とあるアリウスモブの日記

  • 1二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:36:28

     月100日
    本日も異常はない。100日目という区切りのいい機会に身の回りの簡単な整理を行った。
    といってもここはただの瓦礫の隙間だ。銃器と爆薬の位置を整えて土埃を払っただけだ。
    この場を見渡して身体を落ち着けるたびに再確認する。私の居場所、部隊長越しにマダムから授けられた領地。
    私の役目はここで敵を警戒し続け、もしそれが現れたならば拠点への報告と奇襲を行うこと。そして周りに積み重ねられた廃材ごとこの場を崩落させ、敵の足止めをすることだ。
    自分が人間なのか、敵に反応する機能しか持たない爆弾なのか、分からなくなるくらいでちょうど良い。ただただ待ち続けるのみ。

     月101日
    本日も異常なし。定時連絡も代わり映えしない。マダムが大人の会合らしきものから戻られた、という報告も無かった。
    私も含めた戦闘員の任務はマダムの指示以外で解かれない。警戒態勢はそれこそ何年でも続くだろう。
    私のいる位置と同部隊の仲間が集う拠点にはそれなりの距離がある。更に、その拠点も居住区から大きく離れている。ここは大した要地ではなく、地上へ通じる道が一つあるだけの辺境だと言っていい。
    しかし、だからといって役目をないがしろにすることはできない。これは外敵を決して許さない、というマダムの意思表示。そう受け取らなければ。
    ……定時連絡の相手は時々、自分の役目を疑問に思ったり、関わる人の少なさを憂うような発言をする。彼女にはこの長い任務が終わった後に再教育が必要だろう。

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:37:12

     月108日
    異常なし。だが天候が非常に悪く、寒気が酷い。
    ビニールシートを体に巻き付ける以外の防寒対策が無く、それをやっても身体が凍りそうなほどの寒さだ。環境が最大の敵とはよく言った物である。
    だが、この環境では仮に攻めてくる人間がいたとしても素早くは動けないはずだ。そう考えれば悪い状況ではない。
    唯一気にかかるのは拠点のことだが、あちらは人数が揃っているし別の拠点との間で物資の融通もできる。何の問題もなく粛々と対応している、と信じることにする。

     月111日
    定時連絡が途切れたことから、久しぶりにこちらより拠点の方へ通信を飛ばした。その結果、連絡の担当を含めた5名の脱走者が出ていると判明した。
    戦闘が行われた形跡が無く、武器やそれぞれの物資が持ち出されていたため奇襲の可能性もありえない。これは明確な逃亡行為だ。
    この日記を書きながら私は警戒を強めている。万が一にも私の付近を通りがかることがあれば徹底的に銃撃し、役目を捨てた者にどんな末路が待ち受けているのか教えてやらねばなるまい。

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:38:30

     月112日
    病気で倒れた者が2名。脱走者が更に3名。もはや部隊が回っていない、と拠点から深刻な連絡を受けた。
    私への定時連絡も打ち切られ、連絡は非常時にのみ。物資は自分で管理せよとの命令だ。問題はない。一人であっても成立するのが私の仕事だ。
    常々思っていることだが、脱走者達はここを抜け出してどこへ行くつもりなのだろうか。
    ここ以外の居場所などありはしない。我々はここで生きて、ここで死んでいく定めにあるというのに。
    苦痛から逃げ出してもその先に待つのはより大きな苦痛と、追いかけてくる過去だけなのだ。全ては虚しい。

     月113日
    先日脱走した部隊が脱走直前に倉庫へ入り、食料と弾薬を持ち出していたことが判明した。
    ただでさえ物資の不足は深刻だった。私の元へ送られてくる配給もこれからは絞られるだろう。
    やむを得ない。今までが恵まれすぎていたと考えるしかない。病人や、多く動き回る者への支給を優先的に行うのは当然だ。
    無駄遣いをしないためにもなるべく身体を休めなければ。本日の日記はここまでとする。

  • 4二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:40:22

     月120日
    更に多くの脱走者が出ているらしい。拠点から連絡してきた相手は前回とまたも別人だった。現状、脱走者の人数さえ把握できていないと言っている。とうとうまともに動ける者の方が少なくなった、とも。
    状況から想像するに、病気や飢えで完全に動けなくなる前に持ち場を捨て、生活できる場所を目指した……という事だろうか。
    惰弱な発想だ。マダムが聞いたら大いに嘆き、怒られる所だろう。
    我々は病んでいて当然なのだ。苦しんでいて当然。この世の全ては虚しいもので、苦痛にあらがう事は出来ない。
    そう教わってきたし、彼女たちもそれは分かっていたはずだ。それなのに、何故……。

     月121日
    脱走者が次々に現れていた理由が分かった。このアリウス自治区に再度、地上の手が伸び始めている。
    奴らは郊外から侵入してきては各拠点を制圧し、戦闘員に降伏を呼びかけているらしい。もしかすると脱走した者はどこからかその噂を聞きつけ、保護を求めて降伏しに行ったのかもしれない。
    もちろん私にそのつもりはないし、今現在拠点に残っている仲間達も気持ちは同じの筈だ。
    何百回と繰り返してきた装備の点検を再度行う。全ての武装という武装を使い切るまで決して倒れない。その覚悟を固め直す。

     月122日
    異常な事態が起きている。
    銃声が数度だけ聞こえて、それから途絶えた。間違いなく私が属する拠点の方からだった。
    戦闘としてはあまりにも短すぎるし、あっけなさ過ぎる。通信を飛ばしても返答は帰ってこない。警戒態勢に入らなければ。

    真相が分かったのは夕方。こことは別の拠点に通信を繋げてからだった。
    いわく、地上からやってきた集団はもうほとんど攻撃らしい攻撃を行っておらず、降伏と和解を成立させつつあるという。
    地上から持ち込んできた補給物資も配られ、徐々に行き渡りつつあるという。何故そんなことをするのか?
    通信の相手を問いつめても理由までは分からなかった。それどころか私にも降伏を勧め始めた為、交信を切った。奴らも使命を放棄した側の人間か。
    私は厳重な警戒態勢を続ける事にする。

  • 5二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:41:52

     月123日
    この場から離れられない身がもどかしい。なぜ同胞は最後まで戦わない?
    それに、侵入してきた集団、トリニティと思しき奴らはマダムが不在であると知っているのだろうか? それを好機と見てこんな行為を?
    もしマダムがいたならばそのような侵略は決して許さないだろうし、そもそもこんな状況には至っていないだろう。
    一人きりになっても私は待ち続けるつもりだ。マダムが指揮を執り、憎き奴らを私たちの世界から叩き出すのを。

     月124日
    各地の無線を傍受して情報を集めようとしたが結果は出せなかった。どこにも通信が届かない。本当の意味で私は独りになったようだ。
    そして今日、私も自分の目でトリニティの生徒を目視できた。救護を求めている人を捜し、呼びかけて回っているようだった。距離はまだ離れている。
    すぐにでも攻撃を仕掛けたい気持ちに駆られたがここは耐える事とした。奇襲のチャンスは1度しかない。見計らわなければ。
    日記を書いている時間も惜しくなってきた。本日はここまでとする。

  • 6二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:44:09

     月125日
    奴らは依然調査を進めているようだ。瓦礫をひっくり返すような騒音が辛うじて聞こえてくる。
    拠点にはまず確実に侵入されているようだが、まだ私のいる方へ近づいてはこない。それならばまだ私が動く理由はない。地上へ続く道を確保しようと、集団で私の前を通りがかった瞬間が最も望ましい。
    何も心配する必要はない。きっとマダムはこの地に戻り、ふぬけた連中をまとめ上げて奴らを殲滅してくださる。私はその尖兵だ。1秒でも時間を稼ぎ、1人でも戦闘不能にする。その為に今までの時間はあったのだ。

     月126日
    先日と変わらず。聞き慣れない物音のせいか、単に体調が悪いのか、まともに睡眠が取れていない。食欲も無い。
    意識が鮮明なうちにこの日記を書いて、またスコープを覗き込みながら耳を澄ませる時間に戻っている。
    足音と話し声がこちらに近づいてくるのが恐ろしいとばかり思う。警戒を続けなければ。

  • 7二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:47:57

     月 日
    お許しください。私は祈ってしまいました。
    奴らがすぐそばを通ったとき、戦えませんでした。そうすべきと知っていて、一人で戦う無意味さに打ち勝てませんでした。
    奴らが離れていったとき、心から安堵してしまいました。天運に感謝しなかったと言えば嘘になってしまいます。
    どうかお許しください。貴方様に懺悔させてください。どんな罰でも受け入れます。ですからどうか、一刻も早くここに戻られてください。ベアトリーチェ様。

     月 127日
    奴らを指揮していると思われる大人を目視した。
    過去に裏切り者のスクワッドを引き連れバシリカを襲撃したあの大人、「先生」と呼ばれる存在だ。背格好や服装からして間違いない。
    そして、奴らに屈したと思われる同胞が先生を案内しているのも見てしまった。
    あいつらも今や敵だ。我々がずっと味わい続けた苦痛、永遠に続く虚しさを彼女らは忘れてしまったのだろう。
    次に射程範囲まで接近してくることがあれば撃つ。それしかない。自分に言い訳するのは終わりだ。私はマダムに忠誠を示し、血を流し尽くして死ぬ。そうするべきなのだ。

     月128日
    計3回、攻撃を行った。先生への直撃はおろか、一人たりとも制圧することは叶わなかった。
    弾が酷くブレる。おかしいのは銃ではなく私の手の方だ。握力がひどく衰えているように感じられる。
    反撃はない。あの先生が撤退の判断を下したようだ。
    いっそ反撃された方がマシだったと今になって思う。
    奴らは私が1人であり、息絶え絶えであると理解している。遠巻きに力尽きるのを待つつもりか。
    虚しい。戦いにさえならないのか。何の戦果も上げられず倒れるしかないのか。
    どこまで行っても虚しいとはこういう事か。虚しい。ただ虚しい。

  • 8二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:49:35

     月 日
    繰り返し射撃する。
    マダムのお役に立つ。
    我らがアリウス分校の生徒会長のために。
    死ぬのは恐ろしくない。
    その死がマダムの利にならないことの方が恐ろしい。
    救われた恩だけは返したい。思えば、虚しいのに生きてきたのは、その為だった。

     月 日
    今日で最後にする。
    もう抵抗の余地はない。ありったけの爆弾を抱えて突っ込む。
    この日記が同胞の手に渡りますように。私と同じ志を持つ者の背中を押せますように。
    私は最後まで戦いました。悔いはありません。

  • 9二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:52:49

     月 日
    ようやく体を起こし日記に触れることを許された。手足はまだ動かしにくいが文字くらいは書ける。

    私は果たせなかったようだ。爆弾を抱えたまま倒れ、意識を失っているところを、先生が指揮する一団に回収されたらしい。命に関わるほどの重体であったため地上の施設に運ばれてきたようだ。
    病名らしい病名はなく、単に極限の過労と栄養失調が原因のようだ。命は救われたが体の節々が壊れかけており、絶対安静にしていろと医者……救護騎士団と呼ばれる連中に言われている。
    今も体に力が入らない状態だ。これでは奴らに反撃することも、ここを抜け出すことも、いっそ自害することも出来そうにない。誰かしらが常に病室の外で私を見張っている。
    私をどうすると言うのだろうか。戦力として使えず、情報も持っていないため利用価値はないはずだが……とにかく今は休息する。

  • 10二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:53:30

     月 日
    例の先生と呼ばれる大人が見舞いに来た。意識が朦朧とした状態でも何度か目にしていたが、起きて顔を合わせるのはこれが初めてだった。
    アリウスから、引いてはマダムの配下から鞍替えさせるつもりだろうと予測していたがそんな様子はなく、こちらが突っぱねるとそれ以上踏み込んでくることはしなかった。
    彼は私の味方なのだという。反論の言葉は見当たらなかった。私を地上の病院に連れてくる判断を下し、この日記を持ってきてくれたのもどうやらこの大人のようであったから。
    尋問らしい尋問も行われず話は終わった。本当に、ただ体調を見に来ただけという様子。
    マダムとはまた違う大人の姿は、拍子抜けするほどに普通の……ごく普通の穏やかなものだった。

     月 日
    私はどうすればいいのだろうか。
    体調が快復すれば武器を取り戻し、あの先生や、私を治療してくれた救護騎士団を攻撃しなければならないのだろうか。
    トリニティのことは今でも抑えがたいほどに憎い。しかしあの人たちは、そして先生は……殺せる気がしない。
    マダムの統治によって救われた時と同じだ。大きな恩を抱えてしまった。全ては虚しいのに、今は温かくてたまらない。
    目が見えづらい。本日の日記はここまでとする。

  • 11二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:54:50

     月 日
    私の命を救ってくれた方々へ。
    心から感謝する。挨拶もなくこの場を去ることをどうかお許し頂きたい。

    私は自分が分からない。貴方達に感謝しているのに、同時に憎悪の気持ちも冷めていない。
    私自身はどうありたいのか。原点に立ち返って確かめなければ、きっと前には進めないのだと思う。
    いつか必ずこの恩は返す。その後で改めて考えさせて欲しい。私は貴方達と手を取り合えるのかどうか。罪深い私にその資格があるのかどうか。

  • 12二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 15:55:55

     月6日
    今日もマダムに繋がる手がかりは見つからなかった。ブラックマーケットに入りさえすれば情報網を使えると思ったが考えが甘かったようだ。
    しかし幸いにも手に職をつけることが出来た。ヘルメットを装備して多少の戦闘をこなすだけの簡単な仕事だ。自分で金銭を稼ぎ、それで物を買う日が来るなどとは思いもしなかった。
    あの先生のように、見知らぬ私に目をかけてくれる親切な者とも出会えた。私と同様ヘルメット団の雇われのようだが色々と気遣ってくれる。腕前も見事なものだ。アリウスの教官として通用するレベルだろう。
    自分の足で歩いているだけで世界の広さを実感する。目眩がするほどだ。瓦礫の底もあれはあれで懐かしいものだが、今はずっとこの明るい場所を歩いていたいと思う。

    行方が分からないマダムをこちらから捜し出す、自力でアリウス自治区に戻る方法を見つける、同胞に連絡と弁明をする、救護騎士団と先生に対する謝礼を用意する……それ以外にも未達成の目的が山ほどある。
    明日の準備が必要だ。本日分の日記はここまでとする。

  • 13123/06/02(金) 16:00:26

    (流行りに乗ってアリウスモブを生やすスレでも建てようと思ったけれど、よく考えてみれば進行方法が何も分からんってことでそのフラストレーションを形にしたものでした)
    (アリウスモブ、いいよね……)

  • 14二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 16:01:58

    ダイスや安価に頼らず全て自分で考えるその姿、誉れ高い

  • 15二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 16:03:22

    良いものを見た

  • 16二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 16:03:41

    この子が極端な例のだけで、こういう子があの地下にかなりの数いたんだよなと考えさせられる

    いいSSだった

  • 17二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 16:16:25

    地上で生活し始めてから日数カウントが新しくなってるの好き
    というか月が書いてないのは時間の感覚が無いからなのかそんなもん教わってないからなのか

  • 18二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 16:23:45

    怪我人と病人を優先させてるの見てちゃんと良い子なんだなって…
    マダムも慕われている事に気づければ…

  • 19二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 19:10:45

    任務normalとかに出てくるアリウス生もこういう気持ちで戦ってるんだろうか

  • 20二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 19:15:48

    誰かに咎められたわけでもなく怯えた自分を責めて懺悔してるの辛すぎる やっぱ許せねえよベアおば…

  • 21二次元好きの匿名さん23/06/02(金) 19:56:15

    気が向いたらでいいから安価等々でもいつかやってほしい、アリウスモブなんてなんぼおってもいいですからね

  • 22二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 04:39:38

    この子が最終章でヘルメット団の一員としてシャーレを守っていたかもしれないの、すごくいいね

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