一流の邂逅、ゼロ回目【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 23:47:53

    ※キング母=グッバイヘイローという設定です

    (バス、今日は混むわね……)

    (お腹も大きくなって歩くだけでも一苦労だけど、あんまり動かないとかえってよくないのよね)

    彼女の母もお世話になった産婦人科。
    信頼してはいるものの、体重管理がこれ程厳しいとは思っていなかった。

    引退後デザイナーを目指す事に夫も舅たちも理解を示してくれた自分は恵まれている……とはいえ、常に小さな命を抱える生活に生じるストレスは大きく、足腰は休憩を求めている。

    (立ちっぱなしは腰に来るし、どこか席が空くといいけど……仕事帰りの方々に譲らせるのも悪いわ)

    楽を選べない身を自嘲する。生まれてくる娘は、自分の時よりは甘やかしてやろうなどと決心していると。

    「あ、あの。ここ、どうぞ…!」
    「あら、ありがとう」

    席を立って声をかけてきたのは、緊張に顔を紅くした少年。
    子どもに遠慮をさせてしまう事に大人として思うところはあるが、腰の重さが彼の善意を素直に受け取らせた。

    会釈をして吊り輪に手を伸ばし──届かなかったらしく、誤魔化す様に手すりを片手に顔ごと窓の外に視線を逸らした。

    塾にでも向かうのか、背に被さるようなカバンには飾り気のないURAのキーホルダーが下がっている。
    (きっとこの年頃になるとウマ娘のグッズは気恥ずかしいのでしょうね)

    バレないようにか、窓に視線を反射させてチラチラとこちらの様子を伺う少年に窓越しに微笑みかけると逃げるように俯いてしまった。

  • 2二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 23:48:05

    少年の背を追うように同じバス停で降りると、一瞬の躊躇いの後に彼が振り返った。

    「も、もしかして。グッバイヘイローさん……ですか?」
    「ええ、私がグッバイヘイローよ」

    父に連れられてレースを何度も見た、すごい走りだった、格好良かった。会えて嬉しい。
    吃りながらも目を輝かせた少年の言葉にひとつひとつ、相槌をうつ。

    「だから、俺、じゃない。僕、いつか……トレーナーになりたいって」
    「ダメよ」
    「えっ」

    意地悪を言いたくなったのではない。
    あえて厳しくしてでも、この少年の背中を押したくなった。
    どことなく見栄っ張りな少年に、トレセンの門をくぐったばかりの自分が重なって見えた。

    「『いつか』『なりたい』なんて言ってたらいつまでもなれないわ。貴方は真剣なのですから……宣言が違うでしょう?」
    「……」

    「俺、勉強して。高校出たらトレーナーの学校入って。トレーナーになります……!」
    「……ええ、頑張りなさい。手、貸してくださる?」

    背筋を伸ばして硬直する少年の手をとり、優しくねと促してお腹に触れさせた。

    「……ここに、いるのよ。私の娘。ウマ娘なの。貴方が10歳ぐらいだから、貴方が夢を叶えた時──この子は夢を追い始める。
     もしかしたら、貴方の教え子のライバルになったりして」
    「お、応援、します……!」
    「あら、ライバルかもしれないって言ってるのに。
     ……きっと一流のウマ娘になるわ。私の娘だもの」

  • 3二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 23:48:43

    「お母様っ!いいかげんトレーナーに会ってって言ってるでしょう!?」

    「無理よ!あんなカッコつけた事言ったのよ!?
    娘と典型的ディスコミュニケーションやらかしたぽんこつウマ母だと知られてどこに合わせる顔があるのよ!!?」
    「おばか!お母様が私が絡む時だけへっぽこな事ぐらいとうの昔にトレーナーにはバレバレよ!」

    「は、母親に向かっておばかとは何よ!この話聞いて数日後経ってから
    『トレーナーはお母様の娘だから私をスカウトしたんじゃないわよね…?』
    とか急に不安になって夜中電話してきたのはどこのおまぬけ娘だったかしらっ!!?」
    「な、なによ!私の好きな柄が変わってないか聞くに聞けなくて私のトレーナーに頼ったのはどこのへっぽこお母様だったかしら!?」
    「な──トレーナーさんから聞き出したのね!贈り物の仔細を探るなんて一流ウマ娘としてどうなのよぽんこつ!」


    「おばか!」
    「おまぬけ!」


    この後──めちゃくちゃトレーナーに仲裁された。


    グッバイヘイローは──かつて導いた少年に「何度目ですか」「大人気ないですよ」と呆れ気味に嗜められて、まあまあガチめにヘコんだ。

  • 4二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 23:50:14

    以上になります。
    「トレーナーが担当のお母さんのファンだった概念」を以前見たのが今更降ってきたのである。

  • 5二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 23:53:01

    尊すぎて昇天してしまったので週刊連載で許します
    こういうの好き!!!!!!!!

  • 6二次元好きの匿名さん23/06/07(水) 23:54:58

    旦那ングブレーヴはこの後ヤケクソ気味の愚痴と泣き言を一晩中聞かされるんだろうな

  • 7二次元好きの匿名さん23/06/08(木) 00:05:15

    登場人物みんな可愛い

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