ルーラーシップ「クリスマス」

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 23:11:08

    ※この場末で蟲毒されたルーラーシップちゃんの幻覚です!よろしくね!

    「トレーナー!遊びに行こうぜ!」
     ルーラーシップとの二人三脚で過ごした三年間、その集大成となる有馬マ記念前日。クリスマス・イブの日だった。
    世間は浮かれているが、私たちはそうはいかない。レースはゲートイン前から始まっている。予測されるバ場に近い過去のレースの映像を、レースの流れや実況を諳んじることができるほどに見入っていた。
    そんな中、最も集中していなければならないあの「たわけ」が、もはや聞きなれた無遠慮なノック音で入って来た。
    訂正しよう。ノックを忘れなくなっただけ、感涙ものの成長である。

    「ルーラーシップ、今日が何の日だか、分かるか?」
    つい荒げそうになる声を抑える。これも三年間で慣れたものだ。
    「ああ、オレたちのゴール、有マ記念の前日だな!」
    「私はお前に何を指示した?」
    「フォームの確認をして今日は休養!」
    「……なぜそこにいる」
    「なぜって、休みだからお前と遊びに行こうかと思って」
     相変わらず、この楽天家である。思わず頭を抱えた。
    「休養の意味をポケットの中のスマホで調べてみろ」
    「休養と言ってもただ部屋で寝るだけではない、外の空気を吸いに行ったりちょっとした遠出をすることも休養となりうる、って誰かさんが言っていたけどなー?」
     誰かさん、とは誰あろう私だ。
    「全く、ああいえばこう……っ」
     思わず椅子から立ち上がり、一瞬視界が暗転した。柔らかい衝撃を覚えると、傍でルーラーシップに支えられていた。どうやら、思っていた以上に無理をしていたらしい。
    「……すまない」
    「大丈夫か? なあ、休憩のつもりで外に行こうぜ」
     ばつの悪い顔で首を縦に振るしかなかった。……いつもの立場と真逆の構図になっているのが不服であったが。

  • 2二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 23:16:19

     1時間もしないうちに、私たちはぽつぽつとイルミネーションがつき始めた夕暮れの街並みを歩いていた。
    「いやーテンション上がるわー! 楽しいなトレーナー!」
    「クリスマスという日取りを学園一楽しんでるのはおそらくお前だよ」
     と、いつものように悪態をついて、
    「……せっかくの学生時代に家族とも友人とも過ごせないのは、少々気の毒だと思うよ」
     柄にもないことが口を突いた。

     「そうか? まあトレーナーはダチじゃないって散々怒られたけどさ、一緒にいてオレは楽しいぜ?」
     その一言があまりにも不意を突かれたもので。
    「……そうか」
    ただ相槌を打つことしかできなかった。

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 23:37:28

     「とれぇなぁ、腹減った! なあ、チキン一個くらいならいいだろ?」
    「言わんこっちゃない! レース前にジャンクフードを喰う阿呆がいるか!」
    少しは感謝をしよう、という思いは数分後に跡形もなく吹き飛んだ。

     「でもよお、寒いぜ? 何かあったかいもの食べないとさすがに辛いぜ」
    「……仕方ない」
    流石にコンビニのものでは風情がないが、喫茶店で駄弁るような時間もない。少々贅沢な喫茶店でココアを一杯テイクアウトした。

     「ありがとうな、トレーナー!」
    一点の曇りもない笑顔を向けられてつい顔を背けたのは、きっと気恥ずかしさではなく、あまりに眩しかったから。
    そう言い聞かせた。
    「ほら、お前先に飲めよ」
    「え?」
    「さすがに買ってくれた人より先に飲むのは……あの…アレ……」
    「気が引ける、後ろめたい」
    「そうそう、それそれ。だからほれ、グイっと!」

     グイっといったら火傷をするだろうが。
    言葉に甘えて、先に味わうことにした。甘味は舌先で強く感じるというが、温かい液体が触れた瞬間、じんわりとした和らぎが体中に広まって、そこで初めて、私は「力んでいる」ことに気づいた。
    「美味えか? オレもオレも!」
     もしかしたら、この阿呆は、私を気遣って――
    「……ありがとう」
     涙声になっていなかっただろうか。


     

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 23:38:22

     「? どうした?」
     不幸中の幸い。ココアを流し込む目の前のウマ娘には聞こえなかったようだ。
    「……何でもない。ただ、私もお前に負けないくらいの莫迦だったと、そう思っただけだ」
    「あ、オレのことバカって言った! バカって言ったほうがバカなんだよーだ!」
    「私もバカと言っているのだからその切り返しは違うだろう!? ……まあ、こうやって莫迦が二人で何とかやってきた訳だ。一人きりで走っていたらお互いどっかで折れていただろう。だが……違うバカが力を合わせれば」
    「明日の勝利はオレたちのもの、だろ?」
    「そういうことだ。さ、さっさと帰って食事にするぞ、食べ過ぎるなよ」

     「いやあ、しかしトレーナーも素直なところあるんだなあ、やっぱクリスマスは良いことあるぜ」
    「お前……まさか聞こえて?」
    「へへ、どうかなー?」
    「貴様……忘れろ……! 忘れろ!」
    「ヤだね! 今の音声はルーラーシップちゃんのメモリーにバッチリ焼き付けたぜ! あ、往来を走るなって言ったくせに、追いかけてくるなよトレーナー!」
    「じゃあ貴様が待て!」

     予想外に騒がしく終えた有マ記念前日。
     勝利への執着は、確信に変わっていた。

    おわり
    シナリオイベントの容量でまとめるつもりが文章量オーバーしちゃった♡許して♡

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 23:42:05

    文章量オーバーは見過ごせませんねえ
    罰として食事風景も書いてもらいましょうか(とても良い幻覚でした)

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/03(金) 23:45:13

    しゅきすぎる
    しゅきしゅきとうとい
    まじよさみ

  • 721/12/03(金) 23:46:11

    ルラシちゃん幻覚見てたら沸々と湧いてきました
    幻覚の怪文書っていったらペニーワイズがおすすめしてくるくらいマイナーだと思うけどよかったら読んで♡

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 00:00:33

    >>5

    ありがとうございます

    済みませんがだいぶ出し尽くしたので食事シーンは余力が出たらということで

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