- 1ちょっと長いよ21/12/03(金) 21:02:23
瑠璃色の空、金色の野。空高きらせん階段、彼方の地平線。
ここは夢。私の夢。
私とお友だちだけの特別な場所……のハズ。なのにどうして、
「トレーナーさん……?」
アナタがここにいるのだろう。
「こんばんは、かな?」
「あの……どうしてここに」
「分からない、気づいたらいたんだ。しかしこの景色、どうも見覚えがあるような……」
「……ここは、私の夢の中ですから」
以前アナタに私の夢の様子を語ったことがある。
だから見覚えがあるのだろうと言うと、すぐに納得する。
一体、その順応力はどこから来るのだろうか。
「ここはカフェの夢の中で、そこに俺がいる……か」
「……本当に、どういうことなのでしょう」
「…………なあカフェ。もしかすると俺たちは今、夢を共有しているんじゃないか?」
突飛な発想だった。
しかし、可能性は捨てきれない。
「……トレーナーさん。それ、確かめる方法があります」
「へぇ。どうやるんだ?」
「トレーナーさんが行きたい方向に、私を連れて行ってください」
「景色が変われば、そこはアナタの夢の中……です」 - 2二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:02:47
そう言って、手を差し出す。
「エスコートをお願いします。トレーナーさん」
「分かった。……えっと、どこまで行けば良いんだろう?」
「……分かりません。でも、アナタの夢ですから。着いたら分かるのではないでしょうか?」
「……進むしかないか」
「……目、つむってますね」
返答代わりに、差し出した手を握られる。
夢の中でさえ暖かいアナタを感じながら、私たちは歩き始めた。
それは、文字通りの夢心地。
浮いているような、落ちているような感覚に包まれながら歩を進める。
そしてしばらくした時、突然足元のしっかりした感触と同時に、瞼の向こうに光を感じた。
「……着いたよ、カフェ」
目を開けてみるとそこは───
「…………ターフ?」
朝日か、夕日か、オレンジの光に照らされたターフがそこにはあった。 - 3二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:03:08
「……ここがアナタの夢ですか、トレーナーさん」
「多分そうなんだろうね」
「……夢はその人の願望を表すとも言います」
「なら、これは間違いなく俺の夢だね」
彼は、確信したように前を向く。
「……どういうことでしょう」
「俺の願望だよ」
「俺は、トレーナーとしてウマ娘たちが輝くための手伝いをしたいんだ。一生のうちのいくらかをターフに捧げる彼女たちが、その輝きを最大限発揮できるように支えたいんだ。光輝く舞台はその象徴ってところかな」
晴れやかなアナタの表情は、その言葉が嘘でないことを雄弁に語る。
そんなアナタの横顔を見ていて、ふと気づく。
憧れともう一つ。
持つべきでない、感情。伝えるべきでない、願望。
ソレが私の内側にあることに。
「……アナタは、ターフの上の私しか見てくれないのでしょうか……?」
つい、口をついて出た言葉。重く、仄暗いその正体に自分でも驚く。
「そんなわけない。でなきゃ、君とこんなところにいるはずがない」
即答。
しかし、そう話すアナタの視線はターフに釘付け。あるいは、あえて目を逸らしているのか。
「…………トレーナーさん。少ししゃがんでください」
「……? ああ」 - 4二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:03:29
湧き上がる感情をアナタのせいにして、私は動いた。
一瞬、唇に広がる熱。
頬から顔を離すと、引っ張られるようにしてアナタはこちらを向く。
ああ、やっと見てくれた。
「…………カフェ」
「……次は、アナタからです」
見つめあったまま時が流れる。
彼の表情は強張っている。
覚悟か、迷いか、読み取れない。
「スウ………………ふう」
ひとつ、とても深い深呼吸をしたアナタは硬さのとれた表情でこちらを見る。
未来を想像して、ずっと目を合わせているのが辛くて、目を閉じる───。
と、声が聞こえた。
「……ごめん。たとえ夢でも、二人きりでも、やっぱり今の君に手は出せない」
目を開けると、アナタは少し悲しげに笑っていた。
眉間に浮かぶ薄い皺と無理やり上げた口角は、その複雑な想いを表すのに充分だった。
「…………どこまでも”トレーナー”なんですね。アナタは」
「がっかりさせたかな」
「………………いいえ。それでこそ、ですよ」
「はは……敵わないなぁ」
落胆と安心。私は今、二つの感情を同時に抱えている。
つくづく面倒な女だ。 - 5二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:03:45
そんなことを考えていると、いつの間にか景色が変わっていることに気づく。
「…………!? 俺たちさっきまでターフにいたよね!?」
「……ええ。ここは……部屋、でしょうか」
「そう……だね。テーブル、イス、キッチン。もしかしてリビング……? 他に何もないけど」
大きな窓に面したあまりに簡素な部屋。その窓から差し込む柔らかな光がテーブルを照らしている。
「……これもどちらかの願望、なのでしょうか」
「多分、俺の願望じゃないかな」
「……というと?」
「ターフの方はトレーナーとしての願望で、こっちは俺個人の願望……みたいな?」
「随分あやふやですね……ふふ」
そんな話をしながら部屋を観察していると、彼は何かを発見したらしい。
「……俺という男は随分と謙虚らしい」
「…………どうしてでしょう」
「そこのコーヒー用具一式と豆」
キッチンにあるコーヒーセットを指して彼は言う。
「俺はここでコーヒーを淹れて、それを君と一緒に飲みたいそうだよ」 - 6二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:04:00
「……なんですか、それ」
「そのままの意味だよ」
「それならいつでもできるのでは……?」
「多分、そういうことじゃないんだ」
首をかしげているとアナタはこちらを向いた。
その表情はとびきりの笑顔。そして、
「だって、こんな部屋は学園には無いから」
そう言った。 - 7二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:04:17
少し考えてその意味に気づくと、顔が熱くなるのを感じた。
どれだけ頑張っても上に行こうとする尻尾を抑えることができない。
ストレートな感情を見られていることを自覚すると、耳まで前に折れてしまう。
ああ、恥ずかしい。
自分の体をここまで恨めしく思ったことはない。
……でも、それ以上に嬉しかった。
「……コーヒー、淹れようか」
「……お願い……します……」
声が震えてまともに話せない。少し喜びすぎではないか、私は。
「少し待っててくれ」
私をイスに座らせ、慣れた手つきで準備を進めるアナタ。
やがて、香ばしい香りが漂ってくる頃には私は落ち着きを取り戻していた。
「……大丈夫?」
「ええ……、先ほどはすいませんでした……」
「いや、良いんだ。それよりほら、出来たよ」
お礼を言って差し出されたカップを受け取る。
そして、それを口に運ぼうとしたところで一つの考えが脳裏をよぎった。
「……待ってください。トレーナーさん」
「どうした?」
少し悩んだ。別に言わなくても良いことだ。
このまま黙っていれば勝手に過ぎて終わること。
それでも、伝えずにはいられなかった。アナタに選んでほしいから。 - 8二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:04:35
「……このコーヒーを飲んだら、きっとこの夢は終わります」
「どうして?」
「……”目が覚めて”……しまいますから」
「…………ダジャレ?」
「真面目に言ってるんです……。茶化さないでください……」
「ごめんごめん。でも、俺はそれで良いと思う」
「……なぜでしょう? ……私は、もう少しこのまま……」
思いのほか早い回答に少し落胆する。
もう少し悩んでほしい。目覚めを惜しんでほしい。
そんな感情を、続く言葉が消した。
「ここは夢が叶ってしまうんだ。これ以上はいられない。これ以上は……歯止めが効かなくなるかもしれない」
言われて気づく。
そうだ、この人も我慢しているのだ。
この人が耐えられている内に、きっと黙って受け入れるべきなのだろう。
「……優しいですね、アナタは」
「でも、だから君を満足させられなかった」
「ふふ、そうかもしれません……。ですので、足りない分は将来に期待させていただきます」
「……ああ、待っててくれ。…………カフェ」
「……はい」
「また明日」
「…………はい」 - 9二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:04:50
目が覚めると、そこはいつものベッドの上。向こうには穏やかに眠るユキノさんがいる。
……朝練に行こう。できるなら監督者も欲しい。だから、アナタのもとへ行こう。
制服に着替えて寮を出る。まだ薄暗い早朝に、ひとけのない道を駆ける。
これよりはれっきとした現実。だから、
「おはようございます。トレーナーさん」
この言葉で今日を始めよう。 - 10あとがき21/12/03(金) 21:05:27
以上になります。
面白いかコレ?と思いつつ勢いで投げました。いつか書き直すかもしれないので簡素なものでも厳しいものでも、とにかく感想を頂けるとありがたいです。
それから、最後まで読んでいただいた方の数を計りたいのでこのレスにもハートを付けていただけると幸いです。 - 11二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:07:40
あまあまトレカフェで救われる命があります
- 12二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:10:39
面白いのでまた書いてくれ
二つ目の夢でカフェに応えるのいい… - 13二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:11:07
甘ったるいトレカフェは私の好物ですね
- 14二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:28:02
めっちゃ良かった。
トレーナー性のみならずこのままじゃ耐えれない私人性とそれを言えるカフェとの信頼関係のあるカフェトレ好きだし、
エスコート求める所からガンガンに攻める攻めカフェの可愛さはたまらないし、
カフェの思いとカフェトレもトレーナー一辺倒ではなく我慢しているだけな事、お互いの腹の内を晒し合って夢から現に戻った事でより確かな絆で繋がって走って行くんだろうなと思うともう、良い…。とても好き。 - 15二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 21:31:52
素晴らしいSSだった
トレセン学園には存在しない部屋ですげぇ悶えた トレーナーも一人の人間だしな...そうだよな... - 16スレ主21/12/03(金) 22:13:59
ありがとう…!その意味を理解してくれてありがとう…!!
- 17スレ主21/12/03(金) 22:34:24
- 18二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 22:38:18
良き!!!!!
- 19スレ主21/12/03(金) 23:49:02
- 20二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 00:01:26
age
- 21二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 00:20:10
カフェトレの人間味が凄く良い…
- 22二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 00:42:56
良い…!
- 23二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 08:58:42
押しが強くて押しに弱いカフェ良いぞ
- 24二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 09:43:32
ひゃぁ~!!
「やっぱり今の君に手は出せない」って
いつかはそうなんですよね!?
しかもお互い望んじゃってるんですよね!?
夢から醒める時といいこの二人の間にある感情が
相手を想い合ってる故のものなのが本当にしゅき……ミ゛ッ(尊死) - 25二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 09:47:22
うわぁ、めっちゃいい……ありがとう……
- 26二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 13:06:46
もっと自信持って良いぞ、これは
- 27二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 21:05:34
ありがとう…それしか言えない…
- 28二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:23:18
わりと甘い展開が多いのに読後感が爽やかすぎる…良い…
- 29二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 01:08:15
ここが……天国か……
- 30スレ主21/12/05(日) 12:10:58
思ったより好評で嬉しい…
カフェエミュはどうでしょう?違和感無くできてますかね? - 31二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 21:36:37
良いぞ!!
- 32二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 22:52:42
めちゃくちゃ良い!!他の作品が気になる!
- 33スレ主21/12/06(月) 00:45:18
- 34二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 02:53:31
カフェトレは甘ければ甘いほど良いからな…