傷ついた少年のメジロ入り

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:38:12

    ぼくが孤児院に入ったのは9歳のときだった。
    いつからかお父さんが白い粉を買い込むようになり、ぼくはお父さんと別れたお母さんに着いていった。

    その後、新しくできた父にお母さんは夢中で、弟が生まれるとますますぼくは無視されるようになった。

    耐えきれなくなったぼくはお小遣いだけ持って家出をして、遠くへ遠くへと移動した。電車に乗って、長く揺られて、少しご飯を買ったらなけなしのお金も無くなり、何日も歩いた。
    どこかも分からない町外れで、ぼくはついに力尽きて横になった。もう二度と目覚めることはないんだと思いながら。


    だけどぼくはまた、目が覚めた。しかも、暖かいベッドの上で。

    ぼくは孤児院に拾われたのだ。それからぼくは家に戻らず孤児院で暮らした。施設の人たちは優しく、同居する子供たちもいい子ばかりで暮らしに不満はなかった。
    でも、ぼくは家族の温もりが欲しかった。もう戻ることはないと分かっていても、ずっと焦がれていた。

  • 2二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:39:02

    11歳になって少し経った夏、孤児院に来客があった。なんでも、孤児院のスポンサーらしい。
    庭で子供同士でレースをしていると、院長と一緒に薄紫の髪で、同じ色のウマ耳と尻尾を持つ女の子が見に来ていたようだった。
    レースの最中は気づかなかったけど、1番にゴールした後建物の方を見ると彼女たちがいたのだ。

    「貴方、走るのは好きですか?」

    少女に声を掛けられる。

    「は、はい、すきです」

    「そうですか、では私の所に来てみませんか?」

    「えーと…」

    答えに窮していると、彼女はぼくの目を見据えて。

    「悪いようには、しませんわよ」

    逆らえない、とぼくは直感した。

    「分かりました…お願いします…」

    「ええ、それではまた後日」

    少女は院長を連れて孤児院の建物に戻っていった。

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:39:40

    翌日、ぼくは黒い高級そうな車に乗せられ、皆に見送られて孤児院を後にした。

    1時間ほど車で移動して、着いたのは立派なお屋敷。門をくぐって玄関前まで来ると、昨日の女の子を含めた数人に出迎えられる。

    「心配することはありませんわ。あなたも今日から"メジロ"ですから」

    ぼくの歓迎会と言うことで、お昼はパーティーのような形式だった。
    薄紫の髪の子…メジロマックイーンさんたちに勧められるまま、食事を楽しんだ。孤児院での食事が決してまずかったわけではないけど、高級な食材を使っているからか、今までに味わったことがないくらい美味しかった。

    パーティーが終わった後、食べ過ぎてしまったせいか眠くなった。マックイーンさんに案内されて今日から寝起きすることになる部屋に向かい、彼女が退室したらすぐさま横になり、意識を手放した。

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:40:00

    「んぅ……」

    長い夢を、見ていた気がする。ぼ…わたしは…何が……ダメだ、頭がぐるぐるする。

    「お目覚めですか?」

    「マックイーン、さん…」

    「貴女の名前は?」

    名前………………思い出せない。

    「わかり、ません……」

    「メジロメイプライス。貴女の名前はメイプライスですわよ」

    「そう………でした、ね」

    メジロメイプライス。わたしの、名前。
    わたしは、名門メジロ家の一員。
    そう心の中で復唱する。きっと、そうだったんだろう。間違い、ない。
    わたしは、メジロメイプライス。

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:40:42

    メジロ家の最大の目標である天皇賞優勝。それに出場するにはトゥインクルシリーズに参加する必要があり、その為にトレセン学園に入学するのが定石だった。
    わたしは入学までの1年半、メジロ家のウマ娘として必要な能力を備えるため、勉強や習い事のほか、レースのための鍛練を重ねた。


    入学式を終え、学園生活が始まった。マックイーンさんやゴールドシップさんを始め、芦毛のウマ娘が大レースで活躍することも増えてきてはいるけど、未だに芦毛は珍しく思われているのか、同じく芦毛のわたしはよく注目される。

    「あの子が噂の新入生…綺麗…」

    「人形みたい…」

    悪い気はしないけど、なんともこそばゆい。

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:41:01

    入学から3ヶ月ほどが経ったある日、1200mの模擬レースを終えて休んでいると、中肉中背の男性が話しかけてきた。襟元を見るとトレーナーのバッジ。

    「メジロメイプライス、で良かったよね?」

    「はい、どうされましたか?」

    「君の走りに…惚れたんだ」

    「わたしの走り、ですか?」

    「ああ。直線でバ群の隙間を一気に突き抜けていくところが爽快だったよ!」

    「ありがとうございます。それで、スカウトということでしょうか?」

    「スカウト……あ、それはまたちょっと考えさせてほしい。それじゃ」

    彼はすぐさま駆けていってしまった。普通なら真っ先にスカウトしに来るはずなのに、またちょっと考えさせてほしいだなんて。

    「…面白い人ですね」

    気になっちゃった。

  • 7二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:42:20

    とりあえずここまで書いて力尽きました。設定置いときます

    メジロメイプライス
    芦毛、左に耳飾り

    157cm
    B 85 W 56 H 78

    ジュニア級  阪神JF
    クラシック級 桜花賞
    シニア級   ヴィクトリアマイル 天皇賞秋

    軽い喘息持ちだが、レースの時だけは完全に治まる。意外と計算高い。根底で家族に飢えている面があるのでトレーナーにべったりになる。
    阪神JFで初GⅠ勝利を挙げた後、同条件の桜花賞も優勝。その後はオークス9着、秋華賞3着、マイルCS6着でクラシック級を終え、休養を挟んでヴィクトリアマイル1着、宝塚記念7着。夏はメジロ家の一員として天皇賞秋を取るべく一点集中し、秋の盾を獲得して引退

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:43:31

    ウワーッ!メジロにTSされてる!

  • 9二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:45:15

    傷ついた少年がメジロに癒されるおねしょた的なサムシングだと思ったのに文字通りメジロにされてるーーーーッ!??

  • 10二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:46:46

    気軽にメジロ家の闇を榛名

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 12:52:41

    すまん、脳が理解を拒んでいる

  • 121 ◆yxt6XLJpZ.AU21/12/04(土) 12:57:21
  • 13二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 13:04:50

    メジロの呪い概念が濃い

  • 14◆yxt6XLJpZ.AU21/12/04(土) 14:52:48

    「それにしても……」

    「…?」

    「いえ、何でもありませんわ」

    紅茶会をしていると、不意にマックイーンさんがわたしを見て何か言いかけた。

    「どうされました?」

    「いえ、その…なぜ私よりも…」

    彼女の視線がわたしの顔より下にあることに気付く。

    「気にしないでください。ここで全てが決まるわけではないのですよ」

    「悪気はないと理解していますが…」

    苦虫を噛み潰したような顔をするマックイーンさん。フォローの仕方間違えたかな…。

  • 15◆yxt6XLJpZ.AU21/12/04(土) 14:53:42

    ある昼休み、風に当たろうかと外に出ると息苦しさを覚え、近くのベンチに座り込んだ。

    「げほっ、げほっ、うぐっ…」

    わたしのこの体はアルダンさんほどではないけどあまり強い方ではなく、時折喘息の発作が出る。

    「大丈夫?!」

    声を掛けられて振り返ると、この前のトレーナーさん。

    「ええ、ごほっ…大丈夫です」

    腰のポーチから発作止めを取り出し、吸入する。

    「喘息?」

    「すぅー………はい、そうなんです」

    一度深呼吸して体を落ち着かせてから話し始める。

    「軽めのものですが、ウマ娘としてはやっぱり不利なので…ただ、メジロ家の一員として、この程度のことでレースを諦めるつもりはありませんが」

    「そう、か…」

    トレーナーさんはしばらく考え込んだ後、真面目な顔をして口を開く。

  • 16◆yxt6XLJpZ.AU21/12/04(土) 14:54:01

    「俺に、手伝いをさせてほしい」

    「…と、言いますと?」

    「この前は保留したけど、やっぱり俺は君のレースを間近で見たい。…専属トレーナーにしてくれないか?」

    「ふふ、そういうことですか。良いですよ、特に先約もありませんし」

    わたしの体質を把握してか、あまり声を掛けられることがなかった。模擬レースでも2着だったとはいえ、この人以外に来なかったしね。

    「…!じゃあ、よろしく頼むよ。メジロメイプライス」

    「はい、よろしくお願いしますね」

  • 17二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 01:32:56

    保守

  • 18二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 01:34:07

    なんでホラーになってるのぉ!?

  • 19二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 04:04:01

    age

  • 20二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 04:08:48

  • 21二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 04:11:33

    やばいよぉ

  • 22◆yxt6XLJpZ.AU21/12/05(日) 09:39:28

    誰がホラーですか失礼な!
    少年くん(仮)は元の体への未練や自我が薄いのでメジロを抵抗なく受け入れています
    担当に勝手にメジロにされたトレーナーとかの場合は自我を保ち、元に戻ろうと抵抗するでしょう

  • 23二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 10:30:31

    メジロ化概念好き好き
    いいSSだ、ついて行こう!

  • 24二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 11:30:05

    ここも時期にメジロに沈む...

  • 25二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 11:32:06

    メジロメジロメジロ

  • 26二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 11:33:56

    そもそも冒頭の描写からして素質ヒト息子を選別するメジロ家提携のあかん孤児院ですよね

  • 27二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 11:38:10

    >>26

    忍極の児童の臓器(ガキモツ)孤児院とどっちがマシかな…

  • 28二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 15:25:57

    素質が無くても優秀なメジロ家の主治医然り、コック然り、スタッフとして英才教育はしてくれそう。

  • 29二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 15:53:23

    いいSSだ、続きがとても気になる

  • 30二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 16:00:00

    オリ主系かーと少しもやっとしながら読んでたら何この…何?

  • 31二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 16:01:53

    >>9

    メジロとはこういう生き物だ

  • 32二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 16:08:18

    こういう増え方せんで普通に子作りで増えて……

  • 33二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 16:11:59

    「傷ついた少年」だったのに牝馬になってる……

  • 34二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 16:18:28

    妖しくて続きがすごく気になる

  • 35二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 17:04:20

    >>28

    メジロ家に仕える身となったスタッフの子達はこれといった洗脳とかは無しに孤児院の友達がウマ娘になったことをなんとも思わず受け入れそう。

  • 36二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 17:27:57

    >>28

    マザーカルテルかよ

  • 37二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 17:51:58

    >>36

    ワンピのマザーカルメルの事なのかそういう事件でも有ったのか微妙に分らねぇ・・・

  • 38二次元好きの匿名さん21/12/05(日) 19:58:26

    サトイモちゃんも同じことしてそう。

  • 39二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 00:09:09

    保守

  • 40二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 06:41:48

    戸籍とかあれこれも何とかしてるのか

  • 41◆yxt6XLJpZ.AU21/12/06(月) 11:58:15
    俺は絵が書けないウマ娘ユーザー|あにまん掲示板というわけでカスタムキャストってスマホアプリで作ってみたよオリジナルウマ娘!!みんなもダウンロードしてオリジナルウマ娘を形にしてみよう馬耳と馬しっぽは無料だからダウンロードするだけで大丈夫だから!!bbs.animanch.com

    絵心ないのでこっちの42にメイプライスちゃんイメージ上げました。絵描ける人ほんと羨ましいです




    「聞きましたわよ、メイプライス。新しくトレーナーが付いたそうで」


    「はい、もう伝わっているのですか?」


    「メジロの情報網ならば簡単なことです」


    数日経ってからのお茶会。わたしにトレーナーがいることは、既にメジロ家の間では周知の事実のようで。


    「期待してるからね、メイプライスには。トゥインクルに出るメジロはアンタしかいないし」


    「はい、精一杯頑張ります」


    そう、現在メジロ家のウマ娘のほとんどはドリームトロフィーで走るか競争を引退していて、トゥインクルシリーズに出るのはわたししかいない。


    「ティアラ路線に進むんだよね?そうは見えないかもだけどドーベルもすっごい応援してるんだよ」


    「ちょっ、ライアン…!」


    これだけ応援してもらえているのだから、やはり期待に応えたい。決意を改める良い機会となったと思う。

  • 42二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 13:24:51

    別にメジロによる支配がしたい訳では無い。ただ、良質な素質を持つものにこそ、メジロの名を繁栄させる義務があるだけだ…

  • 43二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 13:30:00

    続き?続きだ!わーい!

  • 44◆yxt6XLJpZ.AU21/12/06(月) 19:34:58

    今日からトレーナーとの1対1のトレーニングが始まる。

    「じゃあ、まずは基礎体力をつくるために筋トレとかをやる。ただ…キツかったらすぐに言ってくれ」

    「はい、わかりました」

    メイクデビューまでは4ヶ月ほど。長いようで短く、メジロの看板を背負う身として気は抜けない。

    「考え込んでるけど、大丈夫か?」

    「いえ…平気です」

    「何かあったら気軽に言ってほしい」

    「はい、頼りにしますね。トレーナーさん」

    やっぱりこの人をトレーナーにするのは正解だったかも。ふふふ。



    「あー、あの娘やん。噂の芦毛ちゃん」

    昼休み、中庭で風に当たっているとどこからか声が聞こえた。その方へ向くと、栗毛と鹿毛のウマ娘がこちらを見ていた。

    「わたしですか?」

    そう返事すると、栗毛のウマ娘が続ける。

  • 45◆yxt6XLJpZ.AU21/12/06(月) 19:36:28

    「そーそ。メジロのお嬢様なんやろ?あたしフコーカエアルートって言うっちゃん」

    「ネビュラウィスパー…です」

    「ええ、はじめまして。メジロメイプライスです」

    わたしが自己紹介するとしばらくの沈黙。少ししてフコーカエアルートさんがネビュラウィスパーさんに耳打ちする。

    (ネビュ、言うんやなかったと?)

    「あの、メイプライスさん、すごく綺麗で…お話ししたいなって…」

    「綺麗だなんてそんな…わたしで良ければお話ししましょう」

    そうして昼休みの間、2人と話した。フコーカエアルートさんは食べ物、ネビュラウィスパーさんは天体の話をよくしていて興味深かった。

    「そろそろ時間ですね。それではお二方、また今度」

    「そうやね、じゃあまたー」

    2人と分かれ、教室に戻る。友達ができた…ということで良いのだろうか。メジロ家以外にはあまり関わりがなく、たぶんトレセンで初めての友達かも。寮の同室は埋まってなかったからね。


    同期はすべて架空馬にしてます

  • 46二次元好きの匿名さん21/12/06(月) 21:26:32

    良い

  • 47◆yxt6XLJpZ.AU21/12/07(火) 01:23:26

    あ、そういえば全然説明してませんでしたがメジロメイプライスの由来は女優のエセル・バリモアの本名エセル・メイ・ブライスからです。メジロマックイーンが俳優由来なのでそれに合わせてということで。
    なぜブじゃなくてプになってるかはwikipediaくんに聞いてください。私は知りません

  • 48二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 09:30:56

    メジロフュエル(増える)

  • 49二次元好きの匿名さん21/12/07(火) 17:46:52

    ほしゅ

  • 50二次元好きの匿名さん21/12/08(水) 00:42:56

    メジロ化概念シリーズ好き

  • 51◆yxt6XLJpZ.AU21/12/08(水) 07:11:27

    時間が経つのは早いもので、もうメイクデビューまで半分が過ぎていた。
    そろそろ基礎的なものだけでなく、実際にタイムを計りながら走ったりと言った実践的な練習も交えていく。

    「どうかな、キツくはない?」

    1周し終えたあとトレーナーに聞かれる。

    「はい、走っている間だけは喘息も完全に鎮まるんです」

    自分でも何故なのかはよくわからない。

    「そうか、それなら良いんだけど」

    「心配してくれているんですか?」

    「あぁ、トレーナーとしてメイプライスがトゥインクルの3年間を無事に走り抜けられるように、しっかり見ておかなきゃいけないからね」

    彼はきっと、トレーナーとして当たり前のように思っているだけだろう。しかしわたしにとっては、ここまで自分を見てくれている人はいなかったからとても嬉しく思う。



    メイクデビューまでいよいよ1ヶ月半といったところで思わぬ出来事が起きる。

    「同室、ですか?」

    「はい、トレセンに地方からの転入生がいて。あなたの同室になってもらうことになりました」

    寮長に呼び出され、何かしたっけと思いつつ行くとついに片側のベッドが埋まるとのことだった。

  • 52◆yxt6XLJpZ.AU21/12/08(水) 07:11:53

    「どんな方ですか?」

    「エトホープという名前で、ちょっとやかましいかもしれませんね。でも悪い子ではありませんよ」

    「そ、そうですか…」

    やかましいってなんだろう…ちょっと不安になってきた。



    1週間後。

    「盛岡から来たエトホープなんだ!よろしくなんだ!」

    黒鹿毛のサイドテールのウマ娘はそう挨拶する。キリッとした見た目に似合わない口調だ。

    「は、はい…メジロメイプライスです。よろしくお願いします」

    「メープライスちゃんって言うんだ!芦毛ですごく綺麗なんだ!」

    「あ、ありがとうございます…」

    確かにこれはやかましいかも…。でも純粋で悪い子ではなさそうだ。

  • 53◆yxt6XLJpZ.AU21/12/08(水) 18:17:30

    そして迎えたメイクデビュー当日。自分でもびっくりするくらいに落ち着いていた。

    「体調は大丈夫か?」
    「はい。…ふふ、そればっかりですねトレーナーさん」
    「言わないでくれよ。…それじゃ、頑張っておいで。メイプライスなら大丈夫だ」
    「はい、トレーナーさん」

    トレーナーに手を振り、パドックへと向かう。


    結果は1着。直線で大外から追い抜いての勝利。掲示板には3バ身と表示されていた。

    「トレーナーさん!」

    レース、そしてウイニングランを終えてトレーナーの元に真っ先に向かう。

    「おう、おめで…と、う」
    「あら、ごめんなさい。つい抱き付いてしまって」

    嬉しさのあまりトレーナーに飛び込んでしまったけど、メジロ家の一員としてはしたないことだと思い、すぐに離れる。

    「ああ、いや、いいんだ。よくやったね、メイプライス」

    しかし、競争生活に身を投じるウマ娘の定めとして、この後はウイニングライブをしなければならない。メジロ家としてライブで無様な姿を晒すわけにはいかないのだ。

    「…では、ライブをしてきますね」
    「ああ」

    トレーナーと離れて、ライブの準備へと向かった。

  • 54二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 02:36:32

    業の深い設定から繰り出されるナチュラル良SSに脳がバグる

  • 55二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 02:38:34

    ひと昔の幻想入り二次創作みたいなノリのスレタイで怪設定と良作がお出しされた件

  • 56二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 02:40:41

    メジロ化概念はもっと増えて良い

  • 57二次元好きの匿名さん21/12/09(木) 14:13:28

    保守

  • 58◆yxt6XLJpZ.AU21/12/09(木) 23:07:59

    メイクデビューを終えても、安心はできない。競争生活はまだまだ始まったばかりなのだから。

    「次は…ここだ。ファンタジーステークス」

    「京都1400m、GⅢレースですね」

    「ああ。既に出走を決定している中で要注意なのは…エーダイプラチナだな」

    「エーダイプラチナ…」

    「『純白の女王の再来』とも言われてる、同世代でも頭一つ抜けた存在だ。メイクデビューで大差勝ちしてる」

    メイクデビューとは言え大差を付けるなんて相手にしたくないな…。

    「あの…それならアルミテスステークスを使った方がいいのでは…」

    「アルミテスステークスは1ハロン長いからな。体もまだ完成してるとは言えないし、なるべく負担が少ない方がいいと思ったんだけど…」

    「なるほど、わたしの事を考えての判断でしたか」

    「レース中は喘息も治まるって言ってたけど、無理はしないでね」

    「はい、何かあった時は遠慮なくトレーナーさんを頼らせていただきますね」

    ぎゅっと手を胸に当てる。ちょっと、ドキドキしている。もちろん、動悸じゃなくて。
    でも…今は、まだ。押し留めておくことにする。

  • 59◆yxt6XLJpZ.AU21/12/09(木) 23:28:29

    サーバーが落ちたらしいですね…私もずっと入れなくてこのスレ落としちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ…



    昼食を食べ終え、そのままテラスでエアルートさんとウィスパーさん、そしてわたしの3人で談笑する。ちなみにエトホープさんは授業が終わった途端に飛び出してどこかへ行ってしまった。

    「そんで、こっちのラーメンは醤油とか鶏ガラばっかやけん、こってり豚骨が恋しくなるとよ」

    「東京にも…豚骨の店、あるよ…?」

    「あれねー、行ってみたっちゃけどやっぱ何か違うんよね。夏休みも合宿であんま帰れんしなかなか辛いとよ」

    「そうなんですか、わたしはそういった店には足を運んだことがないので…一度は行ってみたいですね」

    「うわぉ、お嬢様やねぇ」

    「本当ですよ?お二人と一緒に行ってみたいです」

    「冗談やけん、よかよ。ネビュも行くん?」

    「うん…もうちょっと、メイプライスさんとも…打ち解けたいし…」

    「いつなら空いとる?あたしは……」

    なんか、こういう穏やかな時間っていいよね。

  • 60二次元好きの匿名さん21/12/10(金) 10:00:54

    保守
    馴染んでいてメイプライスが元少年であることを忘れそうになる…

  • 61◆yxt6XLJpZ.AU21/12/10(金) 18:54:51

    今更言うのもなんですけどどこに着地させるべきかわからないんですわ…
    一応シニア期までの大まかなシナリオはあるんですけど少年要素もう全然ねぇなっていうか…



    肌寒さも感じられるようになったこの頃。たまにまだ半袖制服を着ている子もいるけど大丈夫なんだろうか。

    「ちょっと、聞いてんの」

    「はい…なんでしょうか?」

    レース前、気持ちを落ち着けるために関係ないことを考えていると声を掛けられる。
    振り返ると、ふんわりとカールした艶やかなロングヘアの白毛ウマ娘がいた。瞳は濃い目のピンク色で、ツリ目気味。

    「あなたがメジロメイプライスね?」

    「はい、そうです」

    「…ふん、負けないんだから」

    そう言って彼女は踵を返してゲートに向かっていった。身に覚えがないんだけど…誰だろう。

  • 62◆yxt6XLJpZ.AU21/12/10(金) 18:56:54

    レース中。スタートは順調だったけど、どの辺りから仕掛けるか。バ群のすぐ後ろに付けていると、実況の声が耳に入る。

    『3番、エーダイプラチナはバ群中程を進んでいます。その後ろに8番、12番、6番が並んで最後方に7番メジロメイプライスです』

    さっきのあの子のゼッケンには3の文字…つまり、エーダイプラチナということだ。

    『京都競バ場第3コーナーに差し掛かりました、坂の登り、そして坂を下っていきます。各バここから勝負を仕掛けます』

    淀の、坂…ちょっときつい、かも…。

    『2番人気のメジロメイプライス、まだ来ない!エーダイプラチナがバ群を上がっていきます』

    あ、タイミングが、急がなきゃ。

    『ここでようやくメジロメイプライス、先頭はエーダイプラチナ、1バ身のリード。さらにリードを伸ばします』

    精一杯足を伸ばす。だけど、届きそうに…いや、諦めちゃダメ。

    『メジロメイプライス、迫る!しかしエーダイプラチナ粘る!これはエーダイプラチナか?ゴールイン!1着はエーダイプラチナ!2バ身差でメジロメイプライス!』

    「はぁ…はぁ…」

    わたし…負けた…?

  • 63◆yxt6XLJpZ.AU21/12/10(金) 18:59:31

    「申し訳ありません…トレーナーさん…」

    メイクデビューとは打って変わって、沈んだ気持ちでトレーナーさんの元に行く。

    「よく頑張ったね、メイプライス。大丈夫、気にしないで」

    「でも、わたしのミスで…」

    坂に気を取られずに動けていれば、勝てたかもしれないのに。

    「これがラストランじゃないだろ、次勝てばいいんだ。それよりライブの準備しないと、な?」

    「……はい!」

    そう、今日負けたなら、次勝てばいい。今はライブに集中しなきゃ。メジロとして、みっともないステージを見せるわけにはいかないんだから。

    「…トレーナーさん」

    「どうした?」

    「ありがとうございます」

    「ああ。…いってらっしゃい」

    トレーナーさん、やっぱりあなたを選んで良かったと思います。
    …恥ずかしくて言えないけど、ね。

  • 64二次元好きの匿名さん21/12/11(土) 06:46:02

    保守

  • 65二次元好きの匿名さん21/12/11(土) 07:29:06

    保守

  • 66二次元好きの匿名さん21/12/11(土) 16:48:21

    TSモノは肉体が作り替わった事の葛藤も欲しいけど、メジロ化だからそういうのはダメなんだろうな

  • 67◆yxt6XLJpZ.AU21/12/11(土) 19:24:44

    >>22の通り少年くん(仮)が特殊なだけです…



    「メープライスちゃん惜しかったんだ!でもよく頑張ったと思うんだ!」

    「ど、どうも…」


    寮に帰ると、エトホープさんから励まされる。


    「次は何に出るんだ?エトはホープフルに出るんだ!」

    「わたしはジュベナイルフィリーズです。お互い頑張りましょうね」

    「うん!応援してるんだ!」


    彼女の底抜けに明るい姿を見ていたら、なんだか落ち込んでいたのがバカらしくなった。

    …ありがとう、エトホープさん。




    とある休日。エアルートさん、ウィスパーさんと一緒に電車で都心部のラーメン屋に来た。


    「どう、豚骨おいしかろ?」

    「はい、あまり食べたことがないので新鮮ですね」


    他に似たようなものを食べたことがないし、比較しようがない。けど濃厚でおいしい、というのは確かだ。


    「もぐもぐ……」

    「ネビュはかわいかねぇ」

    「そう…?食べてるだけなのに…」


    ちなみに、この後はウィスパーさんの希望で宇宙博物館に行く事になっている。美術館なら他のメジロ家の皆さんと訪れたことが何度かあるけど、博物館は初めてなのでちょっとドキドキしていたりする。

    特に気になるのは、天井に無数の星座などが映し出されるというプラネタリウム。今回わたしたちの行くところには無いみたいけど、いつか見てみたいものだ。

  • 68◆yxt6XLJpZ.AU21/12/11(土) 21:04:06

    「次の阪神ジュベナイルフィリーズは、ファンタジーステークスから1ハロン延びて1600m右回り。大丈夫か?」

    「ええ、今度こそ完璧なレース運びをして見せます」

    「ああ。エーダイプラチナも参戦してくるから、雪辱を果たすチャンスだ」

    そう、あのまま終わるわけにはいかない。次こそは必ず。

    「…とは言っても、俺自身はメイプライスが無事に走ってくれればいいから、思い詰めないようにね」

    「…はい、トレーナーさん」

    …不思議な人だ。まだ出会って半年ちょっとしか経っていないのに、ここまでわたしを思いやってくれるなんて。

    「…一つ聞いてもいいでしょうか?」

    「?」

    「まだ半年ほどしか経っていないのに、なぜそこまでわたしのことを…?」

    彼からしたら、きっと唐突な質問だっただろう。それでも、わたしの目をまっすぐ見て彼は答える。

    「君の走りに惚れた。ただ、それだけだ」

    なんて愚直な人なんだろう。笑ってしまうくらいに、彼は真っ直ぐだ。

    「そう、ですか…ふふ、ではトレーナーさんが満足行くまで、わたしの走りを見せてあげたいです」
    「ああ、頼んだよ」

    もしかしたら、直線での勝負に懸けるわたしとトレーナーはお似合いなのかも。なんて、ね。

  • 69二次元好きの匿名さん21/12/12(日) 01:07:19

    age

  • 70二次元好きの匿名さん21/12/12(日) 09:29:37

    保守

  • 71二次元好きの匿名さん21/12/12(日) 17:05:19

    保守するナリ

  • 72◆yxt6XLJpZ.AU21/12/12(日) 18:40:49

    ついにやってきた、阪神ジュベナイルフィリーズ。
    わたしが挑戦する初のGⅠと言うことで、メジロ家の皆さんも応援に来てくれている。

    「…きっと、アンタならやれるよ。メイプライス」

    「ええ、私も同意見ですわ」

    「ドーベルさん、マックイーンさん、ありがとうございます」

    真新しい専用の勝負服に身を包み、気合いも十分と言ったところでパドックに向かう。

    「…メジロメイプライス」

    「はい、エーダイプラチナさんでよろしかったでしょうか」

    「次も私が勝つわ。見ていなさい」

    「ふふ、今度こそ負けるつもりはありませんよ?」

    「ふんっ…」

    もう、迷いはない。わたしを見てくれているトレーナーのためにも、全力で走るだけだ。

  • 73◆yxt6XLJpZ.AU21/12/12(日) 18:41:30

    ファンファーレが鳴り、最後の娘がゲートイン完了し…。ゲートが開く。

    『今スタートしました、おっと9番ミスエフロートが出遅れてしまいました』

    まずまずのスタート、バ群のすぐに後ろに付ける後方策。前を見ると、一際目を引くのは白毛のエーダイプラチナさん。

    『2番人気のメジロメイプライス、後ろからのレースになりそうです。先頭に戻りましょう、先手を取ったのは8番トコナセントレア、続いて1番イツカノフリージア、そして1番人気のエーダイプラチナ』

    3コーナーに入り、集中力をさらに高める。勝負を仕掛けるタイミングを、待つ。

    『ここでミスエフロートが上がってきた、一気に先頭に並びかけます。バ群を追い抜き1バ身、2バ身、リードを広げていきます』

    あんな走り方したらマイルでもゴールまで持たないんじゃ…いや、他の娘なんて気にしてる場合じゃない。

    『さあ4コーナーをカーブして、メジロメイプライスが上がってきた!ここからの勝負です!ミスエフロートはここまでか?下がっていきます。代わって先頭はエーダイプラチナ』

    2のハロン棒が見えてくる。あの輝く白毛も、その前に見える。さあ、勝負だ。

    『エーダイプラチナ、先頭!しかしメジロメイプライスが並びかけてくる!エーダイプラチナ、粘る!』

    エーダイプラチナさんを追い抜く。もう先頭には誰もいない。

    『メジロメイプライス交わす!1バ身差でエーダイプラチナ追い縋る!今ゴールイン!勝ったのはメジロメイプライス!』

    一瞬音がなくなった気がして、また少しずつ歓声と実況の声が耳に入ってくる。

  • 74◆yxt6XLJpZ.AU21/12/12(日) 18:57:50

    「トレーナーさん、トレーナーさん!!」

    嬉しさのあまり、人目も気にせずトレーナーに抱きつく。

    「め、メイプライス…その…当たって…」

    「…?なんのことでしょう?」

    当ててんのよ。

    「メイプライス、よく頑張りましたわね」

    と、マックイーンさんの声が聞こえて、慌てて離れる。メジロの令嬢らしからぬ振る舞いだと言われてもしょうがないことだし。

    「あ、マックイーンさん…申し訳ありません、お見苦しいところを…」

    「いえ、GⅠでの勝利ですから。気持ちは分かりますわ」

    「あ、メイプライスがお世話になってます」

    わたしから解放されて安心した様子を見せたトレーナー。今度はマックイーンさんに向き直って挨拶する。

    「こちらこそ、メイプライスを導いて下さって大変感謝しております。これからも、末永くお願いいたしますわね」

    「えっ?は、はい」

    末永く、か。ふふ…メジロからは逃げられないよ、トレーナー。

  • 75二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 01:26:37

    メジロ家こわ…

  • 76◆yxt6XLJpZ.AU21/12/13(月) 06:36:06

    とりあえずジュニア期までは終わりましたけどクラシックとシニアも書かなきゃですかね…?
    あと、コイカツでメイプライスちゃんとフコーカ、ネビュラのデザインをつくりました。エトホープとエーダイプラチナもつくったらまとめて載せようかと思います
    とりあえず私は寝ます

  • 77二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 13:42:24

    >>76

    乙!

    続き楽しみにしてます!

  • 78二次元好きの匿名さん21/12/13(月) 13:46:54

    良い

  • 79◆yxt6XLJpZ.AU21/12/13(月) 22:35:37

    コイカツで作ったメイン5人です。左からエトホープ、メジロメイプライス、フコーカエアルート、ネビュラウィスパー、エーダイプラチナです



    年を越して、1月。クラシック期に入り、本格的にレースが始まっていくことになる。わたしはまずティアラ路線の一冠目、桜花賞を目指す。桜花賞は阪神ジュベナイルフィリーズと同じく仁川の1600m。トライアル競争が三つあるけど、本番と同じ距離のチューリップ賞に向かうことにした。
    もちろん、他のウマ娘も春に向けて仕上げてくるだろうから絶対とは言えないけど、JFで1着を取ったわたしにはアドバンテージがある。

    「次の皐月賞も頑張るんだ!」

    ちなみに少々やかましい同室はホープフルステークスを無事勝利し、同じ舞台で行われる皐月賞に直行するようだ。

  • 80◆yxt6XLJpZ.AU21/12/13(月) 22:37:26

    もちろん、皐月賞に挑戦するのはエトホープさんだけではない。

    「お二人も皐月賞に出るんですか?」

    「クラシックやけんね。そら出るよ?」

    「うん…エアルート相手でも…手は、抜かない」

    「あたしも同じやけんね、ネビュ!真剣勝負よ!」

    「ふふ、わたしの同室も皐月賞に出るんですよ。もちろん、全力でぶつかってあげてくださいね」

    レースは例え友達であっても手加減はしない…いや、むしろお互いを知り合っているからこそ、手を抜くのは失礼と言うことだろう。

    「あ、エーダイプラチナさん」

    と、そこに白毛の少女が通りがかる。わたしに呼び止められた彼女は眉間に皺を寄せて。

    「何よ、次の桜花賞じゃ負けないからね」

    とだけ言い、離れていった。

    「ツンツンしとんしゃあねぇ…」

    「ふふ、まあそういうときもあるのでしょう」

    わたし達もまた、談笑に戻る。

  • 81二次元好きの匿名さん21/12/14(火) 06:50:49

    保守

  • 82◆yxt6XLJpZ.AU21/12/14(火) 17:39:32

    「まずは前哨戦、良くやったねメイプライス」

    桜花賞トライアル、チューリップ賞。エーダイプラチナさんはフィリーズレビューに向かっており、こちらは難なく直線からの勝負で勝ち上がった。

    「はい、本番も負けられませんね」

    「ああ、そうだな。ただ、勝っても俺に抱き付くのはやめてくれよ?周りからの視線が痛いんだ」

    「なんのことでしょう?」

    「……まあ、いいか」

    わたしから目を逸らせないようにしてあげる。他の娘なんて考えられないくらい。だから、次も、次の次も、その次もずっとわたしの走りを見てね、トレーナー。


    桜花賞を半月後に控え、メジロ家の集まりではわたしの話で持ちきりだった。

    「無理強いするつもりはないけど、やっぱりメイプライスには桜花賞、勝ってほしい」

    「ドーベルは桜花賞惜しかったもんね。あたしもメイプライスには頑張ってほしいな」

    「はい、ドーベルさん、ライアンさん。メジロの名に恥じぬレースをするつもりです」

    「そういえば、トレーナーとはどうなりまして?」

    マックイーンさんに尋ねられる。

    「どう、ですか?そうですね…あちらがどう思っているかはわかりませんが、わたしはあの人を離すつもりはありません」

    今のトレーナーを逃したら、もうここまでの人には出会えないかもしれない。そんなのは、絶対イヤ。誰かに取られるなんて考えられない。

  • 83◆yxt6XLJpZ.AU21/12/14(火) 22:27:29

    ついに迎えた桜花賞。メジロ家の皆さんも応援しに来てくれているし、バ場状態も良好。あとは、レースに集中していつも通りに行くだけだ。

    『各ウマ娘、ゲートイン完了して、体制が整いました』

    ゲートが開くのを待って、そして勢い良く飛び出す。

    『スタートしました!メジロメイプライス、好スタートを切りました。一方10番のミスエフロートは盛大に出遅れています』

    これまでよりも良いスタートを切れた。先頭に立っているけど、若干抑える。

    『ハナに立った3番メジロメイプライス、下がっていく構えです。代わって5番イツカノフリージア、先頭です。続いて2番トコナセントレア、1番のエーダイプラチナはその後ろ』

    第3コーナーのカーブに入り、バ群の中程に付ける。

    『イツカノフリージア、依然として先頭。その後ろに12番スターライズソング。並んでトコナセントレア、エーダイプラチナ4番手。ここまでほぼ平均ペースです』

    6のハロン棒が視界に入り、仕掛けのタイミングを待つ。

    『後続集団も追い上げにかかります。さあ直線に入りました。先頭はスターライズソング、大外から一気にミスエフロートが並んできた!イツカノフリージア、トコナセントレアはここまでか?エーダイプラチナが抜けて、メジロメイプライス!メジロメイプライスが先頭!』

    前には誰もいない、あとはそのままゴールまで、全力で。

    『リードは2バ身、3バ身、4バ身、まだ伸びる!もはや独走!2番手はエーダイプラチナ、必死に追い縋る!これは決まりか、メジロメイプライス!ゴールしました!!』

    歓声が再び耳に入ってくる。掲示板を見上げると、一番上には3、そして6の文字が表示されていた。

  • 84◆yxt6XLJpZ.AU21/12/14(火) 22:27:44

    ウイニングランから戻って一番に行くのは、トレーナーの元。

    「トレーナーさん!!………なんで避けるんですか」

    抱きつこうとしたらひょいっと躱されてしまった。

    「だって俺、めっちゃ同僚に怨嗟の籠った目で見られてるんだよ…『あんな美人に抱きつかれてるとかけしからん』って」

    そんなの気にしなくて良いのに。

    「…じゃあ後で人のいないところでします。忘れちゃダメですよ」

    「う、うん…なんて言うか…初めて会ったときよりも随分逞しくなったな…」

    「うふふ、そうかもしれませんね。それに、トレーナーさんにだけは…素のわたしを見せられますから」

    「素のメイプライス?」

    「さてと、それではウイニングライブに行ってきますね。わたしから目を離したらダメですよ」

    「あ、ああ…」

    さて、言質も取ったしライブに行かないとね。

  • 85二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 08:26:41

    保守

  • 86二次元好きの匿名さん21/12/15(水) 08:32:32

    この子の闇を記者に暴かれたら面白そう、父親の白い粉とか母親の行方とか弟が金を集りにくるとか。

  • 87◆yxt6XLJpZ.AU21/12/15(水) 18:53:23

    桜花賞から半月。久しぶりに3人で集まる。

    「桜花賞おめでとう!ネビュと一緒にテレビで見とったとよ」

    「6バ身で勝つなんて、すごい…」

    「ありがとうございます。皐月賞はエアルートさんが勝ったんですよね?」

    「そうなんよ、ネビュも惜しかったっちゃけどね」

    「掲示板には、ギリギリ…でも悔しい…」

    エアルートさんは朝日杯FSに続いて皐月賞でも勝利を収めた。一方、ウィスパーさんはホープフルSで2着、皐月賞では5着だった。

    「ネビュはもうちょい長い方がよかかもね。そうそう、メイプライスの同室の子、エトホープやったっけ?あの子が3位に入っとったよ」

    「ええ、聞いてますよ」

    当の本人は『3位でも嬉しいんだ!次は1着取るんだ!』と、大して気にしてはいなかったけど。

    「さてと、次のダービーも頑張らないかんね」

    「うん、今度こそ…1着…」

    わたしもオークスがあるから、他人事ではない。トレーナーに更なる勝利を捧げたい。

  • 88二次元好きの匿名さん21/12/16(木) 04:15:46

    保守

  • 89◆yxt6XLJpZ.AU21/12/16(木) 14:53:53

    オークスまで2週間となったある朝。

    「新聞にメイプライスのことが載ってますわよ」

    マックイーンさんたちに呼び止められ、今朝の新聞を見る。

    「『メジロのシンデレラvs白金のプリンセス 激突のオークス予想』、ですか」

    わたしなんてそんな大層なものでもないと思うけど。

    「シンデレラと言うのがちょっと。童話のシンデレラは義姉にいじめられるシーンがありますが、私達はメイプライスにそんなことをしてはいませんのに」

    「はい、メジロ家の皆さんはとても優しいお姉様方ですよ。それに記者の方も、ただ単にわたしが芦毛だから灰被り(シンデレラ)という言葉を使っただけだと思います」

    気にしすぎじゃないかな?

    「ええ、そうですわね。考えすぎでした」

    さて、オークスに向けて改めて気合いを入れ直さないと。

  • 90◆yxt6XLJpZ.AU21/12/17(金) 01:04:12

    そして迎えた、オークス。

    「大丈夫か、メイプライス?」

    「はい、ばっちりです。…トレーナーさん」

    「どうかしたのか?」

    「もし、オークスで勝てたら…わたしが抱きついても避けないでくださいね」

    「か、考えておく…」

    「むぅ…怒りますよ?」

    頬を膨らませてみせる。まあ、トレーナーは真面目だからこそ迷ってるんだと思うし、わたしとしては半分演技みたいなものだけど。

    「じゃあ、行ってきますね」

    「ああ、頑張ってきてくれ」

    トレーナーに手を振り、パドックに向かう。

  • 91◆yxt6XLJpZ.AU21/12/17(金) 01:04:58

    わたしにとっては初めての府中のファンファーレの後、レースは始まる。
    スタートはまずまず。どうレース運びをするか…。

    『──先手を取ったのは6番、イツカノフリージア。その後ろに3番トコナセントレア、並んで7番スターライズソング』

    1コーナーを過ぎる。バ群の後ろで勝負のときを待つ。

    『その後ろに、2番人気のエーダイプラチナ。1番人気メジロメイプライスはバ群後方です。2コーナーを終えて、またも出遅れたミスエフロートが上がってきます。先頭から最後方までおよそ10バ身。淀みのない展開になりました』

    最初の直線が終わり、3コーナーに差し掛かる。息が上がってくる。

    『前の方からもう一度、先頭はミスエフロート、およそ3バ身。その後ろにスターライズソング。イツカノフリージア、トコナセントレアが並んで、5番手にエーダイプラチナが控えています。さてここで先頭はスターライズソングに代わり大ケヤキを通過。ミスエフロート下がっていきます』

    第4コーナーをカーブし、直線。ここから仕掛ける…つもりが、思うように伸びない。
    …うそ、なんで。

    『メジロメイプライス、まだ来ない!スターライズソング、先頭!しかしここまでか?エーダイプラチナが迫る!メジロメイプライスは伸びない!』

    このままじゃ、先頭に追い付けない。

    『外から勢いよくエーダイプラチナ、抜けた!さらにリードを広げる!2バ身、3バ身!フリッツェエールが追い上げるが、これは決まりか?エーダイプラチナ一着でゴールイン!』

    ゴール板を駆け抜けた。でも、爽快感はない。掲示板にわたしの番号はなく。

  • 92二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 11:22:32

    保守

  • 93◆yxt6XLJpZ.AU21/12/17(金) 21:56:25

    結果は、9着。言うまでもなく、過去最低順位だ。
    俯いて、沈んだ気持ちで歩いていく。

    「…メイプライス?」

    「トレーナー、さん……」

    トレーナーの顔を見たら、悔しくて、悲しくて、叫びたくなるくらい感情が浮上してくる。

    「わたしっ、勝てなくて、9着、なんて、ぐすっ」

    涙が、止まらない。

    「かちたかったのにっ、トレーナーに、ひぐっ、よろこんでほしくてっ、わたしっ、もうっ」

    感情が、ぐちゃぐちゃになる。

    「ぼくなんかっ、いらないっ、トレーナーに、ふさわしく、な」

  • 94◆yxt6XLJpZ.AU21/12/17(金) 21:57:05

    その時、突然、頭の上に優しい感覚がする。見上げると、トレーナーが手のひらを置いて、動かして…わたしの頭を撫でていた。

    「メイプライス、よく頑張ったね」
    「うっ、トレーナー、さん…?」

    トレーナーはとても優しい眼差しで、わたしのことを見ていた。

    「確かに、メイプライスが勝ってくれたら嬉しいよ。でも俺は、メイプライスが元気に走ってる姿を見られればそれで良いんだ」

    「トレーナーさん…」

    「別に俺のために走らなくてもいい。メイプライス自身が走ってて楽しいかどうかだよ。それに…メイプライスは、俺にとって最高のウマ娘だ。それは絶対に変わらない」

    「トレーナーさん…トレーナーさん!」

    トレーナーの広い胸に顔を埋める。

    「わっ、メイプライス?!」

    「少しだけ、こうさせてください……」

    「…ああ」

    トレーナーの体は、とても落ち着く。少ししたら、名残惜しさを感じながらも自分の方から離れる。

    「もう、大丈夫です。それでは行ってきますね」

    「ああ、メイプライス。いってらっしゃい」

    わたしは今日のライブの主役ではない。それでも、輝くステージには変わりがないのだから。全力でやり遂げないと。

  • 95◆yxt6XLJpZ.AU21/12/17(金) 21:59:46

    ダービーも終わった後、3人での集まり。

    「あたしもネビュも勝てんかったっちゃん…」

    「うん…あのエトホープって子、すごく強い勝ち方してた…」

    わたしはオークスで9着だったけど、ダービーでエアルートさんは5着、ウィスパーさんは2着だった。

    「ええ、彼女とても喜んでいましたね」

    ダービーは最も運のあるウマ娘が勝つと言われる、世代の頂点を決めるレースだ。それに勝てたのだからエトホープさんの喜び様と言ったら凄まじかった。
    オークスで着外に沈んだわたしとしては少々複雑な気持ちもあったけど…妬み嫉むようではメジロらしくないし、純粋に同室がダービーウマ娘と言う栄誉を勝ち取ったことを喜んだ。

    「次は秋の三冠目、ですね」

    「そうやね。けどあたしは菊花賞じゃなくて秋天に出ようかなって悩んどるとこっちゃん」

    「え、そうなの…?初耳……」

    「あはは、ごめんネビュ。言っとらんかったけど、あたし長距離はきついかもしれんけん、シニア相手になるけどそっちがよかかもって」

    一般的にスプリンターは体格が大きいウマ娘が、ステイヤーは小柄なウマ娘が大成しやすいと言われている。もちろん例外は多くあるけど。

    「レース映像を見ましたが、確かに直線のエアルートさんは少しキツそうでしたね」

    「映像で見てもやっぱ分かるもんなんやね…。どうするかはもうちょっとトレーナーと話して決めるっちゃけど、菊花賞は行かんかも」

    わたしの方も、オークスの分を秋華賞で取り返したいし頑張らないと。

  • 96二次元好きの匿名さん21/12/17(金) 23:52:02

    メンテらしいので保守延長

  • 97二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 04:24:26

    age

  • 98二次元好きの匿名さん21/12/18(土) 14:22:29

    保守

  • 99◆yxt6XLJpZ.AU21/12/18(土) 22:20:29

    メイン5人のジュニア~シニアまでのGⅠ勝利はこうなる予定です。なんだこのクソ強世代…

    メジロメイプライス
    阪神JF[ジュニア]
    桜花賞[クラシック]
    ヴィクトリアマイル[シニア] 天皇賞(秋)[シニア]

    フコーカエアルート
    朝日杯FS[ジュニア]
    皐月賞[クラシック]
    高松宮記念[シニア] 安田記念[シニア] マイルCS[シニア]

    ネビュラウィスパー
    菊花賞[クラシック] 有馬記念[クラシック]
    天皇賞(春)[シニア] ロワイヤルオーク賞[シニア] 有馬記念[シニア]

    エトホープ
    ホープフルS[ジュニア]
    日本ダービー[クラシック]
    大阪杯[シニア] 香港ヴァーズ[シニア]

    エーダイプラチナ
    オークス[クラシック] 秋華賞[クラシック] エリザベス女王杯[クラシック]
    宝塚記念[シニア] ジャパンカップ[シニア]

  • 100◆yxt6XLJpZ.AU21/12/18(土) 22:21:29

    オークスから1ヶ月が経ち、宝塚記念も閉幕して春のメインレースが終わった。
    わたしの今後は夏を休養と練習にあて、秋華賞トライアルのローズステークスから始動し、秋華賞本番が続く。
    その後のエリザベス女王杯…は距離的にキツいだろうということで、トレーナーはマイルチャンピオンシップへの挑戦を提案した。ティアラ路線じゃないウマ娘も相手にすることになるので楽ではないけど、エリ女よりはチャンスがあるかもしれないとのことだった。

    「トレーナーさん、次の曲どうぞ」

    ちなみに今、わたしはトレーナーさんとお出かけしてもらっている。

    「な、なあ…なんかメイプライスが歌うの恋愛ソングばっかりだけど」

    「気のせいですよ」

    気のせいです。夏なのにゲレンデとか歌ったけどいいよね。

    「そ、そうか」

    2時間カラオケで歌ったあと、公園を散歩して解散した。トレーナーと一緒にいるのはやっぱり楽しい。


    メジロメイプライスのやる気が上がった

  • 101二次元好きの匿名さん21/12/19(日) 07:41:19

    保守

  • 102◆yxt6XLJpZ.AU21/12/19(日) 17:42:26

    夏は合宿に行くウマ娘が多いけど、わたしは身体が強くはないのでメジロ家の別荘を利用して休養することにした。
    もちろん、ここにはウマ娘用のトレーニング設備なども備えられているし、トレーナーにも付いてきてもらっているから自分のペースで練習することはできる。

    「トレーナーさん…どう、ですか?」

    「どうって言われても…」

    別荘近くのプライベートビーチ。わたしは白を基調とした水着を着て、トレーナーと二人きりで過ごす。

    「…これでも、恥ずかしいんですよ?早く感想をください」

    わたしの方から言い出したことだけど、やっぱりトレーナーに肌を見せるのは恥ずかしい。頬が熱くなっているのが分かる。

    「う、うん……綺麗だよ、メイプライス」

    「そうですか、ふふ。嬉しいです」

    そのあとは釣りをしたり、砂でお城のようなホテルをつくったりと休暇を満喫した。
    …その日の夜、トレーナーの部屋を見に行ったら悩ましそうな声が聞こえたけど、気づかなかったふりをしてあげよう。

  • 103二次元好きの匿名さん21/12/20(月) 03:33:07

    メジロ保守クイーン

  • 104◆yxt6XLJpZ.AU21/12/20(月) 12:40:41

    残暑厳しい9月上旬。エーダイプラチナさんは紫苑ステークスに向かったため、ローズステークスは難なく制した。
    今日はいつもの3人で、都心を通り越した先にある水族館までリフレッシュに出掛けている。

    「それにしてもこんなに広いっちゃね。迷子になりそうやけん離れんようにせんと」

    「そうですね」

    内部を見て回っていると、白毛のウマ娘とすれ違った。横にいた黒髪の女性はトレーナー…だったんだろうか?どちらも私服っぽかったけど。
    本館を見終えたら、次はイルカやアザラシが居るゾーンへ行く。
    …秋になったばかりだからか、セイウチやペンギンたちが奥でじっとしてたりしてて微妙な気分になったけど。

    大体見終えると、入園してから4時間は経っていた。お土産を買いに行こうと売店へ行くと、さっき擦れ違った子とは違う白毛のウマ娘が、シロイルカのぬいぐるみを抱えあげて笑顔で見つめていた。

    「ねぇあれ…プラチナさん…」

    そしてウィスパーさんが小声で言う。私服だったし、王冠も被っていないから一瞬分からなかった。

    「へ…?きゃああっ?!なんで居るのよっ?!」

    「しゃあしかよ、静かにせんと」

    「えっ、しゃあしか…?」

    こちらに気づいた瞬間彼女は悲鳴を上げたが、エアルートさんに窘められた。

    その日はエアルートさんがせっかくだと言うので、エーダイプラチナさんと同じ電車で帰ることになった。彼女は購入したシロイルカのぬいぐるみに隠れながら、「なんであなたたちと…」と言いつつも拒絶はしなかった。

  • 105◆yxt6XLJpZ.AU21/12/20(月) 23:01:53

    1ヶ月後。ついにトリプルティアラ最終戦・秋華賞。オークスの2400mはわたしには長すぎる距離だったんだろう。しかし、2000mなら。トライアルの1800mでは優勝してるし、状況次第では1着も見える。

    「メイプライス」

    「あ、ドーベルさん」

    と、考え込んでいたらドーベルさんに声を掛けられる。

    「…メイプライスならやれるよ」

    「はい、ありがとうございます」

    ドーベルさんたちに見送られ、パドックへ向かう途中。

    「トレーナーさん」

    「お、メイプライス。調子は良いかな?」

    「まずまずです。それより…」
    「?」
    「秋華賞で勝てたら、ご褒美が欲しいです」

    「ご褒美?俺の財布内ならなんでも買うけど…」

    「いえ、無料で用意できるものですよ」
    「無料…??あ、そろそろ行かないとだな。頑張ってきてくれ」

    「もう……わかりました、また後で」

    言いそびれちゃったけど、まあいいか。どうとでもできるし。

  • 106◆yxt6XLJpZ.AU21/12/21(火) 09:18:07

    阪神以外では初めて聞くGⅠファンファーレのあと、ゲートが開く。スタートは普通、いつも通り出遅れてる子が一人いたけど気にしない。

    『おっと2番ミスエフロート、またもや出遅れています!まずは先行争い、誰が行くでしょうか。好スタートを切ったのは1番、スターライズソング。その後ろに7番イツカノフリージア、並んで4番リメンバーフレーズ、その後ろに1番人気のエーダイプラチナ』

    第1コーナーに入る。いつもと展開は大きくは変わらない。

    『バ群後方に9番メジロメイプライス、並んでミスエフロート、その後ろから14番、トコナセントレア。今日は後ろからのレースになりそうです』

    最初の直線に入り、隣を上がっていくウマ娘が。

    『ここでトコナセントレア、ミスエフロート上がっていく。先頭からもう一度見ていきましょう、スターライズソング、依然として先頭。リードは2バ身ほど、これに続くのがリメンバーフレーズ。その後ろにイツカノフリージア、トコナセントレアが後ろまで上がってきました』

    もうすぐで第3コーナーに入る。心を乱されず、集中して……自分のレースに徹する。

    『ここで1000mを通過、ここまでほぼ平均ペースです。先頭から最後方までおよそ10バ身、淀みのない展開です。スターライズソング、ここまでか?先頭はリメンバーフレーズに変わりました、リードを広げていきます。3番手にエーダイプラチナ。メジロメイプライス、この位置はどうでしょうか』

    直線、ここから勝負を仕掛けていく。

    『直線に入って、これからの勝負!スターライズソング、再び先頭!しかしエーダイプラチナがハナを奪いにかかる!メジロメイプライスはようやく伸びてきた!残り200m』

    もうすぐゴールなのに、自分が思うほど伸びない。また、届かないのだろうか。

    『エーダイプラチナ、交わす!メジロメイプライスが迫る!エーダイプラチナが先頭だ!3人が並んでゴールイン!!』

    ゴール前を通り過ぎる。前には白毛と栗毛の娘が見える。
    掲示板には、わたしの番号が3番目に表示されていた。

  • 107◆yxt6XLJpZ.AU21/12/21(火) 19:51:31

    「はぁ…はぁ……トレーナーさん…」
    「お疲れ様、メイプライス。惜しかったね」

    そう言って、トレーナーはわたしの頭を優しく撫でてくれる。安心して、心が暖かくなる気がして。

    「トレーナーさんの手…すごく安心します…今回も1着は取れなかったけど…トレーナーさんが見てくれてるなら、走ろうって気になります」
    「そうか、こんな俺でも役に立ってるのなら嬉しいよ」
    「…この後、どこか食べに連れていってください」
    「ああ、いいよ」

    今回もまた勝てなかったけど、トレーナーが慰めてくれるならそれはそれでアリかも…いや、ウマ娘ならやっぱり勝ってこそだ。トレーナーもわたしが優勝する方が嬉しいだろうし。


    秋華賞が終わって1ヶ月。マイルCSがいよいよ来週まで迫って、3人で集まってもやっぱりレースの話になる。

    「プラチナさん…すごかった…」

    エーダイプラチナさんは秋華賞に続いて、初の対シニアとなる今日のエリザベス女王杯も3バ身差で制し、ティアラ路線に敵なしとまで言われている。
    同席している二人については、ウィスパーさんが菊花賞を勝っている。一方、エアルートさんは早くもシニア戦となる秋天に挑戦したが惜しくも2着だった。

    「ネビュもすごかよ、菊花賞逃げ切り勝ちなんて」

    2位とは半バ身差での勝利だったけど、逃げで菊花賞を勝つなんて相当なものだ。ちなみにエトホープさんも出ていたけど4着だった。

    「来週はメイのマイルCSやけん応援に行かんとね。あたしもネビュも次は有マやし」
    「ジャパンカップは回避するんですか?」
    「JCまで出るのはさすがにちょっとキツかよ。ネビュもそうやろ?」
    「うん…有マには出るけど…さすがに疲れが…」

    エトホープさんはジャパンカップに出て有マ記念は回避を検討してるみたいだけど、まあ普通は逆だよね…。

  • 108◆yxt6XLJpZ.AU21/12/22(水) 06:18:35

    舞台は秋華賞と同じく、京都レース場。違うのは2ハロン短くなり、これまでわたしが勝ってきたマイルだと言う点だ。
    ファンファーレがレース場に響き、ゲートイン完了後スタートする。

    『まずはどのウマが行くか、先手を取ったのは4番セントラルホバー。続いて3番ゴールドショーティ、間が開いて、8番ミスエファスター。その横に10番アステラフリッカー』

    この辺りでカーブに差し掛かり、坂を上がっていく。

    『先頭は依然としてセントラルホバー、2番手にアステラフリッカー。さあ後続集団も追い上げにかかります』

    直線に入り、ここから。

    『さあ4コーナーをカーブして直線!勝負所ですが、3番人気メジロメイプライスはようやく仕掛ける。最後方から一気にセイクリッドソング!内からミスエファスター、先頭を捉えるか』

    足を伸ばしていく。しかし、先頭には届かない。

    『残り200m、ミスエファスター、ハナに立ちます!しかしセイクリッドソングが並びかけてきた!セイクリッドソング、抜けた!しかしミスエファスター差し返す!3番手にアステラフリッカー!そして今ゴールイン!大接戦です、ミスエファスターが体勢有利か?』

    しばらくして、掲示板に表示された文字にわたしの番号はなかった。

  • 109◆yxt6XLJpZ.AU21/12/22(水) 06:18:53

    「おつかれさん、メイ。残念やったね」

    「ええ、マイルですから自信はあったのですが…」

    「うん…次は、がんばろう」

    応援に来てくれていた2人と話していると、トレーナーが歩み寄る。

    「よく頑張ったね、メイプライス…あれ、その2人は友達かな?」

    「ええ、フコーカエアルートさんとネビュラウィスパーさんです」

    「へぇ、この人がメイのトレーナーしとうと?」

    「はい。優しくて頼りになる、素敵な人ですよ」

    「やめてくれよ、おだてたって何も出ないぞ」

    「…本心ですのに」

    プクッと頬を膨らませてみせる。本気なんだから。

    「ごめんごめん、お詫びにご飯連れてくから」

    「友人の前でも…遠慮なしに、イチャついてる…」

    「そ、そんなつもりはないのですが…」

    本当はマイルCSで掲示板を外してすごく悔しかったけど、友人とトレーナーのお陰で沈んだ気分にならずに済んだ。心の中で3人に感謝する。

  • 110二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 16:01:33

    保守

  • 111二次元好きの匿名さん21/12/22(水) 22:45:21

    保守せなければ(使命感)

  • 112◆yxt6XLJpZ.AU21/12/23(木) 07:40:52

    これでクラシック級が終わりですね。シニア期は…まあこの際だし書くことにします


    マイルCSが終わった後は有マ記念には出ず、来年まで休養することになった。わたしはあまり体が強くないし、マイルCSでの敗因も秋華賞での疲れが抜けきっていないのが原因じゃないかとトレーナーは言っていた。
    そういうわけで、クラシックの有マはプラチナさんや友人たちが出るのを観戦することにした。

    『エーダイプラチナ、必死に追いすがります!ネビュラウィスパー、粘る!ネビュラウィスパー、ネビュラウィスパー1着!今年の菊花賞ウマ娘が冬のグランプリも制しました!』

    結果はウィスパーさんが1着で優勝、エーダイプラチナさんが2着、エアルートさんが6着だった。

    「お疲れ様です、皆さん」

    レースを終えた彼女たちの方へ駆けていく。とは言っても、プラチナさんは人のいない隅にいたけど。

    「やっぱ悔しかね、ギリギリ掲示板外しとるし。ネビュはよう頑張ったね」

    「うん…クラシック級で有マに勝てて…嬉しい…」

    有マ記念は人気投票で参戦するかどうかが決まる。それで勝つというのは、当然人気も実力も兼ね備えたウマ娘と言うわけで。
    ウィスパーさんのトレーナーらしき人もこちらに来て、声をかけている。その目には嬉し涙が浮かんでいた。

  • 113二次元好きの匿名さん21/12/23(木) 19:24:29

    保守

  • 114◆yxt6XLJpZ.AU21/12/24(金) 01:22:43

    クリスマスイブなので珍しくトレーナー視点。
    ❗️掛かり

    有馬記念が終わった翌日。年内のGⅠはホープフルステークスと東京大賞典を残すのみとなった。
    そこで俺がふと頭に思い浮かんだのは、担当であるメジロメイプライスのことだ。
    バ群を堂々と突き抜ける走りに一目惚れして声を掛け、初めての専属トレーナーとなってジュニア、クラシックを共に駆け抜けてきた。
    芦毛の美しいロングヘアと中等部とは思えないほどの抜群のプロポーションを誇る彼女は、何故か俺に対してやたらとべったりしてきて…儚げな見た目なのに意外としたたかで気が抜けない。俺はそれを見た、担当とあまり上手く行っていない同僚に「はぁ~氏ね!」と言われたりもしている。
    もちろん、嬉しいか嬉しくないかで言えば、あんな美少女に言い寄られて嬉しくないはずがない。
    しかし、彼女とは担当とトレーナーと言う関係であり、それに彼女は名門メジロ家のウマ娘だ。あまりべったりするのも良くないと思って一歩離した対応をしている。さてこれからどうしたものかと思っていると、控えめなノックが聞こえてきた。

    「はい、誰でしょう…」

    「メリークリスマスです、トレーナーさん」

    「め、メイプライス!?どうしたんだその格好…?!」

    目の前にはサンタ衣装のメイプライスがいた。なぜサンタ?いや待て、そもそもなんで俺の家を知ってるんだ?

    「トレーナーさん、今日は12月24日ですよ。まさかお仕事に付きっきりで忘れてしまいましたか?」

    「え…?あ、確かにそうだったけど…なんでコスプレ…」

    「クリスマスイブですから。そういうわけで、トレーナーさんにわたしをプレゼントします」

    何がそういうわけで、なのかはよくわからない。

  • 115◆yxt6XLJpZ.AU21/12/24(金) 01:23:52

    「か、からかわないでくれよ。来年に向けてしっかり休んでくれ」

    「からかうなんて酷いです、本気なのに」

    プクッと頬を膨らませるメイプライス。クソ、可愛い。
    そして今度は部屋に入ってきて、彼女は俺に抱き付いてきて耳元で囁く。

    「今日のことは2人だけの秘密ですから…わたしを、プレゼントを貰ってください」

    彼女の柔らかな膨らみが押し当てられている。理性が飛びそうになった。
    …しかし。何とか踏みとどまった。彼女を傷付けないようゆっくり引きはがす。

    「メイプライス、俺と君は担当とトレーナーだ。だから、今は、駄目だ。俺はメイプライスのことが大切なんだ」

    声が上ずりながらもなんとか言い終えた。

    「トレーナーさん…」

    「今日は…そうだな、俺も休みだからお出かけにしようか。それで勘弁してくれ…」

    「…分かりました。トレーナーさんが決心してくれるまでは、待つことにします」

    その後、カラオケやショッピングをして時間をつぶし、栗東寮までメイプライスを送り届けて帰宅した。ちなみに寮に帰るまでメイプライスはサンタコスプレのままだった。

  • 116二次元好きの匿名さん21/12/24(金) 10:31:35

    保守

  • 117◆yxt6XLJpZ.AU21/12/24(金) 21:38:51

    シニア期開幕です。メジロ入り(ウマ娘化)か、メジロ入り(婿入り)か…。


    年を越して、新年。わたしは当然メジロ家で過ごす。

    「メイプライスもついにシニア級ですわね」

    「はい、マックイーンさん」

    メジロ家の新年会でマックイーンさんに声を掛けられる。

    「トゥインクルシリーズのあと、トレーナーはどうするおつもりで?」

    「トレーナーさん、ですか?」

    「ええ、彼をメジロにするか否か…」

    メジロにする…それの意味するところはつまり、メジロのウマ娘になると言うことで。

    「わたしとしては…トレーナーさんにはそのまま婿入りして欲しいです。あの人以外には考えられません」

    もちろん、わたしの場合トゥインクルを走り終えても結婚年齢には達していないので、結婚を前提とした付き合いと言うことになるけど。

    「そうですか。…分かりました、その方向で調整しますわ」

    優秀なトレーナーを取り込むため、外堀埋めを怠らないのがメジロ家だ。例えば、トレーナーの両親に挨拶するとか。

    「ふふ、クリスマスでは待つと言いましたが…きっとトレーナーさんは期待どおりの返事をしてくれると期待しています」

    マックイーンさんに聞こえない程度の声で、呟いた。

  • 118◆yxt6XLJpZ.AU21/12/25(土) 07:00:40

    わたしのシニア級前半でのレースは4月の阪神ウマ娘ステークスから始動し、5月のヴィクトリアマイル、6月の宝塚記念を予定している。
    そう、1月~3月は丸々レースがない状態だ。もちろんトレーニングなどは欠かせないけど、比較的スケジュールに余裕があると言うわけだ。

    「トレーナーさん♪」

    そこで、トレーナーにお願いしてお出かけに連れていってもらっている。今日はトレセンから電車で1時間ちょっと、銀座まで出掛けている。

    「ちょっ、メイプライス…当たって…」

    右腕に抱き付く。当ててんのよ。

    「何が当たってるんですか?」
    「………」

    トレーナーの反応が好きで、時折こうやってスキンシップをしている。トレーナーは顔を赤らめたまま黙っている。可愛い。



    「でも、銀座まで来てこんな1万もしないようなネックレスで良かったのか?」

    ショッピングのあとの帰り道。トレーナーは怪訝そうな顔で私に尋ねる。

    「何を言いますか、値段よりもトレーナーさんがわたしに合う物を選んでくれたと言う事実の方がよっぽど大事ですよ」
    「そうか?それならいいけど」

    トレーナーが選んでくれたのは水色の小さな宝石(アクアマリンらしい)がはめられたネックレス。

    「ふふ、素敵です」

    ビニールの袋に入ったネックレスを見ながら呟く。身に付けるときを想像しながら、わたしは頬が緩むのを感じた。

  • 119◆yxt6XLJpZ.AU21/12/25(土) 12:09:30

    しっかりと休養期間で英気を養い、迎えた阪神ウマ娘ステークス。阪神1600mは1年振りとはいえ、桜花賞と同じ舞台。エーダイプラチナさんもいない(大阪杯に出たので空けているらしい)から、負けるはずもなく。

    『リードは7バ身、8バ身、もはや届きません!1着で駆け抜けたのはメジロメイプライス!圧倒的な支持に応えた桜の女王!!』

    掲示板には大差と表示されている。まずは前哨戦を勝てた。ここから本番、ヴィクトリアマイルに向けてトレーニングを重ねる。


    「トレーナーさん」

    ウイニングランのあと、トレーナーの元に駆け寄る。

    「どうした?」

    「次のヴィクトリアマイル…勝てたらご褒美をください」

    「ご褒美?オークスの前もそんなこと言われた気がするな…」

    「オークスは思い出させないでください」

    頬を膨らませてトレーナーの体を小突く。だけど実は、そんな些細なことでも、わたしの言ったことを覚えていてくれたのは凄く嬉しい。

    「ごめんごめん。ご褒美か…俺に用意できることならなんだってあげるよ」

    「ふふ、言いましたからね。後で『あれは無し』なんて言わせませんよ」

    「男に二言はないさ」

    やっぱり、わたしのトレーナーはとても素敵だ。この人とずっと歩むことになっても、絶対に後悔しないと確信できる。

  • 120◆yxt6XLJpZ.AU21/12/25(土) 22:13:08

    「はぁ~良か店ば見つけたね、ネビュ。博多のラーメンはこんな感じよ、懐かしか」

    今日はウィスパーさんが見つけたという本格派とんこつラーメンのお店に来ている。エアルートさんも満足そうで、大当たりと言ったところだろうか。

    「うん…今週天皇賞だから、おいしいものを食べて元気をね…」

    そう、今週末はウィスパーさんが天皇賞春に挑戦するのでその景気づけのために来ている。明日には京都に向けて出発するのだ。

    「頑張ってくださいね、ウィスパーさん。わたしたちはあちらには行けませんが…テレビの向こうで応援しています」

    「うん…がんばる」

    ちなみにシニアに入って、エアルートさんは高松宮記念を勝利し、エトホープさんが大阪杯で1着、エーダイプラチナさんは2着になっている。わたしも半月後にヴィクトリアマイルがあるし、頑張らないと。



    ヴィクトリアマイルを来週に控えたメジロ家でのお茶会。

    「メイプライス、大丈夫。マイルは得意でしょ?普段どおりに走れば府中でもやれるよ」

    「はい、ドーベルさん。全力を出しきってきます」

    ヴィクトリアマイルは比較的歴史の浅いティアラ路線のGⅠで、メジロ家のウマ娘ではまだ制覇したことがない。わたしが今まで獲得してきたGⅠは阪神JFはドーベルさん、桜花賞はラモーヌ姉さまという前例があるけど、今回はわたしが勝てばメジロ家で初なわけで。
    当然期待も大きいけど、平静を保って、わたしらしい走りをすればきっと大丈夫だ。

  • 121◆yxt6XLJpZ.AU21/12/26(日) 09:30:12

    迎えたヴィクトリアマイル本番。不思議と気持ちは落ち着いていた。と、ここでこちらに近づいてくるウマ娘が。

    「メイプライス」

    「はい…エーダイプラチナさん。どうされましたか?」

    「マイル戦では一度もあなたに勝ててないけど、今日こそは絶対に勝ってやるわ」

    明らかな宣戦布告。しかしそう易々と乗るつもりはない。

    「ふふ、それはどうでしょう」

    「その余裕、崩してやるんだから」

    負けるつもりは微塵もない。でもそれは、今ではなくレースで示すべきことだ。レースに向けて最後の準備を整える。


    ファンファーレの後、実況が聴こえてくる。

    『府中の芝1600m、勝利の女神が微笑むのは果たして誰なのか。ヴィクトリアマイルGⅠ、いよいよ発走です』

    最後の一人がゲートインを完了して…そしてゲートが開く。

  • 122◆yxt6XLJpZ.AU21/12/26(日) 09:30:31

    『各バスタートしました、おっともはや恒例、3番ミスエフロートが出遅れています。先手を切ったのは1番、エーダイプラチナ。逃げウマのいない今回はこのウマ娘が展開を引っ張っていくようです』

    今日は逃げのウマ娘がいないので、珍しく先行のエーダイプラチナさんがハナに立っている。

    『5番、コウセキウンがその後ろに続いています。並んで8番ターラントポート、少し離れて11番ミノハフルーティ。先頭から後方までおよそ9バ身、少し詰まった状況です。ここまでの展開はややスローペースといったところ、これが後方のウマ娘にどのような影響を与えるでしょうか?』

    坂を上がり、もうすぐでコーナーに入る。まだ仕掛け時ではないけど、集中して直線に備える。前を見ると、先頭には真っ白な髪がたなびいている。

    『1番人気のメジロメイプライスはここ、バ群の後ろに付けています。ここで大ケヤキを通過して、先頭は依然としてエーダイプラチナ、それに続くのがターラントポート。3番手にコウセキウン。メジロメイプライス、まだ来ません!』

    コーナーをカーブし、直線に入る。ここが勝負どころだ。

    『ミスエフロートがバ群を抜けて現在3番手に上昇、外から勢い良くメジロメイプライス、ようやく上がってきました!先頭はエーダイプラチナ、しかし踏ん張りきれるか?あと200m』

    坂を上りつつ、先頭へ、先頭へと。太陽の光を反射して、白金のように輝く白毛を追い越して。

    『ここで先頭が変わりました、1番人気のメジロメイプライス!2番手はエーダイプラチナ、差し返しを図ります』

    「負けないっ…!」

    誰かの声が聞こえた気がして、左を横目見ると、白毛の少女が。

    『エーダイプラチナ、並びかける!やはり最後はこの二人だ!メジロメイプライス、粘る!』

    駄目、負けない。負けるつもりは、ない。

    『メジロメイプライス、さらに足を伸ばす!エーダイプラチナ、追い縋る!今ゴールイン!1着はメジロメイプライス!2着はエーダイプラチナ、3着にミスエフロート。メジロメイプライス、ティアラ路線マイルに敵なし!メジロが生んだ名女優です!』

    勝った。それしか分からないけど、それだけで十分だ。

  • 123二次元好きの匿名さん21/12/26(日) 19:08:26

    保守

  • 124◆yxt6XLJpZ.AU21/12/27(月) 01:43:03

    「トレーナーさん!」
    ウイニングランの後にはもちろん、トレーナーの元に行く。

    「ああ、良くやったね、メイプライス」

    頭を撫でられる。大きくて、優しい手の感触が安心感をもたらす。

    「それで、ご褒美ですが…忘れてませんよね」

    「ん?あぁ、この前のか。何が欲しいんだ」

    「いえ、トレーナーさんは目をつぶってじっとしていてくれればいいです」

    「え?うん…変なことはするなよ」

    そう言いつつも、素直に目を閉じるトレーナー。そしてわたしは、顔を近づけて…唇を合わせた。

    「……!?」

    名残惜しさを感じつつも、離れる。トレーナーは顔を赤くして驚いた表情を見せている。わたしの方も、心臓の鼓動は走り終わった後だというのに、さらに早くなった。

    「め、メイプライス…?!」

    「わたしの初めて、ですよ。責任取ってくださいね」

    「えっ、えっと待っ…」

    「ライブの用意があるので行きますね」

    そう、このタイミングにしたのは次がライブだから。一言も二言も言いたそうなトレーナーを置いて、ステージへと足早に駆けた。

  • 125◆yxt6XLJpZ.AU21/12/27(月) 10:11:01

    ヴィクトリアマイルを勝っても、次は宝塚記念が控えているので油断はできない。
    その宝塚についてはつい昨日第1回中間発表が行われたばかりだけど、わたしはなんと3位に入っていた。ちなみに1位は、元々珍しい白毛で人気があったけど、それに加えて中距離で抜群の強さを見せているエーダイプラチナさん。2位が地方出身ということで応援票が集まっているらしいエトホープさん。ウィスパーさん(ゴールドカップ、グッドウッドカップ)は5位、エアルートさん(安田記念)は6位になっていたけど他のレースとの兼ね合いで回避だそうだ。

    「メイプライス、そろそろ休憩終わりだ。次のトレーニングやるぞ」

    「はい、トレーナーさん」

    トレーナーさんは平然としているように見えるけど、わたしとトレーナーがキスしたことは週刊誌に載った。まあ、あんな人前でやったし当たり前だよね。
    ただし週刊誌側とメジロ家は繋がっているので、トレーナーの外堀が埋め立てられた以外には特に大ごとになってはいない。

    「…トレーナーさん」

    「どうした?」

    「くちびる」

    「…やめないか」

    ただ囁いただけなのに、あの時みたいに顔を赤くするトレーナー。かわいい、もっとからかいたくなっちゃう。けど、トレーニングには集中しないといけないし、このくらいで勘弁してあげることにする。

  • 126◆yxt6XLJpZ.AU21/12/27(月) 10:11:40

    ファン投票の最終結果も開票され、いよいよあと2週間後となった。最終結果はまあ、中間発表とあまり変わってなかったけど。

    「あ、エーダイプラチナさん」

    「えっ…あぁ、ふん……」

    コースを走っているとエーダイプラチナさんと会った。いつも通り、素っ気ない対応…かと思ったら。

    「…ねぇ、ちょっといい」

    「どうしました?」

    「後でさ、お茶…しない」

    まさかのお誘い。一体何があったんだろうか?

    「珍しいですね」

    「うるさいわね…!それで、来るの?」

    「ええ、かまいませんよ」

    折角の申し出だし受けることにする。幾度となくエーダイプラチナさんとは走ってるけど、あまり会話もしてないし彼女のことは全然知らないのだ。

  • 127二次元好きの匿名さん21/12/27(月) 14:05:04

    age

  • 128二次元好きの匿名さん21/12/28(火) 00:29:48

    ほしゅ

  • 129◆yxt6XLJpZ.AU21/12/28(火) 00:29:54

    「私ね、ずっと、ずっと期待されてきたの。白毛ウマ娘でメイクデビューで大差勝ちして、『純白の女王の再来』って言われて」

    彼女は話し始める。

    「でも私はあの先輩に憧れて入ったわけじゃない。むしろメイクデビューまで知らなかった。それでも私は期待を裏切りたくなかったから、私はひたすら周りの求めるままに走った。戦法も、トレーナーに言われた通りずっと先行でやってきた。それでこれまでオークス、秋華賞、エリザベス女王杯も勝って、みんな私を褒め称えて。でも私は…どこか、何か違う気がして」

    エーダイプラチナさんはこちらに身を乗り出す。

    「ねぇ、あなたなら分かる?ジュベナイルフィリーズに桜花賞、ヴィクトリアマイルで私に土つけたあなたなら、私のこの違和感が何かわかる?」

  • 130◆yxt6XLJpZ.AU21/12/28(火) 00:30:43

    彼女の表情を見る。悲痛さが伝わってくるような、そんな顔。それはなんだか…。

    「わたしにもよくは分かりませんが…今のエーダイプラチナさんは、走るのが楽しくなさそうに見えます」

    「走るのが、楽しくない……」

    「勝ったら嬉しいのは、当然の感情です。でも、周囲を気にしすぎるあまり勝つことだけが目的になって、レースを楽しめないのは本末転倒ではないかと思います」

    オークスで大敗したとき、トレーナーが掛けてくれた言葉を思い出す。

    『確かに、メイプライスが勝ってくれたら嬉しいよ。でも俺は、メイプライスが元気に走ってる姿を見られればそれで良いんだ』
    『メイプライス自身が走ってて楽しいかどうかだよ』

    「でも、あなたはメジロ家のウマ娘なんでしょ?期待は?されてなかったの?」

    「期待されていなかったわけではありませんし、それになるべく応えようとしていますよ。でも、レースをするのは他でもない自分自身ですから」

    「へぇ、そっか…そう、よね」

    「はい、エーダイプラチナさん自身のやりたい走りをやってみればいいのではないでしょうか」

    「プラチナでいいよ。そうね…じゃあ、私はあなたみたいに直線で豪快に差しきりたい」

    「ふふ、それも良いと思いますよ」

    「…なんだかスッキリした気がするわ、ありがと。次の宝塚はあなたも出るんでしょ?一皮剥けた私を見せてあげるから、メイプライスも全力で来なさいよ」

    「はい、もちろんです」

    その後また、練習に戻る。やっぱり、彼女には負けられない。

  • 131◆yxt6XLJpZ.AU21/12/28(火) 11:37:57

    舞台は阪神競バ場2200m、春のグランプリ・宝塚記念。
    宝塚記念専用のファンファーレが響き、気が引き締まる。

    『あなたの、そして私の夢が走ります。さあいよいよ発走時刻が近づいて参りました。1番人気を紹介しましょう、ファン投票でも圧倒的な支持を集めたエーダイプラチナ。2番人気は大阪杯を勝っているエトホープ』

    プラチナさんとは何度も戦っているけど、何気にエトホープさんとレースで戦うのは今回が初めてじゃないだろうか。
    そして実況を聞き流しているうちに、ゲートインが完了したようだ。スタートに備えて………ゲートが開く。

    『今スタートしました!好スタートは4番スターライズソング、逃げウマとしては絶好のスタートです。それに続くのが2番のミラーズマインド、並んで5番ベネチアンウィンド。1番のエーダイプラチナ、どうやら後ろからの競馬になりそうです』

    どうやら本当に、この前わたしに宣言した通り追い込み策で行くらしい。まあでもわたしには関係がない。全力でやるだけだ。

    『もう一度前から見ていきましょう、スターライズソング、依然として先頭です。それに続いて8番のエトホープ、その後ろにベネチアンウィンド。この辺りで第1コーナーにかかります』

    コーナーに入って、プラチナさんはさらにバ群の後ろにつけたようで、横目で見えなくなった。

    『コーナーを過ぎて、1000m地点を通過しました。ほぼ平均ペースといったところ、展開への影響はなさそうです。先頭から最後方までおよそ20バ身、これは縦長の展開です。さて、この辺りで第3コーナーのカーブに入ります』

  • 132◆yxt6XLJpZ.AU21/12/28(火) 11:38:19

    第3コーナー付近の坂、思えば幾度となく走ってきた。ジュニア期の頃とは違ってもう惑わされることはないけど、あの頃がちょっと懐かしくも思う。

    『先頭は変わらずスターライズソング、ここで上がってきたのはミスエフロート、まだ仕掛けるには早いか、お構いなしで先頭に並びかけます。ミラーズマインド、いい位置につけています。果たして先頭を捉えられるか、この辺りで後続も追い上げにかかります』

    もうすぐで直線。ここから、仕掛ける。

    『先頭に立ったミスエフロート、しかしすぐに沈んでいきます。代わってエトホープ、ハナに立ちます。ここでようやく、メジロメイプライス伸びてきた。エーダイプラチナもここから仕掛ける!』

    しかし、やっぱり思ったほど伸びない。中距離はわたしには長いのだろうか…。

    『残り200m、先頭はエトホープ!しかし凄まじい末脚!一気にエーダイプラチナ、バ群をぐんぐん追い抜いて先頭に躍り出た!さらにリードを広げます』

    遥か前方へと行くプラチナさん。わたしも加速しようとするけど、速度を維持するのがやっとだった。

    『残り100m、リードは3バ身、4バ身!後続は遥か後方!エトホープ、2番手!必死に追いすがります!エーダイプラチナ、独走!そして今ゴールイン!半年を経てようやく新たな冠を加えた白金の女王!これでGⅠ4勝です!』

    数秒遅れてゴールインして見上げた掲示板にはわたしの番号はなく、プラチナさんの1番がトップに表示されていた。

  • 133二次元好きの匿名さん21/12/28(火) 20:46:17

    保守

  • 134◆yxt6XLJpZ.AU21/12/29(水) 07:19:15

    「お疲れ」
    レース後、プラチナさんに声を掛けられる。

    「お疲れ様です。何かご用が?」

    「ええ、…ありがとう。今日勝てたの、あなたが話を聞いてくれたからだと思うから」

    そこまで言うとプラチナさんは頬を染めて、すぐに踵を返した。

    「…それだけよ!あなたもライブに遅れないようにね!」

    「はい。…ふふ」

    自然に笑みがこぼれる。プラチナさんも吹っ切れたようで何よりだ。

    「メイプライス」

    と、トレーナーの声が聞こえる。

    「あ、トレーナーさん。トレーナーさんはオークスで負けたとき、わたしに掛けてくれた言葉を覚えていますか?」

    「え?オークス…?そうだな…確か、メイプライス自身が走るのが楽しいかどうかが大事って言ったかな」

    「はい、やっぱりそれが大事だなって思ったので」

    「そうか。じゃ、ライブ頑張ってな」

    「はい、トレーナーさん」

    トレーナーに見送られながら、ステージへと向かった。

  • 135二次元好きの匿名さん21/12/29(水) 16:19:15

    保守

  • 136二次元好きの匿名さん21/12/30(木) 01:48:17

    ほしゅ

  • 137◆yxt6XLJpZ.AU21/12/30(木) 08:18:19

    「メイプライス、春のレースも大体終わったし…秋はどうする?」

    トレーニング中、トレーナーがわたしに尋ねる。

    「秋……」

    秋と言えば、メジロ家なら当然。

    「天皇賞秋に勝ちたいです」

    「秋天か」

    そう、天皇賞(秋)。メジロ家は天皇賞を第一の目標にしていて、天皇賞(春)はマックイーンさんやブライトさんをはじめとして複数回勝利している。一方、距離が3200mから2000mに短縮されて以降の秋天は一度も勝っていない。
    マックイーンさんがシニア級の秋天で1位入線したものの、コーナーで大外から一気に内側へ移動したことが進路妨害と見なされ、降着したことはあるけど…。
    だからこそ、メジロのウマ娘としてはやはり秋天に挑戦したいし、勝って悲願を達成したいという思いがある。

    「はい、メジロ家ですから」

    「メイプライスのこれまでのGⅠ勝利はマイルだけだから、中距離の秋天はちょっとキツいかもしれないな」

  • 138◆yxt6XLJpZ.AU21/12/30(木) 08:18:46

    「そう、ですよね…でも」

    「不可能だとは思ってないよ。レース場は違うけど秋華賞で3着に入ってたし、夏の仕上げと展開次第ではメイプライスにもチャンスがあると思う」

    「トレーナーさん…!」

    「ああ、天皇賞秋、やってやろうじゃないか」

    わたしの体があまり強くないのは変わってないから、秋天に出るならマイルCSには出られないだろう。それでも、トレーナーがわたしの願いを聞き入れてくれたのはすごく嬉しい。

    「で、秋天の後はどうする?」

    「そうですね…もし天皇賞で勝てたら、思い残すことはありませんしトゥインクルシリーズは引退しようかと思います」

    「そうか…1点集中って訳だな」

    トレーナーはもし負けたら、ということは聞かなかった。きっと、わたしが勝てると信じてくれているのだろう。その期待に応えるためにも、夏はしっかり頑張らないと。

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