも別に誰とも付き合ってはいないって言ってたからな」
当のギャレス本人はうざがっているというよりかは無関心で勝手にさせている……むしろ素材調達班兼実験台として都合が良いため満更でもないという事を、彼とあまり関わりを持っていないとはいえど知っていたオミニスは少し罪悪感を覚えながらもその場しのぎの励ましを送った。それに続きセバスチャンも同じく助言を付け足す。
「僕は恋愛とかそういうのわからないからいまいちアドバイスは出来ないけど、やっぱり一緒にいる時間を増やせばいいんじゃないか?ほら、単純接触効果ってものだよ」
「あぁ……実は先輩と今晩必要の部屋で待ち合わせをしてて、きっと二人きりになると思うんですけど」
セバスチャンとオミニスは二人偶然息を揃えて「おぉ~」と感心した。
- 18二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 17:42:40
「やっぱり遠回しでも伝えてみるべきでしょうか。僕はまだまだ子どもなので、あの人の眼中には絶対入らないし……もっとアピールしないといけないですよね」
「ゆっくり頑張るといいよ、焦ってもあの自由人を相手に即効性を期待はできないから。何かあったらいつでも僕らに話していいからさ」
セバスチャンはそう言いながらアルバスの肩に手を置き、軽くぱしぱしと叩いて鼓舞した。元気付けられたのかアルバスの口角は少しばかり上がっていた。
「えっと……頑張ります。本、持っててくれてありがとうございました。それではまた」
「あっ、ちょっと待って!」
本を受け取ろうと腕を伸ばしたアルバスを止めたセバスチャンは何を思い付いたのか自身のフィールドワーク本から羊皮紙を取りだし、端を千切って出来た紙切れに何かを書き込むとそれを教科書の適当なページに挟みアルバスへ返した。
「今のは?」
「んー、僕目線では面白い情報だよ。自由時間に読んでみて」
得意気に笑うセバスチャンから本を回収したアルバスは二人に会釈し、闇の魔術に対する防衛術の教室へ去っていった。
「もう直接僕らから話せばいいんじゃないかって思い始めてる」
「焦るなって、出来ることはないよ。あいつは決断を曲げる奴じゃない。だからスリザリンなんだ、昔の君みたいに」
「あの時の僕はどうかしてたって自覚しているよ。だからアルバス君があんな風に毎日葛藤してるの見るのが辛いんだ」
オミニスはセバスチャンを見ながら(盲目故にセバスチャンのいる大雑把な方向へ向いて)重くため息をついてこう告げる。
「あいつは違うよ、別に間違っていることは一切していない。ただ変人ってだけ」
- 19二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 18:14:29
「……本当に本当に、『一切』してないかな?実際に目の当たりにするとそこら辺の闇の魔法使いよりも恐ろしいあれは『間違っていない』といえるのかどうか……」
「返答に困るよ、セバスチャン。確かに目が見えない俺でさえ音と杖の知覚だけで背筋が凍ってしまう程だけど」
「あれは効率化を極めすぎてむしろ清々しいよ。使えるものはなんでも使うみたいな考えを突き詰めるとああなってしまうんだと身をもって学んだね」
明確に述べずとも二人はお互い全くもって同じ光景を思い浮かべているのだろうと察していた。それは『バレるまで目眩まし術とペトリフィカス・トタルスでの不意打ち、そして気づかれたら即座に変身術を効率的に利用(悪用)し対象を火薬樽に変え、ウィンガーディアム・レヴィオサーでもデパルソでもロコモーターでもない謎の魔法で投げつけ爆破させた後、許されざる呪文を躊躇いなく放つ例のスリザリン生の後ろ姿』と嫌になるくらい具体的なものだった。
「……でも五年の頃の君だってスリザリンの書斎で──」
「あの時の僕はどうにかしてたって!」
「なんの話?」
背後からの気配に一切気づかなかった二人は肩をはね上げながら咄嗟に振り返る。黒い骸骨の仮面を上下反対に付けたスリザリン生は二人の驚いた表情を見て不思議に思いながらも会話に混じった。
「あぁ、なんだ……噂をすればって所かな」
「なにそれー、僕の話してたってこと?本人がいないところで人の話するのはスタンディングオベーションでもない限りダメなんだよ」
「スタンディ……?まあいいか。オミニスと君の戦い方についてちょっとね」
「教えてほしいならいつでも時間開けるのに」
「真似したくても到底出来ないから」
- 20二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 21:54:18
『……セバスチャン、さっきはああ言っていたけどやっぱりアルバスの事を援護するべきだとは思わないか?』
スリザリン生のペースに飲まれそうになっているセバスチャンにオミニスはできるだけ唇を動かさず(願わくは)彼にだけ聞こえる声量で囁いた。それに気づいたのか単純に気分が変わったのかはわからないが、彼はいつの間にか自身の行いの正当化を図っている。
『つまりこの誰も聞いてないのに自分の所業を全てランロク(死去)とルックウッド(死去)に責任転嫁している男に恋愛を説きやがれ、と。ああ、コンフリンゴで制御魔法のバリアーを割るより簡単じゃないか』
『コンフリンゴでは割れな──』
「わかっ……!!、てる』
皮肉がいまいち伝わらなかったことに揺らぎ文頭の声色を多少荒げてしまったセバスチャンはそう言い終わると同時にスリザリン生とオミニスへ交互に何度か目配せした。
- 21二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 22:51:19
「ふー……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「変に畏まらなくていいのに」
「わかってる。前にアルバス君と少し会話を交えたんだけど、君についての話題になんだか苦い反応をしていたんだ。一体彼になにをしているんだ?」
意外なタイミングで後輩の名を出され好奇が湧き始めたスリザリン生は仮面をずらすと『続けて』と催促するように二回程頷いた。意図に気付いたセバスチャンは極力本筋に触れないようにアルバスについて再度言及した。
「……そういえば入学してすぐ声をかけていたね。彼になにをして、一体どうするつもりなんだい?」
「やだなぁ、アルバスには底知れない才能が秘められてるから僕がワンツーマンで先導してあげてるだけだよ」
「教師陣に任せればいいだろう」
「そういわれてもなー。気になっちゃったんだから仕方ないでしょ」
五年生の途中で編入してから今まで数々の伝説を作り上げたスリザリン生だったが、それでもまだまだ学ぶ為にホグワーツに通っている身とはいえお節介を焼くのが好きな性分で時折人を振り回すこともあった。だがその鑑識眼はお墨付きなのもまた事実。
「純粋な才能は一目見るだけでわかっちゃうものなんだよ、それを伸ばせる時に伸ばさないなんて宝の持ち腐れになっちゃう」
「わかってる──」
「理解できるが、一年生相手にあまりにも過酷なことをさせているとしたらそれについては話し合わないといけない。アルバスは君を先輩と呼び敬っている、その好意に甘えるのも大概にするべきだ」
故意ではないにしろセバスチャンの返答を遮る形でオミニスはそう言い通した。鋭く細めた白濁の目と腕組みが合わさり、おおよそ威圧的なものだった。
- 22二次元好きの匿名さん23/05/30(火) 23:18:46
そういえば>>20でレガ主を男と断言してしまってたけど性別は一任みたいなそんな……俺は男前提で書いてたからやっちまったなァっ!
- 23二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 07:58:34
時間がとれない……自演保守……
- 24二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 15:12:44
「心配性だなぁ。でも君にセバスチャン以外にも親しみを込めて関われる人ができて嬉しいや」
「話をそらさない」
「へへ。でもね、大丈夫だよ。僕はアルバスの事を愛しているもの。この程度でへこたれる奴だったらとっくのとうに見放してるからね」
普段の活気溢れてなお掴み所のない物言いとは一変し、誰の思いにもよらなかった静やかな声色から発せられた『愛している』に確かな摯実さを感じたセバスチャンとオミニスはお互い目を見合わせた。
「アルバス君本人に言ってやりなよ」
「言ったよ?」
「あっ、言ったんだ……」
オミニスも一言一句同じ事を言いかけた。
「うん、でも反応がすっごく冷たかったんだよ?そっぽ向いて『そうですか』ってさ!せめてありがとうくらいは言ってほしか──あっ!!ギャレスー!!」
偶然通りかかった赤毛のグリフィンドール生を一目見かけたスリザリン生は、突如額につけていた黒い骸骨の仮面を剥ぎとり床に放り投げると彼の元へ軽快に走り寄った。カタカタと音を立てて床に落ちた仮面は、一拍置いてすぐさま呼び寄せ呪文で持ち主の手元に戻っていく。
そして数秒後には悲鳴とも呼べる叫び声がホグワーツ城の一角に響き渡った。
「うーん、つくづくゲリラ豪雨みたいなやつだ。アルバスはあいつのどこに惹かれたんだろうな」
- 25二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 19:54:15
書きたいシーンその場でひたすら書いてるから>>1から>>10が一話、>>11から>>24までが二話みたいにほんの少ッッッッしずつ進んでいく一話完結形式になっているような気がするぜ
- 26二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 20:46:34
応援している保守
- 27二次元好きの匿名さん23/05/31(水) 22:42:05
真夜中、まだ一年生の幼い少年を連れて森の中へ訪れたスリザリンの生徒は野営地の中心で焚き火を囲む複数の人物を目撃した。屈みながら自身の口元に人差し指を立て音を立てぬようにとジェスチャーを送ってから目眩まし術をかけ、木箱の裏へと忍び寄っていった。
杖先から赤い光を離れた地面に撃つとそれに気づいた男数人が引き寄せられていく。その隙に警戒心の薄い輩へ音を殺したまま駆け足で距離を縮めていった。
『ペトリフィカス・トタルス』
標的の背後に回ると杖を振り下ろしてそう唱えた瞬間、標的の身体はバキバキと石のように硬直しそのまま地面へ仰向けになる。石化魔法の詠唱者はその場に留まるような悠長なことはせずに直ぐ様赤い光に関心を惹かれた男達に駆け寄り、同じ呪文を一人にかけると先程の者と同じ末路を迎えた。一点違う事といえば彼の周囲にいた男達にも魔法が連鎖したように倒れてしまったことだ。
「アルバス、今の見たかい?いや見えたのはきっとこいつらがバタバタ倒れていくところだけだろうけど」
一人野営地の中心に残されたスリザリン生は半ば強引に連れていった少年のいる方角へ向かって得意気に声をかけた。テントの後ろに隠れていたグリフィンドール生は、血は一滴も流れてないとはいえ死にたてほやほやの身体が散乱している光景に一瞬目眩を覚えた。
「……先輩、ペトリフィカス・トタルスはただ全身を金縛りにあわせる呪文なんじゃないんですか?」
「さぁね」
「僕に教えたものとは随分と乖離しているようですけど」
「仕方ないじゃん、死んじゃうんだから……アルバスの魔法力ならもう少し練習すれば同じようにできると思うな」
- 28二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 08:06:14
自演保守 こんな自分にしか需要がなさそうな概念の掃き溜めスレに来てくれた方々には頭があがらないな……
- 29二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 16:19:58
ほしゅ
- 30二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 18:26:24
「僕は自衛や出来る限り傷つけずに拘束する為の呪文を知りたいのであって、即死呪文ではないんです」
「最初からそう言ってくれればよかったのに!でもそんな便利なものない…… あ、ある。ふふふ、とっておきの呪文があるんだ」
大抵の場合屈託のない笑みで『とっておき』と言われれば嫌でも期待に胸が弾むものだが、目の前のスリザリン生が数分前に開催した透明人間の殺戮ショーを最前席で見てしまったアルバスの心臓はまた別の、あまり望ましくない理由で素早く脈を打ち始めた。
「それで、貴方がいうとっておきとは一体どんな闇の魔術なんですか?」
「どうして闇の魔術前提なの!?」
「自分の胸に手を当てて聞いてみてはいかがでしょうか」
「アルバスってば僕が野蛮な奴だって思ってるでしょ、もう。まあいいや、本題に入るよ」
アルバスが思わず口走りかけた『実際野蛮人なのでは?』の一言を喉奥に押し込み、内容はともあれスリザリン生の教えを拝聴する心の準備をした。
『────、』
こんな前置きからは想像できない程に単純な呪文を口ずさんだ瞬間男達の亡骸が宙に浮き始め、ガチガチに筋肉が硬直した身体に似合わずふよふよと水の上に浮かんでいるかのような挙動をとった。あまりにも唐突で想定外だった『それ』の詠唱はは聡くも幼いアルバスの脳で処理されることはなかった。
- 31二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 20:24:35
「……えっと、これは?」
「?レヴィオーソだよ」
杖の一振りで基礎中の基礎である浮遊呪文『レヴィオーソ』をどういうことか複数の対象にかけ、それを難なく浮かび上がらせたスリザリン生は困惑と驚嘆から目を見開いて周囲を見渡すアルバスに何食わぬ顔でそう答えた。
「物体を浮かせるだけだと授業で教わりましたが」
「僕のクラスメート達もそう思ってたんだけど、ヘキャット先生の見せしm……実技でリアンダーを宙に浮かせてから意識が変わったみたい。いやー僕もかなりお世話になったよ」
「……レヴィオーソが使い方次第で極めて強力なことはわかりました」
勢いが弱まりつつある焚き火に照らされた数多の体を見上げながら、アルバスは心に秘めていた疑問を投げかけた。
「どうやってたった一回の浮遊呪文で複数の物体……しかも人間を浮かばせているんですか?」
「単純だよ」
「単純、といいますと?」
「『才能』」
「……貴方が優秀な魔法使いなのはわかっていますけど、それは流石にどうかと」
「あはは~。そうだ、アルバスも練習してみる?この木箱で試してみようよ」
浮遊呪文を解除した途端、低く見積もっても地面から二メートル上で浮き沈みを繰り返していた亡骸がドサドサと叩きつけられる現場に居合わせたアルバスは思わず一歩後ずさった。それに目もくれずスリザリン生は『アクシオ』と唱え、積み上げられた木箱の山から二箱同時に近くへと呼び寄せる。
- 32二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 21:18:22
「レヴィオーソで……そうだね、あそこのテントより高く浮かばせられたら帰ろうか。見たところ二メートル半くらいかな」
「無茶言うのやめてください、中身空っぽとはいえこんなでかいの出来るわけないじゃないですか」
「僕に出来るならアルバスに出来ない道理はないよ」
冗談目かした微笑みを向けながらそう告げるスリザリン生を前にアルバスはいまいち形容しがたい気持ちを患った。最も尊敬する人の一人が自分を高く評価してくれている事は嬉しいことこの上ないものの、まるで自分の方が優秀だという前提を刷り込もうとしている様に思えて気が気ではなかったのだ。
もどかしさを覚えながらも浮遊呪文で何度も木箱を浮かばせていったアルバスは試み毎に高さが徐々に上昇している事に気づき、無意識の内に(習慣で)一歩下がって見ていたスリザリン生の方を一瞥した。
「特に何も意識してないのに……」
「ね?アルバスなら試行回数を重ねていくだけで要領が掴めると思ったんだ。集中だよ、集中。後もうちょっと」
スリザリン生は火が消えかかった焚き火の代わりとして杖光りの呪文を唱え、周囲を照らしながら督励する。アルバスは鼓舞に首肯で応答し、また木箱に目線を落とすとに杖を向け『レヴィオーソ』を掛けた。
「うわ───!?」
想定よりも素早く、著しく高くまで砂埃を軽く舞いあげながら打ち上げられた木箱の行方を探るべく辺りを見渡した。頭上何メートル程の高さに(最低でも二桁はいっているであろう)木箱をやっと見据えたかと思えば『レヴィオーソ』が途切れたのか急落下しはじめた。
『コンフリンゴ』
鋭く唱えられた爆発呪文に続いて杖先から撃ち出された火の玉は瞬く間に木箱へ直撃し、鈍い爆発音と共に燃え盛り粉々になった木片と火花が降り注いだ。
- 33二次元好きの匿名さん23/06/01(木) 21:20:34
(タイトル詐欺言われそうだからそろそろギャレスくんを……でもアルバス(→)レガ主の構図をレガ主→→→→ギャレスの為に深めたいんだ……後単純にアルバス少年書くの楽しい)
- 34二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 00:42:12
保守
- 35二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 04:12:12
深夜に起きちゃってSSまとめで見かけたから読んで気づいたら4時になってた…セバオミの会話好きすぎる…保守り
- 36二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 08:14:49
このレスは削除されています
- 37二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 09:18:44
「アルバス、集中」
間髪いれず諭すような物言いでそう述べたスリザリン生は空に向けた杖を下げ、再度杖光り魔法を唱えた。焦げ付いた木箱の破片を拾い上げて照らし、状態を確認した後フィールドガイド本の隙間に(実際は検知不可能拡大呪文でも掛けられたのか必要に応じて広がる空間に)しまいこみ、自身の杖を疑惑の目で見つめながら慄然としているアルバスへ振り向いた。
「でももう帰ろうか。疲れてるでしょ?」
口元を綻ばせながら左手を差し出したスリザリン生が口を噤んだままの少年にそう問い掛けると、彼は何も言わずその手を取り二人は帰路に着き始めた。『血の気が引いた』という言い回しが最も似合うくらいにアルバスの幼い手は冷えていた。
「眠いとコントロールが難しいのかな」
「……いえ、眠いとか、疲れとかは全く感じてませんでした」
「それじゃあさっきはなんだったんだろう?怖いなぁアルバスは、僕もあの木箱みたいに打ち上げられちゃうかもね」
くすくすと面白半分に話し続けるスリザリン生とは対照的に、その一文を真摯に受け取ってしまったアルバスは握る手に力を込めた。右隣を歩く上級生をじっと見上げながら微かに震えた声で一つのもしも話を投げかける。
「もし本当にそうなったらどうしますか」
(フィールドガイド本の原理がわからないから拡大魔法として解釈した 見逃したかもしれないし言及されたかもわからない!有識者教えてくれ!!)
- 38二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 20:00:18
アルバスはそう言い終えるとピタっと立ち止まった。秘められていた不安を吐露したかのように低く濁った声に僅かな驚きを覚えつつ、星を散りばめた青い夜のように輝く瞳に見つめられたスリザリン生は同じく足を止め、常日頃顔中に広がる大きな笑みとは全くの反対に、むしろ今涙がこぼれても不自然に見えない程悲壮が織り交ぜられた作り物らしい笑顔を貼り付けて率直に答えた。
「偉大な魔法使いの魔法に掛けられるのなら本望だよ」
「先輩、そういう──」
スリザリン生はアルバスの手を繋いだまま目線を合わせるように少しかがんだ後、二の矢を継ぐことも許さずに続ける。
「それにね、アルバス、変に意識しちゃう方が嫌な想像を現実にしちゃうかもしれないし、疲れちゃうでしょ?人に掛ける迷惑なんて考えずに生きればいいの、まだまだ子どもなんだから」
アルバスは目を見開き、同時に右手に込める力が強くなった。
「……貴方がいうと説得力が違いますね」
「ちょっと、それってどういう意味!?」
憎まれ口を叩くといつものように目を見開きながら大袈裟なリアクションをとったスリザリン生を前に、アルバスは自身の心の中で渦巻いていた当惑が霧が空気に溶けてなくなる様に消え去っていた事にも気付かずに顔が少しばかり綻んでいた。
イグナチア・ワイルドスミスの肖像画が飾られた青緑の炎が灯った暖炉が視界に映ると、アルバスは肖像画に描かれた女性を睨んだ後スリザリン生の手を強く握り、軽く自身の方へと引っ張った。
「……先輩」
「ん?」
- 39二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 20:46:11
「今日はまだ一緒にいたいです」
「あはは、もう寝る時間だよ」
「僕を強引に連れてったのは先輩の方じゃないですか、少し位僕のわがままも聞いてください」
アルバスは両手でスリザリン生の左手を包もうにも、七年生と一年生の力比べの勝敗は火を見るよりも明らかだった。スリザリン生はいともたやすく手を引っこ抜くと、本からフルーパウダーの入った小さな袋を取り出した。やれやれと首を横に振りながら
「じゃあ煙突飛行で途中まで飛んでから一緒に歩こうか」
折衷案に目を輝かせたアルバスの頭をスリザリン生はくしゃっと髪を掻き乱すように乱雑に撫でた。驚嘆から口をついて出た素っ頓狂な声を軽く鼻で笑い、彼の手をとってフルーパウダーをいくらか手のひらに乗せた。そのまま本を捲り、地図を凝視するかの様に一枚のページと睨みあった。
「……えーっと、この『北ホグワーツ地域東部』が良さそう?」
「どこですかそこ。すごく大雑把なようですけど」
「仕方ないじゃんこう『記載』されてたんだから!」
わざとらしくパタンと音を立てて本を閉ざし、ポケットでもついてるかのようにローブにしまうような動作で『消した』後、「行った行った」とアルバスの両肩を掴み半ば押し込むように煙突飛行の前に立たせた。
「……えっと、どこにいくんでしたっけ?」
「『北ホグワーツ地域東部』!」
- 40二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 20:48:00
(ここのレガ主は無自覚的にメタ発言する人でその半分は自分でも後でなに言ってたかわからなくなったりする)
- 41二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 21:50:28
──
「うおおー……視界がぐらぐらする……アルバスー、大丈夫?」
移動する際に訪れるさながら渦巻きに巻き込まれるような感覚は、何十回も何百回も辺りを煙突飛行で飛び回ってきたスリザリン生でもたまに堪えるものがあった。目的地に到着してしばらくはぐらぐらとふらつく視界と平衡感覚を和ますべく片手を暖炉に着けたまま額を抑える。少し離れた位置に立っていたアルバスは後から遅れて到着したスリザリン生に近寄った。
「あ、先輩。僕は大丈夫ですよ。先輩は大丈夫──ではなさそうですね」
「変だよね、慣れてるハズなんだけど」
「貴方の方が疲れてるのかもしれませんね」
アルバスはスリザリン生を気に掛けながら、ふと抱いた疑問を問うた。
「あの、さっきの暖炉、フルーパウダー入れる前から炎が緑色だったのですが」
「んー……?あぁ、なんでだろうね、ついさっきまで誰かが使ってたのかもね」
「人の気配なんてありませんでしたけどね」
「大丈夫でしょー、どうってことないよ!」
『北ホグワーツ地域東部』まで飛んだ際に利用した暖炉にも既に緑の炎が点っている事に気付いたアルバスは理由もなしに謎の悪寒を覚えた。
- 42二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 06:55:22
そういえば石化呪文は金縛りだけなはずなのになんでホグレガではほぼ一撃必殺なんだろう… 才能(ポイント振り分け)とかマップ上の暖炉の名称とかたまにメタいの好きすぎる
- 43二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 12:33:39
「そういえば先輩ってちゃんとした趣味とかありるんですか?」
足音のみが寂しく消え入る夜道の静けさを紛らわすべく、「ちゃんとした」という一言を強調しながらアルバスは質問を投げ掛けた。
「あるに決まってるじゃないか!魔法生物達の保護に飼育、植物の栽培──」
「えぇ、知ってます。本当に物は言いようですね。他には?」
「魔法生物の保護」は言い方を変えただけでほとんど彼が常日頃『正義の鉄槌』を食らわせている密猟者の所業と差ほど変わらないものだが、少なくとも自分は信頼できる取引先(ブルード・アンド・ペックの店主)に委ねているとその都度自己弁護している。
「むむ……人助け」
「左様ですか?」
「なにその言い方!本当だってば!皆の笑顔大好きだし、頼られると嬉しいの」
アルバスはむすっと17歳らしからぬ表情でへそを曲げたスリザリン生に呆れながらもどうにかあやそうと彼の今までの行いを褒めちぎった。
「ごめんなさい。でも先輩は本当に素晴らしい人ですよ、自分にほとんど利がない頼みでさえ二つ返事で聞き入れてしまうんですから」
「役に立てるって良いことでしょ」
「はい、すごく良いことですよ。少し心配でもありますけどね」
「なんでさ」
- 44二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 15:41:46
「なんでもするからです。『してしまう』、ですかね」
アルバスはいつの間にか離されていた手を握りなおすと、いまいち納得のいっていない様子でだんまりを決め込むスリザリン生に結論から入ることにした。
「要するに……手を貸す人はちゃんと選んでくださいって事です。自分の影響力を甘んじないように」
「んんー、アルバスが言わなくったってちゃんと手を貸す人は選んでるよ」
「貴方がそう思っているなら良いのですけど……」
スリザリン生は世話を焼くのが生き甲斐かとでもいう程にホグワーツ生のちょっとした悩みやお遊びにも嬉々として付き合い、時間があれば城の外を渡り歩き(飛び回り)ホグズミードに終わらずアランシャイアやフェルドクロフトに幾度か訪れて顔を広めていっている。
その働きぶりに「なんでも屋」と呼ばれる程で、本人はともかく彼と親しむ者達はその博愛気質を逆に気がかりに思うことがあり、アルバスはその中でも特に不安を煽られている人物であった。
「でも、心配して良いですよね」
「なんか変な言い回しー。僕はアルバスよりうんと年上なのにな」
「……ダメですか?」
アルバスはサファイアをそのまま嵌め込んだかのように眩い目でスリザリン生の方を見つめる。泣き落とし等は一切意図してないというのに、スリザリン生にはアルバスの瞳がうるうると揺れて見えた。
「ダ、ダメなんて言ってない!」
- 45二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 15:59:06
三話(仮)終わりだァ!アルバス少年書くの楽しすぎる
- 46二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 23:14:47
保守
- 47二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 07:28:54
自演保守
Q. なんでメインがギャレスなの?スリザリン二人とかのが需要あるんじゃないの?
A. 俺が人を利用しまくる畜生じみた善人が大好きだからです - 48二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 12:03:28
正午の太陽でさえ漂う憂いを払いのけられないサウスシー湿原にて、荒く舗装された土道を球体をかたどった煙が白い尾を引きながら何かがかき混ぜられるような音を鳴らし、その数瞬にして一点からもう一点へ横切った。グルグルと渦巻く人魂のような物体から現れたのはスリザリン寮のローブを纏った生徒。彼が『着地』した場所から少し離れた位置に彼に追い付こうと走る男がいた。
「ちょっと待ってくれよ……道案内してるのは僕だろう……!ただ着いてきてって言っただけなのに、はぁっ……止まって……」
「もう!ギャレスってば遅いなぁ」
全速力で後を追うにも、走行とは移動効率が比べ物にならないくらい優れている『ローリング』は転がった場所から更に六メートル程進める便利な技術。(勿論室内では使えないが)膝に手をつき浅い呼吸を繰り返すギャレスにスリザリン生は駆け寄った。
- 49二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 15:36:10
「君ってこんなに体力なかったっけ?」
「誰でも3時間ぶっ通しで走ってたら……はあ……こうなるに決まってるだろう!?煙突飛行使えばこんな遠出せずに済んだんじゃ……」
「僕あそこまだ解放してないからなぁー。ヤマアラシ君たちの生息地はこっからまだ後……えーっと、1300くらいあるから頑張ろうか」
「解放……?いや1300の何?」
「こっちの話だからだーいじょうぶ」
二年前ウィーズリー副校長によって支給されたフィールドガイドを保管する本は恩師によって様々な呪文がかけられており、いずれのほとんどををスリザリン生は感覚で常日頃活用している。なおその原理の全ては理解しきれておらず、まれに何者かが『選択』する権利を剥奪しているような感覚を覚えることもあった。
- 50二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 18:04:27
どこからともなく本を取り出したスリザリン生がそれを開いた途端、光が本を包みそれと同時に蝶のようなものが目にも留まらぬ速さで飛び立ち、金色の鱗粉が空気を舞い目的地へ続く細い線を構成した。だがそれも本人以外には見えていない様子。
「これ、見えないの?」
「いや……だから何が」
「えー。まあ良いや、ちょっと休憩しよっか」
肩で息をしながら額から流れる汗を袖で拭うギャレスを気の毒に思ったスリザリン生は彼に肩を貸しながら木陰に移動した。木の下に胡座をかきながら涼むギャレスは、離れた先で目眩まし術と服従の呪文、石化の呪文を駆使し甲冑を纏ったトロールを一方的に蹂躙するスリザリン生を見ては失笑を漏らしていた。
「つくづく恐ろしいやつだなぁ……」
ギャレスは周囲の景色に溶け込むスリザリン生の大まかな位置を(次々倒れていく『敵』の位置で推測し)目で追いながら一人か細く呟いた。
- 51二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 23:05:47
終わらせ方はもう決まってて今はそれに向かって走ってる
- 52二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 02:58:50
このレスは削除されています
- 53二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 10:34:16
保守
- 54二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 14:31:40
揺るぎない力を持つ者が暇をもて余して割りを食らうのはいつも彼『が』敵と見なす全てだった。そしてそれは抵抗する隙も与えられず砂埃を舞い上げながら地面に突っ伏した哀れなトロールが顕著に体現している。
暇潰しという名の狩りに飽きたのか幾度の戦闘を経てしてもかすり傷さえ負っていないスリザリン生は木陰に戻りギャレスのすぐとなりへ腰を下ろした。
「ねえギャレス、ユニコーンの角とかヘレボルスのエキスとか……何に使うつもり?」
「とある魔法薬だよ。あえてほんの少しだけ失敗させる予定なんだけど」
「あえてってどういうこと?」
「失敗させることで……簡単に言えば効能が過剰になって、最悪眠ったままになるかもしれない薬が醸造されるだけ」
軽々しく口から発された『眠ったまま』の一言に肝が冷えたスリザリン生は目を見開いた。元からギャレスは魔法薬が関わると何食わぬ顔で生命に関わるような事を宣うことが多い。自分自身も身近な人々が関わらない限り命を軽んじている節があったため、スリザリン生のこの瞠目は戦慄ではなく感嘆と好奇心からのものだった。
- 55二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 22:11:22
自演保守
- 56二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 23:25:32
展開が楽しみ保守
- 57二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 10:52:49
自演保守
オミニスとレガ主はアルバス呼び
セバスチャンとギャレスくんはアルバス君呼び
という印象がある 女子軍は基本皆君付けしてそう - 58二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 13:40:46
「ふぅん……一体誰を殺そうとしているのさ」
「はは、人聞きが悪いな。失敗作を観察することで新たな発見ができると思わないか?それに、成功の基準の確立は大事だと思うんだ。ふくろう試験でもこれに関して出題されてたとはいえ、実践が一番だからね」
「えー、去年の試験とかもう覚えてないってば。ていうかそろそろなんて魔法薬なのかそろそろ教えてよ、そう説明されると更に気になっちゃうんだって」
知的探究心からくるじれったさに体を揺するスリザリン生にギャレスは目を細めて笑いかけ、縁が擦り切れ始めている革表紙に覆われた帳面を取り出した。常日頃持ち歩いている新品同然のものとは違い、今まで数える程も見かけなかった本にスリザリン生は頭の上に疑問符を浮かばせながら興味を示した。
「結構昔に書いたやつだからところどころ滲んでるかもしれないけど……あった」
ギャレスは『安らぎの水薬』と左上に書かれたページで止まり、効能を簡潔にまとめた一文を指でなぞりながら朗読した。
- 59二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 14:28:29
「『不安を鎮めて、緊張から引き起こされる負の感情を和らげる。また飲む前にはよく混ぜる必要がある……』まあその名の通り飲んだ人の心を落ち着かせる薬だよ。でも強すぎると鎮まるのは不安だけじゃなくなるわけだ」
「あぁ〜、ちょっと思い出してきたかも……」
「つまり、ちゃんと醸造したものならともかく、あえて失敗した方はいたずらに摂取するのもだめだ。絶っっっ対、絶対に飲まないようにね」
二度も強調されて忠告されたスリザリン生は『僕がそんな馬鹿な事をするわけがないだろう』とでも言わんばかりに唇を尖らせてギャレスを見つめたが、先日彼が小瓶いっぱいに詰まった『愛の妙薬』を飲み干した例の事例を淡々と語られるとたどたどしく言い返そうとしたもののいずれ萎縮しきった。
「さて、疲れも取れたし……えっと、ここからは歩いてくれないか?その、よくわからない転がりじゃなくて」
「えーーーーーー」
「えーじゃない。疲れるんだよ、帰りのための体力だって温存したいんだ」
「ギャレスは別に歩いても良いのに。それか僕がおんぶし──「僕が目的地まで案内してるんだよ?」
- 60二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 14:46:18
「そ、そんな食い気味に答えなくっても……もう、僕だけなら箒でひとっ飛びなのに!」
「箒に乗れなくて悪かったね。いずれにせよ目的地は極めて秘匿的なんだ。周辺までなら時間があれば誰だってたどり着けるだろうけど、きっと抜け道を知ってるのは僕含めてごく少数。君も何故か勘が鋭いからいずれは見つけることはできそうだけど、いかんせん新たな発見が僕を待ってるしここまで来た以上はね」
ギャレスはどこか大義そうに長々と説明すると途中から集中力が切れてぼうっとしつつも、ふてくされた様子ではあるがひとまず納得した様子のスリザリン生が立ち上がり「もう行くよ」と一声を上げた。ローブについた土を払いながらギャレスも遅れて立ち、「僕が先頭に」と提案するもスリザリン生は自分が前を歩きたいからと(また)耳を貸さなかったためとうとう諦めた。
「抜け道のことなんだけど、ギャレスはどういう経緯で知ったの?」
「はは、誰が君にハニーデュークスへの隠し通路を教えたと思ってるんだ?僕なりのやり方があるんだよ」
「レベリオとか?」
「君じゃないんだから。それに暴露呪文で見つけられるのならあそこはとっくのとうに観光スポットさ」
- 61二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 17:28:28
早朝、正確に謂えば午前七時頃に城を出たとはいえ、徒歩で南の果てまで何度か休憩を挟みながら長時間歩き続けるものなら到着する頃には気温も涼しくなる頃だ。ひんやり心地のいい風が吹きはじめ疲労も感じづらくなり、スリザリン生も常にギャレスの数歩前とはいえある程度以上の距離を出来る限り作らないよう配慮もしてくれていた。
しばらく歩き続けた二人はアイアンデールに着き、折角だからとスリザリン生が当村で店を経営しているパドレイエク・ハガーティーと会話を交わす合間ギャレスは村の光景を見回し、ふと川沿いの水車が目に入るとそこへ向かった。
「……うちにほしいな」
「おまいさんのようなガキに水車など勿体ないわ!大体この水車はわしが生まれるずっと前からあってだな!それを所有したいなど烏滸がましいわ……」
「えっ、えっちょっと危な、危ないです──げふっッッいっっっった!!!」
ギャレスは別に誰も聞いていないだろうと顎に手を添えながら心にも(ほとんど)ない一言をぼそっと連ねたその瞬間、いつの間にか近くにいたあからさまに不機嫌なお爺さんが歩行の補助用の杖を振り回しながらいちゃもんをつけ始めた。杖の先端がギャレスの脇腹を抉る勢いで当たると反射的に「痛い」と叫び、呻き声を上げながら膝から崩れ落ちる。
「急に何……いっ"っ"つ"……ですか…」
「はん、わしがおまいさんくらいの頃はこんなもんじゃ声ひとつ上げんかったぞ。たく最近のわかもんは自分が最も偉大な存在だと驕っていやがる」
「……そんな殺生な」
自分にも、自分の周りにいる一部の人間にも見覚えがあったギャレスは反論できなかった。体勢を立て直し脇腹を擦りながら、お爺さんの無駄に熱のこもった演説を聞き流していた。
- 62二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 22:13:25
「~~~……しかもなんだァそのふざけた赤毛は!目立ちたがり屋か?」
「これはただの遺伝ですね」
最初は怒号に圧倒されていたものの脇腹の痛みも引き、ほぼ同じ内容を壊れた蓄音機のように繰り返すお爺さんにも飽きたのかついに外見批判にまでヒートアップした彼に対してもギャレスは面倒くさそうに返答しはじめた。
「ギャレスってば何油売ってるのさ」
そんな奇妙でなんとも独特な空気の状況を諌めたのは丁度知人との世間話を終えたスリザリン生だった。両腕には菓子やパン、果物などの食べ物が詰まったかごを抱えており、きっと先程の話し相手に持たされたものだろうと推測できる。
「いや僕じゃなくてこのお爺さんが急にぺちゃくちゃ喋り始めたんだよ」
驚愕のきの字も消え失せていた空気はスリザリン生のダメ出しによって完全に平穏に戻り、頭に血が上っていたであろうお爺さんも脱力していた。
「そう?まあそんなことよりそろそろ出発……あ!トゥイドルお爺ちゃん、これ食べる?」
そう言いながらかごから紙箱に詰められたホットクロスパンを取り出し、一個ちぎると未だ顔を真っ赤にするトゥイドルに差し出した。トゥイドルは元々しわくちゃな顔を更にしかめつつも受け取った。
「ギャレス、行こうか」
「ん、あぁ……もういいのか?」
「良いよ。行こう」
スリザリン生は理不尽に絡まれたことに対する同情からか柔らかな笑みを向けているように見えたが、すぐに背を向けてしまい全貌はわからずのまま。ギャレスは村を速やかに出るべくどこか落ち着かない様子で足早に西へ歩くスリザリン生の後ろを歩いた。
- 63二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 00:03:21
トゥイドルお爺さんはアイアンデールにいるアリシアさんから適当に生み出した
- 64二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 00:46:39
ギャレスくんの口調安定させるために定期的に魔法薬のクラスとディセンドクエスト会話のセーブデータロードしてるんだけどギャレスくん普通に「戻れ」みたいな命令口調するの可愛すぎる 声ふわふわ過ぎるだろ……!
- 65二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 07:51:54
このレガ主とギャレス単純な転ギャレじゃなくて友達という範囲に収まりつつレガ主が一方的にカラッとした愛向けてる感じが好き 完走まで追う
- 66二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 10:31:06
ここ一週間を通して保守や感想などありがたい限り……まだまだ書き足りないので暇な時にでもお付き合いよろしくおねがいします
- 67二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 16:13:05
「ここからもう少し進んだ先にある黒い印のついた木の近くの茂みに人差し指くらいの大きさの『不自然な裂け目』があるんだけど、そこで杖を反時計回りに三回振るとその裂け目が這えば通れるくらいの大きさまでに拡張されるんだ」
歩を進める最中、ギャレスが抜け道の出現方法を説いたものの当のスリザリン生本人は一切の反応を示さなかった。彼が抱えていたかごはいつの間にか消えており(本にしまいこんだ)、代わりに右手に杖が固く握られている。普段は視覚的にも聴覚的にも騒がしいスリザリン生ではあるが、一切口を利かなくなるとそれはそれで違和感と不安を覚えてしまう。
「どうしたのさ」
「っ我ながら大人気ないなって思った!」
肩を落としながら大きく振り返ったスリザリン生はハキハキと伝えた。ギャレスは思わず足を止めたものの、眉を顰めているとはいえ吹っ切れたような満面の笑みを顔に貼り付けているスリザリン生の表情を見据え隣にまで向かう。
「君が怒鳴り散らかされてるとこ見てたらなんかイライラして。トゥイドルお爺ちゃんはああいう人だって知ってたのに、もうちょっとアイアンデールにいたかったのに気づいたらこんなとこ!」
「融通がきかな……頭が固…えー、意思が強い人はたくさんいるから君が気にする必要はないと思うけどね」
- 68二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 21:01:47
保守保守の保守
- 69二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 23:14:14
「んんー。でもそういう問題じゃないって……わかってるんだけどなぁー……」
自身の行いに葛藤の姿勢を見せていたものの、三秒も持たずしてスリザリン生は頭の上で手を組み、半ば投げやりな声色で語尾を伸ばしながらそれ以上深く考えるのを諦めまた前進し始める。空をぼうっと見上げながら歩き続けるスリザリン生は、途絶えた会話をまた賑わすように大きなため息をついた後一つの悩みを打ち明けた。
「自分が何考えてるかとか、どう思ってるかがわからなくなっちゃうんだよね」
「?心配ないさ、僕だってたまにそうなるし、それに君の頭の中がどうなってるかなんて到底わかったものじゃないよ」
「それってどういう意味!?」
「一回自分の行動を客観視してみるといいんじゃないかな」
サッと目線を横に滑らせながらギャレスは一本調子に言いのけた。嘲るように緩く曲線を描いた口元にスリザリン生が気付くと、鼻孔から大きく息を吐いた後ギャレスの二の腕に自身の肘を強く打ちつけ反応を楽しみながらも無骨な声で不平を垂れた。
「もう……皆してそう言うんだから困っちゃう」
- 70二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 00:39:43
このレスは削除されています
- 71二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 00:45:26
「後200くらいだけどもしかしてもう目印見えてたりする?」
フィールドワーク本を左手に開きそこからスリザリン生は、まばらに生い茂る木々の中でも一際逞しく地に根を張るヨーロッパナラを杖で指差しながら問いかけた。
「あー、そうそう、その木だよ。あれの周辺だけやけに周りの草が育ってるだろう?木陰だというのに不自然だよね」
出会って間もない頃は脈絡もなく数字を単位もつけずに挙げるスリザリン生に毎度困惑していたが、それがなんらかの距離を表すものであることを何回目かで推測したギャレスはその問いに肯定した。
その刹那、スリザリン生はするなと言われていた『ローリング』で高速で何かに包まれ、白い光芒を残しながら高速でさながら姿眩ましでも唱えたかのようにこの場から消えたという状況を飲み込むのに数秒かかったギャレスは、一秒もたたずして過ぎ去った突然の出来事に跳ね上がった心臓を落ち着かせつつ歩き続ける。
「……裂け目……裂け目か……『レベリオ』!」
スリザリン生は草むらに入ると空に向かって弓なりに杖を振りながら辺りを見回したが、お目当てのものが見つからなかったというのは二回目、そして三回目の暴露呪文の詠唱が表していた。四回目を唱えようとしたところにギャレスが追い付き、呆れの態度を全身で表現しながら同じく草むらへと入っていった。
「ほら、見つからないだろ?」
「『才能ポイント』ちゃんと振ったはずなんだけどなぁ、せめて何色に見えるのかがわかれば…」
「……ん?いや、それより。僕が言った裂け目じゃ茂みの中だからね」
スリザリン生は杖を掲げ首を左右に動かしながら周囲を注視していたが、ギャレスのその一言でまるで『イモビラス』に掛かったかのように一瞬硬直した。
「えっ、僕の労力返して」
「城内駆け巡って暴露呪文使い続けてたというのに労力もなにも……ほら、ここだよ」
- 72二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 02:32:10
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- 73二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 02:53:48
(九と四分の三番線は1850年代に創設されたものらしい)
- 74二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 03:00:25
ギャレスは膝まで青々と茂る草を通り抜け木の根のすぐそばまで向かう。しゃがみこみ、草をかきわけ空間そのものに切り込みを入れられたかのような小さな裂け目を目視出来次第スリザリン生へ手招きした。
「レベリオに頼ってばっかだと単純な探し物も出来なくなるかもね」
「ちっちゃ……え、青い……」
「真っ白だけど、君には何が見えてるんだ?」
スリザリン生は『開いた口が塞がらない』を文字通り体現するかのように口をポカンと小さく開けていた。小さな疑念と「幻覚が見えているのだろうか」と不安が横切りながらギャレスは杖の先端で裂け目を指し、反時計回りに丸を描いた。三回目が終わると後ずさりながらスリザリン生に「少し離れて」と声かけた。
細く白い線が裂け目を突き刺すようにゆっくりと引かれていき、地面に着いた途端目を抉る勢いで光を放ちはじめ二人は反射的に目を伏せた。暫くすると直視しても眩しすぎない程には収まってきたものの、ギャレスはまぶた越しにも微かに届く煌めきを前に目を閉じ続けているスリザリン生の肩を叩いた。
「ほら、出来たよ。抜け道」
「おー、始めて見るような魔法……姿をくらますキャビネット棚みたいな感じなの?」
「その棚がなにかは知らないけど、これは九と四分の三番線へ続く壁にかけられた呪文を応用したもの……だと思う」
「わかんないんだ?」
「僕が作ったわけじゃない訳だし、当たり前だろう」
- 75二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 07:52:39
本スレのSS書きさんのレガ主とギャレスくんの絡みめっちゃ可愛い~!!!!!レガ主めっちゃギャレスくんに懐いてるの可愛いね!!!!!!!
- 76二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 10:00:02
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- 77二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 10:01:56
- 78二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 13:29:49
レガ主先輩概念スレで載せられてるSSたまにYouTubeでまとめられてるからここのSSもまとめられて欲しい。応援
- 79二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 23:00:58
肥大化した裂け目に顔だけ覗き込ませたスリザリン生が見たのは一面真っ白な空間だった。地平線がどこにあるかもわからない程に、さながら一枚の薄っぺらな白紙のようだった。
全身を滑り込ませ立ち上がろうとしたスリザリン生だったが、上半身を起こそうとした瞬間『天井』に頭を強くぶつけてしまい痛みからうずくまった。ギャレスは肩をすくめながら「あー……」と、同情から苦々しい声を発した。
「いっっ……いた……は?」
「だだっ広い空間に見えるだろう?実際は一本道なんだよ。それも四つん這いじゃないと狭すぎて通れたものじゃないんだ」
「先に言ってよ!!」
スリザリン生は打ち付けてしまった頭部を擦りながら声を張り上げた。
四方八方白一色、永遠に続いているように錯覚してしまう抜け道を這い続けた二人は突如何かに空間ごと思いがけぬ速さで引き上げられているような感覚に陥った。スリザリン生は咄嗟に身体を強張らせ来るかもしれない衝撃に備えていたが、一方でギャレスは慣れているのかいつもと変わらぬ様子を見せている。
「……すっっごい速いエレベーターみたいな……なにこれ」
「最初は僕もビックリしたよ、でも今はむしろ楽しいや」
「なんだ、危ないわけじゃないのか……うーん、そろそろ着きそう?」
「後もうちょっとだね」
空間は二人が言葉を交わす合間にも天に届く勢いで上昇し続けていたものの、慣性の法則を当たり前のように無視し反動もなく急停止したその刹那、二人は煙突飛行で暖炉と暖炉を飛び回る際の渦巻きに酷似した激しい視界のぐらつきを覚え、スリザリン生は先日煙突飛行を行った時のように回転に耐えるので精一杯だった。
- 80二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 23:28:43
「着いたよ、……大丈夫か?──「ギャレス」
「…あれ?ここって」
目眩からまぶたを固く閉じていたスリザリン生を気に掛け、彼の名を呼ぼうとしたギャレスを抑圧する勢いの声色で謂いながら顔を上げる。憑かれたかのように見開いた目で何度か瞬きを繰り返し、落ち着きを取り戻したのかもう見張っていない目でスリザリン生は周辺を見回した。
ギャレスはスリザリン生の豹変には今まで何度か居合わせていたものの、名前を呼ばれるたった一秒の間に流れ込む恐怖が回数を重ねる毎に減る等といったことは過去一度も起こっていない。
「うおっまぶしっ!」
「………そこまでではないだろう」
自然とはあまりにも乖離していた無機質な白とは一変し、見渡す限り緑に覆われた密林に飛ばされた二人は木々の隙間から零れる日の光に当たりながら立ち上がった。
「こんな場所があったなんて知らなかったなぁ」
「ここは別空間だからね、無理はないよ……っと、お目当ての子だ」
「そういえば魔法薬の材料取りに来てたんだった。デート感覚で楽しんでたよ」
「あー、うん、そうだね」
ふらふらと気ままに密林を歩き回っていた(度々道とはいえない道に阻まれていた)二人だったが、ヤマアラシを視界に捉えたギャレスはスリザリン生の突拍子もない戯言を適当に流しながら杖を対象に向ける。真剣な返事などはなから求めていなかったスリザリン生はだらしなく笑っていた。
同じくヤマアラシを見据えたスリザリン生も袖から杖を取り出し「締めようか?」と一時の躊躇もせずに尋ねた。
「君の悪いとこだよそれ。『グレイシアス』」
- 81二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 00:04:39
ギャレスは特に驚いた様子もなく淡々と凍結呪文を唱えた。杖の先端に青い光が点り、周囲に冷気を撒き散らしながら(スリザリン生が「もっと一点に集中させないと周りも寒くなるんだってば!」と手袋越しにも寒さで悴む自身の指を見ながら指摘した)矛先にいたヤマアラシに向かって光が撃たれる。
直接命中はしなかったものの弾着点から地面が凍りつき、その近くに居合わせたヤマアラシもゆっくりと氷に侵食されはじめた事に気付き怯えた様子でその場を離れようと走り去ろうとしたものの、再度唱えられた凍結呪文が背中に当たってしまい、一瞬にして氷塊に包まれいよいよ一切の動きも制限されるものとなった。
「わー最低ー」
スリザリン生はなんの感情も籠っていない声色でへらへらと笑いながら茶化した。
「君は命を奪おうとしていたよね?」
「言葉の綾だし!それに僕がどれだけ生物達に優しいかギャレスなら知ってるでしょ!」
「……密猟」
「あれは!!保護だってば!!!その、最近はしてないし……」
金儲けの手段の一つではあるものの、ちゃんと「保護」の一面もあるらしく故に後ろめたい事だという自覚は少なからずある様子。ギャレスはそんなスリザリン生の額を指で弾き、彼が面白おかしく怯んでいる合間に氷付けにされたヤマアラシを回収しに行った。
「てかさ、針ってどう抜くつもり?まさかブチィッっていくの?」
「流石にそんなことしないよ。適当なクッションかなんかで飛んできた針を防御して拝借するんだけど、どうして真っ先に思い付くのがそんな野蛮なものなんだ君は……」
氷付けのヤマアラシを最初はローブの袖を伸ばしながら両腕で抱えていたギャレスだったが、体温と長時間外部に触れているせいで段々と溶けてしまう事と単純に重たいという理由でスリザリン生のフィールドガイド本の中に一旦しまい込んだ。
- 82二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 00:42:44
遠路遙々訪れたというのにヤマアラシだけを確保して帰るのは癪に障ると双方賛成し、密林の中を暫くの間歩き回る事となった。
木々の隙間から漏れる光を浴びることも、澄みきった空気を全身で感じる事も、草木がふわりと揺れる音も、普段箒で空を飛び回り野営地を襲撃して全身に血と土の匂いをこびりつけてばかりなスリザリン生にとっては新鮮なものだった挙げ句、一度も訪れたことのない環境という事で年齢にそぐわず大はしゃぎしていた。
「あーっ!えっ!?マンドレイクが当然のように生えてるよ!禁じられた森以外で自生してるなんて見たことない!よいしょっ……ア"ァ"ァ"ッ"!あーっうるさい!!」
「君の方がうるさいよ!!」
足元に偽物の金貨を撒き散らしながらわらわらと寄ってくる若干名のレプラコーンを踏まないようにしながら安らぎの水薬の材料の一つであるヘレボルスを採取しに向かっていたギャレスは、ただならぬ大声を上げながらマンドレイクと張り合っているスリザリン生へ一声を上げた。
マンドレイクの叫び声のせいで鈍った聴覚をどうにか取り戻したスリザリン生は、木の幹の上に佇む斑入りの二匹のニーズルの関心を引くべく口から空気を抜くような音を何度か鳴らしていた。片方がやっと降りてきたかと思えば顔面に着地された挙げ句爪が引っ掛かり跡を残され、そのニーズルはそのまま茂みの中に消えていってしまった。
その様子を見下ろしていた三色の毛を持つニーズルは丁度頭の真上に降りて動かずにいたものの、どうせならこうしてやろうとでも言わんばかりに後頭部に噛みついて同じく茂みへと隠れていった。
「引っ掻かれたぁ……いっっった……いっだあ"っ"っ"!!もうっ!なんなのさ!」
頭を抑えながらニーズルが消えた先の茂みへ叫んでいたものの、顔面に刻まれた爪痕も本来なら出血しているであろう後頭部の歯形も跡形もなく塞がっていた。
- 83二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 01:38:31
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- 84二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 04:41:11
「ニーズルって悪人とか不審者を見分けて攻撃するらしいね」
「僕が不審者だとでも言いたいの!?」
ギャレスはヘレボルスの束を抱えながら「あぁ」と微笑を湛えながら淡白に返した。知り合い全員に変人という印象を抱かれていると自覚しているスリザリン生でも面と向かってそう言われると僅かながらも腹を立てるというものの、今回ばかりはなぜか満足げに笑っていた。
「ふー、良い収穫!白菜もあれば毎日来るんだけどなぁ……あっパフスケイン!魔法生物もこんなにたくさんいるなんて、是非ポピーにも見せてあげたいな」
フィールドガイド本に毒触手草と自然では殆ど見かけない萎び無果実をゴロゴロと詰め込んだスリザリン生は苔の生えた岩に腰を下ろした。
「どうして君は……ガーリック先生の言葉を引用すれば、『大鍋の外で扱われる植物』をつくづく好むんだ?雷調合薬は飲まないだろ。……答えなくて良いから。わかってる。」
ギャレスは口を開きかけたスリザリン生を止めるように手を挙げながら告げた。一言も発することを許されなかったスリザリン生はしょげたような態度を取りながら頭上を飛び回る鬱陶しい妖精を鷲掴みした。ニーズル相手にはあんなにもどんくさかった彼の本来の動体視力と反射神経はギャレスの背筋に悪寒を走らせた。
「……ここって煙突飛行ネットワークに繋がってる暖炉ないの?」
「なんなんだ唐突に。あるわけない……いや、わからないけど」
「必要の部屋にあったしここにもあるはず!探してくる!」
ニーズル事件(と二人は呼んでいる)の後、しばらくの間は魔法生物の観察や他の魔法薬の素材を採取していた二人だったが、スリザリン生は突如何かの衝動に駆られたのかと言わんばかりの勢いで制止も聞かずに『ローリング』で姿を消した。
……と思いきや二分も経たずして元いた場所へ戻ってきたスリザリン生は大変ご満悦な顔をしており、きっと見つけてしまったのだろうとギャレスは察した。
- 85二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 04:51:20
本スレでも派生スレでもギャレスくんの名前があがっててギャレスくん推しからすると嬉しいことこの上ない いろんなギャレスくんだ……
- 86二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 08:02:33
実はホグレガ英語版もプレイ済みというかここのギャレスくんの性格&言動もろもろは英語版の声とニュアンスに片寄ってたりする
英語版は日本語吹き替えのふわふわ優しめ系じゃなくてウィーズリーの柔らかさを残しつつハキハキな声だし、自己肯定感高そうで惜しみなく友人をこき使う奴みたいな喋り方で正直こっちの方が好き - 87二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 14:39:02
思い出したんですけどSSまとめにある俺のSS概要、転ギャレじゃなくて転→ギャレにしてほしいです!!!!よろしくお願いします!!!!(わがままの極み
- 88二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 19:06:14
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- 89二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 19:07:36
「うーん、ここは調べ尽くしたつもりだったんだけどな……空間が広がっている……?」
「んー、それも可能性としてはあるけど、入り口の場所の都合上わざわざ面倒な過程踏まずに直接飛べるようにしてくれたって感じかもね。流石『製作陣』だ。僕がここに訪れたことで『生成』されたのかな」
「……あ、あぁ……?何はともあれそろそろ帰らないか?煙突飛行出来るようになったなら直ぐに戻れるだろう」
「えーもっと居たいよ」
「明日は平日ってことを忘れないように。暖炉まで道案内よろしく」
暖炉への道を通る最中あくびを溢し目を擦ったギャレスの横顔を一瞥し、この空間の空は恐ろしいくらいに美しい青色だというのに、外──元いた場所はきっともう夕暮れか夜なのだろうと推測したスリザリン生は少し歩く速度を上げた。
「そろそろ着くはずだよ……ほら、あれ!」
スリザリン生は木々の間に『出現』していたイグナチア・ワイルドスミスの肖像画が飾られた暖炉を指差す。暖炉には鮮やかな青緑色をした炎が既に揺れていた。
「今までは形式的にフルーパウダー振ってたけど別にいらないよね?」
「私が開発した煙突飛行はフルーパウダーが必要だというのに、貴方が来ると勝手に灯るんだもの。勝手にすると良いわ」
イグナチアの肖像画がかつて自身が生きていた500年以上前に成し遂げた偉業をさりげなく折り込みながらそう告げる。何百回も聞いた同じような誇示に一時期苛立っていたものの、ある日を境に一気に頻度が減ってからは妥協(無視)出来るようになっていたスリザリン生はただただ冷ややかな目で肖像画を見ていた。
- 90二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 20:00:42
「よーし帰ろっか……えーっと、ギャレスは『教員塔』だよね。それかグリフィンドール寮の談話室かな…」
「談話室にとかなに言ってるんだ?合言葉の意味がなくなるじゃないか」
「僕は飛べるよ?スリザリン寮だけだけど」
ギャレスは困惑した様子で「えぇ……」と口から洩らした。
「……ヤマアラシは一旦預かってくれないか?明日の放課後必要の部屋に行くから」
「わかった」
スリザリン生に手を振り、半信半疑で「グリフィンドール寮談話室」と行き先を告げた後炎の中に入ったギャレスは炎の勢いが強まる音と共に一瞬にして暖炉から姿を消した。ギャレスが煙突飛行した後も緑色で燃え続ける炎を一瞥してからスリザリン生自身も行き先を伝える。
「……闇の魔術に対する防衛術の教室」
「良い子はもう寝る時間よ?」
スリザリン生はなにも言い返さずに炎の中に入り、密林を後にした。
- 91二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 20:19:00
『闇の魔術に対する防衛術の教室』近辺の暖炉へと煙突飛行したスリザリン生は、人一人いない静まり返った暗い城内と窓から覗き込む冷たい月光で自分の予測が当たったことに気づいた。足音を出来る限り立てないようにすぐそばの階段を降り、階段裏へと向かう。
一見するとただの行き止まりでおおよそ興味を惹かれるとは言い難い場所だが、向かって右側の星や惑星の意匠が施されたいくつもの時計を飾る棚(を模したもの)は、『聖堂』と名付けられた地下室への入り口だということをもう一人の友人に教わっていたのだ。
スリザリン生が壁へ向かって杖を軽く振ると、全ての時計の長針と短針がぐるぐると素早く回り始めたのと同時に壁が扉のように開き、一応周囲を確認した後スリザリン生はその中へと入っていった。
薄暗い通路を通り、鉄格子があがるのを待ちながら聖堂の内装を見渡す。地下室の存在を知るたった二人の人物の気配はなく、床や柱に置かれたいくつものろうそくの火は寂しげに揺れていた。
室内に足を踏み入れたスリザリン生は適当な柱に寄りかかりそのまま滑るように座り込む。フィールドガイド本を取り出し何ページか捲っていたもののすぐ不躾に閉じ、床に放ってから大きくため息をついた。
「『僕』って何してるんだろ?……この声って聞こえてる?」
- 92二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 20:40:44
天井を見上げながらあたかも自分を監視している何者かがいるという前提の語り口でスリザリン生は話し続けた。
「そもそも姿現しも姿眩ましも『ローリング』も使えないホグワーツ城内で煙突飛行出来るのおかしいじゃん!ていうかなんで他の皆はあの広っっっろい城内で煙突飛行使わないの?」
答えが返ってくる訳もなく、また彼自身もそれを理解しているが、自分以外が煙突飛行を使う場面を殆ど見かけないスリザリン生にとって当然の疑問を一方的に問うた。声量が大きくなっていることにも気づかないまま、哀求とも呼べる声が聖堂に響いた。
「僕と、僕が今煙突飛行を使ってほしいって思ってる人にだけ見えてるってこと?僕がそう思ってる間だけ城内で煙突飛行出来ることに誰もなんの疑問も感じな──」
スリザリン生は突如喉奥が冷たくなる感覚にそれ以上の発言を戒められ、渋々言葉を途中で切った。
- 93二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 21:08:34
広っっっいってなんか違和感ひどいから素直にひっっっろいにしとけばよかったぜ なぜか広っっろいになっちゃった
- 94二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 22:27:26
「……きっとこの本だって、自分が許されざる呪文を使ってもお咎めなしな事だって、暖炉に入らずとも煙突飛行出来る事だって……傷がすぐに治ることだって、君のおかげなんでしょ?ありがとう。そこだけは、ね」
スリザリン生は『フィールドガイド本』の革表紙を軽く撫でながら一人きりの地下室の中で本心からの感謝を告げる。
「でも勝手に知らない単語を喋らされるのは困っちゃうよ、なにさ製作陣とか才能ポイントとか……皆困惑するんだよ?僕だって違和感すごいもん。体の主導権奪われる感覚って思ってるより気持ち悪いんだから」
口元を隠しながら大きくあくびをしたスリザリン生は本を拾いながら立ち上がり、ホグワーツ城のマップ──地図が載ったページを開いた。大階段周辺を『拡大』し、『スリザリン寮談話室』と浮かび上がった緑色の暖炉の絵を指差した瞬間カチッと音が立つと同時に最初から居なかったかのように聖堂から消えた。
翌日、あまり寝付けなかったスリザリン生は朝食も取らぬまま雲一つない快晴の下他寮(主にハッフルパフ寮)と魔法生物飼育学の合同授業を受けていた。ディリコールの実態やマグルとの関係性、羽の用途を羊皮紙に書き殴りながら隣に座るポピー・スウィーティングに話しかける。
「ポピー、僕昨日すごいところに行ったんだ。……ニーズルとか……後確かビリーウィグもいた気がする!とにかく色んな魔法生物がいてさ、君にも見せてあげたかったなぁ」
ニーズル事件を未だに根に持っているのか、ニーズルと言った時だけ声が少し低くなっていたものの、昨日の経験を嬉々として語りつづけるスリザリン生にポピーは微笑みかけながら話を聞いていた。
「ふふ、あなたって本当に色んな場所へ行くんだね。だから昨日は一日中見かけなかったんだ……」
「僕のこと探してたの?」
「実はね。アルバス君について話したいことがあったんだ」
- 95二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 23:04:02
「アルバス?」
スリザリン生は最近は後輩の名が上がる事が多いな、と思いながらポピーの話に耳を傾ける。
「彼に相談されたの。私がこの話をしたことは秘密にしてほしいのだけど、あな……好きな人が自分をずーっと子ども扱いするんだって。七年の私から見ても凄くしっかりしてるのに。同級生のように接してほしいとか、そういうわけではないみたい。だから表には出てないけど最近は落ち込み気味なんだ」
「そうなんだ?それは災難だね」
「……あなたもやっぱりそう思う?」
スリザリン生は二重の問い掛けに困惑したものの頷いた。ポピーは笑みを浮かべたままだったが、口角は先程よりも平坦になっていた。
「この事について一回だけでも話し合えば……少なくとも私はいいんじゃないかなって思ってる。もちろん私の入れ知恵は無かったことにしてね」
「僕に恋愛においてのアドバイスは期待しない方が」
「アドバイスじゃなくてもいいんだよ」
ポピーはホーウィン先生の方へ向き直したが、二人が話している合間も授業をずっと聞いていたらしいポピーは丸っこく可愛らしい書体で羊皮紙にディリコールのノートを書ききっていた。それとは反対に、自分の羊皮紙にはポピーに話し掛ける前までの情報しか書かれていない事に気づいたスリザリン生は冷や汗をかき始めた。ポピーはなにも言わず彼女の羊皮紙をスリザリン生にも読みやすいように寄せた。
- 96二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 23:21:30
「あぁー……魔法生物達のお世話してる時だけ真の安寧を感じる……」
二匹のパフスケインを前に、片方に餌付けをしもう片方をブラッシングしながらスリザリン生は意気地のない声でぼやいた。ホグズミード行きたい、自分って本当に自分なのか、いつアルバスと話そうか、そういえば最近ディフィンドの切れ味が悪い気がする……特に考えなくてもある程度こなせると授業内容だとどうしても雑念に脳を支配され時間の感覚も吹き飛んでしまう。ぼうっと明け暮れていた矢先スリザリン生の正気を取り戻させたのはレイブンクロー生だった。
「君、授業もう終わってるけど」
「っえ」
辺りを見渡すと生徒は声をかけてくれたレイブンクロー生しかおらず、自身が世話をしていたであろうパフスケインはどこかに行っていた挙げ句目の前にはホーウィン先生が一言も言わずに立っていた。
「眠り姫が目覚めたようだわ、ミスター・ラーソン」
「はは、姫だって」
「あ、ほーいんせんせい、これはちがくて」
ミスター・ラーソンもといアンドリュー・ラーソンは姫と揶揄されたスリザリン生に向かってニヤリと笑った。スリザリン生は呂律の回らない舌で自己弁護を試みたものの、ホーウィン先生は首を横に振りながら「ミスター・ラーソンと居残り」と命じた。
- 97二次元好きの匿名さん23/06/09(金) 23:25:12
アンドリュー・ラーソンは天文学と魔法生物飼育学が好きなバチくそイケメンのレイブンクロー生だよ!後腰抜けインダンケインというあだ名を気に入っている
- 98二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 04:52:13
- 99二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 07:46:20
あっSSまとめでちゃんと転→ギャレになってる!ありがとうございます!!感謝!!後ホグレガでは動物学って表記だけど俺は魔法生物飼育学と呼び続けるぜ!!
- 100二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 11:03:37
今日中の授業を全て終えたスリザリン生は、居残り罰を受ける為に魔法生物飼育学の教室へ向かう途中鳶色の髪をもった幼いグリフィンドール生に声をかけられた。
「先輩、昨日はギャレス先輩とどこかに行っていたと聞きましたが」
「あっアルバス!そうそう、一日中ギャレスとデー……とある密林にいたんだよね、魔法薬の素材集めしてたんだ」
今まで昨日についての話を聞いた人も、挙げ句当事者でさえ昨日の出来事を「デート」と本気で思っていないとはいえ、その単語が上がりそうになった事に対して冗談と捉える事を難しく思っているアルバスはとりあえず笑顔を繕いながら平静を保とうとした。
「そうだったんですね。一体何の魔法薬を醸造しようとしているんですか?」
「安らぎの水薬だよ、といっても失敗させるらしいけど」
「させる……とは?」
「なんか新たな発見ができるかもしれないとかなんとか……流石ギャレスだなぁ、向上心に溢れてるよね」
張り合うように「僕も実は」とスリザリン生に教わった武装解除呪文の精度を一人こっそり上げていっている事を言おうとしたアルバスだったがあまりにも幼稚だな、と最初の一言を言う前に踏みとどまった。
「あの、先輩、時間があればいつもの部屋で話しませんか?できればふたりきりが──」
「時間……あっ!そういえば今日居残りだった!ごめんアルバス、夜まで待てそう?」
「えっ、あ、勿論です」
「ありがとう!また後でね!」
スリザリン生はアルバスに手を振りながら駆け足で階段を降りていった。その背中が完全に見えなくなった後もアルバスは彼がいた方角を見ていた。
- 101二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 11:48:42
「やあ。君も居眠りなんてするんだね。そういえば君の罰、アレだけど大丈夫そう?」
スリザリン生より先に教室で居残り罰を受けていたアンドリューは、本日最後の魔法生物飼育学の授業中にパフスケイン数匹が急に暴れて飛び回ったという事故のせいで辺りに散乱してしまった教科書を拾い集め、飛び散った抜け毛を箒で掃きながら教室に到着したスリザリン生に話し掛けた。
「ん……寝てないよ、ボーッとしてたら授業が終わってた……」
「それを人は居眠りと呼ぶんじゃないか?」
「色々考え事してただけなんだってば……うわっ」
アンドリューが指さした木箱の中には大量に魔法生物用のブラシが入っていた。いずれも全て抜け毛がこれでもかというほどに溜まっておりスリザリン生は箱を覗き込んだ瞬間思わず驚嘆を声に出した。
居残り罰として綺麗にしないといけないブラシに絡まった毛を魔法で取ろうとしたものの、「ちゃんと自分の手で」とホーウィン先生が教室を空ける前に注意されていた事を思い出したスリザリン生は眉間に皺を寄せながら渋々取り除いている。
アンドリューの発言はその気持ちを和らげるどころか元々なくなりかけていた気力が更に消えていくような気がした。木箱には未だ手つかずのブラシが最低でも二桁入っており、スリザリン生は終わりそうにない作業を前に閉じようとするまぶたを辛うじて開けていた。
「そういえば……どういう経緯で居残りに?」
「別になんにも。強いていえばムーンカーフの骨格標本を壊した事くらいだよ……三体くらい。後クサカゲロウが入ってる瓶を落とした。でもそれだけなんだ、もちろん修復呪文で直したよ」
- 102二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 13:05:53
「なんにもって言葉の意味調べた方が……ってあれを直したって呼ぶの!?」
「いやー……少なくとも床に散らばってはないだろ?」
「直した」と言いつつ、背骨の先端に大腿骨が代わりについていたり頭蓋骨が肋骨の中に入ってたり、前足と後ろ足が繋がっていたりと見ていて心地いいものではないモノが三体壁際に並んでいた。
アンドリューの修復呪文の腕前はお世辞にも良いとは言えないようだ。クサカゲロウを入れていた瓶は多少ヒビが残っているものの修復されているが、その肝心のクサカゲロウは一匹たりともいない。割った瞬間に飛び去ってしまったのが机に置かれた瓶全てが悉く空き瓶である理由だろう。
「もしかしたら僕のせいで魔法は使わずにってなったのかもね」
アンドリューはへらへらと笑いながらまだまだ毛が詰まっているブラシを見下ろした。今すぐ彼の鼻の穴か目玉にでも杖を突き刺してやろうか、と寝不足と相まって苛立っていたスリザリン生だったが、週末ホグズミードにでも行こうとアンドリューに誘われ顔中に幸せそのものを塗りたくったかのような表情になった。アンドリューはその過剰なまでの反応を見て思わず一歩下がり、そそくさと掃き掃除を再開した。
「……そういえば前ナティから聞いたよ、君はホグズミードを……ふっ……口説いてるんだってね」
自分でも何を宣っているのか全くもってわかっていないアンドリューだったが、二年前に編入してきた日から暴露呪文の乱用や床で仮眠をとっている光景を数多の生徒達に見られていたスリザリン生を前に何を今更、と開き直る。それはそうと自分の口から出たあまりにもとんちきな文に笑ってしまった。
「どういう意味?」
「『ホグズミード、今行くよ』って毎度のように言ってるんだろう?」
「……っ言わされてるの!」
「誰に!?」
- 103二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 13:17:53
ギャレスくんとダンカンの話聞いてたらギャレスくんが「フィフィ・フィズビーのためならガリオン全部払えるよ」(要約)って言ってたからギャレスくんの好きなものがフィフィ・フィズビーという妄想は事実だったわけだ……
- 104二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 15:11:42
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- 105二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 22:54:33
居残り罰が課せられてから二時間は優に超えているのだろう。風は勢いこそそのままだが気温と共に段々と冷えていき、橙の空に濃藍のグラデーションがかかりはじめていた。
スリザリン生は魔法生物用のブラシの毛抜きを掃き掃除と教科書の整頓を終えたアンドリューと共に進めていき、残り三個となった頃に「標本は私が直します、あなた達……特にミスター・ラーソンには任せられないので」と教室へ戻ってきたホーウィン先生に告げられた二人はお互い隣人に目線を送ろうとしていたのか目が合った。
言葉は交わされなかったものの、修復においての信頼を完全に失ってしまったことではなく『そろそろ開放される!』と伝えようとしていたことは明確だった。作業の手が突如早くなったことに気づいたホーウィン先生は二人の単純さに思わず呆れの入り交じった笑いが溢れる。
「明日の天文学は何するんだろ……楽しいけど最近は夜寒いから嫌だなぁ」
座りっぱなしの作業で体全体がこわばったスリザリン生は立ち上がってグッと伸びをしながら会話の火種を投下した。
「みなみのうお座の一等星、または秋の一つ星、フォーマルハウト」
「……ん??」
「星の少ない秋の夜空に見える唯一の一等星。たとえ凍死してでも見る価値はあるよ、シャー先生はここ数日フォーマルハウトの話をし始めてくれたじゃないか」
「アンドリュー、それ、シリウスに対しても同じこと言ってたような」
「まあ。……星というのは手が届かないからこそ惹き付けられると思うんだ。そしてこれは星に限った話じゃない──例えそれが『比喩においても』な」
急に何をロマンチストのようにほざくか、とスリザリン生は言いかけた。
最後の一個を終えたところでホーウィン先生から解散の許可を得た二人はホグズミードへの訪問の約束を日時と共に再度確認した後それぞれの帰路についた。スリザリン生はふと空を見上げ、紺色に塗りたくられた秋の夜にまぶされた星々雲の後ろに隠れてる半月を浮かばせた夜空を目に焼き付けた。
「綺麗な空だなぁ……そういえば二人はまだ待ってくれてるのかな、居残り受けてるってふくろう送っとけば良かった」
スリザリン生は申し訳ない気持ちに満たされながらフィールドガイド本を取り出した。そして十秒も経たずしてカチッと音が響いたと同時に彼は空気に溶けたかのように姿を消した。
- 106二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 23:58:28
「アルバスー?ギャレスー?」
出来るだけ早く『必要の部屋』へ煙突飛行したスリザリン生は待ち人を栽培室に(当然だが)見かけず、二人の名を呼びながら栽培している噛み噛み白菜を片手間に収穫した。
「調合部屋かな」
いくつもの調合台が並ぶ一室はスリザリン生以外にも時折、大抵は無断で使用するだけでなく、数ある部屋の中で唯一ソファが複数設置されているという理由で友人達のたまり場となることもあった。
噛み噛み白菜の種を植え直したスリザリン生は期待を調合部屋に押し付け顔を覗き込ませ、不本意にもこの世のものとは思えぬ程(彼にとって)愛らしい光景を視野に入れた。
「何処に行ってたんだ?それにアルバス君が来るなんて知らなかったし、彼もう寝ちゃったんだけど」
ギャレスはスリザリン生の姿を捉え、彼に呼び掛けたものの反応が芳しくなかった事に困惑しつつもう一度声をかけようとした。
「大丈夫?」
「可愛いなぁって思った。二人とも」
「ん。あぁ……ん?それより……君は一体僕らをどれだけ待たせる気だったんだ?」
『ギャレスの肩に寄りかかりいつの間にか眠ってしまったアルバス』をどれだけ真顔を取り繕っても隠しきれていない笑みで見下ろしながら「居残りしなきゃいけなくて…」と片手を頭の後ろにやりながら答えた。
- 107二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 01:18:33
「一体何をしでかしたんだ?」
「魔法生物飼育学の授業中色々考え事してたらぼーっとしてたみたいで、気付いたら授業終わってた」
「つまり寝たってことか」
「寝てないってば!これは本当!」
アルバスが眠っているというのに声量を抑える事もしないスリザリン生を咎めるように人差し指を自身の口の前に持っていった。スリザリン生は「ごめん」と口ごもった。彼が居眠りしていようがしてなくとも特に驚かない程奇僻に慣れてしまったギャレスはそれに適当に相槌を打って話を切り変える。
「ヤマアラシの針は八本位あれば良いよ」
「あっそうだ……忘れた」
スリザリン生はフィールドガイド本を取り出しながら魔法生物を飼育している部屋へと走り去っていった。しばらくすると壁越しにも状況が何となく掴める位に大きな喚き声が必要の部屋に響き渡り、ギャレスはその騒音に反応して身体を縮ぢこませたアルバスをあやす様に肩をポンポンと叩いた。
騒音が冷めて少し経つと、スリザリン生が身体中にヤマアラシの針に刺された状態で調合部屋へと戻った。
「まるで君がヤマアラシになったみたいだね」
「そこまでじゃないよ……そこまでじゃないよね?」
ギャレスは冗談めかしてそう言ったものの、スリザリン生が淡々と針を抜いていく光景を見苦しく思い目をそらした。当のスリザリン生本人は痛覚が遮断されているのかと思う程速やかに針を取り除いていた。
- 108二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 01:44:30
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- 109二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 01:45:22
知らぬ間に100レス突破してた……そろそろ終わらせにかからねば……
- 110二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 01:53:41
「僕に刺さった針って洗ってもヤダ?」
「血を洗い流してくれれば構わないよ」
「わかった。あ、後でアルバス起こしてやらないとね……あっやばっ」
スリザリン生はヤマアラシの針を適当な調合台に置き杖を一振りし『アグアメンティ』を唱え針を洗い、すぐ『エバネスコ』で杖の先端から出した水を消失させた……が、水に終わらず調合台も誤って消失させてしまう。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だけど……『照準』で調合台も巻き込んじゃっただけっぽい」
スリザリン生はヤマアラシの針を床から拾い上げ、出現魔法で同じデザインの調合台を出現させて角度と位置を調節しながら「安らぎの水薬って今作るの?」とギャレスに尋ねた。
「僕も眠たくなってきたし後日ここを借りるよ。アルバス君、寮室に戻ろう」
アルバスを軽く揺すりながら起こそうとしたものの反応はなかった。それを見かねたスリザリン生は一つの案を提唱する。
「僕はアルバスが話したいことがあるって言ってたから起きるまで待つよ。二人きりが良いみたいだから、その」
「わかった。良い夢を」
ギャレスはアルバスを起こさぬよう頭を抑えながら慎重に立ち上がり、スリザリン生はギャレスの座っていた位置に代わりに腰を下ろし自分の肩にアルバスの頭を寄せた。お休みの一言を交わして部屋に二人残ったスリザリン生は暇潰しに片手でフィールドガイド本を開き、クレシダ・ブルームの日記の一ページを模した羊皮紙を『写し出した』。
「性格悪いなぁクレシダは。でも別にこの酷評は間違ってないんだよね……言葉は選ぶべきだけど」
それぞれの羊皮紙にはギャレス・ウィーズリーに始まりエバレット・クロプトンやイメルダ・レイエス、ソフロニア・フランクリン等様々な生徒に対する悪口や貶しがびっしりと書かれおり、読んでて楽しいものではないとはいえひねくれ者にどう世界が見えているかの追体験は決してつまらないものではなかった。
- 111二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 08:36:31
- 112二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 15:13:50
「この日記ももう二年前のかぁ。クレシダは僕の悪口も書いてたりするのかな。まあ別に僕は良いけどポピーの悪口は絶対に許さないぞ……」
今まで故意でも無自覚だとしてもしでかしてしまった事や自身の特異性から、誰かに狙われ中傷されるという事はおおよそ他人事ではないと自覚しているスリザリン生はクレシダの日記を斜め読みしながらぼやいた。
時刻は夜の十時過ぎ、日記を一通り読み終えた後は(勝手に拝借した)他人の手紙にも読み耽りアルバスの頭が肩に寄りかかっているという事もとうに忘れていた頃にアルバスが目を覚ました。
「……ギャレス、先輩?」
「おはようアルバス。僕だよ、ギャレスはもう行った」
「あ……ごめんなさい。重たいですよね」
先程まで隣にいた人の声ではない事に気付いたアルバスは重たい目を擦りながらスリザリン生を見定め、肩に寄りかかっている体勢から身を起こしあげる。
「大丈夫だよ。こっちこそ待たせてごめんね、居残りしなくちゃいけなくってさー……それで話って?」
「はい。深刻な話とかではなくて、ちょっとした世間話を……先輩の事をもっと知りたいなと思って」
「特に話すこともない気がするけど」
「そんなことないですよ。聞きたいことは沢山あるので」
スリザリン生は感心からか驚きからか目を丸くしつつ、すぐにまた微笑んだ。フィールドガイド本を閉じて両腕で抱えながら「答えられるものなら答えるよ」とどこか濁しつつも聴した。
- 113二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 20:08:56
だがその「答えられるもの」は思ってたよりも狭き門だったようで、話を広げられそうな簡単な質問……好きな教科や個人的に気に入ってる先生、天候に好きなお菓子等の些細なものは悉くうやむやな答え(「気分次第」をまどろっこしくしただけ)を返されてしまっていた。
唯一まともな回答を引き出せたのは、「闇の魔法使いになるつもりですか?」とほんの冗談で聞いた質問だった。スリザリン生は取れてしまいそうな勢いで首を左右に振りながら「ないないない!アルバスのバカ!質問はちゃんと選びなさい!」とあまり真面目に聞けない叱責を食らわせアルバスを笑わせていた。
アルバスはその後ものらりくらりと話すスリザリン生に度々むず痒くなり、いよいよ最も『答えは知りたいけど本人からは聞きたくない』質問を問いかけた。
「……先輩は恋とかしますか?」
「恋かー。まだ一年生だというのに随分とませてるじゃん」
「貴方の多面性は理解していますが、だからといって度々話の腰を折るのは悪いところですよ」
「……オミニスにも似たようなこと言われた」
「実に妥当な評価じゃないですか。それでどうなんですか?」
- 114二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 21:06:20
「わからない」
「まあ、貴方ならそういうと思ってました」
「違うってば。本当にわからないんだ」
「と言いますと?」
人前では感情表現が豊かで喜怒哀楽がキッパリと分けられているスリザリン生だったが、珍しくもの寂しさと戸惑いが混じったような弱々しい笑みをアルバスへ向けた。
「好きに色々あるのはわかるんだ、その中に恋心ってものが入ってるって僕は思ってるんだけど……」
「恋」という自身とは到底相容れない概念に対する回答をどうにか捻り出そうとしているスリザリン生を緊迫した表情で見つめるアルバスは一方で「本当に聞きたいのだろうか」と心の中で思い続けていた。
「もしかしたらもう誰かに恋してるのかもしれないね。でも皆同じくらい大好きなんだ、各々の性格とかで表面上の接し方は変えてるつもり。恋をする感覚がわからないからそう思ってるのかもしれないと言われればそれまでだけど」
「僕はわかりますよ」
「何が?」
「先輩が恋をしている人です」
アルバスは自分の意思とは反対に小刻みに揺れるキラキラと輝く青い目をどうにか抑えながら一回の深呼吸を経て答えた。
「……ギャレス先輩ですよね」
「ん????」
- 115二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 21:38:02
「先輩は、えと、良くあの人と一緒にいるじゃないですか。それに気付いてるんですよ。今朝、ギャレス先輩とデートしたって言いかけていたこと」
スリザリン生の脳内は困惑が支配していた。呆気からんとした顔つきで声を震わせるアルバスの証言を聞いていたが、その証言が終わって少しして口元を隠して笑いながら答え始める。
「ん…ふふ……あは…えーーーーーーー、ジョークだよそれは。急にビックリしたー……ギャレスは冗談が通じて気まずくならないしなんかシナモンの匂いがするからってわけで、それに付き合うとなったら絶対にイヤなタイプだよ彼は。てかイメルダともアミットともしてるし!」
「……、えっと、え……イメ、イメルダ先輩と?」
「ってのはちょっとだけ冗談なんだけど、まあなんでギャレスなんだろうねー。ここら辺は僕もわかんないよ」
「えっ、あ、そうですか」
「はぁ……『アイツ』はこんな時に限って代わりに答えてくれないんだから困るよ」
「……あの、先輩ってもしかしてお疲れですか?」
アルバスが抱いていたスリザリン生がなんと答えるかへの憂慮は、彼の脈絡も突拍子もない発言のせいでスリザリン生本人の状態に対する心配へと一瞬にして切り替わった。
「っそりゃあ疲れてるよ!昨日は全然寝れなかったし!」
「それは……災難ですね……あれ、床でも地面でも寝られる貴方が寝不足ですか?」
心配といえどスリザリン生なら対した問題ではないだろうと無意識的な信頼を寄せていたアルバスは軽く茶化しつつも、内心ではむしろ普段が図太すぎる彼が寝不足だという事実に不安を募らせていた。
- 116二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 22:01:41
「あはは、こう見えて僕って結構必死に生きてるんだよ」
スリザリン生はくしゃっと顔を綻ばせて笑った。普段のパキっとした明るい笑みとはまた違う、様々な感情の込められた微笑にアルバスは一瞬目を奪われるも、絶妙にはぐらかされた返答の中で一際目立った『必死』の一言を更に掘り下げようとした。
「命懸けで闇の魔法使いと戦い続けているのが悪いのでは」
「そういう意味じゃないよ、仮に死んじゃっても『リスポーン』出来るし。僕が言ってるのはとある折り合いについてだよ」
聞き慣れない単語は受け流すと学んだアルバスはそれに続いた回答について触れる。
「折り合いですか。答えたくないのなら別に良いんですけど、誰と何についてですか?」
「ふぅ」と息を深く吐いたスリザリン生は抱えていたフィールドガイド本をソファの空き席に置き、本の革表紙を軽く叩きながら答えた。
「『僕』だよ。なんせ自分自身でもなに考えてるのかがわからなくなるときがあるから」
「なるほど、何となくわかります。ごちゃ混ぜになった気持ちを整理したくなる事が何度あったか」
「全人類共通だよね。でも僕のは自分だけで完結する感じじゃないというか、気持ちの問題で終わらないような気がして……いや、これ以上はちょっと言いすぎになるかな」
- 117二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 22:22:48
- 118二次元好きの匿名さん23/06/11(日) 22:47:03
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- 119二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 04:51:48
「『ベリタセラム』……三滴だけで全て白状……醸造に月の満ち欠け程の時間を用いる……魔法省の厳しい管理下にあって──」
「生徒への使用は厳禁」
図書館の一席で高度な魔法薬についての本を借りたアルバスは『ベリタセラム』の項目を熱心に何度も読み返しながら羊皮紙を見ずに羽根ペンを走らせていた。周囲の雑音を全て打ち消す程の集中力はアルバスの右を通った誰かの一言で途端に崩れ去ってしまい、アルバスは心臓を跳ねあげながら右を見上げた。
「……ギャレス先輩」
「ベリタセラムは七年のN.E.W.T.で学ぶ魔法薬だというのにもう独習しようとしてるのか」
「そうかもしれません」
昨晩のスリザリン生との対談でギャレスは本人二人でさえ理由もわからないまま厚遇されていると再認識したアルバスは、そんなつもりはないというのに素っ気なく返してしまった。
「すっごい曖昧だ……まあ頑張って、もし仮に醸造してみたいってなったらいつでも手を貸すよ。それじゃ」
「先輩」
ギャレスはどこかピリピリとしたアルバスを気に掛け、そう言い残し去ろうとした途端アルバスに呼び止められる。いつになく真剣で冷えたな声色だったことに双方気付き一瞬空気が気まずくなったものの、どうにか和ませるべくギャレスが静止を断った。
- 120二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 04:52:33
致命的な誤植してるのに気づいた恥ずかしい!!
- 121二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 06:20:24
「どうした?」
「たまたま所持してたり……いや、前に醸造した事があるのなら是非助けてもらいたくて」
「ベリタセラムをってことなら、本来はシャープ先生に全部提出しなきゃいけなかったのを少量こっそり手元に残しておいた分があるんだよね。別に今後誰かに飲ませる機会はないだろうしせっかくならあげるよ」
自他共に認める『魔法薬学の神童』は伊達ではないな、と感服から目を見開いた。
「本当に良いんですか?そんな希少なものをなにもせずに貰っても……あの、実はこの薬は──」
ベリタセラムの用途とアルバスの事情から誰に使用するかを彼なりに推測ギャレスは「説明はいらないよ」と気を利かせ、放課後談話室にて待つ約束を取り付けた。改めて図書館を後にする前にアルバスの肩に手を乗せて笑みを見せたギャレスは、先程はなぜぞんざいに接していたのだろうかと思わせる程の親しみやすさを醸し出してた。
- 122二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 06:28:32
双子、ギャレスくん見て弟だと言っても受け入れられるってとこちょっと個人的に俺が喜びまくった 弟……弟かぁ……
- 123二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 06:51:53
「仮にベリタセラムが使用された途端魔法省に即通知が向かうとしても必要の部屋で使えばその点は大丈夫だろうし。いかにも、生徒には使用してはいけないなんてルール最初から守るつもりないだろ?それじゃ、また後で」
「……さっきは申し訳ないことをしました」
「ん?」
「いえ、こっちの話です」
旧来より悪戯や小さな悪行を自身の生活の一部にしていたギャレスの頼りがいと寛容さに、アルバスは知らぬ間に唇を弓なりにしていた。
『……聞いたぞ。アルバスが真実薬を誰かに盛るんだって?』
『リアンダー!周りに人がいるんだ、静かにしてくれ……まあ他の誰にも言わなければ……絶対に……』
ギャレスが段々と離れていく光景を少しの間見守ってから本に目線を戻した瞬間全身に悪寒を走らせる会話が聞こえたアルバスは、開きっぱなしの本に突っ伏しながら落胆から頭を抱える。二人の声が完全に図書館の奥へと消えるまで耳が火照る感覚と締め付けられる心臓に苛まれていた。
- 124二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 08:01:41
夕暮れ時、人気のないグリフィンドール寮談話室に足を踏み入れたアルバスはパチパチと薪の燃える音と共に暖かな朱色で周囲を照らす暖炉の近くに座る赤毛の青年と、もう一人別の赤毛の青年を彼の隣に見かけた。
「ギャレス先輩……とリアンダー先輩」
「それでアンドリューが来週も全員分のマフラーを持ってくるらしくて……あ、アルバス君」
アルバスを見てギャレスは話を中断し手を振りながら迎えた。
「やあアルバス。面白い話が聞けそうだと思っただけだ……別に密告しようってわけじゃないから安心してくれ」
リアンダー・プルウェットはギャレスの肩に肘を乗せており、アルバスの到来まで随分と寛いでいたのが伺える。
「それなら良いのですが」
「これが例のベリタセラム。でもどうやって飲ませるつもり?」
アルバスは暖炉近くまで向かい、砂時計のような造形をした小さな青色の小瓶をギャレスから受け取りながら「あの人の事なので飲み物に混ぜれば良いでしょう」と楽観的に答えた。三人全員共通意識を持っていたのか声に出して笑った。
「そういや今日決行するとしてここに呼ぶのか?それともいつもの部屋か」
ギャレスは肩に乗っているリアンダーの肘を(「飛び入り参戦したんだから話はちゃんと聞いとけ」と小声で囁いてから)然り気無く払い除けながら見通しを尋ねる。リアンダーはそれに懲りずまた肘を肩に乗せようとしたが事前に押し退けられていた。
「え、先輩方も来るんですか?」
- 125二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 11:36:55
- 126二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 15:54:15
リアンダーは目を見開きギャレスを一瞥してからアルバスへ向きなおって、「そりゃあ気になるし」と答えた。
「……質問内容はあまり聞かれたくなくて」
「リアンダーがすまない。全部じゃなくていいし、嫌ならそれで大丈夫だから終わったら是非何が起こったか教えてくれ」
ギャレスが落としどころを薦めると、アルバスは手の中で握っていたベリタセラムの小瓶を見つめてから安心したように頷いた。
「わかりました。でも今日中には無理ですよ、あの人夜は基本城外にしかいないので」
「アイツらしいな、いずれにせよ成果が出たら教えてくれ」
「色々ありがとうございます、ギャレス先輩」
「……僕は?」
リアンダーがそう言った瞬間ギャレスとアルバスの思考が完全に一致した。二人はお互いに目を交わし何度か瞬きをしてからまた逸らし、アルバスは先輩相手という事で言及せずにいたが友人相手の軽口としてギャレスが代弁の一言を突き刺した。
「君はなにもしてないだろ」
「「「…………」」」
「それでは失礼します。良い夜を」
- 127二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 17:16:51
数十秒の沈黙の後アルバスが会釈しながらそう伝えて寝室へ向かい始める。談話室にギャレスと残されたリアンダーはあくびを溢しながら不満を垂れた。
「……なんか冷たくないか?」
「僕と君の仲ゆえだよ」
平然とした返答を誇らしく思ったリアンダーは直ぐに調子と(別にそこまで失っていたわけではない)機嫌を取り戻した。
「まあな。でもお前だって出来れば居合わせたかったって思ってるだろ?」
「当たり前さ、なにしろ好奇心に抵抗するのは難しい。でもきっとアルバス君は踏み込み始めてる訳だけだから尊重してあげたいって気持ちの方が大きいのかもしれない」
「……そういえばセバスチャン先輩が教科書に挟んでた紙切れ読むの忘れてた……」
誰もいない寝室へと入室し、ベッドに腰をおろしてスリザリン生へ問いたい質問を羊皮紙に箇条書きしていたアルバスは数日前に貰った『セバスチャン的には面白いと思った事』が書かれた紙切れの事を思い出した。
書いていた文を書き終えてから床に積まれた教科書の山から一冊ずつ持ち出して捲りはじめる。薬草学の本を開くと丁度紙切れが挟まれていたページにたどり着き、それをつまんで本文を朗読した。
「『アロホモラが絶望的に苦手……インセンディオを誰もいないのに撃つことが多い、ハニーデュークスで売り物のお菓子を勝手に食べる、知らない人の家で紅茶を勝手に嗜む……』」
「………先輩……」
セバスチャンとスリザリン生両方へ宛てた哀愁漂う独り言を溢し紙切れを折り畳んだアルバスだったが、裏面にもなにか書かれていることに気付き再度紙を広げる。綴られた文節に目を通したアルバスは『心臓が早鐘を打つ』という感覚を直に味わった。
「『思っているより一個人を見ている』」
- 128二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 18:15:32
「ねえアミット、デートしない?宿題終わったら禁じられた森で密猟者と大蜘蛛ボコしに行きたいんだけど」
「毎回言うけどさ、そんなこと簡単に口走らな……今なんて?」
アミットはスリザリン生の戯れ言を優しく宥めながら(あまりにも常軌を逸した後半の発言で固まったものの)天文台にて天文学の宿題の手助けをしていた。
とは言いつつ実際に星の観測や星座の判別は得意な代わりに座学や小難しい内容にはあまり集中できない模様で、説明も悉く右の耳から左の耳となっていた。
「この問題なんだけど……太陽系の惑星は地球と同じように東から西に動いているんだ、でもまれに西から東に動いているように見える現象が起こる。ここまではわかった?これを見かけの逆行運動って言ってね、どうしてこの現象が起こるかを答えないといけないってこと。ヒントというかほとんど答えなんだけど、外惑星の軌道速度が鍵だよ」
「ん、え、今なんて言ったの」
「………どうしてたまに惑星が通常の反対方向に動いてるように見えるか、わかるかな」
「地球が動く速度がなんとかかんとか。忘れた」
スリザリン生は考えるのを諦めたのか開き直ったように笑っていたもののその瞳には一切の光が点っていなかった。羽根ペンを握る手が奥底に秘めている憤りからか震えているのをアミットが焦りつつ宥めていた。
「いい線行ってるよ、惜しいくらい。この宿題終わったら休憩しようか」
「一緒に大鍋ケーキと爆発ボンボンと砂糖漬けパイナップルとチョコプディング食べたい」
「わかったわかった」
数少ない友人の『生命の危機に陥らない安全な』誘いを嬉しく思い、やれやれと疲労が溜まりつつ嬉しくもなったアミットは親身になって逆行の原理をゆっくり説明していき、いずれ次の、また次の問題にも触れていった。
- 129二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 22:02:37
「……最後だね、北極星は唯一動かない星だけどどうして動いてないのかな?」
「あ!これは知ってるよ、地球の回転軸の真上にたまたまあるからだったっけ」
「物体が持つ重力が質量と比例してるってことは知らなかったのに知識が変に片寄ってるね……正解、休憩しようか」
わかりやすすぎる程に顔を明るくしたスリザリン生は急ぎすぎな程に後片付けを焦っていた。
「お菓子は逃げないよ……まあ例外はあるけど」
せっせと床に散らかした参考文献やアミットリに図解で説明する際に使われた羊皮紙をフィールドガイド本に収納するスリザリン生を見ながらアミットは語りかけるも、一切耳に届いていないのか落ち着く気配は見られない。
「よし!ホグズミードに『飛ぼう』か!」
宿題という名の苦行を終えた興奮と高揚感に囚われているスリザリン生はフィールドガイド本を開いたまま溌剌とした声色で言った。
- 130二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 23:29:54
アミット・タッカー……始めて出てきた名前はフルネーム表記って学んだはずなんだ……ごめんアミット……
- 131二次元好きの匿名さん23/06/12(月) 23:34:42
ポピーちゃんは忘れてなかったから……故に更になぜ
- 132二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 07:10:22
このスレで書きなぐってるSS文字数カウンターにぶちこんだら3万行ってて笑った
- 133二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 07:12:13
うおギャレスくんに目覚めた人が派生スレにいる 感極まりない
- 134二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 09:09:40
「飛ぶって箒で?僕空飛ぶのは苦手……あれ、ふくろうだ」
足首に丸めた羊皮紙がくくりつけられたふくろうは柵に止まりながらあまりにもはしゃいぎすぎているスリザリン生をじっと見つめていた。丸々とした大きな瞳孔と僅かな虹彩が相まって、ふくろうはさながらスリザリン生の状態に吃驚し目を見開いているように見える。
「君宛の手紙が届いたみたいだね」
「ん?おー、誰からだろう」
先程までスイーツに過剰反応していたというのに感情の切り替えが恐ろしいくらい早いスリザリン生にアミットと周囲にいた他生徒達は困惑しながら彼に目線を向けていた。そんな注目も露知らずにスリザリン生はふくろうの足首から手紙を回収し、頭を撫でた(途中嘴で軽く啄まれた)後に飛び去るのを見守った。
「皆音声付きの手紙ばっか書いてくるからこれ単品は珍しいな。差出人はと……アルバス…うわ字が綺麗……ねえアミット見てよこれ、果たし状かってくらい怖い」
スリザリン生は文字を読みやすいように黒い骸骨を模した仮面を外し、封筒の表面と裏面を観察した。開け口の下部に "Albus Percival Wulfric Brian Dumbledore" とミドルネームを全て含めたフルネームで大変懇切丁寧な筆記体で署名されているのをアミットに見せた。普段アルバスから手紙をもらうときは名前と名字のみという事情もスリザリン生がたじろいでいる要因の1つだろう。
「一体何をしでかしたんだい?」
「今回ばかりは何もしてないと思うけどなぁ……」
そう呟きながら恐る恐る封筒を開封し手紙を広げ文に目を通した。だが覚悟を決めていたよりも短文かつ内容の淡白さに拍子抜けすることになり、手紙を両手に持ったまま目を見開いて固まったスリザリン生を気にかけたアミットは肩を揺らしてどうにか目覚めさせようとしたものの、スリザリン生が一向に反応を返さないことで後ろめたく思いながらも手紙を覗き込んだ。
- 135二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 17:07:36
「『短期間に何度も呼集をかけて申し訳ありません。今晩必要の部屋に来てくれますか?願わくば二人きりで』……ん?ただの呼び出し?」
「……こっぴどく叱られそうな予感がする。いつもよりものすっっごい怖い」
「ちょっとした話とか頼みごとかもしれないのに、叱られるかもしれないって考えてるってことは心当たりがあるみたいだけど」
「あ、あはは……アルバスが手紙を送るのは僕に説教をする予定だーって暗喩だからさ。『心の準備しておいてください』って声が聞こえるよ……僕がそう勝手に思ってるだけだけど」
何故に説教を食らうのかを尋ねようとしたアミットだったが、スリザリン生が質問される予感を感じ取ったようで手紙を折りたたみ封筒に入れ直してからもぞもぞと話し始める。
「良かれと思ってやってることとか自分の知らない間にやっちゃった事が度々アルバスの琴線に触れてるからさ、それで結構怒られることが多くて」
「なるほど。その『良かれと思ってやってること』って?」
「んと、ランロクの残党が今でもハイランド全域に残ってるからまた悪事を働かないよう事前に締めてたり(大)蜘蛛の駆除とか。他にも色々あるけど。アルバスにこの事話すとすっごい淡々と説教してくるんだよ」
アミットは何も言わずただ呆れたように肩をすぼめてスリザリン生を哀れみの目で見つめた。
- 136二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 22:11:37
保守保守
- 137二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 23:50:27
「何その目!」
「僕に君を止める力があるとは思ってないけどさ……アルバス君に心配かけさせないでやってよ。君は強い。魔法使いとしても人としてもね。だからなのかな……君は時に自分を尊ぶことを忘れている気がするんだ」
「それってどういう意……」
「君はよくそう言うよね」
スリザリン生は眉間に皺を寄せながら目を張った。度々逃げるように考えを巡らせることを話し相手に委ねる悪い癖は自覚していたものの、いざハッキリと指摘されると反発心を抱いてしまうのも未熟さから続くものだった。
「こうやって代わりに答えを求める姿勢は、まるで本当の自分に自信がないと言っているようにどうしても見えてしまうんだ」
「えーーー、僕は僕なりに生きてるつもりだけどな」
スリザリン生は白々しい笑顔を見せたものの、アミットがそれにつられることも気を逸らされる事もなかった。
「君ってさ、心の中に自分以外の誰かがいたりしない?」
アミットの声色に茶化しや冗談は込められておらず、スリザリン生は普段の彼らしからぬ動揺を見せていた。
「君は、え、君は『僕』を知ってるの?僕でさえわかってないというのに」
「そんな物言いあんまりだな……二年も共に過ごしたんだ、全てとは言わないけど少なくとも君が思っているよりも僕は君のことを知っているつもり。人に多面性はつきものだ、それを受け入れてくれる人だってたくさんいる。それにさ、多少のバイアスとか昔の記憶が混同して自分が思う本当の自分が第三者に見えているそれとかけ離れているなんて当たり前のことだよ。それは誰よりも自分と生きてきたからこそ起こるもので、それを恥じる必要はない」
自身がずっと抱え込んできた『自分ではない何か』を認識している人を見つけ出せたと思い上がっていたスリザリン生だったが、アミットの諭しはスリザリン生が求めていたそれとも、彼が知りたがっていた『本当の自分』への向き合い方ともまた乖離しているもので再度失意に沈んだ。
「それでもたまには人が君をどう思っているのか、君に告げた言葉がどういう意味かについて考えてみるのも悪くないと思うよ」
- 138二次元好きの匿名さん23/06/13(火) 23:59:30
- 139二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 01:08:00
静けさが城内を包み始めた夜十時頃のホグワーツ城にて、七階の天文台へ続く廊下をスリザリン生は右往左往していた。必要の部屋への扉を出現させる条件をとっくのとうに達成してもなお床に目線を落としたまま落ち着かない様子でうろうろと歩き続けていたが、待たせるのも流石に申し訳なくなり扉に手を掛けた。
「お、遅れてごめんねアルバス」
「いえ。丁度お茶が入りましたので」
必要の部屋で唯一『出現』した状態のまま保たれている最奥の部屋、二脚ある一人掛けの一脚に座るアルバスは手元の本を閉じてスリザリン生を迎えた。「丁度」と言いつつも暇をもて余して時間を潰すべく本棚から何冊か拝借して読み漁っていたというのが足元に積まれた三冊の分厚い本が物語っている。
「宿題終わらせないといけなかったからさ」
言い訳は決して嘘ではないものの、本来なら二時間程前までに来れたというのにアルバスの叱責を出来る限り受けたくないという一心で城内を渡り歩いていたというのが大部分。
「自主的に宿題をやったんですか?お疲れ様です」
「え、うん。まあね」
「流石です。さ、座ってください、紅茶は熱いうちに飲むのが礼儀ですから」
柔らかな笑みを仕向けたアルバスに多少緊張が解れたスリザリン生はもう片方の一人掛けに腰をおろす。二脚の間にあるサイドテーブルに一客用意された紅茶をとりじっと液面を見つめていた。
- 140二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 07:10:38
アミットは頭が良くて心優しい子だから人に寄り添うことができるって解釈してるんだけど、レガ主を操作しているプレイヤーの存在とか第四の壁を超えた専門用語(才能、マップの表記、レベリオに反応して色が変わるもの)とか、レガ主がいう『僕』という自分にメタ発言をさせたり本来出来ないことを可能にする謎の存在についてはゲーム内のキャラとして絶対に理解できないよな……それは他の皆と同じか……
フィクション上のキャラとしてゲームと現実の狭間でぐらぐらしてるレガ主にできる精一杯のアドバイスがあれで、話が時々噛み合わなかったり色々根本的な問題は解決できないけどレガ主の心の拠り所の一つになれているんだよ - 141二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 07:39:38
「…………」
「どうしました?」
「………ごめんなさい」
「どうして謝るんですか?」
アルバスは自分の分の紅茶をすすりながらなんの取り繕いもない無邪気な声で尋ねる。スリザリン生は目を丸くしてアルバスの方へ向いた。
「えっと、怒られるかと思って」
「……今日は貴方を叱る気分じゃありませんよ、言いたいことはたくさんあるんですけどね」
「よかったー……あれ、じゃあなんで僕をわざわざ手紙で呼んだの?」
「ダメですか?」
ソーサーにティーカップを置き一呼吸ついたアルバスはと年齢相応の幼さを帯びた笑みを見せる。元々言うつもりはさらさらないとはいえ、そんな顔されては誰であろうとダメなど到底言えるわけがなくスリザリン生は首を何度か横に振り、その反応にアルバスはまた目を細めて笑いかけた。
「あ、そういえば忘れてました」
アルバスは思い出したかのように杖を取り出し一振りで生温くなった紅茶をまた温めなおす。紅茶の香りが湯気に乗ってスリザリン生の鼻を擽った。彼が紅茶に口をつける動作にアルバスはあからさまに反応して振り向き、ティーカップの縁から唇を離すまで注視していた。
「……すっごい美味しい。そういえばさっきはなんの本読んでたの?」
「『魔法象形文字と記号文字』って本ですよ、三年に上がったら古代ルーン文字を学びたいと思ってて」
- 142二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 12:53:23
「もう選択科目について考えてるの!?相変わらず……ほんっとすごいなぁアルバスは……別に預言者じゃないけど君はいつか魔法界を揺るがす程の大業を成し遂げる偉大な魔法使いになるって確信してるからね僕は!」
幼い後輩の先見の明に吃驚しつつも向上意欲に感銘を受け本心から褒めそやす。アルバスは満面の笑みで自分を過剰なまでに褒め立てるスリザリン生に恥ずかしくなったのか、耳を赤らめながらも素っ気なく返答した。
「ありがとうございます。そういえば先輩は五年の頃に編入してきたんでしたよね、考える暇も無かったんじゃないんですか」
「僕の事情を抜いても普通一年生の頃から選択科目について考えることはないと思うよ??」
スリザリン生が真実薬『ベリタセラム』がこっそり入れられた紅茶を飲んでから少し経った頃、他愛ない会話を切り上げたアルバスは左手に質問をまとめ半分に折りたたんだ羊皮紙を見られないように取り出した。ベリタセラムの効力を確認するべく本題に入る前にその場で考えついた適当な質問をスリザリン生に尋ねる。
「先輩には兄弟とかいたりするんですか?」
『…………僕が知ってる限りはいない』
唐突な質問に一抹の疑問を抱く素振りも見せず、むしろ面白かったのかふっと鼻から息を吐くように笑ったスリザリン生が多少濁していたとはいえ率直に答えた事で効力を確信したアルバスは、意を決して事前に用意しておいた質問の数々を問い始めた。
- 143二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 12:59:58
うわ本スレわかーーるーー!!!!絶対可愛いじゃん!!!
- 144二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 22:12:05
「まずは……先輩って実のところ性別どっちなんですか?」
『心は両方、多分男寄りかな。まあ生物学的にいえばお………』
「?えっ、そこで止まらないでくださいよ──これ本当に効いてる……?ちゃんと三滴入れたはず……」
アルバスはポケットから青色の小瓶を取り出し訝しげに見つめながら呟いた。スリザリン生の目だけが一瞬同じく小瓶に向いていたことを不安に思いながらも一旦は気の所為として処理し、羊皮紙を肘置きに広げ尋ねた質問の横にチェックマークをつけて質疑応答を再開した。
「この質問はもうした……これは後で……。貴方がいう『人助け』が自分の命も利益も顧みていないからこそ出来るもののばかりせいで、貴方の事が気がかりで仕方がない人がいるってことについて、どう
……どう思ってますか」
アルバスは私的な感情を一切こめないように心がけ、出来る限り『アルバス・ダンブルドアではない第三者』としてスリザリン生へ質問を投げかけようとしていたものの「気がかりで仕方がない人」がとどのつまり自分を指している事がそれを困難にしていた。
『理解してほしい』
「……もう少し詳しく説明してください」
『愛する人々皆をを幸せにしたい。僕のせいで危険な目に遭って苦しんだ皆に贖罪がしたい。……あぁ、それとね、僕がどう思おうが出来ることは限られてるからこうやって理由をつけて自分から進んでやり始めてるんだ」
「先ぱ──貴方は今自分が何を仰ってるのかわかっているのですか?」
- 145二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 23:04:08
「……あのさ、アルバス」
真実薬、それもベリタセラムの効力の下にいるというのにスリザリン生は自分に語りかけている人物を認識していた。彼は人形のような笑みを浮かべながら両手で包んだティーカップを眺め、まるで暇潰しの為にする中身がない雑談の一節のような平坦な声で言った。
「わかってたら真実薬なんていらないよ」
「あ……っ」
確かに名を呼ばれた時、そして真実薬について気づかれていた事を告げられ嫌な汗が頬を伝い始めているのを感じスリザリン生の顔を覗き込んだ。彼は変わらず笑っており、アルバスは血の気が更に引いていく感覚を覚える。
「冗談みたいなものだったんだけどまさか本当にしちゃうなんて。はは、誰に協力してもらったのかな?ギャレス?」
「……いえ」
「否定する必要ないよ、だってこれベリタセラムでしょ?すぐに用意できるわけない代物だ」
スリザリン生はくすっと笑い、ベリタセラムが盛られていると知っていながらも残りの紅茶を啜った。「マドレーヌと一緒に飲みたかったな……」と呟きながら空のティーカップをサイドテーブルに置いた。
「あ、それ以上は……!……先輩、これは全部僕のわがままだったんです。無理言って譲ってもらったので、ギャレス先輩に詰め寄るようなことは……しないでくれますか」
「心配しないの、どうせこれ以上効き目はないし。てか僕、誰にも怒ってないよ?」
- 146二次元好きの匿名さん23/06/14(水) 23:39:25
「本当、ですか?」
「別に怒る理由ないからね」
アルバスへ向けてウインクを飛ばしながら茶目っ気のある声でそう告げた。気持ちが落ち着いたのかアルバスも微笑みを返し、緊張から解放されて一気に眠気が流れ込んできたのかあくびをこぼす。壁掛け時計は十二時をとうに過ぎており双方それに気付くと、特にスリザリン生はこの世の終わりのような表情で時計から目を離せずにいた。
「あ、あああ明日闇の魔術に対する防衛術の実技なのに集中できなかったらどうしよう……!?」
「これは……魔法史が地獄になりますね、はは」
同様が全体に現れているスリザリン生を見ながら彼の、そして自分の翌日の惨事を想像したアルバスは乾いた笑い声を上げた。どれだけ失望しているかというと、「いっそのこと夜更ししちゃう?」と冗談(声のトーンがあまりにも悲壮感に溢れていたが)で提案したスリザリン生に思わず賛同する程だった。
- 147二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 00:30:11
必要の部屋を後にし、スリザリン生はアルバスをグリフィンドール寮前まで送る事にした。人一人おらず環境音と二人の足音だけが木霊する城内はいつでも新鮮なもので、元からたじろぐ程広大なホグワーツ城が何時もよりもうんと広くなったように思えた。
「……あの、どうやってベリタセラムに気づいたんですか?」
「『僕』なりのやり方があるんだよ」
「なんだかギャレス先輩に似てきましたね」
スリザリン生は「そんな事ないよ」と否定していたものの、語気は和やかで大変嬉しそうに顔を綻ばせていた。アルバスは自分の発言に少しばかり後悔しながらも笑顔を見上げる。
「もう一つ伝えたい事があるんですけど」
「なーに?」
「……先輩には無理してほしくないです。さっきも言いましたよね、貴方が夜な夜な僕の知らないところで命を懸けて戦っているという事が怖くて仕方がないんです。貴方がなんと言おうが自分の命を優先してください、大切な人を守りたいと言っても守れる前に死んでしまえば……本末転倒じゃないですか」
手の甲に触れ、雨上がりのステンドグラスのように煌めく目でアルバスに見上げられたスリザリン生はその青い宝石の中心に吸い込まれそうになる感覚を覚えた。
「心配してくれるんだね。でもこれは僕が『僕』に──皆に出来る最大限の恩返し。ずっと追い求めていた皆の愛し方の答え」
「やっぱりわかってくれないのですか」
「はは……君もいつか自分の命と引き換えにでもより大きな『何か』を追い求めるんじゃないかな?善だろうが悪だろうが自分は正しいと思い込んでさ。その時にわかるよ、アルバス・ダンブルドア」
- 148二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 08:06:57
序盤の文章呼んでて恥ずかしいから全部telegraphにまとめるさいに直します!!!!!!
- 149二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 08:16:51
読……
- 150二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 15:26:15
「ギャレスなら勿論ご存知だろうけど」
あくびを語頭につけ、スリザリン生は壁によりかかりながら魔法薬学の授業後教室に残って自作の魔法薬を醸造しようとしている赤毛のグリフィンドール生に話しかけた。睡眠時間が足りなかったせいで声は度々しゃがれており、黒い骸骨を模した仮面越しに見える瞳は影と相まって更に暗くぼやけていた。
「昨日アルバスと色々話したんだ」
「その言い草だとベリタセラム『も』効かなかった感じか?」
ギャレスはスリザリン生の方向を見ずハナハッカとベラドンナエキスをすり鉢ですりつぶし混ぜながら平然と尋ねる。
約束通りアルバスから昨晩の対談で何が起こったかを教えてもらっていたとはいえ、真実薬の効力含め一部は故意的にひた隠しにされていた様。「そういえばアルバス君は薬については使ったってとこ以外触れてなかったな」と心の中で振り返った。
「そうみたい。陶酔薬とか君が今調合しようとしてる……なんだっけ、無機物が肉の塊に見えるようになる魔法薬だっけ?あれを飲んだときと同じ感じ。前アモルテンシアを飲んだ時に確信したんだけど、精神と五感を支配する魔法薬は僕が飲むと効力は据え置きで自分の意識はびっくりするほどそのままなんだ」
「魔法薬……しかもそれぞれの種類において最上級のものに抗えるなんて今まで聞いたことがないな。もっと聞かせてくれないか?ちょっと待って……一旦醸造終わらせてからゆっくり話を聞くよ」
ペースト状になったハナハッカを鍋に投入して数回かき混ぜた後、鞄から羊皮紙と羽根ペンを取り出し聴取と書紀の準備をしスツールに腰を下ろしたギャレスはやっとスリザリン生へ振り向いた。「うわっ思ってたより寝不足そう」と仮面の穴から覗く目を見ながら開口一番に軽く笑い、スリザリン生は微量な眠気のせいで怒る素振りも見せられずただ溜息を零した。
- 151二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 16:45:25
「はぁ……そうだね……これは最近気づいたことなんだけど、『薬の効力現われろ〜効け〜』って意識すると影響を受けるし、逆にほんの少しでも抵抗すればただの水と変わらない」
「改めてそう言語化されると変な体質だな。あれ?じゃあ『あの時』は本当はどっちだったんだ?」
「ん?愛の妙薬の事なら……どっちだろうね、ギャレス。あの時僕が抵抗していたのかどうかは君が望むように解釈すると良いよ。まあ少なくとも『僕』は──」
スリザリン生は「あまり深く追求したくない声色」で口角を上げながらそう告げた。肝心なところで話を終えたせいで更に悪寒を感じたギャレスが一瞬震え上がった事には寝不足から来る集中力の低下のせい(ギャレスにとってはおかげ)で気づけなかった。
彼の揶揄るような言動は全て冗談だとわかっているもののギャレスは時折居心地の悪さから未知への恐怖に類似した感情を覚えることがある。転じて、その原因であるスリザリン生はたとえどれだけ冗談を冷たくあしらわれたとしても悪く思わないらしく、むしろ満更でもないようだ。
ギャレスは自分だけが感じている気まずい空気を振り払うべく「他には?」とスリザリン生の特異性についての話を引き出そうとした。
「んー、後は……ベリタセラムは他とはちょっと違ったね。何も考えてない間はずっと『僕』が──あー、ずっと、勝手に喋ってるみたいだった」
- 152二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 18:06:54
「効力を意識せずとも?」
「うん。真実薬と他とでは何が違うんだろうな」
「記憶そのものに干渉する真実薬と単純に認識を一時的に変える薬ってところが主な点だな。面白い発見だ……てか、なんでこんな遠回しに効力の検証したんだ?アルバス君相手にあんな小芝居せずとも僕と君だけで出来たたはずだけど」
スリザリン生の言及を短くまとめて羊皮紙の適当な場所にスラスラと書きながら一つ疑問を問いかけた。片手間に鍋に切り刻んだラビッジを投入し杖を適当に振るった瞬間鍋から大きな破裂音がし、ギャレスは調子外れな驚嘆をあげながら後退ろうとして椅子から落ちかける。スリザリン生はいずれの音を無視し、情けない姿を見て口を袖で隠しながら笑った。
「丁度アルバスがいたから。ってのは半分くらい嘘だけど……たまには『僕』の愚痴を吐き出したくなったからね」
「危なかった……ん、君の愚痴?また変な単語を作る……」
説明するのを拒んだ(そもそも自分でも説明できる程現状をわかりきっていない)スリザリン生は話題をすり替えようと辺りを見渡し、ふと鍋に着目した。
「そういえば今はなんの薬作ってるの?」
「名付けて腹ペコ薬……は安直すぎるか。飲んだ瞬間急激に空腹に見舞われる薬、それとお互いの解毒剤として満腹薬も開発中ってところかな」
「趣味悪いなぁ」
「君に言われたくはないな?」
軽口を叩きあい笑いを交わす二人だったが、煮詰めていた魔法薬が文字通り突如「噴火」し天井が焦げ周囲を無秩序状態にしてしまった。発汗と冷汗を滲ませながら魔法薬学の教師であるシャープ先生が教室に戻るまでの三分間、修復魔法や周囲の後片付けで一心不乱に証拠隠滅を試みていたものの結局二人は居残り罰を受ける羽目となった。
- 153二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 18:07:37
- 154二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 18:58:47
- 155二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 21:57:32
良い意味でタイトル詐欺過ぎる…レス60くらいから追ってました、お疲れさまです!!ていうか絵がごっつうまい…神…
- 156二次元好きの匿名さん23/06/15(木) 23:57:19