ハッピーミーク「すみません、お待たせしましたタイシンさん」【SS】

  • 1二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:13:05

    「ん、アタシもいま来たばっかだから」
    タイシンさんの大きな耳がぴこぴこと動く。
    券売機で二人分の入場券を買いながら私は口を開いた。
    「今日はありがとうございます、私用に付き合ってもらって」
    「別にいいよ」
    言葉は少ないが横顔はどことなく上機嫌そうに見えた。

    今日はタイシンさんと水族館へ来ていた。

  • 2二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:13:21

    入場券を見せて、薄暗い空間へ踏み入っていく。
    最初に出迎えてくれたのは横にずらっと並んだ小さな丸い窓だった。
    近くの窓を覗くともっと小さなクラゲがふよふよと泳いでいる。
    いきなりお目当てのものを見つけてしまい、感嘆のため息が出た。
    「……ホントにミークはクラゲ好きなんだね」
    後ろから声をかけられた。
    「はい、ふわふわしててずっと見ていられます……」
    「ちょっとわかるかも」
    タイシンさんと並んで窓の中のクラゲを見つめる。

    右へ左へ。
    上へ下へ。

    クラゲたちが水槽の中で思い思いに泳いでいる。
    「そういえばさ」
    タイシンさんがぽつりとつぶやく。
    「水族館の水槽って入り口に近いほど小さくて、奥に行くほどだんだん大きくなっていくんだってさ」
    「どうしてなんですか?」
    「目を慣らすため、とかだったかな。ハヤヒデからの受け売りだからあんま覚えてないや」
    水槽に映る影が頬をかく。
    「全然知らなかったです……ハヤヒデさんは物知りなんですね」
    「アタシは小さい窓のほうがこうやって近くで見るように覗き込むからだと思ってたよ」
    ちらとタイシンさんを見る。
    水槽の中を見つめるタイシンさんの目はとてもやわらかで。
    「……私もそんな気がします」
    またクラゲを見つめる。
    私たちを気に留める様子もなく、ふよふよと目の前で泳いでいた。

  • 3二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:13:35

    タイシンさんの言ったように順路を進んでいくと水槽が少しずつ大きくなっていった。
    そして円筒状の大きな水槽へとたどり着いた。
    色とりどりの魚。
    淡い光をまとうサンゴ。
    目まぐるしい光景に圧倒されてしまう。
    背後からシャッター音が鳴る。
    振り向くとタイシンさんが写真を撮っていた。
    「ミークは写真とかいいの?あ、フラッシュはダメだからね」
    「えと……大きくてびっくりしちゃって」
    「なにそれ、向こうのデカいほうの水族館には行ったことあるんでしょ?」
    そう言われればそうだ。
    でも、その時はクラゲやヒトデに夢中で水槽の大きさなんて気にならなかった。
    ……なんでだろ?
    首をかしげながら水槽の中のヒトデを見つめる。
    ヒトデの上にトレーナーの顔が重なった。
    ああ。

    あの時はトレーナーと一緒に来れたから嬉しかったのか。

    一人で納得していると再びシャッター音が鳴った。
    タイシンさんが私に携帯を向けていた。
    「アンタのトレーナーにも送ってあげたら?」
    「タイシンさんもトレーナーさんに送るんですか?」
    「……アタシはいいの」
    タイシンさんが顔をそむける。
    少しだけ頬が赤くなっていた。

  • 4二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:13:55

    大きな水槽の周りには“ふれあいコーナー”と書かれた背の低い水槽があった。
    中にはさっき水槽の中にいたヒトデが岩に貼りついていた。
    指先で突いてみる。
    ゴムみたいな感触だった。

    「……やっぱりトレーナーと違う」

    当たり前のことをつぶやいてしまった。
    タイシンさんに聞かれてないか辺りを見回す。
    少し離れた場所にタイシンさんはいた。
    天井には“ドクターフィッシュ”の看板。
    近づくとタイシンさんが水槽の中に手を突っ込んだ。
    「~~~っ!」
    くすぐったそうにすぐ手をひっこめた。
    つい笑みがこぼれてしまう。
    素知らぬ顔でタイシンさんに話しかけると、彼女の頬はさっきより赤みを増していた。

  • 5二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:14:07

    真っ暗な空間に青白い長方形。
    柱の中に白っぽいベールが揺らめく。
    「このコーナー暗いから気を付けてね」
    暗闇からタイシンさんの声だけ聞こえる。
    大きな水槽の奥にある一角。
    ほかの長方形からウツボやカニがこちらをじっと見つめていた。
    水槽の中のクラゲは入り口のものよりずっと大きく、長い長い触手を持て余し気味に水槽を漂っていた。

    「……相変わらずデカいなコイツ」

    ぽつりとこぼれた声へ振り向くと青白い光に照らされたタイシンさんの顔があった。
    呆れているような、誰かと重ねているような。
    そんな目をしていた。

  • 6二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:14:28

    ほの暗い順路を進んでいくとカーテンがかかっていた。
    先導するタイシンさんがカーテンに手をかけると隙間から光が漏れ出る。
    カーテンの先には円形のプールが広がっていた。
    水面に銀色の影が二つちらりと見えた。
    「……!イルカだ」
    「この水族館、順路の一番最後がイルカのプールになっててね。ショーもここでやるんだ」
    今日はショー休みだけどね、とタイシンさんがプール横の階段を降りながら話してくれた。
    タイシンさんについていくとプールに沿って作られた通路の壁が一部ガラスになっている。
    覗き込むとプールの中で優雅に泳ぐ二匹のイルカがいた。
    そのうちの一匹が私たちの近くに寄ってきた。
    「ちょっと見てな、ミーク」
    そう言うとタイシンさんは小柄な身体をいっぱいに使って腕をぐるぐる回す。
    すると、ガラスの前のイルカも腕に合わせて身体を回転させはじめた。
    「すごい……!」
    「何回か来てるうちに顔を覚えられたみたいでね、ほら左目の上のほうに白い斑点があるでしょ?」
    タイシンさんが腕を回すのをやめるとイルカは嬉しそうにプールの壁に沿うように泳いでいった。
    「……誰からも気にされないからここに来てたのに、顔を覚えられちゃうなんてね」
    困ったように微笑むタイシンさん。


    今日は水族館の生き物と同じくらい、色んなタイシンさんを見た気がする。

  • 7二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:14:50

    外に出ると辺りはすっかり暗くなっていた。
    「もう夜か」
    「すみません、こんな時間まで……」
    「いいよ、それだけ楽しんで回れたってことだし」
    タイシンさんが私の顔を覗き込んでくる。
    「……デートの参考にはなりそう?」
    頬がかあっと熱くなる。
    思わず目をそむけてしまう。
    「……そんなんじゃない、です」
    「ふふっ、アタシばっか恥ずかしい思いするのはしゃくだからね」
    にやっとタイシンさんが笑うと。

    ぐうう~。

    同時におなかの虫が鳴いた。
    お互いに顔を見合わせる。
    「……早く帰ろうか」
    「……そうですね」

    小さくて速い歩幅。
    大きくてゆったりとした歩幅。
    全然違う歩き方なのに。

    私たちは寮まで隣り合わせで歩いていった。

  • 8二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:15:48
  • 9二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:16:18

    珍しい組み合わせだぁ

  • 10二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 22:16:51

    意外ッ!!
    それはミーク!!!

  • 11二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:00:03

    素晴らしい…
    ハートと星を押させていただいたッ

  • 12二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:01:23

    ミーク!?ミークだと!?
    珍しいかも…感謝

  • 13二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:17:44
  • 14二次元好きの匿名さん21/12/04(土) 23:46:10

    ウマ娘には無限の可能性があるんだなあ

オススメ

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