- 1二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:05:15
- 2二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:06:00
そわそわ。
そんな擬音が聞こえてきそうであった。
「……あのさ、あかりんご、何か言いたいことあるんだったら言ってみたら?」
りあむの隣で、あきらがあーあとうとう言っちゃったという顔を浮かべる。
「あ、あや⁉ ど、どうして言いたいことがあるってわかったんご⁉」
「いやーだいぶわかりやすかったよあかりチャン」
隣でうんうんとプロデューサーもうなずいている。
「えーバレバレぇ? 恥ずかしいんご」
「ふふ、そういうところもあかりチャンの良い所だよ」
と、いつものようにあかりをほめるあきら。
「話があるなら聞くよ?」
「そうですね……ちょうどいいですし」
部屋の中には、三人のアイドルとプロデューサーしかいない。キョロキョロと部屋を見回し、そのことを確認してから、あかりは切り出した。
「私、アイドル辞めようと思うんです。アイドル辞める時ってどういう手順になるんですかね?」 - 3二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:08:54
数秒の沈黙。
あれ……?とあかりが戸惑った表情を浮かべかけたところで、りあむが叫んだ。
「はあああああ⁉い、引退⁉な、なしてや⁉ぼくがいつも炎上するから⁉見捨てないであかりんご!」
情けない顔を浮かべながらあかりに抱き着く。
「ちょ、声が大きいですって!しー!しー!」
「だってえ突然そんなこと言われても……」
「突然って……あ、今すぐ辞めるって話じゃないですよ!まだ先の話です、まだ!」
あかりがりあむを宥めてから、プロデューサーは切り出した。
「あかり、話してもらえないか。どうして辞めたいのか」
「……はい。私、アイドルを卒業したら、実家のりんご農園を継ぎたいんです」
「ええ!……って驚くには順当な進路だね。でも、いいのあかりんご?農家は大変だーっていつも言ってたじゃない?」
あはは、とあかりは笑う。
「本当に。きっと将来、私なんで農園継いじゃったんだろうー!って思います。きっと何回も。でも、ずっとアイドルやるってわけにはいかないですからね」
「あ、あかりんごならずっとアイドルやれるよ!」
あまり話を遮らない、とプロデューサーがりあむをたしなめる。
「だけど俺もあかりなら長くアイドルは続けられると思うぞ。それだけの人気があるし、向いてると思う」
そう言われると照れるんごとあかりは頭をかく。
「ありがとうございます。でもずっとアイドル続けてる自分を想像できないんです。だけどアイドル引退して、父ちゃんのりんご農園を継いでる姿は想像できるんです」
あかりはプロデューサーに視線を向けた。
「プロデューサーさんは前にりんごの宣伝以外にしたいことが見つかればいいなって言ってくれましたよね?」
プロデューサーは首肯する。
「私、アイドルになって色んなことやらせてもらって、それで私って思ったより色んなこと出来るんだなーって自信持って……それでも思っちゃったんです」
一呼吸置いて言う。
「もし私に色んなことが出来たって、私は山形りんごの仕事をしたい、って」 - 4二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:10:15
「あかりんご……」
「って、言うほど情熱に燃えてるってわけじゃないんですけどね、アハハー……東京でアイドルやって結局実家に帰るって何だかお恥ずかしい……」
「何も恥ずかしいことじゃない。立派な選択だ」
「あかりんご、大人になったねー……」
りあむは、感心し、あかりの顔を見ていた。
「あかりが選んだ道なら止めないさ。それにあかりなら、きっとどの業界でもやっていける。あかりは人に愛される人間だしな」
うんうんとりあむもうなずく。
「それにあかりは運が良かっただろう」
「ってちょっとPサマ⁉ それどういう意味⁉」
「わ、ビックリした。りあむさん大きな声出さないで欲しいんご」
あかりのために大声を出したつもりのりあむであったが、あかりはりあむの大きな声の方が気になったようだ。
「それだよ、あかり」
あかりも、りあむも疑問符を頭に浮かべる。
「運が良い、って言うと悪口みたいに感じる人って多いだろう。ちょうどそこのりあむみたいに」
「ウッ」
「でも、あかりは運が良いってことは、良い事だって理解してる。あかりがアイドルとして成功できたのは、運が良かったからだが、その運をつかめる人間だったからだ」
「運を……つかめる」
あかりは視線を落とし、自分の手を見つめた。
「努力だけじゃどうにもならないことを理解しつつ、努力するのは簡単なことじゃない」
「努力は苦手って文句言っててもですか?」
「文句言っててもだ」
ふふっと笑みがこぼれる。
「俺には農業のことはわからない。だがあかりは人に愛されるし、運をつかめる。きっとそれは、どんな仕事でも武器になる。……応援してるぞ、あかり」
「……!はい、ありがとうございます」 - 5二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:11:32
話が終わった後、りあむがゴネたりゴネなかったりした。辞めないでと言ってから、やっぱり推しの選んだことは応援すべきか、と感情の反復横跳びをする様子を、プロデューサーに次の仕事に引きずっていかれるまで、あかりは苦笑しながら見ていた。
「……あ、あのあきらちゃん? ひょっとして怒ってたりする……?」
二人きりになってからあかりは切り出した。
引退の話を切り出してから、あきらは一言も喋っていない。
目を落として、話を聞きながら黙していた。
「違うよ、あかりチャン。怒ってるんじゃないよ……。ゴメン」
「え? ごめんって、謝ることなんて……」
「あかりチャンの夢を応援してあげられなかったこと……ガンバレって言えなかったこと、ゴメン」
「あきらちゃんは、嫌なの? 私がアイドル辞めること……?」
「ちが……! いや、やっぱりそうかも……」
沈黙が流れてから、あきらはぽつぽつと話し始めた。
「ずっとアイドルをやってられないって言ってたけど、それは自分も同じ。大人になったら、いつかはアイドルをやめるんだと思ってた。……でもそんなことちゃんと考えてなかったんだって、あかりチャンが将来の話をして気付かされた」
「あきらちゃん……」
「今は、今しかない。だからこそ最高の今を楽しむべきだと思ってたけど……今が永遠に続くなんて、いつの間にか思ってたみたい。でもあかりチャンは未来を見てた。それがショックだった」
あきらは顔を伏せ、自分の膝を見つめている。
「ずっと一緒にいたあかりチャンが未来を見てたことが……それで……あかりチャンは今が続くと一緒に思ってくれてなかったんだって勝手にショック受けて……ゴメン……勝手なことばっかり……」 - 6二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:12:24
あかりはあきらの前に回り、膝をついた。
「謝らないで、あきらちゃん。あきらちゃんがそれだけ、今を大切にしてくれたこと、私は嬉しかったから」
あきらの両手を握り、その目を見つめる。
「それにきっと、私が未来を見れたのは、あきらちゃんのおかげだよ。あきらちゃんはいつも私はそのままで良いって言ってくれたでしょ?りんごアイドルを、りんご農家育ちの辻野あかりをいつだって応援してくれた。だから、私は未来を見れたんです」
あきらは伏せていた顔を上げて、あかりの目を見返した。
「それに……あきらちゃんの言う今ってもう過去じゃないですか?」
「……え?」
「あ、違います、いや違わないんですけど……」
変な言い方をしたと、あかりはしどろもどろになりながら続ける。
「うまく言えないんですけど、私たちの最高の今ってもう過去になってるじゃないですか?だったら、私たちの将来にだってきっと、最高の今があるって思うんです。……ええと変な日本語になってるんですけど……」
「未来にある……最高の今……」
呟いてから、あきらは微笑んだ。
「うん、やっぱりあかりチャンは最高だね」
「え、ええ⁉」
「あかりチャン。これからも最高の今を一緒に作っていってくれる?」
あかりの顔がぱあっと輝く。
「うん!」
あきらはあかりの手をぎゅっと握り返した。
いつかの最高の今のため、最高の今を積み重ねて行く。 - 7二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:13:51
数年後、山形行き新幹線を待つ構内。
「あかりんご~、ぼくのこと忘れないでねぇ……」
りあむの顔は鼻水と涙まみれとなっていた。抱き着かれないようにあかりは、若干引き気味だ。
「そのままじゃ汚れるからちょっと鼻水とかふいてもらっていいですか?」
「あかりなら広報の仕事でこっち来ることもあるだろうし、そんな泣かなくてもいいだろ」
「解散したのなんて一年以上前デスよ?」
「みんなドライ!」
りあむは持参したタオルで顔をぬぐう。
「うう~、あきらチャンは寂しくないの?」
「そりゃ寂しいですけど、別に今生の別れってワケじゃないデスから」
あきらは、りあむ、そしてあかりを抱き寄せた。
「またね、あかりチャン」
「はい、また!」
「うう~絶対また会ってねえ、会えたら会うで、もう会わないとか超凹むからねえ⁉」
あきらに引きはがされるりあむに苦笑しながらあかりは、プロデューサーの元へ駆け寄った。 - 8二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:15:12
「今までありがとうございました、プロデューサーさん」
「どういたしまして。あかりは人を頼るのが上手かったから、こっちもよく乗せられた」
「いやあ、その節はどうも……っていっぱいあるんですけどね」
あかりとプロデューサーは笑い合った。
「プロデューサーさん、昔言ったこと覚えてます?私は幸運を掴める人間だって言ったこと」
「ああ、覚えてる。あかりはきっと、幸運の大切さを理解して、やってくる幸運をちゃんとつかめる人間だ」
あかりは手を差し伸ばした。
プロデューサーも最後の別れにと、握手を交わす。
「ならきっと、私がこっちに来て最初に掴んだ幸運はプロデューサーさんですね」
言葉に詰まるプロデューサーに対し、あかりはあっさりと手を離した。
「それじゃ、もう新幹線出るんで。プロデューサーさん、あきらちゃん、りあむさん、また!」
あかりを乗せた新幹線はあっという間にその姿を消した。行先は、はるか遠くのあかりの故郷、あるいは新天地。
「……Pサマ、そんなに泣くことないんじゃなかったの?」
「うるさい……」
「アレは泣く。……またね、あかりチャン」
駅構内に一陣の風が吹いた。
「いつかの、最高の今で」 - 9二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:16:34
窓の景色が後ろに後ろに、すごい速さで流れて行く。
七年過ごした東京の姿を見納めしていると、かわいらしい声が。
「あーりんごのおねえちゃんだー」
空席であるはずの隣の席に女の子が一人。どうやらどこかの席からやって来たようです。
「あ、こら勝手に!すみません……ってあら、あなた……」
どうやら母娘で私を知っているらしい。ありがたいことです。
アイドルを辞めてからも、辻野農園の広告塔として宣伝したり、社長として番組に出たかいがありました。
「りんごのおねえちゃんーあれいって―」
「こーら勝手なこと言わない」
「一回くらい構いませんよ。でも、ちょっと待ってください」
カバンの中を探る。いつでもアピールできるように、持ち歩いているあいつ。
手に取って、ちょっと苦笑。
プロデューサーさん、あきらちゃん、りあむさんたちと離れた今となっても、手の中に納まってるこいつ。
こいつが私の幸運ってのはヤだなあ……。
「おねえちゃん?」
「おっと、ごめんなさい」
コホンと咳払い。
女の子にりんごろうを手渡しながら、私に出来るとびっきりの笑顔!
「山形りんごをたべるんご♪」 - 10二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:17:21
終わりです。お目汚し失礼しました。
- 11二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:25:07
おつです
…実際あいつが居なければ最初の幸運もやってこなかったんだよなぁ - 12二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 18:41:25
- 13二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 19:05:26
- 14二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 19:10:33
乙んごぽむぽむ
山形りんごの生産量くらい気持ち溢れた良いお話でした - 15二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 19:13:59
- 16二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 19:17:03
すごく良いssだ…
自分でどこに向かって努力するか決められなかったのにアイドルになることで家業を継ぐ方向に向かっていけるというのは寂しいけど成長だよね
寂しくなってしまったのでデレステであかりんご愛でるんご - 17二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 20:18:48
- 18二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:22:02
- 19二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 02:08:10
- 20二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 08:30:07
あかりコミュ見返したけど中々すごい出会い方だよなと改めて思った
- 21二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 15:10:28
自分もあかりが立派になって巣立つ姿はみたいけどま発展途上だしまだまだ先になりそう
- 22二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 19:43:06
- 23二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 06:18:00
感想ありがとうございました。1レスも付かず落ちるとかもあるだろうなって思ってたので、あれです、うれしいです(小学生並みの語彙力)。
実はもともと書いてたあったというか、SSを1レス分に手直ししてレスしたりしてました。
どこにも投下する予定なかったんですけど、書いてみないかと言われて投下してみようかってなりました。ありがとうございました。
(投下する気がないのに書いてたとか今思うと本当に怪文書だな)
10年後舞台で、辻野あかりの結婚というSSをたぶん今日スレ立てして投下すると思います。こっちもたまたまですね。
アイドルがP以外の男と結婚してるという、これいいのか?っていう前提設定になるのですが。
その割に新郎の描写ほぼなし、あかりの恋愛はテーマでも何でもないという、なんやねん!ってゲテモノSSになりますが暇つぶしに読んでもらえたら幸いです