- 1123/06/03(土) 12:48:59
うう……ううう~。
ウマ娘ちゃんはどこぉ~……?
昨日まで風邪をひいていた私は今やウマ娘ちゃん欠乏症。
気合で風邪を治して学園まで来たのは良いのだけど、今日はなんとレース見学の日である事を忘れていた。
そう……! ウマ娘ちゃんに飢えるあたしは、さながらアグネス・ゾンビ・デジタル!!
都合よくエモエモなエピソードを持ったトレーナーさんと出会うこともない。
このまま学園に居てもウマ娘ちゃんの供給を得られない!
こうなったらもう、自給自足で乗り越えるしかない!
助けてください! 供給を、病み上がりで朦朧とした頭にびびっとくるお題をください!
「お題とウマ娘ちゃんの名前」もしくは「ウマ娘ちゃんの名前の入ったお題」を投げてくれたら今日と明日で文字に起こします!
頑張って学園に来たデジたんにお恵みを!
乾いたココロに栄養をっ!! - 2サンプル123/06/03(土) 12:49:41
地方にあるレース場で延々と走り続けていた記憶がある。
勝利を目指して直走り、何度やっても勝てなかった。負けて負けて負け続けて、それでも走り続けたのは私自身、走る事が好きだったからだ。レースに出るからには勝ちたかった。足がボロボロになるまでトレーニングを積み重ねる。せめて一勝、ウイニングライブのセンターが欲しくって毎月のようにレースに出走していた思い出がある。
皆が欲しがるあの景色を見てみたかった。あの場所に立ってみたかった。
何度、繰り返しても勝てなくって、何時しかそれが当たり前になっていた。負けても呑気に笑って、チクリと胸に感じた痛みも気付かないふりをして、誤魔化す内に何も感じなくなる。何時しか勝利する事も諦めた。惰性で繰り返す間にトレセン学園を卒業する。
そんな世界を繰り返し、時には中央のトレセン学園に所属しても、やっぱり私は負け続ける。
ウマソウルに負け犬根性が染みついてしまったのか。トレーニングに集中する事も出来なくなり、右へ左へとふらふらり、勝つのも負けるのもどうでもよくなって、それでもレースには出走し続けている。何故、こうにもなって走り続けるのか。それはやっぱり走るのが好きだから、だから私は走るのをやめられなかった。
世界を跨いで惰性で走り続けること更に三桁。ウマソウルに刻まれた想いは、燻るばかりだったけど、まだ消えたわけではなかった。時折、夢に見る。チクリと痛む想いに目を醒ます。偶に、そんな夜がある。走りたい。どれだけボロボロになっても、その想いだけは燦々と輝き続けている。その強烈なまでの想いに僅かな煤がこびりついている。勝利への執念が私にもあったのだと自覚したのは三桁を超えた後、その時には自分が走り続ける理由も忘れてしまっていた。
俺が悪いんだ、俺のせいなんだ。と呟くトレーナーに泣き腫らした顔で笑い返す。
この世界の私も駄目だった、次の世界の私も駄目だった。それでも繰り返す、夢の果て。中山の第三コーナーから最終コーナーでもう大差を付けられた世界線を想起する。悔しい想いをし続けた113回を坂を乗り越えて、114回目の私が全てを背負って前に出る。
もう泣くのは嫌だった。
「最終コーナーを回って先頭は……えっ!? ハルウララ!? せ、先頭はなんとハルウララ!!」
中山の坂を乗り越えて、心の底から笑える明日に向かって駆け出した。 - 3サンプル223/06/03(土) 12:51:19
優れた文章を読み耽り、没入する事はその世界を旅する事に等しかった。
ハードカバーの書籍を机の上に広げて読むのが好きでして、白い湯気の揺らめくココアを隣に頬杖を突いて、揺蕩う意識に頁の捲る音を耳に入れる。書籍の少し古い香りも、紙の擦れる音も好きだったから電子の書籍に食指が伸びなかった。ああいうのも良いと思うのだけど、絵本で育った私は頁の端を摘まんで、ぺらりと捲るその動作そのものが物語に没入する為に必要な動作のひとつであった。
目を細めて、夢想する。脳が酸素を求めて、無意識に呼吸が深くなる。
言葉のひとつひとつがするりと意識に入り込んで、世界を無意識に投影された。文字を読みながら世界を視ている。登場人物の手触りや肌触り、肉体が現実の中にありながらも本の中を吹き抜ける風は実際に感じ取れるかのようだった。随筆のような文章が好きだ。ありのままを、あるがままに、筆の赴くがままに書かれた文章に世界を追体験する。何を想い、何を感じ取ったのか。読書には自己投影や自己陶酔なんて無粋な言葉では語り切れないなにかがあった。確かに主人公と共感することはある。でも、それは、やはり、自分の体験ではなかった。開いた本ほどの大きさの小窓から、ほんのちょっぴり世界を覗き見ているだけに過ぎない。その隙間から何を想って、何を感じるかもまた人それぞれなんだと思う。見る景色、感じる想いは人それぞれ。本の小窓から覗き見る貴方の想いに触れたくて、世界の風が第四の壁を破って現実に吹き抜ける。そのありもしない香りに私は想いを馳せる。
妄想し、夢想することしかできない想いに身を焦がす。本を閉じる。今日、読んだ書籍は伝記をモチーフにした物語。焦がした想いを胸に溜めて、吸い込んだ息に想いを膨らませて、吐き出す息に万感の意が込められる。窓から外を見る、もう空は暗く、星が出ていた。本の感想に十人十色で違いが出るように、今、窓から覗き見る星空ひとつを取ってもきっと胸に抱いた想いは変わるのだと思う。
ココアを啜る、ほっと一息。
ロブ・ロイ。先ずは自分の名前と同じ歴史小説の英雄が踏んだ、その舞台になった土地の景色が観たい。
物語に登場する貴方は、何を想って、何を感じたのか。
貴方が何を見たのか知りたくて、私がその景色を見た時に何を想うのかも知りたくて。
何時か海を越えたその土地に行くのだと。心に決めている。 - 4二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 12:54:25
ワンライの要領で基本は1レス、最大でも3レスまでに収まるものを書いて行きたいと思います
あにまん初心者なので、ここのノリがいまいち分かっていませんが、
温かい目でお付き合い頂けると助かります - 5二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 13:20:44
ここに来たら
ふとしたときに遠くを見るトレーナーに対して「あの人の心は私の知らない誰かのものなのかな」と、好きだけど先客がいる以上気持ちを伝えられずにいるネイチャと、実際はネイチャの魅力に対して「この子にだっていつか彼氏ができるんだし大人の俺がそういう目で見ちゃいけない」と目を逸らすトレーナーの両片思い
を書いてくれると聞いたんですけど - 6二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 13:31:46
ここにくれば〇〇(誰でも大丈夫です)と一緒に肩を寄せ合っていつもと違う表情を見せるキタサンブラックが見られると聞いたのですが…
- 7二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 13:32:33
- 8二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 13:34:34
可能であれば
「急に雨が降ってきたので予定を変更してトレーナーの家で過ごすフラッシュとフラトレのイチャラブSS」
見たいです - 9二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 13:39:21
遊戯王で遊ぶ覇王ズクインテット
- 10二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 13:43:18
すみません、ここにくれば
怪我で学園を去った担当(お料理上手)がトレセン学園のカフェテリアに就職し料理を通じて再開するSSが見れると聞いたのですが - 11二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 13:46:46
すみませんここに来れば
ちょっと周囲と比べて胸の大きさを気にするセイちゃん
が読めると伺ったのですが - 121/223/06/03(土) 13:58:55
机の中にしまった折り紙の王冠、それを眺めて溜息をひとつ零す。
あの人を異性として意識するようになったのは何時からか。共に駆け抜けた過去数年の思い出は、何時もあの人の姿がある。直近の記憶の半分以上が彼の大きな背中、手を伸ばそうとして引っ込める。胸に疼く想いを飲み込んで、折り紙のようにパタンと折り込んだ恋心を机に突っ伏すように抑え込んだ。分かっている、この想いが成就しないことは分かっている。何時も遥か遠くを眺める貴方の瞳は、此処にはない。彼には仲の良いトレーナー仲間が居て、大人のウマ娘が居る。私なんて普通のウマ娘が彼の隣に相応しいはずがないのだ。
私のような何処にでもいるような平凡なウマ娘を重賞に勝てるまでにしてくれた、あの帝王と勝負ができるところまで引っ張り上げてくれた。そんな彼の手腕があれば、きっとこれから先、自分なんかよりももっと良いウマ娘と巡り合って、GⅠレースのひとつやふたつもぎ取ってくるはずなのだ。自分にそうしてくれたように。結局、私は三番手、永遠の三番手は恋愛沙汰でも三番手。学生という身分も邪魔をして、大きく出遅れて勝負の舞台にも立てやしなかった。
どうせ三番手なら愛人枠でもいっかな、とか。そんな許されないことを考える程度には行き詰っている。
はあっと溜息を零す。
折り紙の王冠、見つめるだけで胸いっぱいになる募る想い。もうすぐトレーナー契約も打ち切られる。トレセン学園に来てなかった出会えていなかった。最初から詰んでいる、法律と常識を邪魔をする。そうして彼は私の知らない別の誰かへと想いを馳せる。その遠い目をした横顔を、私はただゲートの中で見つめる事しかできなかった。
良い思い出をありがとうございます。
この想いを嫌なものにはしたくなかったから、思いの丈は打ち明けず、心にしまい込むと決めていた。
折り紙のようにパタンと畳んで、宝箱の中にしまっておくのだ。
- 132/223/06/03(土) 13:59:39
◇
翌日、トラックコースで走る新入生を熱心に望遠鏡で眺めるトレーナーが居た。
その姿にチクリと胸が痛んで、ちょっと意地悪をしてやろうと思った。
「あんまり目移りしてると愛想を付かれますよ」
彼は顔を真っ赤にして、目を逸らす。息を飲む、その反応が余りにも大げさで、可愛かったから、つい笑ってしまった。
「何時までもそんな調子だと、本命から逃げられちゃうんだから」
あ、と手を伸ばす彼に背を向けて、大人の余裕で立ち去った。
角に入ったところで、へたりと座り込んだ。真っ赤にした顔を二つ結いの髪で覆い隠す。
やっちゃった、言っちゃった。
あれじゃあ私が好きって風に見られるかもじゃん!
考えすぎかも知れないけど!
自意識過剰で自己嫌悪、そう思うことすら恥ずかしくって、三女神の前で声に出せない悲鳴を延々と垂れ流した。 - 14二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 14:01:14
- 15二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 14:06:41
あの、ここにくればナカヤマとアキュートばぁばがお好み焼き食べてる情景が見られると聞いて伺ったんですが……置いてますか……?
- 16イッチ23/06/03(土) 14:30:19
幼い時からずっと一緒に居たような気がする。
憧れたウマ娘は違ったけども、レース場まで手を繋いで行ったあの日から今日までずっと一緒にいる。
トウカイテイオーさんが魅せたあの中山の地を二人で走る約束をした。私達が憧れた二人のウマ娘が激戦を繰り広げた京都の舞台で決着を付けようと指切りをしたこともある。サトノ家のトラックコースを二人で走り、共に競い合い、高め合って、笑い合っていた。ずっと、ずっと、そんな感じで私と彼女は二人で一緒に過ごして来たのだ。
でも、最近はちょっと変わって来た。幼い時から、その傾向はあったのだけど最近は特に目立つようになっていた。
お助けキタちゃんは今日も往く。
校舎裏で倒れていたタキオン先輩を肩に担いで、保健室に行く途中で七色に発光するトレーナーを見つけたので受け渡す。代わりに受け取ったマッチョなスーツは道端で倒れていたツルマルツヨシ先輩に着せて急場を凌いでは「ありがとうございます」と全身マッチョなツヨシ先輩からバナナの房を受け取っていた。「バナナは消化にも良い完全栄養食です!」と断言する彼女の言は捨て置いて、一本、千切って頬張る彼女にもじゃもじゃ髪のビワハヤヒデ先輩が遭遇する。「ほお、やるな!」と中指で眼鏡の位置を直す彼女が物欲しそうな目でバナナの房を見つめたせいか、キタちゃんは満面笑顔でバナナを一本差し上げた。落としたバナナに滑るドトウ先輩、隣を歩いていたライス先輩が「私のせいだ!」と頭を抱える。そんなひとつひとつの問題にも彼女は笑顔で対応していった。
正にお助けキタちゃんの面目躍如である。
そんな誰に対しても笑顔で接する幼馴染の事が誇らしくもあって、少し寂しくもある。
誰に対しても優しいキタちゃんは私に対しても勿論、優しかった。
何時も笑顔な彼女は、私にも同じ笑顔を向けるのだ。
それが少し気に入らなかった。別の構わないのだけど、ちょっとした嫉妬だった。
夏合宿の帰り、バスを使った帰り道。
何時も周りに気遣ってばかりの元気なキタちゃんが、コテンと私の肩に頭を乗せた。
大きな口を開いて、ぐうぐうと寝息を立てる彼女の呑気な横顔を、私はじとっと睨み付ける。
でこぴんでもしてやろうか。
昔から何一つ変わっていない幼馴染の姿を見て、そのまま私は大きく溜息を零して窓の外を眺める。
不思議と空が、青く見えた。
- 17623/06/03(土) 14:39:33
- 18イッチ 1/223/06/03(土) 15:36:20
カツラギエースは待ち構えていた。
浴衣を着込んだ仁王立ち、腕を組んでるのでガイナ立ちだ。
夏祭りの今日、彼女はとある決意を心に固めて、好敵手を待ち構えていた。
宣戦布告である。
前哨戦に勝てても本番では勝てない。
何度か勝った事があっても本番に勝てなければ誇れるものではなかった。
だが、それも去年までの話。今年の春には大阪杯から続く三連勝、宝塚記念も手中に収めてもう本番に弱いとは言わせない。
その後に高松宮記念で負けてしまったのは、本番じゃないので誤差である。
「去年までのあたしとは違うことを教えてやる!」
「ふ~ん、誰に?」
「そりゃあ決まっている!」
振り返れば、背後にミスターシービーが忍び寄っていた。
「うわあっ!?」
「やっほー」
「なんで後ろから現れるんだよ!」
軽い調子で手を振る彼女にカツラギエースが怒鳴った。
「見つけたのが背中だったからね」
「宿と全然、方角が違うじゃねえか!」
「なんとなく?」
「後ろから現れるんじゃない!!」
「どうして?」
「相手がお前だと怖いんだよ!」
- 19イッチ 2/223/06/03(土) 15:36:36
不思議そうに首を傾げる彼女にカツラギエースはガシガシと頭を掻いた。
彼女と同じレースを走った者達は皆、最後方から一気に抜き出す彼女の末脚に大なり小なりのトラウマを抱えている。
特に菊花賞はとんでもないもので、あんなのを見てしまったら心が折れても仕方ない程の迫力があった。
思い出して、ぶるりと震わせる体にいやいやと首を横に振る。
そして指を突き付けてミスターシービーに言い放った。
「毎日王冠には私も出る! 次も、そして本番の天皇賞秋も私が勝ってやる!」
「……それって宣戦布告かな?」
「ああ! だが、その前に!!」
カツラギエースは一度、拳を握り締めた後、夏祭りの会場に向けて手を開いた。
「金魚掬い、射的! 輪投げ! 今日は夏祭りで決着を付ける!」
「……キミって、そういうの得意だっけ!」
「去年の不可能を明日の成功に変えるウマ娘、それがカツラギエース様だ!!」
ドンと胸を叩く彼女にミスターシービーが目を細める。
正直、祭りに行くのは面倒だと思っていた。だけど「ほら行くぞ」と当たり前のように誘う彼女の姿を見て、祭りを避けるという気も削がれてしまった。別に祭りに行かない事に理由はない。ただなんとなく行く気になれなかっただけだ。花火だけ見て終わり、そんな気持ちだったのだけど──不満げな彼女の顔を見て、まあいっか。と一歩、祭りに向けて足を踏み出した。
「負けた方が全額払うってことで良い?」
「なっ!? ……まあ、良いさ。勝てば問題ないからな!」
先導する彼女の背中をゆっくりと追いかける。
距離が離れていても問題ない。先頭と最後尾を繋ぐだけの縁があった。
ふらりと消えてしまうかも知れない自分を、
一度も振り返らずにどんどんと前に突き進む彼女の背中を見て、
くすりと笑う。
人混みが増え始めた頃、少し駆け足で彼女の背中に追いついた。 - 20イッチ23/06/03(土) 15:37:35
へたれなエースを書き切れずに苦戦してました……
良い感じにまとまったから良いかなって…… - 21723/06/03(土) 15:44:41
- 22イッチ23/06/03(土) 16:03:16
ぽつりぽつりと大粒の雨が降ったかと思えば、ざあっと勢いよく降り注いだ。
急に振った雨は、ものの数分で晴れ上がったけども、服がぐっしょりと濡れてしまったものなので何処かで衣服を変えなくてはいけなくなった。何処で休憩すべきかと悩んだ時、要は部屋を借りれれば良いのだと考えてホテルの一室を借りればよいと思いついた。こちらです。とトレーナーさんを手招きした先に休憩できるホテルがある。値段もお手頃、これならトレーナーさんも気後れする事はない。と思って手を引けば、彼は顔を引き攣らせて逆に私の手を引いた。あれまあらまと連れ去られた先に学寮よりも近くにあったトレーナーさんの家に辿り着いた。あらあらまあまあと頬を赤らめる。「風邪をひかれたら困る」とポンと背中を押されて、急かすように部屋に入れられた。
予定外の雨により、当初、立てた計画が大幅に変わってしまった。
でも良いのです。トレーナーさんと一緒に楽しむ、それが今日立てた私の予定だ。それが何処になったとしても構わない。日常にイレギュラーは付きものだ。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応し、最終的に予定のあるべき落とし込めれば良い。手早くシャワーを浴びる。洗剤の種類を確認し、外に出ると手狭な更衣室には少し大きめのシャツとジャージ一式が置いてあった。
すん、と臭いを嗅いでみた。少し強めの洗剤の臭い。ありがたいような、残念なような、少し垂れるウマ耳にジャージを袖に通す。
部屋には、ラフな格好に着替えたトレーナーが居て、机の上には淹れたての珈琲が置かれてあった。牛乳多め、ソファにぴょこんと座って啜ると砂糖も多めだった。
「あの後に喫茶店に行く予定だっただろう?」
デザートまでは用意できないけども、と告げる彼の気遣いが珈琲の温もりと共に胸に沁み込んだ。
ありがとうございます。と小さく返し、しずしずと甘い珈琲を啜る。
外はもう晴れ上がっていたけども、今しばらく、このままで。喫茶店分の時間を彼の家で堪能した。
- 23イッチ 1/323/06/03(土) 17:20:22
「貴方と戦って早五戦、やっと貴方を倒すチャンスが巡って来ましたぁ~!!」
ぐるぐるっとした瞳の気弱な彼女が何時もと違った、心なしかきりっとした雰囲気で世紀末覇王と呼ばれるウマ娘と対峙していた。
「行きますぅぅぅ~~!!」
真正面から特攻を仕掛けメイショウドトウの雄姿にテイエムオペラオーは口元をニヒルに口角を上げる。
「ボクと戦って五戦して五連対の強者、ならばこの技を受けると良い!!」
そう高笑いする彼女の手元には、五枚のカードが握られていた。
それが同時に場に出される。メイショウドトウの前に浮かび上がるビジョン、その全てが別々のポージングを決めたテイエムオペラ―の彫刻であった。その異様な光景にあわわと震え上がる好敵手に「先ず真ん中より紹介しよう!」とオペラオーがあくどい顔で宣言する。「全知全能の神、ボク!」そして彼女は新たにポーズを決める。
「破壊の神、ボク! 美の神、ボク! 智の神、ボク!」
ずもももも……と地中より聳え立つオペラオーの彫刻は最早、3メートルにも達しようとしていた。
「そして、ボク自身だ!」
完全究極体は彼女自身、今と変わらぬ姿で聳え立つ彼女の姿は正に世紀末!
宝塚記念に天皇賞の春秋連覇、ジャパンカップに有馬記念。彼女にだけ許されたグランドスラムコンボが決まれば、負けは必須、完璧無欠の覇王の顕現にメイショウドトウは為す術持たず震え上がるだけだった。
動かすことが出来たのは口だけだった。そんな彼女にハルウララが「ドトウさん、頑張れー!」と声を上げた。
その一言にドトウのお尻のようなキュートな口元がピクリと動いた。茫然自失のまま、ポツリと呟かれたその一言は────
「……明日があるさ」
──勝負の放棄にも等しいその一言、勝負の行く末を見守っていた面々が頭を抱える。
- 24イッチ 2/323/06/03(土) 17:20:53
だが、震えあがったのは、メイショウドトウではなく、テイエムオペラオーだった。
「スライド魔法だとッ!?」
場に出されたオペラオー像の五つの内の四つが音を立てて崩れ落ちた。
オペラオーが狼狽える。その初めて見せた間隙を突くかのように彼女は直立した状態のまま、地面に倒れて、びっちびっちと跳ねた。
その異様な光景にアドマイヤベガが引いた顔で様子を見守る。ついでにナリタトップロードも付いていけてなかった。
「……魚?」
「あれはしゃちほこだよ!」
地方に出張り、お土産を買ってくることの多いハルウララが拳を握り締めて解説する。
ドトウが全身から汗を飛沫かせて、疑似的に輝きを放ってみせた。アドマイヤベガは、それを汚い星を見るような目で見下した。ナリタトップロードの語彙力では分からぬ!
だが、ハルウララとテイエムオペラオーだけが状況に付いて行っていた!
「くそっ! ボクは中京には出ていないから邪魔ができない!」
「ファインプレーだよ、ドトウさん! ナイス、ダブルスライドだよ!」
白熱する二人、必死にビチビチするドトウ。そこにトプロさんが問い掛ける。
「あれに何の意味があるのですか?」
「ドトウさんがスライドしなかったらまたグランドスラムコンボに派生させられていたんだよ!」
「全然、わかりません……」
「だが、それではもう一度だね! いくらしゃちほこを輝かせたって……はっ! まさか!」
オペラオーが何かを察した瞬間、ドトウの怒涛の飛び跳ねるによって全身を発行させる。
しゃちほこは進化する。オペラオーの手札にはBボタンがなかった。眩い光が辺りを照らし、そして目の前に現れたのは、ひとつの宝箱であった。
くそっ! とオペラオーが頭を抱える。しかし、と覇王の覇王足る所以の度量が彼女に笑みを浮かべさせた。
「これで対応という訳だ! ボクと君、どっちの運命がその宝に相応しい存在か受けて立とうじゃないか!」 - 25イッチ 3/323/06/03(土) 17:21:57
「いいえ、違います」
宝箱の中に居るはずのドトウが、オペラオーの背後に姿を現した。
この時、覇王はこの勝負で初めて、冷や汗を流す。
「コンボは、まだ続いていますぅ~」
ゆっくりと扉が開けられる。中から現れたのはピンク髪の二つ結いのウマ娘。勇者と呼ばれた彼女は、状況に付いて行っておらず、茫然と立ち尽くしていた。
「あ、ドトウさん。えっオペラオーさん!? それに皆様まで!? ……え、えっ? 何が……えっ!!」
「私の宝物はこれまで共に走って来た多くの仲間達ですぅ~~っ! 競い合うとは何か、好敵手の存在!! それを教えてくれたのは、オペラオーさんなんですぅぅぅ~~~!!」
「ぐう、ぐううう……っ!!」
箱が開き切る前にオペラオーが抜け出した。
ドトウの防衛網をするりと抜けた有マ記念の再来、オペラオー来た! オペラオー来た!
だが、テイエムオペラオー朝の凋落は今、この瞬間だった!
「ひゅっ!!」
箱を閉めに飛び掛かったオペラオーの超至近距離の素敵な顔、その姿勢は偶発的にも壁ドンと似た構えとなった。
そしてアグネスデジタルは爆発した。至近距離から勇者の攻撃を受けた覇王は、空高く車田飛びでカッ飛んで頭から墜落する。
「友情、努力、勝利……良いオチじゃないか……」
ガクリと気絶するオペラオーに何処からか現れたワンダーアキュートが身を震わせて声を荒げる。
「オ、おお……オペラオォ~~~っ!!」
あたしがズブかったばっかりに、もう少し早く生まれておけば!
そう言ってオペラオーの身体を抱きかかえるワンダーアキュートはとあるウマ娘の代役で提供しております。 - 26イッチ23/06/03(土) 17:22:50
用事が入っているのと食事の為に少し席を外します。
遊戯王はわかんないのです…… - 27二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 17:25:01
- 28二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 18:36:38
「JCでエースに負けてから意識するようになったルドルフ(受け)」と
「鈍感魔だからアプローチに気付かない思わせぶりド天然エース(攻め)」のエスルドください - 29二次元好きの匿名さん23/06/03(土) 18:45:52
トレーナーに構ってほしいけどタイミングが被っちゃってお互いに譲り合うけどヒートアップしちゃって自分より相手といた方がトレーナーと楽しいって言っちゃうけどそれに耐えかねたトレーナーが真剣な目で二人のいいところを語り出して顔真っ赤になるベルブラを頂きたいです…何卒…
- 30イッチ23/06/03(土) 20:45:00
仕事終わらせてきました。
少し休憩したら再開します。 - 31イッチ23/06/03(土) 21:02:22
- 32イッチ 1/223/06/03(土) 21:48:59
私は何処にでもいるような普通のモブウマ娘である。
トレーナーの言う事も聞かずに自主練を続けて無理をして、オープンクラスに上がる前に大きな怪我をしてしまった。
もう前のように走ることなんて無理なんだって。それでもトレーナーは私の為に走る以外の道を示してくれたのだけど、他の子が走る姿を見ていられなくて、トレーナーにも申し訳なかったからトレセン学園を飛び出すように退学した。その選択そのものに後悔はない、ないったらない。そうして私は自炊して食べるのが好きだったから本格的に料理の勉強を始めて、それ専用の大学を出た後にトレセン学園に戻って来た。
苦節五年、私にしては上出来だ。
あのトレーナーもまだトレセン学園に居るはずで、会う事ができたなら一度、謝りたかった。
私の事をあんだけ考えてくれたのは、後にも先にも彼だけだ。あの頃の私は幼かった。辞めるにしても、もっときちんと話すべきだった。でも何千人と超える大食らいのウマ娘が集まるトレセン学園の食堂、人探しをする暇もなくて、ひと月が過ぎて、ふた月が過ぎ去った。毎日へとへとになるまで働いて、家に帰るとベッドにIN。シャワーを浴びるのも後回しで、朝に慌てて身支度をする。そんな毎日を送っているともう今日の曜日も分からなくなってくる。
昼休憩のピークも過ぎて、ほっと一息を吐いた時間帯。遅れて一人の男性が食堂に駆け込んできた。
もう終わりだったのに、と若干、面倒臭くても笑顔で対応すると────
「「あっ」」
少し間の抜けた声が重なった。
五年前に私の担当をしてくれたトレーナーだった。
◇
- 33イッチ 2/223/06/03(土) 21:49:31
二時過ぎの休憩時間、三女神像のある中庭のベンチに腰を下ろす。
五年前までは、まだ新米だったトレーナーも今となっては大分、貫禄が出ていた。
彼は二本の缶ジュースを買ってくると、その内一本を私に手渡した。
林檎ジュースだ。人参派の多いトレセン学園の中で私は林檎が好物だった。
まだ私の好物を覚えていてくれることが嬉しくって、つい気分が高揚した。
色々と話した、この五年間の事。聞き上手なトレーナーの一つの質問に十で答える。
こんなことがあったんだよ。あんなことがあったんだよ。あれから大変な事が沢山あって、ほんの少しは楽しい事もあった。聞くだけじゃ退屈な話も彼は相槌を打って聞いてくれる。わがままな彼は「大人になったな」と頭を撫でてくれた。二十を超える私への態度じゃなかったのだけど、反発するばかりで得られなかった感触が今は嬉しかった。「あの時は勝手に出て行ってごめんなさい」と謝った時も彼は「今、ちゃんと生きていてくれるなら大丈夫だよ」と笑って許してくれた。五年前は気付けなかった優しさが今になった染み渡る。
だから、私は勇気を振り絞ろうと思ったんだ。
連絡先を教えてくれませんか? その言葉を口にする前に「あーっ!」という声が響いた。
「トレーナーさん! その人、どうしたんですか! 私というものがありながら!!」
「いや、この子は前に担当していた子でね……」
「むうっ! もうすぐトレーニングの時間じゃないですか! 早く行きましょうよー!!」
トレーナーは申し訳なさそうに私を見つめたから、大人になった私は手を振り返した。
私よりも素直で積極的な彼女は、私の事をキッと睨んだ後にトレーナーの腕にしがみ付いて中庭を離れていった。
嗚呼、と私は空を見上げる。林檎ジュースの缶を両手に握り締めて、私の初恋は終わっていたんだ。と今、この時になって初めて自覚した。
涙は零れる前に拭き取った。
さあ、今日も頑張りましょうか。と全身の筋を伸ばして、食堂に戻る。
トレセン学園から帰った後、何度かあったお見合いの話。あの時は、何故か乗り気にならなかった。
けど、今はもう、進めても良いかも知れない。 - 34イッチ23/06/03(土) 21:50:52
ウマ娘の名前を書き忘れてる人が相手なら、
幾らでも脳を破壊しても良いかなって…… - 351023/06/03(土) 22:37:32
- 36イッチ 1/423/06/03(土) 23:34:53
ひょんなある日からセイウンスカイの様子がおかしくなった。
何時も飄々とした態度を取り、何事にものらりくらりと躱すような性根をしていた彼女であったが、最近になって妙に女性的な仕草を見せるようになったのだ。なんとなしに違和感を感じる黄金世代の面々、グラスワンダーを見た時だけ安堵するように胸を撫で下ろす。
そんな彼女の変化に、初めて気付いたのは同室のサクラローレルであった。
着替えの時、彼女がチラチラと見る彼女の視線が自分の胸元に向けられている事を知った。腕を組んで、ちょっと胸元を持ち上げてやれば、彼女は顔を赤くしてベッドの枕に顔を埋める。初心な少女のように可愛らしい反応を披露する彼女の姿をサクラローレルは面白おかしく堪能する。あまりにも杜撰な態度を見せた時には、写メに撮ってニシノフラワーに送った。それを見たニシノフラワーは、良い恰好しいの先輩のギャップのある姿に「あ、可愛い」と背筋にゾクゾクとしたものを感じ取る。可愛い後輩が、少女のしてはいけない笑顔を浮かべていた頃、セイウンスカイは悪寒を感じ取っていた。
セイちゃんの尊厳は守られなかったけど、フラワーちゃんが幸せならOKです!
閑話休題、
何時も違う同期の事を心配した黄金世代の面々は、セイウンスカイを尾行する事に決める。
中でも特に心配をしていたのはキングヘイローであり、彼女はセイウンスカイの背後に男の影があるところまで気付いていた。だからエルコンドルパサーが尾行を提案した時「何もなければ、それで良い」とキングヘイローが乗っかってしまったのだ。済し崩しでスペシャルウィークも話に乗り、他三人が行くならば、と仲間外れを嫌ったグラスワンダーが参戦する。
そうして黄金世代によるセイウンスカイの尾行が始まったのだ。
- 37イッチ 2/423/06/03(土) 23:35:13
お洒落は必要最低限の彼女は、今日に限って女性らしい衣服を着込んでいた。
とはいってもだ。普段と比べての話である。少し長めのスカートを履いた彼女は、ほっぺたをほんのりを赤く染める。耳はへにゃりと垂れており、必要以上に周りを警戒し、そわそわと不審者感を丸出しにしていた。その姿を面白く思ったエルコンドルパサーは遠距離からパシャリと写メを撮る。写メは即座にニシノフラワーに送られた。それと同時に何時も違って珍しい恰好のセイウンスカイに他の黄金世代の面子も欲しがったので結局、全員に共有される事と相成った。
またもセイちゃんの尊厳は守られなかったよ……。
尾行を続ける事、小一時間。
ニシノフラワーが、ミホノブルボンを相手にセイちゃんの女装写真にキャアキャアと黄色い声を上げていた時の話になる。
学園の敷地内から出た辺りで、キングヘイローが良からぬ予感に冷や汗を流し始めていた。
そして、セイウンスカイが立ち止まる。
何度も周囲を見渡した後、意を決して、入り込んだその店は────
「……ランジェリーショップ?」
キングヘイローの気の抜けた声を零す。
その隣で尾行していたスペシャルウィークが「わ、高い!」と小さく声を上げた。
彼女の下着は3枚500円の代物である。
そしてスペシャルウィークが手に持った下着は、店内にある物の中でも安いものであった。
「スぺちゃん……」とグラスワンダーは初めて親友に残念なものを見る目を向ける。 - 38イッチ 3/423/06/03(土) 23:43:26
一方、トレセン学園ではミホノブルボンがニシノフラワーの話に付いて行けないからとライスシャワーに援軍を要請していた。
セイウンスカイのギャップのある姿にライスシャワーも興奮し、話はハルウララにまで派生。そしてトウカイテイオーやマヤノトップガンの耳にまで入ってしまったのである。もうおしまいだ、セイちゃんの尊厳はここで終了しました。
セイちゃんが知らぬ間に自身の像が打ち砕かれている。
同時期、当人はブラと睨めっこをしている。
フリルの付いた可愛いモデル。
「結構、可愛い趣味してますネー」とエルコンドルパサー。
「ちょっと狙い過ぎじゃない?」とスペシャルウィーク。
「普段ならまだしも、今日の衣服ならあれぐらいが丁度良いわよ」とキングヘイロー。
三人が思い思いに語る中でグラスワンダーだけが笑顔で沈黙する。
そして、静かに目を細める。
セイウンスカイの視線の先、睨み付けているのはブラのサイズであった。
そう、サイズである。
彼女はブラのサイズに頭を抱えていた。
セイウンスカイは「いやいや」と首を振る。
「でもちょっとだけ冒険をして」と思い直す。
「少しは成長しますよね?」と自分の胸を掴んだ。
舌から持ち上げるような仕草は、周りに異性が居ないから出来る事だった。
勿論、エルコンドルパサーが激写する。この写真が今すぐに拡散される事はなかった。
流石の彼女にも理性は残っていたのだ。 - 39イッチ 4/423/06/03(土) 23:44:22
そして流石のセイウンスカイもグラスワンダーの放ち続ける殺意に気付いた。
ぞぞぞと身を震わせる。これが原因で自分を尾行する四人の影に気付いた。
セイウンスカイの下着談義に盛り上がっていた三人組は、引き攣った笑みで手を振った。
全てを察したセイウンスカイは真っ赤にした顔で蹲った。
グラスワンダーは、笑顔を張り付けていた。
「もう駄目です、セイちゃん生きていけません」
涙目で呟くセイウンスカイをグラスワンダーが見下し、零す。
「何か言い残すことはありますか?」
赤くなった顔は瞬く間に青褪めてしまった。
セイちゃんは逃げ出した、しかし魔王からは逃げられない!
グラスワンダーに首根っこを掴まれて、近場の喫茶店に連行される。
私の奢りだからとキングヘイローが勝手に勝手に五人分のパフェを頼んでしまった。
商品が運ばれてくるまでの間、尋問が開始される。
事の発端は彼女のトレーナーが「もっとオシャレをすれば、ウンと可愛くなるのにな」と言った事だった。
なんてことはない、ただの色恋沙汰である。わあわあ、きゃあきゃあ、と盛り上がるスペシャルウィークとエルコンドルパサーを余所にキングヘイローはホッと胸を撫で下ろす。別に相手がトレーナーだから良かった訳じゃないのだけど、変な男に捕まるよりも百億倍ましである。相手がトレーナーであれば、もし何かあった時だって直ぐに対処できる。グラスワンダーだけは終始、不機嫌だった。異性を気にすれば、胸の悩みなんて大なり小なり誰もが抱えるものだ。グラスワンダーだけは納得がいかなかった。
そんなこんなで学寮までの帰路、門前にてニシノフラワーが待ち構えていた。
「あああああ……! 可愛いです、スカイさん! 写メなんかよりもずっと! もっとオシャレしましょう、絶対に可愛いですから!!」
セイウンスカイは両手で顔を覆い隠し、そのまま崩れ落ちた。 - 40イッチ23/06/03(土) 23:45:08
予想の三倍長くなり申した。
- 41イッチ 1/223/06/04(日) 00:21:58
中間試験を終えたその日の夜、
ナカヤマフェスタとワンダーアキュートはお好み焼き屋で打ち上げをしていた。
此処はタマモクロスがおすすめする折り紙付きの店舗、じゅうじゅうと鉄板に熱されたお好み焼きのタネが焼ける音がする。
それが四枚も揃っている。ワンダーアキュートが、よっこいせ、と身を乗り出した。その間にナカヤマフェスタが一枚をくるりと引っ繰り返してみせる。どっこいしょ、という掛け声と共に二枚のヘラがお好み焼きの下に差し込まれる。その間にナカヤマフェスタがもう一枚、引っ繰り返した。「はああっ!」とアキュートが気合を入れている間に更にもう一枚。「ていやっ!」と掛け声と共に引っ繰り返した頃にはもう他の三枚にはソースと鰹節が掛けられていた。
アキュートが最後の一枚をひっくり返すのを見るや否や、間髪入れずにソースと鰹節を振りかける。
そして最後に青のりを全体に塗す。
三週くらい回って、ある意味で息の合ったコンビネーションであった。
完成間近のお好み焼きを目の前に嬉しそうに両手を合わせるワンダーアキュート。
完璧な焼き応えを目指して、じっと気を待ち続けるナカヤマフェスタ。二人の間に会話はない。そもそも二人は友達と呼べる程に仲が良い訳でもなかった。ただナカヤマフェスタには恩義があった、授業中に居眠りをする彼女はアキュートと一緒に勉学に励んでいたのだ。そのおかげもあり、自分にとっての及第点と呼べる程度に点数を取ることができそうだった。
このお好み焼きは、その恩返しである。
カッ! とナカヤマフェスタの目が見開かれる。
踊る鰹節にヘラを叩き付けて、一部を切り分けた。中を覗き見る、焼き加減良し! 今が絶好の食べ応えであるソレをナカヤマフェスタはアキュートの小皿に取り分ける。このお好み焼きは恩返し、即ちナカヤマフェスタが奉仕する立場なのだ。カッカッカッカッ! と四枚のお好み焼きを切り分けて、そのお好み焼きにあった一番、美味しい時期と場所を四つの小皿に乗せる。
その手際の良さに数秒遅れで「おお~っ」と声を上げた。
- 42イッチ 2/223/06/04(日) 00:25:10
「早く食べな、冷えちまったら不味いからな」
ナカヤマフェスタの言葉に「折角なら切り分けてくれたからなあ」とアキュートは割り箸でお好み焼きを一口に切り分ける。
まだ熱のこもるお好み焼きは熱く、はふっ、はふっ、口の中で冷ます。
「火傷しそうだねぇ」と零し、お冷を飲むアキュートにナカヤマフェスタが「だが美味かっただろう?」と返した。
「そうだねぇ、美味しいねぇ」
「まだあるぜ」
はふっ、はふっ、と切り分けられたお好み焼きを次から次に食べ続ける。
動きは遅いが、そこはウマ娘。淀みなく箸を動かし続ければ、結果的に食べるペースそのものは遅くならなかった。ナカヤマフェスタは自分用に切り分けたお好み焼きを口に放り込みつつ、アキュートのペースを見極めながらお好み焼きを切り分けて、新たに焼き始める。
ナカヤマフェスタが不器用に気遣うその姿は、何処か懐かしさを感じさせるものだったという。
後日、二人の姿を見ていた従業員と客人は親の実家に電話を掛けた。 - 43イッチ23/06/04(日) 00:35:54
流石にちょっと疲れたので眠ります。
また明日、スレが残っていれば続きを書きます。
9作はそれなりに頑張れた気がします。 - 44二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 01:13:45
- 45二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 10:07:49
キタちゃんが普段のお礼にみんなから助けられるシチュとかどうですか?
- 46イッチ23/06/04(日) 13:06:14
諸々、用事を終わらせたのでそろそろ再開します。
スレ大丈夫かな? - 47イッチ 1/323/06/04(日) 14:46:14
ジャパンカップの敗北は、それまで無敗を保ってきた私にとっては衝撃的な事実であった。
先ずアタマ差の先に世界の壁があった。自分よりもひとつ下の順位とはハナ差であり、これまで戦ってきた同期と世界では隔絶した差があることを実感する。それでも過去に三回、開催されてきたジャパンカップの結果と比べれば、充分に健闘したと云える。やはりまだ日本はウマ娘競技後進国、もっと精進をしなくては世界に手が届かない。
そんな私の想いとは裏腹に1と1/2バ身先を駆け抜けたウマ娘がいた。
決して真っ当な戦い方ではない。そのウマ娘は鉄扉が開かれるや否やハナを切って飛び出し、2番手とは10バ身の差を付ける大逃げを噛ます。正直、私の敵ではないと思っていた。彼女は宝塚記念に勝ったウマ娘だが、当時、私の敵は昨年の三冠ウマ娘であるミスターシービーになると信じて疑わなかった。先月に開催された秋の天皇賞で彼女が見せた爆発的な末脚は、私では持ちえることのできない唯一無二の武器だ。
対してカツラギエースには、目新しく感じるものがなかった。
唯一、負けているのは肉体の完成度。まだ成長段階にある私と比較して、シニアクラスの彼女の身体は完成されている。
ただそれだけだ。能力的には、私の方が遥かに優れていた。
にも関わらず、負けてしまったのである。
レースには流れがある、時の運もある。私に勝つだけであれば、まだ、そういう事もある。で済ませる事ができた。
だが、彼女には、時の運を引き寄せるだけの気迫があった。
そういう星の下に生まれて来た訳ではない。オグリキャップのようなアイドル性がある訳でもなかった。
乾坤一擲。彼女が自分で動かなければ、勝機は生まれなかった。
- 48イッチ 1/323/06/04(日) 14:46:45
彼女は強い、私に足りないものを彼女は持っていた。
ゴールを駆け抜けた先で彼女が振り上げた拳。
見たか、運命。見たか、世界。これがカツラギエース様だ。と彼女が発する咆哮には魂が乗せられていた。
きっとレースに負けるだけでは得られない敗北感を、この時の私は感じ取っていた。
彼女は理不尽を捻じ伏せて、不可能に挑戦し続ける強い精神の持ち主であった。
彼女は後ろを振り返る。
私を見た。ドキリとした。
彼女は私を一瞥し、自信たっぷりの笑みを浮かべる。
覚束ない足取りだった。
彼女は私に近付いたかと思えば、私の事をふらりと横切った。
振り返る。そこにはミスターシービーが居た。
「天皇賞の借りは返した、次は有マ記念だ」
自分は、彼女の敵として認められていなかった。
……まあ良い、それは良い。
二人の繋がりは昨年のクラシックから続いている。
好敵手とは、そういうものだろうと思った。
翌年の王道路線。そこで借りを返し、私の存在を認めさせる。
次は絶対に負けない。
カツラギエースの背中を睨み付けた。
その視線にミスターシービーが気付いて、私を指で差した。
カツラギエースが振り返り、挑発的な笑みを浮かべた。
──何時でも来いよ。
そう言っている気がしたのだ。 - 49イッチ 3/323/06/04(日) 14:47:09
◇
レースが終わった翌週、春に向けて休養を取っていた時の事だ。
昼食を摂っていると、テレビにカツラギエースが映っていた。
そのインタビューの内容が気になって、視線を向ける。
ジャパンカップの内容から始まり、私は次走の有マ記念に移る。
そこでカツラギエースの口から衝撃的な言葉が発せられたのだ。
「このレースで俺はトゥインクルシリーズを卒業する」
卒業の理由には、今年でミスターシービーがトゥインクルシリーズを卒業する事にあった。
ミスターシービーの居ない場所で走る意味はないからと彼女はドリームトロフィーリーグへの移籍へと踏み切ったのだ。
もう戦う相手が居なくなった。とでも言いたげに。
ダン、と無意識に握り締めた拳が机を叩いていた。
ふざけるな、と口から零れる。
テレビの向こう側にいるカツラギエースを殺意を込めて睨み付けた。
次なんてない。レースは一度、負けたらそれきりなのだ。
そんなことも分かっていなかった自分にも腹が立った。
幸いにもまだ、次は残されている。
あと一度、彼女のレースをする機会は残されていた。
私は、その場で自分のトレーナーに連絡を入れる。
「今決めた。私も有マ記念に出走する」
有無も言わせぬ決定事項、
それは彼女がトレーナーに初めて見せる子供らしいわがままであった。 - 50イッチ23/06/04(日) 14:49:25
頭が創作脳になっていない為、今日はペースが落ちそうです。
- 51二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 14:52:56
待ってた
- 52イッチ23/06/04(日) 15:20:34
- 537であり2823/06/04(日) 16:26:40
エスシビ、エスルドどっちも書いてくださりありがとうございます!!!!(五体投地)
シービーしか見えてない(ルドルフはほとんど意識してない)エースさんほんとエースさんですわ……
ちょっと野暮で申し訳ないのですがエースの一人称は「あたし」ですね…… - 54二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 17:36:52
すみません、ここに来れば
神話のかっこいい武器名とか要素挙げまくる談義で互いに早口になるロブロイとデジタルが見られると聞いたのですが - 55イッチ 1/523/06/04(日) 17:40:55
私は何処にでもいる極々一般的なトレーナーの一人。
ちょっと他と違うところがあるとすれば、それは自分が半ばメジロ家専属のトレーナーになっている事だ。
最初は自分が助手を務めていた前トレーナーからメジロドーベルを引き継いだだけの新人であり、メジロ家の屋敷に挨拶に窺った時にまだトレーナーの決まっていなかったメジロブライトと出会ったのだ。ドーベルの片手間にブライトの面倒を見ていると、他のトレーナーが見つかるまでという条件でブライトの仮トレーナーとなった。それも選抜レースまで、という話だったのが、彼女が受けたスカウトを全て振って私の下に戻って来てしまった。
それから先は右手にドーベル、左手にブライトが定位置になっている。
これで私が男であったならば両手に花と言えたのかも知れないけども、私は女である。というか女じゃなければ事案だ、今でもなかなか怪しいラインであった。そしてこの状況はあまり好ましいとも言えなかった。
というのは二人の趣味嗜好の反りが意外と合わないのだ。
ドーベルはトレーナーの私にピシッとしたらしい恰好を求めるのに対し、ブライトは少し気が抜けたくらいが丁度良いと言ったりする。かといってドーベルはある程度、自由にさせておいた方が上手くいくのに対して、ブライトはこちらで徹底的に予定を組んでやらないといけなかった。そして二人共にトレーニング中は、私の目に入る場所でやらせないと著しく効率が落ちてしまうのだ。ドーベルは心細くなって集中できなくなり、ブライトはのんびりな性格が災いして身が入らないといった感じで。
片方だけならまだ、なんとかなるが、二人同時となると難しかった。人生ハードモードである。
- 56イッチ 2/523/06/04(日) 17:41:08
この二人のトレーナーをやっている事もあり、
ターフの名優と呼ばれたメジロマックイーンを始めとしたメジロ家の面々とも縁ができた。
メジロ家の堅苦しいところが苦手な私は、必然的にパーマーとも話す機会が多くなり、ダイタクヘリオスを始めとしたウマ娘とも縁がある。また脚の治療で定期的にメジロ家に連行されるトウカイテイオーとの繋がりも持っており、私の交友関係は理不尽なまでに広くなりつつあった。
いや、ほんと、なんでこうなってるの? 分不相応にも程があるのだけど?
同じ新米で御令嬢を担当することいなったダイイチルビーのトレーナーから親近感を持たれることもあるのだけど、毎度のように「このままじゃルビーのトレーナーから降ろされるかもしれない」と愚痴って来るの本当に辞めて欲しい。オペラオーのトレーナーのようになれとまでは言わないけども、せめて、キングヘイローのトレーナーに相談して欲しかった!
うだうだと言っていても仕方ない。今日も今日とて、二人をレースに勝たせる為に思考錯誤を繰り返す。
幸いだったのは、二人が目指すレースが違っていた事だ。
ドーベルは中距離が限界なのでティアラ路線、ブライトは長い距離が得意なのでクラシック路線。これで二人の路線まで被っていたら私の胃が死んでいた。周りの心ない人は運よくGⅠを取れる素質ウマ娘が転がり込んできたっていうけども、うっせえ。二人を気性難だとかなんだとか言ってたのは何処の誰だ。ドーベルは兎も角、ブライトは十分にチャンスあっただろうが。今更手放してやるもんかばーかばーか! 二人はもう私の担当だよ、こんちくせう!
二人が卒業するまで婚活は諦めている。
私の人生は二人を輝かせる為にあったのだと、今では思える程だ。
脳が焼き切れている? はあ? 担当に脳を焼き切らないトレーナーが、一流のトレーナーになれるとでも?
二人のトレーナーになってからは、随分と神経が図太くなった気がする。
逆だ、神経を図太くしなければ、メジロ家のトレーナーなんて務まらない。
人間は適応する生き物である。 - 57イッチ 3/523/06/04(日) 17:42:03
そんなある日の事だ。
トレーナー室でノートパソコンで作業をしているとドーベルが部屋に入って来た。
彼女は何も言わず、パイプ椅子に座って、特に何を言うでもなく、そのまま私の事を見つめてくる。
その構って欲しそうな視線も、今となっては慣れたもので仕事をしている時は気付いてないふりをするようになった。本当に大切な話は、私の都合も関係なしに話してくる子なので、こういう態度を取ってくる時の大半は構って欲しいだけだと知っている。
事のついでにいえば、今は待たせる事があっても後でしっかりと対応すれば大事にはならない。
家に帰ってから続きをすれば、良い分だけを残して、パソコンを閉じれば、それまで小説を読んでいたドーベルの耳がピコンと跳ねた。
かと思えば、トレーナー室の扉が開けられる。
「トレーナーさん、少しお付き合い頂きたいのですが~」
メジロ家で唯一のゆるふわ系ウマ娘であるブライトがタイミング悪く姿を現した。
その姿を確認したドーベルはキュッと耳を絞り、無言で小説を閉じる。そして、無言のままトレーナー室を立ち去ろうとした。
待って、ちょっと待って。慌てて、彼女を呼び止める。このまま立ち去られると絶対に今後のトレーニングに支障が出る。翌週のやる気が一段階ほど、絶対に下がってる。そんな私と不機嫌なドーベルの姿を見て「あらぁ?」と頬に手を添えるブライト。「先約が居ましたのですねぇ」と部屋から立ち去ろうとする彼女を、待って、ちょっと待って。と慌てて呼び止めた。平気そうな顔をしてるけど、耳を見れば一目瞭然。めっちゃ垂れている。経験上、翌週になると絶対にやる気が一段階下がっている。
トレーナーとして、やる気を下げさせる訳にはいかないのだ。現実には、三女神も居ないんだぞ!
「別に私の事は良いわよ」
「いやいや、待たせたのにそういう訳にもいかないから」
「なら、私の方はまた後日ということで~」
「待って待って、こういうのはちゃんと話を聞いた方が良いと思うんだ」
この状況、これが男なら最低だな。と思いながらも二人を呼び止める。 - 58イッチ 4/523/06/04(日) 17:42:53
これで状況が改善するはずもないが、兎に角、結果的にどちらか一人を選ぶことになったという最悪な事態は避けられる。
分かりやすいドーベルばかりを気遣っているとブライトが何も言わないままどんどん距離を取って勝手に気に病んでしまうのだ。機嫌を取るだけなら難しもないのだけど、その時の距離感が近過ぎてドーベルの起源がどんどん悪くなる。そしてドーベルを気遣えば、またブライトが勝手に疎遠になる。負のスパイラル待ったなしの状況に陥るのだ。
負の連鎖は今、此処で食い止めなくてはならない。
「私、知っているんだから……」
ドーベルの唐突な言葉に「え? なにが?」と思わず返した。
「ブライトと一緒に居る時の方が気を遣ってないって事!」
「……それは、まあ、うん。はい」
「だったらブライトと一緒に居てあげてよ」
そう告げる彼女の耳が力なく垂れる。
いや、放っておける訳ないじゃん。
トレーナーとしては勿論、一人の大人として放っておけないじゃん。
「いえいえ、私と居ても気が休まっている訳でないことを知っていますよ~」
ブライトがのんびりとした声色で返す。
「ずっとドーベルの事を気にしていますわ」
そう言って引き下がろうとするブライトに「待て待て」と手で引き留める。
ブライト相手だと気を遣わないってのは本当。でもそれはドーベルの相手をするのが嫌って訳じゃない。
私が好きで気遣っている部分もあるのだ。
下手に抱えるよりも私が一緒に居て、発散できるのであれば、幾らでも付き合ってあげられる。
まあ、今となっては、ブライトも居るので、何時までも、とはいかないのだけど。 - 59イッチ 5/623/06/04(日) 17:43:20
「むしろ私の方が後から来て、無理やりトレーナーになって頂いたので……」
「なに、その、自分は妾ですから、みたいな引き下がり方?」
「ドーベルのことを優先してくれた方が、私としても……」
「そんな譲られるみたいな感じなの、嫌なんだけど! 私みたいな面倒臭い奴と一緒にいるよりもブライトと一緒に居た方が良いに決まってるじゃん!」
「いえいえ、ドーベルと一緒の方が気が休まりますよ」
「嘘!」
待って待って、とヒートアップしてきた二人を引き剥がす。
成り行きみたいなところもあったけど、好き好んで引き受けた面倒でもある。
というか、私の意思が反映されてないのが気に食わないのだけど?
とりあえず、先ずはドーベルを壁際に置いたベンチに座らせる。
その隣に身を寄せるように座り、ブライトを手招きした。ドーベルを気遣ってか、少し距離を離して腰を下ろす。
そんな彼女の肩を掴んで、ゆっくりと身体を横に倒す。
膝の上にブライトの頭を置いた。
まさか膝枕をされると思っていなかったのか、僅かに頬を赤らめるブライトの目元を手で塞いで自分も壁に身を委ねて瞼を閉じる。
隣からドーベルの不機嫌な気配、暫く頬っておけば、私の肩に彼女の頭が控えめに乗せられた。
それを感じ取り、私は本格的に意識を夢の中に落とした。
美少女二人に囲まれての昼寝、最高の贅沢だ。
心身ともに疲れが癒えていくのが分かった。 - 60イッチ 6/623/06/04(日) 17:43:31
◇
目覚める。
横に寝かされた身体、後頭部に柔らかくも弾力のある感触。天井を見上げる視界には、ドーベルの顔が映り込んでいた。
「ちゃんと寝てるの?」と少し心配そうに問い掛けられる。
あまり眠れていない。メジロ家のウマ娘二人分のスケジュールを組むのは新人の自分には難しかった。
何時も夜分遅くまでパソコンの画面と睨めっこをする日々を送っている。
ゆっくりと身体を起こす。
目元を擦ると横から良い香りのするカップが差し出された。
「どうぞ」
ブライトが笑顔で告げる。
カップに入っていたのは紅茶だった。
啜る。苦味のない優しい味がした。
「これであと十年は戦える」
私が笑顔で告げれば、ドーベルは少し目を見開いた後でツンと顔を背けた。
「私に付き合ってくれるトレーナーは貴方しかいないから……」
素っ気なく告げる横顔は、僅かに赤く染められていた。
……とりあえず、私はあと十年、婚活を始める事はできないらしい。
そんなつもりで言った訳じゃないのだけど、
真正面でにこにこと笑うブライトを見て「ま、いっか」と温かい紅茶を啜った。 - 61イッチ23/06/04(日) 17:46:20
- 62二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 17:49:52
イッチすごくすごいから日和らずCPでお願いすれば良かったな
どの子でもきっちり書けるのすごい - 637であり2823/06/04(日) 17:54:58
- 64二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 17:59:09
- 65二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 18:01:33
すみませんここに来れば課題やテスト勉強でヒィヒィ言ってるウオッカの勉強見てあげるギムレットが見れると聞いたんですが…
(厳しかったりリク受け付けてなかったらスルーしてください…) - 66イッチ23/06/04(日) 18:05:20
色んなキャラとジャンルに触れてみたいって感じで始めたので、
適当にお題を投げてくださっても大丈夫です。
CPだと関係性を重視して書く必要がある分、キャラ一人の方が描写が濃くなるので一長一短ですね。
触れたことのない子は、ストーリーを横で流しながら書いていたりします。
書いて分かったのですが、
エースは自分がしっかりしているので、本質的に誰かを必要とする性質でもないんですよね。
なので周りが積極的に絡まないと関係性が生まれない子なのかな、と。
シリウスと違って、己に厳しい求道者的な側面もあるので、
誰かに頼られたら面倒を見るくらいの立ち振る舞い。
たぶんそっちを要求された気がしたのだけど、
なんか私の覚醒しない灰色の脳細胞が二人の美少女ウマ娘から好かれる男性トレとか許せなかったので
心に従って女性トレにさせて貰いました。
- 67二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 18:26:20
- 68イッチ 1/223/06/04(日) 18:57:07
お助けキタちゃん閉店休業中~。
風邪も患わない丈夫な子が売りのキタサンブラックは今、床に伏していた。同室のサトノダイヤモンドはベッドで魘される相方に溜息を零し、彼女のトレーナーに連絡するついでに粥のひとつでも作って貰おうと部屋を出る。
独り、部屋に残されたキタサンブラックは、ひいひいと眠りに落ちる。
部屋を出たサトノダイヤモンドは、先ず最初に寮長のフジキセキに連絡を入れた。
その足で粥を用意する為に寮の台所に足を踏み入れる。普段は脚を運ばないサトノダイヤモンドを不思議に思ったヒシアケボノが話しかければ、なんとお助けキタちゃん臨時休業の報せが入った。偶に材料や調味料の買い出しを代わってくれるお助けキタちゃん。ヒシアケボノは快く粥作りを引き受けてくれた。自分で作るつもりだったサトノダイヤモンドは、この申し入れにキョトンと立ち尽くし、途中で入ってきたワンダーアキュートがヒシアケボノから事情を聞いて、粥に沿える漬け物を御裾分けしてくれた。
そこから先はてんやわんやである。
何処からか情報を仕入れたスペシャルウィークが生人参を御裾分けしてくれたかと思えば、高知帰りのハルウララが厄払いに熊の置物を置いて行った。これを部屋に飾るんだ、とゴールドシップが厄払いに般若のお面を持ってきたが、ハルウララとネタが被って悔しそうに立ち去った。タニノギムレットがトラックコースの柵を破壊して作ったアクセサリーをくれたり、スイープトウショウが気恥ずかし気に婆のお守りを叩き付けて走り去る一面もあった。マチカネフクキタルもまた厄払いの品を持ってきたが熊の置物と般若の面を見て「ぎゃぼー!」と三連ネタ被りに逃げ出した。ダイタクヘリオスは元気が出るおまじないをしてくれた、私に。キタちゃんにしないと意味ないと思うのだけど、ありがとうって言っておいた。隣に居たパーマーは苦笑いをしていた。ナイスネイチャからは滋養の蝮の粉末だった、なんで? あの人、普通の性格をしているように見えて、意外と突飛なところがあるよね? 使わないのも勿体ないので、後で出来た粥に塗しておいた。ツルマルツヨシはぜえぜえと青褪めた顔で心配してくれた、何があったのか知らないけど自分の心配をした方が良いと思う。
それにしてもまあ随分な好かれようである。
- 69イッチ 2/223/06/04(日) 18:57:52
外に出ても噂は広がっており、すれ違うウマ娘にキタちゃんは元気かと声を掛けられる。
ただの風邪だよ。と笑顔で返すのだけど、流石にちょっと面倒になってきた。よくもまあこれだけ好かれるものである。サクラバクシンオーは「水分摂取が大事です!」とわざわざ購買で買ったスポーツドリンクを持って来てくれた。トレーニングの時にまで私の顔を見た子がキタちゃんの様子を聞きに来るので、流石に億劫になってきた。さっさとトラックコースに出て、何時もよりも少しだけ早い速度で駆け抜ける。ちんたら走っているとまた話しかけられそうだった為だ。でも、それをいいことにライスシャワー先輩。ついてく、ついてく、しないでください。それ、割と心が折れちゃうので。私が息を切らして、先に足を止めれば、肩で息をするだけのライスシャワーがまたキタちゃんについて話しかけて来た。
ドリームトロフィーリーグに行くには、もっと頑張らなきゃいけない。と自らに戒める。
そんなこんなで何時も以上に気疲れした今日、部屋に戻るとキタちゃんはまだ眠っていた。
ベッド脇の台座には、空っぽになった土鍋が置かれてる。ついでに熊の置物も、般若のお面はキタちゃんの勉強机だ。ちゃんと粥は食べたようである。台所に土鍋を返しに行こうとした時、安らかに眠る幼馴染の姿を見て、少しむすっとした。人の気も知らず、よく眠れるものである。
おでこに優しくでこぴんをしてやった。
そのまま部屋を出ようとすると、ぎゅっと服の裾を掴まれる。
「……サトちゃん……むにゃむにゃ…………」
私は大きく溜息を零し、彼女のベッド脇に腰を下ろす。
汗ばんだ頬を近くにあったタオルで拭い取る。随分と愛されているようですね、と少し嫉妬心を込めて呟いた。
私には迷惑をかける癖に他には良い恰好しいの幼馴染の頭を優しく撫でた。
「スイープ……ちゃん…………」
にへらと笑う幼馴染の頬を、少し強めに摘まんでやった。 - 70イッチ23/06/04(日) 19:09:56
最初三人称で、途中から一人称になってる~。ぬわ~。
- 71二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 19:20:50
- 72イッチ23/06/04(日) 19:22:30
- 73二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 19:23:32
いやいや…こんな大量にいいss書いてくれて頭上がりませんわ
- 74二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 19:25:56
アニメだとサトちゃんじゃなかった?
なんにせよこれだけのクオリティでしっかりリクエストに応えてくれるイッチには頭が上がらないんだなぁ - 75イッチ23/06/04(日) 19:34:58
あったけえ……
- 76二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 20:22:59
某所に一人称やトレーナー、他ウマ娘の呼び方リストがあるはず
(無かったらエイシンフラッシュにシップさん呼びさせるとこだった) - 77二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 20:45:53
- 78イッチ 1/623/06/04(日) 20:57:56
図書室で私、アグネスデジタルは困惑していた。
お困りなウマ娘ちゃんの存在を察知したデジたんがこれは見過ごせぬと図書室の扉を開ければ、そこにはなんと秋王道の三冠ウマ娘のゼンノロブロイちゃんが居ました。私の顔を見るや否や「助けてください!」と声を荒げた。小さな体に強い力、縋るように両腕をがしっと掴まれた私は「ぎゃひ~!」と心の悲鳴が漏れそうになる。しかし世の為、人の為、全てはウマ娘ちゃんの幸せの為と生きる私が見過ごすわけにもいかず、そして、ウマ娘ちゃんを穢さない為にも情けない姿を披露する訳にもいかないのです。限界まで装った平静で「ど、どうしましたか?」と辛うじて声を絞り出すことができた。
ええ実は、と彼女が少し気恥ずかしく喋り出したのは、これまた予想外のことでした。
「即売会のサークル参加に受かってしまって……!」
想定外の単語に「ヒュッ!」と息が漏れる。
ちょっと待ってください。頭の処理が追いつきません、とりあえず此処では色々と拙いです!
ほら、ちょっと他のウマ娘ちゃんがびっくりしています。
何人かの言葉の意味が分かってそうなウマ娘ちゃんが驚きに目を見開いちゃってます!
とりあえず約束だけして放課後、彼女の部屋に赴く事と相成った。
◇
「ラ、ライスね、絵本を出すことにしたんだよ……!」
わあ、ギュッと両手を握り締めて決意表明を示す青薔薇のウマ娘が可愛らしいことこの上なかった。
それが同人誌即売会に対するものじゃなければ、心から応援しているところだ。いや、まあ、変な言い方になるのだけど、まともな内容の同人活動も数多く存在している。経済学や世界史のテキストを同人誌として出しているサークルもあれば、戦車や軍隊の教科書みたいなものを出しているサークルもあった。それに比べれば、なんと健全な事か。
デジたん、ライスシャワーさんの純粋無垢な笑顔で浄化して消え去ってしまいそうです。
- 79イッチ 2/623/06/04(日) 20:58:11
「製本の仕方とか分からないのだけど」とノートパソコンに取り込まれた絵を見せてくれる。
わあ、本格的ぃ……。描いた絵はこっちなんだよ。と画用紙の方も見せてくれた。わあ、手書きの原画ぁ……。なに、この幸せ空間、デジたんは同じ空気を吸っても許されるのでしょうか?「製本は何処に頼めば良いのか、分かるかな?」と控えめに聞いてくる。わあ、ちゃんと自分で調べてきてらっしゃるぅ……。彼女の安心感に涙が零れそうになる。ライスさんに関しては、後で必要な事を教えておけば大丈夫そうだ。なんでもかんでも私がやっては新しい同志の為にはならない。製本の完成度に関わる箇所だけ、後で私が調整すれば良いのだ。
後でお教えしましょう、と本来の目的であるロブロイさんと向き合った。
小柄なウマ娘に大きなウマ耳、眼福です。ありがたや~。
場が許すのであれば、デジたん五体投地しているところである。
「それで私に相談したい事ってのは何でしょう?」
「えっと、内容は何も考えていなかった訳ではなかったのですが……勢いでやってしまったところもあって……」
「ラ、ライスが頑張ってみようって言ったんだよ。デジタルちゃんもやってるって聞いたから……」
「ひゅっ……!」
「自分で製本して、売るなんてすごいですよね」
「うん、凄いよね。だから私達も勇気を出してみようって!」
罪悪感で、今にも心停止しそうだッ!
こんな純粋無垢な子達を、あの魔窟に誘うきっかけが私にあったなんて!
これ、末代まで祟られるレベルの悪行ではないでしょうか?
いいえ、同人活動はプロの登竜門的な側面もあるにはあるんです!
ちゃんと真っ当な作品も多いのです!
でも、それ以上に性癖を拗らせている奴が多過ぎるんですよ!
いや、分かりますよ! デジたんも同じムジナの穴だから分かりますよ!
だけど建前と実態は違うのです!
デジたん未成年だけど、えぐいのもそれなりに知っているのです!
そして、私も、どちらかというと、そっち寄りなんです!
ピーでピーな奴は書いていませんけど!
ちゃんとぼかしてはいますけども!
なまものからネタを摂取し、題材にするという重罪を多々犯してはいるのです! - 80イッチ 3/623/06/04(日) 20:58:27
しかし、そんなことは間違っても口にすることはできない。
張り付けた笑顔で「漫画を、少々……」と何処ぞのお見合いのようなことを口にした。
わあっ! と満面の笑顔を見せる二人が、まぶしいです! とてもまぶしいです!
やめて、そんな目で私を見ないで!
「後で見せてください!」
「ひゅッ……!!」
数年前に書いた控えめな本の在庫ってまだ残ってたっけ?
押入れを掘り出せばある?
そんなことを考えながら「は、はひ……」と過呼吸で答えた。
「やったね」「うん」と二人が互いを見つめ合う姿が尊過ぎます。
私、今、死んでも良いんじゃないですか?
これ以上、二人に醜態を晒す前に殺してくれ。
「そ、それで……本の内容なのですが……」
「あ、そうでした!」
ロブロイが改めて私を見て、姿勢を正した。
キリッと眉間に皺を寄せた姿のギャップがレースの時に見せる凛々しさを感じ取れて、なんとも眼福だった。
今、私はきっと現実と彼の世の狭間は反復横跳びで行き来している。
「神話の武具について書いてみたいなって」
神話の武具。先ず真っ先に浮かんだのがデュランダルだったのは許して欲しいのです。 - 81イッチ 4/623/06/04(日) 20:59:51
◇
「やっぱり神話の武器といえば、聖剣エクスカリバーだと思うんです。武器が使用者を選ぶ剪定の剣であるカリバーンも外せませんし、エクスカリバーの元になった説もありますけど、湖の乙女から魔法の剣を受け取り、最後には返還するというエピソードまでが好きなんです」
「あー……あのベディヴィアが何度か湖に返還するのに失敗したという?」
「うんうん、ベディヴィアさんのその時の葛藤を思うと悲しくなるよね」
「あと、それとは別に……湖の乙女から魔法の剣を受け取って、返還する時の光景を思い浮かべると……なんというか、その、綺麗だったんだろうなあって……」
相談に乗って数十分、話は脱線して神話の武具語りに没入してしまっていた。
こういった内容は私の分野ではないのだけど、創作好きとしては抑えるべき話ではなるのでそれなりに付いて行くことはできた。意外だったのはライスシャワーの方で、彼女もしっかりと神話を理解していることだった。……このまま話を続けているのも良いのだけど、それでは推しの一人であるロブロイさんの悩みを解決することはできなかった。
惜しいけど、此処は涙を飲んで、本題に戻す。
「えっと、それで書く内容に関してなのですが……」
「あ、つい熱くなって!」
「いえ、それは構いません。で、書く内容に関してなのですが……」
彼女が熱く語り聞かせてくれた内容を鑑みて、続ける。
「今語ってくれた内容を、そのまま書いちゃっても良いのでは?」
「それも考えたのだけど、それだと書籍の内容を纏めているだけになっちゃって……」
そういって彼女もまたノートパソコンを操作して、試作段階にあるデータを見せてくれた。
内容は図鑑に似た形式で1ページで1つの武具を解説したものであった。
書いてある内容は、まあぶっちゃけた話。目新しいものではない。
「これなら別に本にする必要もないかなって……」 - 82イッチ 5/623/06/04(日) 21:00:12
「これはこれで需要はある気はしますけど」
何も知らない人が入門するには、丁度良さそうだ。
ただ、本人が納得していないのであれば意味がない。腕を組んで、思い悩むと彼女の机の上に置かれた分厚い本が目に入った。
アーサー王伝説。原典ではなく、フィクション増し増しの小説だ。
「伝記ものも好きなので?」
「うん。はい、好きです」
「自分で書いちゃえば良いのでは?」
彼女がよく本を読んでいるのは知っている。その中には小説の物語も含まれていた。毎日のように書籍を消化する彼女の頭には、きちんと内容も理解している事を知っている。そして今、見せて貰った試作段階のデータの文章も堅苦しいところはあったのだけど、物語を書くには十分な文章力を持っている事も理解している。何よりもあるものをそのまままとめる事に不満を持つのであれば、同じ創作仲間として新しいものを書いちゃえって思うのだ。
「私が、自分で? 物語を?」
「はい。不安があれば、手伝いますよ」
「私が……私の……英雄譚を!」
あ、クリティカルが入った。
長年の勘で今、彼女がとても面倒な状態に入ったのが分かった。
でもデジたんに後悔はない。
「よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げるロブロイに「お願いします」とライスが続いた。
「はい、喜んで」
私が笑顔で返す。
退かぬ、省みず。ウマ娘ちゃんの幸せの為ならば、例え火の中水の中の精神だ。
なによりも、あの魔窟から二人を守護らねばならない使命もあった。 - 83イッチ 6/623/06/04(日) 21:02:03
「それじゃあ定期的に集まらないとね!」
「えっ?」
「ま、また三人の日が会いそうな日に選んでお誘いします!」
パタン、と部屋の扉を出る。
独り、廊下側の扉の前には燃え尽きデジたん、真っ白に感光中。
あの後、軽く三人で話してからデジたんは部屋を出た。
そして真っ白に燃え尽きデジたんはふらりゆらりと自分の部屋に帰った。
あの幸せ空間にまた、私が?
デジたんもう死んじゃうんじゃないかなって、いっそ空気になりたい。
あの部屋の空気になりたかった。
翌日、私は勢いのままにネームを切った。
ゼンノロブロイとライスシャワーに振り回されるウマ娘の話だ。
煩悩と雑念を振り払う為に書いたネームは後日、タキオンさんに忘れ物として二人の部屋にお届けされた。
三人がモデルであることはすぐにバレた。
ここから先の事は、記憶から消し飛んでいる。
分かるのは、二人の部屋で完成したこれが即売会に出る事だけである。 - 84イッチ23/06/04(日) 21:02:50
題材とは違うと思うけど、これでゆるしてゆるして……
- 85イッチ23/06/04(日) 21:06:21
夕食の調達とか、片付けとか、明日の準備とか残っているので少し席を外します。
気力があれば今夜に続きをやります。
なければ……明日、丸々仕事なので戻るにしても深夜とかになります。 - 865423/06/04(日) 21:21:58
- 87二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 21:22:24
- 88二次元好きの匿名さん23/06/04(日) 22:27:00
イッチ無理なさらず
楽しみにしてるけど無理は禁物だよ - 89イッチ 1/223/06/05(月) 05:34:04
中間試験が近づいて来た今日この頃。
日頃の授業態度が明暗を分ける時期にカフェテリアの一角で頭を抱えるウマ娘が一人。
積み重ねられた教材を前に悪戦苦闘する彼女は「因数分解なんて社会人になっても使わないだろう」と文句を吐き捨てながらも必死に問題を読み解いていた。何故、こうまでして勉学を頑張るのか。試験には補習と追試がある為だ。その事は別に構わないのだが、彼女が嫌っているのはトレーニングの時間が減る事だった。カフェテリアで勉強をしているのはルームメイトが口煩い為である。持ち前の面倒見の良さもあり、勉学に苦しむ相方を見るとつい口出しをしてしまうたくなってしまうのだ。仮にもライバル、彼女に頼るのを嫌った彼女は一人、カフェテリアで勉学に励むことなった。
彼女は特段、地頭が悪い訳ではない。記憶力は良い方で覚えるだけの分野は得意であった。
しかし論理的思考という点では、少し欠けているところがあり、数学や国語といった分野を苦手としている。普段から予習と復習を徹底しているダイワスカーレットが相手では、どうしても敵わないが、それでも赤点を取らない程度には点数を稼いでいるので、やはり、頭は悪くないはなかった。
カリカリとペンを走らせる。
普段からやっておけば、此処まで苦労しない事は彼女も分かっていた。しかし実戦となると話は別だ。これがやらなきゃいけない事も理解している。だから彼女は文句を口にしながらも、ちゃんと試験勉強に励んでいた。黙々と勉学に励んでいると、ついうとうとと眠たくなる。それでも補習を受けるのは嫌だったので、何よりも自分が補習を受けている間にルームメイト兼ライバルに差を付けられるのが嫌だったから必死にペンを動かし続けていた。
そんな折、彼女の傍に、そっとカフェ・オレが添えられる。
「あちらのお客様からでございます」
顔を上げれば、ウマ耳のウェイトレス。
彼女が手で示す先には、足を組んで、カクテルグラスに入ったスポーツ飲料水を一息に呷るウマ娘の姿があった。
そのウマ娘は片眼に眼帯を付けており、ニヒルな笑みでウオッカの方を一瞥する。
- 90イッチ 2/223/06/05(月) 05:35:43
「闇夜を彷徨える子羊よ、旅路を晴らす天界の光ではないか?」
「ギム先輩! またお願いしてもよろしいでしょうか!?」
「良いだろう……神が与えし十八の試練、少しくらい手を貸しても天上の者共も許してくれるだろうさ!」
高笑いを上げながら歩み寄る大先輩に「あざっす!」とウオッカが頭を下げる。
教材を手に取り、彼女が解いていた問題を見つめた。「夜空に輝く星々が描く図面がひとつであるとは限らない」そういうと彼女はグラフで説明を始める。ウオッカには記憶力があっても応用力がない。ひとつ覚えてしまうと他のことができなくなる癖があった。それ故に彼女は視覚的に分かりやすくする為に、公式ではなく、図を交えて説明を始める。そうすれば「ああ、だから、ここでこうするのか!」と彼女は驚くほどの速度で飲み込んでいくのだ。
相手の事を考えて、相手に合わせるタニノギムレットの面倒見の良さは、意外と教え上手な面でも発揮された。
問題があるとすれば────
「え、なんであれで理解できるの?」
「何を喋ってるのかわかる?」
「因数分解って前知識がないとわからんないわよ」
「あ、わかるんだ……」
──彼女特有の言葉遣いを過不足なく理解できるものにしか発揮されない事である。
つまりウオッカを始めとした特別な素質を持ったウマ娘という極々限られた範囲にだけ適応できる技能だった。 - 91イッチ23/06/05(月) 05:45:31
スマホからだと定期的にIP規制に引っかかっているので、
今日は書くのが難しいですが、火曜日と水曜日は割と暇なので、
スレが落ちない程度にお題でも置いておいてくれると続きを書くと思います。
前にお題を提供してくれた人も、まだ二回目とかなら、もう一度くらいは頑張ります。
感想をくれるとテンション爆上げで今日一日生き残れます。
とりあえず、スレが落ちるまでは頑張るつもりです。 - 92二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 07:54:50
とりあえず保守
自分リク以外でも感想綴ろうかな - 93二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 17:17:39
保守です
- 94二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 21:25:38
- 95イッチ23/06/05(月) 23:09:19
- 96二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 23:19:54
- 97二次元好きの匿名さん23/06/05(月) 23:34:27
- 98二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 00:15:53
すみません、ここに来れば
うっかりロブライ部屋に入ってしまいそこへロブロイライスふたりとも帰ってきて
咄嗟に隠れ出るに出られない極限状態へと追い込まれつつもふたりのてぇてぇ会話に挟まれて無事昇天するデジタルが見られると聞いたのですが - 99二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 03:17:05
すみません、ここにくれば
「布団を洗ったら片方の布団だけ乾いてなくて同室ウマ娘と同じベッドで寝ることになったウマ娘ちゃん」が見れると聞いたのですが……
あ、エスパマでお願いします - 100二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 07:24:34
保守です
- 101二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 07:55:51
- 102イッチ23/06/06(火) 09:38:26
昨日は1作品書いてから寝ようと思いましたが寝落ちしてました。
初日ほどの勢いはないと思いますが、
身の回りの事を熟しつつ、無理のない程度に消化していきます。
お題が溜まっている時は周りに譲ってほしい気持ちもありますが、
それも譲る相手がいなければ意味がないので、それなりに空気を読みながら投げてくれれば構いません。
とはいえ、同じ人のだけ書くのもなんか違う気がするので、
現段階では「一度にお題を出せるのはひとつまで、次のお題を出すのは自分の分が消化されてから」とした上で、
「1人3回まで」ってことにしておいてください。
とはいえ匿名掲示板、あんまり厳密にやっても意味がない為、
似たようなお題が続く場合は、こちらで対処。あとは各々の良心に委ねる形で行きます。
- 103二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 09:59:44
- 104イッチ23/06/06(火) 10:33:22
学園祭の最中、とある屋台の前に立ち尽くすナカヤマフェスタ。
博徒の眼光で睨み付ける先には、ひとつの看板。□シアンたこ焼きと書かれた文字があった。
ナカヤマフェスタが周囲をチラりと見る。顔見知りの一人でも居れば、気軽にギャンブルに興じる事もできるのだが、残念ながら彼女の悪友と呼べる者は一人も居なかった。舌打ちをひとつ零し、今日はその日ではなかった。と立ち去ろうとしたその時に「おやおや」と呑気な声が耳に入る。振り返れば、ふんわりとした空気を纏うワンダーアキュートの姿があった。
彼女は少しの間、ナカヤマフェスタを見つめた後に彼女が見つめていた看板を見る。
そこで心得が行ったのか、彼女はポンと両手を叩いた。
「ちょっと待っとくれ」とワンダーアキュートが、緩く尻尾を振りながら□シアンンたこ焼きの屋台に足を運んだ。その背中をナカヤマフェスタが不思議そうに眺めている。アキュートが店員とやり取りをした後、小走りで戻って来る彼女の手には□シアンたこやきが収まっていた。「これが欲しかったんだねえ」と冗長な声色で手渡す彼女の、もうひとつの手には同じ□シアンたこやきがあった。
爪楊枝を差して、意気揚々とソレを口に放り込もうとする彼女にナカヤマフェスタが思わず声を掛ける。
「おい、アンタ……それが何か分かっているのか?」
「ん~? なんだか□シアンンってハイカラなものが売っているんだねえ。この中にハズレがひとつ、ひとつ頂くだけでもドキドキするよ。最近は、こういうのが流行っているのかい?」
「アンタ、正気かよ」
何食わぬ顔でパクリと一個、口に入れるアキュートの姿に「ははっ」とナカヤマフェスタが声を上げる。
「狂気の沙汰ほど面白いってか? いいぜ、付き合ってやるよ」
不思議そうに首を傾げるワンダーアキュートが二個目を咥えたのと同時にナカヤマフェスタもたこ焼きを口に放り込んだ。
ブレーキの壊れたチキンレースと同様に行き着く先の決まった勝負事。その結果が訪れるのも予想外に早く、二人は同時に尻尾をピンと立てる。
分かって居たはずの結末は、予想外の不意打ちとなって二人を襲ったのであった。
- 105二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 11:21:12
- 106二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 11:38:56
その分、感想で返してくれたらええんやで?(にっこり
- 107イッチ 1/323/06/06(火) 15:39:00
私、アドマイヤベガには、同室のウマ娘に対する不満を抱えている。
というのも就寝前に布団乾燥機を使おうとすれば、あからさまに嫌な顔をするのだ。私だけがふかふかの布団で眠ることに不満を持っているのかと思って、昨晩は予備の布団乾燥機を差し出した。しかし彼女は耳をキュッと絞って背を向ける。その時にパンと尻尾で布団乾燥機を持つ手を叩かれた。そのまま耳まで布団を被って一言も喋らなくなってしまうのだ。
部屋には、ブオォという布団乾燥機の音だけが響いた。
朝の挨拶もなしに部屋を出るカレンチャンの背中を見送り、残された私は独り溜息を零す。
そうして自分も部屋を出る。昼飯時、何時もの食堂に足を運んだ。そこで食事を摂っていると前の椅子にノートPCを片手に持ったウマ娘が腰下ろす。エアシャカールだ。食事中くらいはパソコンを弄るのをやめなさい、と私が告げれば、不精不精と彼女はノートPCを閉じる。そして人差し指でトントンと机を叩いた。
その苛々した様子に見かねて、声をかける。
「どうしたのよ」
「あん?」
「鬱陶しいんだけど、それ」
机を叩く人差し指に視線を向ければ、エアシャカールは舌打ちを零して手を引っ込める。
「……何があったのよ?」
彼女とは見知らぬ仲ではない。
なんとなしに問い掛ければ「大した事じゃねぇよ」と素っ気ない返事が返ってきた。
「何時までもそんな態度でいられる方が鬱陶しいのよ」
改めて問い掛ければ、彼女は改めて舌打ちを零す。
そして、嫌そうに語ってくれた。
「ドトウのドジが直せねえ……」
「はあ?」
「あのドジはロジカルを凌駕してやがる。何をやっても、どう対処してもドジをするという結果を引き寄せやがるんだ。最初は初期値の設定から間違っているんじゃないかって思った」
だが、そうじゃねえんだ。とエアシャカールは忌々しく歯を食い縛った。
- 108イッチ 2/323/06/06(火) 15:40:00
「あれは特異点だ。ドジをする、という結果に全ての事象が引っ張られていやがるんだ……解明しようと思って、新たにプログラムも組んだ……それでも解明できねえんだ。必ず、数値を凌駕して来やがる……」
頭を抱える彼女に私は、はあ、と気のない返事を返すことしかできなかった。
「これがあの東京優駿の7センチメートルを覆す手掛かりになるかも知れねえってのに……!」
「……解明したところでそこは変わらないのでは?」
行き詰ってるなあ、と零しながら手元にあった珈琲を啜る。
自分から聞き出した話とはいえだ、このまま付き合うのも面倒臭くなりそうだ。
できれば、話題を切り替えたい。
同室の相方に対する愚痴、そこからの連想でカレンチャンの事を愚痴ってみた。
「……という訳で布団乾燥機の良さが分かってくれないのよ」
昨晩から今朝までの話をすると、注文していたカレーを頬張るエアシャカールが呆れ顔で伝えた。
「その話、前提が間違ってねえか?」
「前提……?」
この時、私、アドマイヤベガの脳裏に流星が駆け抜けていった。
そうだ、そうなのだ。私はやるべきことをしていなかったのだ。
ありがとう。と私が席を立った。
「あ、ああ……急にどうしたんだ?」
「やるべきことが分かったのよ」
「そうか……それ、また前提を間違えてねえか?」
大丈夫。と改めて告げた後、私は食堂を後にした。
トレーナーに頼んで、今日のトレーニングの量を減らし、一足早く学寮に戻る。
まだ誰も居ない部屋の中、私は押し入れを開け放ったのだ。 - 109イッチ 3/323/06/06(火) 15:41:09
◇
「今日の私は、ちょっと可愛くなかったよね?」
トレーニングを終えて、
シャワーも浴びた後、私、カレンチャンは今朝の事を反省していた。
流石に無視をしたのは、やり過ぎだった気がする。
部屋の扉に手を掛けた。
鍵は開いている。ただいま、と扉を開ければ、ブオオッという二重の駆動音が部屋に響き渡る。
私のベッドの前にはルームメイトのアドマイヤベガ。
布団に突っ込まれるのは、彼女が愛用する布団乾燥機であった。
彼女の布団には昨日、予備として差し出した布団乾燥機が差し込まれていた。
そわそわと期待に満ちた目を向けてくる先輩に全てを察した私は思いの丈をぶちまける。
「違う、そういうことじゃないッ!!」
その日の布団は滅茶苦茶気持ち良かった。 - 110イッチ23/06/06(火) 15:42:12
これもお題とは少し外れますが、
話題を膨らませる事ができませんでした。 - 111イッチ23/06/06(火) 15:45:08
>>63 を飛ばしている事に今気付きました。書きます。
- 112イッチ 1/323/06/06(火) 19:28:23
あたし、カツラギエースは独りで街に出るとよく迷子になっている。
トゥインクルシリーズを引退して随分と経つが、田舎で生まれ育った感覚が未だに抜け切らず、道に迷う事が多くって特に電車の乗り換えが何時まで経っても慣れなかった。そんな事で今日も道に迷っている。別に先を急いでいる訳ではない。道に迷う事は未知との遭遇に繋がる事でもあり、新たな刺激を得られることでもあった。
そんな考え方でいるから今もまだ迷子癖が一向に直らないのかも知れない。
まあ街中で迷うのは致命的って程でもない。ひとつひとつの道を確認し、地図を照らし合わせながら歩けば、最終的には目的に辿り着くことができるのだ。どうしても遅れることができない大事な用事がある時は、そんな感じで対処している。
今日は気ままに道端を歩いている。
歩くのは嫌いじゃない。足を進めているとひらり、と散り落ちる桃色の花びら。
今は5月の始まりだ。まだ残っているのかと、辺りを見渡せば、空き地の一角で一本の桜の木が僅かに花を咲かせていた。
春の香りに誘われるように、歩み寄る。
すると歓声が聞こえる。なんだろう、と顔を覗かせれば、フリースタイル・レースが開催されていた。
それは、端的に言ってしまえば、草野球のレース版といった所だ。
興味本位で顔を覗かせれば、見知った顔があった。
同室のメジロパーマーだ。メジロ家の御令嬢が随分とまあ、俗なレースに興じている。
素質はある。しかし最初の四戦以降はまるで芽が出ず、クラシックの時は掲示板に入るのが精一杯だった。
別に、その事は悪い事ではない。
オープン戦で勝った事があるだけで一流のウマ娘の一人である事は間違いない。
しかし同じメジロ家の同期にメジロライアンとメジロマックイーンの存在が彼女を焦らせている。
先日、初めて出走したGⅠレース。春の天皇賞での大敗が、更に彼女を追い詰めていた。
- 113イッチ 2/323/06/06(火) 19:28:44
もう一度、いうが素質はある。
殻を破りたくて苦しんでいる彼女は、何かのきっかけを得る為に必死に頑張っている途中なのだ。
でもまあ、トレーナーも居ない場所で走り続ける彼女の事を放っておく訳にもいかず、乱暴な走りで当たり前のように勝利したパーマーを片手を上げて出迎える。
驚きに目を大きくし、気恥ずかし気に顔を背ける彼女の背中を叩いた。
「道に迷ったんだ、帰り方を教えてくれ」
「なんですか、それ?」
くすりと笑う彼女の横顔を見て、まだ最悪ではない事を読み取る。
ラフな格好を好む彼女の本質が意外と真面目である事を同室のあたしは知っている。
型を破れず、吹っ切れず、中途半端な走りを繰り返している。
結果が出せない苦しみを私は知っている。
彼女と違って、重賞に何度も勝った事があるけども、本番では大敗を繰り返していた。
だから、焦る気持ちは、分からんでもない。 - 114イッチ 3/323/06/06(火) 19:29:50
「……昔、同期に凄い奴が居たんだ」
先程、見た桜の木まで誘導しながら歩みを進める。道案内を頼んだのに、自分から先を歩くあたしにパーマーは困惑しながらも付いて来た。
「そいつは一度も走った事はなかったんだが……私が現役だった頃はオープン戦に出走するのが限界だった」
芝と砂を何度も行き来して、掲示板内に収まるも勝利まで行かず燻り続けていた。
何度かレコードタイムを出していたので実力があることは疑いようもない事実ではある。しかし、二人の三冠ウマ娘が表で活躍する中で、彼女の名前が知られるようになったのは、シニア二年目の秋頃であった。
最終的には、彼の皇帝を打ち破った挙句、翌年には勢い余って海外にまで飛び出してしまった。
「……つまりは、まあ遅咲きの桜もあるってことだ」
見上げた桜の木には、まだ少しだけ桃色の花が残っていた。
まあ、と目を伏せる。ジャパンカップで大逃げを打ったのは私が初めてではない。
初めて開催されたジャパンカップで己の面子の為にハナを切って逃げたウマ娘もいる。
無謀も無謀だが、確かに世界に挑んだウマ娘であった。
日の丸特攻隊とも呼ばれた彼女の前例があればこそ、今日の私もある。
「魂を賭けて、挑み続けるその姿を見てくれる者は意外と居るもんだ」
どうせ馬鹿をするなら馬鹿をとことん突き詰めてやれば良い。
そうすれば、重賞のひとつやふたつ、あわよくばGⅠにだって手が届くかも知れねえ。
そんなことを笑って話して聞かせてやれば、パーマーも釣られて笑い出した。 - 1158623/06/06(火) 19:58:10
キレイなオチに笑わさせていただきました、ありがとうございます!
- 116イッチ 1/423/06/06(火) 21:14:41
すうっと肉体から魂が離れることがよくある。
もう手慣れたもので今日は朝方、ダイワスカーレットとウオッカの口喧嘩を聞いたことが事の発端となっている。その内容がもう! 尊過ぎまして……喧嘩してるのにお互いの事を知り過ぎていて、相手の事が大好き過ぎるじゃん! と昇天してしまったのだ。そうして肉体から離脱した事に気付いたのが少し前、私の肉体は他の誰かに回収されてしまったようなので今、肉体を捜索中。保健室にはなかったので学寮の方に向かっている。大半のウマ娘ちゃんはデジたんを保健室に運ぶか、放置する。
わざわざ持ち帰るのはタキオンさんくらいなものである。
カフェさんの前だと気絶した私で実験するのを止めてくれるので学寮の方に運び入れるのだ。この前、肉体に戻ろうとした際に自分の身体が七色に発光していた時は、流石のデジたんも「わあっ……」と宇宙猫状態になった。でもまあタキオンさんは肉体を発光させることはあってもレースに支障を来すことはしないので、そこは安心だ。前にタキオンさんが自分の身体を発光させていたのも見ていたし、実際、それで何もなかったのを知ってるし。
さておいて、幽体離脱をしたからといって、この状態を利用して悪さをするつもりはない。
壁を擦り抜けて、いち早く肉体に戻り、改めて推し活に精を出すのだ。
「……あれ、ここは?」
何時もと雰囲気の違う部屋に困惑する。
机の上に置かれた伝記ものの書籍、そしてもうひとつの机には絵本が並べられていた。
それが自分の知る二人のウマ娘を示すものであることは、すぐ結びついた。幽霊と肉体では感覚が違う。幽霊の時だと五感が曖昧で自分が今、何処を飛んでいるのか不明瞭になる事が多々あった。意識をしっかりと保てば、そういうこともないのだけど、今日はちょっと不意打ちで尊いものを見てしまって浮かれ過ぎていた。
意識が覚醒する。早く、此処から出なくては──と壁に体当たりしても部屋から出られなかった。意識がはっきりとした状態では、肉体がある時に出来ないことがやりにくくなる。現実に壁を擦り抜ける事ができないので、無意識の内に身体が壁を通れないものとして認識してしまっていた。
あわわ、はわわ、と焦っている内にドアのノブが開けられる。
- 117イッチ 2/423/06/06(火) 21:15:19
慌てて私は、ベッドの下に潜り込んだ。人一人分の隙間もないのだけど、慌てていたのでするりと隙間に潜り込めた。
二人のウマ娘の笑い声、部屋に戻って来た彼女達は中心にある机に腰を下ろす。
「この前に買ったクッキーがありますけど、如何ですか?」
「うん、貰おうかな」
「じゃあ、一緒に飲み物も淹れますね」
「あ、そっちは私がするね」
「では、私はクッキーを皿に盛りつけておきます」
二人の可愛らしい声が聞こえてくる。
なんという尊み、そして、なんという罪悪感。推しウマ娘ちゃんである二人の会話を盗み聞いているだけで耳が幸せであると同時に、名乗り上げる事も出来ない現状に胸が締め付けられる。耳を抑えても、デジたんの本能がそうさせているのか、声はしっかりと透き通ってしまうのだ。
多幸感と罪悪感に悶え苦しんでいる。と細やかなるお茶会の準備も整ったようだ。
二人が仲良く絨毯の上に腰下ろす。
その際、ベッドと床の隙間から見えてしまった二人分の生足。咄嗟に身を丸めて蹲った。耳を防げないのであれば、せめて、せめて! 視界だけでも防がなくてはなりません! 二人の可愛らしい声と息遣い、サクッと齧るクッキーの音に僅かな咀嚼音。美味しいと呟く声にそうでしょうと同意する。デジたんは、デジたんは、もう、これ以上の大罪を犯す前に殺してください!
誰か、誰か! このデジたんを介錯するという救いをください!! - 118イッチ 3/423/06/06(火) 21:16:44
「これですね、クリームを付けても美味しいのですよ」
「えっと、試してみるね。……わ、ほんとだ。美味しい……」
「偶には、こういったアレンジをしてみるのも良いですよね」
私も一枚、とゼンノロブロイがサクッとクッキーを齧った。
咀嚼音。あ、動かないでね。とライスシャワーの声がする。
「ほっぺにクリームが付いてたよ」
「えっ、あ、やだ……」
「このクリームって本当に美味しいね」
「あ、ライスさん、その……それって……」
「え、あ、やだ! ごめ────」
視界が光に包まれた。頭上より照らされる光に導かれて、デジたんの魂は天上へと誘われる。
すうっと現世から私という存在が消失した。
◇
真っ白に染まる視界の果てに三人のウマ娘ちゃんと出会った。
それぞれ赤、青、黄の三色の衣服を纏ったウマ娘ちゃんは私を見て、三人が大きく溜息を吐いた。
「……これで何度目だ?」
「ふえ?」
黄色の軍服を着たウマ娘が難しい顔をしている。
「もう顔馴染みだな」と赤色でラフな格好をした褐色肌のウマ娘が苦笑し「困ったものねえ」と青色のジャージを着た美人なウマ娘が頬に手を添える。「えっ? えっ?」と困惑する私を無視して、三人は互いに互いを見つめ合った。三人の姿を何処かで見た事がある。頭の中にあるウマ娘ちゃんの記憶を辿り、そして三女神の像と酷似した姿をしている事に気付いた。
そこで私は思い出す。自らが大罪を犯したことを、きっと此処は死んだ魂が良く裁判所のようなものであり、今から天国と地獄に振り分けられようとしていることを知る。
だから私はいの一番に叫んだ。 - 119イッチ 4/423/06/06(火) 21:17:55
「地獄に落としてください! デジたんは大罪を犯しました……罪を償わなければいけません!」
「その台詞ももう何度目だろうな」
「まあ、本人に悪気ある訳じゃないですし……」
「偶に間違えて来る奴はいるが、何度も来るやつは初めてだ」
まあ、と青色のウマ娘が口を開く。
「貴方はまだ此処に来るべき時ではありません。さっさと現世に戻ってください」
そう言われた瞬間、地面の底が抜けた。
堕ちる、宇宙の何処から大気圏へ。空を落ちて、中央トレセン学園が見えて来た。その付近にある学寮の屋根を目掛けて一直線だ。
自らを一筋の流星となりて、魂の抜けた肉体へと突っ込んだ。
「ふわっ!?」
ガバッと身体を起こす。
「ふむ、今回は随分と遅かったね?」
隣には同室の相方であるアグネスタキオンの御尊顔がある。
学習机で紅茶を啜っていた彼女は、慣れた仕草で私のバイタルチェックを始めた。
寝起きのせいか、ぼんやりとする頭。えっと、気絶する前、なにかあったっけ?
なんだか、少し前まで、幸せな事があったような、なかったような?
ダイワスカーレットとウオッカが喧嘩していた事を思い出し、それだったかな?
「ふむ、体調に異変なし。健康だよ」
「あ、はい。ありがとうございまひゅ……」
ペコリと頭を下げる私に「なあに同室の誼だよ」と彼女はなんでもないように返した。
とりあえず、今日もデジたんがいつも通り元気なようです。 - 120二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 21:36:30
保守感想で保守らなくても進んでそうだったからゆっくり来たら書いてもらえていた!
イッチまたも書いてくれてありがとうございます……!
ここに推しCPの話がまた一つ爆誕した……これを励みに自分でもがんばって書きます。最後のシーンあまりにもかわいくてニコニコしました……同時にルーレット当たっちゃうの可愛すぎるじゃないですか……育成読んでるとアキュートさんもたいがいブレーキ壊れ気味なタイミングがあるので(クラシック東大から川崎記念のあたりとか)あ~わかるぅ~~とうなずきながら噛みしめつつ読みました。
リク応えてくださり感謝です!
流れで>>107も読みました!
ドトシャカ部屋大好きなので行き詰まるシャカがとにかく愛しかったですね……アヤベさんおすすめの布団乾燥機なんだから布団がむちゃくちゃ気持ちいいのはしかたない……。カレンちゃんはあきらめておくれ。
3つまでリクエストできるならもうひとつお願いしてもいいでしょうか。
イッチがお忙しくなければ&閉店予定でなければなのですが、
ここにくれば花屋の娘のタイシンと、ニシノフラワーがドライフラワーとかペーパーフラワーとか押し花とかを作りながらお喋りをする情景が見られると聞いてやってきました!
推しと推しの会話が見たい、そんな気持ちにあふれています。
- 1219823/06/06(火) 22:05:38
- 1226523/06/06(火) 22:26:46
- 123二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 22:37:17
すみません、ここに来れば
マンハッタンカフェからの大事な相談ということで粛々と用意されたマクイク部屋にて
なんと内容は『トレーナーさんと付き合うには』、ここでスイーツに行くと見せかけ一心同体の正妻ヒロインとしてガチアドバイスをくれる名優メジロマックイーンと
いつもの知識で上乗せしたノリの良い脳筋ではなく『魔性の女』を見せるイクノディクタスが見られると聞いたのですが - 124二次元好きの匿名さん23/06/06(火) 23:42:55
さて通りすがりに感想を置いていきますわい。ちょっと目を通しきれていないので既に言及されている内容だったらご勘弁を
面倒見はいいし地頭もあるけど言語が独特で聞き手を選ぶギムレットとプライドの高いウオッカ…もしかしてこの二人にとってお互いは貴重な「素直に甘えてくれる/甘えることのできる」相手なのかなと思ったり
フェスタはスリルを楽しむだけじゃなく遊び相手が欲しいんですね。そしてアキュートはおっとりしているようでいて、最短距離を顔色一つ変えずに一歩で踏み抜く。悩んで迷うのも楽しみなうち…といいつつ実はためらいがちなフェスタと、笑顔で地雷原を歩けてしまいそうなアキュート。勇ましさと臆病さの対比、運は平等というオチ
アヤベさんは他人の心が分からない。しかもそれを指摘すると「ヒトとヒトが分かり合えることは無いわ」とか真面目に返しそうな天然さがある。なんだかんだコミュニケーションを成立させるにはカレンチャンが折れることになるんだろうなというのが容易に想像つきますね
シャカールは自身の行動に「目的」を付与させてしまう癖があると思います。ドトウのドジを解明するにも合理的な理由を無意識で作ってしまう。7cmの為~なんて本当は違うんじゃないかな?なんて。何気にアヤベさんの勘違いに気づきながらも指摘しきれないあたりシャカールの推しの弱さが現れてますね
エースの性格はまだ分からないですがCBと付き合っていくぐらいなので気長で好奇心旺盛な気がしますね。同時にやりたいことを見つけたらせっかちで猪突猛進かな
パーマーはいい子で気が利くけれど、だからこそ簡単には励ますことができない(「気を使われている」ことに気づいてしまうので)キャラだと思います。エースはそれ故にあえてパーマーのこれまでについて触れず、未来を向かせるよう促したのかなと感じました
これは…よくお題を調理しましたね。突っ込み不在の恐怖。しれっと記憶喪失になってるのが不憫だけどもしかして自衛のために脳が記憶を遮断したのか?切れ者イベントでも起きてた&認識が非対称な三女神の反応からして常習犯なんだろうな。なんかデジたんが本当に死にかけたときにはこういう封印していた記憶が走馬灯のように駆け巡ってそう…とか想像しました。昇天する為に生きている。人生楽しそうだなこの娘
以上お邪魔しました
- 125二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 00:57:50
すみません、ここにくれば買い物に行ったトレーナーとネオユニヴァースが相合傘でトレセンに帰るSSが見れると聞いたのですが
- 126二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 01:05:03
クロスオーバーありですか?
マルゼンスキーと野原しんのすけで「バブリーランドでおおあばれだゾ」みたいな - 127イッチ23/06/07(水) 01:28:53
クロスオーバーは私が分からない原作が出てくる可能性があるから、
一律でなしってことでおなしゃす - 128二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 05:05:09
- 129イッチ23/06/07(水) 16:15:22
もうちょっとしたら再開したい
- 130イッチ 1/223/06/07(水) 20:44:35
今、私は同室の相方と一緒のベッドで寝ている。
どうして、こうなったのかというと、それは今日、布団を洗った事が起因となっている。
つまり、私の布団はまだ乾いていないのだ。同室の相方でもあり、先輩でもあるカツラギエースは「風邪をひかれても困るからな」と半ば強引に私を自分のベッドに連れ込んだ。何時も違う布団の感覚が、少し慣れないけども、でもまあ、今日一日だけの我慢だと思って、ベッドの端っこの方を使わせて貰っている。先輩は、あんまり、気にしていないようで、壁際に背を向けて、すぐ寝てしまった。寝入りが良いとは思っていたが、こんな時まで良いとは思っていなかった。
まあ、明日もトレーニングはある。
明後日も、来週も、来月も、来年も、更に先まで、GⅠレースに勝つようなウマ娘ってなると、こういった豪胆な面も必要になるのかも知れない。その点、私といえば、なんというか、駄目なもんで、何時もと違う感じに、どうしても目が冴える。寝付けが悪かった。今日みたいに誰かと肩を並べて眠るなんて何時ぶりの事だろうか。メジロ家の人間は、幼い時から年に数度、親戚の顔合わせのように屋敷に集まる機会がある。何時もはアルダンさんにライアンとブライト、ドーベルと一緒に居る事が多かったような気がする。
ラモーヌさんは、ちょっと、幼い時から近寄り難かった。
ライアンはブライトとドーベルの面倒を見ていることが多かったし、アルダンさんだけがラモーヌさんと一緒に居ることが出来たので、必然的に私は、アルダンさんとライアン達を行き来する立ち位置になっていたような気がする。
そんな折、私達の中に入って来たのが、まだ幼いマックイーンだった。
新しい仲間であるマックイーンには、皆が気遣った。アルダンさんは勿論、ライアンも積極的に関わり、その影響でブライトとドーベルもマックイーンとの関係を持つ。ラモーヌさんだって、高嶺の花のように近寄り難い存在だけど、ちゃんと私達の事を気遣ってくれていた。幼い時から甘いもの好きのマックイーンに、よくケーキをあげていたのとか覚えている。私達、姉妹とも呼べるメジロ家の面々は、マックイーンを中心に再構築されていった。
そうすれば、必然的に橋渡しのような役割を務めていた私はお役御免、独りでいる時間がやけに増えたように感じられる。
だからといってマックイーンの事を嫌ったりとかしなかったけど。 - 131イッチ 2/223/06/07(水) 20:44:50
前に一緒のベッドで寝たのは、何時だったか。
ああ、そうだ。マックイーンが初めて、屋敷に招かれた時の深夜、私が用を足す為に部屋を出ると泣きべそを掻いたマックイーンと出会ったのだ。彼女のまた用を足す為に部屋を出たのだけど、始めて来た屋敷で道に迷ってしまったらしかった。だから一緒に用を足した後、部屋まで送ろうとしたのだけど、彼女には自分の部屋が何処なのか分からなかった。私も彼女の部屋なんて知らなかったから、仕方ないな。って、自分の部屋に招いて一緒のベッドで寝たのだ。
それが最後だ。誰かと一緒に寝たのは、その時以来の話になる。
「ライアンも、マックイーンも、みんな、随分と遠くの存在になっちゃったな」
呟いて、瞼を閉じる。
別に今が嫌いな訳ではない。でも、時折、昔の事が恋しくなる。
妬みと僻み、顔を合わせる度に気後れしてしまうから、自然と彼女達とは疎遠になってしまった。
そんなものを感じなかった時期が、今は少し羨ましい。
私はメジロ家の御嬢様になれないけど、もうちょっと可愛がっておけば良かったかな。と思う事が多々ある。
そうすれば、素直に喜ぶことができたかも知れなかったのだから。 - 132イッチ23/06/07(水) 20:45:28
滅茶苦茶、難産だった。
- 133イッチ 1/323/06/08(木) 05:12:42
今、私に置かれている状況が理解できない。
目の前ではニシノフラワーが鼻歌交じりで押し花を作ってる。
此処は図書室、誰も居ない時間帯を狙ってきたつもりだったのだが、どうしてこんな場所で押し花を作る必要があるのか分からなかった。ちゃんと注意をした方が良いんじゃないの? と図書委員のゼンノロブロイに視線を向ければ、彼女は彼女で押し花を作る為の分厚い誰も借りないような本を集めていた。十年前の六法全書とか、赤本とか、資格関係とか、確かに使わないだろうけど、そんな簡単に備品を使っても良いのだろうか。というか捨てなよ、それ。もういらないじゃん、棚を圧迫するだけじゃん。というか図書委員もグルかよ。
口には出さず、心の内側でだけの文句が相手に伝わる事はない。
えへへ、うふふ、と二人の笑顔を向け合っていた。そんな甘い空気に惹かれたのか、猫が独り迷い込んで来る。緑がかった銀髪のウマ娘、セイウンスカイであった。押し花を作る為の花を見て、その中から迷いなく赤色のチューリップを手に取る。「なにをしてるのかな?」と茎をくるくると回すセイウンスカイに「押し花を作っています」と幼い彼女が返す。「セイちゃんの分もあるのかな?」と口にする彼女に「本を読まないじゃないですか?」とニシノフラワーが首を傾げる。「ま、まあ、そうだけど」と口元を強張らせるセイウンスカイの姿を見て、私は笑いに堪えるので必死だった。
「これなんか欲しいな」とセイウンスカイが手に取ったのは、桃色のチューリップだった。
はあ、とニシノフラワーが気のない返事を零す。その姿を見て、うわあ、と思わず口から漏れた。幸いにもセイウンスカイの耳には届いておらず「それじゃあセイちゃんは追われているので」と彼女は手を振って、図書室から立ち去る。キョトンとした顔を浮かべるニシノフラワーを見て、つい私は声を掛けてしまった。
「チューリップの花言葉を知ってる訳?」と。
私の前に座っていたニシノフラワーが急に話しかけられたにも関わらず「思いやり」ですよね、と返す。
それを聞いた私は、彼女が、花言葉に疎いことを察する。
- 134イッチ 2/323/06/08(木) 05:14:01
「赤色のカーネーションには、母への愛って意味があるから母の日の送りものに使われてる」
この時の私は、少々気が立っていた。
静けさを求めて図書室に来たのに、目の前で幼い少女を口説くウマ娘の神経が知れなかった。ウイニングチケットやビヤハヤヒデが私を探すのに、絶対に来ない場所を選んだのに、だ。
目の前では、押し花を作る少女。流石に年下相手に意地悪をするつもりはなれないので、矛先は全て、あのPTOを弁えない先輩に向ける。
「白色には純潔の愛や尊敬、紫色には誇りや気品、桃色には上品や美しい仕草が込められている。黄色は友情だね」
「へえ、よく知られているんですね」
目を輝かせるニシノフラワーに「ま、まあ」と目を逸らす。
実家が花屋だから齧っているだけの事だ。家の手伝いをするのに便利でもあったので。
「その赤色のチューリップは愛の告白。だから、そのまま渡すのは適切じゃないよね」
「あ、そうなんですね」
ここで頬を赤らめればクソッたれだが、何食わぬ顔で聞き入れる彼女を見て、その線はないと判断した。
だから、安心して次のステップに進める。
「彼女の色と同じ白色のチューリップに新しい出会いの意味がある。オレンジ色には照れ屋の意味、そして黄色のチューリップには正直な気持ちを伝えて欲しいという意味」
ニュアンスを変えた言葉に、へえ、と彼女は素直に頷いた。
「……どうせ、今、話しかけて来た人って素直じゃないんでしょ?」
「あ、わかりますか?」
「だったら、もう少し素直になって欲しいって想いを込めれば良いんじゃない?」
「そう、ですね……そうしてみます」
ありがとうございます、と素直に頭を下げる彼女に私はまあ嘘は言ってないしと書籍に目を落とす。
どうせ、この程度でどうにかなるようなら最初からどうにもならないはずなのだ。
ニコニコと笑顔を浮かべる彼女に居心地の悪さを感じ始めた頃「あーっ!!」と騒がしい声が図書室に響いた。 - 135イッチ 3/323/06/08(木) 05:14:38
「タイシン見つけたぁーっ!!」
「また五月蠅いのが来た……」
というか、どうして此処が分かったんだよ。
「会いたかったよおおお!!」と彼女が騒がしくするので図書室にもいられず、チケットを連れて部屋を出た。
結局、訂正する機会を逃してしまったが、まいいか。とその日の夜には忘れてしまっていた。
◇
後日、白色と橙色と黄色のチューリップの押し花を受け取る事になったセイウンスカイ。
震える声で小さなウマ娘に花言葉の意味を問えば「親切な人に教えていただきました」と百点満点の笑顔を返された。
失われた愛と失恋、望みのない恋と報われぬ恋の意味のある押し花を、
セイウンスカイは捨てる事も出来ず、不調から立ち直るまで二週間の時間が必要となった。 - 136イッチ23/06/08(木) 05:30:00
流石に完成度と書く速度が落ちてきてしまった為、
今あるお題を消化したら打ち切らせて貰います。 - 137イッチ23/06/08(木) 05:30:31
残りふたつは気合入れて書きます。
できれば、今日中に。 - 138二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 11:59:19
楽しみにしていますわ!
- 139イッチ 1/523/06/08(木) 12:41:00
私、マンハッタンカフェはトレーナーに対する恋心を自覚した。
しかし彼とはトレーナーと担当ウマ娘の関係であり、もっといえば社会人と学生の身分である。
この話を聞いた時、常識的な人物であれば、せめて卒業するまでは待つべきだ。と答えるのが普通だ。
実際、私も、それが正解だと思っている。
だが、こう言ってはなんだが、私のトレーナーは一角の人物であった。
狭き門と呼ばれたトレーナー試験に合格し、僅か数年で私というGⅠウマ娘を育て上げる。
その為もあり、彼には新進気鋭の若手として名が売れるようになり、ウマ娘からトレーナーとしての人気も出始めている。
彼自身、新しい担当ウマ娘を欲していた。今年で私がトゥインクル・シリーズを引退する事もあり、担当が一人だけでは他に示しが付かないと上から圧を掛けられている事もあり、彼が今後もトレーナーを続ける為にも新しい担当ウマ娘は必要だった。
それだけならまだ良かった。
社会人と生徒という関係であれば、あと数年で卒業する私の方が有利なのだ。
しっかりと睨みを利かせて、牽制すればいいだけの話だ。
だが、彼には社会人同士の繋がりも広かった。危機感を覚えたのは三年目の年末、私の湯治の為に選んだ温泉旅館の下見に他のトレーナーと一緒に向かった事にある。同姓の付き合いであれば、まだ良い。しかし一緒に行ったのは、異性のトレーナーであった。年齢が近い事もあり、周りから良い雰囲気だと茶化されることに満更でもない顔を浮かべていたのも覚えている。
他にも調べてみれば、社会人のウマ娘とカラオケに行ったり、朝まで飲み明かしたという話を聞いたこともある。
事には及んでいない。と彼から聞いている。実際、嘘を言っている気配はなかった。
- 140イッチ 2/523/06/08(木) 12:41:12
だが、どう考えても無防備なトレーナーを見ていると何時、既成事実を作って帰ってくるのかひやひやして仕方なかった。
学生の身分では限界がある。しかし、このままトレーナーを取られてしまうくらいであれば、ちょっとした間違いを犯してしまっても良いのでは、と思うのもまた事実であった。そんな陰鬱とした気分に影響されてか、近頃はお友だちも騒がしいし、このままではいけない。と一度、誰かに相談してしまう事に決めたのだ。
アグネスタキオンに相談するのは駄目だ。今後、一生に渡って弄られ続けるのが目に見えている。
かといってユキノビジンに色恋沙汰を話すのは、少々頼りない。
では他の誰に相談すれば良いのか……。
不意に私のお友だちが、とあるウマ娘を紹介する。葦毛のウマ娘、メジロマックイーンであった。
どうして、と私が首を傾げるも、最も信用できるキョウソウバ、だとお友だちが告げる。キョウソウバ、という言い方に少し引っかかりを覚えるも、勧められるまま、メジロマックイーンに相談を持ち掛けるのであった。「トレーナーとの恋愛事情ですか」と話を聞いたマックイーンは眉間に皺を寄せながら「何故、それを私に?」と返す。それは、お友だちがすすめてくれたから、と素直に告げるのは、相手に悪いと思ったので「貴方はトレーナーとの関係が上手くいっているみたいだから」と適当に返せば「そ、それは!?」と彼女はボンと顔を赤くした。そんな折に「なにやら面白い話をしていますね」とまた別の誰かが話しかけて来る。
あまり多くの人に聞かれたくなかった話に私が、内心で舌打ちを零しつつも振り返れば、大きな丸眼鏡を掛けたウマ娘が私のことを見つめていた。
「イクノさん!?」
「ここは場所が悪いです、少し歩きましょう」
そう言ってイクノディクタスが歩み出す。
私達二人は顔を見合わせて、おずおずと彼女の背中を追いかけた。 - 141イッチ 3/523/06/08(木) 12:41:41
そうして辿り着いたのは学寮の彼女達の部屋であり、中に案内される。
部屋にある小さな机に座らされて「どうぞ」と飲み物を渡される。
牛乳だった。客人に出すのに少し意外なチョイスだ。
「それで話なのですが……」
と切り出すイクノディクタスに私は、トレーナーに恋心を抱いている事をつらつらと語り出した。
「…………ということなんです」
如何です? とひと通りの話を終えて、私は牛乳を口にする。
最初こそ戸惑いを持っていたメジロマックイーンも最後には真面目な顔で話を聞いてくれたし、イクノディクタスもまた終始、真剣な表情で耳を傾けてくれた。「それでどうしたのですか?」というイクノディクタスの言葉に、私は少し考えてから「しっかりと関係を持ちたいです」と返す。
メジロマックイーンがクッキーを齧り「難しい話ですわね」と零す。
「トレーナーにも世間体があります。もし仮に貴方との関係が発覚したとなれば、貴方のトレーナーは仕事を失う事になり、社会的な信用は勿論、金銭的な問題も発生する事になります。もし貴方が熱に浮かされているだけだとすれば、想いは胸に秘めたままの方が良いと思いますし、結婚まで考えているのであれば、トレーナーから仕事を奪うことは誰も幸せにしない結果となります」
彼女の真っ当な答えに「やっぱり……そうですか……」と自分の耳が垂れるのを感じ取った。 - 142イッチ 4/523/06/08(木) 12:41:58
「ですが、このままでは貴方のトレーナーが他に取られるかも知れない」
今は諦めるしかない。そう考えた時、イクノディクタスが中指で眼鏡の位置を直して告げる。
「いっそのこと想いを伝えてしまうのは如何ですか?」
「ちょっとイクノさん!」
イクノディクタスの提案にメジロマックイーンが思わず、声を上げた。
しかし彼女は、マックイーンを手で制し、視線を合わせた上で一度、頷いてみせる。
その仕草に、マックイーンも一度、身を退くことにしたようだ。
「要は関係を持つからいけないのです」
「告白は……するん、ですよね……?」
「想いだけを伝えて、返事は卒業まで預かって貰えば良いんです」
そうすることで相手を縛り、合法的に相手を自分に意識させ続けられます。と彼女は真剣な眼差しで続ける。
「これは私の知り合いの話になりますが、先に外堀を埋めて、規定路線に乗せてしまっている方も居ます。御家に力があれば、周囲に根回しをしてくれる事もありますが、これは貴方には向かないやり方でしょう」
ですよね? と横目にルームメイトを見つめるイクノディクタス。その視線を受けて、何故かメジロマックイーンが姿勢を正した。
「毎日、アタックするのは周囲に要らぬ誤解を与えてしまうことになるでしょう。ですが心とは時と共に移ろうもの……そうですね、バレンタインやクリスマス、特別な行事の時に相手が意識する程度に私はまだ貴方を想っています。と想いを伝える程度が良いでしょう」
そこまで語り、イクノディクタスが言葉を区切る。
思っていた以上の具体的な助言に、自然と耳を傾けてしまっていた。
メジロマックイーンは、あわあわと身を震わせてしまっている。 - 143イッチ 5/523/06/08(木) 12:42:13
「実際問題、男性のトレーナーが家庭を持つ事はプラスに働くことも多いのです。ウマ娘も女性、若い独身が相手だと警戒する者も少なくありません。家庭を持っている相手は少なからず、相手に安心感を与えます。子供が居れば、なおのこと良いのです」
貴方がトレーナーと結ばれたいと考える事は、相手にとってもプラスなんです。と最後にイクノディクタスが微笑んでくれた。
妙に具体的な話に、なるほど、と頷かざる得なかった。
私は貴方も幸せになれることを応援しています。と彼女が告げた時「はい! はいですわ!」とマックイーンが勢いよく手を挙げた。
「あ、あなたも……って! イクノさん……もしかして、貴方……!」
あからさまに狼狽している様子のメジロマックイーンに、イクノディクタスがきょとんとした顔を浮かべた。
しばし考えた後、言葉にはせず、笑みを以て答えた。そのルームメイトの仕草を見て、メジロマックイーンが頭を抱えた。ベッドに項垂れて、悶え苦しんでいる。そんな彼女の痛々しい姿に「楽しい人でしょう?」とイクノディクタスが陽気に笑ってみせた。
世の中には、敵に回さない方が良い人間ってのが五万といる。彼女も、その一人のようだ。
後日談、
イクノディクタスが私に提示してくれた作戦は、私が思う以上に嵌っている。
私を異性と意識するようになってからは、少し距離が遠のいたけど、他の女性に無防備を晒すことが減った。
二人きりの時、ちょっと思わせぶりな態度を取れば、何時もと違った反応を見せる。
今まで頼りがいのある憧れの人、安心できる人。そんな印象を持っていたトレーナーの事が、
最近、ちょっとずつ、可愛い人。と思う機会が増えてきたように感じられる。
何時もの部屋、研究を続けるアグネスタキオンが私を見て「少し、大人になったかい?」と問い掛ける。
その問いに私は「まだ……子供です……」と素っ気なく返す。
まだ学生の御身分、一歩を踏み越えられない関係を、今は楽しく感じられた。 - 144イッチ23/06/08(木) 12:44:33
マックに特攻イクノさん
- 14512323/06/08(木) 13:06:14
- 146イッチ23/06/08(木) 15:44:41
RAIN……雨が降っている。
びたびたと地面を叩く雨音がBLSS……息遣いを掻き消す。
沈んだ気温が火照った身体に少し心地よく、空間を埋め尽くす雨粒が外界との通信を遮断する。
密と触れ合う肩と胸元。頭上の傘が生み出すINRSにトレーナーと私の二人きり、貴方と私の心がコネクトするのに言葉は必要なかった。HEMN……私が進んだ分だけ、貴方も進む。足の違う私達の歩幅は、不思議と調和が取れていた。
何時もの帰り道、普段よりも近い距離感に高鳴る鼓動。背中に存在感を感じ取る。
SPRT……雨は不思議、空間を隔てる。見えない空に、世界は二人で構成される。私を優先する貴方に、そっと距離を詰める。VIBS……背中に熱を感じる。貴方を感じる。なんてことはない。トレーナーと私、二人で一緒の傘に入っている。それだけのこと、他の宇宙は関係ない。COMF……今はTACSを忘れて、MOONの煌きを感じ取る。高々数十分の時間。PRSS、言語化できない価値に身を委ねたい。ETNT……何時までも、こうしていたい想いを胸に抱いて、継続しない今一時、束の間のRESTに興じる。
貴方と共に歩く毎日がFUNだから、今日に留まらず明日を目指して歩き続けたかった。
CHNG……変わる日々にMOMRが駆け抜ける。
あの日から色んなことがあったね。と背中越しにトレーナーを見上げる。
静かに笑みを浮かべれば、彼は気恥ずかし気に目を逸らした。頬を赤らめて、HOTな想いは私も同じです。
RAIN……雨がCOMF、熱を程よく冷ましてくれる。
傘の下、世界は二人。進む一歩が名残惜しく、熱の残滓が零れ落ちる。
歩みを止めず、進み続ける。
トレーナー、貴方と一緒に那由他の向こう側へ。HAPP……求める、最後の結末。最高のEND。
ネオユニヴァース……ここがEZALたちが望んだ最終到達地点。
- 147イッチ23/06/08(木) 15:46:05
むずい、それっぽくまとめただけに終わったー!
そしてこれでおしまいだー! お疲れ、私! 頑張った!
途中で書くの必死で、レスに反応もできなくなったけど、
皆さんお付き合い頂きありがとうございました!
最後、ペースが愕然と落ちて申し訳ありませんでした! - 148イッチ23/06/08(木) 15:51:35
ちゃんと数えてないけど、このスレには大体23の作品があり、
余所のも含めると約一週間で27くらい書いたのって今更ながらなんか、ちょっと怖いっすね。 - 149二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 16:01:55
タイシンとニシノフラワーの分だけ、心残り。
この二人をちゃんと絡ませるの、ほんともうなにも思いつきませんでいた。
また深夜にレスの返信とか、
雑感とか、色々と残しておこうと思います。 - 150二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 16:09:48
このレスは削除されています
- 151二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 16:30:33
ほんっとうにお疲れさまやで!!
- 152二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 20:53:44
- 153二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 23:38:09
- 154イッチ23/06/09(金) 05:31:42
ありがとうございます。
私の知名度だと高々十冊も売れれば良い方だと考えているので、
十冊を売る為に作品を書くのが嫌なので、
それならば、少しでも見てくれる人の多い場所に投下したいという気持ちが
働いてしまいます……
ウマ娘の根底……というよりも根底にスポ根があるので、みんな脳筋思考に陥りがち
アキュートとナカヤマのイベントから、こいつやべぇな感が多々あったりします
シャカさん、性格的にドトさんと相性悪そうなのにそれなりに上手くやってるのは、
シャカさんの本質が出てる気がします。
ウマ娘は意外と論理で攻めているので、
適当に書くのではなくて、意図して書けば意外とウマ娘っぽくなりますね
ちなみに「あれ? ウオッカって頭悪かったっけ?」
と実馬エピを思い返しつつ、少々錯乱していました
- 155イッチ23/06/09(金) 05:44:16
多くの感想をありがとうございます。家宝にします
みんな基本的に相手を見捨てる事をしない良い子ばっかりです
距離感の取り方はそれぞれですが、よく周りを見ている子が多い
本質的に悪い子が本当にいない素敵な世界
キバハゲデュエルが元ネタですw
頑張って分析した結果、あのノリ出すの無理だよ、と思いながら書きました。
デジたんが爆発した時、一緒にドトウも消し飛ばすべきだったと反省してました。
お友だち「メジロマックイーンはね。パクパクなんて言わないし、堂々としているし、やる事全部が気品で溢れてなきゃいけないの」
イクノ構文ってなんだろう? と思って検索し、
適当に書いてもそうなるって事は、
イクノってやっぱりみんなの中でも、そういう認識なのだなと思いました。
- 156イッチ23/06/09(金) 05:54:12
あざっす! なんとか目標の150レスは消費できました
できれば200まで行きたかったのですが、流石にちょっと難しそうでした
この二人が絡むには外的要因が必要で、偶然の流れで会話させるのが本当に難しかったw
今にして思うと実家の手伝い中のタイシンと押し花用の花を買いに来たフラワーでやれば良かったと後悔しています
思い付くのが遅かった
今回はロブロイの魅力に気付けたのが一番の収穫ですね
あとは無意識に避けていたナカヤマフェスタが意外と扱いやすいキャラをしていた事に気付けたのは
大きな収穫でした。
ネオユニもゼファーもアウトプットの仕方が独特なだけで、
ちゃんと理屈に紐づいていると思えば、意外と難解な子が少ないのが少し驚きでした
ラモーヌに対する印象も、かなりガラッと変わりましたね
アルダンのラモーヌ評がよくわかります
- 157イッチ23/06/09(金) 06:33:14
- 158イッチ23/06/09(金) 06:34:27
>>47 「エスルド:勝ち逃げ絶許宣言」
>>55 「♀トレベルブラ:気性難の手懐け方」
>>68 「キタサト:お助けキタちゃん閉店休業中」
>>78 「デジロブライ:ロブライに挟まれるデジたん概念」
>>89 「ギムウオ:ギム先輩が後輩の勉強を見てるだけ」
>>104 「ナカアキュ:□シアンたこ焼き」
>>107 「アヤシャカ:布団乾燥機を使えば試験の成績も良くなるし、足も速くなるし、友達と仲直りもできる」
>>112 「エスパマ:挑戦することだけがウマ娘のたったひとつの勲章」
>>116 「デジロブライ:昇天デジたんの幽体離脱ライフ」
>>130 「パマ:肩を並べて歩きたい」
>>133 「タイフラ:ちょっとした悪戯」
>>139 「カフェマクイク:トレーナーさんと付き合うには」
>>146 「ユニトレ:ネオユニヴァース」
- 159イッチ23/06/09(金) 06:40:17
作品について長々と語るのは格好悪い気がするので、そこは省くとして、
今回は普段、書かないものをたくさん書かせて貰えて、楽しませて貰いました。
長々とお付き合い頂き、改めてありがとうございます。
スレ埋めに何かしたい気もしますが、何もしないかも知れません。
でもまあスレが落ちるまでは、ここを覗いています。が、今日は忙しいので返信は深夜とかになるかもです。
リクは今後、やるかどうかはさておき、もうこのスレでは取りません。 - 160イッチ23/06/09(金) 06:52:37
あと興味があるかどうかは分かりませんが
少し古くて普段、書いてるものでも雑に置いておきます。
「スーパーカーは飛行機雲の夢を見るか。」
スーパーカーは飛行機雲の夢を見るか。 - ハーメルンマルゼンスキー「今から語る物語は、夢オチだという事を伝えておかないといけません」syosetu.org「錦の輝き、鈴の凱旋。」
錦の輝き、鈴の凱旋。 - ハーメルンウマ娘は、みんなの夢を背中に背負って走る存在だから。syosetu.org「私メリーさん。今、標的が月にいるの。 」※オリジナル
https://syosetu.org/novel/239099/
「腹が減った。酒はいらぬ、私は飯が食いたいのだ。 」※オリジナル(お好み焼き)
- 161イッチ23/06/09(金) 14:57:13
でじらいふ。
- 162でじらいふ!23/06/10(土) 02:37:25
卒業した後にウインディちゃんが独り暮らしをするって決めた時に親からの餞別で一軒家を貰ったのだ。
それが二階建ての立派な家なんだけど正直、一人で住むには持て余してるのだ。掃除をするにも大き過ぎて、一人じゃ手が回らないのだ。だから誰か家に入ってくれるウマ娘を探しているのだ。特に行く当てが決まってないのなら来るのだ、家賃もいらないのだ。光熱費と食費は折半で、共同スペースの掃除は当番制なのだ。仕事がないなら実家に連絡して紹介するのだ、やりたいことがあるなら続けてくれても構わないのだ。
この提案を何故、自分にしたのかだって?
正直、誰でも良かったのだ。だけど、誰にでも提案してる訳じゃないのだ。ウインディちゃんは綺麗好きなのだ。ちゃんと掃除をして、部屋を綺麗に使ってくれそうな相手に声を掛けているのだ。後は既に承諾を得ているウマ娘との相性も考えて……入居が決まっているウマ娘は誰なのかって? ライスシャワーとゼンノロブロイなのだ。他に声を掛けているのはハルウララと……え? 入るのだ? もう決めたのだ? もうちょっと考えてからでも……絶対に入りますって? なんだか人選を間違えた気がするのだ……まあ即決してくれる分には助かるのだ。
部屋は二階の空いている場所で大きさはトレセン学園の学寮よりは少し小さいけど、一人だから不自由しないと思うのだ。
それじゃあ、まあ。これからよろしくお願いするのだ。
◇ - 163でじらいふ!23/06/10(土) 02:38:16
「はえ~……」
億は下らない庭付きの豪邸を目の前に気の抜けた声を零す。
この豪邸は不動産事業の一環として購入したようだが、近年の不景気もあって長らく買い手が現れなかった。豪邸であるが為、維持をするだけでも結構な費用が嵩んでしまう為、家主は利益にならずとも良いので適当な誰かを入れたかった。そんな時に可愛い娘が一人暮らしを始めると言い出したので、彼女を手元に置いておく意味も込めてシンコウウインディに貸し与えられる。
そんな経緯を持つ豪邸は、入り口からして防犯機能が充実している。
門扉の前、頭上に取り付けられた監視カメラ。何度も表札と住所を確認し、恐る恐るとチャイムを鳴らせば、防犯カメラが私の姿を覗き込んだ。見つめ合うこと十数秒、「入るのだ」と聞き慣れた声がチャイム付属のスピーカーから聞こえる。彼女の実家は太いと聞いていたけども、聞くと見るでは話が違った。
乗用車用の大きな門扉の脇に取り付けられた小さな扉。いや、人一人分が通るのに十分な大きさなので小さくはないのだけど──兎も角、そこが自動で開いた。
デジたん軽い気持ちで今回の話に乗ったけど、軽率だったかも知れないと少し後悔。
おずおずと敷地内に入れば、その広さに眩暈するばかりだ。
「いやはや、場違いですね~……」
これがガチもんの金持ちとは、こういうもんなのか。
屋敷に入るのに、もう一度、チャイムを鳴らす。中から誰かの足音がして、私服姿の小柄なウマ娘。シンコウウインディが扉の向こう側から姿を現した。
「あ、え~と? こんにちは?」
「思っていたよりも荷物が少ないのだ」
「それは、後で輸送するつもりで……」
「ま、良いのだ。先に上がるのだ」
言うや否や彼女は家に戻り「デジタルが来たのだ~!」と家中に聞こえるような大きな声が響き渡った。
「おじゃましま~す」といそいそ私が玄関に上がれば、二階に繋がる階段から複数の足音が聞こえる。更に小柄で可愛らしい二人のウマ娘、ライスシャワーにゼンノロブロイ。更には銀髪美人なカレンチャンまで付いて来ていた。私が聞いた時よりもウマ娘が増えているようだ。
これで全員、と私が考えた時、シンコウウインディが苛立ち交じりに一階にある部屋を睨み付けていた。 - 164でじらいふ!23/06/10(土) 02:38:56
「ター坊! 顔くらい見せるのだ!」
返事はない。あ~もう、とウインディが扉を開け放って、中に入った。
聞き覚えのある悲鳴が上がり、青いツインテールの、これまた小柄なウマ娘が首根っこを掴まれた状態に部屋から引っ張り出される。「折角、良い調子だったのに~!」と悲痛の声を上げる彼女はツインターボだ。「彼女も?」と私がウインディを見れば「こいつは頼まれたのだ」と小さく溜息を零す。
これで全員か、今日から私はトゥインクル・シリーズを賑わせた五名のウマ娘ちゃんと同じ屋根の下で過ごす仲間になるようだ。
「あと、今は出張してるけどハルウララも居るのだ」
全部で六人のようだ、思っていたよりも大所帯のようです。 - 165イッチ23/06/10(土) 02:43:45
次回はたぶん、こんな感じのを書こうと思っているのだけど
本番時には、もうちょっと、ちゃんと書き直さないと駄目っぽい。 - 166イッチ23/06/10(土) 02:45:41
出だしがもうちょっと上手く行けば、
スレ埋めで適当に遊ぼうと思ったけど、これは駄目ですね。
素直にスレ落とします。
最後の最後にお目汚し、申し訳ありませんでした。 - 167二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 03:02:02
- 168二次元好きの匿名さん23/06/10(土) 10:51:49
- 169イッチ23/06/10(土) 21:17:21